説明

皮膚処置方法

【課題】皮膚組織部分をゆっくりと加熱することにより、組織の加熱の制御を向上させることができ、結果として、組織の過熱による組織の損傷の恐れを、少なくすることができる方法を提供する。
【解決手段】個人の皮膚表面の下の組織部分を初期温度から42〜60℃の範囲の所定の処置温度へ加熱するための方法である。この方法は、電極を皮膚表面に当てて、電極から連続波RFエネルギー又は準連続波RFエネルギーを供給すること、を備えている。RFエネルギーは、0.5秒を超える時間で組織部分を最終温度へ加熱するように選択された出力を、有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を処置するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
処置対象の皮膚の或る領域を加熱することを利用する皮膚の医療処置及び美容処置は、多数存在している。とりわけ、脱毛、血管病変の処置、及び皮膚の若返りがある。これらの処置においては、処置対象の皮膚の下の皮膚組織部分が、典型的には45〜60℃の範囲であるところの、所望の効果を達成するのに充分に高い温度まで、加熱される。皮膚の表皮層及び真皮層を加熱するために使用されている1つの方法は、パルス状の高周波(RF)エネルギーである。この方法においては、電極が皮膚に当てられ、RF電圧パルスが電極間に渡って印加される。電圧パルスの特性は、処置対象の組織において組織を必要とされる温度へ加熱するRF電流パルスを生成するように、選択される。例えば、米国特許第6,749,626号明細書は、真皮におけるコラーゲンの形成を促すためのパルス状のRFエネルギーの使用を、開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,749,626号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
皮膚の組織部分を加熱するためにRF電流パルスが使用されるとき、組織部分の温度は、典型的には100ミリ秒未満であるパルスの継続時間内に、体温から、必要とされる温度まで、上昇する。すなわち、組織部分の温度が、きわめて急激に上昇する。最終的な温度は、実際には、組織部分の電気的特性に依存して決まり、そのような電気的特性は、個人ごとに異なっているので、組織部分の急激な温度上昇は、組織の加熱の制御を難しくしている。更に、急激な温度上昇は、組織部分が過熱される処置をユーザが停止するのを、妨げている。このように、皮膚を加熱するためにRFパルスを使用することは、恒久的な傷跡又は皮膚表面への他の損傷をもたらす皮膚の過熱の恐れを、伴っている。そのような皮膚の損傷としては、例えば、第1度又はより高度の熱傷、水膨れ、又は血液の凝固が、挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、皮膚表面の下の組織部分を加熱するための方法及びシステムを提供する。本発明によれば、処置対象の組織部分において、組織部分を0.5秒を超える時間で所望の温度へ加熱するRF電流が、生成される。温度の上昇がゆっくりであることにより、ユーザは、皮膚の温度を制御して、皮膚の過熱を防止することができる。本発明は、組織部分を42℃〜60℃の範囲の温度へ加熱する必要がある皮膚の処置に、特に有用である。そのような処置として、例えば、皮膚の若返り、コラーゲンの再構築及び収縮、皮膚の引き締め、しわ対策、皮下組織の処置、セルライトの処置、毛穴の寸法縮小、皮膚のきめ及び色調の改善、座瘡の処置、並びに脱毛が、挙げられる。
【0006】
本発明の一実施形態においては、一対のRF電極が皮膚表面に当てられ、皮膚表面を0.5秒を超える時間内で所定の処置温度まで加熱するように選択された、継続時間及び出力を有するRFエネルギーのパルスが、皮膚表面へ印加される。例えば、2〜10ワットの出力範囲を有するRFエネルギーパルスを使用することができる。この場合、0.5〜1秒のパルス継続時間は、組織部分を0.5〜2秒以内で45〜60℃の範囲の温度へ加熱することになる。電極を、処置対象の皮膚領域内の第1の位置に配置して、この第1の位置へRFエネルギーパルスを加えることができる。次いで、電極対を、処置対象の領域内の他の位置へ、皮膚表面上で再配置し、上記手順を繰り返すことができる。本発明の他の実施形態においては、連続波(CW)RFエネルギーが、皮膚表面上を移動される一対の電極によって、皮膚表面へ加えられる。CW‐RFエネルギーの出力及び移動速度は、複数の連続する組織部分の各々が、電極が組織部分上の皮膚表面上を通過しながら、0.5秒を超える時間で所定の処置温度まで加熱されるように、選択される。例えば、2〜10ワットの出力範囲を有するCW‐RFエネルギーを使用することができる。この場合、約0.5〜1.0cm/秒の移動速度は、電極の下の組織部分を0.5秒を超える時間で42〜60℃の範囲の温度へ加熱することになる。RFパルスの列が皮膚表面へ印加される準CW‐RFエネルギーを使用してもよく、列が有する周波数、並びに、パルスが有する継続時間及び出力は、処置対象の組織部分を0.5秒を超える時間で所定の温度まで加熱するようなものとなっている。
【0007】
本発明のシステムは、2つ以上のRF電極、及び、少なくとも一対の電極に渡ってRF電圧を印加するように構成されたRF生成器、を備えている。RF電圧は、電極対が組織部分の上の皮膚表面に当てられたときに0.5秒を超える時間で組織部分を所定の処置温度へ加熱するように選択された出力を、有している。RF生成器は、0.5秒を超える継続時間を有するRFエネルギーのパルスを供給するように、構成してもよい。或いは、RF生成器は、CW又は準CWのRFエネルギーを電極へ供給するように、構成してもよく、その場合には、RFエネルギーが供給されている間に電極が皮膚表面上を移動させられる。このシステムの好ましい実施形態においては、一対のRF電極が、手持ち式のアプリケータに具備されている。本発明のシステムによって自身の皮膚を処置するユーザは、皮膚が加熱されてはいるが痛みを生じるほどではないとユーザが感じる速度で、処置対象の領域の皮膚表面上でアプリケータを単に移動させればよい。
【0008】
本発明の方法及びシステムによって皮膚組織部分をゆっくりと加熱することにより、組織の加熱の制御を向上させることができ、結果として、組織の過熱による組織の損傷の恐れを、少なくすることができる。
【0009】
このように、本発明は、その第1態様において、個人の皮膚表面の下の組織部分を初期温度から42〜60℃の範囲の所定の処置温度へ加熱するためのシステムを、提供するものであり、そのシステムは、
(a)アプリケータと、(b)第1の電極及び第2の電極と、(c)RF生成器と、を備えており、
少なくとも第1の電極は、アプリケータに組み合わされており、
RF生成器は、第1及び第2の電極に渡って連続波RF電圧エネルギー又は準連続波RF電圧を供給するように構成されており、RF電圧は、0.5秒を超える時間で組織部分を処置温度へ加熱するように選択されている。
【0010】
本発明は、その第2態様において、個人の皮膚表面の或る領域の下の組織部分を初期温度から所定の処置温度へ加熱するための方法を、提供するものであり、処置温度は、42〜60℃の範囲であり、その方法は、皮膚表面の前記領域内の1つ以上の位置の各々に対して、
(a)第1の電極及び第2の電極を皮膚表面に当てること、及び
(b)前記位置の組織部分へ、電極から、連続波RFエネルギー又は準連続波RFエネルギーを供給すること、
を備えており、
少なくとも第1の電極が、皮膚の前記領域内の前記位置に当てられ、
RFエネルギーが、前記位置の組織部分を0.5秒を超える時間で最終温度へ加熱するように選択された出力を、有している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の皮膚を処置するシステムを示している。
【図2】図1のシステムのアプリケータを示している。
【図3】図2のアプリケータの電極を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を理解し、本発明を実際にどのように実行できるのかを見るために、以下に、好ましい実施形態を、添付図面を参照しながら、非限定的な実施例のみを用いて、説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態による皮膚の処置システム1を示している。システム1は、個人4の皮膚へRFエネルギーを加えるために使用される手持ち式のアプリケータ2を含んでいる。アプリケータ2は、ハーネス8を介して制御ユニット6へ接続されている。制御ユニット6は、アプリケータ2の一対の電極12、14に渡って連続波又は準連続のRF電圧を生成する、RF生成器10を、含んでいる。制御ユニット10は、RF生成器10によって生成されるRF電圧の波長及び振幅を特定の皮膚の処置に必要とされるとおりに選択するための、キーパッド11などといった入力装置を、含んでいる。RF生成器は、ハーネス8内の一対のワイヤによって電極12、14へ接続されている。システム1は、図1に示されているように壁のコンセント9へ差し込むことができ、或いは、好ましくは充電式である電池(図示されていない)を使用することができる。
【0014】
図2、3は、アプリケータ2を更に詳しく示している。アプリケータ2は、押しボタン式のオン‐オフ・スイッチ16を含んでいる。スイッチ16は、ばねによって開位置に付勢されており、したがって、スイッチ16が解放されているときには、電極12、14へ電圧が加えられることはない。アプリケータ2が、図1に示されるようにユーザによって保持されるとき、スイッチ16は押し下げられ、連続又は準連続波のRF電圧が電極12、14の間に加えられる。電極12、14は、電極の縁の付近の皮膚表面に高温点が生じることがないよう、好ましくは丸い縁を有している。更に、丸い電極によれば、手持ち部を皮膚表面上で滑らかに動かすことが可能である。単極の電極システムも使用可能である(図示せず)。
【0015】
アプリケータ2は、必ずではないが、好ましくは、電極12、14の間に位置して、反射器24によって皮膚25の表面へ向けられる光エネルギーを生成する、光源21を、含んでいる。光源21から皮膚表面へ向けられる光エネルギーは、皮膚表面の有色素の対象を特定的に加熱するために使用される。そのような皮膚の対象としては、血管病変、静脈瘤、座瘡、及び黒子が、挙げられる。光エネルギーは、単一の波長又は複数の波長を有することができる。波長は、対象の対比成分の色にとって最適であるように選択され、典型的には400〜1800nmの範囲にある。フィラメント電球又はガス入り電球を、光源21として使用することができる。レーザ又はLEDからの光も、皮膚を照射するために使用することができる。
【0016】
使用時、アプリケータ2がユーザによって保持され、電極12、14が皮膚に当てられる。次いで、スイッチ16が押し下げられ、電極12、14の間の皮膚の部位17へ連続波のRF電流が供給される。アプリケータ2が、処置対象の皮膚領域15において皮膚上を移動され、皮膚領域を所望の皮膚の処置が生じる温度にまで加熱する。
【0017】
皮膚上でのアプリケータ2の移動速度は、電極間の皮膚の部位が所望の皮膚の処置が生じる温度まで加熱されるが、皮膚を損傷することがないように、決定される。皮膚の損傷としては、例えば、第1度又はより高度の熱傷、水膨れ、又は血液の凝固を、挙げることができる。したがって、皮膚上でのアプリケータの移動速度は、連続RF出力の関数である。RF出力が大きくなるほど、皮膚の過熱による損傷を避けるために、皮膚上でのアプリケータの移動は、より高速でなければならない。
【0018】
所望の移動速度は、例えば式V=P/(LdcρΔT)を使用して決定することができ、ここで、Pは連続RF電流の出力であり、Lは電極の間隔であり、dはRFエネルギーの進入深さであり、cは処置される組織の比熱であり、ρは組織の質量密度であり、ΔTは、通常の体温(約37〜39℃)に等しい初期温度から出発して、必要とされる、温度上昇である。したがって、例えば、RF出力がP=5Wであり、電極の間隔がL=1cmであり、RF進入深さがd=0.25cmであり、cρ=4J/cm/°K且つΔT=10℃である場合、0.5秒を僅かに超える時間で所望の加熱を達成するために、アプリケータの移動速度は、約0.5cm/秒でなければならない。単極の電極システムが使用される場合には、皮下組織の損傷を避けるために、出力は、より小さくなければならない。
【0019】
本発明のシステムによって自身の皮膚を処置するユーザは、皮膚が加熱されてはいるが痛みを生じるほどではないとユーザが感じる速度で、処置対象の領域の皮膚表面上でアプリケータを単に移動させればよい。或いは、制御ユニット6は、電極12、14の間の皮膚のインピーダンスを監視するプロセッサ7を、含んでもよい。皮膚の温度の上昇は、インピーダンスの変化をもたらすので、皮膚のインピーダンスを監視することによって、この技術分野において知られているとおり、電極間の皮膚の温度を追跡することができる。プロセッサ7は、皮膚の温度が所望の皮膚の処置を生じさせるために必要な範囲(例えば45℃〜60℃であり、処置に先立ってこれをプロセッサへ入力できる)を下回っている、と判断した場合に、第1のピッチで警報13を鳴らすような、移動速度を下げるべきであることをユーザに知らせる知覚可能な信号を、生成することができる。同様に、プロセッサは、皮膚の温度が高すぎて皮膚に損傷を生じる可能性がある、と判断した場合に、第2のピッチで警報13を鳴らすような、移動速度を高めるべきであることをユーザに知らせる第2の知覚可能な信号を、生成することができる。
【0020】
システム1は、以下の典型的なパラメータ値にて使用することが可能である。
・2〜10ワットの範囲のRF出力
・CW又は準CWであるエネルギー供給モード
・0.2〜10MHzの範囲のRF周波数
・400〜1800nmの範囲の光エネルギースペクトル
・1〜20ワット/cmの範囲の光エネルギー出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の皮膚表面の或る領域の下の組織部分を初期温度から所定の処置温度へ加熱するための方法であって、前記所定の処置温度が42〜60℃の範囲であり、処置される皮膚領域内の1つ以上の位置の各々に対して、
(a)第1の電極及び第2の電極を皮膚表面に当てること、及び
(b)前記位置の組織部分へ、電極から、連続波RFエネルギー又は準連続波RFエネルギーを供給すること、
を備えており、
少なくとも第1の電極が、処置される皮膚領域内の前記位置に当てられ、
RFエネルギーが、前記位置の組織部分を0.5秒を超える時間で前記所定の処置温度へ加熱するように選択された出力を、有している、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
処置される皮膚領域において、少なくとも第1の電極を、1つ以上の組織部分の各々が0.5秒を超える時間で前記所定の処置温度へ加熱されるように選択された移動速度で、移動させること、を更に備えている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1及び第2の電極が、処置される皮膚領域上を移動させられる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
第1及び第2の電極が、固定距離Lだけ離れており、第1及び第2の電極が、代数式V=P/(LdcρΔT)によって与えられる移動速度で皮膚表面上を移動され、この式において、PはRF電流の出力であり、dはRFエネルギーの進入深さであり、cは処置される組織の比熱であり、ρは組織の質量密度であり、ΔTは必要とされる温度上昇である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
RFエネルギーが、2〜10Wの範囲の出力を有しており、
RF出力が、0.2〜10MHzの範囲の周波数を有している、請求項2記載の方法。
【請求項6】
皮膚表面の前記領域を光エネルギーで照射すること、を更に備えており、
光エネルギーが、400〜1800nmの範囲のスペクトルを有しており、且つ、1〜10Wの範囲のエネルギー出力を有している、請求項2記載の方法。
【請求項7】
光源が、白熱電球、ガス入り電球、LED、及びレーザから、選択されている、請求項6記載の方法。
【請求項8】
皮膚の前記領域内の1つ以上の位置における温度を判断すること、を更に備えている、請求項2記載の方法。
【請求項9】
温度が、電極間の1つ以上のインピーダンス測定に基づいて判断される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
或る位置における皮膚の温度が前記所定の処置温度を下回っているときに、移動速度を上昇させることと、
皮膚の温度が前記所定の処置温度を下回っている場合に、第1の知覚可能な信号を生成することと、を更に備えており、
第1の知覚可能な信号が、第1のピッチで警報を鳴らすことである、請求項3記載の方法。
【請求項11】
或る位置における皮膚の温度が前記所定の処置温度を上回っているときに、移動速度を低下させることと、
皮膚の温度が前記所定の処置温度を上回っている場合に、第2の知覚可能な信号を生成することと、を更に備えており、
第2の知覚可能な信号が、第2のピッチで警報を鳴らすことである、請求項3記載の方法。
【請求項12】
皮膚の処置が、皮膚の若返り、コラーゲンの再構築及び収縮、皮膚の引き締め、しわ対策、皮下組織の処置、セルライトの処置、毛穴の寸法縮小、皮膚のきめ及び色調の改善、座瘡の処置、並びに脱毛から、選択される、請求項2記載の方法。
【請求項13】
初期温度が、通常の体温である、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−86023(P2012−86023A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−237691(P2011−237691)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2007−552804(P2007−552804)の分割
【原出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(504359488)シネロン メディカル リミテッド (25)
【Fターム(参考)】