説明

皮膚化粧料及び頭髪化粧料

【課題】 抗炎症作用、抗老化作用、育毛作用及び抗男性ホルモン作用を有する物質を有効成分とする抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤及び抗男性ホルモン剤、並びに当該物質を配合した皮膚化粧料及び頭髪化粧料を提供する。
【解決手段】 本発明の抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤又は抗男性ホルモン剤に、フロリジン及び/又はフロレチンを含有せしめる。また、皮膚化粧料又は頭髪化粧料にフロリジン及び/又はフロレチンを配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロリジン及び/又はフロレチンを有効成分とする抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤及び抗男性ホルモン剤、並びにフロリジン及び/又はフロレチンを配合した皮膚化粧料及び頭髪化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性の疾患、例えば、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患等の原因や発症機構は多種多様であるが、その原因の一つとして、主にマクロファージから産生される腫瘍壊死因子(以下「TNF−α」という)によるものが知られている。
【0003】
TNF−αは、腫瘍を壊死させる因子として見出されたが、最近では腫瘍に対してだけでなく、正常細胞の機能を調節するメディエーター的な役割を担うサイトカインであると考えられている。TNF−αは炎症の初発から終息までの過程において重要な役割を担っているが、その持続的かつ過剰な産生は、皮膚を含めた組織の障害を引き起こし、全身的には発熱やカケクシアの原因となり、炎症の悪化を引き起こす。そのような炎症としては、例えば、関節リューマチ、変形性関節症などの慢性炎症性疾患が代表的である。したがって、病的な炎症においてはTNF−αの過剰な産生を抑制することが重要となる。TNF−α産生抑制作用を有する植物抽出物としては、ヒルガオ科ヨウサイからの抽出物(特許文献1参照)等が知られている。
【0004】
炎症性疾患を発症させる別の原因として、ヒアルロニダーゼの活性化、ヒスタミン遊離、血小板凝集等が知られている。ヒアルロニダーゼの活性化によって、マストセルからのヒスタミンの脱顆粒が促進され、その結果炎症が引き起こされる。したがって、ヒアルロニダーゼの活性化を阻害することにより、炎症性疾患の予防、治療又は改善が期待できる。ヒアルロニダーゼ阻害活性を有するものとしては、イロハモミジからの抽出物(特許文献2参照)等が知られている。
【0005】
また、ヒスタミンが遊離されると同時に、ヘキソサミニダーゼも遊離されることから、ヘキソサミニダーゼの遊離を指標にヒスタミン遊離抑制作用を評価することができる。したがって、ヘキソサミニダーゼの遊離を抑制することにより、同時にヒスタミンの遊離も抑制でき、これにより炎症性疾患等の予防、治療又は改善に効果があるものと考えられる。ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有する植物抽出物としては、藤茶からの抽出物(特許文献3)等が知られている。
【0006】
血小板は、凝集して活性化することにより、生理的には止血、病理的には血栓形成を生じる他、血小板の凝集は、動脈硬化の進展、がん転移、炎症等に関与していると考えられている。したがって、血小板の凝集を抑制することにより、上記疾患の予防、治療又は改善が期待できる。血小板凝集抑制作用を有する植物抽出物としては、地衣類雪茶からの抽出物(特許文献4参照)等が知られている。
【0007】
加齢に伴う皮膚老化の一因は、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌が減退することにある。すなわち、エストロゲンは成人女性の健康維持に深く関わっており、その分泌不足は種々の内科的疾患を招くほか、肌の過敏症、弾力性低下、潤いの減少等、好ましくない肌の変化の原因となることが知られている。そこで、エストロゲンの分泌が衰える更年期以降の女性に対して、エストロゲンと同様の作用を有する物質を配合した薬剤を、経皮的又は経口的に投与することが行われている。エストロゲン様作用を有する植物抽出物としては、五斂子からの抽出物(特許文献5参照)等が知られている。
【0008】
皮膚の構造は、大きく分けて、表皮、基底膜、真皮、皮下組織からなる。基底膜は、表皮と真皮との境界部に存在しており、その機能は多岐にわたり、表皮の真皮への接着、表皮の極性の決定、表皮の分化・増殖の制御、さらには真皮細胞が産生する因子や血成分由来の栄養供給の制御に関与している。そのため、基底膜は、皮膚の構造、恒常性の維持にとってきわめて重要な役割を果たしている。したがって、基底膜の構造が変化すると、しわ、たるみ等の皮膚の老化症状を呈するようになる。特に、基底膜の主要成分であるIV型コラーゲンの産生量が減少すると、基底膜の構造が変化し、しわ、たるみ等の皮膚の老化症状を呈するようになる。IV型コラーゲン産生促進作用を有する植物抽出物としては、加水分解カゼイン、ブナの芽、エリスリナ、可溶性卵殻膜、カッコン、西洋キヅタよりなる群から選ばれる植物及び動物由来の抽出物等が知られている(特許文献6参照)。
【0009】
皮膚に紫外線が照射されると、皮膚の細胞は障害を受けたり、細胞死が引き起こされたりし、肌は張りや弾力を失い、肌荒れ、シワ等の老化症状を呈するようになる。したがって、紫外線の照射によるダメージ(例えば、細胞障害、細胞死等)を抑制・回復することによって、皮膚の老化の予防又は改善が期待できる。紫外線照射によるダメージ回復作用を有する植物抽出物としては、油溶性甘草抽出物(特許文献7参照)等が知られている。
【0010】
表皮は、基底層、有棘層、顆粒層及び角質層から構成されており、外部刺激を緩和し、水分等の体内成分の逸失を制御する働きをしている。基底層で分裂し、増殖した細胞は、有棘層、顆粒層を通過しながら分化し、強固な架橋結合をもったケラチン蛋白線維で構成された角質層になり、最終的には垢として角質層から脱落する。特に、顆粒層では、細胞膜が肥厚して肥厚細胞膜を形成するとともに、トランスグルタミナーゼ−1の作用により、蛋白分子間がグルタミル−リジン架橋され、強靭なケラチン蛋白線維が形成される。さらに、その一部にセラミド等が共有結合し、疎水的な構造をとることで、細胞間脂質のラメラ構造の土台を供給し、角質バリア機能及び皮膚の保湿機能の基礎が形成される。
【0011】
しかし、加齢とともに表皮におけるトランスグルタミナーゼ−1の産生量が減少すると、角質バリア機能及び皮膚の保湿機能が低下するため、肌荒れ、乾燥肌等の皮膚の老化症状を呈するようになる。そのため、表皮におけるトランスグルタミナーゼ−1の産生を促進することにより、皮膚の老化症状を予防又は改善することができると考えられる。このような考えに基づき、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を有するものとして、ニガリ又はその構成成分である塩化カルシウム等が知られている(特許文献8参照)。
【0012】
多くのステロイドホルモンは産生臓器から分泌された分子型で受容体と結合してその作用を発現するが、アンドロゲンと総称される男性ホルモンの場合、例えば、テストステロンは標的臓器の細胞内に入ってテストステロン5α−レダクターゼにより5α−ジヒドロテストステロン(5α−DHT)に還元されてから受容体と結合し、アンドロゲンとしての作用を発現する。
【0013】
アンドロゲンは重要なホルモンであるが、それが過度に作用すると、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビなど)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等、さまざまな好ましくない症状を誘発する。そこで、従来、これらの各種症状を改善するために過剰のアンドロゲンの作用を抑制する方法、具体的には、テストステロンを活性型5α−DHTに還元するテストステロン5α−レダクターゼの作用を阻害することにより、活性な5α−DHTが生じるのを抑制する方法や、テストステロンから生じた5α−DHTが受容体と結合するのを阻害することによりアンドロゲン活性を発現させない方法が提案されている。
【0014】
このようなテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用を有する植物抽出物としては、例えば、ゴマノハグサ科独脚金からの抽出物(特許文献9参照)等が知られている。また、5α−DHTとその受容体との結合を阻害する作用を有する植物抽出物としては、例えば、マジト及び/又はカチュアからの抽出物(特許文献10参照)等が知られている。
【0015】
毛髪は、成長期、退行期及び休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長及び脱落を繰り返している。このヘアサイクルのうち、休止期から成長期にかけての新たな毛包が形成されるステージが、発毛に最も重要であると考えられており、このステージにおける毛包上皮系細胞の増殖・分化に重要な役割を果たしているのが、毛乳頭細胞であると考えられている。毛乳頭細胞は、毛根近傍にある外毛根鞘細胞とマトリックス細胞とからなる毛包上皮系細胞の内側にあって、基底膜に包まれている毛根の根幹部分に位置する細胞であり、毛包上皮系細胞に働きかけてその増殖を促進する等、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成において重要な役割を担っている(非特許文献1参照)。
【0016】
このように、毛乳頭細胞は、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成において最も重要な役割を果たしており、従来、培養毛乳頭細胞に対象物質を接触させて、その細胞の増殖活性の有無及び/又は強弱を特定することで、その対象物質の育毛効果を検定する方法が提案されている(特許文献11参照)。
【0017】
また、従来、毛乳頭細胞増殖促進作用を有する生薬として、例えば、オウギ抽出物、オウレン抽出物、クマノギク抽出物等が知られている(特許文献12及び特許文献13参照)。このように、安全性及び生産性に優れ、日常的に摂取可能であり、かつ安価でありながら優れた毛乳頭細胞増殖促進作用を有する天然系の各種製剤に対する需要者の要望はきわめて強いが、いまだ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2004−250344号公報
【特許文献2】特開2003−113068号公報
【特許文献3】特開2003−12532号公報
【特許文献4】特開2005−82532号公報
【特許文献5】特開2002−302452号公報
【特許文献6】特開2004−18471号公報
【特許文献7】特開2004−250368号公報
【特許文献8】特開2004−51596号公報
【特許文献9】特開2005−75786号公報
【特許文献10】特開2002−241297号公報
【特許文献11】特開平10−229978号公報
【特許文献12】特開平9−208431号公報
【特許文献13】特開平11−12134号公報
【非特許文献1】「Trends Genet」,1992年,第8巻,p.56−61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、抗炎症作用、抗老化作用、育毛作用及び抗男性ホルモン作用を有する物質を見出し、当該物質を有効成分とする抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤及び抗男性ホルモン剤、並びに当該物質を配合した皮膚化粧料及び頭髪化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤又は抗男性ホルモン剤は、フロリジン及び/又はフロレチンを有効成分として含有することを特徴とし、本発明の皮膚化粧料又は頭髪化粧料は、フロリジン及び/又はフロレチンを配合したことを特徴とする。
【0020】
本発明の抗炎症剤においては、前記フロリジン及びフロレチンが、TNF−α産生抑制作用、ヒアルロニダーゼ阻害作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用及び血小板凝集抑制作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有することが好ましい。また、本発明の抗老化剤においては、前記フロリジンが、エストロゲン様作用及び/又はトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を有し、前記フロレチンが、エストロゲン様作用、IV型コラーゲン産生促進作用、紫外線照射によるダメージ回復作用及びトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有することが好ましい。さらに、本発明の育毛剤においては、前記フロリジンが、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有し、前記フロレチンが、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を有することが好ましい。さらにまた、本発明の抗男性ホルモン剤においては、前記フロリジン及びフロレチンが、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フロリジン及び/又はフロレチンを有効成分として含有し、安全性の高い抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤、抗男性ホルモン剤、皮膚化粧料及び頭髪化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について説明する。
〔抗炎症剤,抗老化剤,育毛剤,抗男性ホルモン剤〕
本発明の抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤又は抗男性ホルモン剤は、フロリジン(Phloridzin)及び/又はフロレチン(Phloretin)を有効成分として含有する。
【0023】
フロリジンは、下記式(I)で表される化学構造を有するフロレチン配糖体である。
【0024】
【化1】

【0025】
また、フロレチンは、下記式(II)で表される化学構造を有するジヒドロカルコン誘導体であり、フロリジンのアグリコンである。
【0026】
【化2】

【0027】
フロリジン又はフロレチンは、フロリジン又はフロレチンを含有する植物からの抽出物から単離・精製することにより得ることができる。
【0028】
フロリジンは、具体的には、下記工程(a)〜(b)により得ることができる。
工程(a)
工程(a)は、湖南甜茶を水、親水性有機溶媒又はこれらの混合溶媒による抽出処理に供して、湖南甜茶抽出物を得る工程である。
【0029】
湖南甜茶(学名:Lithocarpus litseifolius)は、ブナ科に属する植物であって、中国西南地方、華南地方等に広く分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用する湖南甜茶の構成部位は特に限定されるものではなく、例えば、花部、葉部、枝部、果実部、樹皮、根部等が挙げられ、これらのうち、特に枝部又は葉部を使用するのが好ましい。
【0030】
湖南甜茶抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。この際、抽出原料の乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機により行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0031】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0032】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0033】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0034】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール10〜90質量部を混合することが好ましい。
【0035】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去し、乾燥することにより湖南甜茶抽出物を得ることができる。
【0036】
工程(b)
工程(b)は、工程(a)により得られた湖南甜茶抽出物を吸着剤に吸着させた後、混合溶媒により溶出し、得られた溶出液をクロマトグラフィーに付してその溶出液に含まれるフロリジンを単離する工程である。
【0037】
湖南甜茶抽出物に含まれ得る親水性有機溶媒は、吸着剤に吸着させる前に、必要に応じて留去する。親水性有機溶媒を留去した抽出物は、例えば、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒に溶解又は懸濁させた後、吸着剤に吸着させる。吸着剤に湖南甜茶抽出物を吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒に溶出させる。
【0038】
溶解、懸濁又は溶出に使用し得る水溶性溶媒としては、上記した親水性有機溶媒が挙げられるが、上記した炭素数1〜5の低級アルコール、この中でも特にメタノール又はエタノールを溶解液、懸濁液又は溶出液として使用するのが好ましい。水と水溶性溶媒との混合溶媒を使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水とメタノールとの混合溶媒を使用する場合、水とメタノールとの混合比を90:10〜1:99(容量比)、好ましくは60:40〜20:80(容量比)とすることができる。
【0039】
吸着剤は、フロリジンを吸着し得る限り特に限定されるものではないが、イオン交換樹脂、合成吸着樹脂、活性炭、キレート樹脂、シリカゲル、アルミナゲル系吸着剤、多孔質ガラス等の公知の吸着剤を単独で又は組み合わせて用いることができる。好ましくは、多孔性合成吸着樹脂であるダイヤイオンHP−20(三菱化学社製)等の多孔性合成吸着剤を使用し、当該多孔性合成吸着剤を充填剤としたカラムクロマトグラフィーに湖南甜茶抽出物を付し、例えば、水、アルコール(メタノール、エタノール等)、アセトンの順で溶出させて、それぞれの画分を得ることができる。
【0040】
得られた画分のうちアルコール画分を、オクタデシルシリカゲルを充填した逆相カラムクロマトグラフィーに付して分画し、高速液体クロマトグラフィーに付して精製し、フロリジンを単離することができる。特に、高速液体クロマトグラフィーによりリサイクル分取をすることにより、フロリジンの収率を向上させることができる。
【0041】
高速液体クロマトグラフィーにおける移動相としては、例えば、水、水溶性溶媒、低極性溶媒若しくはこれらの混合溶媒、又は無極性溶媒等を使用することができる。水溶性溶媒としては、上記した親水性有機溶媒、アセトニトリル等を使用することができるが、上記した炭素数1〜5の低級アルコール、この中でも特にメタノール、エタノール等を使用することが好ましい。このようにして処理することで、湖南甜茶抽出物からフロリジンを単離することができる。
【0042】
フロレチンは、湖南甜茶抽出物の酸加水分解物から精製・単離することにより得ることができる。具体的には、工程(c)〜(d)により得ることができる。
【0043】
工程(c)
工程(c)は、上記工程(a)により得られた湖南甜茶抽出物から当該抽出物の酸加水分解物を得るための工程である。
【0044】
上記工程(a)により得られた湖南甜茶抽出物に酸と親水性有機溶媒との混合溶媒を加え、所定時間、還流加熱下で反応させる。湖南甜茶抽出物に加える混合溶媒中の酸は、特に限定されるものではないが、例えば、塩酸、硫酸等を使用することができる。また、当該混合溶媒中の親水性有機溶媒は、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等を使用することができ、これらのうち、特にメタノールを好適に使用することができる。
【0045】
得られた反応物を、多孔性吸着剤を充填したカラムクロマトグラフィー(例えば、HP−20カラム,三菱化学社製)に付し、水、炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール等)の順で溶出させる。このようにして得られた低級脂肪族アルコール画分から溶媒を留去することにより、湖南甜茶抽出物の酸加水分解物を得ることができる。
【0046】
工程(d)
工程(d)は、工程(c)により得られた酸加水分解物からフロレチンを単離する工程である。
【0047】
工程(c)により得られた湖南甜茶抽出物の酸加水分解物を、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いた順相カラムクロマトグラフィーに付して分画し、高速液体クロマトグラフィーに付して精製することで、フロレチンを単離することができる。
【0048】
高速液体クロマトグラフィーにおける移動相としては、例えば、水、水溶性溶媒、低極性溶媒若しくはこれらの混合溶媒、又は無極性溶媒等を使用することができる。水溶性溶媒としては、上記した親水性有機溶媒、アセトニトリル等を使用することができるが、上記した炭素数1〜5の低級アルコール、この中でも特にメタノール、エタノール等を使用することが好ましい。このように処理することで、湖南甜茶抽出物の酸加水分解物からフロレチンを単離することができる。
【0049】
以上のようにして得られるフロリジン又はフロレチンは、抗炎症作用、抗老化作用、育毛作用又は抗男性ホルモン作用を有しているため、それぞれの作用を利用して抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤又は抗男性ホルモン剤の有効成分として用いることができる。
【0050】
フロリジン又はフロレチンが有する抗炎症作用は、例えば、TNF−α産生抑制作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用及び血小板凝集抑制作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用に基づいて発揮される。ただし、フロリジン又はフロレチンが有する抗炎症作用は、これらの作用に基づいて発揮される抗炎症作用に限定されるものではない。
【0051】
フロリジン又はフロレチンが有する抗老化作用は、例えば、エストロゲン様作用、IV型コラーゲン産生促進作用、紫外線照射によるダメージ回復作用及びトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用に基づいて発揮される。ただし、フロリジン又はフロレチンが有する抗老化作用は、これらの作用に基づいて発揮される抗老化作用に限定されるものではない。
【0052】
フロリジン又はフロレチンが有する育毛作用は、例えば、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用に基づいて発揮される。ただし、フロリジン又はフロレチンが有する育毛作用は、これらの作用に基づいて発揮される育毛作用に限定されるものではない。
【0053】
フロリジン又はフロレチンが有する抗男性ホルモン作用は、例えば、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用に基づいて発揮される。ただし、フロリジン又はフロレチンが有する抗男性ホルモン作用は、これらの作用に基づいて発揮される抗男性ホルモン作用に限定されるものではない。
【0054】
なお、フロリジン又はフロレチンは、それらが有するTNF−α産生抑制作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用、血小板凝集抑制作用、エストロゲン様作用、IV型コラーゲン産生促進作用、紫外線照射によるダメージ回復作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を通じて、TNF−α産生抑制剤、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制剤、血小板凝集抑制剤、エストロゲン様作用剤、IV型コラーゲン産生促進剤、紫外線照射によるダメージ回復剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、テストステロン5α−レダクターゼ阻害剤、アンドロゲン受容体結合阻害剤又は毛乳頭細胞増殖促進剤の有効成分として使用してもよい。
【0055】
本発明の抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤又は抗男性ホルモン剤は、フロリジン及び/又はフロレチンのみからなるものであってもよいし、フロリジン及び/又はフロレチンから製剤化したものであってもよい。
【0056】
フロリジン及び/又はフロレチンは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。また、フロリジン及び/又はフロレチンは、他の組成物(例えば、後述する皮膚化粧料、頭髪化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0057】
なお、本発明の抗炎症剤は、必要に応じて、抗炎症作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。また、本発明の抗老化剤は、必要に応じて、抗老化作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。さらに、本発明の育毛剤は、必要に応じて、育毛作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。さらにまた、本発明の抗男性ホルモン剤は、必要に応じて、抗男性ホルモン作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。
【0058】
本発明の抗炎症剤は、フロリジン及びフロレチンが有するTNF−α産生抑制作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用及び血小板凝集抑制作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種炎症性皮膚疾患等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明の抗炎症剤は、これらの用途以外にもTNF−α産生抑制作用、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用及び血小板凝集抑制作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0059】
本発明の抗老化剤は、フロリジンが有するエストロゲン様作用及び/又はトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用、並びにフロレチンが有するエストロゲン様作用、IV型コラーゲン産生促進作用、紫外線照射によるダメージ回復作用及びトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、シミ、シワ形成等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本発明の抗老化剤は、これらの用途以外にもエストロゲン様作用、IV型コラーゲン産生促進作用、紫外線照射によるダメージ回復作用及びトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0060】
本発明の育毛剤は、フロリジンが有するテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用、並びにフロレチンが有するテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を通じて、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビなど)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等を予防、治療又は改善することができ、特に男性型脱毛症の予防、治療又は改善に有用である。ただし、本発明の育毛剤は、これらの用途以外にもテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0061】
本発明の抗男性ホルモン剤は、フロリジン及びフロレチンが有するテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を通じて、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビなど)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明の抗男性ホルモン剤は、これらの用途以外にもテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0062】
〔皮膚化粧料,頭髪化粧料〕
フロリジン及びフロレチンは、抗炎症作用、抗老化作用、育毛作用又は抗男性ホルモン作用を有しており、皮膚又は頭髪(頭皮)に適用した場合の使用感又は安全性に優れているため、皮膚化粧料又は頭髪化粧料に配合するのに好適である。この場合、皮膚化粧料又は頭髪化粧料には、フロリジン及び/又はフロレチンをそのまま配合してもよいし、フロリジン及び/又はフロレチンから製剤化した抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤又は抗男性ホルモン剤を配合してもよい。フロリジン及び/又はフロレチン;フロリジン及び/若しくはフロレチンから製剤化した抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤又は抗男性ホルモン剤を配合することにより、皮膚化粧料又は頭髪化粧料に抗炎症作用、抗老化作用、育毛作用又は抗男性ホルモン作用を付与することができる。
【0063】
フロリジン及び/又はフロレチンを配合し得る皮膚化粧料又は頭髪化粧料の種類は特に限定されるものではなく、皮膚化粧料としては、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション等が挙げられ、また、頭髪化粧料としては、例えば、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンス等が挙げられる。
【0064】
フロリジン及び/又はフロレチンを皮膚化粧料又は頭髪化粧料に配合する場合、その配合量は、皮膚化粧料又は頭髪化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、皮膚化粧料又は頭髪化粧料中のフロリジン及び/又はフロレチンの濃度が約0.0001〜10質量%であり、特に好適な配合率は、約0.001〜1質量%である。
【0065】
本発明の皮膚化粧料又は頭髪化粧料は、フロリジン及び/又はフロレチンが有する抗炎症作用、育毛作用、抗男性ホルモン作用又はテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用を妨げない限り、通常の皮膚化粧料又は頭髪化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された上記成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた使用効果をもたらすことがある。
【0066】
本発明の皮膚化粧料は、高い安全性を有しており、かつ抗炎症作用、抗老化作用及び抗男性ホルモン作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、各種炎症性皮膚疾患、皮膚の老化症状、脂漏症、座瘡(ニキビなど)等を予防、治療又は改善することができる。また、本発明の頭髪化粧料は、高い安全性を有しており、かつ育毛作用及び/又は抗男性ホルモン作用を通じて、男性型脱毛症等を予防・改善することができる。
【0067】
なお、本発明の抗炎症剤、抗老化剤、育毛剤、抗男性ホルモン剤、皮膚化粧料又は頭髪化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0068】
以下、製造例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0069】
〔製造例1〕フロリジンの製造
細切りにした湖南甜茶の葉部の乾燥物400gに50質量%エタノール4000mLを加え、還流抽出器で80℃にて2時間加熱抽出し、熱時濾過した。残渣についてさらに同様の抽出処理をした。得られた抽出液を合わせて減圧下で濃縮し、さらに乾燥して湖南甜茶抽出物90.4gを得た。
【0070】
得られた湖南甜茶抽出物10.0gに水500mLを加えて懸濁させ、多孔性合成吸着剤(商品名;ダイヤイオンHP−20,三菱化学社製)に付し、水、メタノールの順で溶出させ、メタノール画分4.0gを得た。得られたメタノール画分を逆相カラムクロマトグラフィー(充填剤;ODS,商品名;クロマトレックスODS DM1020T,富士シリシア化学株式会社製,展開溶媒;メタノール:水=2:3)に付して分画・精製し、次いで、下記の条件でリサイクル分取高速液体クロマトグラフィーに付して単離し、精製物165gを得た(試料1)。
【0071】
<高速液体クロマトグラフィー条件>
製品名:分取液体クロマトグラフLC−908(日本分析工業株式会社製)
固定相:JAIGEL−GS310(日本分析工業株式会社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相:メタノール
移動相流速:5mL/分
検出器:RI
【0072】
得られた精製物を、H−NMR及び13C−NMRで分析した。結果を以下に示す。
【0073】
H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):>
7.05(1H,d,J=8.5Hz),6.67(1H,d,J=8.5Hz),6.17(1H,d,J=2.4Hz),5.95(1H,d,J=2.4Hz),5.03(1H,d,J=7.3Hz,Glc-1),3.90(1H,dd-like),3.70(1H,dd-like),3.50-3.20(6H,m),2.87(2H,t-like)
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):>
206.3(C=O),167.3(4'-C),165.7(6'-C),162.1(2'-C),156.2(4-C),133.8(1-C),130.2(2,6-C),116.0(3,5-C),106.7(1'-C),102.0(Glc-1-C),98.3(5'-C),95.3(3'-C),78.4(Glc-3-C),78.3(Glc-5-C),74.7(Glc-2-C),71.1(Glc-1-C),62.4(Glc-6-C),46.9(α-C),30.8(β-C)
【0074】
上記分析結果から、湖南甜茶抽出物から単離して得られた化合物は、下記式(I)で表される構造を有するフロリジンであることが確認された。
【0075】
【化3】

【0076】
〔製造例2〕フロレチンの製造
細切りにした湖南甜茶の葉部の乾燥物400gに50質量%エタノール4000mLを加え、還流抽出器で80℃にて2時間加熱抽出し、熱時濾過した。残渣についてさらに同様の抽出処理をした。得られた抽出液を合わせて減圧下で濃縮し、さらに乾燥して湖南甜茶抽出物90.4gを得た。
【0077】
得られた湖南甜茶抽出物10.0gに4質量%メタノールと5%塩酸とを1:1(質量基準)の割合で混合した混合溶媒70mLを加え、還流加熱下で2時間反応させた。反応終了後に水を加え、ダイヤイオンHP−20カラム(三菱化学社製)に付し、水、メタノールの順で溶出させ、メタノール画分(湖南甜茶抽出物の酸加水分解物)5.3gを得た。
【0078】
得られたメタノール画分1.5gを順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(製品名;シリカゲル60,MERCK社製,展開溶媒;クロロホルム:メタノール=10:1)を用いて分画・精製し、次いで、下記の条件でリサイクル分取高速液体クロマトグラフィーに付し、精製物250mgを得た(試料2)。
【0079】
<高速液体クロマトグラフィー条件>
製品名:分取液体クロマトグラフLC−908(日本分析工業株式会社製)
固定相:JAIGEL−GS310(日本分析工業株式会社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相:メタノール
移動相流速:5mL/分
検出器:RI
【0080】
得られた精製物を、H−NMR及び13C−NMRで分析した。結果を以下に示す。
【0081】
H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):>
7.40(1H,d,J=8.5Hz),7.05(1H,d,J=8.5Hz),6.17(2H,s),3.63(2H,m),3.20(2H,t-like)
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):>
206.2(C=O),166.0(2',6'-C),165.6(4'-C),156.2(4-C),133.9(1-C),130.2(2,6-C),116.0(3,5-C),105.2(1'-C),95.7(3',5'-C),47.3(α-C),31.5(β-C)
【0082】
上記分析結果から、湖南甜茶抽出物の酸加水分解物から単離して得られた化合物は、下記式(II)で表される構造を有するフロレチンであることが確認された。
【0083】
【化4】

【0084】
〔試験例1〕TNF−α産生抑制作用試験
製造例1及び2で得られた各試料(試料1,2)について、以下のようにしてTNF−α産生抑制作用を試験した。
【0085】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有ダルベッコMEM培地で希釈した後、96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLずつ播種し、4時間培養した。
【0086】
培養終了後、培地を抜き、終濃度2%DMSOを含む10%FBS含有ダルベッコMEMで溶解した試料溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、終濃度1μg/mLで10%FBS含有ダルベッコMEMに溶解したリポポリサッカライド(LPS,E.coli0111;B4,DIFCO社製)を100μL加え、24時間培養した。培養終了後、各ウェルの培養上清中のTNF−α量を、サンドイッチELISA法を用いて測定し、測定結果から下記式によりTNF−α産生抑制率(%)を算出した。
【0087】
TNF−α産生抑制率(%)={(B−A)/B}×100
式中、Aは試料溶液添加時のTNF−α量を表し、Bは試料溶液無添加時のTNF−α量を表す。
【0088】
試料溶液の濃度を段階的に減少させて、各濃度におけるTNF−α産生抑制率を算出し、その結果から内挿法により、TNF−α産生抑制率が50%になる試料濃度IC50(μg/mL)を求めた。
結果を表1に示す。
【0089】
[表1]
試 料 IC50(μg/mL)
試料1 200
試料2 32
【0090】
表1に示すように、フロリジン(試料1)及びフロレチン(試料2)は、優れたTNF−α産生抑制作用を有することが確認された。また、TNF−α産生抑制作用の程度は、フロリジン及びフロレチンの濃度によって調節できることが確認された。
【0091】
〔試験例2〕ヒアルロニダーゼ活性阻害作用試験
製造例1及び2で得られた各試料(試料1,2)について、以下のようにしてヒアルロニダーゼ活性阻害作用を試験した。
【0092】
試料を溶解した0.1mol/Lの酢酸緩衝液(pH3.5)0.2mLにヒアルロニダーゼ溶液(Type IV-S(from bovine testis),SIGMA社製,400NFunits/mL)0.1mLを加え、37℃で20分間反応させた。さらに、活性化剤として2.5mmol/Lの塩化カルシウム0.2mLを加え、37℃で20分間反応させた。これに0.4mg/mLのヒアルロン酸カリウム溶液(from robster comb)0.5mLを加え、37℃で40分間反応させた。
【0093】
その後、0.4mol/L水酸化ナトリウムを0.2mL加えて反応を停止し、冷却した後、各反応溶液にホウ酸溶液0.2mLを加え、3分間煮沸した。氷冷後、p−DABA試薬6mLを加え、37℃で20分間反応させた。その後、波長585nmにおける吸光度を測定した。同様の方法で空試験を行い補正した。得られた測定結果から、下記式によりヒアルロニダーゼ活性阻害率(%)を算出した。
【0094】
ヒアルロニダーゼ阻害率(%)={1−(St−Sb)/(Ct−Cb)}×100
式中、Stは試料溶液の波長585nmにおける吸光度を表し、Sbは試料溶液ブランクの波長585nmにおける吸光度を表し、Ctはコントロール溶液の波長585nmにおける吸光度を表し、Cbはコントロール溶液ブランクの波長585nmにおける吸光度を表す。
結果を表2に示す。
【0095】
[表2]
試 料 試料濃度(μg/mL) ヒアルロニダーゼ阻害率(%)
試料1 400 17.9
試料2 100 98.0
【0096】
表2に示すように、フロリジン(試料1)及びフロレチン(試料2)は、優れたヒアルロニダーゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0097】
〔試験例3〕ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用試験
製造例1及び2で得られた各試料(試料1,2)について、以下のようにしてヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を試験した。
【0098】
ラット好塩基球白血病細胞(RBL−2H3)を15%FBS添加S−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を4.0×10cells/mLの細胞密度になるように希釈し、終濃度0.5μg/mLとなるようにDNP-specific IgEを添加した後、96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0099】
培養終了後、培地を抜き、シリガリアン緩衝液500μLにて洗浄を2回行った。次に、同緩衝液30μL及び同緩衝液にて調製した試料溶液10μLを加え、37℃にて10分間静置した。その後、100ng/mLのDNP−BSA溶液10μLを加え、37℃にて15分間静置し、ヘキソサミニダーゼを遊離させた。その後、96ウェルプレートを氷上に静置することにより遊離を停止した。各ウェルの細胞上清10μL及び1mmol/Lのp−NAG(p−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサイド)溶液10μLを、新たな96ウェルプレートに添加し、37℃で1時間反応させた。反応終了後、各ウェルに0.1mol/LのNaCO/NaHCO250μLを加え、波長415nmにおける吸光度を測定した。また、空試験として、細胞上清10μLと、0.1mol/LのNaCO/NaHCO250μLとの混合液の波長415nmにおける吸光度を測定し、補正した。得られた測定結果から、下記式によりヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)を算出した。
【0100】
ヘキソサミニダーゼ遊離抑制率(%)={1−(B−C)/A}×100
式中、Aは試料無添加での波長415nmにおける吸光度を表し、Bは試料添加での波長415nmにおける吸光度を表し、Cは試料添加,p−NAG無添加での波長415nmにおける吸光度を表す。
結果を表3に示す。
【0101】
[表3]
試 料 試料濃度(μg/mL) 遊離抑制率(%)
試料1 400 34.3
試料2 100 93.5
【0102】
表3に示すように、フロリジン(試料1)及びフロレチン(試料2)は、優れたヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有することが確認された。
【0103】
〔試験例4〕血小板凝集抑制作用試験
製造例1及び2で得られた各試料(試料1,2)について、以下のようにして血小板凝集抑制作用を試験した。
【0104】
(1)血小板浮遊液の調製
77mmol/L−EDTA(pH7.4)を1/10量加えて採血したウサギの血液を遠心(180×g,10分,室温)して血小板浮遊液(P.R.P.)を得た。さらに遠心(810×g,10分,4℃)し、上清を除去して血小板を得た。これを血小板洗浄液(0.15mol/Lの塩化ナトリウムと、0.15mol/Lのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)と、77mmol/LのEDTA溶液(pH7.4)とを90:8:2で混合)に浮遊させ、上記と同様に遠心し、得られた血小板を血小板浮遊液(145mmol/L塩化ナトリウム、5mmol/L塩化カリウム及び5.5mmol/Lグルコースを含む10mmol/Lヘパス緩衝液(pH7.4))に浮遊させて血小板数を調整(3.0×10cells/μL)し、洗浄血小板浮遊液を得た。
【0105】
(2)操作
得られた洗浄血小板浮遊液222μLに200mmol/L塩化カルシウム溶液1μLを加え、37℃で1分間反応させた。これに試料溶液2μLを加え、さらに2分間反応し、撹拌子を入れて1分間撹拌した後、コラーゲン溶液を25μL添加して37℃で10分間の凝集を測定した。得られた測定結果から、下記式により、血小板凝集抑制率(%)を算出した。
【0106】
血小板凝集抑制率(%)=(A−B)/A×100
式中、Aはコントロールの血小板凝集率を表し、Bは試料添加時の血小板凝集率を表す。
【0107】
試料溶液の濃度を段階的に減少させて、各濃度における血小板凝集抑制率を算出し、その結果から内挿法により、血小板凝集抑制率が50%になる試料濃度IC50(μg/mL)を求めた。
結果を表4に示す。
【0108】
[表4]
試 料 IC50(μg/mL)
試料1 338.1
試料2 188.7
【0109】
表4に示すように、フロリジン(試料1)及びフロレチン(試料2)は、優れた血小板凝集抑制作用を有することが確認された。また、血小板凝集抑制作用の程度は、フロリジン及びフロレチンの濃度によって調節できることが確認された。
【0110】
〔試験例5〕エストロゲン様作用試験
製造例1及び製造例2で得られた各試料(試料1,2)について、以下のようにしてエストロゲン様作用を試験した。
【0111】
ヒト乳癌由来細胞(MCF−7)を、10%FBS、1%NEAA及び1mmoL/Lのピルビン酸ナトリウムを含有するMEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を活性炭処理した10%FBS、1%NEAA及び1mmol/Lのピルビン酸ナトリウムを含有し、フェノールレッドを含有しないMEM(T−MEM)培地を用いて、3.0×10cells/mLの細胞密度に希釈した後、48ウェルプレートに1ウェルあたり450μLずつ播種し、細胞を定着させるため培養した。
【0112】
6時間後(0日目)にT−MEMで終濃度の10倍に調製した試料溶液を各ウェルに50μLずつ添加し、培養を続けた。3日目に培地を抜き、T−MEMで終濃度に調製した試料溶液を各ウェルに0.5mLずつ添加し、さらに培養を続けた。
【0113】
エストロゲン様作用は、MTTアッセイを用いて測定した。培養終了後、培地を抜き、1%NEAA及び1mmol/Lのピルビン酸ナトリウムを含有するMEMに終濃度0.4mg/mLで溶解したMTTを各ウェルに200μLずつ添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2−プロパノール200μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。ポジティブコントロールとして、1×10−9Mエストラジオールを使用した。得られた測定結果から、下記式により、エストロゲン様作用率(%)を算出した。
【0114】
エストロゲン様作用率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の吸光度」を表し、Bは「試料無添加時の吸光度」を表す。
結果を表5に示す
【0115】
[表5]
試 料 試料濃度(μg/mL) エストロゲン様作用率(%)
試料1 50 122.5±3.2
試料2 3.125 174.7±4.0
【0116】
表5に示すように、フロリジン(試料1)及びフロレチン(試料2)は、優れたエストロゲン様作用を有することが確認された。
【0117】
〔試験例6〕IV型コラーゲン産生促進作用試験
製造例2で得られた試料2について、以下のようにしてIV型コラーゲン産生促進作用を試験した。
【0118】
ヒト正常線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.6×10cells/mLの細胞密度になるようにダルベッコMEM培地を用いて希釈した後、96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0119】
培養終了後、培地を抜き、0.25%FBS含有ダルベッコMEM培地に溶解した試料溶液(試料濃度:25μg/mL)を各ウェルに150μLずつ添加し、3日間培養した。培養後、各ウェルの培地中のIV型コラーゲン量をELISA法により測定した。得られた測定結果から、下記式によりIV型コラーゲン産生促進率(%)を算出した。
【0120】
IV型コラーゲン産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時のIV型コラーゲン量」を表し、Bは「試料無添加時のIV型コラーゲン量」を表す。
【0121】
上記式により算出した結果、フロレチン(試料2)のIV型コラーゲン産生促進率(%)は、201.6±20.6%であり、フロレチン(試料2)は、優れたIV型コラーゲン産生促進作用を有することが確認された。
【0122】
〔試験例7〕紫外線照射によるダメージ回復作用試験
製造例2で得られた試料2について、以下のようにして紫外線照射によるダメージ回復作用を試験した。
【0123】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの細胞密度になるようにα−MEM培地を用いて希釈した後、48ウェルプレートに1ウェルあたり200μLずつ播種した。24時間培養後、培地を100μLのPBS(−)へ交換し、1.0J/cmのUV−Bを照射した。照射後、直ちに、PBS(−)を抜き、10%FBS含有α−MEMに溶解した試料溶液を各ウェルに400μLずつ添加し、24時間培養した。
【0124】
紫外線(UV−B)照射によるダメージ回復作用は、MTTアッセイを用いて測定した。培養終了後、培地を抜き、終濃度0.4mg/mLで溶解したMTTを各ウェルに200μLずつ添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2−プロパノール200μLで抽出し、抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。また、同様に細胞を播種した後、UV−Bを照射しない細胞及びUV−Bを照射し試料溶液を添加しない細胞についても同様に測定し、それぞれ非照射群及び照射群とした。得られた測定結果から、下記式により、紫外線(UV−B)照射によるダメージ回復率(%)を算出した。
【0125】
ダメージ回復率(%)={(Nt−C)−(Nt−Sa)}/(Nt−C)×100
式中、Ntは「UV−Bを照射していない細胞での吸光度」を表し、Cは「UV−Bを照射し試料溶液を添加していない細胞での吸光度」を表し、Saは「UV−Bを照射し試料溶液を添加した細胞」での吸光度を表す。
結果を表7に示す。
【0126】
上記式により算出した結果、フロレチン(試料2)の紫外線照射によるダメージ回復率は、51.3±9.6%であり、フロレチン(試料2)は、優れた紫外線照射によるダメージ回復作用を有することが確認された。
【0127】
〔試験例8〕トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用試験
製造例1及び製造例2で得られた各試料(試料1,2)について、以下のようにしてトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を試験した。
【0128】
ヒト正常新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を、ヒト正常新生児表皮角化細胞用培地(KGM)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるようにKGMを用いて希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、2日間培養した。
【0129】
培養終了後、KGMで溶解した試料溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、24時間培養した。培養終了後、培地を抜き、細胞をプレートに固定させて細胞表面に発現したトランスグルタミナーゼ−1の量を、モノクロナール抗ヒトトランスグルタミナーゼ−1抗体を用いたELISA法により測定した。得られた測定結果から、下記式によりトランスグルタミナーゼ−1産生促進率(%)を算出した。
【0130】
トランスグルタミナーゼ−1産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の波長405nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料無添加時の波長405nmにおける吸光度」を表す。
結果を表6に示す。
【0131】
[表6]
試 料 試料濃度(μg/mL) 産生促進率(%)
試料1 50 103.2±0.7
試料2 12.5 119.2±2.4
【0132】
表6に示すように、フロリジン(試料1)及びフロレチン(試料2)は、優れたトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を有することが確認された。
【0133】
〔試験例9〕テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用試験
製造例1及び2で得られた各試料(試料1,2)について、以下のようにしてテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用を試験した。
【0134】
蓋付V底試験管にて、テストステロン(和光純薬工業社製)4.2mgをプロピレングリコール1mLに溶解したもの20μLと、1mg/mLのNADPHを含有する5mmol/mLのトリス塩酸緩衝液(pH7.13)825μLとを混合した。
【0135】
さらに、各試料のエタノール水溶液80μL及びS−9(ラット肝臓ホモジネート,オリエンタル酵母工業社製)75μLを加えて混合し、37℃にて30分間インキュベートした。その後、塩化メチレン1mLを加えて反応を停止させた。これを遠心分離し(1600×g,10分間)、塩化メチレン層を分取して、分取した塩化メチレン層について、下記の条件にてガスクロマトグラフィー分析をし、3α−アンドロスタンジオール、5α−ジヒドロテストステロン(5α−DHT)及びテストステロンの濃度(μg/mL)を定量した。コントロールとして、試料溶液の代わりに試料溶媒を同量(80μL)用いて同様に処理し、ガスクロマトグラフィー分析をした。
【0136】
<ガスクロマトグラフィー条件>
使用装置:Shimadzu GC-7A(島津製作所社製)
カラム:DB−1701(内径:0.53mm,長さ:30m,膜厚:1.0μm,J&W Scientific社製)
カラム温度:240℃
注入口温度:300℃
検出器:FID
試料注入量:1μL
スプリット比:1:2
キャリアガス:窒素ガス
キャリアガス流速:3mL/min
【0137】
3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT及びテストステロンの濃度の定量は、下記の方法により行った。
3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT及びテストステロンの標準品を塩化メチレンに溶解し、当該溶液についてガスクロマトグラフィー分析をし、これらの化合物の濃度(μg/mL)及びピーク面積から、ピーク面積と化合物の濃度との対応関係を予め求めておいた。そして、テストステロンとS−9との反応後の3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT及びテストステロンそれぞれのピーク面積あたりの濃度を、予め求めておいた対応関係を利用して、次式(1)に基づいて求めた。
【0138】
A=B×C/D・・・(1)
式中、Aは「3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT又はテストステロンの濃度(μg/mL)」を表し、Bは「3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT又はテストステロンのピーク面積」を表し、Cは「標準品の濃度(μg/mL)」を表し、Dは「標準品のピーク面積」を表す。
【0139】
式(1)に基づいて算出された化合物濃度を用いて、次式(2)に基づき、変換率(テストステロン5α−レダクターゼによりテストステロンが還元されて生成した3α−アンドロスタンジオール及び5α−DHTの濃度と、テストステロンの初期濃度との濃度比)を算出した。
【0140】
変換率=(E+F)/(E+F+G)・・・(2)
式中、Eは「3α−アンドロスタンジオールの濃度(μg/mL)」を表し、Fは「5α−DHTの濃度(μg/mL)」を表し、Gは「テストステロンの濃度(μg/mL)」を表す。
【0141】
式(2)に基づいて算出された変換率を用いて、次式(3)に基づき、テストステロン5α−レダクターゼ阻害率(%)を算出した。
阻害率(%)=(1−H/I)×100・・・(3)
式中、Hは「試料添加時の変換率」を表し、Iは「コントロールの変換率」を表す。
【0142】
試料溶液の濃度を段階的に減少させて、各濃度におけるテストステロン5α−レダクターゼ阻害率を算出し、その結果から内挿法により、テストステロン5α−レダクターゼ阻害率が50%になる試料濃度IC50(μg/mL)を求めた。
結果を表7に示す。
【0143】
[表7]
試 料 IC50(μg/mL)
試料1 2122
試料2 84.3
【0144】
表7に示すように、フロリジン(試料1)及びフロレチン(試料2)は、優れたテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用を有することが確認された。また、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用の程度は、フロリジン及びフロレチンの濃度によって調節できることが確認された。
【0145】
〔試験例10〕アンドロゲン受容体結合阻害作用試験
製造例1及び製造例2で得られた各試料(1,2)について、以下のようにしてアンドロゲン受容体結合阻害作用を試験した。
【0146】
マウス自然発生乳癌(シオノギ癌;SC115)よりクローニングされたアンドロゲン依存性マウス乳癌細胞(SC−3細胞)を、2%DCC−FBS及び10−8mol/Lのテストステロンを含有するMEM培地(以下、MEM−2という。)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/μLの細胞密度になるようにMEM−2培地で希釈し、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、37℃、5%CO−95%airの条件下で培養した。24時間後、試料溶液(試料濃度:50μg/mL)及び1.0×10−9mol/LのDHTを添加した0.5%BSA含有HamF12+MEM培地(以下、HMB培地という。)に培地を交換して48時間培養した。その後、培地を0.97mmol/LのMTTを含むMEM−2培地に交換し、2時間培養後、培地をイソプロパノールに交換して細胞内に生成したブルーホルマザンを抽出した。溶出したブルーホルマザンを含有するイソプロパノールについて、ブルーホルマザンの吸収極大点がある570nmの吸光度を測定した。
【0147】
なお、付着細胞の影響を補正するため、同時に650nmの吸光度も測定し、両吸光度の差をもってブルーホルマザンの生成量に比例する値とした(下記結合阻害率の計算式における吸光度はこの補正済み吸光度である)。上記と並行して、試料単独でSC−3細胞に及ぼす影響をみるため、HMB培地にDHTを添加せず試料のみを添加して、同様の培養と測定とを行った。さらに、コントロールとして、試料及びDHTを添加しないHMB培地で培養した場合、並びに試料を添加せずDHTのみを添加したHMB培地で培養した場合についても同様の測定を行った。測定結果より、アンドロゲン受容体結合阻害率(%)を下記式により算出した。
【0148】
アンドロゲン受容体結合阻害率(%)={1−(A−B)/(C−D)}×100
式中、Aは「DHT添加・試料添加の場合の吸光度」を表し、Bは「DHT無添加・試料添加の場合の吸光度」を表し、Cは「DHT添加・試料無添加の場合の吸光度」を表し、Dは「DHT無添加・試料無添加の場合の吸光度」を表す。
結果を表8に示す。
【0149】
[表8]
試 料 アンドロゲン受容体結合阻害率(%)
試料1 48.0
試料2 91.1
【0150】
表8に示すように、フロリジン(試料1)及びフロレチン(試料2)は、優れたアンドロゲン受容体結合阻害作用を有することが確認された。
【0151】
〔試験例11〕毛乳頭細胞増殖作用試験
製造例1で得られた試料1について、以下のようにして毛乳頭細胞増殖促進作用を試験した。
【0152】
正常ヒト頭髪毛乳頭細胞を、2%牛胎児血清(FBS)及び増殖添加剤を含有した毛乳頭細胞増殖培地(Cell Application Inc.製)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、10%FBS含有DMEM培地を用いて1.0×10cells/mLの細胞密度に希釈した後、コラーゲンコートした96ウェルプレートに1ウェルあたり200μLずつ播種し、3日間培養した。培養後、培地を抜き、無血清DMEMに溶解した試料溶液(試料濃度:1.56μg/mL)を各ウェルに200μLずつ添加し、さらに4日間培養した。
【0153】
毛乳頭細胞増殖促進作用は、MTTアッセイを用いて測定した。培養終了後、培地を除き、無血清DMEMに溶解したMTT(終濃度0.4mg/mL)を、各ウェルに100μLずつ添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2−プロパノール100μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。なお、コントロールとして、試料溶液の代わりに無血清DMEMを添加した場合についても同様の測定を行った。得られた結果から、下記計算式に基づき、毛乳頭細胞増殖促進率(%)を算出した。
【0154】
毛乳頭細胞増殖促進率(%)=A/B×100
なお、式中、Aは「試料添加時の吸光度」を表し、Bは「試料無添加時の吸光度」を表す。
【0155】
上記式により算出した結果、フロリジン(試料1)の毛乳頭細胞増殖促進率は、113.6±2.7%であり、フロリジン(試料1)は、優れた毛乳頭細胞増殖促進作用を有することが確認された。
【0156】
〔配合例1〕
下記組成の乳液を常法により製造した。
フロリジン(製造例1) 0.1g
ホホバオイル 4.0g
オリーブオイル 2.0g
スクワラン 2.0g
セタノール 2.0g
モノステアリン酸グリセリル 2.0g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.5g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.0g
黄杞エキス 0.1g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
イチョウ葉エキス 0.1g
コンキオリン 0.1g
オウバクエキス 0.1g
カミツレエキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0157】
〔配合例2〕
下記組成の化粧水を常法により製造した。
フロレチン(製造例2) 0.1g
グリセリン 3.0g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 0.5g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
クエン酸 0.1g
クエン酸ソーダ 0.1g
油溶性甘草エキス 0.1g
海藻エキス 0.1g
キシロビオースミクスチャー 0.5g
クジンエキス 0.1g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0158】
〔配合例3〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
フロリジン(製造例1) 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
セタノール 3.0g
スクワラン 10.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
1,3−ブチレングリコール 6.0g
酵母抽出液 0.1g
シソ抽出液 0.1g
シナノキ抽出液 0.1g
ジユ抽出液 0.1g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0159】
〔配合例4〕
下記組成のパックを常法により製造した。
フロレチン(製造例2) 0.2g
ポリビニルアルコール 15.0g
ポリエチレングリコール 3.0g
プロピレングリコール 7.0g
エタノール 10.0g
セージ抽出液 0.1g
トウキ抽出液 0.1g
ニンジン抽出液 0.1g
パラオキシ安息香酸エチル 0.05g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0160】
〔配合例5〕
下記組成の養毛ヘアトニックを常法により製造した。
フロリジン(製造例1) 0.2g
塩酸ピリドキシン 0.1g
レゾルシン 0.01g
D−パントテニルアルコール 0.1g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
L−メントール 0.05g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
ニンジンエキス 0.5g
エタノール 25.0g
香料 0.01g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0161】
〔配合例6〕
下記組成のシャンプー(クリームシャンプー)を常法により製造した。
フロレチン(製造例2) 0.2g
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム 30.0g
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム 20.0g
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 6.0g
ヤシ油脂肪酸モジエタノールアミド 4.0g
ジステアリン酸エチレングリコール 2.0g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
ムクロジエキス 0.2g
黄杞エキス 0.5g
オウバクエキス 0.3g
ローズマリーエキス 0.5g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
香料 0.01g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0162】
〔配合例7〕
下記組成のリンスを常法により製造した。
フロリジン(製造例1) 0.2g
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 1.5g
ポリオキシエチレンセチルエーテル 1.0g
セチルアルコール 2.0g
オクチルドデカノール 1.0g
カチオン化セルロース 0.5g
プロピレングリコール 5.0g
ムクロジエキス 0.2g
黄杞エキス 0.5g
オウバクエキス 0.3g
ローズマリーエキス 0.5g
香料 3.0g
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の抗炎症剤は、各種炎症性皮膚疾患の予防、治療又は改善に、本発明の抗老化剤は、皮膚の老化症状の予防又は改善に、本発明の育毛剤は、男性型脱毛症の予防又は改善に、本発明の抗男性ホルモン剤は、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビなど)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等の予防、治療又は改善に、本発明の皮膚化粧料は、各種炎症性皮膚疾患、脂漏症、座瘡(ニキビなど)等の予防、治療又は改善に、本発明の頭髪化粧料は、男性型脱毛症等の予防又は改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロリジン及び/又はフロレチンを有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤。
【請求項2】
前記フロリジン及びフロレチンが、TNF−α産生抑制作用、ヒアルロニダーゼ阻害作用、ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用及び血小板凝集抑制作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有することを特徴とする請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
フロリジン及び/又はフロレチンを有効成分として含有することを特徴とする抗老化剤。
【請求項4】
前記フロリジンが、エストロゲン様作用及び/又はトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を有し、
前記フロレチンが、エストロゲン様作用、IV型コラーゲン産生促進作用、紫外線照射によるダメージ回復作用及びトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有することを特徴とする請求項3に記載の抗老化剤。
【請求項5】
フロリジン及び/又はフロレチンを有効成分として含有することを特徴とする育毛剤。
【請求項6】
前記フロリジンが、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有し、
前記フロレチンが、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を有することを特徴とする請求項5に記載の育毛剤。
【請求項7】
フロリジン及び/又はフロレチンを有効成分として含有することを特徴とする抗男性ホルモン剤。
【請求項8】
前記フロリジン及びフロレチンが、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を有することを特徴とする請求項7に記載の抗男性ホルモン剤。
【請求項9】
フロリジン及び/又はフロレチンを配合したことを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項10】
フロリジン及び/又はフロレチンを配合したことを特徴とする頭髪化粧料。

【公開番号】特開2007−106712(P2007−106712A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300388(P2005−300388)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】