説明

皮膚化粧料

【課題】優れた皮膚化粧料を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、焙煎米糠抽出物を含む皮膚化粧料が提供される。本発明の皮膚化粧料は、特に皮膚における色素沈着の抑制に優れた美白効果を発揮し得る。皮膚への刺激が少なく、安全性の面でも優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
玄米の精白(すなわち精米)時に得られる米糠は、種々の分野で有効利用されている。化粧料の分野における米糠の有効利用については、例えば、特許文献1から13に記載されている。より詳細には、化粧料への応用に関して、米糠を中性媒体で抽出してなる抽出物(特許文献1および2);米糠を溶媒で抽出した抽出物をさらに酵素で処理してなる分解物(特許文献3);米糠を酸性水性媒体で抽出して得られる抽出物(特許文献4);例えば特許文献13に記載の方法により、米糠又は玄米を、所望によりpHを酸性又はアルカリ性に調整した水、あるいは水と水混和性溶剤との混合溶剤などで抽出し、必要により蛋白分解酵素処理を施して得られるもの(特許文献5および12);特許文献13に記載の方法により米糠抽出物を加水分解処理して得られるもの(特許文献6);生糠、脱脂米糠または発酵米糠からの極性溶媒による抽出物(特許文献7);低温焙煎し、篩別された米糠(特許文献8);微粉状の米糠(特許文献9);米糠を水又は1,3−ブチレングリコール中で温浸し、濾別して得られた抽出液(特許文献10);米糠抽出物(特許文献11);ならびに米および/または米糠のアルカリ抽出液を2種以上の酵素で処理して得られた分解物(特許文献13)が報告されている。
【0003】
また、米糠から米油(または「米糠油」とも呼ばれる)を除去して得られる脱脂米糠を焙煎したもの(本明細書中で「焙煎米糠」ともいう)の抽出物(本明細書中で「焙煎米糠抽出物」ともいう)の有効性について報告されている。焙煎米糠抽出物は、食品添加剤として公知であり、既存添加物として認められている(非特許文献1)。焙煎米糠抽出物は、畜肉および魚肉の嫌味臭(非特許文献1)、ならびにトリメチルアミン(魚臭)、アンモニア、ジアリルジサルファイド(ニンニク臭)およびメチルメルカプタン(玉ねぎの腐った臭い)に起因する嫌味臭(非特許文献2)を緩和または抑制することが公知である。特許文献14では、焙煎米糠抽出物の消臭効果を利用した口腔用組成物が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−304648号公報
【特許文献2】特開2004−83594号公報
【特許文献3】特開2000−119160号公報
【特許文献4】特開2000−264834号公報
【特許文献5】特開2000−351722号公報
【特許文献6】特開2002−128654号公報
【特許文献7】特開2002−255784号公報
【特許文献8】特開2002−265349号公報
【特許文献9】特開2004−131458号公報
【特許文献10】特開2005−15450号公報
【特許文献11】特開2005−139070号公報
【特許文献12】特開2005−154375号公報
【特許文献13】特開平5−221844号公報
【特許文献14】特開2006−22053号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「既存添加物と天然香料、食品素材 天然物便覧」 第15版、第318頁、株式会社 食品と科学社、2003年11月30日発行
【非特許文献2】奥野製薬工業株式会社 食品研究部 技術資料、2003年4月1日公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、焙煎米糠抽出物を含む皮膚化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、食品添加剤として公知であった焙煎米糠抽出物の皮膚化粧料への利用が可能になる。焙煎米糠抽出物を含む皮膚化粧料は、特に皮膚における色素沈着の抑制に優れた美白効果を発揮し得る。皮膚への刺激が少なく、安全性の面でも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】水、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物についての本試験の経過日数毎の合計評価点を棒グラフとして示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(焙煎米糠抽出物)
焙煎米糠抽出物は、食品添加剤として公知であり、既存添加物として認められている(非特許文献1)。非特許文献1には、焙煎米糠抽出物の基原は、イネ科イネの米糠を脱脂し、焙煎したものを、熱時水で抽出後、温時エタノールでタンパク質を除去したものであり、成分としてマルトールを含む旨が記載されている。以下の実施例で使用した焙煎米糠抽出物は、非特許文献1に定義される焙煎米糠抽出物の一例であり得るが、本発明において用いられる焙煎米糠抽出物の製法は、得られる産物が所望の効果(特に、皮膚における色素沈着抑制)を発揮する限り、以下に説明するように限定はない。「ばい煎コメヌカ抽出物」(添加物表示)として入手可能な食品添加物(例えば、奥野製薬工業株式会社製の製品:商品名「デスミーR」、「デスミーRパウダー」)もまた、本発明に用いられ得る。
【0011】
「焙煎米糠」は、米糠から米油を除去して得られる脱脂米糠を焙煎することによって調製される。米糠としては、精米時に廃棄される皮および胚芽部を利用できる。米糠は、市販によっても入手可能である。米糠からの米油の抽出による脱脂米糠の製造は、当業者が通常用いる任意の方法が用いられ得、そのような方法としては、圧搾抽出および溶剤抽出(例えば、ヘキサンを用いる)が公知である。脱脂米糠は、米糠からの米油抽出後の残渣であってもよい。脱脂米糠もまた、市販により入手可能である。「焙煎」とは、容器に入れられた米糠に水分を加えずに、該容器の外部から高い温度に加熱する処理をいう。焙煎は、例えば、120〜210℃、好ましくは130〜190℃、より好ましくは約170℃の温度にて、例えば、20〜90分間、好ましくは30〜60分間、より好ましくは約40分間かけて行われ得るが、特にこれらの条件に限定されない。
【0012】
「焙煎米糠抽出物」は、焙煎米糠を、水または有機溶剤、あるいは水および有機溶剤の組み合わせにて抽出することによって調製され得る。水としては、水道水、蒸留水、純水などが挙げられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、1,3−ブチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。水および有機溶剤の組み合わせによる抽出は、水と有機溶剤(有機溶剤を高濃度(約50v/v%以上)で含む水溶液であってもよい)とで別個に順次抽出するか(例えば、水による抽出後に有機溶剤による抽出を行う)、または水と有機溶剤との混合溶剤(すなわち、有機溶剤の水溶液)によって抽出するかのいずれであってもよい。
【0013】
焙煎米糠抽出物の調製方法を、以下に例を挙げてさらに説明するが、これらの例に限定されない。なお、本明細書を通して、材料に関して特に説明がなければ、当業者が通常入手可能な材料が用いられ得、処理または操作に関して特に説明がなければ、当業者が通常用いる手法または装置が用いられ得る。
【0014】
一例としては、焙煎米糠を熱水による抽出に供し、濾過して得られた抽出物を濃縮した後、粉末化し(例えばスプレードライにて)、次いで、この粉末をアルコール(好ましくは、エタノール)による抽出に供し、濾過して得られた抽出物を濃縮し、最終抽出物を得る。熱水抽出は、例えば、80℃〜100℃、好ましくは90℃〜99℃、より好ましくは約98℃の温度にて、例えば、5分間以上、好ましくは90分間以上、より好ましくは120分間以上かけて行われ得る。アルコール抽出には、その取り扱い面を考慮して、高濃度のアルコールを含む水溶液、例えば、50〜99.5v/v%、好ましくは70〜95v/v%、より好ましくは約90v/v%のアルコールを含む水溶液を抽出溶剤として用い得る。抽出は、用いる抽出溶剤の沸点を考慮して、例えば、50〜78℃、好ましくは60〜70℃、より好ましくは約65℃の温度にて、例えば、60分間以上、好ましくは90分間以上、より好ましくは120分間以上かけて行われ得る。
【0015】
別の例としては、焙煎米糠に、アルコールおよび水を含有する溶液(アルコール水溶液)による抽出に供し、濾過して得られた抽出物を濃縮に供し得る。アルコール水溶液は、好ましくはエタノール水溶液である。抽出溶剤として用いるアルコール水溶液のアルコール濃度は、好ましくは30〜70v/v%、より好ましくは40〜60v/v%、なおより好ましくは約50v/v%である。抽出は、用いる抽出溶剤の沸点を考慮して、例えば、60℃〜80℃、好ましくは65℃〜75℃、より好ましくは約70℃の温度にて、例えば、5分間以上、好ましくは90分間以上、より好ましくは約120分間以上かけて行われ得る。
【0016】
焙煎米糠抽出物は、好ましくは、脱脂米糠を約170℃にて約40分間かけて焙煎した焙煎米糠を、熱水(約98℃)にて約120分間以上かけて抽出し、濾過して得られた抽出物を濃縮した後、スプレードライにて粉末化し、次いでこの粉末を約90v/v%のエタノール水溶液(約65℃)にて約120分間以上かけて抽出し、濾過して得られた抽出物を濃縮して調製され得る。あるいは、焙煎米糠抽出物は、上記焙煎米糠を約50v/v%のエタノール水溶液(約70℃)にて約120分間以上かけて抽出し、濾過して得られた抽出物を濃縮することによっても調製され得る。
【0017】
(皮膚化粧料)
本発明の皮膚化粧料は焙煎米糠抽出物を含む。焙煎米糠抽出物は、粉末、顆粒、液、乳化液、ペーストなどの任意の形態で利用できる。例えば、上述のような手順に基づいて生成された最終生成物などの液状形態をそのままもしくは必要に応じて溶媒(例えば、水、油脂、アルコールなど)で希釈して用いても、または粉末形態を溶媒(例えば、水、アルコールなど)に溶解または懸濁または乳化して用いてもよい。粉末形態は、上述のような手順に基づいて生成された最終の液状生成物を、スプレードライまたは凍結乾燥などで粉末にまで乾燥することで調製され得る。例えば、液状の焙煎米糠抽出物を粉末基材であるデキストリンと共に水に溶解し、スプレードライにて粉末化し得る。
【0018】
皮膚化粧料中の焙煎米糠抽出物の含有量は、目的とする皮膚化粧料の種類によって異なり得るが、焙煎米糠抽出物の所望の効果(特に色素沈着抑制)を発揮するのに適した量であり得、一般に1〜90質量%、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは20〜30質量%であり得る。
【0019】
皮膚化粧料は、焙煎米糠抽出物以外に、通常化粧料や医薬品に用いられる成分、例えば、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、粘剤、油剤、粉体(顔料、色素、樹脂など)、防腐剤、酸化防止剤、香料、塩類、溶媒、キレート剤、パール化剤、中和剤、保湿剤、乳化剤、pH調整剤、昆虫忌避剤、酵素などを、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜含有し得る。
【0020】
本発明の皮膚化粧料は、常法に従って製造することができる。本発明の皮膚化粧料は、一般の化粧料に限定されるものではなく、医薬部外品、指定医薬部外品、外用医薬品などの皮膚外用剤もまた包含し得る。その剤形は、目的に応じて任意に選択することができ、例えば、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤などであり得る。具体的には、乳液、クリーム、ローション、エッセンス、パック、洗顔料などの基礎化粧料、口紅、ファンデーション、リキッドファンデーション、メイクアッププレスパウダーなどのメイクアップ化粧料、洗顔料、ボディーシャンプー、石けんなどの清浄用化粧料、浴剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
(実施例1:皮膚への塗布試験)
(脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物の調製)
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物を以下に述べるように調製した。精米時に得られた米糠から米油を当業者が通常用いる手順に従ってヘキサンで抽出し、脱脂米糠を得た。さらに、その脱脂米糠を約170℃にて40分間かけて焙煎し、焙煎米糠を得た。焙煎米糠を98℃の熱水にて120分間かけて抽出し、150メッシュのフィルターを通して濾過して得た抽出物をグローバル濃縮機(株式会社日阪製作所製)にて濃縮し、次いでスプレードライにて粉末化した。得られた粉末を65℃の90v/v%エタノール水溶液にて2時間かけて抽出し、同様に濾過して得た抽出物を同様に濃縮することで、固形分が70w/v%の液状物を得た。これを焙煎米糠抽出物として、以下の試験に用いた。脱脂米糠抽出物は、焙煎米糠に代えて脱脂米糠を抽出の出発材料に用いたこと以外は、上記と同様にして調製した。
【0023】
(試験方法)
<予備試験>
無作為に抽出した年齢20〜40歳の男性10人および女性10人を被験者とし、その上腕部側部に1×1cmの紫外線照射部を3箇所ずつ、両腕に設定した。紫外線照射部の周辺はアルミ箔にて覆った。紫外線(UVB)を東芝ライテック株式会社製健康線用蛍光ランプFL20-SEによって30cm離れた位置から紫外線照射部に照射し、紫外線照射部における照射してから24時間後の紅斑の出現を目視にて観察した。各被験者につき、肉眼的に最も軽い紅斑が出現するのに必要であった紫外線量を求め、これを最小紅班量(MED)とした。
【0024】
<本試験>
上記予備試験にて予め求めた各被験者のMEDに相当する紫外線量を、1日1回(朝)、5日間連続して、予備試験と同様にして各被験者の紫外線照射部に照射した。さらに、紫外線照射開始日から20日間連続して、紫外線照射直後(照射処理終了後(6日目以降)は照射を行っていたのと同じ時;すなわち朝)とその8時間後との1日2回、上記3箇所の紫外線照射部にそれぞれ、水、脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物を50mg塗布し、色素沈着の状態を目視にて観察した。
【0025】
<評価方法>
被験者の色素沈着状態を5、10および20日目に観察し、水塗布と比較して下記の通りに評価した。
【0026】
評価の点および基準:
0:色素沈着がほとんど観察されない;
1:水塗布よりも色素沈着が少ない;
2:水塗布よりも色素沈着がやや少ない;
3:水塗布と同程度の色素沈着が観察される。
【0027】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物の塗布について各被験者の評価点を合計した。水の塗布の合計は60点であり、点数が低いほど色素沈着の程度が少ない。
【0028】
(試験結果)
本試験の評価結果を以下の表1および図1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
図1は、水、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物についての本試験の経過日数毎の合計評価点を棒グラフとして示した図である。縦軸は、合計評価点(点)を表し、横軸は、経過日数(5日、10日および20日)を表す。各経過日数において、向かって左から順に、水、脱脂米糠抽出物、そして焙煎米糠抽出物を表す。
【0031】
表1および図1より、脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物の皮膚への塗布により、紫外線照射開始後5日目で、水の塗布と比較して色素沈着が少ないことが観察された。日数が経過するほど、脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物の皮膚への塗布により、水の塗布と比較して色素沈着の程度が低くなり、色素沈着の抑制効果が増大していた。さらに、色素沈着は、脱脂米糠抽出物よりも焙煎米糠抽出物によって、より大きく抑制された。
【0032】
以上のように、焙煎米糠抽出物を紫外線に曝された皮膚に適用すると、皮膚における色素沈着抑制の効果が発揮されることが見出された。さらに、その効果が、脱脂米糠抽出物よりも優れることも分かった。また、本試験中、焙煎米糠抽出物の塗布により、皮膚に異常を生じた被験者はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
焙煎米糠抽出物は、皮膚に適用することにより、皮膚における色素沈着を抑制する効果を発揮し得る。本発明によれば、食品添加物としての使用が公知であった焙煎米糠抽出物の化粧料への利用が可能になる。本発明の焙煎米糠抽出物を含む皮膚化粧料によれば、その皮膚への適用により、シミ、ソバカスなどの発現が抑制され、白く美しい肌が維持され得る。また、皮膚への刺激が少なく、安全性が高い化粧料が得られ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎米糠抽出物を含む皮膚化粧料。

【図1】
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