説明

皮膚外用剤およびその製造方法

【課題】真珠層を含有する貝殻に含まれている酸可溶性タンパク質を含む皮膚外用剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】真珠層を含有する貝殻をキレート剤で脱灰して得られる物質を酸で抽出して得られる酸可溶性タンパク質またはその加水分解物を配合する皮膚外用剤であり、特に、上記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸塩であり、上記酸が酢酸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚外用剤およびその製造方法に関し、特に真珠層を含有する貝殻に含まれる酸可溶性物質を配合してなる皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品原料として、アコヤ貝などの貝殻や真珠を粉砕して塩酸、硝酸などの酸を用いて脱灰処理した後、コンキオリンを主成分とする不溶物を粉砕した物質が知られている(特許文献1)。
従来、真珠層のタンパク質は、この酸不溶性のコンキオリンを化粧品原料として利用されてきた。
また、粒度50〜200μmに粉砕した真珠層をグアニジン塩酸塩で抽出したタンパク質成分を医薬目的の使用、およびそれらを含む組成物に利用する方法が知られている(特許文献2)。
【0003】
しかしながら、アコヤ貝などの貝殻を酸で脱灰すると、酸に可溶性の真珠層タンパク質は脱灰のとき廃棄されてしまうという問題がある。
このため、真珠層の酸可溶性タンパク質は、皮膚外用剤の有効成分として利用されていないという問題がある。
【特許文献1】特開昭62−298507号公報
【特許文献2】特表2000−504314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、真珠層を含有する貝殻に含まれている酸可溶性タンパク質を含む皮膚外用剤およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
アコヤ貝真珠層中のタンパク質はカルシウムを結合・運搬し貝殻を形成する役割を担っている。一方、カルシウムは皮膚の角質層の細胞間結合を強化し、滑らかな皮膚を形成する役割をもつ。真珠層タンパク質のカルシウム運搬能を利用して、滑らかな皮膚形成に役立つ基礎化粧品素材の開発の可能性を検討した。その結果、エチレンジアミン四酢酸塩などのキレート剤で脱灰して得られる物質を酸処理することにより、真珠層の酸可溶性タンパク質を取り出せることが分かった。
【0006】
本発明は、主に上記知見に基づくもので、本発明の皮膚外用剤は、真珠層の酸可溶性タンパク質またはその加水分解物を配合したことを特徴とする。
また、上記酸可溶性タンパク質は、真珠層を含有する貝殻をキレート剤で脱灰して得られる物質を酸で抽出して得られる酸可溶性成分であることを特徴とする。
特に、上記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸塩であり、上記酸が酢酸であることを特徴とする。
【0007】
本発明の皮膚外用剤の製造方法は、真珠層を含有する貝殻、真珠断片、または真珠層を含有する貝殻断片を水に分散させる工程と、上記分散された貝殻または断片に含まれるカルシウムイオンに対して等モル以上のキレート剤を加えて脱灰する工程と、上記脱灰により生成する物質を酸に溶解する工程と、酸に溶解する物質を抽出する工程と、抽出された物質またはその加水分解物を配合する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の皮膚外用剤は、従来廃棄されていた真珠層の酸可溶性タンパク質またはその加水分解物を配合するので、滑らかな皮膚形成に役立つ皮膚外用剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用できる真珠層は、真珠層を含有する貝殻、真珠断片、または真珠層を含有する貝殻断片から得られる。
真珠断片とは、真珠を割り核を取り除いた破砕片である。真珠断片の製造方法は粉砕するのではなく真珠をそのまままたは複数個の断片に割ることにより得られる。真珠としては、アコヤ貝、イケチョウ貝などの真珠貝より得られる球体真珠、マベ貝より得られるマベ半円真珠殻などが挙げられる。
【0010】
本発明で使用できる真珠層を含有する貝殻とは、アコヤ貝(Pictada martensii)、イガイ(Mytilus coruscum)、イケチョウガイ(Hyriopsis schlegelii)、カラスガイ(Cristaria plicata)等ウグイスガイ科、イガイ科、イシガイ科等の真珠を生産できる貝類が好適であるが、真珠層を含有する貝類であれば、他の貝類の貝殻も自由に使用できる。特に好適なものは、真珠養殖などで多量に得られるアコヤ貝(真珠貝)である。
【0011】
上記真珠断片または貝殻断片等に含まれる酸可溶性タンパク質またはその加水分解物は、(a)キレート剤で脱灰して得られる物質を酸で抽出する方法、(b)直接、酸により抽出する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0012】
(a)キレート剤で脱灰して得られる物質を酸で抽出する方法:
この方法は、真珠層を含有する貝殻等をキレート剤で脱灰して得られる物質を酸で抽出する方法である。
脱灰処理に使用できるキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジフォスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジフォスホン酸四ナトリウム塩、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等のキレート剤であれば用いることができる。
これらの中でエチレンジアミン四酢酸塩が、他のキレート剤より効率的に脱灰処理を行なえるので好ましい。エチレンジアミン四酢酸塩としては、ニナトリウム塩、三ナトリウム塩、四ナトリウム塩等いずれも使用できる。
【0013】
貝殻は、真珠層と稜柱層とが層状になり、真珠層は炭酸カルシウムとタンパク質層が層状になっている。この真珠層を形成する炭酸カルシウム層を脱灰処理によりタンパク質層のシート状物質が得られる。
アコヤ貝の貝殻を原料とする脱灰処理方法について以下説明する。
(1)必要により、アコヤ貝貝殻を破砕して貝殻断片とする。
アコヤ貝貝殻は破砕する前に回転バレル研磨機、振動バレル研磨機等を用いて稜柱層を取り除くことが好ましい。稜柱層を取り除くことにより脱灰時間を短くすることができる。
また、破砕する場合、その方法は、回転バレル研磨機、振動バレル研磨機等で稜柱層を取り除く工程でその研磨強度を調整することによって行なうか、別途、ハンマーミル等で行なう。
【0014】
(2)アコヤ貝貝殻断片を水に分散させて、この断片に含まれるカルシウムイオンに対して等モル以上のエチレンジアミン四酢酸塩を加える。
アコヤ貝貝殻断片に含まれるタンパク質(約2重量%)を考慮して、また、貝殻断片が炭酸カルシウムとして、カルシウムイオン量を算出する。エチレンジアミン四酢酸塩は少なくとも1個のカルシウムイオンとキレートを形成するので、エチレンジアミン四酢酸塩はカルシウムイオンに対して等モル以上使用する。好ましくは等モル〜5倍等モル量である。
また、エチレンジアミン四酢酸塩は水に溶解し難いため、水に分散されているアコヤ貝貝殻断片の量が多い場合、あるいはエチレンジアミン四酢酸塩の濃度を高める場合には、アコヤ貝貝殻断片を分散させている水のpHを、水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加することで、pH7.0〜9.0に調整することが好ましい。
分散液の条件として、分散されるアコヤ貝貝殻断片の濃度は、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。0.1重量%未満であると真珠タンパク質シートの生産性が劣り、10重量%をこえると脱灰処理に長い時間がかかる。
【0015】
(3)上記分散液を、好ましくは穏やかな条件で撹拌する。ここで穏やかな条件とは、アコヤ貝貝殻断片の脱灰処理により炭酸カルシウムが除去されて真珠タンパク質シートが生成するが、この生成する真珠タンパク質シートと、分散液に残存する貝殻断片とが相互に強く接触しない条件をいう。穏やかな条件により高い収率でタンパク質シートを得ることができる。具体的には、アコヤ貝貝殻断片を袋網に入れて撹拌する、回転ドラムでゆっくり回転させる方法等がある。
また、撹拌時の条件としては、分散液の温度は0〜40℃であり、撹拌時間は数時間〜20日が好ましい。
上記条件を維持することにより、生成した真珠タンパク質シートは、そのシート構造を破壊しないで製造できる。
エチレンジアミン四酢酸塩で脱灰されたタンパク質シートは、シート構造を維持しているので、エチレンジアミン四酢酸塩不溶性分画部分は勿論可溶性分画部分を有していると考えられる。
生成したタンパク質シートを水洗して乾燥することにより、タンパク質シートが得られる。このタンパク質シートは略同一のタンパク質構造を有する複数枚のシートの積層体として得られる。1枚のシートの厚さは約0.002μmである。
【0016】
上記タンパク質シートを酸で抽出することで酸可溶性タンパク質が得られる。具体的には、タンパク質シートに酸を加えてホモジナイズし、この上清を水に透析し、更にpHを中性に調整して抽出液とした後、この抽出液を凍結乾燥することにより、酸可溶性タンパク質が得られる。上記抽出用の酸としては、酢酸、乳酸、コハク酸、塩酸等を挙げることができる。
また、得られた酸可溶性タンパク質を酸もしくはアルカリ、または酵素で加水分解することにより酸可溶性タンパク質の加水分解物を得ることができる。
【0017】
(b)直接、酸により抽出する方法:
(1)上述した方法に準じて、アコヤ貝貝殻を破砕して貝殻細片とする。
アコヤ貝貝殻は破砕する前に回転バレル研磨機、振動バレル研磨機等を用いて稜柱層を取り除くことが好ましい。稜柱層を取り除くことにより真珠層に含まれるタンパク質の可溶化時間を短くすることができる。
また、破砕する場合、その方法は、回転バレル研磨機、振動バレル研磨機等で稜柱層を取り除く工程でその研磨強度を調整することによって行なうか、別途、ハンマーミル等で行なう。
(2)アコヤ貝貝殻の細片を水に分散させて、これに酸を加える。
加える酸としては、塩酸、酢酸、硫酸、硝酸等を挙げることができ、これらの酸は貝殻に含まれるカルシウム分を溶解すると共に、真珠層に含まれる酸可溶性タンパク質を溶解する。
(3)この溶液の上清を水に透析し、更にpHを中性に調整して抽出液とした後、この抽出液を凍結乾燥することにより、酸可溶性タンパク質が得られる。また、得られた酸可溶性タンパク質を酸もしくはアルカリ、または酵素で加水分解することにより酸可溶性タンパク質の加水分解物を得ることができる。
【0018】
本発明の皮膚外用剤は、通常の外用剤に配合される成分、例えば、油剤、粉体、精製水、高分子化合物、ゲル化剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、酸化防止剤、色素、防腐剤、香料、美容成分を適宜選択して用い、さらに上記酸可溶性タンパク質を配合する。
酸可溶性タンパク質の配合割合としては、皮膚外用剤全体に対して、0.0001〜10重量%で、好ましくは0.001〜5重量%である
【0019】
本発明の皮膚外用剤は、常法に従い、通常の皮膚外用剤として知られる種々の形態の基材に配合して調製することができる。外用剤の形態としては、特に限定されず、例えば、ローション類、乳液類、クリーム類、軟膏類、パック類等の任意の剤形を選択することができる。
【実施例】
【0020】
酸可溶性タンパク質の製造
アコヤ貝貝殻の稜柱層を、バレル研磨機を用いて取り除いた。稜柱層を取り除き真珠層が主成分となった貝殻100gを大きさ5000mlのマグネティクスターラー付き反応容器に収容し、水4000ml、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩500gを加えた。なお、アコヤ貝貝殻の断片は網目の粗さ12メッシュのナイロン製ネットに入れて反応容器に投入した。
マグネティクスターラーの回転速度を50rpmに設定して室温(平均約25℃)で反応容器内の内容物を10日間撹拌した。
【0021】
10日間撹拌後、シート状不溶物を純水で洗浄して真珠タンパク質シートを得た。
この真珠タンパク質シート10gを採取して、6.5M酢酸水溶液200mlを加えてホモジナイズした後、上清を水に透析してpHを中性に調整して抽出液とした。この抽出液を凍結乾燥して酸可溶性タンパク質を得た。なお、この酸可溶性タンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分析した。結果を図1に示す。図1はSDS−PAGEの結果を示す図である。
また、上記抽出液をイオン交換クロマトグラフィーを用いて、0〜1.0M NaClリニアグラジェントで精製した。イオン交換クロマトグラフィーの結果を図2に、また、フラクションNo.40〜51のSDS−PAGEの結果を分離した真珠層タンパク質として図3に示す。図3より、フラクションNo.40〜51の酸可溶性タンパク質はナクレインを含むと推定される。
【0022】
実施例1
上記製造例で得られた酸可溶性タンパク質を用いて、以下の配合で、常法に従って、ローションを得た。なお、実施例1および2において、配合量は重量部である。
オリーブ油 0.5
ポリオキシエチレン(20E.0)ソルビタンモノステアレート 2.0
ポリオキシエチレン(60E.0)硬化ヒマシ油 2.0
エタノール 10.0
1.0%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液 5.0
酸可溶性タンパク質 5.0
精製水 75.5
【0023】
実施例2
実施例2で用いた酸可溶性タンパク質を用いて、以下の配合で、常法に従って、クリームを得た。
スクワラン 20.0
オリーブ油 2.0
ミンク油 1.0
ホホバ油 5.0
ミツロウ 5.0
セトステアリルアルコール 2.0
グリセリンモノステアレート 1.0
ソルビタンモノステアレート 2.0
精製水 47.9
酸可溶性タンパク質 0.5
ポリオキシエチレン(20E.0)ソルビタンモノステアレート 2.0
ポリオキシエチレン(60E.0)硬化ヒマシ油 1.0
グリセリン 5.0
1.0%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液 5.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
【0024】
本発明の酸可溶性タンパク質の有効性を確認するために以下の官能試験を行なった。
選抜した官能パネラー3名の前腕内側部で、実施例1よび比較例1のローション、実施例2および比較例2のクリーム使用に伴う「しっとり感」、「肌の柔軟性」および「しっとり感の持続性」を官能試験で比較した結果をアンケートした。結果を表1に示す。
評価基準は、実施例1のローション、実施例2のクリームが非常によいが5、実施例1のローションと比較例1のローションと同程度が3、および実施例2のクリームと比較例2のクリームと同程度が3、比較例1のローション、比較例2のクリームが非常によいが1として、その中間を0.5刻みで評価点をつけてもらった。3人の平均点を以下の表1に示す。
なお、比較例1は実施例1で配合した酸可溶性タンパク質を水に代えたものであり、比較例2は実施例2で配合した酸可溶性タンパク質を水に代えたものである。
【0025】
【表1】

本願発明の酸可溶性タンパク質は、表1の効果があり、皮膚有効性がある。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、酸可溶性真珠層タンパク質を利用できる。そのため、真珠層に含まれるタンパク質のカルシウム運搬能を利用して、滑らかな皮膚形成に役立つ基礎化粧品素材の開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】上清のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図2】イオン交換クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【図3】フラクションNo.40〜51のSDS−PAGEの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真珠層の酸可溶性タンパク質またはその加水分解物を配合したことを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
前記酸可溶性タンパク質は、真珠層を含有する貝殻をキレート剤で脱灰して得られる物質を酸で抽出して得られる酸可溶性成分であることを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
前記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸塩であり、前記酸が酢酸であることを特徴とする請求項2記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
真珠層を含有する貝殻、真珠断片、または真珠層を含有する貝殻断片を水に分散する工程と、
前記分散された貝殻または断片に含まれるカルシウムイオンに対して等モル以上のキレート剤を加えて脱灰する工程と、
前記脱灰により生成する物質を酸に溶解する工程と、
酸に溶解する物質を抽出する工程と、
抽出された物質またはその加水分解物を配合する工程とを備えることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−95464(P2010−95464A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266816(P2008−266816)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000166959)御木本製薬株式会社 (66)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】