説明

皮膚外用剤の製造法およびその製造中間体

【課題】 4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニドの効率的な製造法。
【解決手段】 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートと4-tert-ブトキシフェノールを、イッテルビウム(III)トリフレート―三フッ化ホウ素ジエチル錯体の活性化剤の存在下で反応させて、中間体として4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドを収率良く得、次いで、ベンジル基の脱保護を行う、4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニドの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿効果に優れて、皮膚外用剤として利用するこが可能な4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシド(4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニド)の製造法およびその中間体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイドロキノン配糖体は、紫外線やストレスによって皮膚中でフリーラジカル(活性酸素)が発生する際に、メラノサイトが活性化され、メラノサイト内のチロシンが酵素チロシナーゼによってメラニンに変換され、シミ・ソバカスの原因となる酵素チロシナーゼの活性を低下させる効果を有することが知られている(例えば、非特許文献1)。また、ハイドロキノン配糖体は、その保水性の高さから皮膚外用剤としての利用もできる(例えば、特許文献1)。ハイドロキノン配糖体は、天然由来のものを抽出・精製して利用され、最近では酵素を用いた製造法も知られている(例えば、非特許文献2)。反面、化学合成によるハイドロキノン配糖体の製造は殆んど知られていない。フェノール性水酸基の反応性の乏しさ、及び製造過程におけるハイドロキノンの安定性等に問題があり、ハイドロキノン配糖体の化学的な製造は困難であった。
【非特許文献1】K. Sugimotoら、「Syntheses of a-Arbutin-a-Glycosides and Their Inhibotory Effect on Human Tyrosinase」、Journal of Bioscience and Bioengineering, 2005年, 99巻, 272ページ.
【非特許文献2】J. Kurosuら、「Enzymatic synthesis of a-arbutin by a-anomer-selective glucosylation of hydroquinone using lyophilized cells of Xanthomonas campestris WU-9701」Journal of Bioscience and Bioengineering, 2002年, 93巻, 328ページ.
【特許文献1】徳江ら、「皮膚外用剤」、公開特許公報、特開平10-279422
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニドをグリコシル化によって、効率的に化学合成する手法の確立である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートと4-tert-ブトキシフェノールを種々の活性化条件で検討したところ、トリフレート塩―三フッ化ホウ素ジエチル錯体の活性化剤の存在下で反応させることで4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニドが効率良く製造できることを確認し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートと4-tert-ブトキシフェノールをトリフレート塩―三フッ化ホウ素ジエチル錯体の存在下で反応させて、4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドを製造中間体とする、4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドの製造法および製造中間体の4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、これまで化学合成が困難であり、天然由来のものを抽出・精製して利用していたハイドロキノン配糖体を温和な反応条件下で行う新規の化学合成法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートと4-tert-ブトキシフェノールから、4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドを製造し、次いで、中間体のベンジル基を脱保護する4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニドの製造法に関するものである。
【0007】
活性化剤としては、トリフレート塩である。トリフレート塩を構成する金属は周知のものを使用することができる。例えば、イッテルビウム、イットリウム、ランタン、スカンジウムやビスマス等を挙げることができるが、好ましくは、イッテルビウムである。
【0008】
溶媒は、アルコールを除く周知の有機溶媒を使用することができる。例えば、エーテル、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0009】
トリフレート塩の存在下、2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートと4-tert-ブトキシフェノールとを反応させる際に、三フッ化ホウ素エーテル錯体を共存させるが、三フッ化ホウ素エーテル錯体の使用量については特に制限はない。通常、2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートに対して、0.5〜200モル%用いるが、好ましくは、1〜100モル%で使用する。
【0010】
2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートおよび4-tert-ブトキシフェノールの使用量については特に制限はない。2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートを4-tert-ブトキシフェノールに対して過剰に用いることもできるが、通常1〜10当量の範囲である。好ましくは、4-tert-ブトキシフェノールに対して1〜1.5当量で使用する。また逆に、4-tert-ブトキシフェノールを2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートに対して過剰に用いることが出来るのは言うまでもない。
【0011】
トリフレート塩の使用量についても特に制限はない。通常、2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートに対して5〜300モル%用いることができるが、好ましくは30〜150モル%で使用する。
【0012】
反応温度は特に制限はないが、通常−50℃〜60℃で行う。好ましくは、−20℃〜30℃の範囲である。反応時間は反応温度等によって異なるが、数時間から数日間の範囲である。
【0013】
水添反応は、パラジウム/炭素あるいは水酸化パラジウムを用いて水素をバブリングさせる周知の方法を利用することができる。溶媒は、有機溶媒/アルコール/水の混合したものを適切に基質が溶解できるようにして用いる。例えばテトラヒドロフラン/メタノール/水=7/5/2の混合溶媒を用いることができる。反応時間は、数分から数時間である。反応温度は、特に制限はないが、通常、室温で行う。その他に、脱ベンジル化では、液体アンモニア中でナトリウム金属を用いるバーチ還元が利用できることは言うまでもない。
【実施例】
【0014】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例により何等の制限を受けるものではない。
[実施例1] 4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシα-D-グルコピラノシド(1)の合成
【化2】

アルゴン雰囲気下、イッテルビウム(III)トリフレート153.4 mg(0.25 mmol)、2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテート151.9 mg(0.30 mmol)と4-tert-ブトキシフェノール42.1 mg(0.25 mmol)を4mlのジクロロメタンに溶解する。これに、0.1 mM三フッ化ホウ素エーテル錯体のジクロロメタン溶液0.073 ml(0.0073 mmol)加え、2時間室温で攪拌したのちに、5%炭酸水素ナトリウム溶液10mlとクロロホルムを10mlを加えて反応を停止する。反応混合物をクロロホルムで抽出し、有機層を水、飽和の塩化ナトリウム水溶液で洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。無機塩を濾過したのちに、有機溶媒を減圧下留去し、濃縮物を薄層クロマトグラフィーで精製を行い、4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドを121.9mg、収率75%で得た。
1H NMR (400MHz, CDCl3): δ 1.81 (3H, S, CH3CO), 3.63 (1H, d, J = 10.7 Hz, Ha-6), 3.76 (1H, dd, J = 3.9 Hz, J = 11.0 Hz, Hb-6), 3.84-3.94 (3H, m, H-3,4,5), 4.33 (1H, dt, J = 3.9 Hz, J = 9.5 Hz, H-2), 4.44, 4.57, 4.68, 4.83, 4.90, 5.30 (8H, d, OCH2Ph, OCH2CCl3), 5.40 (1H, d, J = 3.7 Hz, H-1), 6.68 (2H, d, J = 9.1 Hz, Ph), 6.82 (2H, d, J = 8.8 Hz, Ph), 7.20-7.37 (15H, m, Ph):
13C NMR (100MHz, CDCl3): δ 23.4, 52.8, 68.3, 71.5, 73.4, 74.9, 75.1, 78.3, 79.6, 97.1, 116.1, 118.1, 127.6-151.5, 170.2
【0015】
[実施例2] 4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-2-デオキシα-D-グルコピラノシド(2)の合成
【化3】

4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシド101.8 mg(0.17 mmol)をテトラヒドロフラン(7 ml)/メタノール(5 ml)/水(2 ml)の混合溶媒中に溶解させ、塩化パラジウム378.0 mg(1.57 mmol)を加え、水素をバブリングさせて6時間反応させて、濃縮残渣を合成吸着剤HP-20を用いて精製したところ、目的物である4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニドを12.5 mg、収率 23%で得た。
1H NMR (600MHz, D2O): δ 1.89 (3H, S, CH3CO), 3.43 (1H, d, J = 8.9 Hz, H-4), 3.61-3.67 (2H, m, H-6), 3.70 (1H, m, H-5), 3.79 (1H, t, J = 9.0 Hz, H-3), 3.91 (1H, dd, J = 3.5 Hz, J = 11.0 Hz, H-2), 5.28 (1H, d, J = 3.6 Hz, H-1), 6.70 (2H, d, J = 8.9 Hz, Ph), 6.87 (2H, d, J = 8.9 Hz, Ph):
13C NMR (150MHz, D2O): δ 22.7, 54.3, 61.1, 70.5, 71.6, 73.3, 97.8, 116.8, 119.5, 129.5, 150.4, 175.0
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートと、ハイドロキノン誘導体として4-tert-ブトキシフェノールを用いて、トリフレート塩―三フッ化ホウ素ジエチル錯体の活性化剤の存在下で反応させることで、ベンジル保護された4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニドが温和な反応条件下で選択性良く効率的に合成できる。4-ヒドロキシフェニル N-アセチル-α-D-グルコサミニドは、外皮外用剤の他に、酵素阻害剤や試薬として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アセテートと4-tert-ブトキシフェノールを、トリフレート塩―三フッ化ホウ素ジエチル錯体の存在下で反応させて、4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドを製造中間体とする4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドの製造法。
【請求項2】
トリフレート塩としてイッテルビウム(III)トリフレートを用いることを特色とする請求項1記載の4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドの製造法。
【請求項3】
4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドを脱ベンジル化することを特色とする請求項1記載の4-ヒドロキシフェニル 2-アセトアミド-2-デオキシ-α-D-グルコピラノシドの製造法。
【請求項4】
下記式(1)で表される製造中間体。
【化1】

(式中、Bnはベンジル基を示す。)

【公開番号】特開2008−137906(P2008−137906A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323263(P2006−323263)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】