説明

皮膚外用剤組成物

【課題】皮膚炎患者、特にアトピー性皮膚炎に対して有効かつ安全であるばかりでなく、従来の外用剤では非常に難治性と判断される重症例に著効し、顔面、首等の疾患部位への塗布が可能であり、更には、皮膚が敏感な症例、小児や女性にも安心して塗布できる有効性と安全性の優れた皮膚炎治療剤の提供。さらに、皮膚の肌のハリ、しわの改善、保湿効果を有し、育毛効果もあるスキンケア化粧料に有効な外用剤の提供。
【解決手段】C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有効成分とする皮膚外用剤組成物、特に、皮膚炎治療剤または肌質改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有効成分とする皮膚外用剤組成物に関する。より詳しくは、本発明は、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有効成分とする皮膚疾患治療剤または肌質改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
1.皮膚炎について;
皮膚炎は皮膚の炎症反応であり、皮膚疾患のなかで最も多い疾患である。急性の皮膚炎症は、臨床的には、初めに浮腫性紅斑を生じ、つづいて紅斑上に丘疹、漿液性丘疹を生じ、小水疱、膿疱、びらん、痂皮、鱗屑を形成して治癒に向かう場合が多い。これが慢性化した場合には、皮膚の肥厚、苔癬化、色素沈着が見られ、多くの場合は掻痒を伴う。
【0003】
皮膚炎としては、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、うっ滞性皮膚炎、異汗性湿疹、皮脂欠乏性湿疹、自家感作性湿疹等を挙げることができる。
【0004】
これらのうち、アトピー性皮膚炎は異種タンパク抗原とよばれ、環境にホコリとして存在する他の生物由来の物質への過敏反応や、その他の多彩な非特異的刺激反応及び特異的アレルギー反応が関与して生じ、皮膚の乾燥とバリア機能の異常を伴って広範囲にかゆい湿疹がおきるもので、患者の多くはアトピー素因を持つ。寛解と増悪を繰り返す難治性の慢性炎症性疾患であり、その発症および慢性化には、好酸球やリンパ球浸潤および炎症局所における各種のサイトカインの産生を伴う遅発型反応の関与していることが知られている。
【0005】
2.皮膚炎の治療について;
アトピー性皮膚炎の治療には、発症・増悪因子の除去やスキンケアと併せて、症状に応じた薬物療法が用いられるが、皮膚炎に対しては主としてステロイド外用剤が使用されている。また、最近では、免疫抑制剤の一種であるタクロリムスがアトピー性皮膚炎治療に使用されている。
【0006】
しかしながら、ステロイド外用剤は、臨床効果の鋭い切れ味と同時に多様な副作用を発現する薬剤である。ステロイド外用剤は、皮膚のひ薄化や萎縮、顔面への脂肪沈着によるいわゆる満月様顔貌、潮紅、多毛症、皮膚裂線等の副作用を有することから、必ずしも満足のいくものではない。特に、顔面、首等への疾患部位は他の部位に比べて薬物の吸収性が高いため、ステロイド外用剤をこれら顔面等に塗布した場合、ステロイド酒さなどのステロイド皮膚症が発症しやすい。そして、ステロイド皮膚症の赤みを抑えるために更にステロイド外用剤の塗布をするため、患者が塗布を止められなくなるという悪循環におちいる。このため、顔面、頚部等へのステロイド系薬剤の塗布は敬遠する患者も多い。また、ステロイド外用剤はこのように副作用、使用上の懸念等がある上に、湿疹・皮膚炎群疾患が特に乳児、幼児、小児や女性あるいは他疾患併発者等の比較的皮膚が敏感な患者に多いことから、さらにステロイド系薬剤の使用を一層困難なものとしている。さらに、アトピー性皮膚炎はアトピー素因を背景にして発症する慢性炎症性疾患であるためステロイド外用剤を長期間にわたって使用することになるため、ステロイド外用剤が効きにくくなる、いわゆるステロイド抵抗性の状態になる事もある。さらに、ステロイド外用剤を長期間にわたって使用したとでステロイド外用剤を中止すると外用前よりもさらに症状が増悪するリバウンド現象に悩まされることが多い。
【0007】
また、長年ステロイドの外用を継続することによって、全身の皮膚が潮紅し、落屑を伴って、しばしば脱毛、リンパ節腫脹が合併する。このような湿疹続発性紅皮症になってしまうと、社会生活におおきな支障をきたしてしまう。
【0008】
一般に、アトピー性皮膚炎の治療に使われるステロイドは、強さの強い順から「ストロンゲスト」「ベリーストロング」「ストロング」「ミディアム」「ウィーク」にランク付けされており、体の部位や皮疹の重症度、年齢、ステロイドの使用期間によって使い分けられる。アトピー性皮膚炎の治療でステロイドを処方する場合、最初にアトピーの炎症を十分に抑えられるランクのステロイドを処方し、症状をしっかり抑えることができた後、徐々に弱いランクのステロイドに切り替えていき、できるだけ短期間で使用を中止するのが良いとされている。
ここで、「ストロンゲスト」にランク付けされるステロイドとしてはプロピオン酸クロベタゾール、酢酸ジフラゾロンがあり、「ベリーストロング」にランク付けされるステロイドとしてはフランカルボン酸モメタゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、フルオシノニド、ジプロピオン酸ベタメタゾン、ジフルプレドナート、ブデソニド、アムシノニド、吉草酸ジフルコルトロン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾンなどがある。また、「ストロング」にランク付けされるステロイドとしてはプロピオン酸デプロドン、プロピオン酸デキサメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、ハルシノニド、吉草酸ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、フルオシノロンアセトニドがあり、「マイルド」にランク付けされるステロイドとしては吉草酸酢参プレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、ピバル酸フルメタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、酪酸クロベタゾン、酪酸ヒドロコルチゾンがある。「ウィーク」にランク付けされるステロイドとしてはプレトニゾロン、酢酸ヒドロコルチゾンがある。
再燃を繰り返して慢性化したアトピー性皮膚炎患者の場合、これらのステロイドのうち、複数の「ストロンゲスト」または「ベリーストロング」にランク付けされるステロイドの使用履歴のあることが多い。
【0009】
また、もう一つの外用剤であるタクロリムスは免疫抑制剤であるため、16歳以下の小児、妊婦または妊娠している可能性のある婦人、腎障害のある患者には使用できない。また、タクロリムスの外用ではヘルペスウィルス感染症がかなりの確率で合併する。これは元々乾燥肌でバリアー機能が低下している上に、ステロイド外用でさらに局所免疫能が低下している為ではないかと考えられる。最近では幼少児に悪性腫瘍が発生するという報告があり、安全性においてかなり問題が多い。さらに外用時に必発する、ほてり、かゆみなどの局所の強い刺激症状に耐えられない患者も多い。
【0010】
このため、皮膚炎患者に対して有効かつ安全であるばかりでなく、毛穴の密度が多く薬剤の吸収率が高い顔面、首等の疾患部位への刺激がなく、安全な塗布が可能であり、更には、皮膚が敏感な患者、小児や女性にも安心して塗布できる有効性と安全性の優れた副作用を来さない皮膚炎治療剤が望まれている。
【0011】
3.ナトリウム利尿ペプチドについて;
ナトリウム利尿ペプチド(NP;natriuretic peptide)としては、3種類のナトリウム利尿ペプチドファミリーが知られており、具体的には、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP;atrial natriuretic peptide)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP;brain natriuretic peptide)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP;c-type natriuretic peptide)であり、それぞれ28残基、32残基、22残基のアミノ酸からなる物が主として知られている。
【0012】
(1)ANPとBNP;
ANPは主として心房で合成され、BNPは主として心室で合成され、心臓から全身へ分泌される。血中を循環しているANP、BNPはほぼ100%心臓由来であるといわれている。これらANP、BNPは、高血圧、心肥大、心不全、心筋梗塞、弁膜症、不整脈、肺高血圧などの病態に深く関与しているとの報告もなされている。
【0013】
ヒトANPは、心房細胞で産生され分泌されるアミノ酸28個から成るペプチドであり、7番目のシステインと23番目のシステインが分子内でジスルフィド結合をして環状構造を形成する。ANPは、腎臓では利尿作用を示し、血管では血管平滑筋を弛緩・拡張する。他方、ヒトBNPは、心室細胞で産生され分泌されるアミノ酸32個からなるペプチドであり、10番目のシステインと26番目のシステインが分子内でジスルフィド結合をして環状構造を形成する。BNPも、利尿作用と血管拡張作用を有する。なお、BNPは、1988年に日本で豚の脳から単離同定されたペプチドであり、B型ナトリウム利尿ペプチド(B-type natriuretic peptide)とも呼ばれる。
【0014】
ANPとBNPは、ともにグアニレートシクラーゼドメインを有する受容体NPR−A(別名、GC−A)に結合して、cGMPの産生を促進して上記の作用を発現する。実際、ANPはうっ血性心不全などにおいて心房膨満圧の上昇に伴い分泌が促進され、上記の作用によりうっ血性心不全などの症状を軽減する働きをしている。BNPも心筋梗塞などの際に、分泌が促進され、上記の作用により心筋梗塞などに伴う諸症状を和らげる働きをしている(非特許文献1参照)。血中 BNP の由来はほとんど心室由来であるが、一部は心房からも分泌される。心不全の状態で、BNPおよびANPの発現は双方とも、正常レベルよりも100倍増加するが、BNPの上昇はANPよりも大きく、かつ速いとの報告もある。ANP(hANP)は、我が国で急性心不全治療薬として上市されており、米国では、BNPが臨床応用されている。
【0015】
(2)CNP;
CNPは最初に脳内より発見されたことから、脳神経ペプチドとして機能していると考えられていたが、その後末梢にも存在することが明らかになった。特に、血管壁においては、平滑筋細胞にCNP特異的受容体が多いこと、単球/マクロファージ系細胞および内皮細胞がCNPを産生すること、などから、CNPは血管壁の局所因子として平滑筋細胞の増殖抑制に関与するものと考えられている。このことから、虚血性心疾患の患者が経皮的冠動脈形成術(PTCA)を受けた後に一定の頻度で発生し臨床的に問題となっている血管内再狭窄を、CNPの投与によって予防できる可能性について、現在臨床応用が検討されている。
【0016】
さらに最近、CNPを静脈内に投与すると心筋梗塞後の心臓肥大と線維化が著明に改善し、心機能がよくなるとの動物実験の報告もなされている。心臓の繊維化は、拡張障害や不整脈の原因となることが知られているが、CNPは線維芽細胞の増殖を強力に抑制する作用を有するため、これら心臓線維化治療薬としての研究も行われている。CNPは、体内に備わるホルモンであるため、副作用の心配が少なく、動脈硬化性疾患や心疾患に対する臨床治療薬として応用が期待されている。なお、CNPとしては、アミノ酸22個のCNP−22やそのN末端に31アミノ酸残基が付加されたアミノ酸53個のCNP−53等が知られている。
【0017】
(3)ナトリウム利尿ペプチド受容体;
NPの受容体としては、グアニレートシクラーゼドメインを有するNPR−A受容体(別名、GC−A)、グアニレートシクラーゼドメインを有するNPR−B受容体(別名、GC−B)、グアニレートシクラーゼドメインを有さないNPR−C受容体の3種類の受容体が知られており、ANPはNPR−A受容体およびNPR−C受容体に、BNPはNPR−A受容体およびNPR−C受容体に、CNPはNPR−B受容体およびNPR−C受容体に、それぞれ結合しうることが知られている。
【0018】
NPR−A受容体の活性化は血管拡張作用、利尿作用、細胞増殖抑制作用をもたらすといわれている。一方、NPR−B受容体は血管平滑筋細胞に多く存在しており、血管平滑筋細胞の増殖抑制作用をもたらすと考えられている。
【0019】
(4)ナトリウム利尿ペプチドと免疫系との関連;
ナトリウム利尿ペプチドは、歴史的には、まず、心房が分泌するペプチドとしてANPが発見されるとともにその血管拡張作用および利尿作用が注目を集めた。その後、ANPに類似するペプチドとしてBNPおよびCNPが見出された。このような歴史的から、ナトリウム利尿ペプチドと免疫との関連については、心血管系に関連したものに関心が注がれてきた。また、その後、CNPノックアウトマウスは軟骨の成長が悪いために小人症のような表現型を示すことがわかったことから(非特許文献2参照)、関節炎とナトリウム利尿ペプチドとの関連にも関心がもたれている。
【0020】
ANPは、マクロファージが炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子α(TNF−α)およびインターロイキン1β(IL1β)を分泌するのを抑制することから、関節炎や敗血症における役割が示唆されている(非特許文献3参照)。しかし、この文献は、ANPと皮膚との関連については記載していない。
【0021】
また、血中のBNP濃度は心臓移植の拒絶反応と平行して上昇することが報告されていることから、心血管系における免疫調節に関与していることが示唆されている(非特許文献4参照)。しかし、この文献はBNPと皮膚との関連については記載していない。
【0022】
Kuroski de Bold et alは、心臓移植時の拒絶反応において血中BNP濃度が上昇することに着目して、ナトリウム利尿ペプチドの免疫調節作用を検討し、ANPとBNPは、ともにリンパ球の増殖を抑えることを見出している(非特許文献5参照)。しかし、この文献はNPと皮膚との関連については記載していない。
【0023】
一方で、Chiurchiu et alは、心疾患および敗血症との関連に着目してBNPの免疫調節作用を検討し、BNPは、炎症性サイトカインであるアラキドン酸、プロスタグランディンE2(PGE2)、ロイコトリエンB4(LTB4)、および、抗炎症サイトカインであるインターロイキン10(IL10)をマクロファージが放出するのを、ともに促進することから、何らかの炎症調節作用を有することが示しているが、全体として炎症の抑制に働くのか促進に働くのかは結論づけられなかった(非特許文献6参照)。この文献もBNPと皮膚との関連については記載していない。
【0024】
CNPについても、マクロファージがCNPを分泌することが報告されており(非特許文献7参照)、Scotland et alは、心虚血および再灌流後の心筋傷害におけるCNPの役割を検討する過程で、CNPが血小板の凝集および白血球の遊走を抑制したことを報告している(非特許文献8参照)。しかし、この文献はCNPと皮膚との関連については記載していない。
【0025】
同様に、Obata et alは、心筋炎におけるCNPの作用を検討し、ブタのミオシンを注射したラット心筋炎モデルに、その後1週間CNPを持続的に投与すると、心臓組織の壊死および炎症を抑制するとともに血管新生を促して心臓の機能低下を抑えたことを報告している(非特許文献9参照)。しかし、この文献はCNPと皮膚との関連については記載していない。
【0026】
さらに、CNPノックアウトマウスでは小人症のような表現型を示すことから、CNPは軟骨の生育との関連においても関心がもたれており、Agoston et alは、マウス胎児の頸骨から分離した初代培養軟骨細胞において、デキサメサゾンがCNP遺伝子の発現を上昇させることを見出している(非特許文献10参照)。しかし、この文献はCNPと皮膚との関連については記載していない。
【0027】
このように、近年、免疫とナトリウム利尿ペプチドとの関連にも関心がもたれるようになってきているが、心血管系の炎症とナトリウム利尿ペプチド、あるいは関節炎とナトリウム利尿ペプチドとの関連においてであり、皮膚炎とナトリウム利尿ペプチドとの関連、あるいはアトピー性皮膚炎とナトリウム利尿ペプチドとの関連についての報告はなされていない。
【0028】
(5)ナトリウム利尿ペプチドに関する応用の報告;
【0029】
CNP、BNP、ANPの応用については、例えば下記のように、この他にも数多く報告されている。
【0030】
小出寿子らは、ANP、BNP、CNP、ウロジラチン(P−Uro)およびこれらの前駆体と派生物質、またはこれらの組み合わせを活性成分として含有し、薬剤学上通常用いられる希釈液、賦形剤、充填剤または助剤を含有していてもよい組成物を含有する組織器官の修復再生製剤を提案している(特許文献1参照)。
【0031】
しかし、具体的な組織器官の修復再生の例は、心筋再生、皮下組織が再形成、頭髪再生、水泥仕事によるヒビ割れと皮膚の荒れの改善等に関するものであり、しかも、全てANP投与によるものであって、CNPまたはBNP投与による皮膚疾患治療剤や肌質改善剤を示唆するような記載はない。
【0032】
田中正治らは、血管平滑筋細胞の増殖抑制作用を示すC型ナトリウム利尿ペプチドおよびそれらペプチドを有効成分とする血管平滑筋増殖抑制剤を提案している(特許文献2参照)。
【0033】
しかし、これはCNPの平滑筋細胞抑制剤としての利用を意味するもので、CNPまたはBNPの皮膚炎治療剤への応用を示唆するものではない。
【0034】
中田勝彦らは、ナトリウム利尿ペプチドを有効成分とする涙液分泌促進または角結膜障害治療用点眼剤を提案し、使用可能なナトリウム利尿ペプチドとしてANP、BNPおよびCNPを挙げている(特許文献3参照)。
【0035】
しかし、これはANP、CNP、BNPの涙液分泌促進作用を角結膜障害治療用点眼剤として利用するもので、CNPまたはBNPの皮膚炎治療剤への応用を示唆するものではない。
【0036】
中尾一和らは、CNP等のグアニルシクラーゼB(GC−B)活性化物質を有効成分として含む、FGFR3異常を有しない個体に投与する身長増加用組成物を提案している(特許文献4参照)。
【0037】
しかし、これは、CNPを過剰発現するトランスジェニックマウスにおいて鼻肛長が正常同腹仔より大きかったという知見に基づいて、CNPを身長増加用組成物として利用することを意味するもので、CNPまたはBNPの皮膚炎治療剤への応用を示唆するものではない。
【0038】
同じく中尾一和らは、CNP等のグアニルシクラーゼB(GC−B)活性化物質を有効成分として含む、関節炎症の治療剤または予防剤を提案している(特許文献5参照)。
【0039】
しかし、これは、CNPを過剰発現するトランスジェニックマウスにおいて関節軟骨の厚さが正常同腹仔に比べて厚く、また、関節炎モデル動物にCNPを持続投与すると、関節炎が抑制されることを見出したものであり、CNPを関節炎症の治療剤または予防剤として利用することを意味するもので、CNPまたはBNPの皮膚炎治療剤への応用を示唆するものではない。
【0040】
ところで、田中正治らは、以下のとおり、CNPは、ANPやBNPと、その構造や作用効果が全く異なることを発表している(特許文献2参照)。
【0041】
「現在ANPとBNPはいずれも心臓から血中へ分泌されるホルモンとして働くと共に、神経伝達因子としても作動し、生体の体液量および血圧のホメオスタシス維持に重要な役割を果たしていると考えられている。(中略)CNPのNPとしての生理的役割については不明な点が多い。すなわち、CNPはそのアミノ酸一次配列がANPおよびBNPと類似しており、また、in vivo投与でナトリウム利尿作用および血圧降下作用を示すことからNPファミリーに帰属された。しかし、CNPのナトリウム利尿作用および血圧降下作用はANP・BNPに比べ著しく弱いこと(1/50〜1/100)(中略)から、CNPはNPファミリーのなかでも特異的な位置を占め、その生理的役割については体液量や血圧のホメオスタシス維持以外に別な役割を果たしているのではないかと推定されていた。(中略)CNPの構造をANPおよびBNPのそれらと比較すると、CNPはANPまたはBNPと以下に述べる点が異なっていることが判る。すなわち、CNPのアミノ酸一次配列は、環外N−末端ドメインではANPまたはBNPと全く異なり、また、環内ドメインでは17アミノ酸残基のうちANPとは5残基、BNPとは4残基異なっていることが判る。また、CNPの環外C−末端ドメインの構造はANPまたはBNPと大きく異なり、CNPにはANPまたはBNPに存在するtail構造が存在しない(ANP・BNPの場合、環状構造のC−末端側にANPで5個、BNPで6個、アミノ酸残基が付加されており、この構造を便宜的にtail構造と呼ぶ)。以上述べたCNPとANPまたはBNPとの構造上の違いが、前記したCNPの特徴的薬理作用発現に関与していることは明かである。」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0042】
【特許文献1】特開2008−162987号公報
【特許文献2】特開平6−9688号公報
【特許文献3】特開2000−169387公報
【特許文献4】WO2005/094890号パンフレット
【特許文献5】WO2005/094889号パンフレット
【非特許文献】
【0043】
【非特許文献1】European J.Endocrinology,135巻,265頁,1996年
【非特許文献2】Proceedins of the National Academy of Sciences of the United States of America 98巻,7号,4016頁,2001年
【非特許文献3】Annals of the Rheumatic Disease 60巻,Suppl 3,iii,68頁,2001年
【非特許文献4】The Journal of Heart and Lung Transplantation 27巻,31頁,2008年
【非特許文献5】The Journal of Heart and Lung Transplantation 29巻,3号,323頁,2010年
【非特許文献6】Regulatory Peptides 148巻,26頁,2008年)。
【非特許文献7】Experimental Hematology 29巻,609頁,2001年
【非特許文献8】Proceedins of the National Academy of Sciences 102巻,40号,14452頁,2005年
【非特許文献9】Biochemical and Biophysical Research Communications 356巻,60頁,2007年
【非特許文献10】BMC Musculoskeletal Disorders 7巻,87頁,2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0044】
皮膚疾患の代表例である皮膚炎、特にアトピー性皮膚炎は慢性の疾患であることから、薬物を継続的に使用する必要がある。しかしながら、上述のとおり、ステロイド外用剤は、臨床効果の鋭い切れ味を有する半面、皮膚のひ薄化や萎縮、満月様顔貌、潮紅、多毛症、皮膚裂線等の局所副作用を有してため、薬物の吸収性が高い顔面や、肌の弱い患者、小児や女性への適用が必ずしも容易ではないという問題があった。更に局所副作用の問題にとどまらず、慢性の疾患であることから、多くの症例で、長期にわたる使用を余儀なくされるが、長期外用で問題になるのは外用中止によって起こるリバウンド現象である。すなわち、外用中止によって塗布前よりも急性増悪する。更に深刻な合併症として、不適切な外用の継続により全身の潮紅、落屑を呈する湿疹続発性紅皮症へ移行する。このようなステロイド長期使用によって引き起こされる重篤な症状は大きな問題であった。
したがって、本発明の目的は、皮膚炎患者、特にアトピー性皮膚炎に対して有効かつ安全であるばかりでなく、従来の外用剤では非常に難治性を示す重症例に著効し、顔面、首等の疾患部位への塗布が可能であり、更には、皮膚が敏感な患者、小児や女性にも安心して塗布できる有効性と安全性の優れた皮膚外用剤組成物を提供することである。また、再発予防に重要な皮膚のバリアー機能を高め、肌質を改善し保湿する、抗炎症、角層ケア、表皮ケア、基底膜ケア効果がある肌質改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0045】
本発明者は、このような事情に鑑み鋭意研究を行った結果、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)およびB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が皮膚炎治療剤、特にアトピー性皮膚炎治療剤として優れた有効性と安全性を有し、しかも、皮膚が敏感な患者、小児や女性にも、また顔面、首等へも安心して適用できることを見出して本発明を完成した。
本発明は、具体的には下記のとおりである。
【0046】
1.C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含む皮膚外用剤組成物。
2. C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、CNPとBNPのキメラペプチドであって、CNPがCNP−22、CNP−53、または、CNP−22若しくはCNP−53のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列において5アミノ酸以上の連続する任意のアミノ酸配列を含むペプチドであり、BNPがBNP−26、BNP−32、BNP−45、または、BNP−26、BNP−32若しくはBNP−45のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列において5アミノ酸以上の連続する任意のアミノ酸配列を含むペプチドであり、分子内ジスルフィド結合によって環状構造を形成するキメラペプチドであり、かつ、CNP活性またはBNP活性を有するキメラペプチド、あるいは、その誘導体である、1項に記載の皮膚外用剤組成物。
3.C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)が、CNP−22、CNP−53、または、CNP−22若しくはCNP−53のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加し、かつCNP活性を有するCNP誘導体である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【0047】
4.C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)がCNP−22である3項に記載の皮膚外用剤組成物。
5.B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、BNP−26、BNP−32、BNP−45、または、BNP−26、BNP−32若しくはBNP−45のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加し、かつBNP活性を有するBNP誘導体である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
6.B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)がBNP−32である5項に記載の皮膚外用剤組成物。
7.1〜500μg/gのC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含む、1項に記載の皮膚外用剤組成物。
8.20〜200μg/gのC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含む、1項に記載の皮膚外用剤組成物。
9.30〜100μg/gのC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含む、1項に記載の皮膚外用剤組成物。
10.皮膚外用剤組成物が、皮膚炎治療剤または肌質改善剤である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【0048】
11.皮膚外用剤組成物が皮膚炎治療剤であり、かつ、皮膚炎が、アトピー性皮膚炎、ステロイド皮膚症を生じた皮膚炎、ステロイド抵抗性の皮膚炎、タクロリムスを使用できない皮膚炎、慢性皮膚炎、紅皮症、湿疹、接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、自家感作性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、蕁麻疹、薬疹、皮膚血管炎、痒疹、皮膚掻痒症、紅班症、乾癬、酒さ、酒さ様皮膚炎、扁平苔癬または毛孔性角化症である10項に記載の皮膚外用剤組成物。
12.皮膚炎が、アトピー性皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
13.皮膚炎がステロイド皮膚症を生じた皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
14.皮膚炎がステロイド抵抗性の皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
15.皮膚炎がタクロリムスを使用できない皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
16.皮膚炎が、慢性皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
17.皮膚炎が、湿疹である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
18.皮膚炎が、紅皮症である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
19.皮膚炎が、酒さである11項に記載の皮膚外用剤組成物。
20. 皮膚炎が、酒さ様皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
21.皮膚炎が、乾癬である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
22.皮膚外用剤組成物が皮膚炎治療剤であり、かつ、皮膚炎が、紅班、浸潤性紅班、苔癬化病変、鱗屑、痂皮付着、湿疹、掻爬、掻破痕、痒疹結節、丘疹、びらん,浸潤、小水疱および浮腫から選ばれる少なくとも1つの皮疹症状を伴う炎症である10項に記載の皮膚外用剤組成物。
【0049】
23.皮膚外用剤組成物が皮膚炎治療剤であり、かつ、皮膚炎が、ハウスダスト、ダニ、スギ、カモガヤ、ブタクサ、卵白および卵黄から選ばれる少なくとも1つのアレルゲンに免疫反応を示す皮膚炎である10項に記載の皮膚外用剤組成物。
24.皮膚外用剤組成物が皮膚炎治療剤であり、かつ、皮膚炎が、顔面、頚部、背部および腕から選ばれる少なくとも1つの部位における皮膚炎である10項に記載の皮膚外用剤組成物。
25.剤形が、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、ローション剤、液剤、スプレー剤、パッチ剤から選ばれる外用剤である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
26.剤形が、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤または液剤である25項に記載の皮膚外用剤組成物。
27.皮膚外用剤組成物が、肌質改善剤である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
28.乾燥肌、肌荒れ、敏感肌または小じわを改善するための肌質改善剤である27項に記載の皮膚外用剤組成物。
29.肌質改善剤が、スキンケア化粧料または医薬部外品である27項に記載の皮膚外用剤組成物。
30.剤形が、クリーム、泡沫剤、化粧水、パック、皮膚柔軟水、乳液、ファンデーション、メーキャップベース、エッセンス、石鹸、液体洗浄剤、入浴剤、日焼け止めクリーム、サンオイルまたはスプレー型液剤である27項に記載の皮膚外用剤組成物。
【発明の効果】
【0050】
後述の症例試験からも明らかなとおり、CNPまたはBNPを有効成分とする本発明の皮膚外用剤組成物は、高度の腫脹/浮腫/浸潤ないし苔癬化を伴う紅班、丘疹、鱗屑を著明に改善することが可能であり、寛解、または、乾燥および軽度の紅班、鱗屑などを主体とする軽症、あるいは炎症症状に乏しく乾燥症状主体の軽微な皮疹にまで改善することができる。したがって、本発明の皮膚炎治療剤は従来のステロイド外用薬に抵抗性を示すアトピー性皮膚炎に対して極めて有効な治療薬としてその有用性が期待できる。特に治療に苦慮し、社会生活にも支障をきたす成人顔面の紅斑、浸潤、鱗屑ないし苔癬化、ほてりを全く刺激症状なく劇的に改善することができる。また、上肢、背部など他部位においても顕著に改善がみられ、また成人に限らず幼児においても同様の効果が認められる。
【0051】
従来から汎用されているステロイド外用剤の場合は、外用中止すると、すぐに外用前の重症度に戻るか、もしくはリバウンド現象が起こって外用前よりも増悪するという大きな問題があったが、本発明ではこの欠点がまったく見られないだけでなく、肌質が変わり,しっとりして、肌理が整うという優れた効果も確認された。本発明の皮膚炎治療剤による効果は、塗布中止後も5日から2週間程度良好な皮膚症状が持続した。効きが著効でない場合でも、アトピー性皮膚炎の治療目標とされる乾燥および軽度ないし軽微の紅班、鱗屑などを主体とする症状に改善できた。また、治療後、軽微な紅班、浮腫、丘疹、鱗屑が再発したとしても、塗布前のように悪化することはなく軽度であり、安定した状態が継続できることは従来の治療法であるステロイド外用剤では得られなかったことであり特筆に値するものである。また、本発明の、CNPまたはBNPの製剤は、再発した皮疹に再度塗布すると初回よりも少ない塗布回数で再度軽症ないし軽微な皮疹に導くことができる。効果の発現は塗布後10分程度で自覚的にほてりが鎮まり、30分経過後くらいから他覚的に紅班、浸潤、浮腫、丘疹、鱗屑、掻破痕の軽快が認められた。さらに2日ないし4日塗布を継続すると紅班、浸潤が明らかに軽快し、きめのととのったほぼ正常に近い皮膚になる症例が多かった。これらのことは、皮膚科医師でもある本発明者にとっても驚くべきことであった。特にCNP製剤の効果は顕著であった。
【0052】
なお、従来よりBNPとANPはファミリーが同一であるばかりでなく、その受容体も共通であることから、BNP製剤とANP製剤は同等の作用効果を有するものと考えられてきたが、本発明者が実際に炎症疾患の患者、特にアトピー性皮膚炎の患者で試したところ驚くべきことにBNP製剤の薬理効果はANP製剤に比べ遥かに優れたものであった。すなわち、BNP製剤はANP製剤に比べて即効性が認められ、臨床症状の改善も顕著で効果に持続性があった。一方、ANP製剤は予想に反し、紅班、浸潤、鱗屑ないし苔癬化とも、その局所皮膚症状の改善度はBNPのそれに比べて非常に劣り、ほとんどの場合、全く効果がないか、または増悪する例が多かった。わずかにANP製剤の効果が認められた場合でも効果発現までのタームが長く、しかも、7日間外用しても完全に紅班がなくなる事はなく、全例で紅班、乾燥が残った。皮膚外用剤組成物としてのBNPが同じナトリウム利尿ペプチドファミリーに属するANPに比べて卓越した効果を有することは、驚くべきことであった。
本発明の有効成分であるCNPとBNPはもともと体内に備わるホルモンであり副作用の心配が少なく、また適正な使用量であるかぎり血行動態に対する影響が軽微と考えられ、血圧が低いまたは不安定な患者にも安心して使えるので慢性的な皮膚炎患者に対しても長期の投与が可能である。また、皮膚炎に対する有効性は従来のステロイド外用剤よりも顕著であり、しかも、即効性であってその効果も大であり、効果に持続性が有り、重症な例でも5日から2週間にわたって寛解状態を保つ事ができる。加えて、本発明の皮膚外用剤組成物は、皮膚が敏感な患者に加え、小児や女性にも、また顔面、首等へも全く刺激症状がなく、安心して適用できるというメリットを有する、従来にはない極めて卓越した治療剤である。
【0053】
更に、本発明のCNPまたはBNPを含む肌質改善剤を適用した場合には、肌理が整い、乾燥肌が改善され、肌質が柔らかく、しっとりとし、しわが浅くなって目立たなくなるという効果が確認された。したがって、本発明は皮膚炎治療剤としてしてだけでなく肌のハリ、しわの改善、保湿効果等を目的としたスキンケア化粧料等の肌質改善剤としても有益である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】上肢に高度の腫脹、浸潤、紅班を有する患者に本発明のCNPゲル製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。AおよびBは塗布前、Cは30μg/g濃度のCNPゲル製剤を20分おきに3回、塗布後、Dは、CNPを添加していないゲル剤を20分おきに3回、塗布後。(CNPゲル製剤の症例10;被験者5;表3および表4を参照)
【図2】顔面に、高度の腫脹、浸潤、苔癬化を伴う紅班、丘疹、びらん,多数の掻破痕を主体とする皮疹を有する患者に本発明のCNP水溶液製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは100μg/ml濃度のCNP水溶液製剤を1日2回、4日間塗布後。(CNP水溶液製剤の症例2;被験者6;表5および表6を参照)
【図3】顔面に、苔癬化を伴う紅班、丘疹、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体とする皮疹を有する患者に本発明のCNP水溶液製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは100μg/ml濃度のCNP水溶液製剤を1日2回、4日間塗布後。(CNP水溶液製剤の症例7;被験者7;表5および表6を参照)
【図4】全身に苔癬化を伴う紅班、浸潤性紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、小水疱、びらんがみられる患者の腕に本発明のCNPゲルベース製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは30μg/g濃度のCNPゲルベース製剤を1日2回、2日間塗布後。(CNPゲルベース製剤;被験者17;表9および表10を参照)
【図5】上肢に高度の腫脹/浮腫/浸潤/紅斑を伴う皮疹が認められる患者に、本発明のCNPゲルベース製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のCNPゲルベース製剤を1日2回、4日間塗布後。(CNPゲルベース製剤;被験者20;表9および表10を参照)
【0055】
【図6】全身に浸潤性紅班、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕が認められ、特に顔面,頚部で顕著である患者の顔面および頚部に本発明のCNP軟膏製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは30μg/g濃度のCNP軟膏製剤を1日2回、2日間塗布後。(CNP軟膏製剤;被験者21;表11および表12を参照)
【図7】睡眠障害を伴う強い掻痒を伴う浸潤性紅班、紅班、掻破痕が顔面、頚部、四肢、背部に認められ、特に顔面には高度の浸潤性紅班、鱗屑、多数の掻破痕を主体としている皮疹を有する患者の顔面に本発明のCNP軟膏製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のCNP軟膏製剤を1日2回、3日間塗布後。(CNP軟膏製剤;被験者23;表11および表12を参照)
【図8】躯幹に浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班、痂皮の付着、多数の掻破痕が認められ、背部には高度の浸潤/苔癬化を伴う紅斑、高度の鱗屑、痂皮の付着を伴い局面を形成する皮疹を有する患者の頚部および背部に本発明のCNP軟膏製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のCNP軟膏製剤を1日2回、3日間塗布後。(CNP軟膏製剤;被験者29;表13および表14を参照)
【図9】全身に浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕が認められて湿疹続発性紅皮症状態にあり、上肢には高度の腫脹、浸潤を伴う紅班を主体としている皮疹を有する患者の上肢に本発明のCNP軟膏製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のCNP軟膏製剤を1日2回、2日間塗布後。(CNP軟膏製剤;被験者30;表13および表14を参照)
【0056】
【図10】顔面に浸潤/高度の鱗屑、痂皮の付着、びらん、多数の掻爬痕からなる皮疹が認められ、全身に浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕が認められる患者の顔面に本発明のCNP軟膏製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のCNP軟膏製剤を1日2回、3日間塗布後。(CNP軟膏製剤;被験者27;表13および表14を参照)
【図11】顔面、頚部に腫脹を伴う浸潤性紅班、びらんを主体としている皮疹が認められ、全身に浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着が認められ湿疹続発性紅皮症状態にある患者の顔面に本発明のCNP軟膏製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のCNP軟膏製剤を1日2回、3日間塗布後。(CNP軟膏製剤;被験者28;表13および表14を参照)
【図12】頚部の皮疹が、高度の浮腫、浸潤、紅班、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体としている患者にBNPゲルベース製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を1日2回、5日間塗布後。(BNPゲルベース製剤の症例1;被験者41;表19および表20を参照)
【図13】上腕の皮疹が、浸潤、紅斑、高度の鱗屑、痂皮である患者にBNPゲルベース製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を1日2回、5日間塗布後。(BNPゲルベース製剤の症例4;被験者42;表19および表20を参照)
【図14】顔面、頚部の皮疹が、浮腫を伴う紅班、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体としている患者にBNPゲルベース製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を1日2回、2日間塗布後。(BNPゲルベース製剤の症例5;被験者40;表17および表18を参照)
【0057】
【図15】顔面の皮疹が、浸潤性紅班、多数の丘疹、鱗屑、掻破痕を主体とし患者にBNPの水溶液製剤を適用した場合の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/ml濃度のBNP水溶液製剤を1日2回、5日間塗布後。(BNP水溶液製剤の症例8;被験者43;表19および表20を参照)
【図16】顔面の皮疹は、高度の苔癬化浸潤、紅班、鱗屑を主体としている患者にANPゲルベース製剤を適用した場合の比較症例の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を1日2回、7日間塗布後。(ANPゲルベース製剤の症例2;被験者46;表21および表22を参照)
【図17】顔面、頚部、四肢の皮疹が、高度の腫脹、潮紅、浮腫からなる患者にANPゲルベース製剤を適用した場合の比較症例の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を1日2回、7日間塗布後。(ANPゲルベース製剤の症例3;被験者45;表21および表22を参照)
【図18】背部の皮疹が、高度の浸潤、紅班、多数の掻破痕、丘疹、苔癬化からなる患者にANPゲルベース製剤を適用した場合の比較症例の効果を示す図面代用写真である。Aは塗布前、Bは50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を1日2回、5日間塗布後。(ANPゲルベース製剤の症例5;被験者48;表21および表22を参照)
【0058】
【図19】本発明のCNPまたはBNPを含有する皮膚外用剤組成物による塗布前後における、SCORADによる皮疹部位の重症度の変化を示す図面である。白色のバーは塗布前を示し、黒色のバーは塗布後の値を示す。バーの長さは平均値を、バーの先端から伸びる髭は標準偏差値を示す。なお、各群の症例数は、CNPゲル製剤 30μg/gの群が5症例、CNP水溶液製剤 100μg/mlの群が5症例、CNPゲルベース製剤 30μg/gの群が7症例、CNPゲルベース製剤 50μg/gの群が3症例、CNP軟膏製剤 30μg/gの群が1症例、CNP軟膏製剤 50μg/gの群が9症例、CNP軟膏製剤 100μg/gの群が5症例、BNPゲルベース製剤30μg/gの群が2症例、BNPゲルベース製剤 50μg/gの群が5症例、BNP水溶液製剤 50μg/mlの群が3症例、ANPゲルベース製剤 50μg/gの群が5症例であった。
【図20】本発明のCNPまたはBNPを含有する皮膚外用剤組成物による塗布前後における、Visual analogue scale法を用いて評価した掻痒感の変化を示す図面である。白色のバーは塗布前を示し、黒色のバーは塗布後の値を示す。バーの長さは平均値を、バーの先端から伸びる髭は標準偏差値を示す。なお、各群の症例数は、CNPゲル製剤 30μg/gの群が5症例、CNP水溶液製剤 100μg/mlの群が5症例、CNPゲルベース製剤 30μg/gの群が7症例、CNPゲルベース製剤 50μg/gの群が3症例、CNP軟膏製剤 30μg/gの群が1症例、CNP軟膏製剤 50μg/gの群が9症例、CNP軟膏製剤 100μg/gの群が5症例、BNPゲルベース製剤30μg/gの群が2症例、BNPゲルベース製剤 50μg/gの群が5症例、BNP水溶液製剤 50μg/mlの群が3症例、ANPゲルベース製剤 50μg/gの群が5症例であった。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明における皮膚外用剤組成物の有効成分は、C型ナトリウム利尿ペプタイド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプタイド(BNP)である。
ここで、CNPとは、アミノ酸が22個のCNP−22、そのN末端に31アミノ酸残基が付加されたアミノ酸が53個のCNP−53あるいはその誘導体等を意味し、CNP活性を有する限り特に限定されるものではない。これらCNP−22、CNP−53あるいはその誘導体はいずれも公知であり、化学合成あるいは遺伝子操作によって作製することができる。
CNP−22およびCNP−53の由来については、CNP活性を有する限り特に制限されるものではないが、好ましくはヒトを含む哺乳動物または鳥類に由来するCNP、より好ましくはヒト、サル、マウス、ラットまたはブタ由来のCNP、特に好ましくはヒト由来のCNPである。
また、CNP誘導体とは、これらCNP−22またはCNP−53のアミノ酸配列において好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加し、かつCNP活性を有するもの、あるいはこれらCNP−22またはCNP−53のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上の相同性を有する配列を有し、かつCNP活性を有するものを意味する。
【0060】
置換可能なアミノ酸は、保存的アミノ酸置換が望ましい。保存的アミノ酸は,極性度や電荷の種類によって分類される。例えば、非極性の非電荷型アミノ酸にはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、等,芳香族アミノ酸にはフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、極性の非電荷型アミノ酸にはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンなど、負電荷アミノ酸にはアスパラギン酸、グルタミン酸、正電荷アミノ酸にはリジン、アルギニン、ヒスチジンが、それぞれ含まれる。このように、アミノ酸置換は、同じ分類に属する保存的アミノ酸どうしで置換することが望ましい。ただし、プロリンを他の非極性の非電荷型アミノ酸で置換する場合、あるいは、プロリン以外の非極性の非電荷型アミノ酸をプロリンで置換する場合には、プロリンが立体的に柔軟な構造ではないことに留意する必要がある。また、システインを他の極性の非電荷型アミノ酸で置換する場合、あるいは、システイン以外の極性の非電荷型アミノ酸をシステインで置換する場合には、システインが他のシステインとジスルフィド結合を形成しうることに留意する必要がある。
また、CNP誘導体には、CNP活性を有する限り、CNPのC末端がアミド化されたもの、CNPのC末端がメトキシ化されたもの、CNPにポリエチレングリコールが付加したもの、CNPに糖鎖が付加したもの、CNPにアルキル鎖が付加したもの、ならびにCNPに脂肪酸が付加したものも含まれる。
【0061】
このように、本発明においては、CNP活性を有することを条件として公知のいかなるCNPをも使用可能である。例えば、特開平6−9688に開示されるCNP誘導体、米国特許5583108号に開示されるCNP誘導体または米国特許6818619号に開示されるCD−NPであってもよい。また、CNP活性の有無については、公知の手段によって容易に確認することが可能であり、例えば、血菅平滑筋細胞の増殖抑制作用、あるいはNPR−B受容体発現細胞におけるcGMP産生活性を試験することにより確認することができる。
本発明の有効成分として、CNP−22、CNP−53またはそれらの誘導体のいずれも使用可能であるが、好ましくは吸収性の観点から分子量のより小さいCNP−22である。CNP−22は、化学合成あるいはヒトCNP遺伝子を用いて遺伝子操作によって作製することも可能であるが、例えば、株式会社ペプチド研究所(PEPTIDE INSTITUTE、 INC.)からCNP−22(human)として入手することができる。
【0062】
本発明で使用し得るCNPは、天然からの精製CNP、既知の遺伝子工学的な手法で製造された遺伝子組み換えCNP、既知の化学合成法(例えば、ペプチド合成機を用いる固相合成法)で製造されたCNPを含むものである。遺伝子組み換え技術、部位特異的突然変異誘発法、PCR技術などの基本的手法は公知ないし周知であり、例えばCurrent Protocols In Molecular Biology;JohnWiley&Sons(1998)、特開平5−207891号公報などに記載されている。
【0063】
ここで、BNPとは、アミノ酸がそれぞれ26個のBNP−26、32個のBNP−32、45個のBNP−45あるいはその誘導体等を意味し、BNP活性を有する限り特に限定されるものではない。BNPは、BNP前駆体からシグナルペプチドが切断された分子量約13000の高分子型γ−BNPであってもよい。特に好ましくはBNP−32またはその誘導体である。BNP−26、BNP−32、BNP−45あるいはその誘導体はいずれも公知であり、化学合成あるいは遺伝子操作によって作製することができる。
【0064】
BNP−26、BNP−32およびBNP−45の由来については、BNP活性を有する限り特に制限されるものではないが、好ましくはヒトを含む哺乳動物または鳥類に由来するCNP、より好ましくはヒト、サル、マウス、ラットまたはブタ由来のCNP、特に好ましくはヒト由来のBNPである。
【0065】
また、BNP誘導体とは、これらBNP−26、BNP−32またはBNP−45のアミノ酸配列において好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加し、かつBNP活性を有するもの、あるいはこれらBNP−26、BNP−32またはBNP−45のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上の相同性を有する配列を有し、かつBNP活性を有するものを意味する。
【0066】
置換可能なアミノ酸は、保存的アミノ酸置換が望ましい。保存的アミノ酸は,極性度や電荷の種類によって分類される。例えば、非極性の非電荷型アミノ酸にはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、等,芳香族アミノ酸にはフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、極性の非電荷型アミノ酸にはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンなど、負電荷アミノ酸にはアスパラギン酸、グルタミン酸、正電荷アミノ酸にはリジン、アルギニン、ヒスチジンが、それぞれ含まれる。このように、アミノ酸置換は、同じ分類に属する保存的アミノ酸どうしで置換することが望ましい。ただし、プロリンを他の非極性の非電荷型アミノ酸で置換する場合、あるいは、プロリン以外の非極性の非電荷型アミノ酸をプロリンで置換する場合には、プロリンが立体的に柔軟な構造ではないことに留意する必要がある。また、システインを他の極性の非電荷型アミノ酸で置換する場合、あるいは、システイン以外の極性の非電荷型アミノ酸をシステインで置換する場合には、システインが他のシステインとジスルフィド結合を形成しうることに留意する必要がある。
【0067】
また、BNP誘導体には、BNP活性を有する限り、BNPのC末端がアミド化されたもの、BNPのC末端がメトキシ化されたもの、BNPにポリエチレングリコールが付加したもの、BNPに糖鎖が付加したもの、BNPにアルキル鎖が付加したもの、ならびにBNPに脂肪酸が付加したものも含まれる。
【0068】
このように、本発明においては、BNP活性を有することを条件として公知のいかなるBNPをも使用可能である。例えば、特表2007−525213号公報に開示されるBNP誘導体、米国特許6028055号に開示されるBNP誘導体、米国特許5114923号に開示されるBNP誘導体または米国特許6818619号に開示されるBD−NPであってもよい。
【0069】
また、BNP活性の有無については、公知の手段によって容易に確認することが可能であり、例えばNPR−A受容体発現細胞におけるcGMP産生活性を試験することにより確認することができる。
【0070】
本発明の有効成分として、BNP−26、BNP−32、BNP−45またはそれらの誘導体のいずれも使用可能であるが、好ましくは薬効、入手の容易性の観点からBNP−32である。
【0071】
本発明のBNPは、化学合成あるいはヒトBNP遺伝子を用いて遺伝子操作によって作製することも可能であるが(例えば、特開平5−207891号公報、特表2007−525957号公報、特表2007−525213号公報参照)、BNPは既に上市されていることから、市場からも入手することができる。また、例えば、株式会社ペプチド研究所(PEPTIDE INSTITUTE, INC.)からBNP−32(human)として入手することができる。
【0072】
このように、本発明で使用し得るBNPは、天然からの精製BNP、既知の遺伝子工学的な手法で製造された遺伝子組み換えBNP、既知の化学合成法(例えば、ペプチド合成機を用いる固相合成法)で製造されたBNPを含むものである。遺伝子組み換え技術、部位特異的突然変異誘発法、PCR技術などの基本的手法は公知ないし周知であり、例えばCurrent Protocols In Molecular Biology;JohnWiley&Sons(1998)、特開平5−207891号公報などに記載されている。
【0073】
本明細書においてCNPまたはBNPという場合には、CNPまたはBNPのいずれかという意味の他に、CNPとBNPとのキメラペプチドも含まれる。すなわち、本明細書においてCNPまたはBNPという場合には、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、CNPとBNPのキメラペプチドであって、CNPがCNP−22、CNP−53、または、CNP−22若しくはCNP−53のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列において5アミノ酸以上の連続する任意のアミノ酸配列を含むペプチドであり、BNPがBNP−26、BNP−32、BNP−45、または、BNP−26、BNP−32若しくはBNP−45のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列において5アミノ酸以上の連続する任意のアミノ酸配列を含むペプチドであり、分子内ジスルフィド結合によって環状構造を形成するキメラペプチドであり、かつ、CNP活性またはBNP活性を有するキメラペプチド、あるいは、その誘導体をも意味する。
【0074】
ここでCNP−22およびCNP−53の由来については、CNP活性を有する限り特に制限されるものではないが、好ましくはヒトを含む哺乳動物または鳥類に由来するCNP、より好ましくはヒト、サル、マウス、ラットまたはブタ由来のCNP、特に好ましくはヒト由来のCNPである。同様にBNP−26、BNP−32、BNP−45の由来については、BNP活性を有する限り特に制限されるものではないが、好ましくはヒトを含む哺乳動物または鳥類に由来するBNP、より好ましくはヒト、サル、マウス、ラットまたはブタ由来のBNP、特に好ましくはヒト由来のBNPである。
【0075】
また、CNPとBNPとのキメラペプチドの誘導体とは、これらCNPとBNPとのキメラペプチドのアミノ酸配列において好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加し、かつCNP活性またはBNP活性を有するものを意味する。
【0076】
置換可能なアミノ酸は、保存的アミノ酸置換が望ましい。保存的アミノ酸は,極性度や電荷の種類によって分類される。例えば、非極性の非電荷型アミノ酸にはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、等,芳香族アミノ酸にはフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、極性の非電荷型アミノ酸にはセリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンなど、負電荷アミノ酸にはアスパラギン酸、グルタミン酸、正電荷アミノ酸にはリジン、アルギニン、ヒスチジンが、それぞれ含まれる。このように、アミノ酸置換は、同じ分類に属する保存的アミノ酸どうしで置換することが望ましい。ただし、プロリンを他の非極性の非電荷型アミノ酸で置換する場合、あるいは、プロリン以外の非極性の非電荷型アミノ酸をプロリンで置換する場合には、プロリンが立体的に柔軟な構造ではないことに留意する必要がある。また、システインを他の極性の非電荷型アミノ酸で置換する場合、あるいは、システイン以外の極性の非電荷型アミノ酸をシステインで置換する場合には、システインが他のシステインとジスルフィド結合を形成しうることに留意する必要がある。
【0077】
また、CNPとBNPとのキメラペプチドの誘導体には、CNP活性またはBNP活性を有する限り、CNPとBNPとのキメラペプチドのC末端がアミド化されたもの、CNPとBNPとのキメラペプチドのC末端がメトキシ化されたもの、CNPとBNPとのキメラペプチドにポリエチレングリコールが付加したもの、CNPとBNPとのキメラペプチドに糖鎖が付加したもの、CNPとBNPとのキメラペプチドにアルキル鎖が付加したもの、ならびに、CNPとBNPとのキメラペプチドに脂肪酸が付加したものも含まれる。
【0078】
このように、本発明においては、CNP活性またはBNP活性を有することを条件として公知のいかなるCNPとBNPとのキメラペプチド、あるいは、その誘導体をも使用可能である。
【0079】
CNP活性またはBNP活性の有無については、公知の手段によって容易に確認することが可能であり、例えばNPR−A受容体発現細胞またはNPR−B発現細胞におけるcGMP産生活性を試験することにより確認することができる。
【0080】
本発明のCNPとBNPとのキメラペプチドおよびその誘導体は、化学合成あるいは遺伝子操作によって作製することも可能である。
【0081】
皮膚炎とは皮膚の炎症であり、一般的に、紅班、浸潤性紅班、苔癬化病変、鱗屑、痂皮付着、湿疹、掻爬、掻破痕、痒疹結節、丘疹、びらん、浸潤、小水疱および浮腫等の症状、特に、痒み、水疱、発赤、腫れ、じくじく感、かさぶた、鱗状化等の現象が見られる疾患である。
【0082】
本発明の皮膚外用剤組成物は、炎症を伴う皮膚炎患者に対して用いることが可能であり、特に限定されるものではないが、好ましくは、アトピー性皮膚炎、ステロイド皮膚症を生じた皮膚炎、ステロイド抵抗性の皮膚炎、タクロリムスを使用できない皮膚炎、慢性皮膚炎、紅皮症、湿疹、接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、自家感作性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、蕁麻疹、薬疹、皮膚血管炎、痒疹、皮膚掻痒症、紅班症、乾癬、酒さ、酒さ様皮膚炎、扁平苔癬または毛孔性角化症であり、より好ましくは、アトピー性皮膚炎、ステロイド皮膚症を生じた皮膚炎、ステロイド抵抗性の皮膚炎、タクロリムスを使用できない皮膚炎、慢性皮膚炎、湿疹、紅皮症、酒さ、酒さ様皮膚炎、乾癬であり、さらに好ましくは、アトピー性皮膚炎、ステロイド抵抗性の皮膚炎、慢性皮膚炎、湿疹、紅皮症、酒さ、酒さ様皮膚炎、乾癬であり、最も好ましくは、アトピー性皮膚炎を対象としたものである。
【0083】
ここで、皮膚外用剤組成物とは肌に直接外用する組成物を意味し、具体的には皮膚炎治療剤または肌質改善剤を意味する。剤形は、特に限定されるものではないが、好ましくは、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、ローション剤、液剤、スプレー剤またはパッチ剤であり、特に好ましくは軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤または液剤である。これら剤形は特に皮膚炎治療剤の剤形として好適である。また、本発明の皮膚外用剤組成物を肌質改善剤として適用する場合の好ましい剤形は、クリーム、泡沫剤、化粧水、パック、皮膚柔軟水、乳液、ファンデーション、メーキャップベース、エッセンス、石鹸、液体洗浄剤、入浴剤、日焼け止めクリーム、サンオイルまたはスプレー型液剤である。本発明の皮膚外用剤組成物を肌質改善剤として利用する場合は、スキンケア化粧料または医薬部外品であってもよい。
【0084】
また、本発明の皮膚炎治療剤としての皮膚外用剤組成物は、適応症状の観点からすると、紅班、浸潤性紅班、苔癬化病変、鱗屑、痂皮付着、湿疹、掻爬、掻破痕、痒疹結節、丘疹、びらん,浸潤、小水疱および浮腫から選ばれる少なくとも1つの皮疹症状を伴う皮膚炎に対して適用することができる。これらは、いずれもアトピー性皮膚炎患者に見られる各種症状である。
【0085】
上記アトピー性皮膚炎は、日本皮膚科学会によれば「増悪・寛解を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」皮膚炎であると定義されている。
【0086】
つまりアトピー性皮膚炎とは、アレルギー体質の人に生じる慢性の痒さを伴う湿疹であり、症状としては痒みを伴うこと、発疹は湿疹病変で、急性の病変としては赤くなり(紅斑)、ジクジクしたぶつぶつ(丘疹、漿液性丘疹)ができ、皮がむけてかさぶたになる(鱗屑、痂皮)状態を呈する皮膚の代表的な炎症疾患である。慢性の病変としてはさらに皮膚が厚く硬くなったり(苔癬化)、硬いしこり(痒疹)ができたりする。発疹はおでこ、目のまわり、口のまわり、くび、肘・膝・手首などの関節周囲、背中や腹などに出やすく、左右対称性に分布することが多いのが特徴である。乳児期は頭、顔にはじまりしばしば体幹、四肢に拡大していき、思春期、成人期になると上半身(顔、頸、胸、背)に皮疹が強い傾向がある。また、慢性、反復性に経過する傾向が高く、乳児では2ヵ月以上、その他では6ヵ月以上継続するものをいう。
【0087】
本発明の皮膚外用剤組成物、特に皮膚炎治療剤は、治療が難しいとされたこれらアトピー性皮膚炎の治療薬として極めて優れた有効性と安全性を示す。
【0088】
ステロイド皮膚症を生じた皮膚炎とは、ステロイド外用薬を長期に渡って使用し続けることによって起こるとされる一群の副作用が現れた皮膚炎である。特に、ステロイド外用薬の中止にともなってリバウンドを生じるような皮膚炎を指して、ステロイド皮膚症と呼ばれ、ステロイド酒さはステロイド皮膚症の典型例である。
【0089】
ステロイド抵抗性の皮膚炎とは、ステロイド外用剤を長期間にわたって使用することによってステロイド外用剤が効きにくくなった状態の皮膚炎である。アトピー性皮膚炎の治療にステロイド外用剤を長期間にわたって使用することによって生じやすい。
【0090】
タクロリムスを使用できない皮膚炎とは、妊婦の皮膚炎、2歳未満の乳・幼児の皮膚炎、ジュクジュクした潰瘍面や掻き傷のある皮膚炎、授乳する母親の皮膚炎である。免疫力の低下した患者の皮膚炎や、腎臓の悪い人の皮膚炎には慎重に使用する必要があることから、これらの皮膚炎もタクロリムスを使用できない皮膚炎に該当しうる。
【0091】
慢性皮膚炎とは、慢性化した難治性の皮膚炎である。慢性皮膚炎には、皮膚に接触した物質の刺激やアレルギーにより引き起こされる接触皮膚炎およびアトピー性皮膚炎が含まれる。
【0092】
乾癬は、慢性的であり、かつ、繰り返し再発する皮膚の病気であって、盛り上がった赤い皮疹(紅斑)が1つまたは複数生じ、銀白色のうろこ状の鱗屑を伴うことを特徴とする皮膚疾患である。
【0093】
紅皮症は、アトピー性皮膚炎や高齢者の湿疹に続いて発症するタイプの疾患であり、全身の皮膚が潮紅し、落屑(らくせつ)を伴う皮膚病で、剥脱性皮膚炎と言う場合もある。全身または広範囲の皮膚にびまん性の紅斑がみられる。紅皮症には、湿疹続発性紅皮症と皮膚疾患続発性紅皮症、中毒性紅皮症、乳児落屑性紅皮症,腫瘍随伴性紅皮症がある。このうち湿疹続発性紅皮症は、不適切なステロイド剤の長期外用の影響や、あるいは重症化などで汎発化して全身の皮膚が潮紅と落屑を呈する紅皮症と呼ばれる状態になったものである。紅皮症は、全身症状を伴う非常に難治性の疾患であり、通常、かゆみがあり、全身症状として発熱、悪寒や震えなどの体温調節障害、落屑に伴う低タンパク血症と浮腫、剥奪した皮膚からの水分喪失による電解質異常、リンパ節のはれ、全身の倦怠感、体重減少などを伴う。治療には、ステロイドの内服や外用が採用されるが、非常に難治性であるため、投薬を中止するとリバウンドですぐに再発してさらに増悪することがある。
【0094】
酒さは、通常は顔の中央部に発赤、小さい吹き出ものができ、皮膚上に血管がはっきりと見える状態を起こす持続性の皮膚疾患である。
【0095】
酒さ様皮膚炎は、紅色丘疹が多発、びまん性潮紅と落屑を伴い、成人女性に多い。ステロイド剤の長期外用が主な発症因子でステロイド剤外用の副作用として代表的なものの一つであり、治療には症状のリバウンドが激しく、これを乗り切る治療上の技術と患者の忍耐とを要する。
【0096】
痒疹は、症状としてかゆみに加えて発疹も引き起こす場合が多い。主な原因は、ヒゼンダニ、ダニ、シラミといった寄生虫によるもの、虫刺され、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、接触皮膚炎などがある。
【0097】
多形紅斑は、繰り返し再発する皮膚病であり、特徴として皮膚が赤く盛り上がり、射撃の的のように見える皮疹ができる。また、多形紅斑は、単純ヘルペスウィルスに感染した結果として症状が出る場合が多い。多くの場合、多形紅斑は突然発症して、症状として腕、脚、顔面に赤い皮疹(紅斑)が現れる。紅斑は、射撃の的のような同心円状に症状が現れ、水疱を伴うことがある。
【0098】
結節性紅斑は、皮膚の下に軟らかく赤い隆起(結節)ができる炎症性の疾患であり、他の病気の症状として、あるいは薬に対する過敏症として現れることが非常に多い。若い成人、特に女性が発症しやすく、数カ月から数年にわたって繰り返し再発する。細菌や真菌、ウイルスの感染から結節性紅斑が起こる場合もある。
【0099】
扁平苔癬(へんぺいたいせん)は、再発性のかゆみを伴う皮膚疾患である。症状としては小さい、赤か紫の隆起した皮疹ができる。最初は、皮疹は1つずつ離れているが、その後複数の発疹が融合して、ザラザラした、鱗状のかさつきを伴う丘疹となることが多い。
【0100】
毛孔性苔癬(もうこうせいたいせん)は、毛孔性角化症とも呼ばれる。毛包の開口部に、皮膚上層部から死んではがれ落ちる細胞(角質)が詰まる疾患である。
【0101】
接触皮膚炎には、刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎がある。前者は、酸、アルカリ、溶媒等の特定の刺激物質と皮膚が直接接触したことが原因で起こる皮膚の炎症である。発疹は強いかゆみを伴い、生じる部位は限定されていて、しばしば正常な皮膚との間に明確な境目が見られる。
【0102】
本発明の皮膚炎治療剤組成物は、汎用されている技術を用いて製剤化することができる。その製剤形態としては、外用剤、注射剤、経口剤、経鼻剤などを例示できる。経口剤とする場合は、胃におけるペプチド分解を避けるために、腸溶製剤とすることが望ましい。腸溶製剤としては、カプセル、錠剤や顆粒に腸溶性物質をコーテイングした製剤を挙げることができる。また一般に、ペプチド医薬品は代謝が速く、体外へ排泄されやすいため、生物活性に影響を与える事なく半減期を長くし、さらに抗原性も低下させるためにポリエチレングリコールによる修飾(PEG化)も可能である。
【0103】
本発明の皮膚炎治療剤組成物の好ましい剤形は、ゲル剤、軟膏剤、液剤等の外用剤(経皮吸収剤)である。
【0104】
外用剤は、特に制限されるものではなく、本剤を皮膚の所要部位(患部)に直接塗布、噴霧または貼付することができればよい。本発明の皮膚炎治療剤組成物の形態は、好ましくは、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、ローション剤、液剤、スプレー剤、パッチ剤等の外用剤であり、特に好ましくは塗布の簡便性の観点から、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、液剤であり、更に好ましくはゲル剤、軟膏剤、水溶液からなる液剤ある。
【0105】
これら外用剤は、CNPまたはBNPを有効成分あるいは主薬として、薬学的に許容される基剤と、必要に応じて各種添加剤を配合することにより、公知ないし周知の方法に従って容易に得ることができる。
【0106】
ゲル剤(懸濁性基剤)は、含水ゲル、無水ゲル、または膨潤可能なゲル形成性材料からなる低含水量のゲルのいずれであってもよい。また、ヒドロゲル基剤とリオゲル基剤のいずれであってもよいが、好ましくは無機または有機の高分子をベースとする透明なヒドロゲルである。油や脂肪分を含む製剤と同様、ゲルそれ自体は皮膚に吸収されない。ヒドロゲル基剤は、無脂肪性で軟膏のような稠度を有し、薬剤の経皮吸収性を高めることを狙ったものであり、リオゲル基剤は、ステアリルアルコール等をプロピレングリコール中に懸濁させてゲル化したものであり、経皮吸収性や吸湿性に優れている。
【0107】
本発明のゲル剤は、カルボキシルビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、(ビニルメチルエーテル/マレイン酸エチル)コポリマー、ポリメタクリレート、プロピレングリコール等を含む親水性ゲル基剤中に、有効成分であるCNPまたはBNPを均一に分散させたゲル剤であってもよい。そのようなゲル剤の例としては、例えば、アイエスピー・ジャパン社の市販の製品であるルブラジェルNP、ルブラジェルCG、ルブラジェルDV、ルブラジェルMS、ルブラジェルOILルブラジェルTW、ルブラジェルDS等の市販の持続性保水剤中に均一に分散させたゲル剤が含まれる。
【0108】
なお、本明細書において、「ゲル製剤」とは、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、塩酸ピリドキシン、キサンタンガムおよびビタミンEを含む、実施例2に従って作製したゲル剤をいう。また、本明細書において、「ゲルベース製剤」とは、実施例7、実施例13または実施例14に従って作製したゲル剤をいい、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、塩酸ピリドキシン、キサンタンガムおよびビタミンEを含まない点で「ゲル製剤」と異なる製剤である。本発明でいう「ゲル剤」には、「ゲル製剤」および「ゲルベース製剤」が含まれる。
【0109】
液剤は、CNPまたはBNPからなる有効成分を基剤としてのアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水などに溶解させたものであり、好ましくはCNPまたはBNPを生理食塩水に溶解した水溶液からなる液剤である。水溶液は、生理食塩水の他にアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール要の有機基剤を少量混合してもよい。
【0110】
このとき、生物学的利用率を確保し、より有効な液状製剤を提供するために、即ちCNPまたはBNPを含む生物活性ペプチドを皮下注射した際の生物学的利用率を改善することを目的として、生理活性ペプチドCNPまたはBNPを有効成分として、酪酸、乳酸,リン酸,グリシン、クエン酸,塩酸,プロピオン酸,酪酸,安息香酸またはこれら塩からなる群の1種または2種以上を組み合わせて酸性液としたり、あるいはアルコール類および/またはN-メチル−2−ピロリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルパラベンからなる群の1種または2種以上を組み合わせて極性有機液体とし、pHを3.0〜7.0とすることも可能である。
【0111】
軟膏剤は、油脂性基剤と水溶性基剤のいずれであってもよく、いずれも公知の方法に従って容易に得ることができる。ワセリン等の油脂性基剤は、刺激感が少なく無臭であり、皮膚の保護作用、柔軟化作用、痂皮除去作用、肉芽形成、上皮化促進作用に優れている。水溶性基剤は、マクロゴール基剤を主とする軟膏であり、水性分泌物を吸収し除去する作用が強い。
【0112】
クリーム剤(乳剤性基剤)は、水中油型基剤(O/W)(バニシングクリーム)であっても、油中水型基剤(W/O)(コールドクリーム)であってもよい。水中油型基剤は、水溶性成分に比較して油溶性成分が少なく、塗布した場合クリームの白さが消失するように見える利点を有する。伸びが良く、汗ばんだ皮膚にも使用感がよく、美容的に優れている。また、皮膚への吸収性にも優れているので、慢性の肥厚性病変に良い適応となる。油中水型基剤は、油溶性成分に比較して水溶性成分が少なく、皮膚に延ばして塗布すると冷却作用があるのでコールドクリームとも呼ばれることもある。
【0113】
ローション剤は、CNPまたはBNPを液中に溶解または均等に分散した、液状の外用剤を意味する。軟膏やクリームの場合は髪の毛に付着するので、ローションは頭髪部等で使用する際に好適である。ローションの形態は、懸濁性ローション基剤、乳剤性ローション、溶液性ローション基剤のいずれであってもよい。
【0114】
パッチ剤は、パッチにCNPまたはBNPを含有する成分を付着させて、パッチの気密性を利用して薬剤の吸収を促進させる。パッチを貼付することにより、掻破を防ぐことができる。
【0115】
スプレー剤は、CNPまたはBNPを溶液にして、ガスの圧力で噴霧するものである。広範囲に用いる際には便利である。
【0116】
このように、本発明の皮膚炎治療剤組成物は、それぞれ適量のCNPまたはBNPと各種基剤、必要に応じて添加物を配合してなる経皮外用剤である。外用剤としての薬効を発揮するためには、皮膚面に塗布された有効成分(CNPまたはBNP)がいかに病巣部で有効濃度に達し維持できるかが重要である。したがって、症状や患者に応じて適宜剤形と基剤の選択を行えばよい。
【0117】
また、添加物は、目的に応じて適宜使用することができる。添加物としては、以下のものが使用可能である。
【0118】
ワセリン:軟膏剤の基剤として使用することができる。温度により粘度・稠度が変化し冬季と夏季では硬さが異なるが、最も安全な基剤の1つである。黄色ワセリンと精製度の高い白色ワセリンがあるが、いずれの使用も可能である。
【0119】
プロピレングリコール:薬物の溶剤や溶解補助剤、基剤として使用することができる。
【0120】
パラフィン:軟膏剤の粘稠度の調節の際に使用することができる。乳化が比較的容易である為、クリーム製造の油性剤としても使用してもよい。
【0121】
ミツロウ(サラシミツロウ):ミツバチ巣のロウを加工したもので、植物性油脂と配合して「日局」単軟膏としても使用可能である。サラシミツロウは、ミツロウを漂白し色調および臭いを改善したものである。
【0122】
マクロゴール:ポリエチレングリコール類の分子量の異なるものの混合物である。薬剤の溶解性や混合性にも優れており、水分をよく吸収するので、粘膜や病巣患部の溶出液を吸着、排除する際に好適である。
【0123】
ステアリルアルコール:乳剤性ローション剤に使用することができる。
【0124】
イソプロパノール:溶剤または溶解補助剤等として使用できる。
【0125】
ベンジルアルコール:溶解補助剤、保存剤等として使用できる。
【0126】
パラオキシ安息香酸エステル類(パラベン類):防腐剤、保存剤、安定化剤として使用できる。
【0127】
ゲル化炭化水素:一般に「プラスチベース」と呼ばれ、流動パラフィンをポリエチレンでゲル状(半固形状)としたものである。
【0128】
クエン酸、クエン酸ナトリウム:緩衝剤やpH 調節剤として使用できる。
【0129】
スクワレン:基剤として使用され、流動パラフィンよりも油性感がやや少なくべたつきが少ない。クリームと同様乳剤性ローションにも広く使用可能である。
【0130】
ラノリン類:ヒツジの毛から得られた油脂で、色調と臭いに難点があるが皮膚の柔軟性を改善するのに有用である。
【0131】
グリセリン:保湿剤として、クリーム等に配合することができる。
【0132】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油:乳化剤、可溶化剤等として使用できる。
【0133】
ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル:乳化剤等として使用できる。
【0134】
本発明の皮膚炎治療剤は、更に、下記のごとき保湿剤(皮膚軟化剤)、症状緩和薬等を含有してもよい。
【0135】
保湿剤(皮膚軟化剤): 保湿剤は、皮膚に水分と油分を与える。保湿剤は、入浴やシャワーの直後のように皮膚がすでにうるおっているときに使うのが最も効果的である。保湿剤に含まれる成分は、グリセリン、鉱物油、ワセリンなどである。保湿剤の形状・タイプとしてはローション剤、クリーム剤、軟膏剤、バスオイルなどがある。尿素、乳酸、グリコール酸を含有するものは、保湿効果が優れている。
【0136】
症状緩和薬:皮膚疾患は、かゆみを伴うものが多い。かゆみと軽度の痛みは、鎮静剤、具体的にはカモミール、ユーカリ、樟脳(しょうのう)、メントール、酸化亜鉛、タルク、グリセリン、カラミン等を配合することによって低減することができる。アレルギーによるかゆみを抑えるために、ジフェンヒドラミンのような抗ヒスタミン薬を含有させてもよい。
【0137】
このように、本発明の皮膚炎治療剤を製造するに際しては、各種の、基剤、保湿剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート類、pH調製剤、防腐剤、増粘剤、着色剤、香料、充填剤、賦形剤、崩壊剤、増量剤、結合剤、皮膜剤、可溶化剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、界面活性剤、抗酸化剤、分散剤、乳化剤、溶解剤、溶解補助剤等を任意に組み合わせて配合できる。また、主薬成分であるCNPまたはBNPの他に、各種薬剤、例えば鎮痛消炎剤、殺菌消毒剤、ビタミン類、皮膚柔軟化剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。
【0138】
本発明の皮膚外用剤組成物を肌質改善剤として使用する場合には、スキンケア化粧料または医薬部外品として使用することが可能であり、具体的な使用形態としては、クリーム、泡沫剤、化粧水、パック、皮膚柔軟水、乳液、ファンデーション、メーキャップベース、エッセンス、石鹸、液体洗浄剤、入浴剤、日焼け止めクリーム、サンオイルまたはスプレー型液剤を挙げることができる。いずれも周知ないし高知の製剤化技術を適用することにより容易に製造することができる。
【0139】
次に、本皮膚炎治療剤組成物の代表的な製剤例として、液剤としての水溶液製剤およびゲル剤の製造について述べる。
【0140】
本発明において、好ましい外用剤の1つが水溶液製剤である。
このような水溶液製剤は、例えば、主剤としての0.01mg〜10mgのヒトCNP−22(株式会社ペプチド研究所製)またはヒトBNP−32(株式会社ペプチド研究所製)を10mlの生理食塩水に溶解することによって、それぞれCNP濃度またはBNP濃度が1〜1000μg/gの液剤を調製することができる。なお、水の比重は1であることから、この場合のCNP濃度またはBNP濃度は重量比で1〜1000μg/gである。配合割合が1μg/g以下では効果が十分でなく、また、500μg/gを超えて配合しなくても十分な効果がえられる。CNPまたはBNPの水溶液製剤の好ましい濃度は1〜500μg/g、より好ましくは10〜500μg/g、さらに好ましくは20〜200μg/g、特に好ましくは30〜100μg/gである。
【0141】
ゲル剤は、公知ないし周知の方法に従って、蒸留水または生理食塩水に適量のCNPまたはBNPを溶解して水溶液となし、さらにこれと公知ないし周知のゲル化剤を混合して撹拌することによって得ることができる。ゲル剤中の最終的なCNPまたはBNPの濃度が1〜500μg/g、より好ましくは10〜500μg/g、さらに好ましくは20〜200μg/g、特に好ましくは30〜100μg/gとなるように調製するのが好ましい。
【0142】
高分子無機成分からなるゲル化剤としては、含水のまたは吸水性のケイ酸塩、例えばケイ酸アルミニウム、例えばベントナイト、ケイ酸マグネシウム−アルミニウム、またはコロイドシリカを挙げることができる。高分子有機物質からなるゲル化剤としては、天然、半合成または合成のポリマーの使用が可能である。天然および半合成のポリマーとしては、例えば、セルロース等の多糖類、デンプン、トラガカント、アラビアゴム、キサンタンガム、寒天、ゼラチン、アルギン酸およびその塩、例えばアルギン酸ナトリウムおよびその誘導体、低級アルキルセルロース、例えばメチルセルロースまたはエチルセルロース、カルボキシ−またはヒドロキシ−低級−アルキルセルロース、例えばカルボキシメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。合成のゲル化剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸またはメポリタクリル酸等を挙げることができる。これらゲル化剤は、1種類であっても2種類以上のゲル化剤混合物であってもよい。
【0143】
また、所望に応じ、経皮吸収助剤を添加してもよい。この経皮吸収助剤としては、例えば酢酸、酢酸ナトリウム、リモネン、メントール、サリチル酸、ヒアルロン酸、オレイン酸、N,N−ジエチル−m−トルアミド、ステアリン酸n−ブチル、ベンジルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ポリプロピレングリコール、クロタミトン、ジエチルセバケート、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、ラウリルアルコールなどが挙げられる。さらに、防腐剤や酸化防止剤なども、所望に応じ添加してもよい。
【0144】
本皮膚炎治療剤組成物中のCNPまたはBNPの濃度は、症状、年令、剤型等を考慮して適宜選択できる。好ましいCNPまたはBNPの濃度は、液剤、ゲル剤、ローション剤等の外用剤に対して1〜500μg/g、より好ましくは10〜500μg/g、さらに好ましくは20〜200μg/g、特に好ましくは30〜100μg/gである。低年齢の患者や肌の弱い患者に対しては20〜100μg/gの濃度のものを使用するのが好ましい。ゲル剤ないし軟膏剤における好ましいCNPまたはBNPの濃度は1〜500μg/g、より好ましくは10〜500μg/g、さらに好ましくは20〜200μg/g、特に好ましくは30〜100μg/gである。また、液剤における好ましいCNPまたはBNPの濃度は1〜500μg/ml、より好ましくは10〜500μg/ml、さらに好ましくは20〜200μg/ml、特に好ましくは30〜100μg/mlである。なお、本発明の液剤に用いる溶液はその比重がほぼ1であることから、液剤において、μg/gの単位でCNPまたはBNPの濃度を表記した場合には、μg/mlの単位でCNPまたはBNPの濃度を表記した場合と同じ意味を有する。
【0145】
本皮膚炎治療剤組成物の投与は、症状、年令、剤型等によって異なるが、標準的には1日1回〜2回、投与期間は1日から10日である。
【実施例】
【0146】
〔実施例1〕
被験者の診断と評価。
まず、本CNP製剤またはBNP製剤の投与に先だって被験者の診断と評価を行った。被験者の診断と評価方法は下記のとおりである。
【0147】
1.被験者の診断;
被験者は、いずれも、ステロイド等の既存の外用薬を使用しても効果が認められない患者である。これら被験者の診断と処置は、本発明者が医師として実施した。
【0148】
2.症状の評価;
アトピー性皮膚炎の症状の評価は、原則的に「厚生労働省科学研究班アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」(以下、単に「ガイドライン2005」と呼ぶ)に従って表1の通り、4段階に分類して行った。
【0149】
【表1】

【0150】
また、各部位の皮疹の重症度は、「日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」(以下、単に「皮膚科学会ガイドライン」と呼ぶ)に従って表2の通りに判定した。
【0151】
【表2】

【0152】
また、各部位の皮疹の重症度は、European Task Force on Atopic Dermatitis が提唱して世界的に頻用されているSCORAD (SCORing of Atopic Dermatitis)インデックスによる判定も併せて行なった。SCORADインデックスとは、範囲%(A)、皮疹の強さ(B)、自覚症状(C)の合計点で点数化して重症度を分類するものである。今回の評価においては、紅班、浮腫/丘疹、浸出液/痂皮、掻破痕、苔癬化、乾燥の6項目の皮疹の強さ(B)について、0:なし 1.軽症 2.中等症 3.重症の4段階の評価を行った。総合指数は、塗布した部位が全身ではなく限られた部分だけであるため、SCORADによる重症度分類の所定の算定式によって総合点を算出したのではなく塗布部位の皮疹の強さの6項目のスコアを塗布前と塗布後で単純に合計したもので示した。治療の主体である外用療法の選択は個々の皮疹の重症度により決定されるので、個々の皮疹の重症度が、外用療法の選択と、治療効果の予測に最も重要な指針である。SCORADインデックスの詳細は、例えば、C.Gelmetti and C. Colonna, Allergy 59巻,補遺78,61頁,2004年に解説されている。
【0153】
3.試験方法;
一般に、個々の症例に対する外用薬の効果を確認するためには、左右塗り分け法が好適である。左右塗り分け法は、例えば、疾患部位の左側には試験すべき有効成分を含んだ外用薬を塗布し、右側には有効成分を含まない外用薬を塗布して、その治療効果を確認する方法である。本発明製剤の試験も、予備試験においては左右塗り分け法に従って行った。ただし、医療倫理に鑑み、左右塗り分け法による予備試験は最小限にとどめ、予備試験を行なわない場合には、塗布前と塗布後の比較により、治療効果を判定した。
【0154】
〔実施例2〕
1.CNPゲル製剤の製造;
パラオキシ安息香酸メチルエステル(商品名:メッキンスM、上野製薬製)0.1g、 フェノキシエタノール0.2g、1,2−ペンタンジオール3.0g、濃グリセリン6.0g、グリチルリチン酸ジカリウム0.1g、アラントイン0.1gおよび塩酸ピリドキシン0.05gを精製水75.72gに加えて溶解した。次に、この溶液に昭和電工社製のルブラジェル(精製水4.674g、カルボキシビニルポリマー0.12g、ポリアクリル酸ナトリウム0.006g、グリセリン1.2gからなる混合物) 6.0g、カルボキシビニルポリマー(商品名:カーボポール940、ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ社製)0.44gおよびキサンタンガム(商品名:ケルトロールT、、CP KELCO社製)の1%溶液8.00gを加えて撹拌混合した後、さらに天然ビタミンEを0.04g加えて均一な混合溶液とした。最後に、中和のための水酸化カリウム0.25gを加えて溶液を十分に撹拌してゲル状にすることによってゲル剤を得た。
【0155】
CNPゲル製剤は、主剤としての3mgのヒトCNP−22(株式会社ペプチド研究所製)を3mlの生理食塩水に溶解して得られた溶液100μlを400μlの生理食塩水で希釈し、200μg/ml濃度に調製し、この溶液1.5mlを上記で得た8.5gのゲル剤に混合し、撹拌することによって調製した。該ゲル製剤のCNP濃度は30μg/gである。
【0156】
〔実施例3〕
2.CNP水溶液製剤の製造;
主剤としての3mgのヒトCNP−22(株式会社ペプチド研究所製)を3mlの生理食塩水に溶解して得られた溶液100μlに生理食塩水900μlで希釈してCNP濃度100μg/mlの水溶液製剤を調製した。また、同様にしてCNP濃度が、それぞれ50μg/mlおよび200μg/mlの水溶液製剤を調製した。
【0157】
〔実施例4〕
3.被験者の診断;
本発明のCNPゲル製剤およびCNP水溶液製剤の投与に先だって、被験者への問診、アレルゲンに対するScratch試験、診断を行った。表3(被験者1〜5)および表5(被験者6〜10)に、それら被験者への問診、診断結果、即ち、各症例における被験者の性別、年齢、発症経緯と経過、家族歴、既 往 歴、Scratch試験結果、診断所見、「ガイドライン2005」に基づく症状の評価を示す。
【0158】
〔実施例5〕
4.被験者の治療効果;
本発明のCNPゲル製剤およびCNP水溶液製剤の治療効果を表4(被験者1〜5)および表6(被験者6〜10)に示す。表4および表6において、「掻痒感」とは、Visual analogue scale法を用いて評価した掻痒感を治療の前後で比較したものである。同様に、「非再燃期間」とは、症状が軽快した後に本発明の製剤による治療を中断しても症状が再燃しなかった期間を示す。なお、客観的に評価するために、全症例についてCNP製剤を塗布する前後の写真を記録した。そのうち、一部の症例の写真を図に示した。
【0159】
【表3】

【0160】
【表4】

【0161】
【表5】

【0162】
【表6】

【0163】
〔実施例6〕表3ないし表6にまとめたCNPゲル製剤およびCNP水溶液製剤の試験例の詳細を以下に示す。
CNPゲル製剤試験例1(症例1;被験者1;表3および表4を参照)
予備試験
症例1の被験者の顔面および頚部には、紅班、浸潤性紅班、鱗屑が観察された。これら紅班、浸潤性紅班、鱗屑に対してはステロイド外用薬での効果が見られなかった。
そこで、被験者の顔面および頚部の右側のみに本発明のCNPゲル製剤を塗布し、左側には有効成分としてのCNPを含有しないゲルをそれぞれ1日2回塗布して症状を観察した。用いたCNPゲル製剤は、実施例2で得られたCNPゲル製剤(30μg/g)である。
予備試験結果
塗布後10分で、CNPゲル製剤を塗布した右側は自覚症状としてほてり感が沈静化し、さらに30分経過後には紅班もやや軽快しはじめた。また、CNPゲル製剤塗布による刺激症状は全くないとのことであった。
治療とその結果
上記予備試験の所見から本発明のCNPゲル製剤が本症例に有効であり、かつ副作用がないと判断し、1日2回左右両側の顔面および頚部への塗布を開始した。その結果、治療開始から4日後には紅班が著明に軽快し、さらに、鱗屑が消失し肌の肌理が細かく整って肌ざわりが柔らかくなった。また、CNPゲル製剤を塗布する前の掻痒感を10とした場合、塗布後は掻痒感が完全に消失して0であった。なお、掻痒感の評価はVisual analogue scale法で行った。
その後の経過を観察したところ、4日ないし5日程度CNPゲル製剤の塗布を中止した場合には、軽微な紅班と鱗屑の再発が観察されたが、急性に悪化することはなく、数日CNPゲル製剤を塗布することによって症状は軽快し、遷延することはなかった。また、生理前増悪にも有効であり、朝、夕2回の塗布で翌朝には症状が軽快し、炎症症状に乏しくほぼ正常と言える状態までになった。
【0164】
CNPゲル製剤試験例2(症例6;被験者2;表3および表4を参照)
治療とその結果
症例6の被験者は、全身に睡眠障害を伴う掻痒を伴う浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班が認められるとともに、顔面にも高度の鱗屑、強いほてり感がある浸潤性紅班が認められた。加えて、長年のステロイド外用療法によると思われる湿疹続発性紅皮症状態にあり、全身の潮紅と落屑が認められた。顔面の皮疹の重症度は、高度の浸潤、紅班、多数の掻破痕を主体とするものであった。
そこで、左右塗り分け法で、まず右側顔面のみに実施例2で得た濃度30μg/gのCNPゲル製剤を塗布し、左側顔面にはゲルのみを塗布した。その結果、CNPゲル製剤を塗布した直後に右側で自覚症状としてほてり感が沈静化し、さらに紅班も軽快し始めた。また、CNPゲル製剤塗布による刺激症状も全く認められなかった。
引き続いて、濃度30μg/gのCNPゲル製剤を1日2回、両側顔面および頚部に塗布した。その結果、著効を示し、3日後には紅班がほぼ消失し、さらに、鱗屑が消失して肌の肌理が細かく整った。
顔面の皮疹の重症度は、本CNPゲル製剤の塗布により、日本皮膚科学会ガイドラインによる分類で、重症から軽症にまで改善された。また、本CNPゲル製剤の塗布により、掻痒感はVisual analogue scale法で10から1に改善された。
その後の経過を観察したが、本CNPゲル製剤を中止して3日目頃から軽度の紅班が再発したが、それ以上悪化することはなかった。この場合、再び本CNPゲル製剤の塗布を開始すると、3日ないし4日目にはこれら症状は見られなくなった。
【0165】
CNPゲル製剤試験例3(症例5;被験者3;表3および表4を参照)
治療とその結果
本試験では、背部におけるCNPゲル製剤の吸収性を確認することを主な試験目的とした。
症例5の被験者は、全身に中等症から重症までの紅班、鱗屑、掻破痕が認められ、背中の皮疹の重症度は、高度の腫脹、浮腫を伴う紅班、鱗屑を主体とするものであった。
そこで、左右塗り分け法で、被験者の背部左側のみに実施例2で得た濃度30μg/gのCNPゲル製剤を20分おきに2回塗布し、背部右側にはゲルのみを塗布した。その結果、45分後には左側で腫脹を伴う紅班が著明に改善し、軽度の紅班を主体とする軽症に改善された。表4中の記載は、このときのCNPゲル製剤による治療効果を評価したものである。
また同被験者の顔面と頚部に、左右塗り分けはせずに、上記ゲル製剤(濃度30μg/g)を1日2回、3日間塗布した。その結果、顔面と頚部における紅班、鱗屑は軽度と判定されるまでに顕著に改善された。即ち、顔面と頚部の、日本皮膚科学会ガイドライン分類で、重症から軽症にまで改善された。
この試験結果から、本発明のCNPゲル製剤は、上記のように顔面、頚部、前腕部のみならず、背部に対しても優れた経皮吸収性を有することが明らかになった。
【0166】
CNPゲル製剤試験例4(症例9;被験者4;表3および表4を参照)
治療とその結果
症例9の被験者は、全身型で掻痒のある湿疹を繰り返している女児であり、全身に紅班、丘疹、鱗屑、多数の掻破痕が認められた。また、両側前腕部に紅班、丘疹、鱗屑、多数の掻破痕が認められた。
そこで、まず、右側前腕部のみに実施例2で得た濃度30μg/gのCNPゲル製剤を塗布した。塗布は、20分おきに2回行った。その結果、右肘窩の落屑性紅班、浸潤が軽快し、前腕の紅班、丘疹、鱗屑も改善された。
この症例で特筆すべきことは、この効果が、外来診察時に2回塗布しただけで、良好な状態が2週間以上にわたって持続したことである。本試験の結果、鱗屑が消え肌理が細かい柔らかい皮膚になることが、乳児においても認められた。
【0167】
CNPゲル製剤試験例5(症例10;被験者5;表3および表4を参照)
治療とその結果
症例10の被験者は、幼少時から発症し、掻痒のある湿疹を繰り返し、全身型で睡眠障害を伴う掻痒を伴う浸潤性紅班、苔癬化病変、鱗屑が認められ、悪寒を伴い、湿疹続発性紅皮症と診断される症例である。特に上肢では強いほてり感がある浸潤性紅班が難治性を示していた。両側上肢の皮疹は高度の腫脹、浸潤、紅班、びらんを主体としたものであり、多数の掻爬痕が認められた。
被験者に対して、左右塗り分け法で、右側の上肢にのみ実施例2で得た濃度30μg/gのCNPゲル製剤を20分おきに塗布し、左上肢にはゲルのみ塗布した。その結果、60分後には、CNPゲル製剤を塗布した右側は自覚症状としてほてり感が沈静化し、右側の浸潤、鱗屑、紅班が、塗布前の右腕と比べても、CNPを添加していないゲル剤を20分おきに3回塗布した左腕と比べても、著明に改善した。本被験者に本発明のCNPゲル製剤を適用した場合の図面代用写真を図1に示した。
【0168】
CNP水溶液製剤試験例1(症例2;被験者6;表5および表6を参照)
予備試験
症例2の被験者は、顔面の皮疹が、高度の腫脹、浸潤、ないし苔癬化を伴う紅班、丘疹、びらん,多数の掻破痕を主体としていた。また、自覚症状としてほてり感があった。また、本被験者はヘルペスウィルス感染性を繰り返して発症している経緯があり、タクロリムス外用療法ができない症例である。
試験例1との場合と同様に、まず被験者の右側顔面にのみに実施例3で得られた濃度100μg/mlのCNP水溶液製剤を塗布し、左側には生理食塩水溶液のみ塗布した。
予備試験結果
塗布後10分で、CNP水溶液製剤を塗布した右側顔面でほてり感が沈静化し、さらに30分経過後には右側顔面の紅班もやや軽快し始める。また、CNP水溶液製剤塗布による刺激症状は全くないとのことであった。ほてり感と重苦しさが軽快し肌に浸透する感じがあるために、自覚症状の軽減に有効であると考えられる。また、浸潤と紅班の明らかな改善が確認された。
治療とその結果
上記予備試験の所見から本発明のCNP水溶液製剤が本症例に有効であり、かつ副作用がないと判断し、1日2回、左右両側顔面および頚部への塗布を開始した。その結果、4日後には紅班が著明に軽快し、さらに、鱗屑が消失し、肌の肌理が細かく整った。また、CNP水溶液製剤を塗布する前の掻痒感はVisual analogue scale法で10であったが、塗布後は著明に改善され、その値は1であった。
その後の経過を観察したところ、4日ないし5日程度の塗布中止により軽度の紅班が再発したが、それ以上悪化することはなかった。また、塗布中止による軽度の紅班の再発は、3日ないし4日の投与再開で再び改善された。本被験者に本発明のCNP水溶液製剤を適用した場合の図面代用写真を図2に示した。
なお、本被験者は本CNP水溶液製剤の継続的な塗布により著しく症状が改善され、化粧することも可能となった。また、本試験により、タクロリムス外用療法ができないヘルペスウィルス感染性合併の患者にも外用できる安全性と有効性が確認できた。
用量設定試験
本被験者を対象として用量設定試験を行った。CNP濃度が50μg/mlのCNP水溶液製剤は、100μg/mlの場合に比べて傷の治りがやや遅くなり、皮膚もややカサカサしていた。CNP濃度が200μg/mlのCNP水溶液製剤は、依然として刺激はないが、効果が倍増するということはなかった。
【0169】
CNP水溶液製剤試験例2(症例7;被験者7;表5および表6を参照)
治療とその結果
症例7の被験者は、四肢および顔面に浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕が認められ、顔面の皮疹は、苔癬化を伴う紅班、丘疹、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体とするものであった。
そこで、左右塗り分け法で、まず右側顔面のみに実施例3で得た濃度100μg/mlのCNP水溶液製剤を塗布し、左側顔面には生理食塩水溶液のみを塗布した。
その結果、20分後には右側顔面で自覚症状としてほてり感が沈静化し、紅班もやや軽快し始めた。本CNP水溶液製剤塗布による刺激症状も全く認められなかった。本CNP水溶液製剤塗布を開始して4日目には、顔面の浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕のすべてが著明に改善した。本CNP水溶液製剤の塗布により、掻痒感はVisual analogue scale法で10から自覚的には掻痒感が全くない0に改善された。また、顔面の皮疹の重症度は、本CNP水溶液製剤の塗布により、日本皮膚科学会ガイドラインによる分類で、重症から軽症にまで改善された。その後も経過を観察したが、本CNP水溶液製剤の投与中止後も紅班の再発は認められていない。本被験者に本発明のCNP水溶液製剤を適用した場合の図面代用写真を図3に示した。
【0170】
CNP水溶液製剤試験例3(症例8;被験者8;表5および表6を参照)
治療とその結果
症例8の被験者は、全身に睡眠障害を伴う掻痒を伴う浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班が認められ、また、掻痒のある湿疹の繰り返しによる高度の浸潤、紅班が全身におよび、ストロンゲストのステロイド外用薬を塗らないと浸出液が出てくる状態であった。
そこで、ステロイド外用薬で効果が見られない顔面および頚部の紅班、浸潤性紅班、鱗屑に対して、実施例3で得た濃度100μg/mlのCNP水溶液製剤を塗布することを試みた、塗布回数は、1日2回とした。
左右塗り分け法で、まず右側顔面および頚部のみにCNP水溶液製剤を20分間隔で2回塗布し、左側には生理食塩水溶液のみ塗布した。その結果、右側では、浸潤と紅班がやや軽快しはじめた。本CNP水溶液製剤塗布による刺激症状も全く認められなかった。
引き続き、1日2回、両側顔面および頚部にCNP水溶液製剤を塗布した。その結果、3日後には紅班と浸潤が軽快し、びらんも軽減された。本CNP水溶液製剤の塗布により、掻痒感が軽減され、掻痒感はVisual analogue scale法で10から4に改善された。塗布を開始して3日後の皮疹の重症度は、ガイドライン2005基準で最重症から中等症にまで改善された。その後さらに7日間CNP水溶液製剤を1日2回継続塗布したところ、皮疹はさらに改善され、中等度の浸潤性紅班が軽度の紅班にまで改善された。
【0171】
CNP水溶液製剤試験例4(症例3;被験者9;表5および表6を参照)
治療とその結果
症例3の被験者は、浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕が全身に認められ、顔面の皮疹は、苔癬化を伴う紅班、丘疹、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体としていた。
被験者の左右両側顔面への濃度100μg/mlのCNP水溶液製剤を塗布した。その結果、10分後にはパンパンに張った感じの自覚症状が改善され、さらに30分経過後から紅班も軽快し、触った感じも柔らかく、肌理が整ってきた。外用時の刺激症状は全くなく、びらんや掻破痕の上皮化に対する有効性も確認された。さらに、鱗屑が減り、肌理が細かくなるなどの改善所見が得られた。CNP水溶液製剤100μg/ml塗布4日後には浸潤性紅班、苔癬化病変、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕すべてが著明に改善した。塗布前の掻痒感を10とすると自覚的には全然掻痒感がなく0であるという。
CNP水溶液製剤塗布後における顔面の紅班の重症度は炎症症状に乏しく、乾燥症状もほとんど見られず、「皮膚科学会ガイドライン」による皮疹の重症度分類は、重症から軽微へと顕著に改善された。
以上の所見からCNP水溶液製剤が本症例に非常に有効であると判断された。その後の経過観察においても、本製剤の投与を中止した後にも紅班の再発は認められていない。
【0172】
CNP水溶液製剤試験例5(症例4;被験者10;表5および表6を参照)
治療とその結果
本試験では、経皮吸収性が顔面より劣るとされる前腕部における本発明CNP製剤の吸収性を確認することを主な試験目的とした。
症例4の被験者は、全身に中等度の紅班、鱗屑、掻破痕が認められ、前腕部の皮疹の重症度は、高度の腫脹を伴う紅班、鱗屑、掻破痕を主体とするものであった。
そこで、右側の前腕部に濃度100μg/mlのCNP水溶液製剤100μlを20分おきに3回塗布し、左側前腕部には生理食塩水溶液のみを塗布した。その結果、60分後にはCNP水溶液製剤を塗布した右側前腕部の自覚症状として掻痒感が軽快し、紅班も著明に改善され、炎症症状と乾燥症状もほとんど消滅した。水溶液製剤の塗布に伴う刺激症状も全くなかった。このように、本発明のCNP水溶液製剤は、前腕部における本症例においても著効を示した。このことは、薬剤吸収率が比較的高いとされる顔面以外の部位、例えば前腕部における疾患にも有効であることを示すものである。前腕部における皮疹は、CNP水溶液製剤投与により、日本皮膚科学会ガイドライン分類で、重症から軽微にまで改善された。また、CNP水溶液製剤の塗布により、掻痒感はVisual analogue scale法で10から1に改善された。
【0173】
次に、CNPゲルベース製剤について試験を行った。「ゲルベース製剤」は、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、塩酸ピリドキシン、キサンタンガムおよびビタミンEを含まない点で「ゲル製剤」と異なる製剤である。これらの薬効を有する可能性のある成分を排除した製剤でCNPの効果を確認することにより、CNP自体の薬効であることがより明確になる。
【0174】
〔実施例7〕
1.CNPゲルベース製剤の製造;
ゲルの調製は次のようにして行った。
パラオキシ安息香酸メチルエステル(商品名:メッキンスM、上野製薬製)0.1g、フェノキシエタノール0.2g、1、2ペンタンジオール3.0gを同一容器に秤量し、これを60〜70℃で溶解して混合釜に投入した。さらに濃グリセリン6.0gを投入し、カルボキシビニルポリマー(商品名:カーボポール940、ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ社製)0.44gとキサンタンガム(商品名:ケルトロールT、CP KELCO社製)0.08gの混合物を加えてパドル15rpmで撹拌し十分に分散させた。次にパドル15rpmで撹拌しつつ精製水83.95gを徐々に投入し、釜温を70〜80℃、パドル20rpm、デイスパー1,500〜2,000rpmで撹拌溶解した。デイスパーは停止して溶解を確認し、直ちに冷却を開始し、釜温が40℃付近にしてから、アイエスピー・ジャパン社製のルブラジェルNPを6.0g(グリセリン2.7g、カルボキシビニルポリマー0.06g、ポリアクリル酸ナトリウム0.018g、水3.222g)加えてパドル20rpmで均一に混合し、更に水酸化カリウム0.230gを加えて溶液を中和し、釜温が25℃に達した時点で、パドルの回転を停止してゲルベースを作成した。
次いで、主剤としての3mgのヒトCNP−22(株式会社ペプチド研究所製)を3mlの生理食塩水に溶解して得られた1000μg/mlの濃度のCNP溶液1mlを上記で得られたゲルベース19gに均一に撹拌混合して50μg/g濃度のゲルベース製剤を作成した。
同様に、上記の1000μg/mlの濃度のCNP溶液600μlを400μlの生理食塩水で希釈し、600μg/ml濃度に調製し、この溶液1mlを上記で得られたゲルベース19gに均一に撹拌混合して30μg/g濃度のゲルベース製剤を作成した。
【0175】
〔実施例8〕
2.被験者の診断;
本発明のCNPゲルベース製剤の投与に先だって、被験者への問診、アレルゲンに対するScratch試験、診断を行った。表7(被験者11〜15)および表9(被験者16〜20)に、それら被験者への問診、診断結果、即ち、各症例における被験者の性別、年齢、発症経緯と経過、家族歴、既 往 歴、Scratch試験結果、診断所見、「ガイドライン2005」に基づく症状の評価を示す。
【0176】
〔実施例9〕
3.被験者の治療効果;
本発明のCNPゲルベース製剤の治療効果を表8(被験者11〜15)および表10(被験者16〜20)に示す。表8および表10において、「掻痒感」とは、Visual analogue scale法を用いて評価した掻痒感を治療の前後で比較したものである。同様に、「非再燃期間」とは、症状が軽快した後に本発明の製剤による治療を中断しても症状が再燃しなかった期間を示す。なお、客観的に評価するために、全症例についてCNP製剤を塗布する前後の写真を記録した。そのうち、一部の症例の写真を図に示した。
表7ないし表10に示したとおり、アトピー性皮膚炎に対して、本発明のCNPゲルベース製剤を1日2回、2日〜4日間、患部に塗布するだけで、掻痒感がほとんどなくなり、皮膚科学会ガイドラインによる外見的な皮疹重症度によっても、SCORAD法による外見的な皮疹重症度によっても、著明な改善を示した。
本発明のCNPゲルベース製剤は、30μg/gでも50μg/gでもほぼ同等に有効であり、男女を問わず、21歳から39歳にわたる幅広い年齢層において、効果を示した。また、顔面、頚部、上肢のいずれの部位にも有効であった。さらに、ハウスダストとダニに対する免疫反応性を有する患者から、ハウスダスト、ダニ、スギ、カモガヤ、ブタクサのすべてのアレルゲンに対して免疫反応性を有する患者に渡る幅広い免疫反応性を有する患者のいずれにおいても、そのアトピー性皮膚炎を改善した。
本発明のCNPゲルベース製剤は、家族性のアレルギー素因を有する患者のアトピー性皮膚炎を著明に改善した。また、本発明のCNPゲルベース製剤は、幼少時に発症して再発を繰り返してきた被験者11〜被験者18のアトピー性皮膚炎に対しても、その症状を著明に改善した。さらに、本発明のCNPゲルベース製剤は、再発を繰り返してきた難治性のアトピー性皮膚炎の症状を著明に改善した。さらにまた、ステロイド外用療法でも軽快しないアトピー性皮膚炎に対しても、本発明のCNPゲルベース製剤はその症状を著明に改善したことは、驚くべきことである。加えて、本発明のCNPゲルベース製剤の塗布を中止した後、少なくとも5日間、長い場合には2週間以上にわたってアトピー性皮膚炎の再燃が見られなかったことは、特筆に値する。
なお、本発明のCNPゲルベース製剤は、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、塩酸ピリドキシン、キサンタンガムおよびビタミンEを含まない点で「ゲル製剤」と異なる製剤であるので、上記のアトピー性皮膚炎に対する治療効果は、CNP自体の薬効であることがより明確に確認された。
【0177】
【表7】

【0178】
【表8】

【0179】
【表9】

【0180】
【表10】

【0181】
〔実施例10〕
1.CNP軟膏製剤の製造;
軟膏剤の調製は、主剤としての3mgのヒトCNP−22(株式会社ペプチド研究所製)を3mlの生理食塩水に溶解して得られた1000μg/mlの濃度のCNP溶液1mlを9gの日本薬局方の白色ワセリンに高速撹拌で均一に混合し、撹拌することによって、100μg/g濃度に調整した。
同様に、上記の1000μg/mlの濃度のCNP溶液500μlを500μlの生理食塩水で希釈し、500μg/ml濃度に調製し、この溶液1mlを9gの日本薬局方 白色ワセリンに高速撹拌で均一に混合し、撹拌することによって、50μg/g濃度に調整した。
また、上記の1000μg/mlの濃度のCNP溶液300μlを700μlの生理食塩水で希釈し、300μg/ml濃度に調製し、この溶液1mlを9gの日本薬局方 白色ワセリンに高速撹拌で均一に混合し、撹拌することによって、30μg/g濃度に調整した。
【0182】
〔実施例11〕
2.被験者の診断;
本発明のCNP軟膏製剤の投与に先だって、被験者への問診、アレルゲンに対するScratch試験、診断を行った。表11(被験者21〜25)、表13(被験者26〜30)および表15(被験者31〜35)に、それら被験者への問診、診断結果、即ち、各症例における被験者の性別、年齢、発症経緯と経過、家族歴、既 往 歴、Scratch試験結果、診断所見、「ガイドライン2005」に基づく症状の評価を示す。
【0183】
〔実施例12〕
3.被験者の治療効果;
本発明の軟膏剤の治療効果を表12(被験者21〜25)、表14(被験者26〜30)および表16(被験者31〜35)に示す。表12、表14および表16において、「掻痒感」とは、Visual analogue scale法を用いて評価した掻痒感を治療の前後で比較したものである。同様に、「非再燃期間」とは、症状が軽快した後に本発明の製剤による治療を中断しても症状が再燃しなかった期間を示す。
表11ないし表16に示したとおり、アトピー性皮膚炎に対して、本発明のCNP軟膏製剤を1日2回、2日〜3日間、患部に塗布するだけで、掻痒感がほとんどなくなり、皮膚科学会ガイドラインによる外見的な皮疹重症度によっても、SCORAD法による外見的な皮疹重症度によっても、著明な改善を示した。なお、客観的に評価するために、全症例についてCNP製剤を塗布する前後の写真を記録した。そのうち、一部の症例の写真を図に示した。
本発明のCNP軟膏製剤は、30μg/gでも50μg/gでも100μg/gほぼ同等に有効であり、男女を問わず、3歳から56歳にわたる幅広い年齢層において、効果を示した。また、顔面、頚部、背部、上肢のいずれの部位にも有効であった。さらに、ハウスダストとダニとカモガヤに対する免疫反応性を有する患者から、ハウスダスト、ダニ、スギ、カモガヤ、ブタクサのすべてのアレルゲンに対して免疫反応性を有する患者に渡る幅広い免疫反応性を有する患者のいずれにおいても、そのアトピー性皮膚炎を改善した。
本発明のCNP軟膏製剤は、家族性のアレルギー素因を有する患者のアトピー性皮膚炎を著明に改善した。また、本発明のCNP軟膏製剤は、幼少時に発症して再発を繰り返してきたアトピー性皮膚炎に対しても、その症状を著明に改善した。さらに、本発明のCNP軟膏製剤は、再発を繰り返してきた難治性のアトピー性皮膚炎の症状を著明に改善した。さらにまた、ステロイド外用療法でも軽快しないアトピー性皮膚炎に対しても、本発明のCNP軟膏製剤はその症状を著明に改善したことは、驚くべきことである。加えて、本発明のCNP軟膏製剤の塗布を中止した後、少なくとも5日間、長い場合には2週間以上にわたってアトピー性皮膚炎の再燃が見られなかったことは、特筆に値する。
なお、本発明のCNP軟膏製剤は、CNP以外に薬効を示す可能性のある成分を全く含まないので、上記のアトピー性皮膚炎に対する治療効果は、CNP自体の薬効であることがより明確に確認された。
【0184】
【表11】

【0185】
【表12】

【0186】
【表13】

【0187】
【表14】

【0188】
【表15】

【0189】
【表16】

【0190】
CNPゲル剤、CNP水溶液製剤、CNPゲルベース製剤、およびCNP軟膏製剤による治療結果の総括
上記の症例試験から以下のことが明らかとなった。
CNPを含有する皮膚外用組成物を投与することにより、高度の腫脹/浮腫/浸潤ないし苔癬化を伴う紅班、丘疹,鱗屑を著明に改善し、あるいは、乾燥および軽度の紅班、鱗屑などを主体とする軽症ないし炎症症状に乏しく乾燥症状主体の軽微な皮疹に改善することができた。特に、CNPを含有する皮膚外用組成物を投与することにより、治療に苦慮し、社会生活にも支障をきたす成人顔面の潮紅、浸潤、鱗屑ないし苔癬、ほてりを全く刺激症状ない状態に、劇的に改善することができた。その他、上肢、背部など他部位においても顕著に改善がみられ、また成人に限らず幼児においても同様の効果が認められた。これらのCNPを含有する皮膚外用組成物は、CNPゲル剤、CNP水溶液製剤、CNPゲルベース製剤、CNP軟膏製剤のいずれであっても、ほぼ同等の治療効果を示した。
CNPを含有する皮膚外用組成物のこれらの効果の発現は、塗布後10分程度で自覚的にほてりが鎮まり、30分経過後くらいから他覚的に紅班、浸潤の軽快が認められた。さらに、3日ないし4日塗布を継続すると、紅班、浸潤が明らかに軽快し、きめのととのったほぼ正常に近い皮膚になった。これは重症のアトピー性皮膚炎にとって大いなる福音であろう。
【0191】
また、CNPを含有する皮膚外用組成物を投与することにより、血管拡張と炎症性紅班が改善されていることがダーモスコピーによる皮膚真皮上層の所見から確認された。さらに、CNPを含有する皮膚外用組成物を投与することにより、皮膚表面のきめが細かく整い、鱗屑が減り、肌触りが柔らかくなることが確認された。この所見はダーモスコピーによる皮膚真皮上層の所見からも確認された。皮膚表面のきめが細かく整い、鱗屑が減り、肌触りが柔らかくなることは、乾燥およびバリアー機能の低下を補完し、炎症の再燃を予防する上で重要である。このような効果は、乾癬でも認められ、鱗屑が消え、浸潤が軽快したことが確認された。CNP塗布による局所刺激症状並びに全身の副作用は全く認められなかった。酒さにおいてもCNP塗布により毛細血管拡張と紅班の改善がみられた。
これら治療効果は、塗布中止後も5日から2週間程度良好な皮膚症状が持続した。また、その後、仮に紅班が再発しても、塗布前のように悪化することはなく、軽度であり、安定した状態が継続できることが確認された。このことは、従来の治療法であるステロイドの外用では全く得られなかったことであり、特筆に値する。また、再発した場合でも、皮疹に再度塗布することによって、初回よりも少ない塗布回数で再び軽症ないし軽微な皮疹に導くことが可能であることが確認された。
そもそも、アトピー性皮膚炎の治療の目標は、患者を次のような状態に到達させることにある。
(1)症状がないこと。あるいはあっても軽微であり、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としないこと。
(2)軽微ないし軽度の症状は持続するも、急性に悪化する可能性が低く、仮に悪化しても遷延することはないこと。
上記の症例試験から、本発明のCNPを含有する皮膚外用組成物は、患者をこのような状態に到達させうることが明確に確認された。
次に、BNPを含有する皮膚外用組成物について試験を行った。
【0192】
〔実施例13〕
1.BNPゲルベース製剤の製造;
BNPゲルベース製剤の調製は次のようにして行った。
パラオキシ安息香酸メチルエステル(商品名:メッキンスM、上野製薬製)0.1g、フェノキシエタノール0.2g、1、2ペンタンジオール3.0gを同一容器に秤量し、これを60〜70℃で溶解して混合釜に投入した。さらに濃グリセリン6.0gを投入し、カルボキシビニルポリマー(商品名:カーボポール940、ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ社製)0.44gとキサンタンガム(商品名:ケルトロールT、大CP KELCO社製)0.08gの混合物を加えてパドル15rpmで撹拌し十分に分散させた。次にパドル15rpmで撹拌しつつ精製水83.95gを徐々に投入し、釜温を70〜80℃、パドル20rpm、デイスパー1,500〜2,000rpmで撹拌溶解した。デイスパーは停止して溶解を確認し、直ちに冷却を開始し、釜温が40℃付近にしてから、アイエスピー・ジャパン社製のルブラジェルNP6.0g(グリセリン2.7g、カルボキシビニルポリマー0.06g、ポリアクリル酸ナトリウム0.018g、水3.222g)を加えてパドル20rpmで均一に混合し、更に水酸化カリウム0.230gを加えて溶液を中和し、釜温が25℃に達した時点で、パドルの回転を停止してゲルベースを作製した。
次いで、主剤としての3mgのヒトBNP−32(株式会社ペプチド研究所製)を3mlの生理食塩水に溶解して得られた1000μg/mlの濃度のBNP溶液1mlを上記で得られたゲルベース19gに均一に撹拌混合して50μg/g濃度のゲルベース製剤を作成した。
同様に、上記の1000μg/mlの濃度のBNP溶液600μlを400μlの生理食塩水で希釈し、600μg/ml濃度に調製し、この溶液1mlを上記で得られたゲルベース19gに均一に撹拌混合して30μg/g濃度のゲルベース製剤を作成した。
【0193】
〔実施例14〕
2.BNP水溶液製剤の製造;
主剤としての3mgのヒトBNP−32(株式会社ペプチド研究所製)を3mlの生理食塩水に溶解して得られた溶液1.0mlに生理食塩水19mlで希釈してBNP濃度50μg/mlの水溶液製剤を調製した。
【0194】
〔実施例15〕
3.被験者の診断;
被験者の診断、症状の評価、外用療法の選択、試験方法および皮膚の観察は実施例1の方法と同様に行った。
また、実施例1の方法と同様に 本発明のBNPゲルベース製剤またはBNP水溶液製剤の投与に先だって、被験者への問診、アレルゲンに対するScratch試験、診断を行った。表17(被験者36〜40)および表19(被験者41〜45)に、それら被験者への問診、診断結果、即ち、各症例における被験者の性別、年齢、発症経緯と経過、家族歴、既 往 歴、Scratch試験結果、診断所見、「ガイドライン2005」に基づく症状の評価を示す。
【0195】
〔実施例16〕
4.被験者の治療効果;
本発明のBNPゲルベース製剤またはBNP水溶液製剤の治療効果を表18(被験者被験者36〜40)および表20(被験者41〜45)に示す。表18および表20において、「掻痒感」とは、Visual analogue scale法を用いて評価した掻痒感を治療の前後で比較したものである。同様に、「非再燃期間」とは、症状が軽快した後に本発明の製剤による治療を中断しても症状が再燃しなかった期間を示す。なお、客観的に評価するために、全症例についてBNP製剤を塗布する前後の写真を記録した。そのうち、一部の症例の写真を図に示した。
【0196】
【表17】

【0197】
【表18】

【0198】
【表19】

【0199】
【表20】

【0200】
〔実施例17〕
表17ないし表20にまとめたBNPゲルベース製剤およびBNP水溶液製剤の試験例の詳細を以下に示す。参考のため、最重症患者の塗布前後の写真として、症例1(被験者41)の写真を図12に、症例4(被験者42)の写真を図13に、症例5(被験者40)の写真を図14にそれぞれ示した。
【0201】
BNP試験例1(症例1;被験者41)
症例1の被験者は、浮腫、浸潤性紅班、紅班、高度の鱗屑、多数の掻破痕が全身に認められ、湿疹続発性紅皮症状態にあると認められた。また、頚部の皮疹は、高度の浮腫、浸潤、紅班、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体としており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であった。この被験者は、ステロイド外用剤を使用しても症状を改善することはできなかった。
治療とその結果
症例1の被験者に対して、実施例13で得た50μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を頚部に1日2回単純塗布したところ、5日後には浮腫、紅班、掻破痕、浸潤、鱗屑,火照り感、掻痒とも著明に改善した。掻痒感は、塗布前10に比し、2まで改善された。塗布前と塗布5日後の図面代用写真を図12に示す。Aは塗布前、Bは塗布後である。
【0202】
BNP試験例2(症例2;被験者38)
症例2の被験者は、顔、頚部および躯幹に浸潤性紅班、紅班および鱗屑が認められ、顔面および頚部の皮疹は高度の浸潤、紅班、鱗屑を主体としていた。また、顔面、頚部の皮疹は、高度の浸潤、紅班、鱗屑を主体としており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は重症であった。この被験者にステロイド外用療法を試みたが、外用中止後、すぐに再発してしまった。
治療とその結果
症例2の被験者に対して、実施例13で得た50μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を顔面に1日2回単純塗布したところ、3日後には紅班、浸潤、火照り、掻痒とも著明に改善した。掻痒感は、塗布前10に比し、0まで改善された。
【0203】
BNP試験例3(症例3;被験者39)
症例3の被験者は、顔面、四肢および背部に浸潤性紅班、紅班、多数の丘疹痂皮の付着および掻破痕が認められ、顔面の皮疹は、浸潤性紅班、多数の丘疹および掻破痕を主体としていた。また、顔面、頚部の皮疹は、高度の浸潤、紅班、鱗屑を主体としており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は重症であった。この被験者にステロイド外用療法を試みたが、外用中止後、すぐに再発してしまった。
治療とその結果
症例3の被験者に対して、実施例13で得た50μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を顔面に一日2回単純塗布したところ、3日後には紅班、浸潤、掻痒とも著明に改善された。掻痒感は、塗布前10に比し3日間の塗布で3まで改善した。
【0204】
BNP試験例4(症例4;被験者42)
症例4の被験者は、四肢、躯幹、頚部および顔面に浸潤性紅班、紅班、浮腫、鱗屑、痂皮の付着が認められ、上肢の皮疹は、浸潤性紅班、紅斑、丘疹、高度の鱗屑、痂皮からなっていた。また、上肢の皮疹は浸潤、紅斑、浮腫、高度の鱗屑、痂皮からなっており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であり、ステロイド外用剤でも症状を改善することはできなかった。
治療とその結果
症例4の被験者の上肢に実施例13で得た50μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を1日2回単純塗布したところ、3日後には軽度の紅班は残存していたが、浸潤、丘疹,鱗屑、痂皮および掻痒が著明に改善された。掻痒感は、塗布前10に比し3日間の塗布で1まで改善した。塗布前と塗布5日後の図面代用写真を図13に示す。Aは塗布前、Bは塗布後である。
【0205】
BNP試験例5(症例5;被験者40)
症例5の被験者は、顔面、頚部および四肢躯幹に、浸潤性紅班、紅班、浮腫、鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕が認められ、顔面および頚部の皮疹は、浮腫を伴う紅班、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体としていた。また、顔面、頚部の皮疹は、浮腫を伴う紅班、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体としており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であり、ステロイド外用剤でも症状を改善することはできなかった。
治療とその結果
症例5の被験者の顔面、頚部に実施例13で得た50μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を1日2回単純塗布したところ、1日でびらんが改善し、2日後には紅班、浸潤,掻破痕、掻痒とも著明に改善された。掻痒感は、塗布前10に比し塗布2日後には1まで改善された。塗布前と塗布1日後の図面代用写真を図14に示す。Aは塗布前、Bは塗布後である。
【0206】
BNP試験例6(症例6;被験者37)
症例6の被験者は、全身に浮腫、浸潤性紅班、紅班、高度の鱗屑、多数の掻破痕が認められ、湿疹続発性紅皮症状態にあった。また、顔面、頚部の皮疹は、高度の浮腫、浸潤、紅班、びらん,鱗屑、多数の掻破痕を主体としており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であった。この被験者は、ステロイド外用療法でも症状を改善できなかった。
治療とその結果
症例6の被験者に対して、実施例13で得た30μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を顔面、頚部に1日2回単純塗布したところ、5日後には浮腫、紅班、掻破痕、浸潤、鱗屑,火照り感、掻痒とも著明に改善した。掻痒感は塗布前10に比し、2に改善された。
【0207】
BNP試験例7(症例7;被験者36)
症例7の被験者は、顔と頚部に浸潤性紅班、浮腫、紅班が、また、四肢には丘疹,紅班が播種しており、顔面、頚部の皮疹は、高度の浸潤、紅班、腫脹を主体としていた。「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であり、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は重症であった。この被験者にステロイド外用療法を試みたが、外用中止ですぐに再発してしまった。
治療とその結果
症例7の被験者に対して、実施例18で得た50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を塗布したが、乾燥してかえって紅班、掻痒とも増悪した。そこで、顔面に1日2回、実施例13で得た30μg/g濃度のBNPゲルベース製剤を単純塗布したところ、2、3日で紅班、浮腫、乾燥、掻痒とも著明に改善した。掻痒感は塗布前10に比し、0に改善された。
【0208】
BNP試験例8(症例8;被験者43)
症例8の被験者は、体に苔癬化を伴う浸潤性紅班、紅班、多数の丘疹、掻破痕がみられ、顔面にも浸潤性紅班、紅班、多数の丘疹が認められ、顔面の皮疹は、浸潤性紅班、多数の丘疹、鱗屑、掻破痕を主体としていた。「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であり、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であった。この被験者にステロイド外用療法を試みたが、外用中止ですぐに再発してしまった。
治療とその結果
症例8の被験者に対して、顔面に実施例14で得た50μg/ml濃度のBNPの水溶液製剤を1日2回単純塗布したところ、2日後には紅班、浸潤、鱗屑、掻痒とも著明に改善した。掻痒感は塗布前10に比し、3に改善された。塗布前と塗布5日後の図面代用写真を図15に示す。Aは塗布前、Bは塗布後である。
【0209】
BNP試験例9(症例9;被験者44)
症例9の被験者は、四肢、躯感、頚部、顔面に浸潤性紅班、紅班、浮腫、鱗屑、多数の掻破痕が認められ、顔面の皮疹は浸潤、紅斑、高度の鱗屑、痂皮からなっていた。「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であり、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は重症であった。この被験者にステロイド外用療法を試みたが、ステロイド外用ではすぐに再発してしまった。
治療とその結果
症例9の被験者に対して、実施例18で得た50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を塗布したところ、3日くらいで若干赤みがとれたが、その後7日間外用を継続しても、それ以上紅班が消失することはなく、鱗屑も残った。そこで、顔面、頚部に実施例14で得た50μg/ml濃度のBNP水溶液製剤を1日2回単純塗布したところ、翌日には紅班、掻痒、乾燥とも著明に改善した。掻痒感は塗布前10に比し、0に改善された。
【0210】
BNP試験例10(症例10;被験者45)
症例10の被験者は、ほぼ全身に悪寒を伴う潮紅、浮腫、浸潤性紅班が認められ、顔面、頚部、四肢の皮疹は、高度の腫脹、潮紅、浮腫からなっており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であり、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であった。長年のステロイドの外用および過剰塗布による副作用で紅皮症状態にあった。
治療とその結果
症例10の被験者は、後述のANPゲルベース製剤を適用した比較試験例における比較症例3の患者である。そこで、顔面、頚部に実施例14で得た50μg/ml濃度のBNPの水溶液製剤を1日2回単純塗布したところ、1日で腫脹、紅班、掻痒感、突っ張り感がかなり改善して楽になり、3日後には浸潤性紅班、腫脹、掻破痕、掻痒とも著明に改善したが、まだ鱗屑、乾燥はのこっている。掻痒感は塗布前10に比し、1に改善された。
この改善状態に50μg/g濃度のANPの水溶液を1日2回単純塗布したところ、1日で紅班の範囲が拡大し、掻痒感がはっきりと自覚できるほど増強した。
【0211】
BNPゲルベース製剤およびBNP水溶液製剤による治療結果の総括
上記の症例試験から以下のことが明らかとなった。
BNPを含有する皮膚外用組成物を投与することにより、高度の腫脹/浮腫/浸潤ないし苔癬化を伴う紅班、丘疹,鱗屑を著明に改善し、あるいは、乾燥および軽度の紅班、鱗屑などを主体とする軽症ないし炎症症状に乏しく乾燥症状主体の軽微な皮疹に改善することができた。特に、BNPを含有する皮膚外用組成物を投与することにより、治療に苦慮し、社会生活にも支障をきたす成人顔面の潮紅、浸潤、鱗屑ないし苔癬、ほてりのない状態に、劇的に改善することができた。これらのBNPを含有する皮膚外用組成物は、BNP水溶液製剤、BNPゲルベース製剤のいずれであっても、同等の治療効果を示した。
BNPを含有する皮膚外用組成物のこれらの効果は、3日ないし4日塗布継続により、紅班、浸潤が明らかに軽快し、きめのととのったほぼ正常に近い皮膚になった症例もある。これは重症のアトピー性皮膚炎にとって大いなる福音であろう。
また、BNPを含有する皮膚外用組成物を投与することにより、血管拡張と炎症性紅班が改善されていることがダーモスコピーによる皮膚真皮上層の所見から確認された。さらに、BNPを含有する皮膚外用組成物を投与することにより、皮膚表面のきめが細かく整い、鱗屑が減り、肌触りが柔らかくなることが確認された。この所見はダーモスコピーによる皮膚真皮上層の所見からも確認された。皮膚表面のきめが細かく整い、鱗屑が減り、肌触りが柔らかくなることは、乾燥およびバリアー機能の低下を補完し、炎症の再燃を予防する上で重要である。このような効果は、乾癬でも認められ、鱗屑が消え、浸潤が軽快したことが確認された。BNP塗布による局所刺激症状並びに全身の副作用は全く認められなかった。酒さにおいてもBNP塗布により毛細血管拡張と紅班の改善がみられた。
これらBNP皮膚炎治療剤の効果も、先の出願に係るCNPとほぼ同様で塗布後20分程度で自覚的に火照り、重苦しさが改善し、40分程度で他覚的に、紅班、浸潤、腫脹が軽減されているのが認められた。さらに塗布後2ないし3日で高度の腫脹/浮腫/浸潤ないし苔癬化を伴う紅班、丘疹,鱗屑を著明に改善し、乾燥および軽度ないし軽微の紅班、鱗屑などを主体とする症状に改善できた。また効果の持続性が認められ、塗布中止後も5日から2週間程度良好な皮膚症状が持続した。
また、その後、仮に紅班が再発しても、塗布前のように悪化することはなく、軽度であり、安定した状態が継続できることが確認された。このことは、従来の治療法であるステロイドの外用では十分に得られなかったことであり、特筆に値する。また、再発した場合でも、皮疹に再度塗布することによって、初回よりも少ない塗布回数で再び軽症ないし軽微な皮疹に導くことが可能であることが確認された。
皮疹の改善度は日本皮膚科学会の皮疹の重症度では重症から軽症ないし軽微に改善した。世界的に用いられている”SCORAD index:Clinical evaluation”による局所症状の重症度では”Erythema”、”Edema/papulation”、”Oozing/crusting”、”Excoriation”, ”Lichenification“ともほとんどのケースでステージ3から最も軽症のステージ1に改善された。
そもそも、アトピー性皮膚炎の治療の目標は、患者を次のような状態に到達させることにある。
(1)症状がないこと。あるいはあっても軽微であり、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としないこと。
(2)軽微ないし軽度の症状は持続するも、急性に悪化する可能性が低く、仮に悪化しても遷延することはないこと。
上記の症例試験から、本発明のBNPを含有する皮膚外用組成物は、患者をこのような状態に到達させうることが明確に確認された。
【0212】
〔実施例18〕
比較試験:
1.ANPゲルベース製剤の製造;
比較試験のために、ANPゲルベース製剤を次のようにして調製した。
パラオキシ安息香酸メチルエステル(商品名:メッキンスM、上野製薬製)0.1g、フェノキシエタノール0.2g、1、2ペンタンジオール3.0gを同一容器に秤量し、これを60〜70℃で溶解して混合釜に投入した。さらに濃グリセリン6.0gを投入し、カルボキシビニルポリマー(商品名:カーボポール940、ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ社製)0.44gとキサンタンガム(商品名:ケルトロールT、CP KELCO社製)0.08gの混合物を加えてパドル15rpmで撹拌し十分に分散させた。次にパドル15rpmで撹拌しつつ精製水83.95gを徐々に投入し、釜温を70〜80℃、パドル20rpm、デイスパー1,500〜2,000rpmで撹拌溶解した。デイスパーは停止して溶解を確認し、直ちに冷却を開始し、釜温が40℃付近にしてから、アイエスピー・ジャパン社製のルブラジェルNP6.0g(グリセリン2.7g、カルボキシビニルポリマー0.06g、ポリアクリル酸ナトリウム0.018g、水3.222g)を加えてパドル20rpmで均一に混合し、更に水酸化カリウム0.230gを加えて溶液を中和し、釜温が25℃に達した時点で、パドルの回転を停止してゲルベースを作製した。
主剤としてのハンプ注射用1000(注射用カルペリチド;α型ヒト心房性ナトリウム利尿ポリペプチド製剤)1000μgを注射用水10mlに溶解して得られた100μg/mlの濃度のANP溶液10mlを上記のゲルベース10gで希釈してANP濃度50μg/gのゲルベース製剤を調製した。
また、BNPと同様の条件で比較検討するためヒトANP−28(株式会社ペプチド研究所製)でも検討した。この場合、0.5mgを1mlの精製水に溶解して得た500μg/mlの濃度のANP溶液1.0mlを同じく上記で得たゲルベース9gに均一に混合撹拌してANPゲルベース製剤を得た。該ゲルベース製剤のANP濃度は50μg/gである。
【0213】
〔実施例19〕
2.ANP水溶液製剤の製造;
主剤としての0.5mgのヒトANP−28(株式会社ペプチド研究所製)を1mlの精製水に溶解して得られた溶液1.0mlに精製水9mlで希釈してANP濃度50μg/mlの水溶液製剤を調製した。
【0214】
〔実施例20〕
3.被験者の診断;
被験者の診断、症状の評価、外用療法の選択、試験方法および皮膚の観察は実施例1の方法と同様に行った。
また、実施例1の方法と同様に 本発明のANPゲルベース製剤の投与に先だって、被験者への問診、アレルゲンに対するScratch試験、診断を行った。表21(被験者45〜49)に、それら被験者への問診、診断結果、即ち、各症例における被験者の性別、年齢、発症経緯と経過、家族歴、既往歴、Scratch試験結果、診断所見、「ガイドライン2005」に基づく症状の評価を示す。
【0215】
〔実施例21〕
4.被験者の治療効果;
本発明のANPゲルベース製剤の治療効果を表22(被験者45〜49)に示す。表22において、「掻痒感」とは、Visual analogue scale法を用いて評価した掻痒感を治療の前後で比較したものである。同様に、「非再燃期間」とは、症状が軽快した後に本発明の製剤による治療を中断しても症状が再燃しなかった期間を示す。なお、客観的に評価するために、全症例についてANP製剤を塗布する前後の写真を記録した。そのうち、一部の症例の写真を図に示した。
【0216】
【表21】

【0217】
【表22】

【0218】
〔実施例22〕
比較のために実施例18で得た50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を用いて試験を行った。参考のため、塗布前後の写真として、比較試験例2(症例2;被験者46)の写真を図16に、比較試験例3(症例3;被験者45)の写真を図17に、比較試験例5(症例5;被験者48)の写真を図18にそれぞれ示した。
【0219】
比較試験例1(症例1;被験者49)
比較症例1の被験者は、睡眠障害を伴う強い掻痒を伴う紅班、高度の鱗屑、多数の掻破痕が全身にみられた。また、背部の皮疹は、高度の鱗屑、紅班、多数の掻破痕を主体としており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、この被験者は、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であり、ステロイド外用療法では一時的には軽快するが、すぐに再発して乾燥してしまった。
治療とその結果
比較症例1の被験者の背部に実施例18で得た50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を1日2回7日間単純塗布したが、塗布前に比べ高度の鱗屑、紅班、多数の掻破痕が、残存していた。掻痒感は塗布前10に比し、10であり、依然として重症度は重症であった。
【0220】
比較試験例2(症例2;被験者46)
比較症例2の被験者は、顔面、頚部には苔癬化を伴う浸潤性紅班、紅班、高度の鱗屑、がみられ、四肢、躯幹には浸潤性紅班がみられた。また、顔面の皮疹は、高度の苔癬化浸潤、紅班、鱗屑を主体としており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、この被験者は、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であり、顔面の浸潤性紅班はステロイド外用療法では十分な効果が得られなかった。
治療とその結果
比較症例2の被験者の顔面、頚部に実施例18で得た50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を1日2回7日間単純塗布したが、赤みがとれず、紅班、鱗屑とも増悪した。塗布前と塗布5日後の図面代用写真を図16に示す。Aは塗布前、Bは塗布後である。掻痒感は塗布前10に比し、10であり、依然として重症度は重症であった。
【0221】
比較試験例3(症例3;被験者45)
比較症例3の被験者は、悪寒を伴う潮紅、浮腫、浸潤性紅班がほぼ全身に認められた。また、顔面、頚部、四肢の皮疹は、高度の腫脹、潮紅、浮腫からなっており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、この被験者は、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は最重症であり、長年のステロイドの外用および過剰塗布による副作用で紅皮症状態にあった。
治療とその結果
比較症例3の被験者の顔面、上肢に実施例18で得た50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を1日2回単純塗布したところ、やや浮腫は軽快したが、7日経過しても潮紅、紅班とも改善が見られなかった。塗布前と塗布7日後の図面代用写真を図17に示す。Aは塗布前、Bは塗布後である。掻痒感は塗布前10に比し、10であり、依然として重症度は重症であった。
【0222】
比較試験例4(症例4;被験者47)
比較症例4の被験者は、浸潤性紅班、紅班、高度の鱗屑、痂皮の付着、多数の掻破痕が全身に認められ、特に顔面,頚部で顕著であった。また、顔面の皮疹は、高度の浸潤、浮腫、紅班、丘疹、鱗屑、痂皮、掻破痕を主体としており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、この被験者は、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は重症であり、ステロイドを使用するも顔面の症状はすぐに再発し、外用前よりも増悪する傾向が見られた。
治療とその結果
比較症例4の被験者の顔面に実施例18で得た50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を1日2回単純塗布したが、5日経過後も紅班、浸潤とも全く軽快しなかった。掻痒感は塗布前10に比し、10程度であり、依然として重症度は重症であった。
【0223】
比較試験例5(症例5;被験者48)
比較症例5の被験者は、浸潤性紅班、紅班、多数の掻破痕、丘疹、が特に背部に顕著にみられた。また、背部の皮疹は、高度の浸潤、紅班、多数の掻破痕、丘疹、苔癬化からなっており、「皮膚科学会ガイドライン」に基づく重症度は重症であった。なお、この被験者は、「ガイドライン2005」に基づく症状評価は重症であり、ステロイド外用では十分な効果は得られず、すぐに再発し、激痒がとれなかった。
治療とその結果
比較症例5の被験者の背部に実施例18で得た50μg/g濃度のANPゲルベース製剤を1日2回単純塗布したところ、3日経過しても紅班。掻痒とも全く効果は得られなかった。塗布前と塗布5日後の図面代用写真を図18に示す。Aは塗布前、Bは塗布後である。掻痒感は塗布前10に比し、10程度であり、依然として重症度は重症であった。
【0224】
比較試験例の総括
上記の比較症例試験から以下のことが明らかとなった。
ANPを含有する外用製剤を用いた比較試験によれば、ANP外用製剤は同じ濃度で若干の効果が認められたる症例もあったが、効果の発現時期が塗布後3日程度要し、また完全に紅班が消失することはなく、7日以上外用を継続しても、CNPまたはBNPを含有する皮膚炎治療剤のように紅班が消失することはなく、かえって増悪する例もあった。また、外用を中止するとすぐに再発して乾燥がひどくなり、かゆみも増強する。明らかにCNPまたはBNPを含有する皮膚炎治療剤に比較して劣るものであった。多くの症例ではANP外用製剤は、効果が見られないかむしろ増悪し皮疹の改善度は日本皮膚科学会の皮疹の重症度では重症から重症のままにとどまった。世界的に用いられている”SCORAD index:Clinical evaluation”による局所症状の重症度”Erythema”、“Edema/papulation”、”Oozing/crusting”、“Excoriation” “Lichenification”では、“Edema/population”、”Oozing/crusting”、はステージ3からステージ2に改善されることもあるが、“Excoriation” “Lichenification” “Erythema”はステージ3からステージ3に止まった。
そもそも、アトピー性皮膚炎の治療の目標は、患者を次のような状態に到達させることにある。
(1)症状がないこと。あるいはあっても軽微であり、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としないこと。
(2)軽微ないし軽度の症状は持続するも、急性に悪化する可能性が低く、仮に悪化しても遷延することはないこと。
上記の比較症例試験では、ANPを含有する外用製剤では、患者をこのような状態に到達させることはできないことが確認された。
【0225】
本発明の効果の全体総括
本発明の皮膚外用剤組成物の効果を俯瞰的に確認するために、各製剤について、SCORADによる皮疹部位の重症度評価による総合指数を、塗布前後で比較する棒グラフを作成し、図19に示した。
比較試験例であるANPゲルベース製剤の使用前後ではSCORADによる皮疹部位の重症度にほとんど変化がなかったことがわかった。一方で、CNPまたはBNPを含有する皮膚外用剤組成物においては、塗布後は、SCORADによる皮疹部位の重症度が劇的に改善されたことがわかった。
同様に、本発明の皮膚外用剤組成物の効果を俯瞰的に確認するために、各製剤について、Visual analogue scale法を用いて評価した掻痒感を、塗布前後で比較する棒グラフを作成し、図20に示した。
比較試験例であるANPゲルベース製剤の使用前後では掻痒感に変化がなかったことがわかった。一方で、CNPまたはBNPを含有する皮膚外用剤組成物においては、塗布後は、掻痒感が劇的に軽快したことがわかった。
以上、図19および図20からも、本発明のCNPまたはBNPを含有する皮膚外用剤組成物が、アトピー性皮膚炎の症状を劇的に改善することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0226】
本発明のCNPまたはBNPを含有する皮膚外用剤組成物、特に皮膚炎治療剤は、特に難治性といわれるアトピー性皮膚炎の治療に極めて効果的であり、かつ、適応範囲が広く、もともとCNPおよびBNPは体内に備わるホルモンであり、しかも外用日数が3日程度で有り,塗り薬として使用した際、皮膚から吸収されて全身に入る量は極めて少ない上、今回の発明で使用する濃度は30μg/g前後であることから全身的な副作用の懸念もないこと、局所の刺激症状は全くないこと、自覚的にかゆみが劇的に軽減されることから、従来のステロイドやタクロリムス使用で効果の見られなかった患者、副作用への懸念からステロイドやタクロリムスの使用を控えなければならなかった患者、若年者にも適用が可能である。また、多量の鱗屑に悩まされる乾癬のQOLを改善できる。
したがって、新たな皮膚炎治療剤としての研究開発および実用化が大いに期待できる。
また、皮膚表面のきめが細かく整い、鱗屑が減り、肌触りが柔らかくなることは、乾燥を防ぎ、バリアー機能の低下を補完し、炎症の再燃を予防する上で重要であるほか、剤型のいかんにかかわらず効果を発揮することから、肌質を改善するスキンケア化粧料としての効能がみとめられる。すなわち、抗炎症、角層ケア、表皮ケア、基底膜ケアが認められ、クリニカルな効果として肌のハリ、しわの改善、保湿、が認められる。この点から、本発明のBNP皮膚炎治療剤は、肌質改善剤としてもその実用化が期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含む皮膚外用剤組成物。
【請求項2】
C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、CNPとBNPのキメラペプチドであって、CNPがCNP−22、CNP−53、または、CNP−22若しくはCNP−53のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列において5アミノ酸以上の連続する任意のアミノ酸配列を含むペプチドであり、BNPがBNP−26、BNP−32、BNP−45、または、BNP−26、BNP−32若しくはBNP−45のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列において5アミノ酸以上の連続する任意のアミノ酸配列を含むペプチドであり、分子内ジスルフィド結合によって環状構造を形成するキメラペプチドであり、かつ、CNP活性またはBNP活性を有するキメラペプチド、あるいは、その誘導体である、1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項3】
C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)が、CNP−22、CNP−53、または、CNP−22若しくはCNP−53のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加し、かつCNP活性を有するCNP誘導体である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項4】
C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)がCNP−22である3項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項5】
B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、BNP−26、BNP−32、BNP−45、または、BNP−26、BNP−32若しくはBNP−45のアミノ酸配列において任意のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加し、かつBNP活性を有するBNP誘導体である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項6】
B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)がBNP−32である5項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項7】
1〜500μg/gのC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含む、1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項8】
20〜200μg/gのC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含む、1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項9】
30〜100μg/gのC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)またはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含む、1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項10】
皮膚外用剤組成物が、皮膚炎治療剤または肌質改善剤である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項11】
皮膚外用剤組成物が皮膚炎治療剤であり、かつ、皮膚炎が、アトピー性皮膚炎、ステロイド皮膚症を生じた皮膚炎、ステロイド抵抗性の皮膚炎、タクロリムスを使用できない皮膚炎、慢性皮膚炎、紅皮症、湿疹、接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、自家感作性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、蕁麻疹、薬疹、皮膚血管炎、痒疹、皮膚掻痒症、紅班症、乾癬、酒さ、酒さ様皮膚炎、扁平苔癬または毛孔性角化症である10項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項12】
皮膚炎が、アトピー性皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項13】
皮膚炎がステロイド皮膚症を生じた皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項14】
皮膚炎がステロイド抵抗性の皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項15】
皮膚炎がタクロリムスを使用できない皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項16】
皮膚炎が、慢性皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項17】
皮膚炎が、湿疹である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項18】
皮膚炎が、紅皮症である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項19】
皮膚炎が、酒さである11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項20】
皮膚炎が、酒さ様皮膚炎である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項21】
皮膚炎が、乾癬である11項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項22】
皮膚外用剤組成物が皮膚炎治療剤であり、かつ、皮膚炎が、紅班、浸潤性紅班、苔癬化病変、鱗屑、痂皮付着、湿疹、掻爬、掻破痕、痒疹結節、丘疹、びらん,浸潤、小水疱および浮腫から選ばれる少なくとも1つの皮疹症状を伴う炎症である10項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項23】
皮膚外用剤組成物が皮膚炎治療剤であり、かつ、皮膚炎が、ハウスダスト、ダニ、スギ、カモガヤ、ブタクサ、卵白および卵黄から選ばれる少なくとも1つのアレルゲンに免疫反応を示す皮膚炎である10項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項24】
皮膚外用剤組成物が皮膚炎治療剤であり、かつ、皮膚炎が、顔面、頚部、背部および腕から選ばれる少なくとも1つの部位における皮膚炎である10項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項25】
剤形が、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、ローション剤、液剤、スプレー剤、パッチ剤から選ばれる外用剤である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項26】
剤形が、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤または液剤である25項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項27】
皮膚外用剤組成物が、肌質改善剤である1項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項28】
乾燥肌、肌荒れ、敏感肌または小じわを改善するための肌質改善剤である27項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項29】
肌質改善剤が、スキンケア化粧料または医薬部外品である27項に記載の皮膚外用剤組成物。
【請求項30】
剤形が、クリーム、泡沫剤、化粧水、パック、皮膚柔軟水、乳液、ファンデーション、メーキャップベース、エッセンス、石鹸、液体洗浄剤、入浴剤、日焼け止めクリーム、サンオイルまたはスプレー型液剤である27項に記載の皮膚外用剤組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2012−17316(P2012−17316A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33976(P2011−33976)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【分割の表示】特願2011−507738(P2011−507738)の分割
【原出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(510199502)株式会社 イギス (1)
【Fターム(参考)】