説明

皮膚外用剤

【課題】 本発明は、経時安定性、特に光安定性に優れた天然色素含有皮膚外用剤を提供することにある。
【解決手段】 クチナシ系色素、カロチノイド系色素、クロロフィル系色素からなる群から選ばれる1種または2種以上の天然色素、親水性界面活性剤、および分子内に少なくとも三価以上の水酸基を有する多価アルコールの少なくとも1種を20質量%以上含有し、実質的に水分含有量が10質量%以下であることを特徴とする皮膚外用剤を提供することにより、上記課題を解決することを見いだしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経時安定性、特に光安定性に優れた天然色素含有皮膚外用剤に関する。さらに詳しくは、親水性界面活性剤と、分子内に少なくとも三価以上の水酸基を有する多価アルコールが20質量%以上含有し、実質的に水分含有量が10質量%以下にすることにより、クチナシ系色素、カロチノイド系色素、クロロフィル系色素などの天然色素が長期間安定に配合される皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クチナシ系色素、カロチノイド系色素、クロロフィル系色素などの天然色素は安全性に優れることから、一般的には食品に多く用いられている。また、外用剤においても同理由、および商品に安心感が付与されるという理由で、一部の安全性をコンセプトとした化粧料などにおいて積極的に使用されている。
【0003】
しかしながら、これら天然色素の多くは、光、特に紫外線に対して不安定であり、保障期間長く必要とする外用剤においては、品質を担保するために、退色防止剤を用いたり、あるいは遮蔽容器を用いるなどの対策が必要となってくる。クチナシ青色色素等は、その青色が鮮やかで美しいことから、化粧水やクリームなどの化粧料などにおいてよく用いられるが、このような外用剤等に配合された場合、経時での退色がよく観察される。そのため、商品価値を著しく低下させ、品質上のトラブルが生じることがあった。
【0004】
天然色素の退色あるいは変色を防止する方法に関しては、幾つかの提案がされており、クロロゲン酸類を有効成分として含有することを特徴とするクチナシ青色色素および/またはベニバナ黄色色素の褪色防止剤(特許文献1参照)、クロロゲン酸類を有効成分として含有することを特徴とするクチナシ黄色色素の褪色防止剤(特許文献2参照)、ニゲロオリゴ糖、マルトオリゴ糖及びパノースよりなる群から選択される少なくとも1種のオリゴ糖を有効成分として含有する色素の退色防止剤(特許文献3参照)、イソクロロゲン酸又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする、ベニバナ黄色色素,クチナシ黄色色素またはクチナシ青色色素の退色防止剤(特許文献4参照)、天然色素と、炭素数1〜5のα−ヒドロキシ酸及び/又はその塩の少なくとも1種とを含有することを特徴とする化粧料(特許文献5参照)、ロスマリン酸を有効成分とすることを特徴とする退色抑制剤(特許文献6参照)、カロチノイド系色素、アントラキノン系色素、アントシアニン系色素、カルコン系色素、クチナシ青色素、及びビタミンB2から選ばれた一種以上の色素に対する退色防止剤であって、マルトオリゴ糖を有効成分として含有することを特徴とする退色防止剤(特許文献7参照)、コーヒー豆抽出物を有効成分として含有することを特徴とする色素退色防止剤(特許文献8参照)、クマツヅラ科植物の抽出物を有効成分として含有する色素の退色抑制剤(特許文献9参照)、セリ科に属する植物の抽出物が、アニス(Pimpinella anisum Linne)、クミン(Cuminum cyminum Linne)、コリアンダー(Coriandrum sativun Linne)、及びキャラウェイ(Carum carvi Linne)よりなる群から選択される植物の1種又は2種以上の抽出物である退色抑制剤(特許文献10参照)、緑豆、小豆、とら豆、うずら豆、白花豆、金時豆、黒豆、レンズ豆、赤レンズ豆、ひよこ豆、黒ひよこ豆及び大福豆よりなる群から選ばれる少なくとも1種の豆の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする色素の退色抑制剤(特許文献11参照)などに関する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−32909号公報
【特許文献2】特開平6−93199号公報
【特許文献3】特開2000−336354号公報
【特許文献4】特開2000−345155号公報
【特許文献5】特開2001−233726号公報
【特許文献6】特開2001−275611号公報
【特許文献7】特開2001−294768号公報
【特許文献8】特開2001−323263号公報
【特許文献9】特開2002−233330号公報
【特許文献10】特開2004−180号公報
【特許文献11】特開2004−33106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの技術は、天然色素に対する安定化剤として、新たな成分を追加するものであり、このため皮膚外用剤に使用するためには、安定化剤自体の品質への影響や、皮膚に対する安全性への影響を新たに検討しなければならなかった。また、食品を対象に研究されたものについては、光や熱に対する長期保存安定性が充分でなかったりすることがあった。
【0007】
食品の場合、比較的短期間の保存安定性でも、品質上の問題は発生することはないが、皮膚外用剤の場合、長くて3年の安定性が必要とされることと、店頭などで電灯照明下や日光下等の過酷な条件下にさらされることを考慮すると、余裕をもった充分な保存安定性を確保する必要性がある。
【0008】
また、天然色素の退色に関しては、親水性界面活性剤の存在が、天然色素の光や熱に対する安定性を阻害する大きな原因となっている。クチナシ色素の場合、親水性界面活性剤が存在しなければ、比較的高い光安定性を有している。特に外用剤においては、疎水性基剤が含まれることが多く、その可溶化や乳化にとって親水性界面活性剤は必須成分である。このため、親水性界面活性剤が存在することを前提に、安定系を検討しなければならなかった。
【0009】
上記事情を鑑み、本発明の課題は、クチナシ系色素、カロチノイド系色素、クロロフィル系色素などの天然色素を含有する光安定性に優れた皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、当該課題を解決するため、新たに安定化剤を用いるのではなく、安定化する製剤系を開発するという考えのもとで、親水性界面活性剤、分子内に少なくとも三価以上の水酸基を有する多価アルコールを20質量%以上含有し、実質的に水分含有量が10質量%以下にすることで、光安定性に優れた天然色素含有皮膚外用剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明で用いられる天然色素としては、アカネ科クチナシ(Gardenia augusta Merrill)から得られるクチナシ系色素、ニンジンのベータカロチンやトマトのリコピンに代表されるカロチノイド系色素、植物の光合成に必要な緑色の色素である葉緑素のクロロフィル系色素が挙げられる。本発明に用いられる天然色素は、単独使用だけでなく、複数組み合わせて用いることもできる。
【0012】
これら色素の中でも、クチナシの果実より微温時水で抽出して得られたイリドイド配糖体とタンパク質分解物の混合物に、β-グルコシダーゼを添加した後、分離して得られたものである、青色を呈するクチナシ色素(青)、クチナシの果実より室温時水若しくは含水エタノールで抽出して得られたもの、又はこれを加水分解して得られたもので、主色素はクロシン及びクロセチンであるクチナシ色素(黄)、クチナシの果実より微温時水で抽出して得られたイリドイド配糖体のエステル加水分解物とタンパク質分解物の混合物に、β-グルコシダーゼを添加した後、分離して得られたものであるクチナシ色素(赤)、ベーターカロチン、クロロフィル分子中のマグネシウムを銅に置き換えた銅クロロフィリンナトリウムが一般に汎用されており、その退色が問題となってくることが多い。これらの中で、特にクチナシ系色素の退色が問題となることが多く、本発明の技術が効果的に生かされる。クチナシ系色素の中でも、特にクチナシ色素(青)の安定化に有効である。
【0013】
本発明における天然色素の、外用剤中の配合量としては特に規定はなく、実質的に低濃度で用いられることから、好ましい量というよりは、0.0001〜2.0質量%にて、明らかな光安定性の向上が観察されたというのが正確である。
【0014】
本発明で用いる親水性界面活性剤は、一般に外用剤等で使用される陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤にて親水性を示すものであればよく、配合量においても0.5質量%以上であれば、特に影響はない。
【0015】
本発明で用いる分子内に少なくとも三価以上の水酸基を有する多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリオキシプロピレンメチルグルコシドを使用することができる。このうち、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンが好ましい。
【0016】
多価アルコールの配合量は、外用剤中20質量%以上含まれることが好ましく、これ以下であれば、製品としての品質を保証できる安定性基準を確保できず、光安定性は充分とはいえない。また40質量%以上では、安定性には大きく差は見られなかった。
【0017】
更に、光安定性低下の大きな要因として、水の存在がある。これまで退色と水分量の関係を追求した例はない。水は食品や外用剤にとって、必要不可欠の基剤であることがこの事例が存在しない要因であると思われる。
【0018】
本発明においては、実質的に水分含有量が皮膚外用剤中、10質量%以下であることが望ましい。10質量%以上であれば、製品としての品質を保証できる安定性基準を確保できず、光安定性は充分とはいえない。実質的に水を含まないことが、理想であるが、水分はその他基剤の溶媒として必要不可欠であり、このことを考慮して安定性を確保できる範囲が、水分含有量10質量%以下ということになる。水分量が0〜10質量%においては、光安定性には大きく差は見られなかった。
【0019】
水分含有量5質量%以下という制約は、近年の外用剤、特に化粧料においては特異な製剤ではなく、ジェル状化粧料、油性系クレンジング料、油性化粧料、油中水型乳化化粧料など幅広く提供されている。本発明の外用剤の形態としては、ペースト状、ゲル状、クリーム状、固形状等の種々の剤型の外用剤で提供することができる。
【0020】
なお、本発明に係る皮膚外用剤には、その種類に応じ、他の成分として、油性成分、界面活性剤、保湿剤、顔料、紫外線吸収剤、抗酸化剤、香料、防菌防黴剤等の一般的な医薬品及び化粧料用原料や、生理活性成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜含有させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、クチナシ系色素、カロチノイド系色素、クロロフィル系色素等の天然色素を長期間退色することなく、安定に配合した皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明に係る皮膚外用剤としての実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれによって何ら限定されるものではない。
【0024】
[グリセリン/界面活性剤2成分系におけるクチナシ青色色素光安定性評価]
多価アルコールとしてグリセリンを用いて、グリセリン/界面活性剤単純2成分系におけるクチナシ青色色素の光安定性を評価した。クチナシ青色色素は、香栄興業製「クチナシ青」、界面活性剤は「ニッコールGL−1(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット)」を用いた。サンプルはグリセリン濃度を0〜100質量%で変化させた6サンプル(No.1〜No.6)を準備し、クチナシ青色色素は、それぞれ0.03質量%配合した。太陽光に暴露する代替として耐光性試験機を用いた。耐光性試験機は、卓上型キセノン促進暴露装置「サンテストCPS+」(東洋精機製)を用い、6時間暴露の後、λ=590nmのクチナシ青のピーク波長の吸光度を測定し、暴露処理前のブランクの吸光度との差(△ABS)で評価した。結果を、表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から明らかなように、グリセリンが20質量%あたりから明確な耐光性を示し始め、40質量%以上ではブランクと殆ど差は見られず、優れた耐光性を示すことが確認された。
【0027】
[グリセリン/界面活性剤/水3成分系におけるクチナシ青色色素光安定性評価]
次に水分量と光安定性の関係について調べた。先の試験と同様の試料および試験機を用いて、グリセリン/界面活性剤/水3成分系におけるクチナシ青色色素の光安定性を評価した。表2に示すように、水分含有量を7段階で変化させた7サンプル(No.7〜No.13)を用いて試験を行い、水分量の光安定性への影響をみた。結果を、表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から明らかなように、水分含有量10質量%までは、ブランクとの差は殆ど見られず、10質量%を越えると光安定性は急激に低下することが確認された。
【0030】
次に具体的に実施例を挙げて説明する。表3に示す本発明である実施例1〜4ジェル状皮膚外用剤、及び比較例1〜4のジェル状皮膚外用剤とを調製し、これらについて先の実験と同様に耐光性試験機を用いて、同条件で光安定性の評価を行った。退色の判断については、目視のみで行った。試験前のサンプルを対象として、退色の度合いについて、以下の判断基準で評価した。◎:殆ど色調の変化はみられない、△:やや退色が見られた、×:明らかな退色を確認
【0031】
【表3】


【0032】
表3の結果から明らかなように、本発明の実施例の皮膚外用剤においては、比較例と比べて優れた耐光性を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然色素、親水性界面活性剤、および分子内に少なくとも三価以上の水酸基を有する多価アルコールの少なくとも1種を20質量%以上含有し、実質的に水分含有量が10質量%以下であることを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
天然色素が、クチナシ系色素、カロチノイド系色素、クロロフィル系色素からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
三価以上の多価アルコールが、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリオキシプロピレンメチルグルコシドからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
親水性界面活性剤を含む系において、天然色素の退色を防止するために、分子内に少なくとも三価以上の水酸基を有する多価アルコールの少なくとも1種を20質量%以上含有し、実質的に水分含有量が10質量%以下にすることを特徴とする天然色素の退色を防止する方法。

【公開番号】特開2007−77112(P2007−77112A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270162(P2005−270162)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】