説明

皮膚外用剤

【課題】粒子径を制御することにより、所望の効果が発揮できるタンパク質からなるナノ粒子を含む皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】平均粒子サイズが200〜500nmである、活性成分を内包したタンパク質ナノ粒子を含む、皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分を内包した平均粒子サイズが200〜500nmであるタンパク質ナノ粒子を含む皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外部刺激を緩和し、水分等の体内成分の逸失を制御する働きをしており、その最前線にあたるのが、表皮である。表皮は、基底層,有棘層,顆粒層及び角質層から構成されている。基底層で分裂,増殖した細胞は、有棘層、顆粒層を通過しながら分化し、強固な架橋結合をもったケラチン蛋白繊維で構成された角質層になり、最終的には落屑する、というターンオーバーを繰り返している。
【0003】
正常なターンオーバーが行なわれていない皮膚では、ターンオーバー過程でおきるはずの表皮角化細胞の分化にも異常が発生しており、正常な分化によって産生される皮膚の保湿因子であるNMFやセラミドなどの角質細胞間脂質の産生に異常をきたし、皮膚本来の働きが失われて肌のかさつき、乾燥、肌荒れなどのトラブルを引き起こす。特に、近年では、大気の乾燥状態、紫外線、ストレスなどの刺激が、表皮角化細胞の増殖を亢進させ、正常な表皮角化細胞の角化が生じないことによる未成熟な角質細胞がもたらす角層バリヤー機能の低下が肌のかさつき、乾燥や肌荒れの原因となっていることが多い。
【0004】
これら皮膚のターンオーバー異常に起因する肌のかさつき、乾燥や肌荒れを改善する手段としては、従来より、種々の保湿剤を配合した皮膚外用剤、化粧料等が主に用いられてきた。しかしながら、これらは一時的に水分を皮膚に与えて皮膚の感触を改善するものであり、十分な肌のかさつき、乾燥、肌荒れ改善効果を発揮するものではなかった。
【0005】
化粧品においては、近年、より明確な肌効果が求められるようになってきており、ナノテクノロジーをはじめ様々な新しい技術を取り入れることにより、機能性・使用性の向上、他社品との差別化が計られている。例えば、皮膚浸透性を向上させるためにナノテクノロジーを用いた薬物送達システム(DDS)が注目され、有効成分のナノ粒子化による皮膚浸透性の向上という報告がある(例えば特許文献1)。しかしながら、これら活性成分のナノ粒子化に用いられている有機溶媒や合成高分子である界面活性剤が刺激を有するために、低級アルコール過敏症患者に対して過敏に刺激を受ける、エタノールや界面活性剤によって皮膚を傷つけ、過剰の刺激を与える(例えば非特許文献1)など、安全性に懸念がある。上市されている化粧品も有機溶媒(通常エタノール)や界面活性剤により有効成分を溶かし込んでいることが多く、しばしば肌荒れや発疹など皮膚に不具合が現れる。
【0006】
一方、天然高分子は、天然に存在する生物に由来する高分子であり、植物や動物に存在する親水性のタンパク質や多糖類、あるいは微生物の産生する多糖類などが該当する。これらは天然物であることから、安全性の要求される食品、医薬品、化粧品分野で多用されている。また天然高分子は合成高分子と同様に高い構造安定性を示しながら、合成高分子よりも格段に安全性が高く、天然高分子そのものが保湿などの生理活性作用を有するという利点も兼ね備えている。しかし、保湿作用を有するカゼインなどの天然高分子をキャリアーとして用いた粒子ではほとんどの場合、粒子サイズはミクロンサイズであり、大きさの制御が困難である(例えば特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−308728公報
【特許文献2】特表2005−500304号公報
【非特許文献1】Li Lingna et al. PNAS 88 1908-1912, 1991.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、粒子径を制御することにより、所望の効果が発揮できるタンパク質からなるナノ粒子を含む皮膚外用剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、活性成分を内包した平均粒子サイズが200〜500nmのタンパク質ナノ粒子を調製し、皮膚に適用した結果、角質層に粒子が留まることによって良好な効果が示されることを見出した。また、該ナノ粒子は安全性、透明性が高い。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
即ち、本発明によれば、平均粒子サイズが200〜500nmである、活性成分を内包したタンパク質ナノ粒子を含む、皮膚外用剤が提供される。
好ましくは、本発明の皮膚外用剤は、0.01〜50重量%のタンパク質ナノ粒子を含有する。
好ましくは、本発明の皮膚外用剤は、タンパク質の重量に対して、0.1〜100重量%の活性成分を含有する。
【0011】
好ましくは、活性成分は、紫外線吸収剤又は保湿成分からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
好ましくは、活性成分は、イオン性物質または脂溶性物質である。
好ましくは、タンパク質はコラーゲン、ゼラチン、酸処理ゼラチン、アルブミン、オバルブミン、オバルブミン、カゼイン、トランスフェリン、グロブリン、フィブロイン、フィブリン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0012】
好ましくは、ナノ粒子の形成中および/又は形成後にタンパク質が架橋処理されている。
好ましくは、架橋剤は酵素を用いることができる。
酵素としては、タンパク質の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼを用いることができる。
【0013】
好ましくは、本発明の皮膚外用剤は、下記の工程(a)から(c)によって作製されるカゼインナノ粒子を含む。
(a)カゼインをpH8以上11未満の塩基性水性媒体に混合する工程;
(b)工程(a)で得た溶液に少なくとも1種の活性成分を添加する工程;及び
(c)工程(b)で得た溶液をpH3.5〜7.5の水性媒体に注入する工程;
【0014】
好ましくは、本発明の皮膚外用剤は、下記の工程(a)から(c)によって作製されるカゼインナノ粒子を含む。
(a)カゼインをpH8以上11未満の塩基性水性媒体に混合する工程;
(b)工程(a)で得た溶液に少なくとも1種の活性成分を添加する工程;及び
(c)工程(b)で得た溶液のpH を等電点からpH1以上離れたpHまで下降させる工程;
【発明の効果】
【0015】
本発明の皮膚外用剤における活性成分を内包した粒子は、平均粒子サイズが200〜500nmとなるように粒径が制御されているナノ粒子であるため、角質層にとどまり、機能性が高い。また、タンパク質ナノ粒子を用いるため、化学架橋剤や合成界面活性剤を用いることなく製造でき、安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
本発明の皮膚外用剤は、平均粒子サイズが200〜500nmである、活性成分を内包したタンパク質ナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明で用いる活性成分の種類は、角質層に吸収されて留まり、活性を示す成分であれば特に限定されないが、好ましくは、紫外線吸収剤又は保湿成分から選ぶことができる。これまでに使用されてきた化粧用紫外線吸収剤は、構造面から分類すると、安息香酸誘導体、ケイ皮酸誘導体、べンゾフェノン誘導体、ジベンゾイルメタン誘導体、サリチル酸誘導体などがある。
【0018】
保湿成分としては、例えばボタンピエキス、アマチャエキス、オトギリソウエキス、コレウスエキス、マサキ抽出物、コウカエキス、マイカイ花エキス、チョレイエキス、サンザシエキス、ローズマリーエキス、デュークエキス、カミツレエキス、オドリコソウエキス、レイシエキス、セイヨウノコギリソウエキス、アロエエキス、マロニエエキス、アスナロエキス、ヒバマタエキス、オスモインエキス、オーツ麦エキス、チューベロースポリサッカライド、冬虫夏草エキス、オオムギエキス、オレンジ抽出物、ジオウエキス、サンショウエキス及びヨクイニンエキスから選ばれるものなどを挙げることができる。上記した活性成分は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、カゼインそのものが保湿効果を有するため、何も内包しないナノ粒子自身も好ましい。また、これらのうち、脂溶性の活性物質とカゼイン疎水性部分の相互作用を利用して、カゼインナノ粒子内に活性物質を内包できることが見出され、これらの粒子は水溶液中で安定に存在することが見出されたため、これらの成分のうち、好ましくはClogPが0より大きく、より好ましくはClogPが1以上であり、さらに好ましくはCLogPが3以上である。
【0019】
また、カゼインとイオン性多糖または別種のイオン性タンパク質との混合粒子により、イオン性活性成分を内包することも見出された。
【0020】
本発明の皮膚外用剤は、0.01〜50重量%のタンパク質ナノ粒子を含有することが好ましく、0.1〜10重量%のタンパク質ナノ粒子を含有することがさらに好ましい。本発明の皮膚外用剤は、タンパク質の重量に対して、0.1〜100重量%の活性成分を含有することが好ましく、タンパク質の重量に対して、0.1〜50重量%の活性成分を含有することがさらに好ましい。
本発明において、活性成分は、タンパク質ナノ粒子の形成時に添加してもよいし、ナノ粒子の作成後に添加してもよい。
【0021】
本発明で用いるタンパク質ナノ粒子の平均粒子サイズは、平均粒子サイズが200〜500nmであり、好ましくは200〜300nmである。
【0022】
本発明で用いるタンパク質の種類は特に限定されないが、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパクが好ましく、分子量1万から100万程度のタンパク質を用いることが好ましい。タンパク質の由来は特に限定されないが、天然に存在するタンパク質、特にヒト由来のタンパク質を用いることが好ましい。タンパク質として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。コラーゲン、ゼラチン、酸処理ゼラチン、アルブミン、オバルブミン、カゼイン、トランスフェリン、グロブリン、フィブロイン、フィブリン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンからなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。また、タンパク質の由来は特に限定するものではなく、牛、豚、魚、植物および遺伝子組み換え体のいずれも用いることができる。遺伝子組み換えゼラチンとしては、例えばEP1014176A2号、米国特許6,992,172号に記載のものを用いることができるがこれらに限定されるものではない。その中で好ましいものは、カゼイン、酸処理ゼラチン、コラーゲン、又はアルブミンであり、最も好ましいものはカゼイン、又は酸処理ゼラチンである。本発明でカゼインを用いる場合、カゼインの由来は特に限定されず、乳由来であっても、豆由来であってもよく、α−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼインおよびそれらの混合物を使用することができる。カゼインは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明に用いられるタンパク質は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本発明では、ナノ粒子の形成中および/又は形成後にタンパク質を架橋処理することができる。上記した架橋処理は、酵素を用いることができる。酵素としては、タンパクの架橋作用が知られているものであれば特に制限されず、その中で好ましいものはトランスグルタミナーゼである。
【0025】
トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、遺伝子組み換え体を用いることができる。具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として発売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製など
のモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼ、ヒト由来リコンビナントトランスグルタミナーゼなどが挙げられる。
【0026】
本発明において架橋処理のために用いられる酵素の量は、タンパク質の種類に応じて適宜設定することが出来るが、標準的には、タンパク質の重量に対して、0.1〜100重
量%程度を添加することができ、好ましくは、1〜50重量%程度を添加することができる。
【0027】
酵素による架橋反応の時間は、タンパク質の種類、ナノ粒子サイズに応じて適宜設定することができるが、標準的には、1時間から72時間反応することができ、好ましくは、2時間から24時間反応することができる。
【0028】
酵素による架橋反応の温度は、タンパク質の種類、ナノ粒子サイズに応じて適宜設定することができるが、標準的には、0℃から80℃で反応することができ、好ましくは、25℃から60℃で反応することができる。
【0029】
本発明に用いられる酵素を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明のナノ粒子は、特開平6−79168号公報、又はC.Coester著、ジャーナル・ミクロカプスレーション、2000年、17巻、p.187−193に記載の方法に準じて作製することができるが、架橋方法としてグルタルアルデヒドの代わりに酵素を用いることが好ましい。
【0031】
また、本発明においては、酵素架橋処理を有機溶媒中で行うことが好ましい。ここで用いる有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、アセトン、THFなどの水溶性有
機溶媒が好ましい。
さらに、本発明においては、架橋処理後に有機溶媒を留去し、水分散することが好ましい。有機溶媒を留去前に水を加えてもよく、留去後に水を加えても良い。
【0032】
本発明の皮膚外用剤には、脂質(リン脂質など)、アニオン性多糖、カチオン性多糖、アニオン性タンパク質、カチオンタンパク質、又はシクロデキストリンから選択される1種以上の成分を添加することもできる。脂質(リン脂質など)、アニオン性多糖、カチオン性多糖、アニオン性タンパク質、カチオンタンパク質、及びシクロデキストリンの添加量は特に限定されないが、一般的にはタンパク質の重量に対して0.1〜100重量%の量で添加することができる。本発明の皮膚外用剤においては、上記成分とタンパク質の比を変えることよって、徐放速度を調整することができる。
【0033】
本発明に用いることができるリン脂質として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリンなどが挙げられる。
【0034】
本発明に用いることができるアニオン性多糖とはカルボキシル基、硫酸基又はリン酸基等の酸性極性基を有する多糖類である。以下に具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、アルギン酸、ペクチン、カラギーナン、フコイダン、アガロペクチン、ポルフィラン、カラヤガム、ジェランガム、キサンタンガム、ヒアルロン酸類等が挙げられる。
【0035】
本発明に用いることができるカチオン性多糖とは、アミノ基等の塩基性極性基を有する多糖類である。以下に具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。キチン、キトサンなどのグルコサミンやガラクトサミンを構成単糖として含むものなどが挙げられる。
【0036】
本発明に用いることができるアニオン性タンパク質とは等電点が生理的pHよりも塩基性側にあるタンパク質およびリポタンパク質である。具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、リゾチーム、チトクロムC、リボヌクレアーゼ、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、α−キモトリプシンなどが挙げられる。
【0037】
本発明に用いられるカチオンタンパク質とは等電点が生理的pHよりも酸性側にあるタンパク質およびリポタンパク質である。具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ポリリジン、ポリアルギニン、ヒストン、プロタミン、オバルブミンなどが挙げられる。
【0038】
本発明においては、下記の工程(a)から(c)によって作製されるカゼインナノ粒子を用いることができる。
(a)カゼインをpH8以上11未満の塩基性水性媒体に混合させる工程;
(b)工程(a)で得た溶液に少なくとも1種の活性成分を添加する工程;及び
(c)工程(b)で得た溶液をpH3.5〜7.5の水性媒体に注入する工程;
【0039】
さらに本発明においては、下記の工程(a)から(c)によって作製されるカゼインナノ粒子を用いることができる。
(a)カゼインをpH811未満以上の塩基性水性媒体に混合させる工程;
(b)工程(a)で得た溶液に少なくとも1種の活性成分を添加する工程;及び
(c)工程(b)で得た溶液のpH を等電点からpH1以上離れたpHまで下降させる工程;
【0040】
本発明においては、疎水性の活性成分とカゼイン疎水性部分の相互作用を利用して、カゼインナノ粒子内に活性成分を内包できる。さらに、これらの粒子は水溶液中で安定に存在することが見出された。また、カゼインとイオン性多糖または別種のイオン性タンパク質との混合粒子により、イオン性活性成分を内包することも見出された。
【0041】
本発明のカゼインナノ粒子の作製方法は、カゼインを塩基性水性媒体液に混合し、塩基性水性媒体中に注入する方法と、カゼインを塩基性水性媒体液に混合し、攪拌しながら、pHを下降させる方法が挙げられる。
【0042】
カゼインを塩基性水性媒体液に混合し、塩基性水性媒体中に注入する方法としては、シリンジによるのが簡便で好ましいが、注入速度、溶解性、温度、撹拌状態を満足する方法であれば特に限定しない。一般的には、注入速度は、1mL/minから100mL/minで注入することができる。塩基性水性媒体の温度は、適宜設定することができるが、標準的には、0℃から80℃にすることができ、好ましくは、25℃から70℃にすることができる。水性媒体の温度は、適宜設定することができるが、標準的には、0℃から80℃にすることができ、好ましくは、25℃から60℃ですることができる。攪拌速度は、適宜設定することができるが、標準的には、100rpmから3000rpmにすることができ、好ましくは、200rpmから2000rpmである。
【0043】
カゼインを塩基性水性媒体液に混合し、攪拌しながら、pHを下降させる方法としては、酸を滴下するのが簡便で好ましいが、溶解性、温度、撹拌状態を満足する方法であれば特に限定しない。塩基性水性媒体の温度は、適宜設定することができるが、標準的には、0℃から80℃にすることができ、好ましくは、25℃から70℃にすることができる。攪拌速度は、適宜設定することができるが、標準的には、100rpmから3000rpmにすることが
でき、好ましくは、200rpmから2000rpmである。
【0044】
本発明に用いる水性媒体は、有機酸または塩基、無機酸または無機塩基の水溶液、又は緩衝液を用いることができる。
【0045】
具体的には、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、カルボン酸、酒石酸、コハク酸、酢酸またはフタル酸、トリフルオロ酢酸、モルホリノエタンスルホン酸、2-〔4-(2-ヒ
ドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸のような有機酸;トリス(ヒドロキシメチル)、アミノメタン、アンモニアのような有機塩基;塩酸、過塩素酸、炭酸のような無機酸;燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムのような無機塩基を用いた水溶液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明に用いる水性媒体の濃度は、約10mMから約1Mが好ましい。より好ましくは、約20mMから約200mMである。
【0047】
本発明に用いる塩基性水性媒体のpHは、8以上が好ましく、8から12が好ましい。より好ましくはpH9から11である。pHが高すぎると加水分解の懸念や取り扱い上の危険性があるため、上述の範囲が好ましい。
【0048】
本発明において、カゼインをpH8以上の塩基性水性媒体に混合させる温度は、0〜80℃が好ましく、10〜60℃が好ましい。より好ましくは、20〜40℃である。
【0049】
本発明に用いる酸性水性媒体のpHは、好ましいpHは3.5〜7.5である。より好ましくはpHは5から6である。
【0050】
本発明の皮膚外用剤はさらに、添加物を含むことができる。添加物としては特に限定することはないが、保湿剤、柔軟剤、経皮吸収促進剤、無痛化剤、防腐剤、酸化防止剤、色素剤、増粘剤、香料、又はpH調整剤から選択される1種以上のものを使用することができる。また、本発明の皮膚外用剤には所望の効果を持たせるために、別の粒径を有するタンパクナノ粒子を混合させることができる。例えば、平均粒子サイズが200nm未満のタンパク質ナノ粒子を混合することによって、角質層で効果を示す活性成分と、皮膚のより深い部分で機能させる活性成分を同時に機能させることが出来る。これらは例えば特願2007−013261に記載されているものを用いることができる。
【0051】
本発明で用いることができる保湿剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。カンテン、ジグリセリン、ジステアリルジモニウムヘクトライト、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、ヨクイニンエキス、ワセリン、尿素、ヒアルロン酸、セラミド、リピジュア、イソフラボン、アミノ酸、コラーゲン、ムコ多糖、フコダイン、ラクトフェリン、ソルビトール、キチン・キトサン、リンゴ酸、グルクロン酸、プラセンタエキス、海藻エキス、ボタンピエキス、アマチャエキス、オトギリソウエキス、コレウスエキス、マサキ抽出物、コウカエキス、マイカイ花エキス、チョレイエキス、サンザシエキス、ローズマリーエキス、デュークエキス、カミツレエキス、オドリコソウエキス、レイシエキス、セイヨウノコギリソウエキス、アロエエキス、マロニエエキス、アスナロエキズ、ヒバマタエキス、オスモインエキス、オーツ麦エキス、チューベロースポリサッカライド、冬虫夏草エキス、大麦エキス、オレンジ抽出物、ジオウエキス、サンショウエキス、ヨクイニンエキスなどが挙げられる。
【0052】
本発明で用いることができる柔軟剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。グリセリン、ミネラルオイル、エモリエント成分(例えば、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸ポリグリセリル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸オクチル、オレイン酸、オレイン酸グリセリル、カカオ脂、コレステロール、混合脂肪酸トリグリセリド、コハク酸ジオクチル、酢酸ステアリン酸スクロース、シクロペンタシロキサン、ジステアリン酸スクロース、パルミチン酸オクチル、ヒドロキシステアリン酸オクチル、ベヘン酸アラキル、ポリベヘン酸スクロース、ポリメチルシルセスキオキサン、ミリスチルアルコール、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシルなど)が挙げられる。
【0053】
本発明で用いることができる経皮吸収促進剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。エタノール、ミリスチン酸イソプロピル、クエン酸、スクワラン、オレイン酸、メントール、N-メチル-2-ピロリドン、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸オクチルドデシル、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、尿素、植物油、動物油が挙げられる。
【0054】
本発明で用いることができる無痛化剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ベンジルアルコール、塩酸プロカイン、塩酸キシロカイン、 クロロブタノールなどが挙げられる。
【0055】
本発明で用いることができる防腐剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、過酸化水素、ギ酸、ギ酸エチル、ジ亜塩素酸ナトリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、ペクチン分解物、ポリリジン、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール、フェノキシエタノール、レゾルシン、チモール、チラム、ティートリー油が挙げられる。
【0056】
本発明で用いることができる酸化防止剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ビタミンA、レチノイン酸、レチノール、酢
酸レチノール、パルミチン酸レチノール、レチニルアセテート、レチニルパルミテート、レチノイン酸トコフェリル、ビタミンCおよびその誘導体、カイネチン、β−カロテン、アスタキサンチン、ルテイン、リコピン、トレチノイン、ビタミンE、α−リポ酸、コエンザイムQ10、ポリフェノール、SOD、フィチン酸などが挙げられる。
【0057】
本発明で用いることができる色素剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。オキアミ色素、オレンジ色素、カカオ色素、カオリン、カルミン類、グンジョウ、コチニール色素、酸化クロム、酸化鉄、二酸化チタン、タール色素、クロロフィルなどが挙げられる。
【0058】
本発明で用いることができる増粘剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。クインスシード、カラギーナン、アラビアガム、カラヤガム、キサンタンガム、ジェランガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、ペクチン、デンプン、シクロデキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0059】
本発明で用いることができる香料として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ジャコウ、アカシア油、アニス油、イランイラン油、シナモン油、ジャスミン油、スウィートオレンジ油、スペアミント油、ゼラニウム油、タイム油、ネロリ油、ハッカ油、ヒノキ油、フェンネル油、ペパーミント油、ベルガモット油、ライム油、ラベンダー油、レモン油、レモングラス油、ローズ油、ローズウッド油、アニスアルデヒド、ゲラニオール、シトラール、シベトン、ムスコン、リモネン、バニリンなどが挙げられる。
【0060】
本発明で用いることができるpH調整剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸、コハク酸が挙げられる。
【0061】
本発明の皮膚外用剤の剤型は特に限定されないが、例えば、液剤、湿布剤、塗布剤、ゲル剤、クリーム剤、エアゾール剤、ローション剤、粉剤、泡剤、化粧水、ボディーソープ、石鹸、粧料などを挙げることができる。
【0062】
本発明の皮膚外用剤の投与方法としては、経皮・経粘膜投与が挙げられる。
【0063】
本発明の皮膚外用剤の投与量は、活性成分の種類及び使用量、使用者の体重、疾患の状態などに応じて適宜設定することができるが、一般的には、1回の投与につき、1μg〜50mg/cm2程度を投与することができ、好ましくは2.5μg〜10mg/cm2程度を投与することができる。
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1
酸処理ゼラチン10mg、TG-S(味の素製)5mgを水1mLに溶解させる。外設40℃、800rpmの攪拌条件で、ゼラチン溶液1mLをマイクロシリンジを用いて、グリチルレチン酸1.7mgを溶解したエタノール10mL中に注入したところ、ゼラチンナノ粒子が得られた。外設55℃で5時間静置し、ゼラチンナノ粒子を酵素架橋する。得られたゼラチンナノ粒子分散液に水5mLを加え、ロータリーエバポレーターにて、エタノールを除去し、グリチルレチン酸を内包したゼラチンナノ粒子の水分散液が得られた。上記粒子の平均粒経は、光散乱光度計、ニッキソー(株)製マイクロトラックを用い測定したところ、201nmであった。
【0065】
実施例2
カゼイン(乳由来・和光純薬製)100mgをpH10、50mMリン酸バッファー10mLに混合させる。グリチルレチン酸5mgをエタノール0.1mLに溶解させる。この2種の溶液を混合し、水酸化ナトリウムを加えpHを10に調整したところ、カゼインナノ粒子が得られた。上記粒子の平均粒経は、光散乱光度計、日機装(株)製ナノトラックを用い測定したところ、250nmであった。
【0066】
試験例1:
実施例1から2に記載のナノ粒子分散液を室温にて1ヶ月保存後、ニッキソー(株)製マイクロトラックを用い平均粒経を測定した。
比較例1として、合成ポリマー(PLGA)のナノ粒子分散液であるナノイン パクト(ホソカワミクロン製)を用いた。
試験例1の測定結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
上記の実施例より、本発明の皮膚外用剤は安定性が高いことが分かる。また、天然高分子を用いることによって、安全性が高い。
【0069】
実施例4
実施例2の粒子を含む溶液を用いて皮膚保湿性を評価した。モニター10人のうち8人が「保湿の改善効果とさっぱり感、べたつきがない」と回答した。粒子径が小さいことにより透明性が高く、塗り伸ばしやすさに優れること分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子サイズが200〜500nmである、活性成分を内包したタンパク質ナノ粒子を含む、皮膚外用剤。
【請求項2】
タンパク質の重量に対して、0.1〜100重量%の活性成分を含有する、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
活性成分が、紫外線吸収剤又は保湿成分からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
活性成分が、イオン性物質または脂溶性物質である、請求項1から3の何れかに記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
タンパク質がコラーゲン、ゼラチン、酸処理ゼラチン、アルブミン、オバルブミン、カゼイン、トランスフェリン、グロブリン、フィブロイン、フィブリン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1から4の何れかに記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
ナノ粒子の形成中および/又は形成後にタンパク質が架橋処理されている、請求項1から5の何れかに記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
酵素を用いて架橋処理を行う、請求項6に記載の皮膚外用剤。
【請求項8】
下記の工程(a)から(c)によって作製されるカゼインナノ粒子を含む、請求項1から7の何れかに記載の皮膚外用剤。
(a)カゼインをpH8以上11未満の塩基性水性媒体に混合する工程;
(b)工程(a)で得た溶液に少なくとも1種の活性成分を添加する工程;及び
(c)工程(b)で得た溶液をpH3.5〜7.5の水性媒体に注入する工程;
【請求項9】
下記の工程(a)から(c)によって作製されるカゼインナノ粒子を含む、請求項1から7の何れかに記載の皮膚外用剤。
(a)カゼインをpH8以上11未満の塩基性水性媒体に混合する工程;
(b)工程(a)で得た溶液に少なくとも1種の活性成分を添加する工程;及び
(c)工程(b)で得た溶液のpH を等電点からpH1以上離れたpHまで下降させる工程;

【公開番号】特開2008−285432(P2008−285432A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130503(P2007−130503)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】