説明

皮膚外用剤

【課題】水存在下でも加水分解されにくく、保存安定性や溶解性に優れたアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有する皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】下式で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有しその塩が有機塩基であり、かつpHが8.2〜9.4であることを特徴とする皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシクエン酸誘導体の塩であるアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有した皮膚外用剤に関する。より詳しくは、アシル化ヒドロキシクエン酸塩の形成に有機塩基を用いることで、該アシル化ヒドロキシクエン酸塩の水存在下における保存安定性に優れ、かつ溶解性が飛躍的に向上した皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシクエン酸及びその誘導体は、脂肪合成抑制作用を示す化合物として知られており、ダイエット素材として化粧品、食品等に配合されている(特許文献1、2)。
【0003】
特に、ヒドロキシクエン酸誘導体の中でも、ヒドロキシクエン酸の2位の水酸基をアシル基で修飾したアシル化ヒドロキシクエン酸、そのアルカリ金属塩又はそのアルカリ土類金属塩(たとえば、ヒドロキシクエン酸−2−パルミテート ナトリウム塩)は、皮膚親和性及び経皮吸収性が高く、体内に吸収された後は生体酵素反応で加水分解されてヒドロキシクエン酸になるため、ヒドロキシクエン酸の体内吸収効率が高く、脂肪合成を行う組織に充分量を到達させることができる成分として、皮膚外用剤への適用が期待されている(特許文献3)。
【0004】
しかしながら、該アシル化ヒドロキシクエン酸、そのアルカリ金属塩又はそのアルカリ土類金属塩の水存在下における保存安定性及び溶解性については開示されていない。例えば、アシルサルコシン酸塩やアシルグルタミン酸塩等のアニオン性界面活性剤を水に溶解するには、市販品としてナトリウム、カリウム、アンモニア、アルカノールアミン等の塩がある(非特許文献1)。しかしながら、該アシル化ヒドロキシクエン酸にはアンモニアやアルカノールアミン等の有機塩基を塩とした記述がない。また、該アシル化ヒドロキシクエン酸、そのアルカリ金属塩又はそのアルカリ土類金属塩を含む皮膚外用剤に、pH調整剤としてトリエタノールアミンやL−アルギニン等の有機塩基を配合した記載はあるが、保存安定性及び溶解性については開示されていない(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−504267
【特許文献2】特開2004−105004
【特許文献3】特開2007−31415
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】化粧品ハンドブック 日光ケミカルズ P165(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記アシル化ヒドロキシクエン酸、そのアルカリ金属塩又はそのアルカリ土類金属塩の水存在下における保存安定性及び溶解性について確認したところ、保存安定性及び溶解性のどちらについても満足な結果が得られなかった。また、該アシル化ヒドロキシクエン酸、そのアルカリ金属塩又はそのアルカリ土類金属塩を含む皮膚外用剤に、pH調整剤として有機塩基を配合したところ、保存安定性及び溶解性のどちらについても満足な結果が得られなかった。該アシル化ヒドロキシクエン酸、そのアルカリ金属塩又はそのアルカリ土類金属塩の製剤中での保存安定性が充分でなかったのは、誘導体中のアシル基が生体酵素反応で分解されやすい設計であるため、加水分解を受けやすく、皮膚外用剤において多用される水性製剤中で分解が進んでしまうことによる。
【0008】
また、該アシル化ヒドロキシクエン酸、そのアルカリ金属塩又はそのアルカリ土類金属塩は水に対して難溶性を示し、水性製剤中で結晶が析出する等、製剤化が困難であるという問題があった。
【0009】
本発明はかかる問題を解決し、水存在下でも加水分解されにくく難溶性を示さないアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有することで、該アシル化ヒドロキシクエン酸塩の保存安定性及び溶解性に優れた皮膚外用剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、アシル化ヒドロキシクエン酸塩に有機塩基を用いることで、該アシル化ヒドロキシクエン酸塩の水存在下における保存安定性及び溶解性が飛躍的に向上することを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下に示す[1]〜[4]の事項を含むものである。
【0011】
[1]化学式1で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有しその塩が有機塩基であり、かつpHが8.2〜9.4であることを特徴とする皮膚外用剤。
【化1】

[化学式1中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は炭素数12〜22のアシル基を表し(但し、R及びRが同時に水素原子になることはない。)、M、M及びMは、それぞれ独立に水素原子、又は有機塩基を表す(但し、M、M及びMが同時に水素原子になることはない。)。]
【0012】
[2][1]記載の化学式1で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩のR及びRが、それぞれ独立に水素原子、又は炭素数16のアシル基であることを特徴とする、前記[1]記載の皮膚外用剤。
【0013】
[3]前記[1]又は[2]記載の化学式1で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩のM、M及びMの有機塩基が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール及び塩基性アミノ酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、前記[1]又は[2]記載の皮膚外用剤。
【0014】
[4]前記[1]から[3]のいずれか1項記載の化学式1で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩を酸に換算した1モルに対し、有機塩基がM、M及びMの有機塩基も含めて3モル以上含有することを特徴とする、前記[1]から[3]のいずれか1項記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の皮膚外用剤によれば、水存在下であってもアシル化ヒドロキシクエン酸塩の分解が抑制されて保存安定性及び溶解性が向上するので、製品に配合されたアシル化ヒドロキシクエン酸塩由来のヒドロキシクエン酸誘導体の効果(優れた皮膚親和性及び経皮吸収性、ならびに組織内に到達した後の脂肪合成抑制効果)を長期にわたって安定して得ることができる。したがって、本発明の皮膚外用剤は、脂肪合成抑制のための皮膚外用剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
<アシル化ヒドロキシクエン酸塩>
まず、本発明のアシル化ヒドロキシクエン酸塩について説明する。
【0018】
本発明の皮膚外用剤に用いられるアシル化ヒドロキシクエン酸塩は、化学式1で表わされる化合物である。
【0019】
【化1】

【0020】
前記化学式1中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は炭素数12〜22のアシル基を表している(但し、R及びRが同時に水素原子になることはない。)。
【0021】
具体的には、前記R及びRの少なくとも一方が、炭素数12〜22から選択されるアシル基であることが好ましい。さらに、Rが炭素数12〜22から選択されるアシル基であり、Rが水素原子である態様がより好ましい。
【0022】
さらに好ましい例としては、前記R及びRの少なくとも一方が、炭素数16であるアシル基であることが好ましい。さらに、Rが炭素数16であるアシル基であり、Rが水素原子である態様がより好ましい。
【0023】
前記化学式1中、M、M及びMは、それぞれ独立に水素原子、又は有機塩基を表す(但し、M、M及びMが同時に水素原子になることはない。)。
【0024】
具体的には、M、M及びMの有機塩基が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、塩基性アミノ酸等が挙げられる。
【0025】
さらに好ましい例としては、M、M及びMの有機塩基が、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパンジオールや塩基性アミノ酸のL−アルギニンであることがより好ましい。
【0026】
本発明の皮膚外用剤の20℃におけるpHは、好ましくは8.2〜9.4である。pHが8.2より低い場合は、アシル化ヒドロキシクエン酸の結晶の析出が見られ、pHが9.4より高い場合は、アシル基の加水分解が起こり脂肪酸の析出が見られる。
【0027】
本発明の皮膚外用剤の有機塩基含有量は、アシル化ヒドロキシクエン酸塩を酸に換算した1モルに対し、3モル以上含有することが好ましい。3モルより低い場合は、保存安定性が悪くなることがある。
【0028】
<製造方法>
次に、本発明の製造方法について説明する。本発明のアシル化ヒドロキシクエン酸塩の溶解方法は特に限定されるものではないが、予め調製した有機塩基水溶液に、アシル化ヒドロキシクエン酸を加えて溶解させる方法が好ましい。その後、前記アシル化ヒドロキシクエン酸塩水溶液を皮膚外用剤に添加する。前記アシル化ヒドロキシクエン酸は昭和電工(株)から入手可能であり、有機塩基は市販品を用いることができる。
【0029】
製造方法の一例を具体的に説明すると、有機塩基を水で溶解し、そこにアシル化ヒドロキシクエン酸を撹拌しながら徐々に添加する。pH調整剤等の溶質を添加し、pHを調整し、同時に水で全量を調整する。この時、前記アシル化ヒドロキシクエン酸1モルに対し、3モル以上の有機塩基を反応させることが好ましい。
【0030】
本発明の皮膚外用剤には上記した皮膚外用剤の他に本発明の効果を損なわない範囲において、通常化粧品、医薬部外品、医薬品等に用いられる他の成分、例えば、粉末成分、油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、低級アルコール、多価アルコール、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、精製水等を必要に応じて適宜配合し、目的とする剤型に応じて常法により製造することが出来る。
【0031】
その他の配合可能成分としては、例えば、防腐剤(エチルパラベン、ブチルパラベン等)、美白剤(例えば、胎盤抽出物、ユキノシタ抽出物、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、コウジ酸、アルブチン、トラネキサム酸等)、各種抽出物(例えば、オウバク、オウレン、シコン、シャクヤク、センブリ、バーチ、セージ、ビワ、ニンジン、アロエ、ゼニアオイ、アイリス、ブドウ、ヨクイニン、ヘチマ、ユリ、サフラン、センキュウ、ショウキュウ、オトギリソウ、オノニス、ニンニク、トウガラシ、チンピ、トウキ、海藻等)、賦活剤(例えば、ローヤルゼリー、感光素、コレステロール誘導体等)、血行促進剤(例えば、ノニル酸ワレニルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β−ブトキシエチルエステル、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、タンニン酸、α−ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ−オリザノール等)、抗脂漏剤(例えば、硫黄、チアントール等)、抗炎症剤(例えば、チオタウリン、ヒポタウリン、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸ステアレート、グリチルリチン酸ジカリウム、サリチル酸等)、皮脂制御剤(例えば、ユーカリオイル、ローレルオイル、グレープフルーツオイル、ローズマリーオイル、クローブバッドオイル、カモミールオイル、ローズオイル、ゼラニウムオイル、ネロリオイル、パインニードルオイル、ヒソップオイル、フェンネルオイル、クラリセージオイル、ガルバナムオイル等)が挙げられる。
【0032】
さらに、金属イオン封鎖剤(エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸、リンゴ酸等)、塩基性アミノ酸を除くアミノ酸及びその誘導体(ロイシン、リジン等)、糖類(フルクトース、マンノース、エリスリトール、トレハロース、キシリトール等)等も適宜配合することができる。
【0033】
本発明の皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬品、及び医薬部外品に広く適用することが可能である。その剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、ゲル、エアゾール、ミスト、及びカプセル等、任意の形態で提供されることができる。また、本発明の皮膚外用剤の製品形態も任意であり、ボディ化粧料(マッサージ剤、フットスプレー等)、浴用剤、スキンケア化粧料(化粧水、乳液、クリーム、パック等)、メイクアップ化粧料(ファンデーション、おしろい、頬紅、口紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、サンスクリーン等)、皮膚洗浄料(メイク落とし、洗顔料、ボディシャンプー等)、毛髪化粧料(ヘアリンス、シャンプー等)等、従来皮膚外用剤に用いるものであればいずれの形で適用することもできる。
【0034】
以下に、実施例を挙げて、更に詳細に本発明について説明を加える。本発明を実施例と比較例により説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
<ヒドロキシクエン酸−2−パルミテート トリエタノールアミン塩(以下HCP−TEAと呼ぶ)の皮膚外用剤調製法>
室温下でトリエタノールアミン0.45重量%を水50重量%に溶解し、トリエタノールアミン水溶液を得た。そこに、アシル化ヒドロキシクエン酸であるヒドロキシクエン酸−2−パルミテート(以下HCPと呼ぶ)0.5重量%を超音波溶解機内で少量ずつ添加し完全溶解させ、HCP−TEA水溶液を得た(HCP:トリエタノールアミンのモル比1:3)。その後、10重量%L−アルギニン水溶液にてpHを調整し、水で全量を100重量%としてpH8.2の目的とする皮膚外用剤を得た。
【0036】
(実施例2〜3、比較例1〜2)
<ヒドロキシクエン酸−2−パルミテート L−アルギニン塩(以下HCP−Argと呼ぶ)の皮膚外用剤調製法>
室温下でL−アルギニン0.53重量%を水50重量%に溶解し、L−アルギニン水溶液を得た。そこに、HCP0.5重量%を超音波溶解機内で少量ずつ添加し完全溶解させ、HCP−Arg水溶液を得た(HCP:L−アルギニンのモル比1:3)。その後、10重量%L−アルギニン水溶液にてpHを調整し、水で全量を100重量%として、実施例2ではpH8.7、実施例3ではpH9.2、比較例1ではpH7.9、比較例2ではpH9.6の目的とする皮膚外用剤を得た。
【0037】
(実施例4)
<ヒドロキシクエン酸−2−パルミテート アミノメチルプロパンジオール塩(以下HCP−AMPDと呼ぶ)の皮膚外用剤調製法>
室温下でアミノメチルプロパンジオール0.32重量%を水50重量%に溶解し、アミノメチルプロパンジオール水溶液を得た。そこに、HCP0.5重量%を超音波溶解機内で少量ずつ添加し完全溶解させ、HCP−AMPD水溶液を得た(HCP:アミノメチルプロパンジオールのモル比1:3)。その後、10重量%L−アルギニン水溶液にてpHを調整し、水で全量を100重量%としてpH9.4の目的とする皮膚外用剤を得た。
【0038】
(比較例3)
<ヒドロキシクエン酸−2−パルミテート ナトリウム塩(以下HCP−Naと呼ぶ)の皮膚外用剤調製法>
常温下で水50重量%にHCP−Na0.5重量%を超音波溶解機内で少量ずつ添加し完全溶解させ、HCP−Na水溶液を得た。その後、リン酸緩衝液にてpHを調整し、水で全量を100重量%としてpH8.3の目的とする皮膚外用剤を得た。
【0039】
[pH測定方法]
測定にはガラス電極式水素イオン濃度計(堀場製作所製、F−51)を用い、常法により行った。
【0040】
[アシル化ヒドロキシクエン酸塩の安定性評価1(外観)]
実施例1〜4及び比較例1〜3の皮膚外用剤を40℃に3か月間保存し、外観について、以下の基準によりアシル化ヒドロキシクエン酸塩の安定性と溶解性を評価した。
○:開始時と変化がない
×:析出物や分解物等明らかに変化が認められる
【0041】
[アシル化ヒドロキシクエン酸塩の安定性評価2(残存率)]
実施例1〜4及び比較例1〜3の皮膚外用剤を40℃に3か月間保存し、アシル化ヒドロキシクエン酸塩の残存率を高速液体クロマトグラフィーにて測定し、以下の基準により安定性を評価した。
○:残存率 80%以上 安定性が極めて良い
×:残存率 60%未満 安定性が悪い
【0042】
<液体クロマトグラフィー分析条件>
分析カラム:Develosil ODS−HG−5 4.6mm φ×250mm
カラム槽温度:40℃
溶離液:アセトニトリル/水/リン酸混液=800:200:1
溶離液流量:1mL/min 資料注入量:50μL
検出器:UV 210nm
【0043】
【表1】

【0044】
ヒドロキシクエン酸−2−パルミテートと有機塩基であるトリエタノールアミン、アミノメチルプロパンジオールやL−アルギニンで塩を形成し、pHを8.2〜9.4に調整した皮膚外用剤である実施例1〜4では、ヒドロキシクエン酸誘導体の残存率が80%以上となり、安定性が良かった。特にHCP−Argを含有しpHが9.2である実施例3では、アシル化ヒドロキシクエン酸塩の残存率が82.2%と高く、安定性が極めて良かった。また、実施例1〜4の外観評価は、結晶の析出なども見られず、開始時と変化なく安定性や溶解性が良いという結果となった。
【0045】
一方、HCP−Argを含有しpHを8.2より低く調整した皮膚外用剤である比較例1では、アシル化ヒドロキシクエン酸塩の残存率が48.7%と低く、安定性が悪かった。また、外観評価でもHCP−Arg由来のヒドロキシクエン酸−2−パルミテートの結晶物が確認され、安定性や溶解性が悪い結果となった。
【0046】
比較例2では、HCP−Argを含有しpHを9.4より高くした結果、アシル化ヒドロキシクエン酸塩の残存率が50.1%となり安定性が悪かった。また、皮膚外用剤の外観評価でもHCP−Argの加水分解物であるパルミチン酸の結晶が確認され、安定性や溶解性が悪い結果となった。
【0047】
比較例3では、有機塩基ではなくアルカリ金属であるナトリウムで塩を形成した、HCP−Naを用いた。その結果、pH8.3という有機塩基で塩を形成した場合にアシル化ヒドロキシクエン酸塩の安定性が良好なpH領域であるにもかかわらず、アシル化ヒドロキシクエン酸塩の残存率が58.4%となり安定性が悪かった。また、外観評価でもHCP−Naの加水分解物であるパルミチン酸の結晶が確認され、安定性や溶解性が悪い結果となった。
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、アシル化ヒドロキシクエン酸と有機塩基で形成されるアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有し、pH調整剤によりpHを8.2〜9.4に調整することにより、水存在下でも加水分解されにくいアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有し、安定性や溶解性に優れた皮膚外用剤を提供することが可能となる。
【0049】
次に本発明の皮膚外用剤の処方例を示す。尚以下、ポリオキシエチレンをPOEと表し、オキシエチレンのモル数を( )内の数字で示す。
【0050】
処方例1 化粧水
配合成分 配合量(重量%)
(1)精製水 10.00
(2)L−アルギニン 0.53
(3)HCP 0.50
(4)1,3ブチレングリコール 5.00
(5)エタノール 5.00
(6)防腐剤 適 量
(7)香料 適 量
(8)pH調整剤 適 量
(9)精製水で全量 100.00
〔製法〕(1)、(2)を混合し、完全溶解を確認した後、(3)を少量ずつ添加する。その後、(4)〜(9)を添加し混合して製品とする。
【0051】
処方例2 乳液
配合成分 配合量(重量%)
(1)精製水 10.00
(2)L−アルギニン 0.53
(3)HCP 0.50
(4)モノステアリン酸POE(5)グリセリル 1.00
(5)親油型モノステアリン酸グリセリル 1.00
(6)スクワラン 10.00
(7)ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 5.00
(8)パルミチン酸セチル 2.00
(9)ベヘニルアルコール 0.40
(10)カルボキシビニルポリマー 0.20
(11)グリセリン 5.00
(12)1,3−ブチレングリコール 8.00
(13)キサンタンガム 0.10
(14)防腐剤 適 量
(15)pH調整剤 適 量
(16)精製水で全量 100.00
〔製法〕まず、(4)〜(9)を加熱溶解し、80℃に保ち油相部とする。(1)、(2)を混合し、完全溶解を確認した後、(3)を少量ずつ添加する。(16)に(10)をよく膨潤させ、先に溶解した(1)〜(3)を添加する。続いて、(11)〜(15)を加えて均一に混合し75℃に保ち水相部とする。油相部に水相部をかき混ぜながら加え、30℃まで冷却して製品とする。
【0052】
処方例3 クリーム
配合成分 配合量(重量%)
(1)精製水 10.00
(2)L−アルギニン 0.53
(3)HCP 0.50
(4)モノステアリン酸POE(5)グリセリル 2.00
(5)モノステアリン酸グリセリル 2.00
(6)セタノール 3.00
(7)スクワラン 10.00
(8)流動パラフィン 5.00
(9)グリセリン 5.00
(10)キサンタンガム 0.20
(11)1,3−ブチレングリコール 5.00
(12)防腐剤 適 量
(13)pH調整剤 適 量
(14)香料 適 量
(15)精製水で全量 100.00
〔製法〕まず、(4)〜(8)を加熱溶解し、80℃に保ち油相部とする。(1)、(2)を混合し、完全溶解を確認した後、(3)を少量ずつ添加する。(10)を(9)によく馴染ませ(15)に添加しよく膨潤させる。これに、先に溶解した(1)〜(3)を添加し、続いて(11)〜(13)を添加し混合して75℃に保ち水相部とする。油相部に水相部をかき混ぜながら加え、冷却し、45℃で(14)を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0053】
処方例4 透明ジェル
配合成分 配合量(重量%)
(1)精製水 10.00
(2)L−アルギニン 0.53
(3)HCP 0.50
(4)エタノール 5.00
(5)POE(60)硬化ヒマシ油 0.10
(6)香料 適 量
(7)1,3−ブチレングリコール 5.00
(8)グリセリン 5.00
(9)キサンタンガム 0.10
(10)カルボキシビニルポリマー 0.20
(11)防腐剤 適 量
(12)pH調整剤 適 量
(13)精製水で全量 100.00
〔製法〕(1)、(2)を混合し、完全溶解を確認した後、(3)を少量ずつ添加する。その後、(8)〜(13)を添加し、そこに溶解した(4)〜(7)を添加し混合して製品とする。
【0054】
処方例5 パック
配合成分 配合量(重量%)
(1)精製水 10.00
(2)L−アルギニン 0.53
(3)HCP 0.50
(4)ポリビニルアルコール 12.00
(5)エタノール 5.00
(6)1,3−ブチレングリコール 8.00
(7)POE(20)硬化ヒマシ油 0.50
(8)防腐剤 適 量
(9)pH調整剤 適 量
(10)香料 適 量
(11)精製水で全量 100.00
〔製法〕(1)、(2)を混合し、完全溶解を確認した後、(3)を少量ずつ添加する。その後、(4)〜(11)を添加し均一に溶解して製品とする。
【0055】
処方例6 ファンデーション
配合成分 配合量(重量%)
(1)精製水 10.00
(2)L−アルギニン 0.53
(3)HCP 0.50
(4)モノステアリン酸POE(20)ソルビタン 1.00
(5)POE(20)セチルエーテル 2.00
(6)セタノール 1.00
(7)液状ラノリン 2.00
(8)流動パラフィン 3.00
(9)ミリスチン酸イソプロピル 6.50
(10)カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.10
(11)ベントナイト 0.50
(12)プロピレングリコール 4.00
(13)トリエタノールアミン 1.10
(14)防腐剤 適 量
(15)pH調整剤 適 量
(16)二酸化チタン 8.00
(17)タルク 4.00
(18)ベンガラ 1.00
(19)黄酸化鉄 2.00
(20)香料 適 量
(21)精製水で全量 100.00
〔製法〕まず、(4)〜(9)を加熱溶解し、80℃に保ち油相部とする。(1)、(2)を混合し、完全溶解を確認した後、(3)を少量ずつ添加する。(21)に(10)をよく膨潤させ、先に溶解した(1)〜(3)を添加する。続いて、(11)〜(15)を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した(16)〜(19)を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相部とする。この水相部に油相部をかき混ぜながら加え、冷却し、45℃で(20)を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【産業上の利用可能性】
【0056】
水存在下でも加水分解されにくいアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有し、安定性や溶解性に優れ、製品寿命が長く、かつ皮膚親和性及び経皮吸収性に優れる皮膚外用剤を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩を含有しその塩が有機塩基であり、かつpHが8.2〜9.4であることを特徴とする皮膚外用剤。
【化1】

[化学式1中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は炭素数12〜22のアシル基を表し(但し、R及びRが同時に水素原子になることはない。)、M、M及びMは、それぞれ独立に水素原子、又は有機塩基を表す(但し、M、M及びMが同時に水素原子になることはない。)。]
【請求項2】
請求項1記載の化学式1で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩の、R及びRが、それぞれ独立に水素原子、又は炭素数16のアシル基であることを特徴とする、請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1記載の化学式1で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩の、M、M及びMの有機塩基が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール及び塩基性アミノ酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1又は2記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項1記載の化学式1で表わされるアシル化ヒドロキシクエン酸塩を酸に換算した1モルに対し、有機塩基がM、M及びMの有機塩基も含めて3モル以上含有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項記載の皮膚外用剤。


【公開番号】特開2011−213652(P2011−213652A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82943(P2010−82943)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】