説明

皮膚外用剤

【課題】
本発明の目的は、皮膚一次刺激のあるパラオキシ安息香酸類を使用せず、或いは少量で、必要な抗菌性を最小限の多価アルコールで達成し、且つ優れた官能や保湿性能を有する皮膚外用剤を得ることである。
【解決手段】
1,3プロパンジオールと1,2ペンタンジオールを含む皮膚外用剤が上記課題を解決することがわかった。 さらに1,3ブタンジオールを配合すると官能の自由度も増す。配合量としては、1,3プロパンジオールが0.5〜30重量%、1,2ペンタンジオールが0.2〜15重量%、1,3ブタンジオールが0〜25重量%、好ましくは、1,3プロパンジオールが1.0〜25重量%、1,2ペンタンジオールが0.5〜10重量%、1,3ブタンジオールが0〜20重量%がよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚一次刺激がなく、皮膚外用剤に必要な優れた官能を有する皮膚に適用する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚外用剤にはグリセリン、ジグリセリン、1,3ブタンジオール、プロピレングリコール等の多価アルコールは保湿目的で広く用いられている。
また、多価アルコールの中には、抗菌性(静菌性)を有するものがあり、防腐剤を減量する目的も合わせて使用される場合もある。
また、その中で、1,2ペンタンジオールと1,3ブチレングルコールの組合せ(特許文献1参照)等や1,2へキサンジオールと1,2オクタンジオールの組合せ(非特許文献1参照)など多価アルコールの組合せによる皮膚刺激の緩和や抗菌性の相乗効果が知られている。
また、1,3プロパンジオールは植物由来の多価アルコールで、保湿性が高く、特に皮膚外用剤としてグリセリンと併用すると、角質水分量の相乗的増加や優れた官能が得られる。(非特許文献2参照)
しかしながら、1,3ブタンジオールは角質水分量の増加には1,3プロパンジオールほど関与しないことがわかっている。(非特許文献2の図1参照)
また、1,2ペンタンジオールと1,3ブチレングルコールの組合せでは抗菌性はあるが、組合せによる相乗効果はない。
また、1,2へキサンジオールは1,2オクタンジオールは乳化系等では油相の種類にもよるが、油相に存在する部分が多くなり、菌の繁殖する水相では存在量が減少し、効果が減じることがあり、また、保湿性の面ではほとんど効果がない。
【特許文献1】特開平11−335258号公報
【非特許文献1】Gerhard Schmaus et al.,FRAGRANCE JOURNAL Vol.34,No.4, P47-52 (2006)
【非特許文献2】馬奈木裕美、賀来群雄,FRAGRANCE JOURNAL Vol.37,No.5, P61-64 (2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、皮膚一次刺激のあるパラオキシ安息香酸類を使用せず、必要な抗菌性を最小限の多価アルコールで達成し、且つ優れた官能や保湿性能を有する皮膚外用剤を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討した結果、
1,3プロパンジオールと1,2ペンタンジオールを組合せて用いると、抗菌性が相乗的に高まるので、パラオキシ安息香酸類等の配合をしなくても、充分な抗菌性が得られるので、多価アルコールの配合量の選択範囲が広がり、種々の官能の保湿性の高い皮膚外用剤を得ることができる。
さらには、1,3ブタンジオールを配合することも可能である。
【0005】
1,3プロパンジオール、1,2ペンタンジオール、1,3ブタンジオールの配合量は最低、皮膚外用剤に必要な抗菌性を有する量を配合する必要がある。
1,3プロパンジオールが0.5〜30重量%、1,2ペンタンジオールが0.2〜15重量%、1,3ブタンジオールが0〜25重量%、好ましくは1,3プロパンジオールが1.0〜25重量%、1,2ペンタンジオールが0.5〜10重量%、1,3ブタンジオールが0〜20重量%が適当であり、下限以下であれば相乗作用がなく、上限を越えて配合しても抗菌性という意味では効果は期待できない。また、官能面でベタツキ感が強くなり、皮膜感等も生じ、官能面でのマイナスが出てくる。
しかしながら特殊用途の場合これを越えて配合する場合もある。
そのほかの抗菌剤は本発明の主旨に反しない程度に配合することはかまわない。パラオキシ安息香酸類等は配合しない方がよいが場合によっては0.1%以下なら配合してもよい。フェノキシエタノールも同様に場合によっては配合してもよい。
これらで必要な抗菌性を得られるようにする。
これらの処方の決定には特開2009−203165号公報に示されている方法を用いると必要な抗菌性を得る処方が容易に得られる。
【0006】
このほか必要な原料を組み合わせて皮膚外用剤を作成する。
配合原料を例示すれば、天然動植物油脂例えば、オリーブ油、ミンク油、ヒマシ油、パーム油、月見草油、ヤシ油、ヒマシ油、カカオ油、マカデミアナッツ油等;蝋例えば、ホホバ油、ミツロウ、ラノリン、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等;高級アルコール例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール等;高級脂肪酸例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ラノリン脂肪酸等;高級脂肪族炭化水素例えば、流動パラフィン、固形パラフィン、スクワラン、ワセリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス等;合成エステル油例えば、ブチルステアレート、ヘキシルラウレート、ジイソプロピルアジペート、ジイソプロピルセバケート、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテートイソプロピルミリステート、セチルイソオクタノエート、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール;シリコーン誘導体例えば、メチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン等のシリコーン油等が挙げられる。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤例えば、アルキル硫酸塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸塩や硫酸塩等;非イオン性界面活性剤例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセリン脂肪酸エステル等;両面活性剤例えば、アルキルベタイン、ホスホベタイン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール及びこれらのリゾ体の他、ホスホファチジン酸とその塩等が挙げられる。
薬剤としてトコフェロール、酢酸トコフェロール、ビタミンC、アラントイン、エラスチン、アルブチン、コラーゲン、グリチルリチン酸ジカリウム等が挙げられる。
【0007】
多価アルコールは1,3プロパンジオール、1,2ペンタンジオール、1,3ブタンジオール以外の多価アルコールも勿論配合でき、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、それ以上のポリエチレングリコール類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、それ以上のポリプロピレングリコール類、1,4−ブチレングリコール等のブチレングリコール類、グリセリン、ジグリセリン、それ以上のポリグリセリン類、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール等の糖アルコール類、グリセリン類のエチレンオキシド(以下、EOと略記)、プロピレンオキシド(以下、POと略記)付加物、糖アルコール類のEO、PO付加物、ガラクトース、グルコース、フルクトース等の単糖類とそのEO、PO付加物、マルトース、ラクトース等の多糖類とそのEO、PO付加物などの多価アルコールが挙げられる。
剤形は特に問わないので、ローション類、乳液類、クリーム類、軟膏類、パック類の任意の剤形を選択し、必要な操作を加えて製剤化する。
【実施例】
【0008】
以下に実施例を示すがこれに限定されることはなんらない。
なお、実施例、比較例の数字は重量部を表す。
【0009】
【表1】

注1=株式会社フードケミファ社製、商品名ヒアルロン酸FCH(FCH−120)を用いて調整した。
注2=以下の製法で、コンキオリン加水分解液を作成した。
真珠500gを塩酸1kgを撹拌しながら徐々に加えて脱灰する。さらに1規定塩酸300gを撹拌しながら徐々に加えて脱灰し、これを濾過して不溶物を集めた。これに水で30倍に希釈した硫酸を100ml加えて、ガラス容器に密封し、110℃で24時間加熱分解した。冷却後、用いた硫酸の当量の90%の水酸化バリウムを充分撹拌しつつ、少量づつ加えた。さらに、pH5.8まで1%水酸化ナトリウム水溶液を加えた。次に200G、10分間、遠心分離した後さらに0.45ミクロンのメンブランフルターで濾過し、分解物を得た。これを凍結乾燥し、これを1gに取り、30%1,3ブチレングリコール水溶液を100ml加えて溶解した。
【0010】
【表2】

【0011】
【表3】

【0012】
なお、表2、表3の乳液は下記の記載の方法で作成した。
D成分はそれぞれの成分が均一になるよう、室温下にてホモディスパー攪拌を行い、均一分散する。次にA成分、B成分が均一になるまで湯せんにて80℃まで加温溶解し、C成分も80℃まで加温する。A成分にホモディスパー攪拌下でB成分を徐々に添加し、続いてC成分を添加し乳化物を得る。A〜C成分にて得た乳化物を室温下にてホモディスパー攪拌のもとD成分に加え、均一分散し調製を完了とする。
【0013】
抗菌力は以下の試験方法を用いた。
実施例、比較例の各処方の製剤を20gとり、108個/ml程度に調整した菌液0.2mlを加えて撹拌した。これを25℃で保存し、1週間置きに一部を取り菌数を測定した。
対象とした菌種 黄色ブドウ状球菌(NBRC13276)、緑膿菌(NBRC13275)、大腸菌(NBRC3972)、酵母Candida albicans(NBRC1594)、カビAspergillus niger(NBRC9455)である。
結果を表4に示す。なお、黄色ブドウ状球菌、緑膿菌、大腸菌はいずれの検体でも菌数が0であったので省略した。
【0014】
【表4】

【0015】
また、多価アルコールのMICを測定したので測定方法と結果を示す。

MIC(菌の最小発育阻止濃度)の測定試験方法
培地(細菌は感受性ディスク用寒天培地N(日水製薬社製)、真菌はポテトデキストロース寒天培地(日本製薬社製))を18mlと、原料を最終濃度の10倍量溶解した水溶液2mlをシャーレに流し入れ、寒天平板を作製した。 但し、高濃度で試験する場合は2倍濃度の培地を作成し、これを10mlと、原料を最終濃度の2倍量溶解した水溶液10mlをシャーレに流し入れ、寒天平板を作製した。これに108個/ml程度に調整した菌液10μlを寒天平板に接種した。これを、細菌は34℃48時間、真菌は25℃6日間培養後、コロニー形成が見られない最低濃度を最小発育阻止濃度とした。
【0016】
【表5】


Saは黄色ブドウ状球菌(NBRC13276)、Paは緑膿菌(NBRC13275)、Ecは大腸菌(NBRC3972)、Caは酵母Candida albicans(NBRC1594)、AnカビAspergillus niger(NBRC9455)を示す。
【0017】
このように、1,3プロパンジオールは単独では、1,3ブタンジオールより各菌種で抗菌力が弱いが、実施例や比較例の結果をみればわかるように、1,2ペンタンジオールと組み合わせると、1,3プロパンジオールの方が抗菌性が高くなることがわかった。
このことは1,3プロパンジオールと1,2ペンタンジオールを組み合わせることによって、より少量で必要な抗菌力を得ることができることがわかり、多価アルコールを高配合することによって、皮膚刺激が生じたり、ベタツキや皮膜感などの官能面でのマイナスが発生する場合があり、さらには乳化物等の場合は原料の組合せ等によって凝集、分離、クリーミング等の製剤安定性への悪影響が発生する場合があるが、本発明の「1,3プロパンジオールと1,2ペンタンジオールを組み合わせ」はこれらの問題点の発生を防ぎ、十分な抗菌力がより少ない多価アルコールで達成できるため、幅広い配合量の範囲で製剤の作成ができ、選択性が高まる。
勿論、パラオキシ安息香酸類等の配合もしなくとも(或いは極微量でも)、抗菌性が保たれ、安全性、嗜好性等より多様な皮膚外用剤が作成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3プロパンジオールと1,2ペンタンジオールを含む皮膚外用剤
【請求項2】
さらに1,3ブタンジオールを配合した請求項1の皮膚外用剤
【請求項3】
1,3プロパンジオールを0.5〜30重量%、1,2ペンタンジオールを0.2〜15重量%、1,3ブタンジオールを0〜25重量%配合した請求項1及び請求項2の皮膚外用剤
【請求項4】
1,3プロパンジオールを1.0〜25重量%、1,2ペンタンジオールを0.5〜10重量%、1,3ブタンジオールを0〜20重量%配合した請求項1及び請求項2の皮膚外用剤

【公開番号】特開2012−36121(P2012−36121A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176835(P2010−176835)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000166959)御木本製薬株式会社 (66)
【Fターム(参考)】