説明

皮膚外用剤

【課題】良好な美白効果を有し、且つ安全性が高い皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】本発明の皮膚外用剤は、グラブリジンが封入されたリポソームを含有する。リポソームを構成するリン脂質をスフィンゴミエリンとすることによって、グラブリジンによる美白効果を向上させ、且つグラブリジンによる細胞毒性を抑制することができる。このリポソームを皮膚外用剤に配合することにより、美白効果に優れ、且つ安全性の高い皮膚外用剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白作用を有する皮膚外用剤、特にグラブリジンとスフィンゴミエリンとを含む皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に対して紫外線が照射されると、メラノサイトにおいてメラニン生成が促進される。このようなメラニン生成が、皮膚の黒化やシミ、ソバカスの原因となることが知られている。皮膚の黒化の予防及びシミ、ソバカスの除去を目的として種々の美白化粧料が提案されている。例えば、ビタミンC及びその誘導体、グルタチオン、コウジ酸、ハイドロキノン配糖体(類)、等を美白成分として含有する化粧料の開発がなされている。
【0003】
しかしながら、ハイドロキノン類を除く従来の美白成分の美白効果は十分なものではなかった。また、ハイドロキノン類には美白効果は認められるものの、安全性の面で十分に満足できるものではなかった。このように、十分な美白効果を有し、且つ安全性が高い皮膚外用剤や美白化粧料は未だ開発されていないというのが現状である。
【0004】
グラブリジンは、甘草(Glycyrrhiza glabra L.等)に含まれるイソフラバンの一種であり、抗菌作用、抗酸化作用、及びメラニン生成抑制作用等を有することが知られている(特許文献1)。しかしながら、グラブリジンは、アルコール等への溶解性が低く、特に水への溶解性が極めて低いために、使用量や使用範囲が限定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−311011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、皮膚外用剤の分野では、良好な美白効果を有し、且つ安全性が高い皮膚外用剤の開発が望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、良好な美白効果を有し、且つ安全性が高い皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る皮膚外用剤は、グラブリジンが封入されたリポソームを含み、該リポソームの構成成分であるリン脂質がスフィンゴミエリンであることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、グラブリジンの含有量が、皮膚外用剤全体質量に対して0.0001質量%〜1質量%である。
【0010】
好ましくは、上記リポソームの平均粒径が、50nm〜1000nmである。
【0011】
好ましくは、上記皮膚外用剤は、美白用の化粧料である。
【発明の効果】
【0012】
グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソームに封入することにより、良好な美白効果を有し、且つ安全性が高い皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例において、各評価用製剤で処理したヒト培養表皮のメラニン産生率を示す図である。
【図2】実施例において、各評価用製剤で処理したヒト培養表皮の生細胞率を示す図である。
【図3】実施例において、各評価用製剤で処理したヒト培養表皮のメラニン産生率を示す図である。
【図4】実施例において、各評価用製剤で処理したヒト培養表皮の生細胞率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、スフィンゴミエリンを主要なリン脂質成分とするリポソームを含有し、このリポソーム中にグラブリジンが封入された皮膚外用剤を提供するものである。
【0016】
グラブリジンは、甘草の根等から一般的な抽出法により抽出される。具体的には、甘草の根部をエタノール、クロロホルム等の有機溶媒に浸漬し、常温で静置する。得られた抽出物から溶媒を留去することによって、約5〜10%のグラブリジンを含有した抽出物が得られる。さらに、この抽出物を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィ及び逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィにより処理し、アセトンなどを用いて再結晶化することにより精製することができる。本発明の皮膚外用剤においては、甘草抽出物、甘草抽出物からの精製品、又は合成品を用いることができる。グラブリジンは、例えば、上海奥利実業有限公司からGlabridin−90として入手することができる。
【0017】
本発明の皮膚外用剤において、リポソームを構成するリン脂質は、主にスフィンゴミエリンである。以下、スフィンゴミエリンを主要なリン脂質成分とするリポソームを「スフィンゴミエリンリポソーム」という。具体的には、リポソームを構成するリン脂質中のスフィンゴミエリンの含有量が90質量%以上であることが好ましい。より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
【0018】
本発明の皮膚外用剤に用いられるスフィンゴミエリンとして、高純度のものを用いることが好ましい。純度98%以上の高純度スフィンゴミエリンは、例えば、日油株式会社(商品名「COATSOME NM−10」及び「COATSOME NM−70」)及び株式会社シャローム(商品名「スフィンゴミエリンナチューレ」)から入手できる。
【0019】
本発明における皮膚外用剤中の好ましいグラブリジンの含有量は、皮膚外用剤の種類、美白効果の程度によっても異なるが、0.0001〜1質量%である。好ましくは、0.0003〜0.05質量%である。さらに好ましくは、0.0005〜0.005質量%である。含有量が0.0001質量%より少ないと美白効果が十分でない。また、含有量が1質量%より多いと、皮膚外用剤の調製が困難となる。
【0020】
また、皮膚外用剤中のグラブリジン濃度が増すと、グラブリジンによる細胞毒性が発現する。特に、本発明の皮膚外用剤のようにグラブリジンを高濃度で含有する場合、グラブリジンの細胞毒性が問題となる可能性がある。後述する実施例に示すように、例えば、0.005質量%の濃度でグラブリジンを含むグラブリジン分散液を細胞に適用すると、3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazoliumbromide(MTT)を用いたMTT試験によって細胞毒性が認められる。このような細胞毒性は、皮膚の白化及びかんぱん等の原因になりやすく、皮膚外用剤においては好ましくない。これに対し、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソーム中に封入すると、グラブリジンを0.005質量%の濃度で細胞に適用しても、細胞毒性が認められない。
このように、本発明の皮膚外用剤は、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソーム中に封入することによって、グラブリジンによる細胞毒性が顕著に抑制されるという優れた効果を有している。
【0021】
さらに、後述する実施例に示すように、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソーム中に封入することによって、同じ濃度のグラブリジン分散液を細胞に適用する場合と比べてメラニン産生が顕著に抑制されるという驚くべき効果が得られる。
このように、本発明の皮膚外用剤は、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソーム中に封入することによって、グラブリジンによる美白効果が顕著に向上するという優れた効果を有している。
【0022】
また上述したように、グラブリジンは、アルコールや水への溶解性が極めて低い。そのため、水溶性の皮膚外用剤にリポソームに封入することなくグラブリジンを配合する場合、配合できるグラブリジン濃度の上限は、0.0003質量%である。しかしながら、グラブリジンによる美白効果をより高めるためには、より高濃度でグラブリジンを含有することが好ましい。これに対し、本発明においては、スフィンゴミエリンリポソーム中にグラブリジンを封入することによって、水溶性の皮膚外用剤中に高濃度にグラブリジンを含有させることができる。そのため、水溶性の皮膚外用剤においても良好な美白効果を有し得る。
【0023】
本発明の皮膚外用剤において、リポソーム中のグラブリジンの含有量は、通常0.0001〜0.5質量%である。好ましくは、0.001〜0.2%である。さらに好ましくは、0.01〜0.1質量%である。含有量が0.0001質量%より少ないと皮膚外用剤の美白効果が十分でなく、0.5質量%より多いとリポソームの調製が困難となる。
【0024】
本発明の皮膚外用剤に含有されるリポソームは、一層のリン脂質の二分子膜からなる球状の小胞体であってもよく、多重層のリン脂質の二分子膜からなる球状の小胞体であってもよい。グラブリジンはこの小胞体中に取り込まれている。本実施形態において、リポソームは、安定性の観点から多重層の膜であることが好ましい。
【0025】
スフィンゴミエリンリポソームの平均粒径は極めて小さいことが好ましい。好ましい平均粒径は、50nm〜1000nmであり、より好ましくは、70〜200nmである。粒径が50nmより小さいとリポソームの調製が困難とある。また、粒径が1000nmより大きいと皮膚への浸透性が低下する。
なお、リポソームの粒径は、一般的な方法によって測定することができる。例えば、粒度分布測定器Nicomp380ZLS(Particle Sizing Systems Co.、光散乱光度計)を用いることができる。
【0026】
グラブリジンを封入したスフィンゴミエリンリポソーム分散液は、エタノール注入法、水和法、エーテル注入法、逆相蒸発法、薄膜法、超音波処理法、界面活性剤法、凍結・融解法などの公知のリポソーム製造方法によって調製することができるが、これに限定されるものではない。
【0027】
エタノール注入法では、脂質をエタノールに溶解させ、その後、グラブリジンを添加する。次に、この溶液を高温に暖めた水中にシリンジあるいはノズル等より、加圧下、一定速度で注入する。この注入とともにエタノールが留去又は希釈されることによって脂質二重層が形成され、グラブリジンを含有するリポソーム分散液が調製される。
また、水和法では、スフィンゴミエリンおよびグラブリジンを適当な有機溶媒に溶解させ、減圧下にてこれら溶媒を留去して、脂質膜を形成する。その後、この脂質膜に水を添加して水和させ、超音波処理等を行うことにより、グラブリジンを含有するリポソーム分散液を調整することができる。
【0028】
また、次のような方法によってスフィンゴミエリンリポソーム分散液を調製してもよい。まず、スフィンゴミエリンをエタノール等に添加し65℃に加温混合して、スフィンゴミエリンを溶解する。その後、グラブリジンを添加し、例えば65℃に加温して、撹拌混合することにより乳化する。乳化工程は、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散乳化装置又は高圧乳化装置等を用いて実施することができる。このような工程により、グラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソーム分散液を得ることができる。
【0029】
さらに、得られたリポソーム分散液を一定加圧下のもとにフィルター等で処理することにより、目的の粒径を有するリポソーム分散液を調製することができる。
【0030】
スフィンゴミエリンリポソームをより安定化するために、リポソームを調製する際、コレステロールなどをスフィンゴミエリンと共に混合し、リポソームの構成成分の一つとすることができる。
【0031】
本発明においては、調製されたリポソーム分散液をそのまま皮膚外用剤とすることができる。また、調製されたリポソーム又はリポソーム分散液を皮膚外用剤用の基材及び他の添加剤と混合して皮膚外用剤を調製してもよい。例えば油分、界面活性剤、香料及び防腐剤等と混合してもよい。
【0032】
さらに、スフィンゴミエリンリポソームに、グラブリジンに加えて他の成分が封入されていてもよい。具体的には、グラブリジン以外の他の美白成分、例えば、ビタミンC及びその誘導体、グルタチオン、コウジ酸及びその塩、エラグ酸及びその塩、トラネキサム酸及びその塩、ルシノール、カミツレエキス、リノール酸並びにプラセンタエキス、ハイドロキノン配糖体(類)、等を封入することができる。また、他の植物抽出物及びh−EGFなどの有効成分を封入することができる。
【0033】
本発明の皮膚外用剤の形態としては、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック等が挙げられる。また、剤型としては、例えば、液状、ゲル状、ペースト状、クリーム状、ジェル状、分散液状等が挙げられる。
【0034】
本発明の皮膚外用剤は、化粧料、医薬部外品、医薬品等に適用することができる。
【0035】
本発明の化粧料としては、具体的には、例えば、おしろい、フェースパウダー、紙おしろい、クリームおしろい、固形おしろい、粉おしろい、練りおしろい、水おしろい皮膚用化粧品、スキンローション、化粧水、化粧液、保湿液、美容液、クリーム、油性クリーム、中油性クリーム、弱油性クリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、ハイゼニッククリーム、バニシングスリーム、ハンドクリーム、ひげそり用クリーム、漂白クリーム、ファンデーションクリーム、薬用クリーム、リップクリーム、乳液、ミルクローション、スキンミルク、日焼け止めクリーム、日焼け止め用化粧品、仕上げ用化粧品、ファンデーション、フェースカラー、コンシーラー、化粧下地、メークアップベース、プレメークアップ、紅、口紅、リップスティック、リップルージュ、リップカラー、リップペンシル、リップグロス、リップライナー、アイメークアップ、アイシャドウ、アイカラー、アイライナー、眉墨、アイブローペンシル、アイブローブラッシュ、マスカラ、まつげ化粧料、練紅、頬化粧料、頬紅、チークカラー、チークルージュ、ボディメークアップ、ボディパウダー、タルカムパウダー、バスパウダー、パフュームパウダー、ベビーパウダー、天爪粉、浴用化粧料、バスオイル、バスソルト、バブルバス、フォームバス、パック用化粧料等が挙げられる。
【0036】
上記のような構成により、本発明の皮膚外用剤では、良好な美白効果が認められ、且つグラブリジンの細胞毒性が抑制される。このような効果は、リン脂質としてレシチンを主に含有するリポソームを用いた皮膚外用剤では認められない。また、グラブリジンとスフィンゴミエリンリポソームとを別々に皮膚外用剤に配合した場合においても、グラブリジンの美白効果の向上及び細胞毒性の抑制効果は認められない。従って、本発明における皮膚外用剤は、グラブリジンが封入されたスフィンゴミエリンリポソームを含有することによって、グラブリジンの美白効果が向上し且つグラブリジンによる細胞毒性が抑制されるという優れた効果を有する。
【0037】
本発明における皮膚外用剤がこのような優れた効果を有する理由は明らかではないが、平均粒径の小さいスフィンゴミエリンリポソームを含む皮膚外用剤を皮膚に塗布すると、スフィンゴミエリンやグラブリジンが角層内に効果的に到達すると考えられる。従って、高濃度のグラブリジンが角層から顆粒層や有棘層に放出されることによって、優れた美白効果がもたらされるものと推察される。一方、高濃度のグラブリジンを分散させただけでは、皮膚に塗布したグラブリジンの一部しか角層内に到達することができず、十分な美白効果を得ることができないものと考えられる。
スフィンゴミエリンには細胞の働きを活性化する作用があることが分かっており、この働きにより細胞毒性が抑制されるものと推察される。
【0038】
また、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソーム中に封入することによって、グラブリジンを化粧水、美容液等の水性の皮膚外用剤に容易に混合することができる。これにより、本発明は、様々な種類の皮膚外用剤へのグラブリジンの適用を可能にする。さらに、本発明の皮膚外用剤を皮膚に適用すると、スフィンゴミエリンが角層下の顆粒層や有棘層に達してセラミドを生成する。このため本発明の皮膚外用剤は、優れた保湿効果も有する。
【実施例】
【0039】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。言うまでもなく本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、また、特にことわらない限り「%」は質量%を示す。
【0040】
(実施例1.グラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソームの調製)
グラブリジンを含有するスフィンゴミエリンリポソーム(SPMLG)を以下のように調製した。まず、スフィンゴミエリン(商品名「スフィンゴミエリンナチューレ(商標)」、株式会社シャローム)及びグラブリジン(商品名「Glabridin−90」、上海奥利実業有限公司)をエタノールに添加し、65℃で加熱溶解した。この溶液に、パラベンを溶解した注射用水を加えて、ホモミキサーを用いて、65℃、回転数8,500rpmで、15分間処理し、乳化した。次に、pH7付近になるように水酸化ナトリウムを添加した。その後、全量が100質量%になるように注射用水を加えて、リポソーム粗分散液を得た。このリポソーム粗分散液を、2枚重ねした孔径0.2μmのメンブランフィルターを用いて、65℃、0.8〜1.0Mpaの高圧下で濾過した。この濾過工程を3回行い、濾液としてグラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソーム(SPMLG)分散液を得た。なお、SPMLG分散液の組成は次の通りである。
(SPMLG分散液の組成)
スフィンゴミエリン 1.0質量%
グラブリジン 0.05質量%
エタノール 5.0質量%
パラベン 0.15質量%
水酸化ナトリウム 適量
注射用水 残部
【0041】
上記の方法で得られたスフィンゴミエリンリポソームの平均粒径は、149nmであった。なお、スフィンゴミエリンリポソームの平均粒径は、粒度分布測定器Nicomp380ZLSを用いて測定した。
【0042】
(比較例1.グラブリジン懸濁液の調製)
必要量のグラブリジンを秤取し、リポソームの分散媒(エタノール及びパラベン)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)に懸濁して、グラブリジン懸濁液(GS懸濁液)を調整した。なお、GS懸濁液の組成は次の通りである。
(GS懸濁液組成)
グラブリジン 0.05質量%
エタノール 5.0質量%
パラベン 0.15質量%
PBS 残部
【0043】
(比較例2.スフィンゴミエリンとグラブリジンとの懸濁液の調製)
必要量のスフィンゴミエリンおよびグラブリジンを秤取し,リポソームの分散媒を含むPBS(pH7.4)に懸濁して、スフィンゴミエリンおよびグラブリジンをリポソーム化せずに含有するスフィンゴミエリンとグラブリジンとの懸濁液(G−SPM懸濁液)を調整した。なお、G−SPM懸濁液の組成は次の通りである。
(G−SPM懸濁液の組成)
スフィンゴミエリン 1.0質量%
グラブリジン 0.05質量%
エタノール 5.0質量%
パラベン 0.15質量%
PBS 残部
【0044】
(比較例3.グラブリジン含有水添レシチンリポソームの調製)
グラブリジンを含有する水添レシチンリポソームを次のような方法によって調製した。まず、水添レシチン(SLP−PC92H、辻製油株式会社)及びグラブリジンをエタノールに添加し、65℃で加熱溶解した。この溶液に、パラベンを溶解した注射用水を加えて、ホモミキサーを用いて、65℃、8,500rpmで15分間処理し、乳化した。次に、pH7付近になるように水酸化ナトリウムを添加した。その後、全量が100質量%になるように注射用水を加えて、リポソーム粗分散液を得た。このリポソーム粗分散液を、2枚重ねした孔径0.2μmのメンブランフィルターを用いて、65℃、0.8〜1.0Mpaの高圧下で濾過した。この濾過工程を3回行い、濾液としてグラブリジン含有水添レシチンリポソーム(hSPCLG)分散液を得た。なお、hSPCLG分散液の組成は次の通りである。
(hSPCLG分散液の組成)
水添レシチン 1.0質量%
グラブリジン 0.05質量%
エタノール 5.0質量%
パラベン 0.15質量%
水酸化ナトリウム 適量
注射用水 残部
【0045】
上記の調製方法にて得られた水添レシチンリポソームの平均粒径は、124nmであった。
【0046】
(ヒト培養表皮の培養)
上記調製方法にて得られたグラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソーム等の美白効果及び細胞毒性を評価するため、メラノサイト含有ヒト3次元培養表皮モデル(商品名「LabCyte MELANO MODEL」,J−TEC社)を、添付のプロトコールに従い、以下のように培養した。なお、「LabCyte MELANO MODEL」には、改良メラニン産生促進培地、ヒト培養表皮の入った培養カップ、及び12ウェルアッセイプレート等が付属されている。
【0047】
まず、12ウェルアッセイプレートに、37℃に温めた改良メラニン産生促進培地を1.5mLずつ分注した。各ウェルにヒト培養表皮の入った培養カップを移し、37℃、5%COインキュベーター内に、1時間以上静置した。その後、アッセイプレートを取り出し、ヒト培養表皮表面にそれぞれ評価用製剤を50μLずつ添加した。評価用製剤はそれぞれ、上記の調製方法によって調整した各分散剤及び懸濁液を用いて作成した。各評価用製剤の組成は、表1および表2に記載したとおりである。表1および表2は各成分の割合を質量%で示し、同じ名称の評価用製剤は同じ組成を有する。なお、表1に記載した評価用製剤は、メラニン産生率の評価に用いた。また、表2に記載した評価用製剤は、MTT試験に用いた。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
評価用製剤SPMLG1は、0.05%のグラブリジン包含スフィンゴミエリンリポソーム(SPMLG)分散液1質量%及び10×リポソーム分散媒9質量%を適量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)に添加し、攪拌し混合した。その後、総量が100質量%になるようにPBSを添加し、再度攪拌、混合して調製した。評価用製剤SPMLG1中のグラブリジン濃度は、0.0005%であり、スフィンゴミエリン濃度は、0.01%である。他の評価用製剤についても同様に調製した。なお、全ての評価用製剤には、リポソーム分散媒を10%含有するように、10×リポソーム分散媒を添加した。10×リポソーム分散媒は、注射用水約90質量%にエタノール5質量%及びパラベン0.15質量%を添加して混合した後、pH7.12になるように水酸化ナトリウムを添加し、全量が100質量%となるように注射用水を加えて調製した。各評価用製剤中のグラブリジン及びリン脂質の濃度は、表3および表4に示すとおりである。なお、表3に記載した評価用製剤は、メラニン産生率の評価に用いた。また、表4に記載した評価用製剤は、MTT試験に用いた。
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
評価用製剤の添加後、2〜3日に一度、培地交換及び評価用製剤の再添加を行った。具体的には、評価用製剤および改良メラニン産生培地を除去し、37℃に温めたPBSで3回洗浄した。その後、37℃に温めた改良メラニン産生促進培地1.5mLを各ウェルに添加し、さらに各評価用製剤50μLをヒト培養表皮表面に添加した。2週間培養した後、メラニン産生率の評価またはMTT試験を行った。
【0054】
(グラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソーム添加によるメラニン産生率の評価)
まず、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソームに封入することによるメラニン産生率への影響を評価した。
具体的には、ヒト培養表皮を2週間培養した後、各培養カップ内の評価用製剤を除去し、PBSで1回洗浄した。次に、各ウェルのヒト培養表皮をマイクロチューブに入れ、溶液A(1%SDS、0.05mMのEDTA、10mM Tris−HCl)を150μL添加した。さらに5mg/mLのProteinase K溶液を3μL加え、よく混合し、45℃のウォーターバスで一晩温めて、皮膚を溶解させた。その後、500mM炭酸ナトリウム溶液を25μL、30%過酸化水素水を5μL添加し、よく混合した後、80℃のウォーターバスで30分間温めた。続いて、室温で放置して冷ました後、クロロホルム:メタノール(2:1)溶液を20μL加え混合し、15,000rpmで10分間遠心して不純物を取り除いた。遠心分離後の上清について405nmの吸光度を測定した。
メラニン量を算出するため、既知の各濃度のメラニン溶液を調整し、同様の操作により検量線を作成した。この検量線に基づいてメラニン量を算出し、対照のメラニン量を基準(100%)としてメラニン産生率を求めた。
【0055】
その結果、図1に示すように、グラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソームとして、0.0005%および0.005%のグラブリジンを含有する評価用製剤SPMLG1およびSPMLG10を添加したヒト培養表皮では、同濃度でグラブリジンを含有するグラブリジン分散液GS1およびGS10に比べてメラニン生産率が大幅に低下した。また、GS1よりも低濃度でグラブリジンを含有するSPMLG0.5を添加した場合、GS1よりもメラニン産生率が低下する傾向が認められた。これらの結果より、スフィンゴミエリンリポソーム中にグラブリジンを封入することにより、グラブリジンを分散させた場合と比べて、美白効果が顕著に向上することが明らかとなった。
【0056】
(グラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソーム添加によるMTT試験)
次に、MTT試験を行うことにより、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソームに封入することによる細胞毒性への影響について評価した。
評価用製剤の添加後、上記と同様に2週間培養した。その後、各培養カップ内の評価物質分散液を除去しPBSで3回洗浄した。次に、培養カップ外側の改良メラニン生産促進培地を除去し、各ウェルの培養カップの外側に温めたMTT培地を1mLずつ分注し、COインキュベーター内で3時間静置した。なお、MTT培地は、終濃度0.5mg/mLになるようにMTT試薬(J−TEC社)をDMEM培地に溶解することによって調整した。その後、各ヒト培養表皮片をマイクロチューブに入れ、さらに200μLのイソプロパノールを添加した。このマイクロチューブを室温、暗所にて時々振とうしながら2時間静置することにより色素を抽出した。抽出終了後、色素抽出液について570nmの吸光度を測定し、対象の吸光度からブランクの吸光度を引いた値を100%として評価物質の生細胞率を計算した。なお、ブランクの吸光度はイソプロパノールを用いて測定した。
【0057】
その結果、図2に示すように、GS10を添加したヒト培養表皮の細胞生存率が約10%であるのに対し、SPMLG10を添加したヒト培養表皮の生細胞率は約100%であった。この結果から、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソーム中に封入することにより、グラブリジンの細胞毒性が大幅に抑制されることが明らかとなった。また、0.0003%のグラブリジンを含むSPMLG0.6及びGS0.6を添加した場合には、いずれも生細胞率の低下は認められなかった。
【0058】
(スフィンゴミエリンとグラブリジンとの懸濁液の評価)
スフィンゴミエリンをリポソーム化せずに、スフィンゴミエリンとグラブリジンとを懸濁することによって得られたG−SPM懸濁液を用いた場合に、上記のような効果が認められるかどうかを検討するため、G−SPM懸濁液を含有する評価用製剤を用いてメラニン産生率の評価およびMTT試験を行った。
メラニン産生率の評価およびMTT試験は、上記のSPMLG添加によるメラニン産生率の評価およびMTT試験に記載の方法に従った。
その結果、0.0005%のグラブリジンを含有するG−SPM1を添加した場合、メラニン産生率は、図3に示すように対照と同程度であり、有意な美白効果は認められなかった。また、細胞毒性については、図4に示すようにG−SPM1を添加した場合の生細胞率は対照と同程度であった。
【0059】
このように、グラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソームによる上記の優れた効果は、単にグラブリジンとスフィンゴミエリンとを含有する懸濁液では認められなかった。従って、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソームに封入することによって、グラブリジンの美白効果が向上するという驚くべき優れた効果が得られることが明らかとなった。
【0060】
(グラブリジン含有水添レシチンリポソームの評価)
次に、スフィンゴミエリン以外の他のリン脂質からなるリポソームを用いた場合に上記の美白効果および細胞毒性抑制効果が認められるかどうかを検討するため、グラブリジン含有水添レシチンリポソーム(hSPCLG)を含む評価用製剤を用いてメラニン産生率の評価およびMTT試験を行った。
メラニン産生率の評価およびMTT試験は、上記のSPMLG添加によるメラニン産生率の評価およびMTT試験に記載の方法に従った。
その結果、グラブリジン含有水添レシチンリポソームとして0.0005%のグラブリジンを含有するhSPCLG1を添加した場合、図3に示すように、メラニン産生率が対照に比べて有意に低下することが分かった(多重検定、p<0.01)。なお、SPMLG1を添加したほうが、hSPCLG1よりもメラニン産生率が低下しており、SPMLG1による美白効果の方が高いことが明らかとなった。
一方、細胞毒性については、図4に示すようにhSPCLG1を添加した場合には生細胞率が低下しており、細胞毒性を示すことが分かった。
【0061】
このように、グラブリジン含有スフィンゴミエリンリポソームによる上記の優れた効果は、水添レシチンから構成されるリポソームにグラブリジンを封入しても認められなかった。従って、スフィンゴミエリンから構成されるリポソームにグラブリジンを封入することによってグラブリジンによる細胞毒性を抑制できるという驚くべき優れた効果が得られることが明らかとなった。
【0062】
以上の結果から、グラブリジンをスフィンゴミエリンリポソーム内に封入することによって、良好な美白効果を有し、且つグラブリジンの細胞毒性を軽減できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の皮膚外用剤は、化粧料、医薬部外品、医薬品等に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラブリジンが封入されたリポソームを含み、該リポソームの構成成分であるリン脂質がスフィンゴミエリンであることを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
グラブリジンの含有量が、皮膚外用剤全体質量に対して0.0001質量%〜1質量%である請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
上記リポソームの平均粒径が、50nm〜1000nmである請求項1または2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
美白用の化粧料であることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか1項に記載の皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−97001(P2012−97001A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243195(P2010−243195)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(599047125)株式会社シャローム (5)
【Fターム(参考)】