説明

皮膚外用剤

【課題】 皮膚の脂質成分の酸化や皮膚の酸化傷害を防止すると共に、体臭などの悪臭の発生や皮膚の老化抑制にその有効性を発揮し、また酸化防止作用により剤の品質もよりよく保持される皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】 シベリアカラマツ(学名;Larix sibirica)のようなマツ科(Pinaceae)カラマツ属(Larix)植物の抽出物を配合する。当該抽出物は低級アルコールまたは含水低級アルコールを溶媒として得られたものがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚外用剤に関し、さらに詳しくは、特定の植物の抽出物を配合することにより皮膚の脂質成分の酸化や皮膚の酸化傷害を防止すると共に、体臭などの悪臭の発生や皮膚老化にもその有効性を発揮し、さらには当該剤自体の品質保持にも資する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は生体の最外層にあるため、紫外線をはじめ空気中のフリーラジカルなどによる外界からの様々なストレスを受けており、このような種々の酸化傷害は、皮脂の酸化やそれに伴う体臭等の悪臭の発生、また皮膚の老化につながるため、従来から皮膚外用剤に抗酸化剤を配合し酸化傷害を防ぐ試みがなされている。配合する抗酸化剤としては、例えば天然の抗酸化剤であるビタミンEがよく用いられるが、その酸化防止作用は弱く、供給源、溶解性、コスト等に問題があり、新規の抗酸化剤を配合した皮膚外用剤の開発が強く求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、天然物で強い抗酸化力があり、安全性上も問題のない優れた抗酸化剤を配合した皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上記課題を解決するため、古くから人体に対して用いられてきたために安全性上問題の少ないと考えられる生薬類について、天然抗酸化剤としての皮膚外用剤中への配合およびその有効性を検討したところ、マツ科(Pinaceae)カラマツ属(Larix)植物の抽出物を配合することにより、優れた抗酸化作用を有する皮膚外用剤が得られることを見出した。本発明の植物抽出物の皮膚や皮膚外用剤に関連する抗酸化作用の報告はこれまでになく、皮膚外用剤への応用も全く知られていない。本発明者らは上記知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、マツ科(Pinaceae)カラマツ属(Larix)植物の抽出物を配合することを特徴とする皮膚外用剤である。さらに、本発明によれば、マツ科(Pinaceae)カラマツ属(Larix)植物の抽出物を配合することを特徴とする化粧料、および該植物の抽出物からなることを特徴とする抗酸化剤が提供される。
【0006】
以下、本発明の構成について詳述する。本発明に述べるマツ科(Pinaceae)カラマツ属(Larix)植物は、ヨーロッパ、シベリア、ヒマラヤ、北アメリカ北部など北半球の亜寒帯と中緯度の高山に広く分布する落葉針葉樹である。この
カラマツ属植物には、Larix decidua (ヨーロッパカラマツ)、Larix sibirica (シベリアカラマツ)、Larix gmelinii (グイマツ)、Larix kaempferi (カラマツ)、Larix laricina (アメリカカラマツ)などが含まれる。このうち特に好ましいものは、シベリアにおいて食用されている Larix sibirica(シベリアカラマツ)である。
【0007】
本発明の抽出物には、カラマツ属植物の幹、枝、葉、花、種子等、いずれの部位を用いても構わないが、利便のためには形成層及び/又は木部を用いると良い。本発明のカラマツ属植物抽出物としては、カラマツ属植物を溶媒、例えば水、低級アルコール、含水低級アルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ブタノール等の極性溶媒またはクロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、酢酸エチルエステル、エーテル等あるいはこれらの混合物の溶媒で抽出して得た抽出液をそのままあるいは濃縮したエキスを用いるか、エキスを例えば多孔性ポリマーや順相、逆相クロマトグラフィー用などのカラムにて吸着させた後メタノールまたはエタノールで溶出し、濃縮したエキス、あるいはイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものも使用できる。なお抽出溶媒としてはエタノール、メタノールなど低級アルコールまたは含水低級アルコールがより好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の皮膚外用剤は優れた抗酸化能を有しており、安全性に優れ、酸化に対して安定なもので、化粧料として適用するのに好適である。また、皮膚の脂質成分の酸化や皮膚の酸化による傷害を防止し、体臭等の悪臭の発生や皮膚老化にもその有効性を発揮し、皮膚を保護することができる。さらにまた、皮膚外用剤そのものの酸化による品質低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】L-アスコルビン酸残存量を指標とするシベリアカラマツ抽出物添加時の抗酸化の効果を示す図である。
【0010】
本発明における カラマツ属植物の抽出物の配合量は、皮膚外用剤全量中、乾燥物として0.00001〜10.0重量%、好ましくは、0.0001〜5.0重量%である。配合量が0.00001重量%未満であると、本発明の効果が十分には発揮されず、好ましくない。
【0011】
本発明の皮膚外用剤には カラマツ属植物抽出物に加えて、必要により、皮膚外用剤のタイプに応じて、例えば、スクワラン、流動パラフィン、イソプロピルミリステート、高級脂肪酸、高級アルコール等の油分、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール等をはじめ、本発明の効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、医薬品等に一般に用いられる、油性成分、水性成分、粉末、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、低級アルコール、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、有機アミン類、pH調整剤、美白剤や抗炎症剤などの薬効成分、糖類、防腐剤、ビタミン類、酸化防止剤、香料、水等の各種成分を配合することができる。
【0012】
また、本発明は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、広く適用することが可能であり、その剤型も任意であり、皮膚に適用できる剤型のものであればいずれでも良く、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系、水−油−粉末3層系等、幅広い剤型を採り得る。
【0013】
また、本発明の皮膚外用剤の用途も任意であり、例えば、軟膏剤、溶液、クリーム、乳液、化粧水、ローション、ジェル、エッセンス(美容液)、ファンデーション、パック・マスク、口紅、スティック、入浴剤等のような皮膚外用剤等の医薬部外品を含む化粧料として広く適用可能である。なおこれらの剤型および用途に、本発明の皮膚外用剤の取り得る形態が限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
次に、実施例をあげて、本発明を具体的に明らかにする。本発明はこれにより限定されるものではない。まず、本発明で使用したカラマツ属植物の調製例と、効果試験法およびその結果を示す。
【0015】
1.試料の調製
(1)調製例1(エタノール抽出物)
Larix sibirica(シベリアカラマツ)の形成層及び木部1kgを1乃至5mm程度のチップ状に粉砕し、に含水エタノール(50%)10リットルを加え、加温還流抽出を10時間行い、抽出液を濾過した後エバポレーターを用いて溶媒を除き、得られた固形分をさらに繰り返し水洗したのち、再びエバポレーションによりエキスを乾燥残分として約20g得た。
【0016】
(1)調製例2(エタノール抽出物溶液)
調整例1で得たエタノール抽出物0.5gを10mlのペンチレングリコール及びブチレングリコール50mlを加えて撹拌、さらに蒸留水を加えて総計100mlの溶液を得た。この溶液は4℃で1か月保存しても沈殿を生ずることはなかった。
【0017】
2.試験方法および試験結果
L−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)水溶液(濃度10mg/ml)1.25mlに調製例2で調製したシベリアカラマツ抽出物溶液1.0mLを添加し、蒸留水を加えて合わせて100mlとしてフラスコに封入後、加熱群を90℃で0.5時間処理、非加熱群を室温で保存した。さらに3日間室温で保存した後、各検体1mlをとり、馬鈴薯スターチ(関東化学株式会社製)1%水溶液1mlを添加して撹拌したのち、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液(ヨウ素40mg・ヨウ化カリウム(和光純薬工業株式会社製)80mg・水40ml)/ml水溶液を0.2mlずつ加え、紫色の呈色を指標に残存するL−アスコルビン酸の当量を滴定した。
【0018】
なお、対照として シベリアカラマツ抽出物にかえて溶解溶媒のみ添加したものについても同様に操作した。その結果を図1に示す。
【0019】
図1に示す如く、シベリアカラマツ抽出物は優れた抗酸化作用を示す。以下に、種々の剤型の本発明による皮膚外用剤の配合例を実施例として説明する。
【0020】
実施例1 クリーム
(処方)
ステアリン酸 6.0 重量%
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノステアリン酸エステル
2.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
イソプロピルミリステート 12.0
スクワラン 5.0
流動パラフィン 3.0
ビタミンE 0.05
シベリアカラマツ抽出物(調製例2) 0.2
亜硫酸水素ナトリウム 適量
防腐剤 適量
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)イオン交換水に水溶性成分を加え溶解し、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化した後、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0021】
実施例2 クリーム
(処方)
ステアリン酸 2.5 重量%
ステアリルアルコール 6.5
水添ラノリン 2.0
スクワラン 5.0
2−オクチルドデシルアルコール 6.0
ポリオキシエチレン(25モル)セチルアルコールエーテル 3.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
プロピレングリコール 5.0
シベリアカラマツ抽出物(調製例2) 0.1
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
防腐剤 適量
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)イオン交換水にプロピレングリコール、シベリアカラマツ抽出物(調製例2)を加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、ミキサーで均一に乳化した後、よくかきまぜながら室温まで冷却する。
【0022】
実施例3 化粧水
(処方)
(アルコール相)
エチルアルコール 25.0 重量%
ポリオキシエチレン(25モル)硬化ヒマシ油 2.0
防腐剤 適量
香料 適量
(水相)
グリセリン 5.0
ヘキサメタリン酸ナトリウム 適量
イオン交換水 残余
(製法)水相、アルコール相を調製後、可溶化する。
【0023】
実施例4 乳液
(処方)
ステアリルアルコール 2.0 重量%
スクワラン 5.0
液状ラノリン 3.0
トリオクタン酸トリメチロールプロパン 2.0
トリオクタン酸グリセリル 5.0
グリセリンモノオレート 2.0
ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノオレイン酸エステル
1.0
ビタミンC 0.1
パラアミノ安息香酸 0.1
グリセリン 5.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
トリエタノールアミン 1.0
亜硫酸水素ナトリウム 適量
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
(製法)イオン交換水(少量残す)にシベリアカラマツ抽出物(調製例2)及び水溶性成分を加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、少量のイオン交換水にカルボキシビニルポリマーを溶解したものを加え、ミキサーで均一に乳化し、乳化した後よくかきまぜながら冷却する。
【0024】
実施例6 ジェル
(処方)
エタノール 10.0 重量%
ジプロピレングリコール 15.0
ポリオキシエチレン(50モル)オレイルアルコールエーテル 2.0
カルボキシビニルポリマー 1.0
水酸化ナトリウム 0.15
L−アルギニン 0.1
シベリアカラマツ抽出物(調製例2) 0.5
2−ヒドロキシ−4−メトキシ
ベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム 0.05
EDTA・3Na 0.05
防腐剤 適量
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)イオン交換水にカルボキシビニルポリマーを溶解し、エタノールに シベリアカラマツ抽出物(調製例2)、ポリオキシエチレン(50モル)オレイルアルコールエーテルを溶解し、水相に添加する。その他の成分を加えたのち、水酸化ナトリウム、L−アルギニンでpH調整し、増粘させる。
【0025】
実施例7 エッセンス
(処方)
グリセリン 5.0 重量%
ジプロピレングリコール 10.0
エタノール 10.0
シベリアカラマツ抽出物(調製例2) 0.5
カルボキシビニルポリマー 0.2
ヒアルロン酸ナトリウム 0.5
水酸化カリウム 0.1
ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノオレイン酸エステル
0.5
ポリオキシエチレン(20) オクチルドデカノール 1.0
オリーブ油 0.15
プラセンタエキス 0.1
ビタミンEアセテート 0.1
亜硫酸水素ナトリウム 適量
EDTA・3Na 適量
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0026】
実施例8 パック成分
(処方)
ポリ酢酸ビニルエマルション 15.0 重量%
ポリビニルアルコール 10.0
ジプロピレングリコール 5.0
ソルビトール 5.0
酢酸トコフェロール 0.2
オリーブ油 1.0
スクワラン 3.0
ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノオレイン酸エステル
1.5
酸化チタン 5.0
タルク 10.0
エタノール 7.0
ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油 5.0
シベリアカラマツ抽出物(調製例2) 3.0
防腐剤 適量
香料 適量
精製水 残余
【0027】
実施例9 ファンデーション
(処方)
タルク 44.6 重量%
セリサイト 13.0
カオリン 10.0
亜鉛華 7.0
二酸化チタン 3.8
黄色酸化鉄 2.9
黒色酸化鉄 0.2
スクワラン 8.5
イソステアリン酸 4.0
モノオレイン酸POEソルビタン 3.0
オクタン酸イソセチル 2.0
シベリアカラマツ抽出物(調製例2) 1.0
防腐剤 適量
香料 適量
(製法)タルク以下の粉末成分をよく混合し、これにスクワラン以下の油性成分、シベリアカラマツ抽出物、防腐剤、香料を加え良く練ったのち、成型する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツ科(Pinaceae)カラマツ属(Larix)植物の抽出物を配合することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
マツ科(Pinaceae)カラマツ属(Larix)植物がシベリアカラマツ(学名;Larix sibirica)である請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の植物の抽出物を配合することを特徴とする化粧料。
【請求項4】
請求項1または2記載の植物の抽出物からなることを特徴とする抗酸化剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−10698(P2013−10698A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142852(P2011−142852)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(398050261)株式会社坂本バイオ (11)
【出願人】(507157894)株式会社JTS (2)
【Fターム(参考)】