説明

皮膚外用剤

【課題】微生物由来の毒素産生を抑制することにより、微生物による皮膚表面での様々なトラブルを抑制する皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(a1)で表される化合物及び一般式(a2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)、並びに炭素数2〜3の1価アルコール(B)を、それぞれ特定範囲で含有する、微生物の毒素産生抑制に用いる皮膚外用剤。
1−OH (a1)
(式中、R1は炭素数9〜18の炭化水素基を示す。)
2−O−(EO)n−H (a2)
(式中、R2は炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは1〜15の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は身体に適用する化粧品、医薬部外品又は医薬品等の皮膚外用剤に関し、より詳細には、微生物の毒素産生抑制に用いる皮膚外用剤、すなわち、皮膚表面の微生物が起因となる皮膚トラブル、例えば、頭皮のかゆみあるいは創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、接触皮膚炎などの皮膚疾患の悪化を予防、改善し、かつ皮膚にやさしい皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚表面に生息する微生物が産生する毒素により、頭皮のかゆみあるいは創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、接触皮膚炎の悪化などの様々なトラブルが引き起こされる。
【0003】
頭皮のかゆみを防止、軽減するために、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、イソプロピルメチルフェノール、ピリチオン亜鉛、ヒドロキシピリドン誘導体、イオウ、クロルヘキシジン等の殺菌剤を毛髪化粧料に配合することが知られている(特許文献1)。また、創傷やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の悪化を予防または改善するために、1−オクタノールなどを皮膚外用剤に配合することが知られている(特許文献2)。また、抗炎症剤、炭素数12〜20の不飽和脂肪族アルコール、保存剤、炭素数1〜6の一価低級アルコールを含有する均一系水性皮膚外用剤組成物が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−45126号公報
【特許文献2】特開2009−78988号公報
【特許文献3】特開2002−212105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に代表される、殺菌的アプローチは、一時的な殺菌効果はあるものの、経時的な毒素産生抑制効果、例えば日単位での毒素産生抑制効果には問題があり、結果的に長期にわたる毒素の産生は抑制できていなかった。同様に特許文献2記載の1−オクタノール等を利用した手法も抗菌的に微生物の増殖を抑制する傾向があるため、一時的な効果はあるものの日単位での毒素産生抑制効果には問題があり、結果的に長期にわたる毒素の産生は抑制できていなかった。上述した問題以外にこれらの剤を用いたアプローチは皮膚(人体)への刺激性が高く、また病原微生物だけでなく生体防御としての役割を果たしている皮膚常在菌(表皮ブドウ球菌など)に対しても作用してしまうので、皮膚トラブル、例えば頭皮のかゆみあるいは創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の悪化につながる。更にこれらの手法は薬剤耐性菌を出現させる原因となることも知られており、いまだ効果としては不十分である。
【0006】
本発明の課題は、微生物由来の毒素産生を抑制することにより、微生物による皮膚表面での様々なトラブルを抑制する皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(a1)で表される化合物及び一般式(a2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を0.001〜5重量%、並びに、炭素数2〜3の1価アルコール(B)を25〜85重量%含有する、微生物の毒素産生抑制に用いる皮膚外用剤に関する。
1−OH (a1)
(式中、R1は炭素数9〜18の炭化水素基を示す。)
2−O−(EO)n−H (a2)
(式中、R2は炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは1〜15の整数を示す。)
【0008】
また、本発明は、上記一般式(a1)で表される化合物及び一般式(a2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)〔以下、成分(A)という〕を0.001〜5重量%、並びに、炭素数2〜3の1価アルコール(B)〔以下、成分(B)という〕を25〜85重量%含有する皮膚外用剤による、皮膚上の微生物の毒素産生抑制方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、皮膚上の微生物が産生する毒素を抑制し、微生物による皮膚表面での様々なトラブルを抑制することができる。すなわち、頭皮のかゆみ、創傷治癒遅延あるいはアトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、接触皮膚炎などの皮膚疾患の悪化などの微生物由来の皮膚トラブルを軽減、抑制することができる。一般的な殺菌剤が適用直後の殺菌力により短期的な効果を得ているのに対し、本発明の皮膚外用剤は、適用後、経時的に微生物の毒素産生を抑制できるため、皮膚トラブルの軽減、抑制効果の持続性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<成分(A)>
本発明の方法に皮膚外用剤は、成分(A)として、下記一般式(a1)で表される化合物及び一般式(a2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物を含有する。
1−OH (a1)
(式中、R1は炭素数9〜18の炭化水素基、好ましくは炭素数9〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
2−O−(EO)n−H (a2)
(式中、R2は炭素数8〜18の炭化水素基、好ましくは炭素数8〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは1〜15の整数を示す。)
【0011】
一般式(a1)中、R1で示される炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でもよいが直鎖が好ましい。また、飽和でも不飽和でもよいが飽和が好ましい。よって、R1は、皮膚上の微生物の毒素産生抑制の観点から、直鎖アルキル基が好ましい。R1は、炭素数9〜10または13〜18のものが好ましく、更に炭素数13、16または17のものが、毒素産生抑制効果が優れており好ましい。
【0012】
一般式(a2)中、R2で示される炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でもよいが直鎖が好ましい。また、飽和でも不飽和でもよいが飽和が好ましい。よって、R2は、皮膚上の微生物の毒素産生抑制の観点から、直鎖アルキル基が好ましい。R2は炭素数12のものが、毒素産生抑制効果が優れており好ましい。また、EOで示されるエチレンオキシ基の数nは、毒素産生抑制効果の観点から、2〜12の整数が好ましく、3〜6の整数がより好ましい。
【0013】
一般式(a1)で表される化合物としては、毒素産生抑制効果の観点から、1−ノナノール、2−ノナノール、1−デカノール、2−デカノール、2,4−デカジエン−1−オール、3−デシン−1−オール、1−トリデカノール、2−トリデカノール、1−テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、2−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、2−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、1−オクタデカノールが好ましく、1−トリデカノール、2−トリデカノール、1−ヘキサデカノール、2−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノールがより好ましい。
【0014】
また、一般式(a2)で表される化合物としては、毒素産生抑制効果の観点から、ジエチレングリコールモノデシルエーテル、トリエチレングリコールモノデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノデシルエーテル、ジエチレングリコールモノドデシルエーテル、トリエチレングリコールモノドデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノドデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノドデシルエーテル、ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ドデカエチレングリコールモノドデシルエーテル、ジエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、トリエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノテトラデシルエーテルが好ましく、トリエチレングリコールモノデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノデシルエーテル、トリエチレングリコールモノドデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノドデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノドデシルエーテル、トリエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノテトラデシルエーテルがより好ましい。
【0015】
本発明において、皮膚外用剤中の成分(A)の含有量は、優れた毒素産生抑制効果を得る点から0.001〜5重量%であるが、毒素産生抑制効果の点から0.005〜0.5重量%が好ましく、更に0.01〜0.1重量%が好ましい。
【0016】
<成分(B)>
本発明の皮膚外用剤は、成分(B)として、本発明の成分(A)を対象物に均等に適用する観点から、炭素数2〜3の1価アルコールを含有する。成分(B)としては、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが挙げられる。皮膚刺激性の観点から、エタノールおよびイソプロパノールが好ましく、特に、エタノールが好ましい。
【0017】
本発明において、皮膚外用剤中の成分(B)の含有量は、成分(A)の溶解性と蒸発速度の観点から20〜85重量%であるが、成分(A)の溶解性の観点から25〜80重量%が好ましく、更に30〜75重量%が好ましい。
【0018】
<成分(C)>
本発明の皮膚外用剤は、成分(A)を分散、可溶化又は乳化するために、(A)以外の界面活性剤、(A)以外の溶剤、及び、(B)以外の溶剤から選ばれる成分(C)を配合してもよい。
【0019】
成分(C)として用いる界面活性剤の種類は特に限定されず、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤の何れでもよいが、乳化・分散・可溶化性能の観点から、界面活性剤の中で陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0020】
陰イオン界面活性剤としては、硫酸系、スルホン酸系、カルボン酸系、リン酸系及びアミノ酸系のものが好ましく、例えばアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸アルキルエステル塩、ポリオキシアルキレンスルホコハク酸アルキルエステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルカンスルホン酸塩、アシルイセチオネート、アシルメチルタウレート、高級脂肪酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、アシルグルタミン酸塩、アラニン誘導体、グリシン誘導体、アルギニン誘導体等が挙げられる。これらのうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、高級脂肪酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩が好ましい。
【0021】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンソルビット脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシアルキレン(硬化)ヒマシ油類、ショ糖脂肪酸エステル類、ポリグリセリンアルキルエーテル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルグリコシド類等が挙げられる。このうち、成分(A)以外のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、アルキルグリコシド類、ポリオキシアルキレン脂肪酸(炭素数8〜20が好ましい。)エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、脂肪酸アルカノールアミドが好ましい。成分(A)以外のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類としては、成分(A)以外のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテルが好ましい。アルキルグリコシド類としては、アルキル基の炭素数8〜14で、糖(グルコース)の縮合度1〜2のものが好ましい。脂肪酸アルカノールアミドとしては、炭素数8〜18、特に炭素数10〜16のアシル基を有するものが好ましく、またモノアルカノールアミド、ジアルカノールアミドのいずれでもよいが炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基を有するものが好ましい。脂肪酸アルカノールアミドの具体例としては、オレイン酸ジエタノールアミド、パーム核油脂肪酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、パーム核油脂肪酸メチルエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸メチルエタノールアミド等が挙げられる。
【0022】
両性界面活性剤としては、ベタイン系界面活性剤及びアミンオキサイド型界面活性剤等が挙げられる。このうち、イミダゾリン系ベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、スルホベタイン等のベタイン系界面活性剤及びアルキルジメチルアミンオキサイド等のアミンオキサイド型界面活性剤がより好ましく、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルスルホベタイン、脂肪酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン及び脂肪酸アミドプロピルスルホベタイン等のスルホベタイン並びにアルキルジメチルアミンオキサイドが更に好ましい。アルキルジメチルアミンオキサイドは、炭素数8〜18、特に炭素数10〜16のアルキル基を有するものが好ましく、特にラウリルジメチルアミンオキサイド及びミリスチルジメチルアミンオキサイドが好ましい。
【0023】
界面活性剤は単独で、あるいはより乳化・分散・可溶化性能を高めるために2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
成分(C)として界面活性剤を含有する場合、本発明の皮膚外用剤における成分(A)と成分(C)の界面活性剤の重量比率(成分(A)の含有量)/(成分(C)の界面活性剤の含有量)は、毒素産生抑制効果の点から2以下が好ましく、2/1〜1/100がより好ましく、2/1〜1/50がより好ましく、2/1〜1/20が更に好ましく、1/1〜1/10がより更に好ましい。
【0025】
また、本発明の皮膚外用剤における成分(C)の界面活性剤の含有量は、乳化・分散・可溶化性能の観点から0.0005〜50重量%が好ましく、より好ましくは0.0025〜30重量%、更に0.005〜15重量%が好ましい。さらに0.01〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%がより好ましい。
【0026】
また、成分(C)の溶剤としては、炭素数4〜7の1価アルコール、グリコール等のポリオール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル、油脂、ロウ類、炭化水素油等が挙げられ、炭素数4〜7の1価アルコール、グリコール等のポリオール、中でも炭素数2〜4のポリオールが好ましい。1価アルコールとしてはn−ブタノール等が挙げられる。ポリオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール、グリセリン、ジグリセリン等が挙げられる。グリコールエーテルとしては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。油脂、ロウ類、炭化水素油としては、ワセリン、スクワラン、パラフィン、コレステロール、動植物性のトリグリセライド等が挙げられる。好ましくは、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(重量平均分子量100〜1000)である。
【0027】
これらは、単独あるいは2種以上を併用して用いることができ、上記の界面活性剤と併用して用いることができる。また、本発明の皮膚外用剤における成分(C)の溶剤の含有量は、0.05〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20重量%、更に0.5〜10重量%が好ましい。
【0028】
本発明の皮膚外用剤は、上記成分以外に、化粧料、皮膚外用剤に用いられる任意の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で用いることができる。例えば、高級脂肪酸、合成エステル類、シリコーン、金属封鎖剤、水溶性高分子、増粘剤、パウダー成分、着色剤、着香剤、収斂剤、抗炎症剤、保湿剤、pH調整剤、殺菌剤、植物エキス類などが挙げられる。
【0029】
本発明の皮膚外用剤の製品形態としては、液状、ゲル状、固体状、クリーム状、水−油の2相分離系又はエアゾール等が挙げられる。使用方法としては直接塗布、噴霧あるいは、予め、布、不織布、紙などに含浸させておいて塗布しても良い。本発明の皮膚外用剤が洗浄剤である場合には、洗浄後、濯ぐことにより用いるのが好ましい。また、本発明の皮膚外用剤が皮膚表面上に長時間残存するようなリーブオンの形態であることがより好ましい。本発明の皮膚外用剤は、人体のみならず、ペット等の動物の皮膚にも用いることができる。
【0030】
本発明の皮膚外用剤は、特に制限されるものではないが、手指の清浄や頭皮のケアに用いることができる。
【0031】
本発明の皮膚外用剤のpHは、毒素産生抑制効果と皮膚刺激性の観点から、20℃で2〜11が好ましく、より好ましくは3〜10、更に好ましくは4〜9であり、6〜8が特に好ましい。
【0032】
本発明の皮膚外用剤は、皮膚上の微生物の毒素産生抑制に用いる皮膚外用剤である。人の皮膚表面には生体防御としての役割を果たしている皮膚常在菌(表皮ブドウ球菌やコリネバクテリウム属など)や病原微生物である黄色ブドウ球菌が生息している。皮膚表面に生息する病原微生物が増殖すると毒素を産生することが知られている。この病原微生物が産生する毒素により様々な皮膚トラブルが引き起こされる。例えば、病原微生物である黄色ブドウ球菌が産生するα−トキシンやδ−トキシン、表皮剥離毒素などにより、頭皮のかゆみあるいは創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、接触皮膚炎の悪化などの様々なトラブルが引き起こされる。本発明の皮膚外用剤の毒素産生抑制能については、成分(B)の殺菌効果を取り除いて確認することができる。例えば、後述の実施例1に示した通り、本発明の皮膚外用剤を希釈して確認しても良いし、成分(B)を揮発させて確認しても良い。すなわち、本発明の皮膚外用剤の毒素産生抑制能は、本発明の皮膚外用剤を希釈して、或いは、本発明の皮膚外用剤の成分(B)を揮発させた後、黄色ブドウ球菌に対して作用させた時に産生されるδ−トキシン量(V1)が、皮膚外用剤を作用させない時に産生されるδ−トキシン量(V0)と比較して減少する程度〔即ち、(V0−V1)の大小〕により確認することができる。
【0033】
成分(A)を0.001〜5重量%及び成分(B)を25〜85重量%含有する皮膚外用剤により、皮膚上の微生物由来毒素の産生を抑制する方法が提供される。本発明の皮膚外用剤は、皮膚上での微生物の増殖を妨げることなく、微生物による皮膚表面での様々なトラブルを抑制することができる。本発明の成分(B)には一時的な殺菌効果があるが、成分(A)と併用することで、日単位でみた場合に微生物の増殖を妨げない皮膚外用剤を得ることができる。すなわち、本発明の皮膚外用剤を皮膚に適用した直後は、成分(B)の作用により皮膚表面に存在する微生物が一時的に殺菌されることはあっても、生き残った微生物または皮膚内部に存在する微生物がすぐに増殖してくることや、適用後すぐに成分(B)が蒸発して殺菌性が失われるため、その後は増殖に影響を及ぼさない。その結果、日単位での微生物の増殖を妨げることなく、微生物由来の毒素産生を著しく抑制することができる。
【0034】
なお、本発明の皮膚外用剤は日単位の微生物の増殖を妨げないものであるが、長期的な微生物の増殖抑制を評価する場合は、成分(B)の影響を考慮しない条件を採用して、成分(A)による微生物の増殖抑制効果を評価することができる。例えば、後述の実施例のようなin vitro試験では、皮膚に適用するin vivo試験とは異なり、エタノールや1−プロパノール、2−プロパノールなどの成分(B)を含有する皮膚外用剤を使用した場合、培養開始の段階で黄色ブドウ球菌が殺菌されてしまい、毒素産生抑制能評価に影響を及ぼす可能性が考えられる。そのため、成分(B)の一時的な殺菌効果の影響を排除して微生物の増殖抑制を評価することが適切である。すなわち、本発明において、長期的な微生物の増殖抑制を評価する場合は、成分(A)のみを適用する、本発明の皮膚外用剤を希釈する、成分(B)を揮発させる、等により、実質的に成分(B)の影響が無視できる条件で、成分(A)を微生物に適用し、所定の条件にて微生物を培養後、静止期(stationary phase:細菌の分裂率と死滅率が平衡に達して生菌数が一定となる、つまり最も菌濃度が高い時期)における菌数Nが、コントロールの菌数N0と比べると、菌数の比が0.1<N/N0<10となる場合を、長期的(日単位の増殖期間)に「微生物の増殖を妨げない」とする。他方、この長期的な評価において「微生物の増殖を妨げる」とは、N/N0≦0.1となることである。この菌数は、後述の実施例のように、便宜的に培地中の微生物に対して試験した結果であってもよい。
【0035】
また、本発明の皮膚外用剤は、黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌に対する増殖抑制効果を持たないものが好ましい。なお、ここで、「増殖抑制効果を持たない」とは、108cfu/mL以下の濃度の菌液に対して対象となるサンプルの皮膚外用剤を用いた場合に、Tryptic Soy Broth No.2培地にて37℃の条件で培養した場合、静止期(stationary phase)において、グラム陽性菌の菌数が109cfu/mLに達することをいう。
【実施例】
【0036】
以下の実施例で用いた成分を示す。
【0037】
<成分(A)>
(A−1) 1−ノナノール
(A−2) 1−デカノール
(A−3) 1−ウンデカノール
(A−4) トランス−2−ドデセン−1−オール
(A−5) 1−ドデカノール
(A−6) 1−トリデカノール
(A−7) 1−テトラデカノール
(A−8) 1−ペンタデカノール
(A−9) 1−ヘキサデカノール
(A−10) 2−ヘキサデカノール
(A−11) 1−ヘプタデカノール
(A−12) 1−オクタデカノール
(A−13) ジエチレングリコールモノデシルエーテル
(A−14) トリエチレングリコールモノデシルエーテル
(A−15) テトラエチレングリコールモノデシルエーテル
(A−16) ペンタエチレングリコールモノデシルエーテル
(A−17) オクタエチレングリコールモノデシルエーテル
(A−18) ジエチレングリコールモノドデシルエーテル
(A−19) トリエチレングリコールモノドデシルエーテル
(A−20) テトラエチレングリコールモノドデシルエーテル
(A−21) ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル
(A−22) ヘキサエチレングリコールモノドデシルエーテル
(A−23) ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテル
(A−24) オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル
(A−25) ドデカエチレングリコールモノドデシルエーテル
(A−26) トリエチレングリコールモノテトラデシルエーテル
(A−27) テトラエチレングリコールモノテトラデシルエーテル
(A−28) ペンタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル
(A−29) ヘキサエチレングリコールモノテトラデシルエーテル
【0038】
<成分(A’)(比較化合物)>
(A’−1) 1−ペンタノール
(A’−2) 1−オクタノール
【0039】
<成分(B)>
(B−1) エタノール
(B−2) 1−プロパノール
(B−3) 2−プロパノール(イソプロパノール)
【0040】
<成分(C)>
(C−1) ポリオキシエチレン(エチレンオキシド平均付加モル数4.5)ドデシルエーテル酢酸ナトリウム
(C−2) モノドデカン酸ポリエチレングリコール(エチレンオキシド平均付加モル数12)
(C−3) ドデシルグルコシド
(C−4) プロピレングリコール
【0041】
実施例1
成分(A)又は成分(A’)、成分(B)、成分(C)及びイオン交換水を表1〜3に示す含有量で配合し、本発明品、比較品の皮膚外用剤を調製した。皮膚外用剤のpH(20℃)は、6.5〜7.0の範囲とした。
【0042】
本発明品及び比較品を、Tryptic Soy Broth No.2培地〔TSB No.2培地、シグマアルドリッチジャパン(株)〕を用いて1重量%に希釈し、これを培養フラスコ〔ベクトン・ディッキンソン(株)製〕に14.85mL入れた(なお、本試験では、成分(B)の一時的な殺菌効果の影響を排除するために本発明品及び比較品を1重量%に希釈して試験を行った。)。次に、黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus NCTC8325株)をTryptic Soy Broth No.2培地〔TSB No.2培地、シグマアルドリッチジャパン(株)〕中で、37℃、18時間振とう培養(前培養)した後、生理食塩水〔大塚製薬(株)製〕を用いて105cfu/mLの菌液を調製した。そして、培養フラスコに調製した菌液を150μL添加した後、37℃の条件で振とう培養を行い、36時間培養後の静止期(stationary phase)における菌数及びδ−トキシン量を定量した。
【0043】
菌数の定量方法としては、寒天平板希釈法に従い、36時間培養の培養液または生理食塩水で10倍、102倍、103倍、104倍、105倍、106倍、107倍に希釈した培養液をSMA培地〔日本製薬(株)〕に100μL撒いて24時間静置培養し、培地上に形成したコロニーをカウントした。結果を表1〜3に示す。
【0044】
また、δ−トキシン量の定量方法としては、遠心分離機〔日立(株)〕を使用して、菌数定量試験に使用しなかった残りの培養液を菌と上清に分け、さらにcellulose acetate 0.2μmフィルター〔アドバンテック(株)〕を用いて上清から菌を除外した。そして逆相-HPLCを用いてこの上清中に含まれるδ−トキシン量つまり、黄色ブドウ球菌が産生したδ−トキシン量を定量した。δ−トキシン量の定量は、Michael Ottoらの文献(Michael Otto , Friedrich. 2000. BioTechniques 28: 1088-1096.)を参考にして測定を行った。また、検量線は人工的に合成したδ−トキシン(東レリサーチセンター(株)製)を使用して作成した。結果を表1〜3に示す。
【0045】
尚、表1〜3において、皮膚外用剤の希釈物を作用させない時に産生されるδ−トキシン量(V0)は、比較品を作用させた場合のδ−トキシン産生量である。これに対して、本発明品の希釈物を作用させた場合に産生されるδ−トキシン量(V1)は表1、表2に示されたδ−トキシン産生量である。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
すべての系で黄色ブドウ球菌は109cfu/mL以上まで増殖する傾向が確認されたが、成分(A)及び成分(B)を含有する本発明品1−1〜1−33ではδ−トキシンの産生が抑制されていた。また本発明品1−8と1−9の比較または、本発明品1−23と1−24の比較から、成分(C)の添加により、さらにδ−トキシン産生抑制能が向上することが明らかになった。一方、成分(A’)及び成分(B)を含有する比較品1−1〜1−13ではδ−トキシンの産生は抑制されない。また、成分(A)のみを含有する比較品1−14〜1−17では、成分(A)が十分に溶解していないため、δ−トキシンの産生は抑制されない。よって、成分(A)と成分(B)の併用によりδ−トキシンを抑制できることと、この系に成分(C)をさらに加えることによりδ−トキシン産生抑制能が向上することが明らかになった。この結果から、本発明の皮膚外用剤は、皮膚上での黄色ブドウ球菌の増殖を妨げずに黄色ブドウ球菌が産生するδ−トキシンを抑制できるものと推察される。
【0050】
実施例2
常法により表4の化粧料を製造した。試験は本発明品、比較品各群について頭皮のかゆみの自覚症状を持つ各10名に対して行った。試験品使用直前に頭皮のかゆみの状態を下記の基準で自己申告させた。洗髪後に試験品を1日に1回3mLを頭皮全体に均一に塗布し、7日間使用させた後、試験開始日から8日後に再度、頭皮のかゆみの状態を下記の基準で自己申告させた。尚、試験品使用開始1週間前より試験終了までの間、かゆみ抑制剤、殺菌剤含有シャンプー及びリンス、コンディショナー、整髪料等の使用は禁止し、全員が殺菌剤未配合の同じシャンプーのみを使用した。10名の評点の平均で評価した。結果を表4に示す。
【0051】
かゆみの基準
1, かゆみを全く感じない
2, かゆみを少し感じる
3, かゆみを感じる
4, かゆみを強く感じる
【0052】
【表4】

【0053】
(処方例1)
成分(A)としてトリエチレングリコールモノドデシルエーテルを0.01質量%、成分(B)として95度エタノールを80質量%、成分(C)としてグリセリンを0.1質量%、精製水を19.89質量%含有する手指用アルコール製剤。
【0054】
(処方例2)
成分(A)としてトリエチレングリコールモノドデシルエーテルを0.01質量%、成分(B)として95度エタノールを25質量%、成分(C)としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(EO60モル)を0.1質量%、成分(C)としてグリセリンを0.1質量%、パラオキシ安息香酸メチルを0.1質量%、香料を0.05%、精製水を74.64質量%含有する頭皮ケア剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a1)で表される化合物及び一般式(a2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を0.001〜5重量%、並びに、炭素数2〜3の1価アルコール(B)を25〜85重量%含有する、微生物の毒素産生抑制に用いる皮膚外用剤。
1−OH (a1)
(式中、R1は炭素数9〜18の炭化水素基を示す。)
2−O−(EO)n−H (a2)
(式中、R2は炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは1〜15の整数を示す。)
【請求項2】
更に、(A)以外の界面活性剤、(A)以外の溶剤、及び、(B)以外の溶剤から選ばれる成分(C)を含有する、請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
成分(C)として、(A)以外の界面活性剤を0.0005〜50重量%含有する、請求項2記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
成分(C)として、(A)以外の溶剤、及び、(B)以外の溶剤から選ばれる溶剤を0.05〜50重量%含有する、請求項2又は3記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
手指に用いる請求項1〜4の何れか1項記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
頭皮に用いる請求項1〜4の何れか1項記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
下記一般式(a1)で表される化合物及び一般式(a2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を0.001〜5重量%、並びに、炭素数2〜3の1価アルコール(B)を25〜85重量%含有する皮膚外用剤による、皮膚上の微生物の毒素産生抑制方法。
1−OH (a1)
(式中、R1は炭素数9〜18の炭化水素基を示す。)
2−O−(EO)n−H (a2)
(式中、R2は炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは1〜15の整数を示す。)
【請求項8】
皮膚外用剤が、更に、(A)以外の界面活性剤、(A)以外の溶剤、及び、(B)以外の溶剤から選ばれる成分(C)を含有する、請求項7記載の皮膚上の微生物の毒素産生抑制方法。
【請求項9】
皮膚外用剤が、成分(C)として、(A)以外の界面活性剤を0.0005〜50重量%含有する、請求項8記載の皮膚上の微生物の毒素産生抑制方法。
【請求項10】
皮膚外用剤が、成分(C)として、(A)以外の溶剤、及び、(B)以外の溶剤から選ばれる溶剤を0.05〜50重量%含有する、請求項8又は9記載の皮膚上の微生物の毒素産生抑制方法。

【公開番号】特開2013−71895(P2013−71895A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210419(P2011−210419)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】