説明

皮膚外用用組成物

【課題】種々の難治性皮膚疾患、特にアトピー性皮膚炎に有効な剤の提供。
【解決手段】タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物、並びに分子量3kDa以上の卵殻膜由来ペプチド(ESM−P)を含有する皮膚外用用組成物。好ましくは、フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態を処置する組成物で、ヒスタミン遊離抑制、シクロオキシゲナーゼ(COX)−2活性阻害に基づく痒みや痛みの抑制作用、サイトカイン産生抑制による免疫の過剰反応の調節作用、及びフィラグリンの合成促進に基づく皮膚表皮形成の正常化作用を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚外用剤に関する。本発明の皮膚外用剤は、ヒスタミン遊離抑制、シクロオキシゲナーゼ(COX)-2活性阻害に基づく痒みや痛みの抑制作用、サイトカイン産生抑制による免疫の過剰反応の調節作用、及びフィラグリンの合成促進に基づく皮膚表皮形成の正常化作用を有する。本発明の剤は、種々の難治性皮膚疾患、特にアトピー性皮膚炎に対して有効である。
【従来技術】
【0002】
難治性皮膚疾患の一つであるアトピー性皮膚炎の病態には、非アレルギー機序とアレルギー機序とがある。前者は皮膚のバリア機能異常が代表的であり、後者は免疫異常によるものである。しかしこれらは厳密に区別できるものではなく、遺伝や環境因子が複雑に絡み合っている。アトピー性皮膚炎の誘発・増悪には、遺伝的因子の他に、ドライスキン等を始めとする非アレルギー的側面に加えて、免疫異常が関与している。
【0003】
近年、アトピー性皮膚炎等の難治性皮膚疾患に関する理解が進展しており、アレルギー機序に関しては、患部の肥満細胞や抗原提示細胞の異常活性化によるヒスタミンの過剰遊離や蛋白質分解酵素類の過剰分泌、Th2細胞系のインターロイキン(IL)-4、IL-5及びIL-13の分泌促進等が生じていることが分かっている。ヒスタミンは皮膚疾患部の特徴的な痒みの原因である。また、IL-4、IL-5及びIL-13が増加すると、皮膚バリア機能関連蛋白であるフィラグリンや、抗微生物活性を有するLL37、β-ディフェンシン2、β-ディフェンシン3の発現が抑制され、微生物易感染で脆弱な皮膚となる。非アレルギー機序に関しては、患部の角質層のスフィンゴシルホスホリルコリンが増加すると、NADPH-オキシダーゼやCOX-2活性が上昇してそれらの反応産物である活性酸素種(ROS)やPG(プロスタグランジン)E2が増加し、これらもフィラグリンの合成を顕著に阻害することが知られている。
【0004】
一方、鶏卵卵殻膜(Egg Shell Membrane, ESM)は、火傷、擦り傷、裂傷等の患部に貼付すると、炎症抑制や上皮形成促進等の作用があることが古くから知られてきた。それによる効果を期待して、種々の外用剤が提案されている。例えば、特許文献1には、可溶性卵殻膜と、グリセロリン脂質とを配合してあることを特徴とする化粧料が記載され、また特許文献2には、可溶性卵殻膜と、スフィンゴ脂質とを配合してあることを特徴とする化粧料が記載されている。これらは、可溶性卵殻膜と他の有効成分を併用することで相乗効果を発揮させ、美肌効果及び保湿効果を有する化粧料として提案されたものである。さらに、卵殻膜の加水分解物については、外用又は経口摂取により、皮膚におけるコラーゲンの合成を促進することが知られており、この作用を利用するものとして、特許文献3には、加水分解卵殻膜を有効成分として含有することを特徴とする飲料が記載されている。
【0005】
他方、本発明者らは、褐藻類に属する海藻由来の抽出物に含まれる低分子化合物(CCK)に、COX-2の選択的活性阻害効果があることを報告した(特許文献4)。
また、タラヨウ(多羅葉、学名:Ilex latifolia)は、モチノキ科モチノキ属の常緑高木であり、中国では、その葉を煎じて健康茶として飲用されてきた。タラヨウ葉エキスは、花粉症などの抗I型アレルギー食品として利用され、従来の見解では、これは抗ヒスタミン作用に基づくものと考えられてきたが、最近の研究では、フィセチンを主成分とすること、またin vivoでIL-13の産生を抑制することが見いだされている。イタドリ(虎杖、痛取、学名:Fallopia japonica)は、タデ科の多年生植物であり、根の乾燥物(虎杖根)を煎じて、便秘・じんま疹等の処置に用いるほか、春先の若芽は食用ともなる。イタドリ葉エキスにはケルセチンが多く含まれており、ケルセチンには抗酸化作用によるアレルギー抑制作用が認められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平06-047527公報(特開平03-258709)
【特許文献2】特公平06-047528公報(特開平03-258710)
【特許文献3】特開2004-229534公報
【特許文献4】特開2008-120738公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の処置には、ステロイド外用薬や抗アレルギー薬が用いられることが多い。これらはいずれも、症状の原因を制御する原因療法ではなく、表面的な症状の消失や緩和を主な目的とする対症療法であり、したがって使用を中断すると再燃し、慢性化、難治化する可能性が高い。また、これら薬剤には、望ましくない作用も知られている。各因子に選択性を有し、かつ生体親和性が高く、より安全な剤が求められている。
【0008】
上述のように、アトピー性皮膚炎等においては、最終的にフィラグリン代謝の異常であるとの知見が蓄積されつつある。IL-4、IL-5、IL-13、スフィンゴシルホスホリルコリン、NADPH-オキシダーゼ反応産物のROSやCOX-2反応産物のPGE2は疾患のトリガーであり、症状を改善するためには、トリガーの除去ばかりではなく、フィラグリン代謝を正常にすることが重要である。
【0009】
したがって、本発明は、肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用、IL-4、IL-5及びIL-13産生抑制作用及び抗酸化作用、並びにCOX-2選択的阻害作用を有するのみならず、フィラグリン合成促進作用を示す成分を探索し、配合することにより、アトピー性皮膚炎等の種々の難治性皮膚疾患を有効に処置できる外用剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、天然物由来の、種々の機能性素材の研究・開発に従事してきた。そして、上記目的を達成するために、タラヨウ葉及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物、鶏卵卵殻膜加水分解物の組み合わせが有効であることを見出し、これらを有効成分とする皮膚外用剤を完成した。本発明は、以下を提供する:
[1] タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物、並びに分子量3kDa以上の卵殻膜由来ペプチド(ESM-P)を含有する、皮膚外用用組成物。
[2] フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態を処置するための、[1]に載の組成物。
[3] フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態が、アトピー性皮膚炎である、[2]に記載の組成物。
[4] アトピー性皮膚炎の治療のための、[3]に記載の組成物。
[5] タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物からなる、皮膚外用用組成物。
[6] タラヨウ葉抽出物1重量部に対し、イタドリ葉抽出物を0.5〜2.0重量部含む、[5]に記載の組成物。
[7] タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物からなる、皮膚外用用組成物に添加するための、剤。
[8] 痒み若しくは痛みを抑制するための、又はサイトカイン産生調節のための、[7]に記載の剤。
[9] ESM-Pを含む、フィラグリン合成促進に関連した皮膚の疾患又は状態を処置するための、皮膚外用用組成物。
[10] ESM-Pからなる、フィラグリン合成促進剤。
[11] タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物並びに鳥類卵殻膜加水分解物を含有する組成物を、皮膚に適用する工程を含む、フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態を処置するための方法(医療行為を除く。)。
[12] フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態が、アトピー性皮膚炎である、[11]に記載の方法。
[13] アトピー性皮膚炎の治療のための、[12]に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に用いることのできる卵殻膜由来ペプチド(ESM-P)のSDS-PAGEの写真である。平均分子量は約8kDaである。
【発明の概要】
【発明の効果】
【0012】
本発明により、アトピー性皮膚炎等のアレルギー機序でのトリガーであるヒスタミン遊離抑制、IL-4 、IL-5、IL-13の産生抑制及びIgEの産生抑制による免疫機能の改善や非アレルギー機序での増悪因子である皮膚角質層のフィラグリン代謝を改善する事が可能である。本発明の各成分はステロイド薬等にみられる重篤な副作用は認められず安全性に優れている。これによって、アトピー性皮膚炎等の根治困難な慢性皮膚疾患を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物、並びに分子量3kDa以上の卵殻膜由来ペプチド(ESM-P)を含有する、皮膚外用用組成物を提供する。
本発明において「皮膚外用用組成物」というときは、特に記載した場合を除き、皮膚への適用に適した形態の組成物をいい、有効成分以外に、皮膚外用用として許容される他の成分や種々の添加剤を含んでもよい。組成物は、医薬又は化粧料の形態であり得る。また本発明で、各有効成分の、単独又は組み合わせからなるものについて「剤」というときは、特に記載した場合を除き、皮膚外用用組成物に添加するためのものをいう。本発明において「剤」は、特に記載した場合を除き、医薬品自体、化粧料自体は含まない。
【0014】
[有効成分]
本発明の組成物は、有効成分として、タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物並びに卵殻膜加水分解物を含む。
【0015】
タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物:
本発明で「タラヨウ葉抽出物」というときは、タラヨウの葉を原料とする抽出物であって、少なくともフィセチン又はその配糖体を含む、タラヨウ葉由来のフラボノイドを含むものをいう。抽出物は、液状である場合もあり、濃縮物、乾燥物、凍結乾燥物であることもある。抽出物は、複数の成分の混合物であることもあり、それを精製して得られた粗精製物、高純度フィセチン(若しくはその配糖体)含有組成物、又は単離されたフィセチン若しくはその配糖体であることもある。抽出物には、水又は水系溶媒による抽出物、メタノール、エタノール、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒による抽出物、これらの混合物による抽出物が含まれる。
【0016】
フィセチン(fisetin)の構造を、以下に示す。
【0017】
【化1】

【0018】
フィセチン又はその配糖体が十分に含まれる限り、抽出法は限定されないが、典型的な抽出は、裁断したタラヨウ葉に対し、85%以上、好ましくは95%以上のエチルアルコールを10〜75%(w/v)となるように加え、室温で、8〜72時間行う。より具体的な抽出条件は、本明細書の実施例に記載されている。
【0019】
本発明で「イタドリ葉抽出物」というときは、イタドリの葉を原料とする抽出物であって、少なくともケルセチン又はその配糖体を含む、イタドリ葉由来のフラボノイドを含むものをいう。抽出物は、液状である場合もあり、濃縮物、乾燥物、凍結乾燥物であることもある。抽出物は、複数の成分の混合物であることもあり、それを精製して得られた粗精製物、高純度ケルセチン(若しくはその配糖体)含有組成物、又は単離されたケルセチン若しくはその配糖体であることもある。抽出物には、水又は水系溶媒による抽出物、メタノール、エタノール、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒による抽出物、これらの混合物による抽出物が含まれる。
【0020】
ケルセチン(クェルセチン、クエルセチン: quercetin)の構造を以下に示す。
【0021】
【化2】

【0022】
ケルセチン又はその配糖体が十分に含まれる限り、抽出法は限定されないが、典型的な抽出は、裁断したイタドリ葉に対し、85%以上、好ましくは95%以上のエチルアルコールを10〜75%(w/v)となるように加え、室温で、8〜72時間行う。より具体的な抽出条件は、本明細書の実施例に記載されている。
【0023】
ケルセチンには、抗アレルギー作用があることが知られている。本発明者らの検討によると、タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物には、それぞれ単独で用いた場合に、強いヒスタミン遊離抑制作用が認められた。
【0024】
また本発明者らの検討によると、タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物には、それぞれ単独で用いた場合に、IL-5及びIL-13の産生を抑制する作用が認められ、さらに双方の重量比1:1の混合物には、この作用については相乗的であった。このような組み合わせによる相乗効果は、本発明が初めて開示するものである。本発明が提供するタラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物を含む皮膚外用用組成物は、それ自体で有用なものである。
【0025】
本発明において、タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出部の比は、相乗効果が認められる限り限定されないが、本明細書の実施例に記載したタラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物を用いる場合は、タラヨウ葉抽出物1重量部に対し、イタドリ葉抽出物を0.1〜10.0重量部、好ましくは0.3〜5.0重量部、より好ましくは0.5〜2.0重量部用いるとよい。他の条件に拠る抽出物を用いる場合は、フィセチン又はケルセチンの含量を参考に、本明細書の実施例に記載したものの上述の量に相当する量を、適宜算出して、用いることができる。
【0026】
なお、本発明においては、タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物のいずれか一方又は双方に代えて、柿葉、バラ科植物葉などのフラボノイド類、主にケルセチン、フィセチン、ルテインなどを含むものを原料とした抽出物を、タラヨウ葉抽出物、イタドリ葉抽出物と同様に、用いることができると考えられる。代替物を用いる場合の配合割合は、タラヨウ葉抽出物又はイタドリ葉抽出物中のフィセチン又はケルセチン含量を参考に、それぞれの成分が等量含まれるように、決定することができる。参考文献を以下に示す:
Fewtrell, C. M. S. et. al.: Effect of flavone inhibitors of transport ATPase on histamine secretion from rat mast cells. Nature, 265, 635, 1977
Chakravarty, N.: The role of plasma membrane Ca++, Mg++ activated adenosine triphosphatase of rat mast cells on histamine release. Acta Pharmacol. Toxicol., 47, 223, 1980
Amellal, M. et. al.: Inhibition of mast cell histamine release by flavonoids and biflavonoids. Planta. Med., 1, 16, 1985
Cheong, H. et. al.: Studies of structure activity relationship of flavonoids for the anti-allergic actions. Arch. Pharm. Res., 21, 478, 1998
小谷麻由美ら:ヒト好塩基球細胞及びマウスにおける柿の葉抽出物のアレルギー抑制効果。日本栄養・食糧学会誌、52(3)、147、1999
褐藻類抽出物:
本発明で「褐藻類抽出物」というときは、褐藻類を原料とする抽出物であって、少なくとも、マグネシウムを含有する分子量250〜500のシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害物質を含む画分をいい、フコイダンが添加されていてもよい。フコイダンは褐藻類から抽出されたものを好適に用いることができる。分子量250〜500のCOX-2阻害物質は、CCKとして、前掲特許文献4に詳細に記載されている。CCKを含む画分は、液状である場合もあり、濃縮物、乾燥物、凍結乾燥物であることもある。抽出物は、複数の成分の混合物であることもあり、それを精製して得られた粗精製物、高純度CCK含有組成物、又は単離されたCCK、又はそれらのいずれかとフコイダンとの混合物であることもある。
【0027】
フコイダンを含む場合、CCKとフコイダンとの混合比は、適宜とすることができるが、本明細書の実施例に記載したそれぞれを用いる場合は、CCKの1重量部に対し、フコイダンを1〜1000重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜200重量部用いるとよい。
【0028】
本発明に用いる「褐藻類抽出物」の原料(又は、CCKの原料若しくはフコイダンの原料)としては、例えばダービリア属、モズク属、マツモ属、レッソニア属、カジメ属、マクロシスティス属、ヒバマタ属、アスコフィラム属に属する海藻を用いることができ、より具体的には、ダービリア アンタークティカ、モズク、マツモ、レッソニア ニグレッセンス、カジメ、ジャイアントケルプ、ヒバマタ、フカス ベシキュロサス、アスコフィラム ノードスムを用いることができる。特に、COX-2に対するより高い選択性の観点からは、ダービリア属のダービリア アンタークティカ、並びにヒバマタ属のヒバマタ及びフカス ベシキュロサスが好適である。
【0029】
これらの抽出物に、ヒ素等のこのましくない成分の存在が懸念される場合、これを除去する操作を施してもよい。
CCKの抽出は、典型的には、乾燥藻体を細断し、2〜100倍量の水を加え、必要に応じ撹拌しながら、60〜100℃、5〜60分間加熱抽出することによる。抽出液は、排除限界分子量1,000の限外濾過モジュールで処理し、透過液を集め、減圧濃縮したものをエチルアルコール(最終濃度85%(v/v))に溶解し、沈殿を除き、減圧濃縮乾固することにより、CCKを得ることができる(前掲特許文献4参照)。
【0030】
卵殻膜由来ペプチド(ESM-P)
本発明で「卵殻膜由来ペプチド(ESM-Pと略記することもある。)」というときは、鳥類、好ましくは鶏の卵殻膜を、加水分解することにより得られたペプチド混合物をいう。本発明には、このESM-Pのうち、分子量3kDa未満のものを、限外ろ過膜などを用いて排除したものを用いる。調製方法は、従来技術として知られたものを用いることができ、特に限定されないが、下記の方法が特に好ましい:
1) 鶏卵から卵殻を採取し、水洗し;
2) 卵殻の1〜10倍量(w/v)の水を加え、BaH4とNaOHを最終濃度が、それぞれ0.1〜10mM(好ましくは1mM)と2〜50mM(好ましくは20mM)になるように加え、60〜100℃で15〜120分間処理し;
3) 水溶画分を集め、濾過または遠心分離等の適当な方法で清澄化し、3kDa未満の画分を排除する。
【0031】
本発明者らの検討によると、このようにして得られたペプチドの平均分子量は約8kDa(SDS-PAGE法)である。その構成アミノ酸の詳細は、本明細書の実施例中に示した。
本発明者らの検討によると、分子量3kDa以上のESM-Pには、フィラグリンの合成を促進する作用が認められた。
【0032】
有効成分含量:
本発明の組成物は、臨床上有効量の各有効成分を含む。組成物全体100重量部における各成分の量は、具体的には、次に説明するとおりである。
【0033】
タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物は、本明細書の実施例に記載した方法により得た抽出物相当として、それぞれ1〜20重量部、好ましくは5〜15部、より好ましくは8〜12重量部とすることができる。
【0034】
タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物の配合量及び比がいずれの場合においても、褐藻類抽出物は、本明細書の実施例に記載した方法により得た抽出物相当として、それぞれ30〜90重量部、好ましくは50〜85部、より好ましくは60〜80重量部とすることができる。
【0035】
タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物の配合量及び比がいずれの場合においても、また褐藻類抽出物の配合量がいずれの場合においても、分子量3kDa以上のESM-Pは、本明細書の実施例に記載した方法により得た抽出物相当として、それぞれ0.001〜5.00重量部、好ましくは0.01〜1.00部、より好ましくは0.05〜0.50重量部とすることができる。
【0036】
なお、他の調製条件に拠るものを用いる場合は、フィセチン、ケルセチン等の主成分の含量を参考に、本明細書の実施例に記載したもの量に相当する量を、適宜算出して用いることができる。対象となる組成物において、各成分の含量が本明細書の実施例に記載したもの量に相当する量として上述の範囲にすべて包含されれば、その組成物は本発明の範囲に包含される。
【0037】
[組成物の適用対象]
本発明は、肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用、IL-4及びIL-13産生抑制作用を有する成分;COX-2選択的阻害作用を有する成分;並びにフィラグリン合成促進作用を示す成分が配合されている。フィラグリン代謝の異常に関連した疾患又は状態においては、IL-4、IL-13、スフィンゴシルホスホリルコリン、NADPH-オキシダーゼ反応産物のROSやCOX-2反応産物のPGE2は疾患のトリガーであり、症状を改善するためには、トリガーの除去ばかりではなく、フィラグリン代謝を正常にすることが重要である。
【0038】
したがって本発明の組成物は、フィラグリン代謝の異常に関連した疾患又は状態の処置のために有用である。「フィラグリン代謝の異常に関連した疾患又は状態」には、アレルギー性皮膚炎及びアトピー性皮膚炎が含まれる。原因は特に限定されず、食物、薬物、ダニ、金属、動物が含まれる。
【0039】
本発明で疾患又は状態に関し「処置(する)」というときは、発症のリスクの低減、発症の予防、及び治療が含まれ、治療には、対症的なもの(対症療法)と、原因的なもの(原因療法)とが含まれる。
【0040】
本発明者らの検討によると、タラヨウ葉抽出物と褐藻類抽出物を含む皮膚外用用組成物を用いた場合には、アトピー性皮膚炎患部へ適用すると状態の改善効果が見られたが、適用を中止すると、アトピー性皮膚炎の症状が再発した。一方、本発明の組成物を用いた場合には、適用中止後も、症状が再び見られることはなかった。したがって、本発明の組成物は、アトピー性皮膚炎の治療のために有用であり、特に原因療法的に有用であると考えられる。
【0041】
本発明の組成物又は各有効成分の評価には、簡便には、ラットなどの実験動物又はヒト由来細胞を用いてもよいが、ヒト患者に実際に適用することにより、評価することができる。効果の有無は、対象とした疾患又は状態について、一般的に使用されている判断基準に基づくことができる。
【0042】
[適用方法、添加剤、その他]
本発明の組成物の適用量は、例えば、成人一日当たり、好ましくは0.3〜15,000mg、より好ましくは3〜1500mg、さらに好ましくは30〜150mgとすることができる。予防、維持の目的では、より少ない量で効果的な場合もありうる。投与は一日分の量を、単回で投与してもよく、複数回(例えば、一日2回又は3回)に分割して投与してもよい。
【0043】
本発明の組成物は、当業者であれば、種々の製剤形態とすることができる。例えば、液剤、乳剤、懸濁剤、ローション、クリーム、ペーストに調製してもよい。また、固体の基材に液剤を含浸させた形態としても良い。このような例としては、パップ剤、テープ剤、TTS製剤(経皮吸収製剤)等がある。本発明の組成物は、用事に調製するキットの形態としてもよい。
【0044】
本発明の組成物へは、皮膚外用用として許容される添加剤、例えば、緩衝剤、乳化剤、懸濁化剤、安定化剤、溶解補助剤、保存剤等を添加しても良い。乳化剤を用いない場合、保存中に水溶性のものと水に不溶性のものとが徐々に分離することがあるが、本発明の組成物の各成分は非常に安定なものであるので、有効性については問題がない。
【0045】
本発明の組成物は、適用前に予め、簡易パッチ試験等、この分野で用いられている各種の安全性を確認するための試験を行って、対象における適正を確認してもよい。
また本発明の組成物は、目的とする疾患又は状態の処置のために有効な他の成分と組み合わせて用いることができる。例えば、ヒアルロン酸、米胚芽油を配合することができる。
【0046】
本発明の組成物には、対象となる疾患又は状態、用法、容量等を表示しても良い。表示は、容器への記載、ラベル貼付、取扱説明書の添付、広告(紙媒体、電子媒体、ウェブサイトへの掲示を含む。)、販売員による説明、商品陳列棚又はその付近への掲示等により、行うことができる。
【実施例】
【0047】
[実施例1:成分ごとの評価]
ヒトボランティア試験に先だって、タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物、並びにESM-Pそれぞれの作用を検討した。
【0048】
1-1.タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物:
タラヨウ葉抽出物は、新鮮な葉(1,000g)を細断し、最終濃度が50%(w/v)に成るように95%エチルアルコールを加え、24時間、室温で攪拌しながら保持した後、濾過で清澄化して抽出液を得た。抽出液は、減圧下でエチルアルコールを除去し、黄白色/淡黄色粉末を約10g得た。これをタラヨウ葉抽出物として使用した。なお、LC-MSの分析から、本抽出物に含まれるフラボノイドにおいてフィセチンが約15%(w/w)を占めることを確認している。
【0049】
イタドリ葉抽出物(性状(淡褐色粉末)、15g)も、タラヨウ葉抽出物と同様に得た。LC-MSの分析から、本抽出物に含まれるフラボノイドにおいてケルセチンが約35%(w/w)を占めることを確認している。
【0050】
8週齢、雄、Wistar/STラット(三協ラボサービス)より、定法にて腹腔肥満細胞を採取した。5×106個/mlになるように滅菌PBSにて希釈した。予め、8週齢、雌、BALB/cマウスにアラムを用いてBSAを免疫し、得られた抗血清について、PCAテストで力価を測定した。
【0051】
下表の濃度の100μlの被検物質(タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物)を、腹腔肥満細胞に添加した。次に抗血清(力価512)を100μl添加し、次いで抗原として1mg/mlのBSAを100μl添加して抗原抗体反応を行い、ヒスタミンを遊離させた。反応上清を回収し、ヒスタミン量を蛍光法にて測定し、表1に示した。肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制率は0.5mg添加で87.8%、1mg添加で88.1%の抑制率であり、従来知られている植物由来のものの中でも、最も高いヒスタミン遊離抑制を示す物質の1つであった。
【0052】
【表1】

【0053】
BALB/cマウス、8週齢、雄の脾臓細胞から、定法に基づいて非B、非T細胞を得、タラヨウ葉抽出物又はイタドリ葉抽出物存在下で、固相化マウスIgE抗体とマウスIL-3で刺激し、36時間培養した。培養液中のIL-4とIL-13をELISA法で測定した(表2)。
【0054】
それぞれを単独で用いた場合より、混合物として用いた場合に相乗的な効果が認められた。
【0055】
【表2】

【0056】
1-2.ESM-P:
卵殻膜由来ペプチド(ESM-P)を、次のように調製した。
1) 鶏卵を割卵し、得られた卵殻得られた卵殻(100g)を水洗した。
2) 卵殻の2倍量の脱イオン水を加え、BaH4とNaOHを最終濃度がそれぞれ1mMと20mMになるように加え、100℃で60分間加熱した。
3) 水溶画分を集め、濾過または遠心分離等の適当な方法で清澄化し、排除限界3kDaのUFモジュール(商品名:限外濾過(UF)モジュール、型式SEP-1013、メーカー:旭化成ケミカルズ(株))で脱塩・濃縮(約1:10(10倍)程度)した。
4) リテンテイト(分子量3kDa以上)を集め、凍結乾燥した(2g)。
【0057】
得られたペプチドの平均分子量は約8kDa(SDS-PAGE法、図1)であり、構成アミノ酸(アミノ酸自動分析法)を下表に示した。
【0058】
【表3】

【0059】
フィラグリンの同定と測定は、次のように行った。ヒト正常表皮細胞(クラボウ)を24穴プレートに、各穴当たり細胞数が2×105個となるように播種し、Humedia-KG2培地(クラボウ)を用いて、5%CO2、37℃の条件下で24時間予備培養した。これにESM-Pが0〜1mg/ml・培地の濃度になるように加え、予備培養と同条件下で6日間培養した。
【0060】
細胞と細胞外マトリクスを一緒にラバー付きポリスマンで集め、マウス抗ヒトフィラグリンモノクローナル抗体非標識(Santa Cruz Biotechnology, Inc., U. S. A.)によるウエスタンブロット法で、フィラグリンを同定した。さらにデンシトメーターによりフィラグリン量を求めた。ESM-Pによるフィラグリン産生量を、対照比に換算し、促進割合(%)を示した(表4)。促進割合は6回の実験結果の平均から求めた。
【0061】
ESM-Pのフィラグリン合成促進は濃度依存性を示したが、0.5mg/ml以上ではプラトーとなった。卵殻膜加水分解物の皮膚に関する作用については、コラーゲンやヒアルロン酸等の細胞外マトリクス成分の合成を促進する事が既に知られている(前掲特許文献3等)。しかしながら、卵殻膜成分がフィラグリンの合成促進に関与していることは、知られていなかった。
【0062】
【表4】

【0063】
1-3.海藻抽出物の調製:
ダービリア・アンタークティカ乾燥藻体(チリ産、株式会社 エフ・シーシー堀内)100gを細断し、20倍量の脱イオン水を加え、撹拌しながら85℃、20分間加熱抽出した。遠心分離により抽出液を得、排除限界分子量1,000の限外濾過モジュールを用いて限外濾過を行った。透過液を集め、減圧下にて濃縮後、エチルアルコールを加え、その最終濃度を85%(v/v)以上にした。遠心分離により上清を得、減圧下にて濃縮乾固した(前掲特許文献4参照)。フコイダンはタングルウッド株式会社より購入したものを用いた。CCKとフコイダンを1:99で混合したものを、表5の褐藻類抽出物として用いた。
【0064】
[実施例2:ボランティアによる評価]
各抽出物を、下表に示した割合で配合し、ローションを作製した。
【0065】
【表5】

【0066】
タラヨウ葉抽出物、イタドリ葉抽出物、ESM-P、褐藻類抽出物(フコイダン、CCK)及びヒアルロン酸ナトリウム(キューピー社製)を所定量秤量し混合した後、加熱溶解した。その後、米胚芽油及び水を所定量添加し、ホモミキサーで乳化均一化した。ローションは黄褐色、乳液状であった。なお、今回、ボランティア試験に用いたものには、乳化剤等の添加物は用いなかった。適用直前には、良く振ってほぼ均一に混合した。
【0067】
このローションを、成人型アトピー性皮膚炎患者6名(男2名、31〜47才、女4名、26〜55才)のボランティアに対して3ヶ月間適用した。いずれのボランティアも自発的に治療薬の使用を制限又は拒否し、これまでに洗剤、衣類その他住環境に至るまで、種々の方法を試みた経験を有していた。本発明のローションの塗布量は特に制限せず、基本的な使用方法として、朝と夕の1日2回(夕は入浴後)、患部に塗布することとした。その他の食事を含むライフスタイルの制限は与えなかった。
【0068】
結果を下表に示した。全ボランティア共に、本ローションの使用を中止した後も、少なくとも6ヶ月間アトピー性症状の再発は認められなかった。
【0069】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物、並びに分子量3kDa以上の卵殻膜由来ペプチド(ESM-P)を含有する、皮膚外用用組成物。
【請求項2】
フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態を処置するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態が、アトピー性皮膚炎である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
アトピー性皮膚炎の治療のための、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物からなる、皮膚外用用組成物。
【請求項6】
タラヨウ葉抽出物1重量部に対し、イタドリ葉抽出物を0.5〜2.0重量部含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物からなる、皮膚外用用組成物に添加するための、剤。
【請求項8】
痒み若しくは痛みを抑制するための、又はサイトカイン産生調節のための、請求項7に記載の剤。
【請求項9】
ESM-Pを含む、フィラグリン合成促進に関連した皮膚の疾患又は状態を処置するための、皮膚外用用組成物。
【請求項10】
ESM-Pからなる、フィラグリン合成促進剤。
【請求項11】
タラヨウ葉抽出物及びイタドリ葉抽出物、褐藻類抽出物並びに鳥類卵殻膜加水分解物を含有する組成物を、皮膚に適用する工程を含む、フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態を処置するための方法(医療行為を除く。)。
【請求項12】
フィラグリン代謝異常に関連した皮膚の疾患又は状態が、アトピー性皮膚炎である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アトピー性皮膚炎の治療のための、請求項12に記載の組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−97049(P2012−97049A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247525(P2010−247525)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(506177796)ハイドロックス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】