説明

皮膚水分を好適に維持する組成物

【課題】すぐれた持続性を持って皮膚水分を好適に保つとともに皮膚の掻痒を抑え、かつ皮膚の再生を効果的に助ける組成物を提供する。
【解決手段】(1)ポリ-γ-グルタミン酸、(2)スクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油の1種又は2種以上からなる油成分、(3)尿素及び尿素付加体の混合物を含み、すぐれた持続性を持って皮膚水分を好適に保つとともに皮膚の掻痒を抑える、特に表皮角質層の水分補給と水分平衡を改善し、皮膚の荒れを抑制あるいは改善するとともに掻痒を抑え、かつ皮膚の再生を効果的に助ける組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚水分を好適に保つとともに皮膚の掻痒を抑えることができる組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は一般に表皮(角質層、顆粒層、有棘層、基底層)、真皮、皮下組織と呼ばれる組織から成る。特に角質層は外部環境から人体を保護する重要な防御層として働くが、その機能を発現するには適度の水分と脂質が必要であると考えられている。また、皮膚は組織全体として滑らかさ、弾力性、柔軟さ等を具えており、そのためには皮膚組織全体にわたって適度の水分と脂質が必要であると考えられている。
【0003】
通常皮膚組織に存在する水分は組織と結合した結合水と結合していない自由水とから成ると考えられ、全体として皮膚内の水分バランスはコントロールされている。すなわち、自由水は表皮の微細孔を通って外部へ放散され、結合水は表皮内の自然保湿因子(アミノ酸、ピロリドンカルボン酸、尿素、乳酸塩等)と強い相互作用によって保持され、全体として水分バランスがコントロールされている。
【0004】
これに対し、例えば(1)乾燥、低温等の厳しい外部環境条件、(2)あるいは過度の洗浄、入浴、(3)あるいは加齢、病気、投薬、人工透析に見られるような強制的脱水操作等によって自然保湿因子の減少や結合水の減少等が起こると、水分の動的バランスが失われ、皮膚は柔軟さを消失し、表面は荒れ、防御機能は低下する。
【0005】
このように皮膚の保湿及び水分調節は皮膚組織を正常に保つための必須の要件であり、正常な状態が失われた場合には症状の回復あるいは緩和が極めて重要である。
【0006】
従来から保湿効果、皮膜形成能の付与を目的として多くの物質を利用することや各種の対症療法的処置が提案されている(特許文献1〜3参照)。特許文献1ではスクワランを油性化粧料あるいは外用剤の成分として使用することが開示されている。特許文献2ではポリ-γ-グルタミン酸に多糖類を加えて保湿性を高めることが開示されている。特許文献3ではポリ-γ-グルタミン酸が化粧料として使用することが開示されている。特許文献4には化粧料としての尿素化合物誘導体の性質が開示されている。
【特許文献1】特開2005−206573号公報
【特許文献2】特開2005−120032号公報
【特許文献3】特開2004−149467号公報
【特許文献4】特開2005−104879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の化粧料では上記(1)〜(3)に対して十分な効果は得られていないのが現状である。
【0008】
そこで、本発明はすぐれた持続性を持って皮膚水分を好適に保つとともに皮膚の掻痒を抑え、かつ皮膚の再生を効果的に助ける組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の組成物は、(1)ポリ-γ-グルタミン酸、(2)スクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油の1種又は2種以上の油成分、(3)尿素及び尿素付加体の混合物を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の組成物の含有量は、組成物全体に対して、(1)酸型、塩型、酸と塩の混在型、架橋物の1種又は2種以上からなる分子量200万〜500万であるポリ-γ-グルタミン酸0.01質量%〜15質量%、(2)スクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油から選択した1種又は2種以上0.05質量%〜5質量%、(3)尿素及び1種以上の尿素付加体の混合物0.2質量%〜20質量%が好ましい。
【0011】
本発明の組成物の基材ベースには、通常のジェルクリーム、ローション、エッセンス等に用いる基材ベースを用いることができる。すなわち、適量の精製水、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、アルギニン・アスパラギン酸・リンゴ酸のような有機酸、アロエエキス・カッコンエキス・のような各種エキス、ソルビトール・アラビアゴムのような多糖類、各種抗菌剤、各種香料を使用することができる。
【0012】
本発明において、水分保持、保湿および油成分の溶解分散の安定のためにポリ−γ−グルタミン酸を用いる。ポリ−γ−グルタミン酸は酸型、塩型、酸と塩の混在型、架橋物あるいはこれらの混合物であってよい。また分子量は200万以上500万以下がよい、特に250万以上400万以下が望ましい。またその量は0.01質量%以上15質量%以下であればよいが、特に0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0013】
ポリ−γ−グルタミン酸の分子量が十分に大きいと、水溶液において、ポリ−γ−グルタミン酸は本発明の構成要素の一つである油成分(スクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油)を溶解分散し安定化することがわかった。これは、分子量が十分に大きいポリ−γ−グルタミン酸は分子のコンフォーメーションによってスクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油等を分子分散に近い状態で分子鎖内あるいは分子鎖間にトラップするためではないかと考えられる。勿論全ての油成分がポリ−γ−グルタミン酸に溶解分散するのではなく、各種の油成分について検討したところ、ここに提示するスクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油において有効であった。ポリ−γ−グルタミン酸の分子量の下限は油成分の溶解分散の安定化に必要な分子の大きさで決まり、上限は組成物として必要なレオロジー的性質(粘性、延展性、膜形成性等)で決まる。なお本発明の範囲を超えて多量のスクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油等を分散するときは適量の分散剤を使うことは差し支えない。また、ポリ−γ−グルタミン酸はD型、L型あるいはその混合でよく、側鎖のカルボキシル基が酸型、塩型あるいはその混合でよく、塩の種類はK、Na、Ca、Al、Zn、Mg、Fe等の金属塩あるいはアンモニアを含む有機アミン塩でよい。またフラクタンのような多糖類の存在も差し支えない。
【0014】
本発明において、水分と安定して共存する脂質成分として働き柔軟性を発現するために油成分としてスクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油から選択した1種又は2種以上を用いる。これらの油成分は通常水溶液には相分離し溶解しないが、分子量200万以上のポリ-γ-グルタミン酸を含む水溶液では分子分散に近い状態で分散溶解し安定化することがわかった。その油成分が効果を示す量は0.05質量%〜5質量%が良いが、特に0.15質量%〜1.5質量%が望ましい。
【0015】
スクワランは動物性、植物性のいずれでもよく、分散安定には含有水分が可能な限り少ないことが望ましい。オリーブオイル、椿油、スクワレンの分散安定にはできる限り不純物(特に金属イオン)や含有水分が少ないことが望ましい。セサミオイルは水分の少ないセサミ種子を金属イオン等の不純物含まない状態で低温搾油・ろ過して得られた発酵に対する抵抗性が高いものが望ましい。
【0016】
本発明において、保湿、自然保湿因子の改善のために尿素及び尿素付加体を用いる。尿素に保湿作用があることは知られているが、本発明は尿素付加体にも同様の効果があることを見出した。特に尿素と尿素付加体を混合使用すると両成分の相互作用によって保湿効果及び持続性が向上することが見出された。添加量は尿素成分として0.2質量%〜20質量%以下を含む、特に1質量%〜10質量%を含むことが望ましい。尿素と尿素付加体の混合率には特に制限はないが、両者の混合比率として尿素付加体が5%以上95%以下であれば尿素付加体の効果が発揮される。尿素付加体としては、例えば天然、半合成、合成高分子やオリゴマーの高分子尿素付加体としてポリ−γ−グルタミン酸、ポリ−β−アスパラギン酸、ポリ−ε−リジン、シルク(粉末)、セリシン、オリゴペプチド、カゼイン、ペクチン、グルテン、ポリアミド、ポリ−N−ビニルピロリドン等の尿素付加体が上げられるが、対応する高分子の分子量には特に制限は無い。また低分子尿素付加体としてはアミノ酸やカルボン酸の尿素付加体、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、グリシン、セリン、ピロリドンカルボン酸、乳酸、酪酸、酒石酸、リンゴ酸等の尿素付加体がある。また側鎖にカルボキシル基を持つ高分子の尿素付加体ではカルボキシル基の一部をCa、Al、Zn、Mg、Fe塩にすることによって溶解性を制御することができる。
【0017】
また、上記の本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分、例えばヒアルロン酸、フラクタン、アミロペクチン、キトサン、カラギーナン、グルカン、アラビアゴム、ミクロファイバーセルロース、カルボキシメチルセルロース等の多糖類及びその誘導体、各種香料、ジフェンヒドラミンのような抗ヒスタミン剤、塩酸プロカインの様な医薬品、EDTA、ジシアンジアミジンのような各種キレート剤、各種酸化防止剤、その他の通常化粧料や外用剤に添加される成分を加えることは何等差し支えない。
【0018】
ここに提示したポリ-γ-グルタミン酸の水分保持、保湿作用、スクワランの脂質成分としての作用、尿素の保湿作用は個々には公知である。しかしながら、これら三成分が混合された時の相乗効果は極めて大きく、個々の成分を単独で使用した時に予想される効果を遥かに超えている。特に尿素付加体を混在させると相乗効果は一層顕著である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の組成物は、すぐれた持続性を持って皮膚水分を好適に保つとともに皮膚の掻痒を抑える、特に表皮角質層の水分補給と水分平衡を改善し、皮膚の荒れを抑制あるいは改善するとともに掻痒を抑え、かつ皮膚の再生を効果的に助けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施例について示すが、本発明はここに示す実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0021】
本発明の組成物のポリ−γ−グルタミン酸の水分保持性について検討した。
【0022】
分子量300万ポリ−γ−グルタミン酸(試料A)及び26万のポリ−γ−グルタミン酸(試料B)を用いて分子量の影響を比較した。水溶液をガラス板に流し膜を得た。この膜を乾燥(室温、5mmHg、24時間)し、重量を測定する。次いで条件1(25℃、65%RH、24時間)、条件2(40℃、85%RH、24時間)、条件3(25℃、65%RH、24時間)の状態に順次静置して各条件下の重量を測定し、最初の乾燥膜を基準(基準値100)として重量変化率で示した。その結果を表7に示す。分子量300万の方が26万より吸湿量が高く、放湿量が低いことが認められる。
【表1】

【実施例2】
【0023】
本発明の組成物の効果を見るため次の検討を行った。
【0024】
表2に基剤ベースを、表3に比較例、実施例を示す。実施例1のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は300万、尿素付加体のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は26万である。実施例2のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は305万である。実施例3のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は308万、尿素付加体のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は21万である。実施例4のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は285万である。実施例5のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は300万、尿素付加体のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は180万である。実施例6のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は285万である。実施例7のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は300万、尿素付加体のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は26万である。実施例8のポリ−γ−グルタミン酸の分子量は300万である。
【0025】
尿素・高分子付加体、尿素・低分子付加体は、試薬をジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、蒸留水等に溶解した後50〜80℃で20〜40分静かに撹拌し、一晩静置後濃縮採取した。得られた試料を示差熱量分析すると尿素の融解ピークが消失し尿素付加体が得られたことが確認された。
【0026】
乾燥肌、肌荒れに悩む30〜70歳の女性10人、肌の張り、弾力性、艶に悩む30〜70歳の女性10人、肌の小皺に悩む30〜70歳の女性10人に本発明のジェルクリームの効果を試した。テストは、3か月間毎日朝晩2回洗顔後に適量を顔面に塗布して効果を官能評価した。評価は6段階《0:変わらないあるいは悪化する、1:僅かに効果がある、2:少し効果がある、3:効果がある、4:可成り効果がある、5:非常に効果がある》で行った。結果を表4から表6に示す。
【0027】
乾燥肌、肌荒れの、肌の張り、弾力性、艶、小皺の改善に非常に効果が認められる。テスト者の満足度が非常に高い。
【0028】
さらに特筆すべきことはテスト開始の初期段階(1日目)で顕著な効果が認められるだけでなく使用終了後も効果が持続することである。
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【実施例3】
【0029】
本発明の組成物の効果を確かめるため次の検討を行った。
【0030】
表2に基剤ベースを表3に比較例、実施例を示したものを試料とした。
【0031】
30〜80歳の透析治療をうけている患者7人に効果を試した。テストは、本発明のジェルクリームを患者が乾燥、掻痒を感じている部位(顔、首、手、腕、体幹前面、体幹背面等)に1ヶ月間毎日朝晩2回塗布し効果を官能評価した。
【0032】
評価は6段階《0:変わらないあるいは悪化する、1:僅かに効果がある、2:少し効果がある、3:効果がある、4:可成り効果がある、5:非常に効果がある》で表7に評価結果を示す。透析患者の満足感が非常に高いことが分かる。
【表7】

【実施例4】
【0033】
角質層水分含有量を検討した。表2の基剤をベースに表8の試料を調製し、被験者7人のテストを行った。テストは1日2回、60日間下瞼に適量塗布し角質層水分含有量をインピーダンスメーターで測定した。角質層水分含有量の変化はテスト開始時点の被験者の水分量を基準値(基準100)として変化率で示した。表9に結果を示す。本発明の角質層水分含有量の増加に対する効果が顕著に現れている。
【表8】

【表9】

【実施例5】
【0034】
自然保湿因子を検討した。表3の試料(比較例1、比較例4、実施例1、実施例8)について被験者7人のテストを行った。テストは、3か月間毎日朝晩2回洗顔後に適量を顔面に塗布して効果を評価した。変化はテスト開始時点の被験者の値を基準値(基準100)として変化率で示した。表10に結果を示す。本発明の自然因子増加に対する効果が顕著に現れている。
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリ-γ-グルタミン酸、(2)スクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油の1種又は2種以上の油成分、(3)尿素及び尿素付加体の混合物を含む組成物。
【請求項2】
(1)酸型、塩型、酸と塩の混在型、架橋物の1種又は2種以上からなる分子量200万〜500万であるポリ-γ-グルタミン酸0.01質量%〜15質量%、(2)スクワラン、スクワレン、オリーブオイル、セサミオイル、椿油から選択した1種又は2種以上0.05質量%〜5質量%、(3)尿素及び1種以上の尿素付加体の混合物0.2質量%〜20質量%を含む組成物。
【請求項3】
尿素付加体が、1種以上の高分子尿素付加体、1種以上の低分子尿素付加体又は側鎖のカルボキシル基の一部がカルシウム塩であるポリ-γ-グルタミン酸から成る高分子尿素付加体のいずれかである請求項2記載の組成物。
【請求項4】
油成分がスクワラン、高分子尿素付加体がポリ-γ-グルタミン酸・尿素付加体である請求項3記載の組成物。
【請求項5】
油成分がスクワラン、低分子尿素付加体がアスパラギン酸・尿素付加体あるいはグルタミン酸・尿素付加体からなる請求項3記載の組成物。
【請求項6】
油成分がオリーブオイル、高分子尿素付加体がポリ-γ-グルタミン酸・尿素付加体である請求項3記載の組成物。
【請求項7】
油成分がセサミオイル、高分子尿素付加体がポリ-γ-グルタミン酸・尿素付加体である請求項3記載の組成物。

【公開番号】特開2009−167143(P2009−167143A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9743(P2008−9743)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(596137678)
【出願人】(591027927)福岡県醤油醸造協同組合 (11)
【Fターム(参考)】