説明

皮膚水分透過機能異常の予防又は治療剤

【課題】本発明の目的は、皮膚症状に合わせてTEWLを調節することにより、皮膚の水分透過機能を健全な状態にして、皮膚の水分調節作用を高めることができる皮膚水分透過機能改善剤を提供することである。
【解決手段】TEWLを皮膚症状に合わせて適切に調節する作用を有するプリン系核酸を、皮膚水分透過機能改善剤の有効成分として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚水分透過機能の異常を予防又は治療するための、皮膚水分透過機能異常の予防又は治療剤に関する。また、本発明は、皮膚からの水分蒸散量を示すTEWL(transepidermal water loss;経表皮水分蒸散量)を健全な範囲に調節するためのTEWL調節剤に関する。更に、本発明は、皮膚水分透過機能異常の予防或は治療、TEWL調節、皮膚における異常なTEWLの予防或は治療、又は皮膚水分透過機能改善についての方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の役割はいくつかあるが、主には、紫外線、異物、微生物等に対する防御であり、特に皮膚最外層の水分調節機能が皮膚の恒常性に重要である。
【0003】
皮膚は、適当な弾力、可塑性や強度を持っており、物理的な力に対して対応できるが、そのためには適度な水分を含み柔軟であることが必要である。
【0004】
しかしながら、皮膚は生体の最外層に位置するため非常に乾燥しやすい状態にある。皮膚外層には、天然保湿因子(NMF;natural moisturizing factor)やセラミド等が存在しており、これらが複合的に働くことで、皮膚全体が適度な水分を保持し、柔軟な状態に保つことができる。
【0005】
皮膚からの水分蒸散量が過剰な場合には、皮膚の乾燥を誘導し、老化や皺等の原因となることが知られている。
【0006】
加えて、皮膚外層の肥厚や堆積によっても、肌表面が荒れて乾燥することが知られている。これは、細胞機能の低下によって皮膚外層が肥厚又は堆積し、皮膚水分透過能が低下するためである。そのため、近年、皮膚外層の肥厚や堆積を改善するために、ケミカルピーリング等による剥離が行われている。しかしながら、これらは、必要以上の皮膚を剥離してしまい、その結果、皮膚を傷つけてしまう。
【0007】
また、加齢によっても、水分透過能が低下し、その結果、痒みやひび割れ等を伴う、老人性乾皮症を生じることが知られている。
【0008】
しかしながら、従来、上記の皮膚障害に対しては、皮膚を被膜して保湿効果を示すといった一時的な対症療法が広く用いられており、このような療法では、皮膚水分透過機能を抑制してTEWLを減少させるため、皮膚本来の機能である水分調節機能の阻害を招いている。このように、皮膚外層において水分を保持させる技術に関しては、広く研究されてきたものの、皮膚水分透過能を症状に合わせて増加乃至減少させることにより皮膚水分量の調節機能を改善して、皮膚本来の機能を発揮させる成分に関する研究は皆無である。
【0009】
一般に、TEWLの増加は皮膚からの水分蒸散を増加させ、これは皮膚の乾燥の原因となる。一方、水分保持によってTEWLが抑えられ、また、皮膚からの水分透過が抑制されるため、これによって皮膚からの水分蒸散がコントロールされる。ヒトの皮膚には、乾燥や湿疹等の影響を受けやすい部位があり、従って皮膚の特性は部位によって異なるが、TEWLの増加又は減少に有効な製剤を、皮膚の各部位に応じて選択的に使い分けることは困難である。このため、皮膚の部位に応じ、TEWLを適切な範囲に調節できるTEWLの増加と減少が可能な単製剤の開発が、長く期待されていた。
【0010】
このような従来技術を背景として、TEWLを適切な範囲に調節でき且つ水分透過機能を改善できる成分の開発が、長く期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-246459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、皮膚症状に合わせてTEWLを調節することにより、皮膚の水分透過機能を健全な状態にして、皮膚水分量の調節作用を高めることができる皮膚水分透過機能異常の予防又は治療剤を提供することを目的とする。また、本発明は、皮膚の適切な水分量を維持させつつ、表皮から水分を適切に蒸散させるTEWL調節剤を提供することを目的とする。更に、本発明は、皮膚のTEWL異常の予防又は治療剤、皮膚水分透過機能改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、プリン系核酸が、TEWLを皮膚症状に合わせて適切に調節する作用があることを見出した。即ち、プリン系核酸が、TEWLが減少している皮膚に対してはTEWLを健全な範囲にまで増加させ、過剰なTEWLを示す皮膚に対してはTEWLを健全な範囲にまで減少させることにより、皮膚の水分透過機能の異常を予防又は治療できることを見出した。その結果、本願発明者らは、プリン系核酸によるTEWLの調節は、肌荒れ、痒み、ひび割れ等の皮膚異常症状を予防及び改善し、更には角質肥厚や老人性乾皮症等の皮膚疾患に対しても有効であることを見出した。そして更に、本願発明者らは、プリン系核酸には、皮膚の適切な水分量を維持させつつ、表皮から水分を適切に蒸散させる作用があることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の皮膚水分透過機能異常の予防又は治療剤に関する発明を提供する。
項1-1. 少なくとも1種のプリン系核酸を有効成分とする、皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-2. 少なくとも1種のプリン系核酸が、アデノシン一リン酸及びその塩からなる群より選択されるものである、項1-1に記載の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-3. プリン系核酸が0.1〜20重量%の配合割合で含まれる、項1-1に記載の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-4. TEWL(経表皮水分蒸散量)の調節に使用される、項1-1に記載の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-5. TEWLが正常でない状態の皮膚症状及び皮膚疾患の予防又は治療に使用される、項1-1に記載の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-6. 皮膚水分透過機能異常が老化によるものである、項1-1に記載の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-7.肌荒れ、痒み、ひび割れ、角質肥厚、又は老人性乾皮症を予防又は治療するために使用される、項1-1に記載の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-8. 化粧品、皮膚外用医薬品又は皮膚外用医薬部外品である、項1-1に記載の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-9. 非治療目的で使用される、項1-1に記載の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤。
項1-10. 皮膚水分透過機能異常を予防又は治療するための外用組成物の製造のための、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
項1-11. 皮膚水分透過機能異常を予防又は治療するための、外用組成物における、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
項1-12. 皮膚水分透過機能異常を予防又は治療するためのプリン系核酸。
項1-13. 少なくとも1種のプリン系核酸を、皮膚水分透過機能異常の予防又は治療が求められる被験者に投与することを含む、皮膚水分透過機能異常の予防又は治療方法。
【0015】
また、本発明は、下記に掲げる態様のTEWL(経表皮水分蒸散量)調節剤に関する発明を提供する。
項2-1. 少なくとも1種のプリン系核酸を有効成分とする、TEWL(経表皮水分蒸散量)調節剤。
項2-2. プリン系核酸が、アデノシン一リン酸及びその塩からなる群より選択されるものである、項2-1に記載のTEWL調節剤。
項2-3. プリン系核酸が0.1〜20重量%の配合割合で含まれる、項2-1に記載のTEWL調節剤。
項2-4. 皮膚水分透過機能の改善に使用される、項2-1に記載のTEWL調節剤。
項2-5. TEWLが正常でない状態の皮膚症状及び皮膚疾患の予防又は治療に使用される、項2-1に記載のTEWL調節剤。
項2-6. 肌荒れ、痒み、ひび割れ、角質肥厚、又は老人性乾皮症を予防又は治療するために使用される、項2-1に記載のTEWL調節剤。
項2-7. 化粧品、皮膚外用医薬品又は皮膚外用医薬部外品である、項2-1に記載のTEWL調節剤。
項2-8. 非治療目的で使用される、項2-1に記載のTEWL調節剤。
項2-9. TEWL(経表皮水分蒸散量)を調節するための外用組成物の製造のための、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
項2-11. TEWL(経表皮水分蒸散量)を調節するための、外用組成物における、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
項2-12. TEWL(経表皮水分蒸散量)を調節するための、プリン系核酸。
項2-13. 少なくとも1種のプリン系核酸を、TEWL(経表皮水分蒸散量)の調節が求められる被験者に投与することを含む、TEWLを調節する方法。
【0016】
更に、本発明は、下記に掲げる態様の剤、使用、方法に関する発明を提供する。
項3-1. 少なくとも1種のプリン系核酸を有効成分とする、皮膚の異常なTEWL(経表皮水分蒸散量)の予防又は治療剤。
項3-2. 皮膚の異常なTEWL(経表皮水分蒸散量)を予防又は治療するための外用組成物の製造のための、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
項3-3. 皮膚の異常なTEWL(経表皮水分蒸散量)を予防又は治療するための、外用組成物における、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
項3-4. 皮膚の異常なTEWL(経表皮水分蒸散量)を予防又は治療するためのプリン系核酸。
項3-5. 少なくとも1種のプリン系核酸を、異常なTEWL(経表皮水分蒸散量)の予防又は治療が求められる被験者に投与することを含む、皮膚の異常なTEWL(経表皮水分蒸散量)の予防又は治療方法。
項3-6. 少なくとも1種のプリン系核酸を有効成分とする、皮膚水分透過機能改善剤。
項3-7. 皮膚水分透過機能を改善するための外用組成物の製造のための、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
項3-8. 皮膚水分透過機能を改善するための、外用組成物における、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
項3-9. 皮膚水分透過機能を改善するためのプリン系核酸。
項3-10. 少なくとも1種のプリン系核酸を、皮膚水分透過機能の回復又は維持が求められる被験者に投与することを含む、皮膚水分透過機能改善方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、皮膚症状に合わせてTEWLを調節することにより、皮膚の水分透過機能を健全な状態にして、皮膚の水分調節作用を高めることができる。また、本発明によれば、肌荒れ、痒み、ひび割れ、角層肥厚又は老人性乾皮症等の、皮膚水分透過能が正常でない状態の皮膚症状及び皮膚疾患を予防乃至治療することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】試験例3において、AMPを含む試験液を塗布した皮膚部位、及び無塗布の皮膚部位のTEWL値の変化を測定した結果を示す図である。
【図2】試験例3において、AMPを含む試験液を塗布した皮膚部位、及び無塗布の皮膚部位の角層水分量の経日変化を測定した結果を示す図である。
【図3a】試験例3において、試験開始7日後の無塗布皮膚部位の皮膚表面形態を観察した写真である。
【図3b】試験例3において、試験開始7日後のAMPを含む試験液を塗布した皮膚部位の皮膚表面形態を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤は、少なくとも1種のプリン系核酸を有効成分とすることを特徴とする。ここで、「本発明の皮膚水分透過機能異常予防又は治療剤」は「本発明の剤」と称する場合もある。
【0021】
本発明において、有効成分として使用される「プリン系核酸」とは、プリンまたはプリン核を骨格とする各種の誘導体の総称及びそれらの塩である。プリン系核酸としては、薬学的又は香粧学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、一例として、アデニン、グアニン、脱アミノ化アデニン(ヒポキサンチン)、脱アミノ化グアニン(キサンチン)、アデノシン、グアノシン、イノシン、アデノシンリン酸(例えば、アデノシン2'−一リン酸、アデノシン3'−一リン酸、アデノシン5'−一リン酸等のアデノシン一リン酸;アデノシン5'−二リン酸等のアデノシン二リン酸;アデノシン5'−三リン酸等のアデノシン三リン酸)、グアノシンリン酸(例えば、グアノシン3'−一リン酸、グアノシン5'−一リン酸等のグアノシン一リン酸;グアノシン5'−二リン酸等のグアノシン二リン酸;グアノシン5'−三リン酸等のグアノシン三リン酸)、アデニロコハク酸、キサンチン酸、イノシン酸、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)等が挙げられる。これらの中でも、TEWL調節作用に優れるものとして、好ましくは、アデノシンリン酸、更に好ましくはアデノシン一リン酸、特に好ましくはアデノシン5'−一リン酸(AMP)が例示される。これらのプリン系核酸は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
また、プリン系核酸の塩としては、薬学的又は香粧学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩及びバリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸塩;アンモニウムやトリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリイソプロパノールアミンなどの各種のアルカノールアミン塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が例示される。
【0023】
本発明の剤は、角層の水分透過機能を改善させ、皮膚の水分調節作用を高めるために皮膚に使用されるものである。よって、本発明の剤は、皮膚水分透過機能の異常の予防或は治療又はTEWL調節のために使用される化粧品や皮膚外用医薬品又は医薬部外品などの外用組成物(外用製剤)として提供される。
【0024】
前記外用組成物において、プリン系核酸の配合割合については、該剤の形態、適用対象、期待する効果等に応じて任意に設定することができる。具体的には、前記外用組成物において、プリン系核酸の配合割合としては、該外用組成物の総量当たり、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは1〜5重量%が挙げられる。このような配合割合を充足することによって、外用組成物は、TEWLの調節作用等を有効に発揮することができる。
【0025】
本発明の剤を外用組成物の形態にするには、プリン系核酸と共に、必要に応じて皮膚外用剤に通常使用されている各種成分、例えば、薬学的又は香粧学的に許容される担体、添加剤等を使用して製剤化すればよい。このような担体や添加剤は、当該技術分野で公知であり、その配合量についても適宜設定される。
【0026】
また、上記外用組成物において、pH及び浸透圧については、皮膚や粘膜に対する低刺激性、及び皮膚使用感のよさに悪影響を及ぼさない範囲で適宜設定すればよい。
【0027】
上記外用組成物は、化粧品、皮膚外用医薬品又は皮膚外用医薬部外品等の皮膚に外用形態で適用される組成物として調製される限り、その形態については特に制限されない。例えば、本発明の剤は、必要に応じて上記各任意成分が配合され、さらに必要に応じてその他の溶媒や通常使用される外用剤の基剤又は担体を配合されることによって、ペースト状、ムース状、ゲル状、液状、乳液状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、シート状、エアゾール状、スプレー状、リニメント剤などの各種所望の形態の外用剤として調製することができる。これらの形態の中でも、好ましくは液状、乳液状、懸濁液状、クリーム状であり、更に好ましくは液状、乳液状である。これらは当業界の通常の方法に従って調製される。
【0028】
本発明の剤は、皮膚水分透過機能に異常を有する哺乳動物(ヒトを含む)の皮膚に経皮適用することによって使用される。皮膚水分透過機能における異常の例としては、過剰なTEWL又はTEWLの低下を伴う皮膚疾患及び皮膚症状が挙げられる。皮膚水分透過機能における異常の具体例としては、肌荒れ、痒み、ひび割れ、角層肥厚、老人性乾皮等が挙げられる。更に、本発明において、皮膚水分透過機能における異常の具体例として好ましくは老化によるものが挙げられる。TEWLの値に関しては、例えば、Hachiro Tagami,“Kousho-kaishi(Journal of Cosmetic Science)”27(2003):158に例示される。
【0029】
更に、本発明の剤は、TEWLを正常な状態に回復又は維持させることが求められる哺乳動物(ヒトを含む)の皮膚に経皮適用することによって使用される。また、本発明の剤は、皮膚におけるTEWL異常を予防又は治療すること、皮膚水分透過機能を回復又は維持させること、又はTEWLを調節することが求められる哺乳動物(ヒトを含む)の皮膚に経皮適用することによって使用される。
【0030】
本発明の剤は、皮膚水分透過機能の異常を予防又は治療することができる。
【0031】
更に、本発明の剤は、ヒトを含む哺乳動物において、TEWLを健全な範囲に調節することにより、皮膚水分透過機能を正常な状態にすることができる。このため、本発明の剤は、皮膚保湿作用や皮膚水分透過向上作用を提供するために、また、皮膚水分量を調節又は回復させるために使用される。より具体的には、本発明の剤は、TEWLが減少した状態にある皮膚に対しては、TEWLを増加させることにより、TEWLを健全な範囲に回復させることができる。更に、本発明の剤は、過剰なTEWLを示す皮膚に対しては、TEWLを減少させることにより、TEWLを健全な範囲に導くことができる。それ故、本発明の剤は、TEWLが正常でない状態の皮膚症状及び皮膚疾患の予防又は治療に有効である。例えば、本発明の剤は、TEWLが減少している皮膚疾患及び皮膚症状(例えば、乾燥肌、痒み、ひび割れ、角層肥厚、老人性乾皮等)に対する予防又は治療に有効である。また、例えば、本発明の剤は、過剰なTEWLを示す皮膚疾患及び皮膚症状(例えば、肌荒れ等)に対する予防又は治療にも有効である。また、本発明の剤は、水分量が過剰な皮膚に対しては適度な潤いに調節でき、また水分量が少ない皮膚に対しては適度な潤いに回復させることができるので、低下した水分保持能力を正常な状態に回復させる目的での使用にも有効である。
【0032】
本発明の剤を適用する量並びに回数については、特に制限されない。例えば、有効成分の種類・濃度、使用者の年齢、性別、症状の程度、適用形態、期待される効果等に応じて、1日に1回若しくは数回の頻度で適当量を皮膚に適用すればよい。また、1回当たりの適用量については、例えば、皮膚1cm当たり、上記有効成分が、0.0001〜1mg、好ましくは0.001〜1mg程度となる量に設定すればよい。
【0033】
また、本発明の剤は、TEWLを正常範囲に調節することによって、皮膚の適切な水分量を維持させつつ、表皮から水分を適切に蒸散させることができ、TEWLの適切な調節が可能になる。従って、本発明の剤は、皮膚水分透過機能改善剤又はTEWL調節剤として使用することもできる。
更に、本発明の剤は、皮膚のTEWLを正常な状態にすることができるため、本発明の剤は、皮膚のTEWL(経表皮水分蒸散量)異常の予防又は治療剤として使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例等において「%」と表示され、かつ配合量を示すものは、特段記載のない限り、重量%を意味する。
【0035】
試験例1:アデノシンリン酸の皮膚水分透過促進作用の検討−1
本試験例は、アデノシンリン酸の皮膚水分透過促進作用を検討する目的で、健常成人12名(男性10名、女性2名、平均年齢41.2歳)を被験者として行った。具体的には、被験者の左右の上腕屈側部に設置した9×8cmの領域を試験部位とし、左右一方の試験部位にアデノシン5’一リン酸ナトリウム(AMP)3%を溶解した20%エタノール水溶液(試験液)を適量塗布し、他方の試験部位はAMPを含まない20%エタノール水溶液(基剤)を同等量塗布した。塗布は、1日2回(午前・午後)、28日間行い、塗布前(試験前)、塗布後(塗布28日後)のTEWL及び角層水分量を測定した。
【0036】
TEWL値(g/m/h)は、DermaLab(Cortex Technology社製)を用いて、添付の説明書に従い測定し、各被験者のTEWLの平均値を算出した。
【0037】
また、角層水分量については、SKICON−200(I・B・S社製)を用いて、添付の説明書に従い電気伝導度(μS)を測定し、該電気伝導度を角層水分量の指標とした。
【0038】
TEWLの測定結果を表1に示す。表1に示す通り、基剤を塗布した場合は、試験前後でTEWLの変化は示されなかったが、試験液の塗布28日後においては、TEWLが上昇する傾向が認められ、皮膚水分透過機能が亢進していることが確認された。
【0039】
【表1】

【0040】
また、角質水分量の測定結果を表2に示す。表2に示す通り、試験液の塗布28日後において、顕著な角層水分量の増加が認められた。一般にTEWLが上昇すると角層の水分量が減少すると言われている。しかしながら、本試験結果から、AMPは、TEWLを増加させつつ、角質水分量をも増加させる作用があることが明らかとなった。
【0041】
【表2】

【0042】
以上の結果から、AMPは、従来のTEWLを減少させる作用を有する化合物とは異なり、皮膚の本来有する皮膚水分透過能を改善させる作用を有することが示された。
【0043】
試験例2:アデノシンリン酸の皮膚水分透過促進作用の検討−2
次に、試験例1で用いたエタノール水溶液を外用化粧品として利用される乳液に変更して、試験例1と同様の試験を行った。試験液の媒体変更と、試験部位の上腕屈側部への変更を除き、被験者、試験期間等は上記試験例1と同じ条件を採用した。試験に用いた乳液は、一般的な組成のものを用いた。
【0044】
更に、AMP塗布が、皮膚のバリア機能に変化を及ぼすかを検討する目的で、角層のコーニファイドエンベロップ(CE;角質肥厚膜)を確認した。具体的には、未熟角層細胞数に及ぼす影響を確認するため、試験液又は基剤の塗布28日後に、測定部位にテープを貼布して角層を採取した。採取した角層は、蛍光標識抗インボルクリン抗体を用いて染色し、次に、成熟角層細胞を蛍光標識抗成熟細胞抗体で染色した。その後、蛍光顕微鏡で鏡検し、角層細胞数全体における未熟角層細胞数の割合を算出した。
【0045】
TEWLの測定結果を表3に示す。表3に示される通り、基剤を塗布した場合は、試験前後でTEWLの変化はほとんど示されなかったが、試験液の塗布28日後においては、TEWLの明らかな増加が認められ、皮膚水分透過能が亢進していることが確認された。
【0046】
【表3】

【0047】
また、角質水分量の測定結果を表4に示す。表4に示す通り、乳液基剤の塗布により、角層水分量の増加が認められたが、試験液を用いた場合には、更に顕著な増加作用が認められた。
【0048】
【表4】

【0049】
この基剤による角層水分量の増加は、所謂、皮膚を被膜することで得られる一時的な角層保湿効果と考えられる。それに対し、試験液の使用による角層水分量と水分透過機能の亢進は、角層機能の向上と、皮膚深部より最外層への水分供給能が高まった結果と考えられる。そのため、本効果は皮膚機能自体の改善によるものであり、よって、試験液の塗布終了後においても持続するものと考えられる。
【0050】
また、角層細胞数全体における未熟角層細胞数の割合を測定した結果を表5に示す。一般に、角層中に未熟角層細胞が多く認められる場合には、肌荒れと角層バリア機能の低下が生じていると考えられている。表5に示す通り、AMPを含む試験液を塗布しても、未熟角層細胞数の出現割合は増加していなかった。即ち、AMPを含む試験液の塗布により、皮膚バリア機能は低下していないことが確認された。
【0051】
【表5】

【0052】
本試験結果から、角層水分量の増加は、乳液基剤のみの塗布でも示されるが、TEWLの増加作用は、AMPの塗布によってのみ示されることが確認された。これによりAMPは、本来皮膚が有する水分透過能を高めていることが示された。また、その際、従来TEWLの増加に伴って低下する皮膚バリア機能についても変化させず、AMPが安全に使用できるものであることが示された。
【0053】
試験例3:アデノシンリン酸の皮膚水分透過抑制作用の検討
次に、皮膚水分透過能が過度に亢進した皮膚に対するアデノシンリン酸の作用を検討した。試験は、健常成人9名(男性9名、平均年齢43.1歳)を被験者として行った。被験者の左右の下肢外側腹側に7×4.5cmの試験部位を設定し、左右両方の試験部位に、0.25w/v%のドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業製)の水溶液(SDS水溶液)を24時間閉塞塗布した。SDS水溶液処理後、塗布部位を洗浄して肌荒れモデルとした後、片方にアデノシン5’一リン酸ナトリウムを3%配合した乳液を試験液として適量塗布し、もう一方を無塗布とした。塗布はSDS水溶液処理終了後(0日)から開始し、1日に2回、7日間行った。SDS水溶液処理前、処理終了後、塗布1、3及び7日後に、TEWL及び角層水分量の測定を行った。TEWL及び角層水分量は、上記試験例1と同様の手法で測定した。更に、試験液塗布7日後の皮膚表面形態を観察した。皮膚表面の形態観察は、マイクロスコープ(SCALAR社製)を用いて行った。
【0054】
TEWLの測定結果を図1に示す。図1に示す通り、SDS水溶液処理により、明らかなTEWLの増加が示された。その際、明らかな肌荒れが生じていることも確認された。その後、試験液を塗布した部位では、塗布3日、7日後には、無塗布部位に比べてTEWLの減少作用が示された。
【0055】
また、角層水分量については、図2に示す通り、SDS水溶液処理により、明らかな角層水分量の減少が示された。その後、無塗布部位では、角層水分量は7日後まで増加しなかったが、試験液を塗布した部位では、顕著な角層水分量の増加が示された。
【0056】
更に、皮膚表面形態を観察した結果を図3a及びbに示す。無塗布部位(図3a)では、皮溝、皮丘及び皮野からなる皮膚表面の紋様が消失しており、また、角層の剥離が認められた。それに対して、AMPを含む試験液を塗布した部位(図3b)では、皮膚表面に紋様を認め、角層の剥離も認められなかった。このことから、AMPを含む試験液によって、過度なTEWLの亢進による肌荒れに対して、有効な改善効果を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚水分透過機能の異常予防又は治療用プリン系核酸。
【請求項2】
プリン系核酸が、アデノシンリン酸及びその塩からなる群より選択されるものである、請求項1に記載のプリン系核酸。
【請求項3】
プリン系核酸が、アデノシン一リン酸及びその塩からなる群より選択されるものである、請求項1に記載のプリン系核酸。
【請求項4】
外用組成物において0.1〜20重量%の配合割合で使用される、請求項1に記載のプリン系核酸。
【請求項5】
TEWLが正常でない状態の皮膚症状及び皮膚疾患の予防又は治療に使用される、請求項1に記載のプリン系核酸。
【請求項6】
皮膚水分透過機能の異常が老化によるものである、請求項1に記載のプリン系核酸。
【請求項7】
皮膚水分透過機能の異常が肌荒れ、痒み、ひび割れ、角質肥厚、又は老人性乾皮症である、請求項1に記載のプリン系核酸。
【請求項8】
化粧品、皮膚外用医薬品又は皮膚外用医薬部外品の成分として使用される、請求項1に記載のプリン系核酸。
【請求項9】
非治療目的で使用される、請求項1に記載のプリン系核酸。
【請求項10】
TEWL(経表皮水分蒸散量)異常の予防又は治療用プリン系核酸。
【請求項11】
TEWLの異常が老化によるものである、請求項10に記載のプリン系核酸。
【請求項12】
皮膚水分透過機能を改善するための外用組成物を製造するための、少なくとも1種のプリン系核酸の使用。
【請求項13】
皮膚水分透過機能改善用プリン系核酸。
【請求項14】
少なくとも1種のプリン系核酸を、皮膚水分透過機能の回復又は維持が求められる被験者に投与することを含む、皮膚水分透過機能改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公表番号】特表2012−530683(P2012−530683A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553179(P2011−553179)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/JP2010/060796
【国際公開番号】WO2010/147238
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】