説明

皮膚用保水シート

【課題】 皮膚への馴染みと張り感、しっとり感に優れ、美容用途や医療用途などに極めて適した皮膚用保水シートとその製造方法を提供する。
【解決手段】 この皮膚用保水シートは、保水状態で皮膚に当てて使用するシートであって、不溶性コラーゲンの微細物を水に懸濁させた状態で成形し含水状態のまま凝固させてなり、乾燥させることなくして使用に供される、シートである。不溶性コラーゲンは、哺乳類由来のコラーゲンであって変性温度35〜50℃であることができ、その含有量が3〜8重量%であることができる。この皮膚用保水シートは、不溶性コラーゲンの微細物を3〜8重量%含有する水懸濁液を調製する工程(a)と、前記水懸濁液をシート状に成形し含水状態のまま凝固させる工程(b)と、を含む方法で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水状態で皮膚に当てて使用することができて、美容用途、医療用途などに適する皮膚用保水シートに関するものであり、より詳しくは、保水性に優れるばかりでなく、生体親和性もあるコラーゲンを原料とし、しかも、皮膚への馴染みが良く、張り感やしっとり感に優れるため、美容用途や医療用途において高い好感度を与えることのできる皮膚用保水シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
美容の分野において、保水状態のシートを、顔などの皮膚に貼り付けて一定時間おくことで、皮膚に潤いを与えたり皮膚の改善を行ったりする技術が知られている。この顔面美容に用いられる、このような保水シートは、一般に、美容フェイスマスク、美容パックシートなどと呼ばれている。
美容フェイスマスクに利用される保水シートの基材としては、一般に、不織布などの繊維材料が使用されている。不織布などの基材に、水溶性コラーゲンやゼラチンなどの保水性材料を塗工したり含浸させたりすることも行われている。この水溶性コラーゲンは、本来は不溶性であるコラーゲンを、酵素やアルカリなどで処理して水溶性にしたものである。
【0003】
しかし、繊維材料からなる基材は、どうしても、繊維や糸による凹凸があり、表面が粗いので、肌触りが良くない。また、柔軟性にも劣り、顔などの複雑な曲面に確実に密着させることが難しい。
そこで、基材の材料としてコラーゲンを用いることにより、柔軟性があって、しかも、表面粗さの生じない保水シートが提案されている。すなわち、特許文献1には、魚由来の真皮コラーゲン成分含有水性液の成形シートが提案されている。この魚由来コラーゲンシートは、柔らかくて触感が良く、生体親和性が高いという利点があるので、フェイスマスクや止血材シートなど皮膚に貼り付けて使用する用途に適する、とされている。そして、特許文献2には、魚類のうろこに由来する水溶性コラーゲンを乾燥させたコラーゲンフィルムを、美容用コラーゲンマスクや医療用人工皮膚代替品などに利用することが提案されている。
【特許文献1】特開2005−53847号公報
【特許文献2】特開2005−126655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者の詳しく調べたところによると、基材がコラーゲン材料からなる上記の保水シートは、繊維材料にはない柔らかさと触感はあるが、美容用途に不可欠な皮膚への馴染みが不十分であり、さらに、張り感やしっとり感にも乏しい、という問題のあることが分かった。この皮膚への馴染みと張り感、しっとり感は、美容用途以外の用途、例えば、医療用途においても同様に求められている重要な課題であるが、上記の提案にかかるコラーゲン製の皮膚用保水シートはこれらの点で不十分であった。
そこで、本発明の課題は、皮膚への馴染みと張り感、しっとり感に優れ、美容用途や医療用途などに極めて適した皮膚用保水シートとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記提案にかかるコラーゲン製の保水性シートが柔らかさと触感があるにも関わらず、皮膚への馴染みと張り感、しっとり感に乏しい理由が何かについて、種々検討を重ね、実験を重ねた。その結果、これらのコラーゲン製基材は、コラーゲン製品製造の技術常識に従い、シート成形と同時または成形後に空気乾燥したり凍結乾燥したりして、機械的強度の確保をしていることに問題の原因のあることが分かった。
すなわち、特許文献1、2のいずれの製法でも、コラーゲン含有液を、塗工したり型に流し込んだりして層状にしたあと、空気乾燥や凍結乾燥などの乾燥方法で乾燥させることで、成形シートを得ている。そのため、得られたコラーゲンシートを保水シートとして使用するためには、シート重量の10〜35倍に当たる大量の水分を含浸させる必要があるが、いったん乾燥させた硬いコラーゲンシートに、あとで水分を含浸させても、コラーゲン組織が本来持っている十分な保水性、強度、キメの細かさや整いを取り戻すことのできないことが分かった。乾燥によりこのようなことの起きる理由は、乾燥の過程で、コラーゲン分子あるいはコラーゲン線維同士に化学的な結合が生じたり、ミクロ構造あるいは三次元構造に変化が生じたりして、コラーゲン組織本来の十分な保水性、強度とキメの細かさや整いが失われてしまうことにあると推定できる。
【0006】
コラーゲン組織は本来、透明感にも優れた長所を有するが、コラーゲン成形シートを得るための乾燥はこの透明感をも失わせるという問題のあることも分かった。
特許文献1、2のいずれの製法でも、上で述べたように、成形シートに機械的強度を付与するための乾燥工程において一旦は水分を除去しておきながら、使用時には再び水分を与える(水戻し)という2度の手間がかかり、しかも、使用者において、この水戻しにある程度の熟練を要する面倒さを与えるという問題もある。
本発明者は、大量の水を含んで湿潤状態にある成形シートに機械的強度を与えるための処理において、このような種々の問題を生む乾燥を施すこと以外の手段がないか、さらに、種々検討を重ね、実験を重ねた。その結果、大量の水を含んで湿潤状態にある成形シートを化学的に凝固させることにすれば、得られた成形シートは含水状態のままで機械的強度を持つことができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
したがって、本発明にかかる皮膚用保水シートは、保水状態で皮膚に当てて使用するシートであって、不溶性コラーゲンの微細物を水に懸濁させた状態で成形し含水状態のまま凝固させてなり、乾燥させることなくして使用に供される、シートである、ことを特徴とする。
本発明にかかる皮膚用保水シートは、上記において、不溶性コラーゲンが哺乳類由来のコラーゲンであって変性温度35〜50℃であることができ、また、不溶性コラーゲンの含有量が3〜8重量%であることができる。
そして、本発明にかかる皮膚用保水シートの製造方法は、保水状態で皮膚に当てて使用するシートの製造方法であって、不溶性コラーゲンの微細物を3〜8重量%含有する水懸濁液を調製する工程(a)と、前記水懸濁液をシート状に成形し含水状態のまま凝固させる工程(b)と、を含む、ことを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる皮膚用保水シートの製造方法は、上記において、前記工程(a)では、前記水懸濁液を粘度300〜1000Pa・sに調整することができ、前記工程(b)では、前記水懸濁液を、塩化ナトリウム、硫酸ソーダ、硫酸アンモニウム、アンモニアなどからなる群から選ばれる凝固剤を含有する凝固浴中に、厚さ0.3〜0.8mmのシート状に押出成形して凝固浴中で含水状態のシートを凝固させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる皮膚用保水シートは、不溶性コラーゲンの微細物の水懸濁液を成形したあと、乾燥させることなく、高含水状態のままで凝固させて得られるものであるため、シートを構成するコラーゲン組織が、乾燥時の熱や架橋などにより変質を起こすことがなく、そのため、コラーゲン組織が本来持っているキメの細かさや整い、強度、保水性や透明感を失うことがなく、皮膚への馴染みが十分であり、さらに、張り感やしっとり感にも優れるコラーゲンシートとなっている。その結果、美容フェイスマスクや医療用皮膚貼付シートなどとして、使用感と使用性に優れるものとなり、使用者に対し大いなる好感度を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔コラーゲン原料〕
保水シートを製造するのに用いるコラーゲン原料としては、通常のコラーゲン原料が使用できる。
コラーゲン原料には、哺乳類、魚類、鳥類その他の生物の生体組織が使用できる。原料生物の種類、生体組織の部位などによって、コラーゲン原料の特性や機能が異なることがあり、得られる保水シートの特性や性能も変わってくる。
例えば、前述した特許文献1、2で提案されているコラーゲン製の皮膚用保水シートでは、いずれも、そのコラーゲン原料として魚類由来のコラーゲンを使用している。その理由として、特許文献1では、魚類由来のコラーゲンは、牛や豚などの哺乳類由来のコラーゲンに比べて、柔らかくて触感に優れるシートが得られるからであると説明されている。しかし、魚類由来のコラーゲンは、コラーゲン線維のフィブリル構造や3重螺旋構造が変形したり分解したりすることの目安となる、いわゆる「変性温度」が低い。魚類由来のコラーゲンは、通常、その変性温度が20℃以下であるから、人間の皮膚温である36℃程度近くになると、必然的に変性が起こってしまう。25℃程度の常温室内環境でも変性が生じてしまう。そのため、人の皮膚に当てて使用すると、体温によってコラーゲンの変性が生じ、シート特性が悪くなってしまうことがあり、場合により、その対策が必要となる。このような変性は水の存在下で一層起こり易くなるので、含水状態で長期間保存する場合もその対策が求められる。
【0011】
このような観点からすれば、コラーゲン原料としては、変性温度が35〜50℃の範囲にある哺乳類由来のコラーゲン原料を用いることが好ましい。コラーゲンの変性温度は常法により測定される。
哺乳類には、一般的なコラーゲン製品の原料である牛や豚、羊などの家畜類が挙げられる。通常、人間よりも体温の高い哺乳類は、人間の体温よりも高い変性温度のコラーゲンを供給することができる。変性温度のより好ましい条件は、40〜45℃である。変性温度が高いほど、皮膚に貼り付けて使用しているとき、および、流通保管などの取り扱い中に、コラーゲンの変性あるいはシートの特性低下が生じ難い。
【0012】
哺乳類の皮や骨、腱その他の体内結合組織には、コラーゲンが豊富に含まれている。何れの組織から得られたコラーゲンも使用できる。組織部位によって変性温度が違い場合もあるので、前記した変性温度条件を満足する組織を原料とすることが望ましい。複数の異なる組織を組み合わせてコラーゲン原料に使用することもできる。
コラーゲン原料には、不溶性コラーゲンのみを含有するもののほか、不溶性コラーゲンと可溶性コラーゲンとの両方を含むものもある。不溶性コラーゲンが十分な割合で含まれるコラーゲン原料を用いる必要がある。
通常の各種コラーゲン製品やゼラチン製品などを製造するのに利用されている原料のうち、上記条件にあてはまるものを使用することができる。
【0013】
〔不溶性コラーゲン〕
<コラーゲン原料>
前記したコラーゲン原料から得られるコラーゲンであって、可溶化処理を受けていないコラーゲンを意味し、水溶性を持たない。すなわち、水溶性コラーゲンではない。
通常のコラーゲン製品の製造工程では、コラーゲン原料に対してコラーゲン分解酵素やアルカリなどによるコラーゲンの可溶化処理を行い、水溶性コラーゲンを抽出して、コラーゲン水溶液の形態で使用することが多いが、本発明では、上記のような可溶化処理を行わないコラーゲン、すなわち、不溶性コラーゲンを用いるのである。もっとも、コラーゲン原料には、少量(例えば、1〜5重量%程度)であれば、水溶性コラーゲンが含まれていても良い。したがって、本発明に用いられるコラーゲン原料には、発明の目的を阻害しない範囲で、原料由来で不可避的に存在する水溶性コラーゲンが含まれていても構わないし、保水シートの成形性や使用時の特性を向上させるために、不溶性コラーゲンに対し少量の水溶性コラーゲンを添加しておくこともできるのである。原料由来で水溶性コラーゲンが入り込むのは、不溶性コラーゲンの製造過程で、不溶性コラーゲンが少量、可溶化してしまうなどによる。
【0014】
コラーゲン原料に対しては、積極的な可溶化処理は行わないが、コラーゲンの製造時に通常行われる、可溶化処理以外の各種の処理工程は、本発明でも行うことができる。このような処理としては、例えば、洗浄工程、脱脂工程、脱灰工程、粉砕工程などがある。
コラーゲン原料から不溶性コラーゲンを製造し保管している間は、不溶性コラーゲンが可溶化し難いように、適切なpH条件に設定しておくことが望ましい。通常、pH5〜8に設定しておけばよい。不溶性コラーゲンの微細物が水懸濁液の状態であれば、適量のpH調整剤を加えておくことができる。
<製造方法>
具体的には、コラーゲン原料として、動物の皮を用いる場合、原料皮を脱毛し洗浄したあと、脱灰し、pHを調整して皮を膨潤させ、膨潤した皮を細断したり粉砕したりすれば、不溶性コラーゲンの微細物を得ることができる。
【0015】
湿式粉砕を行えば、不溶性コラーゲンの微細物が水懸濁液の状態で得られる。湿式粉砕は、不溶性コラーゲンの可溶化や熱変性が促進されない温度で行うことが望ましい。温度は、通常、0〜10℃に設定する。不溶性コラーゲン微細物の粒径は5〜10mmに設定できる。湿式粉砕を終えた不溶性コラーゲン微細物の水懸濁液は、通常、粘度の高いペースト状を呈する。湿式粉砕の際に加える水分量で、得られる不溶性コラーゲン微細物の水懸濁液の粘度を調整することができる。
〔保水シートの製造〕
以下の工程で保水シートが得られる。
【0016】
<工程(a):水懸濁液>
上記で得た不溶性コラーゲン微細物の水懸濁液は、保水シートを得るための成形原料となるが、成形方法に合うように水分量を調整すれば、所望の割合で不溶性コラーゲンを含有する水懸濁液となる。一般的には、不溶性コラーゲンを3〜8重量%含有する水懸濁液を調製しておく。好ましくは、不溶性コラーゲンを5〜7重量%含有する水懸濁液を調製しておく。不溶性コラーゲンの含有量が少な過ぎると、シート状に成形することが困難であったり、強度的に弱いシートしか得られなかったりする。不溶性コラーゲンの含有量が多過ぎると、流動性が悪くなって成形が難しくなったり、保水性能が悪くなったりする。
【0017】
水懸濁液の粘度を適切に設定することで、成形と凝固が行い易くなる。保水シートの特性も調整できる。通常、水懸濁液の粘度は、300〜1000Pa・sに設定できる。好ましくは、粘度600〜800Pa・sである。コラーゲン微細物のこのような高粘度の水懸濁液は、通常の液状態ではなく、ペースト状態と呼ばれるものである。
水懸濁液には、水以外の液体成分および固体成分を添加しておくことができる。添加材料としては、成形凝固によるシート製造に有用な成分がある。例えば、凝固反応に寄与する化合物や、流動性を調整する化合物などが挙げられる。水以外の溶媒成分を配合しておくこともできる。保水シートの用途において必要な成分を添加しておけば、成形凝固された保水シートに、水とともにそれらの必要成分が含有された状態になる。このような添加剤としては、例えば、保水シートの変質を防ぐ防腐剤や殺菌剤などがある。美容作用や化粧機能のある材料もある。香料や着色剤などもある。医療用途に有用な医薬成分を添加することもできる。血液凝固作用のある薬剤や皮膚の殺菌作用のある薬剤が挙げられる。
【0018】
<工程(b):成形凝固>
不溶性コラーゲンが分散された水懸濁液をシート状に成形し含水状態のままで凝固させる。これらの作業は、不溶性コラーゲンが、できるだけ可溶化したり変性したりしないようにして行うことが望ましい。
成形においては、水懸濁液を、バットのような容器に薄く溜めれば、容器形状に対応する形を取る。ペースト状を呈する水懸濁液を、所定の口金形状を有する押出ノズルから押し出せば、所望の断面形状で連続した帯状に成形される。基板や基材シートの上に水懸濁液を流して膜を形成させることもできる。ローラや走行する基材シートを水懸濁液に漬けて引き上げることで、一定厚みの液層を形成させることもできる。このとき、従来、ソーセージなどのコラーゲンケーシングの成形に使用されていた成形装置や成形技術を転用することができる。
【0019】
所定の形状に成形された水懸濁液は、凝固させなければ、成形形状は維持できない。つまり、成形形状を保持する上での機械的強度を持ち得ない。本発明における凝固工程はこのために行われる。
凝固工程は、成形工程のあとで成形物に対して行うこともできるし、成形と同時に行うこともできる。成形シートは高含水状態のままで凝固させる。
コラーゲンの等電点よりもアルカリ側のpH環境では、コラーゲンが凝固する。コラーゲンの等電点は、コラーゲン原料や製造条件などで変わるが、通常、pH7〜9である。そこで、コラーゲンを凝固させるには、pH4〜5に調整すればよい。pH調整剤としては、通常のコラーゲン製品において使用されている各種の化合物が使用できる。中性塩の高濃度水溶液が使用できる。具体的には、塩酸やクエン酸などが挙げられる。コラーゲン微細物含有水懸濁液の成形シートは、塩溶液に浸漬したり、アンモニアガス雰囲気中に晒したりして凝固させることもできる。
【0020】
成形および凝固の工程は、コラーゲンの変性が起こり難い温度領域で行うことが望ましい。通常、変性温度よりも10〜15℃低い温度に設定しておく。
なお、コラーゲン成形シートには、通常のコラーゲンケーシング製造における架橋剤や硬化剤の添加は、コラーゲンの柔軟性や保水性、皮膚への密着性などを損なうので採用しない。そして、言うまでもないが、成形シートは、使用段階までは、これを乾燥させてしまうと、本発明の目的は達成できない。
〔保水シート〕
凝固により得られた保水シートは、不溶性コラーゲンとともに大量の水を含有する高含水状態にある。通常、不溶性コラーゲンの含有量は3〜8重量%であり、後述する添加剤の量は少ないので、含有水分量すなわち保水量は90重量%以上に達する。不溶性コラーゲンの含有量は、好ましくは5〜7重量%である。
【0021】
保水シートの厚さや特性条件は、その用途によって、適切な範囲に設定することができる。保水シートの厚みは、用途や要求性能あるいは製造条件によって変わるが、通常、0.5〜3mmに設定される。好ましくは、1〜2mmである。
保水シートは、製造時に所定の形状に成形されていてもよいし、成形後に裁断したりプレス打ち抜きしたりして、目的とする用途に適した所定形状に加工することもできる。例えば、美容フェイスマスクの場合、顔の形に合わせた外形や目などに対応する切り欠きなどを加工することができる。このような形状加工は、含水状態で行う必要がある。また、過剰な熱が加わらないようにしておく。
【0022】
保水シートには、それぞれの用途に適した添加剤成分を保持させておくことができる。例えば、美容用途においては、保水シートに、水分だけでなく、美容効果や皮膚活性効果に好ましい影響を与える美容成分や薬用成分などを保持させておくことができる。用途に限らず防腐剤や殺菌剤などを配合しておけば、保水シートの保存や流通を長期化できる。美容用途では、各種の美容成分、香料などが配合できる。医療用途では、止血剤、抗生物質、栄養成分などが配合できる。
保水シートの表面に、添加剤を含む水や液体を塗工したり添加剤を散布したりすることで、添加剤成分を保水シートの保水液中に拡散させることができる。添加剤が配合された水性液に、保水シートを浸漬することで、添加剤成分を保水シートの内部に浸透させることもできる。
【0023】
保水シートは、保水状態のままで輸送保管および流通に供される。使用時までに、保水量が大きく低下するような乾燥状態に置かれないようにする。保水シートを保水状態で流通に供するには、防水性および防湿性の密閉袋や密閉容器に収容しておくことが有効である。
〔保水シートの用途〕
保水シートは、保水状態で皮膚に当てて使用される。
具体的には、美容用途において、フェイスマスク、パックシート、しわ取りシートなどが挙げられる。医療用途において、止血材シート、創傷保護シート、湿布シート、皮膚貼付薬支持シートなどが挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下のようにして実施例と比較例の試験シートを得て、それぞれの性能を評価した。
〔実施例1〕
コラーゲン原料として、湿重量10kgの新鮮な豚皮を用いた。豚皮コラーゲンの変性温度は、約45℃である。
コラーゲン原料を水中、界面活性剤および炭酸ソーダの存在下で撹拌することにより脱脂および脱灰を行った。脱脂脱灰物を、水洗したあと、冷却しながら5〜10mmの大きさに細断した。細断片に水を加え、マイクロカッターで微細化し、コラーゲン線維の微細物の水縣濁液(コラーゲン濃度10重量%)を得た。コラーゲン濃度が6重量%になるように水分量を調整した。得られたペースト状のコラーゲン懸濁液は、粘度700Pa・sであった。
【0025】
ペースト状のコラーゲン懸濁液を、エキストルーダー装置に供給し、厚さ0.5mmのコラーゲン成形シートを得た。
得られたコラーゲン成形シートを、含水状態のままで、アンモニアガスと接触させた。アンモニアによってpH7.5に調整されたコラーゲン成形シートは凝固した。その後、水洗により、残存する過剰のアンモニアや不純物を除去して、保水シート7.5kgを得た。得られた保水シートの保水量は93重量%、不溶性コラーゲンの含有量は5重量%、厚さは0.6mmであった。
保水シートは、含水状態のままで、20×50mmの大きさに裁断して、上で述べた十分な量の水を含む状態のまま、試験シートとし、後述の性能評価試験を行った。
【0026】
〔比較例1〕
市販の美容用フェイスマスク「ドライフェイスマスク」(商品名、石井産業株式会社製)を、20×50mmに切り取って用いた。この市販品は、コットン100%の不織布からなる。この不織布シートに、十分な量の水を含浸させて、試験シートとし、後述の性能評価試験を行った。
〔比較例2〕
比較例1と同じ市販品の不織布シートを20×50mmに切り取ったあと、水溶性コラーゲンの0.6%水溶液を十分な量、含浸させて、試験シートとし、後述の性能評価試験を行った。
【0027】
〔比較例3〕
実施例1で得られた保水シートを、凍結乾燥機「Freezone6(製品名、LABCONCO社製)」を用い、3日間かけて凍結乾燥させた。得られた凍結乾燥シートに、もう一度、十分な量の水を含浸させて、試験シートとし、以下の性能評価試験を行った。
〔性能評価試験〕
<保水性能>
含水状態の試料シートを下記の測定環境に放置して、経時的に水分を蒸散させながら、60分経過後に残存する水分量(60分後残存率)を見て、保水性能を評価した。
【0028】
測定環境は、24℃、湿度71%、晴れ、強風の屋外環境であった。
60分後残存率は、試験シートの含水状態における初期の全重量(W)と、60分経過後の全重量(W)と、試料シートを完全に乾燥させたときの乾燥重量(W)から、下式で求めることができる。
60分後残存率(%)=〔(W−W)/(W−W)〕×100
<官能試験>
モニター10名が、各試料シートを肌に貼り付け、10分間保持したあと、剥がし、そのときの使用感を、下記(1) 〜 (5)の項目について、○、△、×の3段階で評価した。3段階の各印は、下記の項目の感覚が、「○:ある。」、「△:ややある。」、「×:なし。」をそれぞれ表す。評価はモニター10名中の多数で決めた。
【0029】
(1) 密着感
(2) しっとり感
(3) 張り感
(4) 透明感
(5) なめらか感
上記各項目中、「密着感」は、試験片貼付け時の皮膚感覚で見ることとし、主として皮膚に対する馴染みに関係し、「しっとり感」は、試験片保持中の皮膚感覚で見ることとし、主として保水性と皮膚に対する馴染みに関係し、「張り感」は、試験片保持中の皮膚感覚で見ることとし、主として保水性と基材のキメの細やかさや整いに関係し、「透明感」は、試験片保持中の視覚的感覚で見ることとし、主として保水性とキメの細やかさや整いに関係し、「なめらか感」は、試験片剥がし時の皮膚感覚で見ることとし、主として基材のキメの細やかさや整いに関係する。
【0030】
評価試験の結果を、下表に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
〔評価〕
本発明の保水シートである実施例1の評価結果を、水を含浸させただけの不織布シートである比較例1、それに水溶性コラーゲンを含浸させた不織布シートである比較例2の各評価結果を対比すれば、本発明の保水シートは、市販品の保水シートに比べて、保水性、皮膚への馴染み、張り感としっとり感のいずれにおいても優れていることが分かる。
実施例1の評価結果と、実施例1の保水シートを凍結乾燥させた比較例3の評価結果とを比べると、実施例1のほうが、密着感、しっとり感、張り感、透明感およびなめらか感のいずれにおいても勝っている。比較例3のこの結果から、本発明品と同じ材料、製造方法で得られたコラーゲンシートであっても、いったん乾燥させてしまうと、その後にいくら吸水させても、元の特性を取り戻すことが難しいことが分かる。このことから、本発明において、成形・凝固によって得られた保水シートであることは、特許文献1、2で従来知られている凍結乾燥コラーゲンシートに比べて、皮膚への馴染み、張り感、しっとり感、そして、保水性のいずれにおいても優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の皮膚用保水シートは、例えば、美容用フェイスマスクに利用できる。顔の皮膚に沿って柔らかく変形して密着し、保水された水分による美容機能を効率的かつ長時間にわたって継続的に発揮させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水状態で皮膚に当てて使用するシートであって、
不溶性コラーゲンの微細物を水に懸濁させた状態で成形し含水状態のまま凝固させてなり、乾燥させることなくして使用に供される、シートである、
ことを特徴とする、皮膚用保水シート。
【請求項2】
前記不溶性コラーゲンが、哺乳類由来のコラーゲンであり、変性温度35〜50℃である、請求項1に記載の皮膚用保水シート。
【請求項3】
前記不溶性コラーゲンの含有量が3〜8重量%である、請求項1または2に記載の皮膚用保水シート。
【請求項4】
保水状態で皮膚に当てて使用するシートの製造方法であって、
不溶性コラーゲンの微細物を3〜8重量%含有する水懸濁液を調製する工程(a)と、
前記水懸濁液をシート状に成形し含水状態のまま凝固させる工程(b)と、
を含む、
ことを特徴とする、皮膚用保水シートの製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)においては、前記水懸濁液を粘度300〜1000Pa・sに調整し、
前記工程(b)においては、前記水懸濁液を、塩化ナトリウム、硫酸ソーダ、硫酸アンモニウム、アンモニアからなる群から選ばれる凝固剤を含有する凝固浴中に、厚さ0.3〜0.8mmのシート状に押出成形して凝固浴中で含水状態のシートを凝固させる、
請求項4に記載の皮膚用保水シートの製造方法。

【公開番号】特開2007−55984(P2007−55984A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246661(P2005−246661)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000190943)新田ゼラチン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】