説明

皮膚用殺菌剤

【目的】皮膚の健康状態を損なわずに、界面活性剤の作用により皮膚を殺菌処理できるようにする。
【構成】皮膚用殺菌剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水と、界面活性剤とを含むものであり、界面活性剤は、例えば脂肪酸塩である。この皮膚用殺菌剤を皮膚に対して適用すると、皮膚に付着若しくは寄生している菌類は、界面活性剤の作用により殺菌される。この際、界面活性剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水の作用のために皮膚へ刺激を与えにくく、皮膚の健康状態を損ないにくい。したがって、この皮膚用殺菌剤は、例えば白癬菌感染症の治療用として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚用殺菌剤、特に、界面活性剤を用いた皮膚用殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、菌類の感染および寄生により、疾患を発症することがある。例えば、カビの一種である白癬菌が寄生した皮膚は、白癬菌感染症(いわゆる水虫)を発症する。このような皮膚疾患症状を改善するための薬剤は、各種のものが提供されているが、いずれのものも強力な殺菌作用を有する化学成分を含むため、この化学成分による副作用が懸念される。
【0003】
一方、石鹸などの界面活性剤が殺菌作用を有することが知られており、そのような界面活性剤を用いた皮膚用殺菌剤が提案されている。この種の皮膚用殺菌剤は、白癬菌感染症などを発症した皮膚に対して適用すると、界面活性剤が菌類を殺菌し、疾患症状を改善することができるが、同時に界面活性剤が皮膚に対して刺激を与え、皮膚を乾燥させて掻痒感や鱗屑(りんせつ)を発症させる場合がある。そこで、界面活性剤を用いた皮膚用殺菌剤において、皮膚への刺激を改善したものが提案されている。例えば、特許文献1には、石鹸よりも低刺激性の界面活性剤、リン酸や炭酸等の緩衝剤および水を含む低刺激性の抗菌性液体洗浄組成物が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特表平10−500962号公報
【0005】
しかし、このような抗菌性液体洗浄組成物は、石鹸よりも低刺激性の界面活性剤を用いる必要があることから界面活性剤の選択範囲に制限があり、また、抗菌剤を併用しないと所要の殺菌作用が期待できない場合もある。
【0006】
本発明の目的は、皮膚の健康状態を損なわずに、界面活性剤の作用により皮膚を殺菌処理できるようにすることにある。
本願において用いる「皮膚」の用語は、粘膜や角膜を含む概念である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の皮膚用殺菌剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水と、界面活性剤とを含んでいる。
【0008】
この皮膚用殺菌剤を皮膚に対して適用すると、皮膚に付着したり寄生したりしている菌類は、界面活性剤の作用により殺菌される。この際、界面活性剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水の作用のために皮膚へ刺激を与えにくく、皮膚の健康状態を損ないにくい。
【0009】
したがって、この皮膚用殺菌剤は、例えば、白癬菌感染症用の治療剤として有効である。
【0010】
本発明の皮膚用殺菌剤において用いられる界面活性剤は、例えば、脂肪酸塩である。特に、不飽和脂肪酸塩が好ましい。不飽和脂肪酸塩としては、例えば、リノール酸、リノレン酸、ミリストレイン酸およびパルミトレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも一つが用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮膚用殺菌剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水と界面活性剤とを含むため、皮膚の健康状態を損なわずに皮膚を殺菌処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の皮膚用殺菌剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水(以下、「機能水」と云う場合がある)と界面活性剤とを含んでいる。
【0013】
本発明において用いられる機能水は、水道水、地下水、河川水、湖沼水および井戸水などの水(原水)を陽イオン交換樹脂により処理し、原水に含まれるカルシウムイオン(二価の陽イオン)、マグネシウムイオン(二価の陽イオン)、銅イオン(二価の陽イオン)、鉄イオン(二価および三価の陽イオン)およびアルミニウムイオン(三価の陽イオン)等をイオン交換樹脂側のナトリウムイオン(一価の陽イオン)と交換して得られるものである。
【0014】
原水を処理するために用いられる陽イオン交換樹脂は、架橋した三次元の高分子の母体、例えばスチレンとジビニルベンゼンとの共重合体に対し、スルホン酸基を導入した合成樹脂であり、スルホン酸基部分がナトリウム塩を形成しているものである。
【0015】
機能水において、多価陽イオンの濃度は、通常、0.2ミリモル/リットル未満に設定されているのが好ましく、実質的なゼロレベルを意味する測定限界未満に設定されているのが特に好ましい。ここで、多価陽イオンの濃度は、ICP発光分光分析法に基づいて測定した場合の濃度を意味する。
【0016】
一方、機能水において、ナトリウムイオンの濃度は、通常、0.3ミリモル/リットル以上500ミリモル/リットル未満に設定されているのが好ましく、0.5ミリモル/リットル以上200ミリモル/未満に設定されているのがより好ましい。ここで、ナトリウムイオンの濃度は、ICP発光分光分析法に基づいて測定した場合の濃度を意味する。
【0017】
本発明において用いられる界面活性剤は、特に限定されるものではなく、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などである。
【0018】
陰イオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩(石けん)、アルキルベンゼンスルホン酸塩、硫酸アルキル塩、α―オレフィンスルホン酸塩およびN−アシルグルタミン酸塩などを挙げることができる。これらの陰イオン系界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0019】
陽イオン界面活性剤としては、例えば、N−アルキルトリメチルアンモニウムクロライドおよびN−アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどを挙げることができる。これらの陽イオン系界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0020】
両性界面活性剤としては、例えば、N−アルキル−β―アラニンおよびN−アルキルカルボキシベタインなどを挙げることができる。これらの両性界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0021】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミドおよび脂肪酸ショ糖エステルなどを挙げることができる。これらの非イオン系界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0022】
本発明において、上述の各種の界面活性剤は、他の種類の界面活性剤と併用することもできる。
【0023】
本発明において用いられる界面活性剤として好ましいものは、脂肪酸塩、特に、炭素数が5〜22の飽和脂肪酸若しくは不飽和脂肪酸のアルカリ金属塩である。飽和脂肪酸のアルカリ金属塩と不飽和脂肪酸のアルカリ金属塩とは併用することもできる。
【0024】
飽和脂肪酸塩は、炭素数が12〜16のものが特に好ましく、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸およびパルミチン酸のナトリウム塩およびカリウム塩を挙げることができる。一方、不飽和脂肪酸塩は、炭素数が14〜18のものが好ましく、炭素間の不飽和結合数の多いものが特に好ましい。このような不飽和脂肪酸の具体例としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸のナトリウム塩およびカリウム塩を挙げることができる。
【0025】
脂肪酸塩としては、皮膚用殺菌剤の殺菌力をより高めることができることから、不飽和脂肪酸塩、特に、リノール酸、リノレン酸、ミリストレイン酸およびパルミトレイン酸の塩、殊にナトリウム塩を用いるのが特に好ましい。
【0026】
本発明の皮膚用殺菌剤において、界面活性剤の使用量は、通常、機能水の1リットル当りの割合が10mg〜400gに設定されているのが好ましく、100mg〜200gに設定されているのがより好ましい。界面活性剤の量が10mg未満の場合は、本発明の皮膚用殺菌剤が効果的な殺菌作用を示さない可能性がある。逆に、400gを超えると、皮膚に界面活性剤が残留しやすくなり、残留した界面活性剤を栄養源として皮膚において却って菌類が繁殖しやすくなる可能性がある。
【0027】
本発明の皮膚用殺菌剤は、上述の機能水および界面活性剤の他に、本発明の目的を損なわない程度において他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、グレープフルーツオイル、スペアミントオイル、ナツメッグオイルおよびマンダリンオイル等の香料や、トコフェロール、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、エリソルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸およびジブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤を挙げることができる。香料や酸化防止剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0028】
本発明の皮膚用殺菌剤は、原水を上述の陽イオン交換樹脂により処理し、それにより得られる機能水に対して界面活性剤および必要に応じて上述の他の成分を適宜添加することで容易に調製することができる。したがって、この皮膚用殺菌剤は、量産が容易であり、安価に製造することができる。
【0029】
本発明の皮膚用殺菌剤を適用可能な皮膚は、粘膜および角膜を含む身体全体の皮膚であり、特に制限されるものではない。皮膚に対する適用方法は、特に限定されるものではないが、通常は皮膚に対して塗布したりスプレーを用いて吹き付けたりするなど、皮膚用殺菌剤により皮膚を十分に湿潤させることができる方法を採用するのが好ましい。また、皮膚用殺菌剤が適用された皮膚は、通常、皮膚用殺菌剤を擦り付けた後に水洗いし、水分を拭取って乾燥させるのが好ましい。この際、皮膚用殺菌剤を水洗いするために用いる水として、上述の機能水を用いるのが好ましい。
【0030】
皮膚に適用された本発明の皮膚用殺菌剤は、皮膚に付着若しくは寄生している菌類を界面活性剤の作用により効果的に殺菌することができる。この際、この皮膚用殺菌剤は、機能水の作用により、界面活性剤が皮膚に対して刺激を与えるのを緩和することができるため、皮膚の乾燥を抑制することができ、皮膚の健康状態を損ないにくい。
【0031】
また、本発明の皮膚用殺菌剤が適用された皮膚は、機能水の作用のため、菌類の栄養源ともなり得る界面活性剤が残留しにくい。特に、皮膚用殺菌剤を適用した後に機能水で水洗いした場合、界面活性剤は皮膚表面に残留しにくい。このため、皮膚用殺菌剤が適用された皮膚は、菌類が繁殖しにくい環境になるため、菌類を原因とする疾患、例えば白癬菌感染症が治癒されやすい。
【0032】
因みに、上述の各種効果は、皮膚に対して本発明の皮膚用殺菌剤を継続的に適用した場合において達成されやすい。
【0033】
上述の実施の形態では、機能水として多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水を用いているが、機能水は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオン、例えばカリウムイオンが付与されたものであってもよい。このような機能水は、上述の陽イオン交換樹脂として、スルホン酸基部分がカリウムなどのアルカリ金属塩を形成しているものを用い、この陽イオン交換樹脂を用いて原水を処理することで得ることができる。
【実施例】
【0034】
実施例1
水に石鹸(三浦工業株式会社製の商品名“軟太郎せっけん”)を溶解し、濃度が0.01重量%の石鹸水(皮膚用殺菌剤)を調製した。ここで用いた水は、愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水であり、多価陽イオンの濃度が0.2ミリモル/リットル未満であり、かつ、ナトリウムイオンの濃度が0.3ミリモル/リットル以上500ミリモル/リットル未満の条件を満たしたものである。
【0035】
実施例2
濃度を0.05重量%に変更した点を除き、実施例1と同様にして石鹸水(皮膚用殺菌剤)を調製した。
【0036】
比較例1
愛媛県松山市の水道水に石鹸(三浦工業株式会社製の商品名“軟太郎せっけん”)を溶解し、濃度が0.01重量%の石鹸水を調製した。
【0037】
比較例2
濃度を0.05重量%に変更した点を除き、比較例1と同様にして石鹸水を調製した。
【0038】
実施例1、2および比較例1、2の評価
実施例1、2および比較例1、2において調製した石鹸水に白癬菌(Trichophyton rubrum NBRC32409)を略30個/ミリリットルになるよう加え、25℃の温度で30日間放置した。この間、石鹸水中の白癬菌数の変化を毎日測定した。結果を図1に示す。参考のため、図1には、実施例1、2で用いた機能水のみに対して同様に白癬菌を加えて菌数の変化を測定した場合(図1に「機能水のみ」と表示)および比較例1、2で用いた水道水のみに対して同様に白癬菌を加えて菌数の変化を測定した場合(図1に「水道水のみ」と表示)の結果を併せて示している。また、白癬菌数は次のようにして測定した。
【0039】
100ミリリットルの三角フラスコに入った白癬菌入りの石鹸水(50ミリリットル)をホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製の商品名“エースホモジナイザー AM−3”)を用いて10,000rpmで5分間攪拌し、菌を解離した後、石鹸水に超音波を当てた。この石鹸水から採取した100マイクロリットルの試料を希釈せずにクロラムフェニコールを含むPDA(ポテトデキストロースアガー)平板培地を用いた平板塗抹法により25℃で5日間培養し、生育する白癬菌の集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、石鹸水に含まれる白癬菌数を下記の式(1)により算出した。
【0040】
【数1】

【0041】
図1によると、実施例1、2の石鹸水は、白癬菌の殺菌効果に優れている。
【0042】
実施例3〜11
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水へ表1に示す脂肪酸ナトリウム塩を加えて溶解し、5mMの脂肪酸ナトリウム塩水溶液(皮膚用殺菌剤)を調製した。この脂肪酸ナトリウム塩水溶液に白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)を略2×104個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、70時間に渡って白癬菌数の変化を測定した。白癬菌数は、次のようにして測定した。振盪後の白癬菌入り脂肪酸ナトリウム塩水溶液から採取した100マイクロリットルの試料を適宜希釈し、それをクロラムフェニコールを含むPDA(ポテトデキストロースアガー)平板培地を用いた平板塗抹法により25℃で5日間培養し、生育する白癬菌の集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、皮膚用殺菌剤に含まれる白癬菌数を下記の式(2)により算出した。結果を図2に示す。
【0043】
【数2】

【0044】
【表1】

【0045】
図2によると、脂肪酸ナトリウム塩水溶液は、炭素数が12〜16の脂肪酸ナトリウム塩を用いた場合に殺菌力が特に強く、また、同じ炭素数の脂肪酸ナトリウム塩であっても不飽和脂肪酸ナトリウム塩、特に、炭素−炭素二重結合数が多い不飽和脂肪酸ナトリウム塩ほど殺菌力が強いことがわかる。
【0046】
実施例12
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水にミリスチン酸ナトリウム塩を加えて溶解し、濃度が5mMの皮膚用殺菌剤を調製した。この皮膚用殺菌剤に黒カビ(Cladosporium sphaerospermum NBRC4460)を略1×105個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、経時的な黒カビの胞子数の変化を測定した。黒カビの胞子数は、次のようにして測定した。先ず、黒カビを含む皮膚用殺菌剤を滅菌リン酸緩衝液で適宜希釈した。そして、その100マイクロリットルをクロラムフェニコールを含むPDA(ポテトデキストロースアガー)平板培地を用いた平板塗抹法により25℃で5日間培養し、生育する黒カビの集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、皮膚用殺菌剤に含まれる黒カビの胞子数を下記の式(3)により算出した。結果を図3に示す。
【0047】
【数3】

【0048】
実施例13
ミリスチン酸ナトリウム塩に替えてリノレン酸ナトリウム塩を用いた点を除いて実施例12と同様に操作し、黒カビの胞子数の経時的な変化を測定した。結果を図3に示す。
【0049】
実施例14
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水にミリスチン酸ナトリウム塩を加えて溶解し、濃度が5mMの皮膚用殺菌剤を調製した。この皮膚用殺菌剤に大腸菌(E.coli NBRC3301)を略1×105個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、経時的な大腸菌数の変化を測定した。大腸菌数は、次のようにして測定した。先ず、大腸菌を含む皮膚用殺菌剤を滅菌リン酸緩衝液で適宜希釈した。そして、その100マイクロリットルを標準寒天培地を用いた平板塗沫法により35℃で3日間培養し、生育する大腸菌の集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、皮膚用殺菌剤に含まれる大腸菌数を下記の式(4)により算出した。結果を図4に示す。
【0050】
【数4】

【0051】
実施例15
ミリスチン酸ナトリウム塩に替えてリノレン酸ナトリウム塩を用いた点を除いて実施例14と同様に操作し、大腸菌数の経時的な変化を測定した。結果を図4に示す。
【0052】
実施例16
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水にミリスチン酸ナトリウム塩を加えて溶解し、濃度が5mMの皮膚用殺菌剤を調製した。この皮膚用殺菌剤に黄色ブドウ球菌(S.aureus NBRC13276)を略1×105個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、経時的な黄色ブドウ球菌数の変化を測定した。黄色ブドウ球菌数は、次のようにして測定した。先ず、黄色ブドウ球菌を含む皮膚用殺菌剤を滅菌リン酸緩衝液で適宜希釈した。そして、その100マイクロリットルを標準寒天培地を用いた平板塗沫法により35℃で3日間培養し、生育する黄色ブドウ球菌の集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、皮膚用殺菌剤に含まれる黄色ブドウ球菌数を下記の式(5)により算出した。結果を図5に示す。
【0053】
【数5】

【0054】
実施例17
ミリスチン酸ナトリウム塩に替えてリノレン酸ナトリウム塩を用いた点を除いて実施例16と同様に操作し、黄色ブドウ球菌数の経時的な変化を測定した。結果を図5に示す。
【0055】
実施例18
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水にリノール酸ナトリウム塩を加えて溶解し、濃度が1mMの皮膚用殺菌剤を調製した。この皮膚用殺菌剤に白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)を略1×104個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、経時的な白癬菌数の変化を測定した。白癬菌数は、実施例3〜11と同様の方法により測定した。結果を図6に示す。
【0056】
実施例19
リノール酸ナトリウム塩に替えてリノレン酸ナトリウム塩を用いた点を除いて実施例18と同様に操作し、白癬菌数の経時的な変化を測定した。結果を図6に示す。
【0057】
比較例3
機能水に替えて愛媛県松山市の水道水をそのまま用いた点を除いて実施例18と同様に操作し、白癬菌数の経時的な変化を測定した。結果を図6に示す。
【0058】
比較例4
機能水に替えて愛媛県松山市の水道水をそのまま用いた点を除いて実施例19と同様に操作し、白癬菌数の経時的な変化を測定した。結果を図6に示す。
【0059】
実施例20
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた、多価陽イオンの濃度が0.2ミリモル/リットル未満であり、かつ、ナトリウムイオンの濃度が0.3ミリモル/リットル以上500ミリモル/リットル未満の条件を満たした機能水にリノール酸カリウム塩(和光純薬工業株式会社製のリノール酸2ミリリットルを水酸化カリウムでけん化したもの)を溶解し、全量が20ミリリットルの皮膚用殺菌剤を調製した。そして、この皮膚用殺菌剤を用い、予め手指の常在菌の菌数を測定した5名の被験者が手洗いした。手洗いは、日本食品衛生協会が推奨している日常手洗い方法に従って行い、濯ぎ用の水として上述の機能水を用いた。手洗いから1時間後に手指の常在菌数を測定し、常在菌の減少率を調べた結果を表2に示す。表2に示した結果は、5名の被験者の平均値である。手指の常在菌は、グローブジュース法により採取して測定した。
【0060】
比較例5
機能水に替えて愛媛県松山市の水道水を用い、実施例20と同様の皮膚用殺菌剤を調製した。そして、この皮膚用殺菌剤を用い、実施例20と同じ5名の被験者が同実施例と同じ方法で手洗いし(但し、濯ぎ用の水には愛媛県松山市の水道水を用いた)、手指の常在菌の減少率を調べた。結果を表2に示す。表2に示した結果は、5名の被験者の平均値である。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例21
皮膚用殺菌剤を毎日用いて4週間に渡って入浴した8名の被験者について、皮膚の状況を調べた。被験者は、年齢が30歳から47歳の女性(平均年齢36.9歳)である。各被験者が用いた皮膚用殺菌剤は、水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた、多価陽イオンの濃度が0.2ミリモル/リットル未満であり、かつ、ナトリウムイオンの濃度が0.3ミリモル/リットル以上500ミリモル/リットル未満の条件を満たした機能水に、表3に示す洗浄剤を溶解したものである。
【0063】
【表3】

【0064】
入浴時には、皮膚用殺菌剤を用いて身体を洗い、その後、上述の機能水のみで皮膚用殺菌剤を洗い流すとともに、上述の機能水のみを沸かした浴槽に漬かるようにした。
【0065】
<評価A>
被験者全員の角層水分量、肌弾性およびキメ密度の各項目を下記の方法により測定し、各項目の平均値を試験開始日、試験開始2週間後および試験開始4週間後で比較した。
【0066】
(角層水分量)
角層水分量測定装置(Courage+Khazaka社製の商品名“Corneometer CM825”)を用いて皮膚の電気的特性、すなわち皮膚表面のキャパシタンス(電器容量)を測定し、角層水分量を計測した。計測は3回実施し、平均値を測定値とした。結果を図7に示す。
【0067】
(肌弾性)
吸引口を備えた測定プローブ、すなわち陰圧吸引装置および圧センサー並びにそれらを操作したりデータ処理したりするコンピュータを備えた肌弾性測定装置(Courage+Khazaka社製の商品名“Cutometer SEM575”)を用いて測定した。この測定では、プローブを皮膚表面に当てて計測を開始すると、プローブ吸引口に陰圧がかかり、同部の皮膚が吸引口に吸引される。そして、吸引された皮膚の高さを光センサーが摩擦や機械的作用を生じることなく非接触的に測定する。計測は4回実施し、平均値を測定値とした。結果を図8に示す。
【0068】
(キメ密度)
ファインオプト社製の商品名“マイクロスコープVI−27”を用いて取得した皮膚のカラー画像に対し、キメの分布状況を評価することを目的とした画像解析ソフト(Inforward社製の商品名“皮溝解析ソフト”)を適用して測定した。具体的には、取得したカラー画像に対し、上記画像解析ソフトにより画像処理を施すことによってキメ部位を強調抽出し、キメ部分の長さの総合計(単位は「pixel」)を求めた。その結果を図9に示す。キメ密度は、取得したカラー画像面積におけるキメの長さの割合(%)であり、実質的に「キメの長さ(pixel)」=「キメ密度(%)」の関係にある。
【0069】
<評価B>
評価Aの各項目を測定したのと同じ日において、医師の診断により、各被験者の皮膚の乾燥状況および鱗屑の有無を評価した。結果を表4に示す。表4において、各項目の評価基準は次の通りである。
【0070】
(乾燥状況)
なし:症状が見られない。
軽微:わずかに症状が見られる。
軽度:少し症状が見られる。
中程度:明らかな症状が見られる。
重度:著しい症状が見られる。
【0071】
(鱗屑の有無)
なし:症状が見られない。
軽微:わずかに症状が見られる。
軽度:少し症状が見られる。
中程度:明らかな症状が見られる。
重度:著しい症状が見られる。
【0072】
【表4】

【0073】
<評価C>
評価Aの各項目を測定したのと同じ日において、医師の診断により、被験者各自が感じる皮膚の掻痒感を判定した。結果を表5に示す。表5において、掻痒感の評価基準は次の通りである。
【0074】
なし:症状が見られない。
軽微:わずかに症状が見られる。
軽度:少し症状が見られる。
中程度:明らかな症状が見られる。
重度:著しい症状が見られる。
【0075】
【表5】

【0076】
<評価D>
試験開始前と試験終了後において各被験者に対して実施した、各自の肌の自己評価に関するアンケート結果を表6に示す。
【0077】
【表6】

【0078】
評価A〜Dの結果は、皮膚用殺菌剤を用いて継続的に入浴した場合、皮膚の健康状態が損なわれにくく、むしろ改善する傾向にあることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1、2および比較例1、2の評価の結果を示すグラフ。
【図2】実施例3〜11の結果を示すグラフ。
【図3】実施例12、13の結果を示すグラフ。
【図4】実施例14、15の結果を示すグラフ。
【図5】実施例16、17の結果を示すグラフ。
【図6】実施例18、19および比較例3、4の結果を示すグラフ。
【図7】実施例21の評価Aにおいて角層水分量を計測した結果を示すグラフ。
【図8】実施例21の評価Aにおいて肌弾性を計測した結果を示すグラフ。
【図9】実施例21の評価Aにおいてキメ密度を計測した結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水と、
界面活性剤と、
を含む皮膚用殺菌剤。
【請求項2】
白癬菌感染症用である、請求項1に記載の皮膚用殺菌剤。
【請求項3】
前記界面活性剤が脂肪酸塩である、請求項1または2に記載の皮膚用殺菌剤。
【請求項4】
前記脂肪酸塩が不飽和脂肪酸塩である、請求項3に記載の皮膚用殺菌剤。
【請求項5】
前記不飽和脂肪酸塩がリノール酸塩、リノレン酸塩、ミリストレイン酸塩およびパルミトレイン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項4に記載の皮膚用殺菌剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−106022(P2008−106022A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292518(P2006−292518)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】