説明

皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤および角化細胞遊走・増殖促進剤

【課題】皮膚の老化防止および皮膚症状の改善に効果のあるタンパク質の産生を促進する作用および角化細胞の遊走および/または増殖を促進する作用を有する化合物を有効成分とする薬剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤および角化細胞遊走・増殖促進剤は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガンマ−グルタミルトランスペプチターゼ(γ-Glutamyltranspeptidase:GGT)阻害活性に基づき、皮膚線維芽細胞におけるタンパク質の産生を活性化する作用、並びに皮膚の角化細胞の遊走および/または増殖を促進する作用を有する成分を含有する、皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤および角化細胞遊走・増殖促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮(上層)と真皮(下層)とに分かれている。表皮は、皮膚の最外層を形成し、皮膚からの水分の蒸散を防ぎ、外界からの物理的刺激および化学的刺激から生体を保護する役割を果たしている。表皮を構成する角化細胞(「ケラチノサイト」とも称する。)は、表皮の最下層に存在する。角化細胞は、真皮との境界を構成する基底膜において細胞増殖を繰り返しながら、表皮の外側(上層)へと移動していき、最後は表皮の最上層にある角層となって脱落する。角化細胞は、このサイクルを1ヶ月にわたって繰り返しながら緻密な表皮を形成する。
【0003】
これに対して、真皮は、主に線維芽細胞、線維組織、および弾性組織から構成される厚い層である。真皮に存在する線維芽細胞(「皮膚由来線維芽細胞」または「皮膚線維芽細胞」と称する。)は、コラーゲンやエラスチンといった線維状で親水的なタンパク質を産生し、これらのタンパク質が、皮膚に弾力性や強さを与えることによって、張りや艶のあるみずみずしい肌の状態が保たれる。
【0004】
また、皮膚線維芽細胞は、ヒートショックプロテイン47(Heat shock protein 47:HSP47)も産生する。HSP47は、皮膚線維芽細胞によって産生されたコラーゲン線維が三重螺旋を形成し、成熟コラーゲンとなることを助ける働きを担っている。
【0005】
しかしながら、紫外線の照射や乾燥等の外的因子の影響、または加齢によって、表皮および真皮の上記機能が低下し、その結果、皮膚の状態が損なわれる場合がある。
【0006】
例えば、加齢等によって、ケラチノサイトの遊走・増殖能が低下すると、表皮を構成する細胞のターンオーバーが滞り、その結果として、皮膚の新陳代謝の促進、皮膚のバリア機能等が低下し、しわ、肌荒れ等の症状を呈するようになる。
【0007】
また、紫外線の照射や乾燥等の外的因子の影響、または加齢によって、皮膚線維芽細胞におけるコラーゲンやエラスチンの産生量が減少すると、皮膚のバリア機能が低下し、保湿機能や弾力性がそこなわれ、その結果として、皮膚の張りや艶がなくなり、しわ、たるみ等の症状を呈するようになる。
【0008】
皮膚の加齢変化に見られるしわ・たるみ等の発生は、外見上の老化現象の主たるものであり、多くの中高齢者にとって切実な問題となっている。従来、このような皮膚症状を改善する方法としては、コラーゲンおよびその分解物ペプチドを配合した化粧料を肌に直接塗布することが主流であった。しかし、このような化粧料は、一過性に皮膚表面の保湿性を補うものであることから、十分な皮膚症状の改善効果を発揮するものではなかった。
【0009】
かかる状況の中で、皮膚の張りおよび艶の維持、皮膚の保湿機能の改善等を含む皮膚の老化防止および/または皮膚症状の改善を目的として、皮膚のコラーゲン量を増加させる化粧料の開発が進められてきた。例えば、天然物由来の抽出物が、I型コラーゲン産生促進作用を有することが報告され(特許文献1および2)、真皮細胞外マトリクスを構成するコラーゲン合成を刺激する作用を有する成分として、アスコルビン酸等を含有させたものなどが報告されている(特許文献3)。また、本発明者らは、皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生量が、該皮膚線維芽細胞内のグルタチオン量の一過性で微弱な減少と関連して増加してくることを見出し、この機序によってコラーゲン産生を亢進する活性を有する化合物群について報告している(特許文献4)。また、しわを減少させるなど老化防止有効成分として大きなマーケットシェアを有する市販のペプチド誘導体(マトリキシル(登録商標)またはマトリキシル3000)は、皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生を亢進させることが報告されている(特許文献5〜8)。マトリキシル(登録商標)はpalmitoyl-pentapeptide 3であり、マトリキシル3000はpalmitoyl oligopeptide(Pal-GHK)とpalmitoyl tetrapeptide-7(Pal-GQPR)との混合物である。
【0010】
一方、細胞内のグルタチオンを分解する酵素として、GGTが知られている。GGTは、細胞外の主なシステイン(Cys)のプールであるグルタチオンを分解し、グルタチオン生合成に必要なCysを細胞に供給する酵素として重要な役割をはたし、その阻害剤は、細胞のグルタチオン量を制御する生理作用があると考えられる。本発明者らは、高い活性ならびに高い選択性を有するGGT阻害剤について、特許文献9および非特許文献1に報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−186471号公報(2007年 7月26日公開)
【特許文献2】特開2007−302607号公報(2007年11月22日公開)
【特許文献3】特開2004−075646号公報(2004年 3月11日公開)
【特許文献4】特開2006−151860号公報(2006年 6月15日公開)
【特許文献5】国際公開第00/43417パンフレット(2000年 7月27日公開)
【特許文献6】特表2002−524487号公報(2002年 8月 6日公表)
【特許文献7】米国特許第6492326号明細書(2002年12月10日公開)
【特許文献8】米国特許出願公開2004/0132667号明細書(2004年 7月 8日公開)
【特許文献9】国際公開第2007/066705号パンフレット(2007年 6月14日公開)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Han et al., Biochemistry 46, 1432-1447 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1〜4において開示された皮膚症状を改善する様々な物質および皮膚組成物は、いずれも真皮の構成成分の一つであるコラーゲンの産生を亢進させることのみに着目したものである。
【0014】
また、市販のマトリキシル(登録商標)またはマトリキシル3000の効果はコラーゲン産生の促進に限定され、老化防止効果のある他のタンパク質の産生や角化細胞の増殖に与える影響については報告されていない。
【0015】
上述したように、真皮は、コラーゲンだけでなく、エラスチン等を含む複数のタンパク質や細胞から構成されている。さらに、皮膚状態は、表皮と真皮が共にそれぞれの構造および機能を維持することによって保たれている。従って、皮膚の張りおよび艶の維持、皮膚の保湿機能の改善等を含む皮膚の老化防止または皮膚症状の改善のためには、コラーゲン以外の有用な複数のタンパク質の産生を亢進させる機能や皮膚の細胞の増殖を亢進させる機能等を有し、相加的(相乗的)に皮膚の老化防止効果または皮膚症状の改善効果をもたらすことができる薬剤のさらなる開発が必要である。
【0016】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、皮膚の老化防止および皮膚症状の改善に効果のある複数のタンパク質の産生を促進する作用および角化細胞の遊走および/または増殖を促進する作用を有する化合物を有効成分とする薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決することを主な目的として、種々の検討を重ねた結果、選択的GGT阻害剤が、(i)皮膚線維芽細胞のエラスチン産生量、HSP47産生量、α−平滑筋アクチン(α−SMA)、および成熟コラーゲン産生量を増加させること、(ii)皮膚線維芽細胞を活性化させ得ること、並びに(iii)角化細胞の遊走および/または増殖を促進させ得ること等の新規機能を有することを発見し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とするものである。また、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤は、エラスチン、HSP47、α−SMAおよび成熟コラーゲンからなる群から選択される1以上のタンパク質の産生を促進するものである。
【0019】
本発明の角化細胞遊走・増殖促進剤は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とするものである。
【0020】
本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤において、上記γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物は、脱離基を有するホスホン酸ジエステル誘導体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤は、それぞれ、GGTを阻害する化合物(GGT阻害剤)を有効成分とするものである。
【0022】
本GGT阻害剤は、皮膚線維芽細胞において、肌の張りやみずみずしさに影響を与えるエラスチン、コラーゲンの成熟を助けるHSP47、皮膚線維芽細胞の活性化の指標であるα−SMA、および成熟コラーゲンのタンパク質の産生を同時に亢進させることができる。また、表皮を形成する角化細胞の遊走および/または増殖を促進させることができる。
【0023】
それゆえ、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤を用いれば、真皮中のエラスチン量、HSP47量、α−SMA量および成熟コラーゲン量を増加させて皮膚の張りや弾力性を高めると共に、表皮のターンオーバーを促進させて皮膚の新陳代謝を促進し、皮膚のバリア機能を維持改善することができ、その結果として、相加的(相乗的)に、皮膚の老化防止効果または皮膚症状の改善効果をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例において得られたヒト皮膚由来線維芽細胞の細胞内エラスチン量の測定結果を示す図面であり、(a)はウエスタンブロットの結果を表す図であり、(b)は、ウエスタンブロットのバンドの濃さを定量的に解析した結果を示すグラフである。
【図2】実施例において得られたヒト皮膚由来線維芽細胞の細胞内α−SMA量の測定結果を示す図面であり、(a)はウエスタンブロットの結果を表す図であり、(b)は、ウエスタンブロットのバンドの濃さを定量的に解析した結果を示すグラフである。
【図3】実施例において得られたヒト皮膚由来線維芽細胞の細胞内HSP47量の測定結果を示す図面であり、(a)はウエスタンブロットの結果を表す図であり、(b)は、ウエスタンブロットのバンドの濃さを定量的に解析した結果を示すグラフである。
【図4】実施例において得られたヒト角化細胞の遊走・増殖能の促進におよぼすGGT阻害剤の影響を示す図である。
【図5】実施例において得られたヒト皮膚由来線維芽細胞の細胞内成熟コラーゲン量の測定結果を示す図面であり、(a)はウエスタンブロットの結果を表す図であり、(b)は、ウエスタンブロットのバンドの濃さを定量的に解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態の一例について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0026】
本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤および本発明の角化細胞遊走・増殖促進剤は、有効成分としてGGTを阻害する化合物(GGT阻害剤)を含有している。本明細書において上記「皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤」とは、「皮膚線維芽細胞におけるタンパク質の産生を促進する組成物」を意図している。また、本明細書において上記「角化細胞遊走・増殖促進剤」とは、「角化細胞の遊走および/または増殖を促進する組成物」を意図している。
【0027】
本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤は、皮膚線維芽細胞におけるエラスチンタンパク質、HSP47タンパク質、α−SMAタンパク質および成熟コラーゲンタンパク質の産生を著明に促進させることができる。従って、本発明の「皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤」は、「皮膚線維芽細胞のエラスチン産生促進剤」、「皮膚線維芽細胞のHSP47産生促進剤」、「皮膚線維芽細胞のα−SMA産生促進剤」、または「皮膚線維芽細胞の成熟コラーゲン産生促進剤」と読み替えることもできる。
【0028】
なお、本明細書において上記「皮膚線維芽細胞のエラスチン産生促進剤」とは、「皮膚線維芽細胞におけるエラスチンの産生を促進する組成物」を意図している。また、上記「皮膚線維芽細胞のHSP47産生促進剤」とは、「皮膚線維芽細胞におけるHSP47の産生を促進する組成物」を意図している。また、上記「皮膚線維芽細胞のα−SMA産生促進剤」とは、「皮膚線維芽細胞におけるα−SMAの産生を促進する組成物」を意図している。また、上記「皮膚線維芽細胞の成熟コラーゲン産生促進剤」とは、「皮膚線維芽細胞における成熟コラーゲンの産生を促進する組成物」を意図している。
【0029】
ここで、上記「成熟コラーゲン(mature collagen)」とは、前駆体コラーゲン(precursor collagen)が凝集し、さらに分子内および分子外で架橋された分子量70〜90kDaのコラーゲンタンパク質を指す。「コラーゲンの成熟」は、前駆体コラーゲンが架橋されることを指す。
【0030】
つまり、「皮膚線維芽細胞における成熟コラーゲンの産生を促進する」とは、言い換えれば「皮膚線維芽細胞におけるコラーゲンの成熟を促進する」ともいえる。従って、上記「皮膚線維芽細胞の成熟コラーゲン産生促進剤」は、「皮膚線維芽細胞のコラーゲン成熟促進剤」とも言換え可能である。
【0031】
本発明において、「皮膚線維芽細胞におけるタンパク質の産生を促進する」とは、同一の方法で同時に測定した場合に、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤を適用しないコントロールの皮膚線維芽細胞と比較して、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤を適用した皮膚線維芽細胞におけるタンパク質の産生量が1.1倍以上に増加することを意味している。本発明において、「皮膚線維芽細胞におけるエラスチンの産生を促進する」、「皮膚線維芽細胞におけるHSP47の産生を促進する」、「皮膚線維芽細胞におけるα−SMAの産生を促進する」、および「皮膚線維芽細胞における成熟コラーゲンの産生を促進する」についても、同じ意味である。皮膚線維芽細胞におけるタンパク質量の測定方法については従来公知の手法を好適に利用できる。後述する実施例に示すように、例えば、ウエスタンブロッティング法によって皮膚線維芽細胞におけるタンパク質量を測定することができる。
【0032】
後述する実施例に示すように、GGT阻害剤は、単独で、皮膚線維芽細胞において、肌の張りやみずみずしさを保つ働きを有するエラスチンのタンパク質産生、コラーゲンの成熟を助ける働きを有するHSP47のタンパク質産生、皮膚線維芽細胞の活性化の指標であるα−SMAのタンパク質産生、および成熟コラーゲンのタンパク質産生を亢進させることができる。これにより、皮膚の老化防止・改善、具体的には、皮膚の張り、艶の維持改善によるしわ・たるみの防止・改善、または皮膚の保湿機能の維持改善等において有効な作用を発揮する。
【0033】
さらには、上記GGT阻害剤は、皮膚の角化細胞の遊走および/または増殖を促進させることもできる、皮膚の角化細胞の遊走および/または増殖を促進させる作用を有するものである。これにより、皮膚の角化細胞の遊走および/または増殖を著明に促進する作用を有し、皮膚の新陳代謝の促進、皮膚のバリア機能の維持改善等において有効な作用を発揮する。
【0034】
本発明において、「角化細胞の遊走および/または増殖を促進する」とは、同一の方法で同時に測定した場合に、本発明の角化細胞遊走・増殖促進剤を適用しないコントロールの角化細胞と比較して、本発明の角化細胞遊走・増殖促進剤を適用した角化細胞の遊走・増殖能が1.1倍以上向上することを意味している。角化細胞の遊走・増殖能の測定方法については従来公知の手法を好適に利用できる。後述する実施例に示すように、例えば、コンフルエント状態になるまで培養した角化細胞を、ピペットチップを用いて直線状に掻きとり、スクラッチ箇所の修復程度を測定することによって、角化細胞の遊走・増殖能を測定することができる。
【0035】
つまり、上記GGT阻害剤は、単独で、皮膚の張り、弾力性、保湿機能等を高めると共に、表皮のターンオーバーを促進させて皮膚の新陳代謝を促進し、皮膚のバリア機能を維持改善することができる。従って、上記GGT阻害剤を有効成分として含有している本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤および本発明の角化細胞遊走・増殖促進剤を用いれば、相加的(相乗的)に、皮膚の老化防止効果または皮膚症状の改善効果をもたらすことができる。
【0036】
以下、本発明の具体的な実施態様の一例について説明する。
【0037】
本発明において用いるGGT阻害剤としては、酵素選択性が高く、不可逆的な阻害活性を発揮することを特徴とするホスホン酸ジエステル誘導体群(特許文献9)も使用することができる。このホスホン酸ジエステル誘導体群は、特に生体毒性が低いため、好ましく使用できる。
【0038】
具体的には、例えば、以下に示すホスホン酸ジエステル誘導体群を好適に用いることができる。
【0039】
1.一般式(1)
【0040】
【化1】

【0041】
(式中、R1およびR2の少なくとも一方が脱離基を表す。)で示される、ホスホン酸ジエステル誘導体。
【0042】
2.上記一般式(1)
(式中、R1およびR2の少なくともいずれか一方が一般式(2)〜一般式(6)
【0043】
【化2】

【0044】
(式中、R3が置換基を有していてもよいアリール基、および置換基を有していてもよい複素環残基のいずれかであり、R4,R5,R6,R7,R8およびR9のそれぞれが、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、および電子吸引基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基であり、R4〜R8の置換基のうち隣接する2つの置換基が互いに結合して環を形成してもよい。)のいずれかを表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0045】
3.上記一般式(1)
(式中、R1がOR10であり、R2がOR11であり、R10およびR11が水素原子を除く。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0046】
4.上記3に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、R10が、置換基を有していてもよいアルキル基、および置換基を有していてもよいアリール基のいずれかであり、R11が置換基を有していてもよいアリール基であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0047】
5.上記4に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、上記置換基を有していてもよいアルキル基の置換基が、置換基を有していてもよいフェニル基、窒素を有する複素環残基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、ヒドロキシ基、カルバモイル基、アミノ基、グアニジノ基、アルコキシ基、アミド基、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体からなる群より選択される少なくとも1つの基であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0048】
6.上記4に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、上記R10の置換基を有していてもよいアルキル基が、一般式(7)
【0049】
【化3】

【0050】
(式中、R12が、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基および水素原子のいずれかを表し、R13が、水素原子および一般式(8)
【0051】
【化4】

【0052】
(式中、n1が0〜4の整数を、n2が0および1のいずれかを、n3が0〜4の整数を、X1がアミド基およびアルケニル基のいずれかを、X2がカルボキシ基、およびカルボキシ基の等価体のいずれかを、R14が水素原子および低級アルキル基のいずれかを表す。)のいずれかを表す。)であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0053】
7.上記5または6に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体が、−COOR、−CONR、−COR、−CN、−NO、−NHCOR、−OR、−SR、−OCOR、−SOR、および−SONRからなる群より選択される少なくとも1つの基であり、Rが水素原子およびアルキル基のいずれかであるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0054】
8.上記6に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、上記R12の置換基を有していてもよいアルキル基の置換基が、置換基を有していてもよいフェニル基、窒素を有する複素環残基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アミノ基、グアニジノ基、アルコキシ基、およびアミド基からなる群より選択される少なくとも1つの基であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0055】
9.上記4に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、上記置換基を有していてもよいアリール基の置換基が、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体のいずれかにより置換されていてもよいアルキル基、電子吸引基、カルボキシ基、およびカルボキシ基の等価体からなる群より選択される少なくとも1つの基であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0056】
10.上記置換基を有してもよいアリール基が、置換基を有してもよいフェニル基である上記4に示すホスホン酸ジエステル誘導体。
【0057】
11.上記10に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、上記置換基を有してもよいフェニル基が、一般式(9)
【0058】
【化5】

【0059】
(式中、Y1が、−R’、−OR’、および電子吸引基からなる群より選択される1つの基を表し、Y2が、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体のいずれかで置換されていてもよく、かつ二重結合を有していてもよいアルキル基、水素原子、カルボキシ基、ならびにカルボキシ基の等価体からなる群より選択される1つの基を表し、隣接する2つの置換基Y1とY2とが互いに結合して環を形成してもよく、R’が水素原子、および二重結合を有していてもよいアルキル基のいずれかを表す。)であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0060】
12.上記9または11に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、電子吸引基が、ハロゲン原子、−COOR’、−CONR’、−COR’、−OCOR’、−CF、−CN、−SR’、−S(O)R’、−SOR’、−SONR’、−PO(OR’)、および−NOからなる群より選択される少なくとも1つの基であり、R’が上記と同じ意味を表すホスホン酸ジエステル誘導体。
【0061】
13.上記9または11に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体が、−COOR”、−CONR”、−COR”、−CN、−NO、−NHCOR”、−OR”、−SR”、−OCOR”、−SOR”、−SONR”からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、R”が水素原子および二重結合を有していてもよいアルキル基のいずれかであるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0062】
14.一般式(10)
【0063】
【化6】

【0064】
(式中、R12,R14,X2,Y1およびn3は上記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0065】
15.一般式(11)
【0066】
【化7】

【0067】
(式中、R12,R14,X2,Y1,n1およびn3は上記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0068】
16.一般式(12)
【0069】
【化8】

【0070】
(式中、R15が低級アルキル基を表し、Wが一般式(13)〜一般式(16)
【0071】
【化9】

【0072】
のいずれかを表し、R16が水素原子および低級アルキル基のいずれかを表し、Y1およびY2が上記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0073】
17.一般式(17)
【0074】
【化10】

【0075】
(式中、R12およびY1は上記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0076】
18.一般式(18)
【0077】
【化11】

【0078】
(式中、Y1およびY2は上記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0079】
19.一般式(19)
【0080】
【化12】

【0081】
(式中、Mがアルカリ金属を表し、R17が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を含むアルコキシカルボニル基を表す。)で示される2−置換アミノ−4−ホスホノブタン酸の金属塩。
【0082】
20.一般式(20)
【0083】
【化13】

【0084】
(式中、R18が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R17が上記と同じ意味を表す。)で示される2−置換アミノ−4−ホスホノブタン酸エステル。
【0085】
なお、上記1〜20に示すホスホン酸ジエステル誘導体の詳細な製造方法や諸性質については特許文献9に開示されている。本発明ではこの特許文献9の記載を必要に応じて援用でき、またこの特許文献9の記載内容は本発明に適宜利用できることを付言する。つまり、この特許文献9の開示内容も本発明の一部であり、特許文献9の記載内容に基づき補正することも可能である。
【0086】
なかでも特に、上記一般式(12)において、Wが一般式(13)または(15)であるホスホン酸ジエステル誘導体は、特許文献9の実施例にて実際に合成され、かつGGT阻害活性も確認されており好ましい。
【0087】
また上記ホスホン酸ジエステル誘導体は、脱離基がリン酸基から脱離することでGGT活性を発揮することが本発明者らの研究で確認されている。つまり、脱離基が脱離しやすい程、GGT活性が向上する。しかし、この脱離基の脱離しやすさは、化合物の安定性とも関連するため、一概に脱離しやすい脱離基を有する化合物が好ましいとはいえない。この脱離基の脱離しやすさと安定性とのバランスが優れる化合物の例示として、上記1〜20のホスホン酸ジエステル誘導体を挙げることができ、上記一般式(12)において、R15が一般式(13)または(15)であるホスホン酸ジエステル誘導体がより好ましく、さらに2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸が特に好ましい。
【0088】
また、上記ホスホン酸ジエステル誘導体には単体および混合物のみならず、光学異性体が含まれていてもよい。例えば、実施例で用いている2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸であれば、2つのキラル中心が存在するため、合計4種の光学異性体の混合物である。
【0089】
本発明のGGT阻害活性による皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤は、皮膚の張り、艶の維持改善によるしわ・たるみの防止・改善用として、または紫外線ダメージ(光老化)の防止・改善、あるいは皮膚の保湿機能の維持改善用といった皮膚用剤用組成物として皮膚に塗布して使用できるほか、パップ剤、化粧料、浴用剤、ときに皮下注射用剤としての剤形も目的に応じて任意に選択することができる。特に、好適には化粧料として広く利用することが可能で、クリーム、軟膏、乳液、溶液、ゲル、粉剤、顆粒剤等の剤形やパック、ローション、パウダー、スティック等の形態とすることができる。その製剤形態も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2相系、水−油−粉末3相系等、幅広い形態とすることができる。すなわち、基礎化粧料であれば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック、マスク等の形態に、上記の多様な剤形において広く利用可能である。また、メーキャップ化粧料であれば、ファンデーション等、トイレタリー製品としてはボディーソープ、石けん等の形態に広く利用可能である。さらに、医薬品等としては、各種の軟膏剤、クリーム剤等の形態に広く利用が可能である。そして、これらの剤形および形態に、本発明のGGT阻害活性による皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤および角化細胞遊走・増殖促進剤の製剤形態が限定されるものではない。
【0090】
本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤におけるGGT阻害剤の配合量は特に限定するものではなく、配合する剤形の種類、性状、品質、期待する効果の程度により異なるが、例えば、0.00001〜50.0重量%、より好ましくは0.00005〜10.0重量%、さらには0.0005〜1.0重量%が特に好ましい。特に、GGT阻害剤をリポソーム化する等して、浸透促進を行なう場合、より少ない配合量でも効果が期待できる。
【0091】
一実施形態において、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤がin vitroで皮膚線維芽細胞に適用される場合、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤におけるGGT阻害剤の配合量は、0.00033重量%である。他の実施形態において、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤がin vivoでヒトの肌に適用される場合、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または角化細胞遊走・増殖促進剤におけるGGT阻害剤の配合量は、0.00053重量%〜0.0053重量%である。
【0092】
本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤および角化細胞遊走・増殖促進剤には、GGT阻害剤以外に、通常化粧料や医薬品等の皮膚用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養・ビタミン剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0093】
その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等のキレート剤、カフェイン、タンニン、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体または、その塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の他の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0094】
また、例えば、油脂類として、オリーブ油、アボカド油、パーム油、ヤシ油、硬化ヒマシ油等の植物油脂、牛脂、豚脂等の動物油脂を利用できる。また、ロウ類としては、例えば、ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ、ラノリンなどが挙げられる。鉱物油としては、例えば、流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、スクワレン、スクワランなどが挙げられる。例えば、脂肪酸類としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの天然脂肪酸のほか、イソノナン酸、カプロン酸などの合成脂肪酸も利用できる。
【0095】
また、アルコール類として、エタノール、イソプロパノールなどの天然アルコール、2−ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノールなどの合成アルコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、バチルアルコール、ペンタエリトリトール、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、ショ糖などの多価アルコール類なども利用できる。
【0096】
その他、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル類、ステアリン酸アルミニウム等の金属セッケン、ガム質や水溶性高分子化合物として、アラビアゴム、カラギーナン、ゼラチン、アルギン酸およびその塩、ヒアルロン酸およびその塩、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなど配合してもよい。
【0097】
界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤)、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、動物あるいは植物、生薬の抽出物やエキス、微生物培養代謝物、α−ヒドロキシ酸、無機顔料、紫外線吸収剤、収斂剤、殺菌・消毒薬、頭髪用剤、香料、色素・着色剤、その他、ホルモン類、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、キレート剤、防腐・防バイ剤、清涼剤、安定化剤、乳化剤、動・植物性タンパク質およびその分解物、動・植物性多糖類およびその分解物、動・植物性糖タンパク質およびその分解物、血流促進剤、消炎剤・抗アレルギー剤、細胞賦活剤、角質溶解剤、創傷治癒剤、増泡剤、増粘剤、口腔用剤、消臭・脱臭剤、苦味料、調味料、酵素なども利用可能である。
【0098】
なお、上述した本発明の実施態様において、皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤は、GGT阻害剤を用いて皮膚線維芽細胞のタンパク質産生を促進する方法、あるいは皮膚線維芽細胞のタンパク質産生の促進のためのGGT阻害剤の使用と読み替えることもできる。
【0099】
また、皮膚線維芽細胞のエラスチン産生促進剤は、GGT阻害剤を用いて皮膚線維芽細胞のエラスチン産生を促進する方法、あるいは皮膚線維芽細胞のエラスチン産生の促進のためのGGT阻害剤の使用と読み替えることもできる。
【0100】
また、皮膚線維芽細胞のHSP47産生促進剤は、GGT阻害剤を用いて皮膚線維芽細胞のHSP47産生を促進する方法、あるいは皮膚線維芽細胞のHSP47産生の促進のためのGGT阻害剤の使用と読み替えることもできる。
【0101】
また、皮膚線維芽細胞のα−SMA産生促進剤は、GGT阻害剤を用いて皮膚線維芽細胞のα−SMA産生を促進する方法、あるいは皮膚線維芽細胞のα−SMA産生の促進のためのGGT阻害剤の使用と読み替えることもできる。
【0102】
また、皮膚線維芽細胞の成熟コラーゲン産生促進剤は、GGT阻害剤を用いて皮膚線維芽細胞の成熟コラーゲン産生を促進する方法、あるいは皮膚線維芽細胞の成熟コラーゲン産生の促進のためのGGT阻害剤の使用と読み替えることもできる。さらには、GGT阻害剤を用いて皮膚線維芽細胞のコラーゲン成熟を促進する方法、あるいは皮膚線維芽細胞のコラーゲン成熟の促進のためのGGT阻害剤の使用と読み替えることもできる。
【0103】
また、角化細胞遊走・増殖促進剤は、GGT阻害剤を用いて角化細胞の遊走および/または増殖を促進する方法、あるいは角化細胞の遊走および/または増殖を促進するためのGGT阻害剤の使用と読み替えることもできる。
【0104】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0106】
〔実験例1:エラスチン産生能、α−SMA産生能、HSP47産生能、および成熟コラーゲン産生能の評価〕
GGT阻害剤のエラスチン産生能向上作用、α−SMA産生能向上作用、HSP47産生能向上作用、および成熟コラーゲン産生能向上作用を調べるために、以下の実験を行なった。具体的な実験方法は以下のとおり。
【0107】
(1)試料の作製
ヒト皮膚由来線維芽細胞(CCD-1059SK、DSファーマメディカル株式会社)を、10%FBS(fetal bovine serum)を含むDMEM培地で継代培養し、10%FBSを含むDMEM培地で細胞数を1.0×10個/mlに調整して、直径60mmのプラスチックシャーレ(株式会社グライナー・ジャパン)に6.0×10個ずつ播種し、本培養時に10μMのGGT阻害剤を添加して24時間培養し、10μM GGT阻害剤添加群の細胞を調製した。GGT阻害剤としては、2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸(GGT5a)を用いた。
【0108】
また、コントロールとしてGGT阻害剤を添加しない群の細胞を調製した。本培養終了後に、細胞を回収し、10μM GGT阻害剤添加群と同様の方法によって、ウエスタンブロッティング法に供するためのコントロール群のサンプルを調製した。
【0109】
<サンプル群>
1)コントロール群
2)10μM GGT阻害剤添加群。
【0110】
(2)エラスチンの産生量の測定
(1)で調製した1)〜2)のサンプル群について、本培養終了後に、細胞を回収し、エラスチンの産生量を、エラスチンを認識する抗体(Monoclonal Antibody to Elastin-Ascites、Acris Antibodies GmbH)を用いたウエスタンブロット法によって解析した。
【0111】
得られたエラスチン産生量の解析結果を図1に示す。図1の(a)はウエスタンブロットの結果を表す図であり、図1の(b)は、ウエスタンブロットのバンドの濃さを定量的に解析した結果を示すグラフである。
【0112】
ウエスタンブロットの結果は、Scion Image(Scion社製)を用いた画像解析によってバンドの濃さを定量的に解析した。
【0113】
その結果、図1に示されるように、10μMの濃度のGGT阻害剤GGT5aを添加することによって、コントロールと比較して著明なエラスチン産生能向上作用を奏することが確認された。
【0114】
(3)α−SMAの産生量の測定
(1)で調製した1)〜2)のサンプル群について、本培養終了後に、細胞を回収し、α−SMAアクチンの産生量を、α−SMAを認識する抗体(Mouse Anti-Human Smooth Muscle Actin(1A4)、Dako A/S)を用いたウエスタンブロット法によって解析した。
【0115】
得られたα−平滑筋アクチン産生量の解析結果を図2に示す。図2の(a)はウエスタンブロットの結果を表す図であり、図2の(b)は、ウエスタンブロットのバンドの濃さを定量的に解析した結果を示すグラフである。
【0116】
ウエスタンブロットの結果は、上記「(2)エラスチンの産生量の測定」の項で説明した方法と同じ方法によって定量的に解析した。
【0117】
その結果、図2に示されるように、10μMの濃度のGGT阻害剤GGT5aを添加することによって、コントロールと比較して著明なα−SMA産生能向上作用を奏することが確認された。
【0118】
(4)HSP47の産生量の測定
(1)で調製した1)〜2)のサンプル群について、本培養終了後に、細胞を回収し、HSP47の産生量を、HSP47を認識する抗体(Anti-HSP47 Mouse Monoclonal、Stressgen BIOREAGENTS.CORP)を用いたウエスタンブロット法によって解析した。
【0119】
得られたHSP47産生量の解析結果を図3に示す。図3の(a)はウエスタンブロットの結果を表す図であり、図3の(b)は、ウエスタンブロットのバンドの濃さを定量的に解析した結果を示すグラフである。
【0120】
ウエスタンブロットの結果は、上記「(2)エラスチンの産生量の測定」の項で説明した方法と同じ方法によって定量的に解析した。
【0121】
その結果、図3に示されるように、10μMの濃度のGGT阻害剤GGT5aを添加することによって、コントロールと比較して著明なHSP47産生能向上作用を奏することが確認された。
【0122】
(5)成熟コラーゲン量の測定
(1)で調製した1)〜2)のサンプル群について、本培養終了後に、細胞を回収し、I型コラーゲンの産生量を、I型コラーゲンを認識する抗体(COL1A1(C-18), SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY, INC)を用いたウエスタンブロット法によって解析した。上記抗体は成熟コラーゲンおよび前駆体コラーゲンの両方を認識する抗体であり、成熟コラーゲンおよび前駆体コラーゲンは異なる分子量のタンパク質として検出される。成熟コラーゲンを表す分子量70〜90kDaのバンドの濃さを定量的に解析することによって、成熟コラーゲン量を測定することができる。
【0123】
得られた成熟コラーゲン量の解析結果を図5に示す。図5の(a)はウエスタンブロットの結果を表す図であり、図5の(b)は、ウエスタンブロットのバンドの濃さを定量的に解析した結果を示すグラフである。
【0124】
ウエスタンブロットの結果は、上記「(2)エラスチンの産生量の測定」の項で説明した方法と同じ方法によって定量的に解析した。
【0125】
その結果、図5に示されるように、10μMの濃度のGGT阻害剤GGT5aを添加することによって、コントロールと比較して著明な成熟コラーゲン産生能向上作用を奏することが確認された。これは、言い換えれば、10μMの濃度のGGT阻害剤GGT5aを添加することによって、著明なコラーゲン成熟促進作用を奏することを示しているともいえる。
【0126】
以上の結果から、GGT阻害剤GGT5aは、ヒト皮膚由来線維芽細胞のエラスチン、α−SMA、HSP47および成熟コラーゲン産生量を顕著に亢進させ得ることが確認できた。なお、GGT阻害剤GGT5aを添加しても皮膚線維芽細胞の細胞数はほとんど増加しなかった(図示せず)。このことから、GGT阻害剤が皮膚線維芽細胞の数を増加させた結果として、全体的なタンパク質の産生量が増加したのではなく、GGT阻害剤が個々の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生を促進させた結果として、全体的なタンパク質の産生量が増加したことが明らかになった。
【0127】
(考察)
皮膚の真皮に存在する皮膚線維芽細胞は、コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックスを産生する。エラスチンはコラーゲンにからみつくように存在し、皮膚に弾力性を与えることが知られている。このため、皮膚線維芽細胞のコラーゲンおよびエラスチン産生能が亢進することが、皮膚の張りを維持し、皺の予防に重要であると考えられる。
【0128】
実験例1において、GGT阻害剤は、皮膚線維芽細胞におけるエラスチン産生量、皮膚線維芽細胞の活性化の指標であるα−SMA産生量、コラーゲンの成熟に関与するHSP47産生量、および成熟コラーゲン産生量を同時に亢進させることが確認された。
【0129】
GGT阻害剤GGT5aの作用機序としては、細胞内のグルタチオン濃度が、薬剤投与後の6〜8時間後に一過的に減少することが引き金となって、繊維芽細胞におけるエラスチン産生、HSP47産生、α−SMA産生および成熟コラーゲン産生が促進されることが強く示唆された。
【0130】
本GGT阻害剤の作用機序は、コラーゲン産生能向上作用を有することが報告されているビタミンCやマトリキシル(登録商標)またはマトリキシル3000等とは全く異なるものであり、グルタチオン応答による遺伝子制御(情報伝達経路)が働いていることが強く示唆された。
【0131】
従って、GGT阻害剤GGT5aの添加によって、エラスチン、HSP47、α−SMAおよび成熟コラーゲン以外にも、一連の細胞防御性のタンパク質が発現誘導されたり、紫外線、乾燥などの外部刺激から皮膚を守るメカニズムが惹起されたりしている可能性があると考えられる。すなわち、GGT阻害剤による老化防止効果は、グルタチオンの一過的な微弱な減少による軽度の酸化ストレスによって惹起される細胞の自然な応答をうまく利用したものと考えられ、一連の細胞防御機構を同時に引き起こし、老化防止をはじめとする細胞傷害性の外部刺激(紫外線等)に相乗的な効果をもたらすと考えられる。
【0132】
〔実験例2:角化細胞の遊走・増殖能の評価〕
(1)試料の作製
GGT阻害剤の角化細胞の遊走・増殖能向上作用を調べるために、以下の実験を行なった。具体的な実験方法は以下のとおり。
【0133】
ヒト角化細胞(ヒトケラチノサイト)(HaCat細胞、大阪市立大学医学部皮膚科より分与された。)を、直径35mmのプラスチックシャーレ(株式会社グライナー・ジャパン)に2.25×10個播き、10%FBSを含むDMEM培地でコンフルエント状態になるまで培養し、その後、ピペットチップで細胞を直線状に掻きとり、1μM GGT阻害剤または10μM GGT阻害剤を添加して24時間培養し、1μM GGT阻害剤添加群のサンプルおよび10μM GGT阻害剤添加群のサンプルを調製した。GGT阻害剤としては、2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸(GGT5a)を用いた。
【0134】
また、コントロールとしてGGT阻害剤を添加しない群のサンプルを調製した。
【0135】
<サンプル群>
1)コントロール群
2)1μM GGT阻害剤添加群
3)10μM GGT阻害剤添加群。
【0136】
(2)遊走・増殖能の測定
ケラチノサイトの遊走・増殖能を評価するための指標として、(1)で調製した1)〜3)のサンプル群について、スクラッチ箇所の修復程度を測定した。具体的には、スクラッチ直後(0時間後)のスクラッチ幅をモニター画面上で測定し、a(cm)とし、24時間後に同一箇所のスクラッチ幅を測定し、b(cm)とした。
【0137】
次いで、1)〜3)のサンプル群について、下記式(1)を用いて、修復幅(cm)を求めた.
修復幅=(0時間後のスクラッチ幅a)−(24時間後のスクラッチ幅b)…(1)
修復率は、コントロール群における修復幅を100%としたときの、相対値として求めた。
【0138】
結果を図4および表1に示す。図4は、ヒト角化細胞の遊走・増殖能の促進におよぼすGGT阻害剤の影響を示す図である。図4中に示す記号「a」は、スクラッチ直後(0時間後)のスクラッチ幅を表し、記号「b」は、スクラッチして24時間後のスクラッチ幅を表している。
【0139】
表1は、1)〜3)のサンプル群の「修復幅(a−b)(cm)」および「修復率(%)」を表している。
【0140】
【表1】

【0141】
その結果、図4および表1に示されるように、GGT阻害剤GGT5aを添加することによって、コントロール群と比較して著明なスクラッチ修復率の向上作用を奏することが確認された。修復率の値が大きいほど、角化細胞の遊走・増殖能が亢進していることを示しているので、図4および表1の結果から、GGT阻害剤GGT5aを添加することによって、コントロールと比較して著明な角化細胞の遊走・増殖能向上作用を奏することが確認された。
【0142】
また、図4および表1に示されるように、10μM GGT阻害剤添加群GGTの方が、1μM GGT阻害剤添加群と比較して、修復率の値が大きかった。この結果から、GGT阻害剤は、角化細胞の遊走・増殖能を濃度依存的に顕著に亢進させ得ることが確認された。
【0143】
(考察)
皮膚の表皮を形成する角化細胞は、基底層で分裂・増殖した後、角層へと移行し、最終的には垢となってはがれ落ちる。このため、角化細胞の遊走・増殖能が亢進することは、皮膚の新陳代謝の促進、皮膚のバリア機能の維持に重要な働きを示す。実験例2によって、GGT阻害剤が角化細胞の遊走・増殖能を亢進させることが確認され、GGT阻害剤が皮膚の新陳代謝の促進効果、皮膚のバリア機能の維持効果をもたらすことが示唆された。
【0144】
以上のように、GGT阻害剤は、表皮の角化細胞の遊走・増殖促進作用および皮膚線維芽細胞の活性化(エラスチン、HSP47等タンパク質の産生促進等)作用の両方を有していることが確認された。本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤および角化細胞遊走・増殖促進剤は、GGT阻害剤を有効成分として含有しているので、多彩な機能による皮膚の老化防止効果または皮膚症状の改善効果を発揮する新たなタイプの薬剤として利用することができると考えられる。
【0145】
〔処方例:美容液〕
以下に示す処方の美容液を常法により製造した。
(組成) (重量%)
ソルビット 4.0
グリセリン 3.0
ブチレングリコール 3.0
ポリエチレングリコール 1500 5.0
POE(20)オレイルアルコールエーテル 0.5
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
メチルセルロース 0.2
GGT阻害剤 0.005
精製水 全体で100となる量
〔処方例:乳液〕
以下に示す処方の乳液を常法により製造した。
(処方) (重量%)
グリセリン 1.5
ショ糖脂肪酸エステル 1.5
モノステアリン酸ソルビタン 1.0
スクワラン 7.5
ジプロピレングリコール 5.0
GGT阻害剤 0.005
精製水 全体で100となる量
〔処方例:クリーム〕
以下に示す処方のクリームを常法により製造した。
(処方) (重量%)
グリセリン 3.0
ブチレングリコール 3.0
スクワラン 19.0
ステアリン酸 5.0
モノステアリン酸グリセリン 5.0
モノステアリン酸ソルビタン 12.0
モノステアリン酸ポリエチレンソルビタン 38.0
エデト酸ナトリウム 0.03
GGT阻害剤 0.005
精製水 全体で100となる量。
【産業上の利用可能性】
【0146】
GGT阻害剤は、皮膚の経年劣化(エイジング)や紫外光による損傷を軽減するのに有効なエラスチンおよびHSP47のタンパク質の産生を亢進する活性を有し、同時に、角化細胞の増殖を促進する活性を有する。このため、GGT阻害剤を有効成分として含有している、本発明の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤または本発明の角化細胞遊走・増殖促進剤は、皮膚のしわ・たるみを防ぎ、みずみずしい肌を保つ老化防止効果または皮膚症状の改善効果の高い皮膚用剤となり得る。
【0147】
具体的には、本発明は、顔のしわ減少、肌の張り、みずみずしさの増大等の老化防止効果を有する薬用化粧品;手荒れ、ひび割れ、あかぎれ、霜焼け、冬の乾燥肌等のスキンケア製品等として利用可能である。
【0148】
また、本発明の角化細胞遊走・増殖促進剤は、角化細胞の遊走および/または増殖を促進する作用を有するので、創傷治癒効果の高い皮膚用剤となり得る。具体的には、本発明は、褥瘡(床ずれ)治療薬(軟膏、クリーム)等としても利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とすることを特徴とする、皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤。
【請求項2】
上記タンパク質は、エラスチン、ヒートショックプロテイン47、α−平滑筋アクチンおよび成熟コラーゲンからなる群から選択される1以上のタンパク質であることを特徴とする、請求項1に記載の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤。
【請求項3】
上記化合物は、脱離基を有するホスホン酸ジエステル誘導体を含む、請求項1または2に記載の皮膚線維芽細胞のタンパク質産生促進剤。
【請求項4】
γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とすることを特徴とする、角化細胞遊走・増殖促進剤。
【請求項5】
上記化合物は、脱離基を有するホスホン酸ジエステル誘導体を含む、請求項4に記載の角化細胞遊走・増殖促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−62266(P2012−62266A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206830(P2010−206830)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構研究成果最適展開支援事業(本格研究開発 企業挑戦タイプ)、「新規γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)阻害剤によって引き起こされる細胞内コラーゲン産生の応用」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】