説明

皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤及び皮膚に対する病態改善剤

【課題】 常温状態での保存で、皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素の消去に優れた効果がある抗酸化剤及び皮膚に対する病態改善剤を得る。
【解決手段】 白金及びパラジウムをコロイドの形で混合することにより、皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤として、これを常温で長期保存しても皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素が安定して消去され、この抗酸化剤を皮膚病態改善剤として用いることにり、内因性活性酸素に起因する皮膚病態が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素を消去する抗酸化剤及び皮膚に対する病態改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素が生体の疾患を引き起こす原因の一つであることが判明して以来、この活性酸素を分解消去する物質の研究がなされている。そのなかで、白金コロイドは活性酸素を消去する能力があると考えられており、有用な抗酸化物質として注目を集めており、白金コロイドは、医薬の分野でその利用について数多く提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−13425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、白金コロイドに活性酸素を消去する能力があると考えられ、医薬の分野でその利用について数多く提案されているものの、その反応機構として電子移動が想定されてはいるが、その詳細は必ずしも明らかとなっていない。特に、試験によれば、常温で保存した白金コロイドを皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤として使用したところ、活性酸素の消去に殆ど効果がないことが判明した。
そこで、本発明者らは試験研究を重ねた結果、白金及びパラジウムをコロイドの形で混合して抗酸化剤としたとき、これを常温で長期保存しても皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素の消去に優れた効果があることを見出し、本発明を成すに至った。
【0005】
本発明の目的とするところは、常温状態での保存で、皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素の消去に優れた効果がある抗酸化剤及び皮膚に対する病態改善剤を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために、請求項1に記載の発明は、皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤であって、白金及びパラジウムをコロイドの形で混合したことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、皮膚病態改善剤であって、前記請求項1に記載の抗酸化剤を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤によれば、白金及びパラジウムをコロイドの形で混合したので、これを常温で長期保存しても皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素の消去に安定した効果を得ることができる。
【0009】
請求項2に記載の皮膚病態改善剤によれば、前記請求項1に記載の抗酸化剤を用いたので、内因性活性酸素に起因する皮膚病態を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る抗酸化剤である試料1,2と比較の試料3〜7による細胞内活性酸素消去を試験した結果を示すグラフである。
【図2】は比較の試料7を投与したSOD1未欠損マウスの皮膚組織切片の皮膚厚を示す光学顕微鏡写真である。
【図3】は図2の説明図である。
【図4】は比較の試料7を投与したSOD1欠損マウスの皮膚組織切片の皮膚厚を示す光学顕微鏡写真である。
【図5】は図4の説明図である。
【図6】は本発明に係る皮膚病態改善剤である試料8を投与したSOD1欠損マウスの皮膚組織切片の皮膚厚を示す光学顕微鏡写真である。
【図7】は図6の説明図である。
【図8】本発明に係る皮膚病態改善剤である試料8と比較の試料7を投与したマウスの皮膚組織切片の皮膚厚を測定した結果を示すグラフである。
【図9】本発明に係る皮膚病態改善剤である試料8と比較の試料7を投与したマウスの皮膚組織の皮膚重量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤及びこれを用いた皮膚病態改善剤の実施の形態について説明する。
【0012】
先ず、本発明に係る皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤の実施の形態について説明する。
本発明に係る皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤は、白金及びパラジウムをコロイドの形で混合した。
前記白金及びパラジウムのコロイドは公知の方法で製造される。白金コロイドとパラジウムコロイドの混合比にあっては特に限定されるものではないが、白金コロイド:パラジウムコロイドが2:3であることが好ましい。
【0013】
このようにして得られた抗酸化剤は、皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素を消去する。
以下、白金コロイドとパラジウムコロイドの混合物(以下、白金・パラジウム混合物という。)の皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素の消去活性の試験結果を示し、白金・パラジウム混合物が皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素を消去する作用のあることを例証する。
【0014】
[試験1]
活性酸素を消去する活性が保たれるとされるSOD1を欠損したマウスの皮膚繊維芽細胞を用いて、白金・パラジウム混合物の皮膚繊維芽細胞に発生した活性酸素の消去活性について試験した。
【0015】
◎供試細胞
SOD1欠損マウス皮膚繊維芽細胞(以下、SOD1欠損細胞という。)
SOD1欠損細胞を以下の手順で培養する。
培養液は、α−MEM+5%penicillin/streptomycin+20%FBS を使用する。先ず、新生児マウス(生後4〜6日目)の全身を70%エタノールで十分に消毒し、脂肪を取り除きながら皮膚を剥離する。50mlチューブにマウス1匹分の皮膚あたり2mlの0.2%Collagenaseを入れ、37℃で1時間培養する。培養中、数回vortexをかけ混和し、Strainerで細胞混濁液を濾し取り、2,000rpm2分遠心する。上清を捨て、培養液(20%FBS in α−MEM)を加え、1%O下で培養する。酸素濃度以外の培養環境は、CO 5%、37℃とする。培養2〜3日後に凍結保存する。
【0016】
◎評価試料
試料1.保存前の白金コロイドとパラジウムコロイドの混合液(濃度10μM)
試料2.常温で3週間保存した白金コロイドとパラジウムコロイドの混合液(濃度10 μM)
試料3.保存前の白金コロイド溶液(濃度10μM)
試料4.常温・開放で3週間保存した白金コロイド溶液(濃度10μM)
試料5.保存前のパラジウムコロイド溶液(濃度10μM)
試料6.常温・開放で3週間保存したパラジウムコロイド溶液(濃度10μM)
試料7.コントロール溶液(MilliQ water)
【0017】
◎染色試薬
Dihydroethidium(DHE)
Hoechst33342
【0018】
◎試験方法
SOD1欠損細胞を1×10 cells/wellで96well plate に播種し(培養酸素濃度1%)、36時間後に培養酸素濃度を20%に変更して8時間培養し、酸化ストレスを負荷する。
このようにして得たSOD1欠損細胞に、前記した試料1〜7を個別に添加し、20%酸素濃度でさらに16時間培養した後、前記染色試薬を添加し、37℃で20分インキュベートした。
この後、洗浄してから蛍光顕微鏡で観察、撮影し、画像からDHE蛍光面積を定量し、染色での細胞数を計測することにより活性酸素の量を確認した。
【0019】
◎試験結果
試験の結果を図1に示す。
図1から明らかなように、試験によれば、酸素濃度20%の環境下で試料7を添加したSOD1欠損細胞に発生した活性酸素量を100としたとき、試料1を添加したものは活性酸素量が73.0%、試料2を添加したものは活性酸素量が82.0%、試料3を添加したものは活性酸素量が76.7%、試料4を添加したものは活性酸素量が93.3%、試料5を添加したものは活性酸素量が91.3%、試料6を添加したものは活性酸素量が99.7%、試料7を添加したものは活性酸素量が100%であった。
【0020】
◎評価
上記の結果から、試料1は活性酸素の量が減少し優れた抗酸化活性を示し、試料2は、試料1に比べ活性酸素の量が僅かに多くなっているものの優れた抗酸化活性を示している。これに対し、試料3は試料1に比べ活性酸素の量が僅かに多くなっているものの優れた抗酸化活性を示しているが、試料4では、試料3に比べ活性酸素の量が遙かに多くなっており、抗酸化活性が低下したことが認められる。このことから、本発明に係る皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤は、常温状態での保存でも活性酸素の消去効果は安定していることが認められる。
【0021】
次に、本発明に係る皮膚病態改善剤の実施の形態について説明する。
本発明に係る皮膚病態改善薬品は前記の抗酸化剤を用いた。この抗酸化剤は、前記のように白金及びパラジウムをコロイドの形で混合したものからなる。
この抗酸化剤を用いた皮膚病態改善剤を皮膚病態に投与すると、皮膚病態が改善される。
以下、皮膚病態に皮膚病態改善剤を投与したときの皮膚病態の改善試験の結果を示し、皮膚病態改善剤が皮膚病態改善に優れた効果があることを例証する。
【0022】
[試験2]
SOD1を欠損したマウスを用いて、皮膚病態改善剤がマウスの皮膚厚及び皮膚重量に与える作用について試験した。
【0023】
◎供試動物
SOD1欠損マウス
SOD1未欠損マウス
【0024】
◎評価試料
評価試料にあっては、前記の試験1で用いた試料と同じ試料は、同じ試料番号を付した。
試料7.コントロール溶液(MilliQ water)
試料8.保存前の白金コロイドとパラジウムコロイドの混合液(濃度3.8442mM)
【0025】
◎試験方法
試験開始前日にSOD1欠損マウス、SOD1未欠損マウスの背部皮膚の毛をバリカンで毛刈り(横2cm×縦3.5cm)をしてサンプル塗布可能な状態に準備した。SOD1欠損マウス、SOD1未欠損マウスは、温度23.5±0.5℃、湿度50−60%、照明時間8−20時の条件下で飼育管理した。飼料は、マウス固形飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業製)を自由摂取で与えた。飲料水は、塩素塩酸水(pH2.5−3.0)を使用した。
1日1回(午後1時〜3時)、SOD1欠損マウスの毛刈りした背部に試料8と試料7(200μl)をピペットにより個別に背部への経皮投与を4週間行った。また、SOD1未欠損マウスの毛刈りした背部に試料7(200μl)をピペットにより個別に背部への経皮投与を4週間行った。毛刈りは毎週1回行った。
4週間の投与終了後、SOD1欠損マウス、SOD1未欠損マウスの皮膚厚、皮膚重量を次の手順で測定した。
先ず、マウスをエーテル麻酔し、左脇から右心室に26G注射針を刺して心臓採血し屠殺した。次に、バリカンで背部および腹部皮膚を毛刈り後、
皮膚を剥離し組織切片を作成した。また、皮膚を穴あけパンチ(φ6mm)で打ち抜いて皮膚片を作成し、皮膚重量を測定した。
各項目の測定は、以下の方法で行った。
【0026】
◎背部皮膚厚測定
先ず、剥離して皮膚を横1.5cm×縦2.5cm程度に切り、台紙に貼り付けホチキスで四隅を留めた。その後20N Mildformを約20ml加えた50mlチューブに皮膚を貼り付けた台紙を入れ、皮膚を固定して皮膚組織切片を作成した。
このようにして作成した皮膚組織切片をHE染色し、光学顕微鏡下で写真撮影(×40)し、表皮+真皮層厚を皮膚厚として測定した。
【0027】
◎試験結果
試験の結果を図2乃至図7に示す。
図2は試料7を投与したSOD1未欠損マウスの皮膚組織切片の皮膚厚を示す光学顕微鏡写真、図4は試料7を投与したSOD1欠損マウスの皮膚組織切片の皮膚厚を示す光学顕微鏡写真、図6は試料8を投与したSOD1欠損マウスの皮膚組織切片の皮膚厚を示す光学顕微鏡写真であり、SOD1欠損マウスに試料8を投与した皮膚組織切片の皮膚厚は、SOD1未欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片の皮膚厚とほぼ同じ厚さとなっていた。SOD1欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片は、SOD1未欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片の皮膚厚に比べ薄くなっていた。
図8は、皮膚組織切片の皮膚厚を画像解析により測定した結果を示すものであり、SOD1欠損マウスに試料8を投与した皮膚組織切片の皮膚厚は193.9μm、SOD1欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片は170.9μm、SOD1未欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片の皮膚厚は209.1μmであった。
【0028】
◎皮膚重量測定
皮膚重量の測定は、剥離した皮膚を穴あけパンチ(φ6mm)で打ち抜いて作成した皮膚片4個を測定し、平均化した。
【0029】
◎試験結果
試験の結果を図9に示す。
図9から明らかなように、試験によれば、SOD1欠損マウスに試料8を投与した皮膚組織切片の皮膚重量は16.7mg、SOD1未欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片の皮膚重量は19.4mg、SOD1欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片では15.1mgであった。
【0030】
◎評価
上記の結果から、SOD1未欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片の皮膚厚及び皮膚重量と比較して、SOD1欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片の皮膚厚及び皮膚重量は有意に低く、また、SOD1欠損マウスに試料8を投与した皮膚組織切片の皮膚厚及び皮膚重量は、SOD1欠損マウスに試料7を投与した皮膚組織切片の皮膚厚及び皮膚重量に比較して有意に上昇しており、皮膚菲薄化の改善が認められる。
【0031】
[試験3]
老齢野生型マウスを用いて、皮膚病態改善剤がマウスの皮膚創傷の治癒に与える作用について試験した。
【0032】
◎供試動物
17ヶ月齢のマウス
【0033】
◎評価試料
評価試料にあっては、前記の試験1で用いた試料と同じ試料は、同じ試料番号を付した。
試料7.コントロール溶液(MilliQ water)
試料9.保存前の白金コロイドとパラジウムコロイドの混合液(濃度38.442μM)
【0034】
◎試験方法
試験開始日にマウス背部皮膚の毛をバリカンで毛刈り(横2cm×縦3.5cm)をしてサンプル塗布可能な状態に準備した。また、エーテル麻酔下で穴あけパンチ(φ6mm)で背部皮膚を打ち抜き、創傷を2箇所作成した。マウスは、温度23.5±0.5℃、湿度50−60%、照明時間8−20時の条件下で個別に飼育管理した。飼料は、マウス固形飼料CRF−1(オリエンタル酵母工業製)を自由採取で与えた。飲料水は、塩素塩酸水(pH2.5−3.0)を使用した。
1日1回(午後1時−3時)、試料9と試料7(50ml)をピペットにより各創傷部位に経皮投与をおこなった。投与期間は2週間行った。
投与開始日から隔日で創傷面積の測定を行った。
創傷面積の測定は、以下の方法で行った。
マウスにエーテル麻酔をかけ、透明シートに創傷の形をトレースした。創傷の形をスキャナで取り込み、その面積を測定した。
【0035】
◎試験結果
試験の結果、試料7を創傷部位に経皮投与したマウスの創傷面積に比較して、試料9を創傷部位に経皮投与したマウスの創傷面積が創傷作成4日目、6日目、12日目で有意に小さくなった。
【0036】
◎評価
上記の結果から、試料9を創傷部位に経皮投与したマウスの創傷治癒速度の上昇が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金及びパラジウムをコロイドの形で混合したことを特徴とする皮膚繊維芽細胞に対する抗酸化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗酸化剤を含有する皮膚病態改善剤。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240992(P2012−240992A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115370(P2011−115370)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(509111744)地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター (5)
【出願人】(397044393)
【出願人】(509273400)
【出願人】(509274359)
【出願人】(509274360)
【Fターム(参考)】