説明

皮膚老化マーカーとその利用技術

【課題】皮膚老化マーカーとなりうる物質を探索する。
【解決手段】皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を測定することを含む、皮膚の老化度を判定する方法であって、前記分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は皮膚の老化により発現が変化するものである前記方法。皮膚の老化度を判定するためのキット及び皮膚の老化防止に効果のある物質を同定する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚老化マーカーとその利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の加齢変化はしわ、たるみ等見た目から認知されるのが一般的で、肌年齢の推定は外観変化をもとに機器を用いた客観的な評価が試みられてきた。実際に行われている方法としては、しわやたるみの程度から実年齢を推定したり、ファイバースコープなどで皮膚の外観的なきめの細かさ度合いを測定したり、皮膚に振動体を接触させた時の振動変化で肌年齢を判定する方法が報告されている(特許文献1〜3)。
老化の要因として細胞老化が提唱されているが、これまで細胞老化が個体老化の原因であることは実証されていなかった。最近、細胞老化が個体老化の原因であることを実証する結果が報告された(非特許文献1)。皮膚においても加齢変化はしわ、たるみ等の外観が変化する前に細胞レベルでの加齢変化が先に始まっていると考えられる。例えば、皮膚老化に伴って細胞外マトリックスタンパク質(ECM)であるコラーゲンなどが減少し、ECM分解性プロテアーゼの発現が増加する等様々な因子の発現変化が起こる(非特許文献2〜4)。また、生体内に発生する酸化修飾などを受けた異常なタンパク質はプロテアソームにより分解されるが、加齢とともに皮膚中のプロテアソームの発現が低下し、酸化コラーゲンの蓄積が起こる(非特許文献5)。よって、皮膚老化度を的確に測定するには外観変化に基づく評価では不十分で、細胞レベルでの生化学的な加齢変化を調べることが重要である。
【0003】
これまでに、皮膚細胞の老化マーカーとしてsenescence−associated β−galactosidase(SA−β−Gal)が同定され、SA−β−Galは最終分化した細胞では発現せずに老化した細胞のみに特異的に発現し、ヒトの皮膚組織での老化とも非常に良く相関することが明らかになった(非特許文献6)。それ以外の皮膚老化マーカーとしてserine protease inhibitorの1種であるMaspinやcysteine protease inhibitorの1種であるCyatatin Aなどが報告されている(非特許文献7、8)
皮膚老化のバイオマーカーを探索する手法として、特定の細胞が特定の条件下に置かれたときに、その細胞内に存在する全タンパク質(proteome)を2次元電気泳動により分離し、質量分析機により同定する手法(proteomics)が有用である。実際に、若年と老年のヒトの皮膚組織からタンパク質を抽出し、proteomicsにより皮膚老化により有意に変化したタンパク質としてeIF−5A、Cyclophilin A、Proteasomal protein、PA28−α、Tryptophanyl−tRNA synthetase、HSP60、Annexin I、NM23 H2(nucleoside diphosphatase kinase)、PI3K p85β isoform、Mn−superoxide dismutase、PAI−2、Mx−A proteinが見出されている(非特許文献9)。しかし、これまで皮膚に関して実施されたproteomicsは皮膚組織の抽出物もしくは細胞抽出物を用いた解析であり、微量な分泌タンパク質が多く含まれている細胞培養上清液に着目してproteomicsを行った例はない。また、同定した皮膚老化マーカーのヒト皮膚での検証はバイオプシーにより摘出した皮膚組織での免疫染色など実用性が低い方法であり、非浸襲的に安全、簡便に角層採取ができる角質チェッカーを用いて角層を採取し、そこからタンパク質を抽出して皮膚老化マーカーの発現を調べる実用性の高い方法で調べた例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−330943号公報
【特許文献2】特開2002−360544号公報
【特許文献3】特開2001−212087号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Clinic.Invest.,114,1299−1307,2004
【非特許文献2】Mol.Cell.Biochem.1999 Apr,194(1−2):99−108
【非特許文献3】J.Investig.Dermatol.Symp.Proc.,3(2),172−179,1998
【非特許文献4】Mech.Ageing Dev.,123(7),801−810,2002.
【非特許文献5】J.Gerontology,55(5),220−227,2000
【非特許文献6】Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,9363−9367,1995
【非特許文献7】Cancer Research,64,2956−2961,2004
【非特許文献8】Dermatology,188,21−24,1994
【非特許文献9】Mol.Cell.Proteomics,2(2),70−84,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、皮膚老化マーカーとなりうる物質を探索することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、微量な分泌タンパク質が多く含まれている細胞培養上清液に着目し、表皮角化細胞の老化に伴って発現が変化するタンパク質のproteomicsを行った。すなわち、ヒト正常表皮角化細胞の2代目(若い細胞)〜5代目(老化した細胞)の培養上清液を調製し、2次元電気泳動と質量分析機によるproteome解析を行った。さらに、本発明の特徴として、超微量タンパク質(1 femto−mol以下)の同定を可能とする技術{実験医学,20(16),2367−2370,2002}を用いて同定を試みた。
その結果、表皮角化細胞の老化に伴って発現が減少したタンパク質が19個(表1)、発現が増加したタンパク質が49個同定された(表2)。これらのタンパク質の中には既知の皮膚老化マーカー以外にもβ2−microglobulin、PAI−1、Kallikrein 7などの新規な皮膚老化マーカーが含まれていた。さらに、proteome解析により同定されたタンパク質の発現を1次元のウェスタンブロッティングにより確認し、表皮角化細胞の老化と相関するいくつかのタンパク質を同定した(表3)。また、proteome解析により細胞骨格タンパク質である2種のKeratinが同定されたことから、表皮角化細胞の老化に伴う種々のKeratinの発現変化も調べた。その結果、表皮角化細胞の老化に伴って8種のKeratin(Ketratin 10、13、14、15、16、18、19および20)の発現が増加し、Keratin 7の発現が減少した。発現が変化するタンパク質以外にも、表皮角化細胞の老化に伴いプロテアーゼにより切断された切断型に対する非切断型の割合が増加するタンパク質としてβ2−microglobulinが同定された。
さらに、前述のようにして見出した皮膚老化マーカーとヒトの皮膚老化度との相関を調べるために、20〜60代のボランティアから、非浸襲的に安全、簡便に角層採取ができる角質チェッカーを用いて角層を採取し、そこからタンパク質を抽出して皮膚老化マーカーの発現をウェスタンブロッティングにより調べた。その結果、Keratin 7、Keratin 15およびKallikrein 7が皮膚老化の指標として知られる皮膚弾力性およびしわ体積率と非常に良く相関することが明らかとなった。
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を測定することを含む、皮膚の老化度を判定する方法であって、前記分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は皮膚の老化により発現が変化するものである前記方法。
(2)分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、AnnexinII、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される(1)記載の方法。
(3)分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現をタンパク質レベルで測定する(1)又は(2)に記載の方法。
(4)分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の遺伝子発現をRNAレベルで測定する(1)又は(2)に記載の方法。
(5)皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質を特異的に認識できる抗体を含む、皮膚の老化度を判定するためのキット。
(6)分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、AnnexinII、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される(5)記載のキット。
(7)皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを含む、皮膚の老化度を判定するためのキット。
(8)分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、AnnexinII、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される(7)記載のキット。
(9)皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマー及び前記mRNAを鋳型として合成されるcDNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマーからなる1対の核酸プライマーを含む、皮膚の老化度を判定するためのキット。
(10)分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、AnnexinII、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される(9)記載のキット。
(11)皮膚の老化防止に効果のある物質を同定する方法であって、以下の工程:
(a)被験物質と皮膚細胞及び/又は皮膚組織を接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質と接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織を所定時間培養する工程、
(c)工程(b)で培養した皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を測定する工程であって、前記分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は皮膚の老化により発現が変化するものである前記工程、及び
(d)工程(c)で測定した分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を対照の皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現と比較することにより、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む前記方法。
(12)分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、AnnexinII、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される(11)記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、皮膚老化における細胞レベルでの加齢変化を指標とする評価系が確立できる。この評価系を用いて、従来法に比べてより詳細に、的確に皮膚の老化度を判定することができる。また、皮膚の老化度を判定するためのキットおよび皮膚の老化防止に効果のある物質を同定する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】表皮角化細胞の継代による増殖変化(a)および形態変化(b)を示す。
【図2】表皮角化細胞の継代数ごとにSA−β−Galにより染色した細胞の染色像(a)およびSA−β−Gal染色された細胞の割合(b)を示す。
【図3】表皮角化細胞の継代数2代目および5代目から抽出したタンパク質の2次元電気泳動泳動解析により得られた発現パターンを示す。
【図4】表皮角化細胞の老化に伴うLaminin 5およびFibronectinの発現変化を1次元ウェスタンブロッティングにより解析した結果を示す。
【図5(a)(b)】表皮角化細胞の老化に伴うプロテアーゼおよびプロテアーゼインヒビターの発現変化を1次元ウェスタンブロッティングにより解析した結果を示す。
【図6】表皮角化細胞の老化に伴う熱ショックタンパク質の発現変化を1次元ウェスタンブロッティングにより解析した結果を示す。
【図7】表皮角化細胞の老化に伴う細胞内タンパク質及び細胞骨格系タンパク質の発現変化を1次元ウェスタンブロッティングにより解析した結果を示す。
【図8】表皮角化細胞の老化に伴うGalectinおよびIGFBP−3の発現変化を1次元ウェスタンブロッティングにより解析した結果を示す。
【図9】表皮角化細胞の老化に伴うKeratinの発現変化を1次元ウェスタンブロッティングにより解析した結果を示す。
【図10】目尻角層から抽出したKeratin 15の発現と年齢との相関を示す。
【図11】目尻角層から抽出したKeratin 10の発現と年齢との相関を示す。
【図12】年齢と目尻弾力性との相関を示す。
【図13】年齢と目尻しわ体積率との相関を示す。
【図14】目尻角層から抽出したKeratin 7の発現と目尻弾力性との相関を示す。
【図15】目尻角層から抽出したKeratin 15の発現と目尻弾力性との相関を示す。
【図16】目尻角層から抽出したKeratin 7の発現と目尻しわ体積率との相関を示す。
【図17】目尻角層から抽出したKeratin 15の発現と目尻しわ体積率との相関を示す。
【図18】目尻角層から抽出したKallikrein 7の発現と目尻弾力性との相関を示す。
【図19】目尻角層から抽出したKallikrein 7の発現と目尻しわ体積率との相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本発明は、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現を測定することを含む、皮膚の老化度を判定する方法を提供する。分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は皮膚の老化により発現が変化するものである。「発現が変化する」態様としては、タンパク質及び/又はその遺伝子の発現の有無が変わること、発現量が増減すること、発現したタンパク質のプロテアーゼによる切断型と非切断型の割合が変わることなどが挙げられる。皮膚の老化度を判定するための分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択することが好ましい。選択するタンパク質は1種でも複数種であってもよい。
【0012】
Kallikrein 7は、分子質量27,525Daの分泌タンパク質である。角質層の細胞間どうしの結合部分を切断することにより皮膚表面からの細胞の落屑を促す働きをもつ。組織中では皮膚で多く発現される一方、脳、乳腺、脊髄、腎臓に発現が見られる。遺伝子配列情報(Stratum corneum chymotrytic enzyme,J.Biol.Chem.269:19420−19426,1994,L33404)。アミノ酸配列情報(Kallikrein 7 precursor,J.Biol.Chem.269:19420−19426,1994, P49862)。
PAI−1は、分子質量45,060Daの分泌タンパク質である。セリンプロテアーゼの一種でtPA(tissue plasminogen activator),uPA, protein C等の活性を阻害する。PAI−1は酸に安定な糖タンパク質で、セルピン(serpin)ファミリーに属している。血漿、血小板、内皮細胞、肝細胞、繊維肉腫細胞にみられる。遺伝子配列情報(Plasminogen activator inhibitor−1,J.Clin.Invest.78:1673−1680,1986,M16006)。アミノ酸配列情報(Plasminogen activator inhibitor−1,FEBS Lett.210:11−16,1987,P05121)。
【0013】
uPAは、分子質量48,525Daの分泌タンパク質である。uPAはプラスミノーゲンをプラスミンに変換するセリンプロテアーゼの一種。前駆体タンパク質(55kDa)として細胞外へ分泌され、切断型(35kDa)となってプロテアーゼ活性を示す。乳がんで多くの発現が見られる。遺伝子配列情報(Urokinase−type plasminogen activator , Nucleic Acids Res.13:2759−2771,1985,BC013575)。アミノ酸配列情報(Urokinase−type plasminogen activator,Hoppe−Seyler's Z.Physiol.Chem.363:1043−1058,1982,P00749)。
【0014】
Matriptaseは、分子質量75,626Daの分泌タンパク質である。細胞外マトリックスを分解する酵素。乳がんで浸潤と転移に関与するという報告がある。トリプシン様の酵素活性を示す。さらにmatriptaseのインヒビターであるHAI−1(Hepatocyte growth factor activation inhibitor1)と複合体を示すことが明らかとなっている。また、この遺伝子をノックアウトしたマウスでは皮膚での水分蒸散のコントロールができずに致死に至ることがわかっている。遺伝子配列情報(Membrane−type serin protease 1,J.Biol.Chem.274:18231−18236,1999,AF188224)。アミノ酸配列情報(Membrane−type serin protease 1, J.Biol.Chem.274:18237−18242,1999,Q9BS01)。
【0015】
GRP94は、分子質量92,469Daの分泌タンパク質である。熱ショックタンパク質の一種で分泌タンパク質の切断や輸送で働くシャペロン分子である。シグナルペプチドを持っているので細胞外に分泌されるものもあるがERに局在するものもある。遺伝子配列情報(tumor rejection antigen(gp96)1,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.87:5658−5662,1990,BC066656)アミノ酸配列情報(Endoplasmin,Nat.Biotechnol.21:566−569,2003,P14625)。
【0016】
HSP70は、分子質量70,052 Daの細胞内タンパク質である。通常、細胞内で分子シャペロンとして機能し、タンパク質のフォールディング、輸送、集合や分解などに関与している。また、ミトコンドリアやERでのHSP70の働きはタンパク質を正常に移転させることである。HSP90と協調して細胞内のシグナル伝達にも関与する。遺伝子塩基配列情報(heat shock 70kDa protein 1A,Immunogenetics32:242−251,1990,BC002453)。アミノ酸配列情報(Heat shock 70 kDa protein 1,P08107)。
【0017】
HSP90は、分子質量85,453Daの細胞内タンパク質である。ふだんはステロイドホルモン受容体などの複合体に結合・解離することでシグナル伝達系において重要な働きをしている。細胞が高温にさらされると、HSP90は構造を変えてタンパク質の不可逆的損傷を防ぐ分子シャペロンとして働く。遺伝子塩基配列情報(Heat shock protein 90,Nucleic Acids Res.17:7108−710,1989,X15183)。アミノ酸配列情報(Heat shock protein 90,J.Biol.Chem.264:2431−2437,1989,P07900)。
【0018】
Galectin−1は、分子質量14,585Daの細胞内タンパク質である。細胞外に分泌されるものもある。心臓、胃、骨格筋、神経、胸腺、腎臓、胎盤などに存在する。β−ガラクトシドやCD45, CD3,CD4等に結合する。細胞の増殖促進効果、細胞死の誘導、また免疫応答に影響を与えることが知られている。また、ラミニン、インテグリンなどの細胞外マトリックスの構成成分や細胞受容体に特異的に結合し、細胞接着や移動に大きな影響を与えている。遺伝子配列情報(Galectin−1,J.Biol.Chem.264:1310−1316,1989,BT006775)。アミノ酸配列情報(Galectin−1,J.Biochem.104:1−4,1988,P09382)。
【0019】
Galectin−3は、分子質量35,678Daの細胞内タンパク質である。IgEに結合する、ガラクトース特異的なレクチン。主な発現は大腸の上皮や活性化マクロファージにおいて見られる。ガレクチン3は表皮角化細胞によって産生され皮膚のランゲルハンス島の表面に存在し、IgEと結合して免疫系を調節しているという報告がある。遺伝子配列情報(Galectin−3,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.87:7324−7328,1990,AB006780)。アミノ酸配列情報(Galectin−3,P17931)。
【0020】
Galectin−7は、分子質量14,944Daの細胞内タンパク質である。一般的には細胞間どうし、細胞と細胞外マトリックス間で細胞の増殖を制御している。アポトーシス関連タンパク質でJNKの活性やシトクロームCの放出を制御している。細胞質、核、また細胞外にも分泌されている。ヒト表皮で最初にクローニングされたガレクチンサブファミリーのメンバーで、培養表皮角化細胞の研究からガレクチン7は角質化の程度に影響を受けず、総ての表皮細胞に発現する。遺伝子配列情報(Galectin−7,Dev.Biol.168:259−271,1995,L07769),アミノ酸配列情報(Galectin−7,J.Biol.Chem.270:5823−5829,1995,P47929)。
【0021】
IGFBP−3は、分子質量31,660Daの分泌タンパク質である。一般的にIGFと結合することにより半減期までの時間が長くなる。細胞培養においては細胞増殖を抑制もしくは促進する。細胞表面でIGF受容体に結合する。IGFBP−3はIGF−1よりIGF−2に対して結合力が高い。組織中においてはほとんどん組織において発現が見られる。遺伝子配列情報(Insulin−like growth factor binding protein−3,J.Biol.Chem.265, 12642−12649,1990,M35878)。アミノ酸配列情報(Insulin−like growth factor binding protein−3,J.Biol.Chem.265, 14892−14898,1990, P17936)。
【0022】
Enolase−1は、分子質量47,038Daの細胞内タンパク質である。2−phospho−D−glycerate=phosphoenolpyruvate+HOの酵素活性を持ち解糖系で働く。また一部は細胞増殖、アレルギーにも関与するという報告がある。白血球や神経では細胞表面においてプラスミノーゲンの活性化を制御しフィブリンを形成するのに関与している。二量体の安定な構造を持つにはマグネシウムが必要である。細胞質内に局在するが、ホモダイマーのみ細胞膜にも見られる。α−enolaseはほとんどの組織に発現し、β−enolaseは筋組織、γ−enolaseは神経組織のみに発現している。遺伝子配列情報(Alpha enolase,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.83:6741−6745,1986,M14328)。アミノ酸配列情報(Alpha enolase,Enzyme Protein 48:37−44,1995,P06733)。
【0023】
Annexin IIは、分子質量38,473Daの細胞内タンパク質である。一部細胞外へ分泌されるという報告もある。カルシウムで制御される膜結合タンパク質でこのタンパク質には二つのカルシウムイオンが結合する。細胞膜近傍に局在している。2組あるannexinリピートのうち、1つはカルシウムが結合し、1つはリン脂質が結合する。このタンパク質は細胞膜にあるリン脂質に結合しているアクチンや細胞骨格系のタンパク質と架橋したり、tPAを介してプラスミノーゲンを活性化したりする。遺伝子塩基配列情報(Annexin A2,Gene 95:243−251,1990,BC015834)。アミノ酸配列情報(Annexin A2,J.Biol.Chem.266:5169−5176,1991,P07355)。
【0024】
Ezrinは、分子質量69,268Daの細胞内タンパク質である。下記のRadixin、Moesinは同族の分子。主に細胞骨格系のタンパク質を細胞膜につなぐ働きをしている。細胞膜のmicrovilliと呼ばれる糸状突起の内側に局在する。腸上皮細胞のmicrovilliを構成している。チロシンキナーゼによってリン酸化される。遺伝子配列情報(Ezrin,J.Biol.Chem.264:16727−16732,1989,X51521)。アミノ酸配列情報(Ezrin,Biochem.Biophys.Res.Commun.224:666−674,1996,P15311)。
【0025】
Radixinは、分子質量68,564Daの細胞内タンパク質である。主に細胞骨格系タンパク質と細胞膜とをつなぐ働きをしている。遺伝子配列情報(Radixin,Genomics16:199−206,1993,L02320)。アミノ酸配列情報(Radixin,P35241)。
【0026】
Moesinは、分子質量67,689Daの細胞内タンパク質である。主に細胞骨格系タンパク質と細胞膜とをつなぐ働きをしている。異常な分化をした表皮角化細胞において発現が低下するという報告がある。遺伝子配列情報(Moesin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.88:8297−8301,1991,M69066)。アミノ酸配列情報(Moesin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.88:8297−8301,1991,P26038)。
【0027】
Gelsolinは、分子質量85,698Daの分泌タンパク質である。細胞外へ分泌されるものと細胞内で働くタイプの2つがある。細胞外へ分泌されたものはフィブロネクチンと結合する。ゲルゾリンは、重合核形成によるアクチン線維伸長の促進、アクチン線維の切断、およびその末端の保護という、3つのアクチン重合調節機能を持つ。これらの両面性の機能を通じて重合−脱重合という両局面を制御し、細胞運動において重要な役割を担っている。血小板や繊維芽細胞で多く発現がみられる。遺伝子情報(Gelsolin,Nat.323,455−458,1986,X04412)。アミノ酸配列情報(Gelsolin,Nat.Biotechnol.21.566−569,2003,P06396)。
【0028】
Keratin 7は、分子質量51,287Daの細胞骨格タンパク質で中間系フィラメントの成分である。腺細胞を含む多様な上皮細胞で発現が見られる。尿管の移行上皮、胆管、肺、乳腺上皮でも発現している。一部、腫瘍マーカーとしても使用されている。遺伝子配列情報(Keratin 7,J.Cell Biol.107:1337−1350,1988,AF509887)。アミノ酸配列情報(Keratin,type II cytoskeletal 7,P08729)。
【0029】
Keratin 10は、分子質量59,519Daの細胞骨格タンパク質である。Keratin 1とヘテロ四量体を作る、中間系フィラメントの成分である。皮膚全般に見られるが特に有棘層に多く見られる。遺伝子情報配列(Keratin 10,J.Mol.Biol.204:841−856,1988,M19156)。アミノ酸配列情報(Keratin,type I cytoskeletal 10,Electrophoresis 13:960−969,1992,P13645)。
【0030】
Keratin 13は、分子質量49,586Daの細胞骨格タンパク質である。ケラチン4とヘテロ四量体を作る中間系フィラメントの成分である。舌、食道、上皮、尿路上皮などで発現が見られる。遺伝子配列情報(Keratin 13,Gene 215:269−279,1998,X52426)。アミノ酸配列情報(Keratin, type I cytoskeletal 13,P13646)。
【0031】
Keratin 14は、分子質量51,490Daの細胞骨格タンパク質である。ケラチン5とヘテロ四量体を作る中間系フィラメントの成分である。上皮に存在し、特に基底層に近いところにおいて発現が多く見られる。上皮系の未分化マーカーとしても使われている。遺伝子配列情報(Keratin 14, Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82:1609−1613,1985,BC002690)。アミノ酸配列情報(Keratin,type I cytoskeletal 14,P02533)。
【0032】
Keratin 15は、分子質量49,167Daの細胞骨格タンパク質である。中間系フィラメントの成分である。主に上皮基底層に局在している。遺伝子配列情報(Keratin 15, J.Cell Biol.106:1249−1261,1988,X07696)。アミノ酸配列情報(Keratin,type I cytoskeletal 15,P19012)。
【0033】
Keratin 16は、分子質量51,136Daの細胞骨格タンパク質である。Keratin 6とヘテロ四量体を作る中間系フィラメントの成分である。毛包、爪、口腔の扁平上皮層、上皮の基底層、手掌の上皮、また汗腺で発現が見られる。細胞の増殖や分化に関与している。遺伝子情報配列(Keratin 16,Biochem.Biophys.Res.Commun.215:517−523,1995,AF061812)。アミノ酸配列情報(Keratin,type I cytoskeletal 16,Electrophoresis 13:960−969,1992,P08779)。
【0034】
Keratin 18は、分子質量47,926Daの細胞骨格タンパク質である。Keratin 8とヘテロ四量体を作る中間系フィラメントの成分である。ほとんどの単層腺上皮に存在する。Keratin 18が欠損している患者は特発性肝疾患になる可能性がある。遺伝子配列情報(Keratin 18,Differentiation 33:61−68,1986,M26325)。アミノ酸配列情報(Keratin,type I cytoskeletal 18,Electrophoresis 18:605−613,1997,P05783)。
【0035】
Keratin 19は、分子質量44,106Daの細胞骨格タンパク質である。ケラチンの中で一番分子量が小さい。中間系フィラメントの成分である。ほとんどの単層上皮、非角質化型重層上皮で多く発現している。また、すべての腺癌で発現している。遺伝子配列情報(Keratin 19,J.Invest.Dermatol.92:707−716,1989,Y00503)。アミノ酸配列情報(Keratin,type I cytoskeletal 19,Electrophoresis 13:960−969,1992,P08727)。
【0036】
Keratin 20は、分子質量48,486Daの細胞骨格タンパク質である。中間系フィラメントの成分である。正常細胞では腸管上皮、消化管上皮、胃幽門上部に存在する内分泌細胞や尿管上皮、皮膚のメンケル細胞に存在する。大腸癌などの特異的マーカータンパク質として用いられている。遺伝子配列情報(Keratin 20,Differentiation 53:75−93,1993,BC031559)。アミノ酸配列情報(Keratin,type I cytoskeletal 20,P35900)。
【0037】
β2−microglobulinは、分子質量13,175Daの分泌タンパク質である。HLAクラスI抗原(組織適合性抗原)のL鎖。多くの細胞表面に存在している。腎機能障害や各種悪性腫瘍などの診断の指標として使用されている。一部切断型が見られるがそれらの意義についてはあまり明らかになってない。遺伝子配列情報(Beta−2−microglobulin,J.Immunol.139:3132−3138,1987,AB021288)。アミノ酸配列情報(Beta−2−microglobulin, Biochemistry 12:4811−4822(1973), P61769)。
【0038】
上記のタンパク質は、前駆体タンパク質であっても、成熟タンパク質であってもよく、また、切断型であっても、非切断型であってもよい。前駆体タンパク質としては、プロタンパク質、プレプロタンパク質などを挙げることができる。プロタンパク質、プレプロタンパク質などには、分泌タンパク質の特徴的な配列であるシグナルペプチドを持つものもある。
【0039】
本発明の方法において、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現を測定してもよいし、その遺伝子発現を測定してもよい。例えば、ノーザンブロット法、PCR法、ウェスタンブロット法、免疫組織化学分析法などで測定することができる。あるいはまた、cDNAマイクロアレイ、ELISA法、抗体アレイなどを利用して測定してもよい。
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現をタンパク質レベルで測定するためには、測定の対象となるタンパク質を特異的に認識する抗体を用いるとよい。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれであってもよい。これらの抗体は公知の方法で製造することができるし、また、市販されているものもある。ウェスタンブロット法で測定する場合には、抗体は、125I標識プロテインA、ペルオキシダーゼ結合IgGなどを用いて二次的に検出される。免疫組織化学分析法で測定する場合には、抗体は、蛍光色素、フェリチン、酵素などで標識するとよい。
【0040】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の遺伝子発現をRNAレベルで測定するためには、測定の対象となるタンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを用いるとよい(ノーザンブロット法で測定する場合)。あるいはまた、測定の対象となるタンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマー及び前記mRNAを鋳型として合成されるcDNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマーからなる1対の核酸プライマーを用いてもよい(PCR法で測定する場合)。核酸プローブ及び核酸プライマーは、測定の対象となるタンパク質の遺伝子情報に基づいて設計することができる。核酸プローブは、通常、約15〜1500塩基のものが適当である。核酸プローブは、放射性元素、蛍光色素、酵素などで標識するとよい。核酸プライマーは、通常、約15〜30塩基のものが適当である。
【0041】
本発明において、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現の有無を検出してもよいし、発現量を測定してもよい。タンパク質及び/又はそのmRNAの発現の有無は所定の位置におけるスポットやバンドの出現の有無により確認できる。タンパク質及び/又はそのmRNAの発現量はスポットやバンドの染色強度により測定できる。あるいはまた、タンパク質及び/又はそのmRNAを定量してもよい。複数の遺伝子発現や複数のタンパク発現を同時に検出するためには、DNAアレイ(プローブを基板に固定)(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME 1, DECEMBER 2002, 951−960)、プロテインチップ(抗体を基板に固定)(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME 1, SEPTEMBER 2002, 683−695)、ルミネックス(NATURE REVIEWS, DRUG DISCOVERY, VOLUME 1, JUNE 2002, 447−456)等の検出法を用いることが好ましい。
【0042】
皮膚細胞及び皮膚組織はいかなる生物に由来するものであってもよく、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物などに由来するものを挙げることができる。ヒトの皮膚の老化度を判定するためには、ヒト由来組織を使用する必要がある。
本発明の方法においては、皮膚の老化度を判定するためには、皮膚生検試料、あるいはそこから得られる培養皮膚細胞、培養皮膚組織などを用いることができる。
皮膚細胞としては、表皮角化細胞、皮膚繊維芽細胞、ランゲルハンス細胞、メラニン細胞、肥満細胞、内皮細胞、皮脂細胞、毛乳頭細胞、毛母基細胞などを挙げることができる。皮膚細胞は、国内ではヒューマンサイエンス研究資源バンク、理化学研究所細胞銀行、海外ではthe American Type Culture Collectionから供給される。またClontech社、クラボウ社、PromoCell社から購入できる。また、公知の方法により皮膚から採取することができる(分子生物学研究のための新細胞培養実験法,p57−71,羊土社,1999)。
皮膚組織としては、皮膚の角層、表皮、真皮などを挙げることができる。皮膚組織は、Biochain社、Super Bio Chips社から購入できる。また、公知の方法により皮膚から採取することができる(Acta.Derm.Venereol.,85,389−393,2005)。
皮膚モデルはクラボウ社、TOYOBO社などから市販されており、これらを使用することが出来る。また、公知の方法{J.Invest.Dermatol.,104(1),107−112,1995}により作製することもできる。
皮膚生検試料は、細胞であっても、組織であってもよい。皮膚生検試料としては、後述の実施例に記載のように、皮膚の角層を角層チェッカーなどのテープにより採取したものを用いるとよい。角層チェッカーは角層の不全角化度や細胞面積を測定し、肌荒れの程度や角層のターンオーバー速度を評価するための角層サンプルを採取する際に従来から使用されている(化粧品の有用性・評価技術の進歩と将来展望,日本化粧品技術者会,薬事日報社,p95−96)。カウンセリング店舗や自宅で簡単に安全に角層サンプルを採取でき、非浸襲で角層からタンパク質を得る方法として非常に有用である。
皮膚の老化度とは、加齢により生じたしわ、たるみなどの皮膚の老化現象の程度を言う。しわ、たるみは加齢により進行することが明らかである。また、加齢に加えて紫外線曝露によりしわ、たるみ、くすみ、しみの進行度は増す。しわ、たるみは公知の方法により測定できる(化粧品の有用性・評価技術の進歩と将来展望,日本化粧品技術者会,薬事日報社,154−158,169−175,179−182,187−190,2001)。
また、加齢に伴いしわやたるみが形成されてくると、皮膚の内部では表皮細胞および皮膚線維芽細胞などの皮膚の細胞の増殖能が低下することが知られている。よって皮膚の細胞の増殖能の低下を指標に皮膚の老化度を判定することが出来る。1例として、繰り返し継代して細胞老化させた表皮角化細胞および皮膚線維芽細胞ではsenescence−associated β−galactosidase(SA−β−Gal)が増加し、SA−β−Galの増加はヒトの皮膚老化と相関することが報告されている(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,92,9363−9367,1995)。よって、本試験において、繰り返し継代して細胞老化させた表皮角化細胞を用いて見出した各種タンパク質はヒトの皮膚老化マーカーとして利用できる可能性が高い。
【0043】
本発明の1例として、皮膚の老化度は、以下のような基準で判定することができる。
実施例2に示すKeratin 7、Keratin 15およびKallikrein 7の分析例のように、各年代のボランティアから皮膚検体を入手し、特定のマーカータンパク質の発現量を測定し、それらの発現量と皮膚老化の指標として知られている皮膚弾力性やしわの程度の標準曲線を作成する。標準検体と分析検体の発現量の比較から、分析検体の皮膚老化度を判定する。β2−microglobulinについては、各年代のボランティアから皮膚検体を入手し、切断型と非切断型の比率の平均値を算出しておき、その発現量と皮膚老化の指標として知られている皮膚弾力性やしわの程度の標準曲線を作成する。標準検体と分析検体の発現量の比較から、分析検体の皮膚老化度を判定する。
【0044】
本発明は、皮膚の老化度を判定するためのキットも提供する。
1例として、本発明のキットは、皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質を特異的に認識できる抗体を含む。分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択することが好ましい。キットには、さらに、皮膚組織を採取するためのテープ、テープ上のタンパク質を免疫化学的に検出するための試薬一式、取扱説明書などが含まれてもよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、皮膚の老化度の判定基準なども記載しておくとよい。
【0045】
別の1例として、本発明のキットは、皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを含む。分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択することが好ましい。キットには、さらに、皮膚組織を採取するためのテープ、テープ上の皮膚組織からRNAを抽出するための試薬類、RNAをノーザンブロット法で分析するための試薬類、取扱説明書などが含まれてもよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、皮膚の老化度の判定基準なども記載しておくとよい。
【0046】
さらに別の1例として、本発明のキットは、皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマー及び前記mRNAを鋳型として合成されるcDNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマーからなる1対の核酸プライマーを含む。分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択することが好ましい。キットには、さらに、皮膚組織を採取するためのテープ、テープ上の皮膚組織からRNAを抽出するための試薬類、RNAをRT−PCR法で分析するための試薬類、取扱説明書などが含まれるとよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、皮膚の老化度の判定基準なども記載しておくとよい。
【0047】
本発明は、皮膚の老化防止に効果のある物質を同定する方法も提供する。この方法は、以下の工程:
(a)被験物質と皮膚細胞及び/又は皮膚組織を接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質と接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織を所定時間培養する工程、
(c)工程(b)で培養した皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現を測定する工程であって、前記分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は皮膚の老化により発現が変化するものである前記工程、及び
(d)工程(c)で測定した分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現を対照の皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現と比較することにより、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む。
【0048】
被験物質は、いかなる物質であってもよく、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ホルモン、多糖、オリゴ糖、単糖、低分子化合物、核酸(DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド等)、脂質、上記以外の天然化合物、合成化合物、それらの混合物などを挙げることができる。
【0049】
皮膚細胞及び皮膚組織については、上記の通りである。
被験物質と皮膚細胞及び/又は皮膚組織との接触は、いかなる方法によってもよく、例えば、被験物質を皮膚細胞及び/又は皮膚組織の培養液に添加する方法、被験物質を塗布又は固定した培養容器又は培養シート上で皮膚細胞及び/又は皮膚組織を培養する方法などを挙げることができる。また、ヒト又はヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタなど)などの生体を用いて、被験物質を直接皮膚に塗布する方法、被験物質を経口投与する方法でもよい。
皮膚細胞及び/又は皮膚組織の培養時間は特に限定されず、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現に対する被験物質の効果の有無が確認できる程度の時間であればよい。例えば、皮膚細胞としてヒト正常表皮角化細胞を用いた場合には、12〜48時間が適当であり、12〜24時間が好ましい。ここで、「皮膚細胞及び/又は皮膚組織を培養する」とは、皮膚細胞及び/又は皮膚組織を生育・増殖させることを言い、これには、単離した皮膚細胞及び/又は皮膚組織を生育・増殖させることの他、皮膚細胞や皮膚組織を有する生体自体を生存させること、飼育すること、養うことなども含まれる。
比較の対照となる皮膚細胞及び/又は皮膚組織は、被験物質を接触させる前の皮膚細胞及び/又は皮膚組織であってもよいし、被験物質を接触させないこと以外は同様の処理を行った皮膚細胞及び/又は皮膚組織であってもよい。
【0050】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択されることが好ましい。
【0051】
本発明の1例として、表皮角化細胞の老化に伴いGRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19およびKeratin 20の発現量は増加していることから、被験物質を接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織において、これらのマーカータンパク質の発現量が対照と比較して減少しており、被験物質がこれらのマーカータンパク質の発現を減少させる効果がある評価できた場合には、この被験物質は、皮膚の老化防止に効果がある物質と同定することができる。
【0052】
また、本発明の別の例として、表皮角化細胞の老化に伴い、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase,Keratin 7の発現量は減少していることから、被験物質を接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織において、これらのマーカータンパク質の発現量が対照と比較して増加しており、被験物質がこれらのマーカータンパク質の発現を増加させる効果があると評価できた場合には、この被験物質は、皮膚の老化防止に効果がある物質と同定することができる。
【0053】
本発明のさらに別の例として、表皮角化細胞の老化に伴い、β2−microglobulinの切断型に対する非切断型の比率が増加していることから、被験物質を接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織において、β2−microglobulinの切断型に対する非切断型の比率が対照と比較して減少しており、被験物質がβ2−microglobulinの切断型に対する非切断型の比率を減少させる効果があると評価できた場合には、この被験物質は、皮膚の老化防止に効果がある物質と同定することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
実験方法
1.細胞培養
正常表皮角化細胞(NHEK,Cambrex Corporation)を無血清基礎培地(KBM,Cambrex Corporation)に添加因子(0.1ng/ml EGF、0.03mg/ml bovine pituitary medium、5μg/ml insulin、0.5μg/ml hydrocortisone、GA−1000)を添加した培地KGM(+)を使用して、37℃、5%COインキュベータ内で培養した。培養液上清(CM;Conditioned medium)および細胞抽出物(CL;Cell lysates)の回収用には、細胞を5×10個/150mmディッシュに播き、2日おきに培地交換し、飽和するまで培養した。継代用には、細胞を1×10個/60mmディッシュに播き、2日おきに培地交換し、80%飽和になった段階で継代した。NHEKはおおよそ5代目まで継代培養でき、今回の実験においては5代目を老化した細胞として使用した。
【0055】
2.正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)の各継代数におけるSA−β‐Galの測定
NHEKの各継代数におけるSA−β‐GalをSenescent Cells Staining Kit(Sigma Corporation)を用いて測定した。継代用とは別に細胞を1×10個/60mmディッシュで3ディッシュに播き、80%飽和になった段階で細胞を2%ホルムアルデヒド/0.2%グルタルアルデヒド水溶液中で、室温で7分間固定した。さらに1×PBS(−)で3回洗浄後、Staining Solutionを加えて37℃、over nightで染色した。3ディッシュ各々について、細胞100個当たりのSA−β‐Gal染色細胞数を計測した。
【0056】
3.CMおよびCLの調製
3−1.CMの調製
NHEKが飽和したディッシュをKBMで2回洗い、KBMに交換して1日培養し、添加因子を完全に取り除いた。さらにKBMに交換して2日後にCMを回収した。回収したCMは130×gで10分間遠心して浮遊細胞を除いた後、10,000×gで30分間遠心し、その上清を回収した。このCMに硫酸アンモニウム(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)を80%飽和になるように加えて、撹拌しながら完全に溶解させて4℃で一晩おいた。その後、25,000×gで30分遠心してタンパク質を沈澱させた。沈殿物を20mM Tris−HCl(pH7.4)で500倍濃縮になるように溶解し、CMを濃縮した。さらに、この濃縮したCMを20mM Tris−HCl(pH7.4)で透析した。
DC protein assay kit(Bio−Rad Loboratories Inc.)を用いてBradford法によりタンパク質を定量し、ウェスタンブロッティング用のサンプルとして使用した。二次元電気泳動用には、調整したCMを凍結乾燥し、乾燥粉末を最終的に500倍濃縮になるように二次元電気泳動用サンプル調製液{6.5M urea(ICN Biomedicals,Inc.)、1.5M thiourea(Sigma Corporation)、0.15% SDS(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、0.85% Triton X−100(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、0.4%CHAPS(Dojindo Loboratories)、2.5mM tributyl phosphine(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)}に溶解し、ドット・ブロット法によりタンパク質を定量した。

3−2.CLの調整
CMを回収した後のディッシュをPBS(−)で3回洗浄後、−30℃で凍結し、細胞膜を破壊した。その後、セルスクレーパー(Sumitomo Bakelite Co., Ltd.)を用いて細胞を回収した後、30秒間超音波処理した。1% Triton X−100を加えた後、4℃で30分間放置した。その後、15,000×g、30分間遠心し、不溶物を取り除き、上清をサンプルとした。ドット・ブロット法によりタンパク質を定量し、ウェスタンブロッティング用のサンプルとして使用した。
【0057】
4.タンパク質の二次元電気泳動(2−DE)解析
4−1.1次元目等電点電気泳動
60μgのタンパク質をゲル膨潤液{5M urea(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、2M thiourea(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、 0.5% ampholytes(pH 3.5〜10)(Amersham Biosciences)、0.0025% orange G(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、2.5mM tributyl phosphine(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、1% Triton X−100}に全量が340μlになるように混合した後、Immobiline Dry−Strip gel(18cm、pH3−10、NL)(Amersham Biosciences)に添加し、20℃で一晩膨潤させた。電気泳動装置(Anatech Corporation)を用いて、1次元目は20℃で500V−2時間、700V−1時間、1000V−1時間、1500V−1時間、2000V−1時間、3000V−1時間、3500V−10時間のプログラムで等電点電気泳動を行った。泳動後、ゲルをSDS平衡化バッファー{5.8M urea、0.06M thiourea、 0.5% dithiothereitol(DTT,Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、25% glycerol(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、0.0025% BPB(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)}に浸して室温で1時間平衡化した。
【0058】
4−2.2次元目SDS−PAGE
2次元目はTris−Tricine系のバッファー{陰極バッファー:0.05M Tris、0.05M Tricine(Bio−Rad Loboratories Inc.)、0.05% SDS、陽極バッファー:1M Tris−HCl(pH8.8)}を用いて18cm×18cmの7.5%アクリルアミドゲルによりSDS−PAGEを行った。

4−3.電気泳動ブロット法
SDS−PAGE終了後のゲルを、セミドライタイプ転写装置(Nihon Eido Co., Ltd.)を用いて、20cm×20cmのPVDF膜 {ProBlot Membranes(Applied Biosystems)}に150mAの定電流で2時間転写した。転写バッファーは陽極1液:0.3M Tris−HCl(pH10.4)、20% メタノール(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、陽極2液:25mM Tris−HCl(pH10.4)、20% メタノール、陰極液:25mM Tris−HCl(pH10.4)、20% メタノール、40mM 6−amino hexanoic acid(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)を用いた。転写後はTTBSバッファー{20mM Tris−HCl(pH7.5)(Bio−Rad Loboratories Inc.)、500mM NaCl(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、0.3% Tween−20(Bio−Rad Loboratories Inc.)で20分間、3回洗浄した後、純水で2分間、3回洗浄した。次にPVDF膜をビニール膜にシーリングして50mlの金コロイド溶液{Colloidal Gold Total Protein Staine(Bio−Rad Loboratories Inc.)}に浸し、1〜2時間振盪させてタンパク質を染色した。その後、金コロイド溶液を除き、純水で1分間、5回洗浄した後、乾燥させた。
【0059】
5.タンパク質の同定
5−1.PVDF膜に転写されたタンパク質の還元S−アルキル化とプロテアーゼ消化
PVDF膜に転写されたタンパク質のスポットを切り取り、チューブに入れて還元用バッファー{8M guanidine−HCl(pH8.5)(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、0.5M Trisbase(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、0.3% EDTA−2Na(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)、5% アセトニトリル(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)を100〜300μl加えた。還元用バッファーに溶解したDTT1mgを加えてチューブ内を窒素ガスに置換して室温、1時間静置してタンパク質を還元した。その後、1M NaCl(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)に溶解したモノヨード酢酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)3mgを加えて遮光状態で15〜20分間撹拌を続けてS−カルボキシメチル化を行った。PVDF膜を取り出し純水で5分間撹拌洗浄後、2%アセトニトリル(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)中で同様に撹拌した。PVDF膜を取り出しLys−C消化用バッファー{70% アセトニトリル/20mM Tris−HCl(pH9.0)}を入れたチューブに移し2〜3回すすいだ後、Lys−C消化用バッファーに浸して1時間プロテアーゼ消化した。

5−2.質量分析とペプチドマスフィンガープリンティング
プロテアーゼ消化した溶液を蒸留水で7倍希釈してアセトニトリル濃度を10%にした。前処理としてZipTipc18ピペットチップ(Millipore Corporation)の充填剤部分を活性化するために50% アセトニトリル/0.1% trifluoro−acetic acid(TFA,Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)で数回、2%アセトニトリル/0.1% TFAで数回吸引、排出を繰り返した。次に活性化したZipTipc18ピペットチップでプロテアーゼ消化液を数回吸引、排出して断片化ペプチドを充填部分に吸着させた。さらに2%アセトニトリル/0.1% TFAを数回吸引、排出して塩類を除いた。50%アセトニトリル/0.1%TFAに溶解した飽和マトリックス溶液0.5〜1.0μlを吸引して10秒間程置いた後、質量分析計の付属のターゲットプローブに滴下した。サンプルを乾固させ、質量分析計(MALDI−TOF MS)で測定した。得られた質量値をもとにデータベース(MS−Fit,Mascot Search)を用いてタンパク質の同定を行った。
【0060】
6.ウェスタンブロット法
ウェスタンブロット用のサンプルを用いてLaemmliのTris−Glycin系によりSDS−PAGEを行った。SDS−PAGE後、ゲル中のタンパク質を1cmあたり0.8mAの定電流でPVDF膜(Millipore Corporation)に転写後、5% スキムミルク/PBS(−)に浸して、4℃、overnightでブロッキングした。PVDF膜を0.1% Tween20/PBS(−)で3回洗浄した後、1次抗体溶液に浸して室温で1時間振盪した。
【0061】
使用した1次抗体の種類と希釈率は次の通りである:rabbit anti−maspin polyclonal antibody(Santa Cruz Biotechnology)(1000倍希釈)、mouse anti−cystatin A monoclonal antibody(Sigma)(1000倍希釈)、rabbit anti−kallikrein 7 polyclonal antibody(Santa Cruz Biotechnology)(1000倍希釈)、sheep anti−PAI−1 polyclonal antibody (Biopool)(1000倍希釈)、mouse atni−PAI−2 monoclonal antibody(American Diagnostica)(1000倍希釈)、rabbit anti−uPA polyclonal antibody(Santa Cruz Biotechnology)(1000倍希釈)、rabbit anti−matriptase polyclonal antibody(Calbiochem)(1000倍希釈)、rat anti−GRP94 monoclonal antibody(Stressgeen)(1000倍希釈)、mouse anti−HSP70 monoclonal antibody(Santa Cruz Biotechnology)(1000倍希釈)、mouse anti−HSP90 monoclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology)(1000倍希釈)、rabbit anti−enolase−1 polyclonal antibody (Santa Cruz Biotechnology)(1000倍希釈)、rabbit anti−annexin II polyclonal antibody(Santa Cruz Biotechnology)(1000倍希釈)、rabbit anti−ezrin/radixin/moesin polyclonal antibody(Chemicon)(1000倍希釈)、mouse anti−gelsolin monoclonal antibody(Sigma Corporation)(1000倍希釈)、mouse anti−galectin−1 monoclonal antibody(R&D Systems)(1000倍希釈)、mouse anti−galectin−3 monoclonal antibody (Novocastra Laboratories)(1000倍希釈)、mouse anti−galectin−7 monoclonal antibody(R&D Systems)(1000倍希釈)、goat anti−IGFBP−3 polyclonal antibody(Santa Cruz Biotechnology)(1000倍希釈)、rabbit anti−matriptase polyclonal antibody (Calbiochem) (1000倍希釈)、mouse anti−β2−microglobulin monoclonal antibody(Sigma)(1000倍希釈)、mouse anti−keratin3 monoclonal antibody(Cymbus Biotechnology)(1000倍希釈)、mouse anti−keratin5 monoclonal antibody(Chemicon International Inc.)(1000倍希釈)、mouse anti−keratin7 monoclonal antibody(Chemicon)(1000倍希釈)、mouse anti−keratin8 monoclonal antibody(Chemicon)(1000倍希釈)、mouse anti−keratin10 monoclonal antibody(Chemicon)(1000倍希釈)、mouse anti−keratin13 monoclonal antibody(Cymbus Biotechnology)(500倍希釈)、mouse anti−keratin14 monoclonal antibody(Cymbus Biotechnology)(500倍希釈)、mouse anti−keratin15 monoclonal antibody(Cymbus Biotechnology)(500倍希釈)、mouse anti−keratin16 monoclonal antibody(Cymbus Biotechnology)(500倍希釈)、mouse anti−keratin17 monoclonal antibody(Chemicon)(1000倍希釈)、mouse anti−keratin18 monoclonal antibody(Chemicon)(1000倍希釈)、mouse anti−keratin19 monoclonal antibody(Cymbus Biotechnology社)(500倍希釈)、mouse anti−keratin20 monoclonal antibody(Cymbus Biotechnology)(500倍希釈)
【0062】
1次抗体として、sheep anti−PAI−1 polyclonal antibody、mouse atni−PAI−2 monoclonal antibody、rabbit anti−uPA polyclonal antibody、rabbit anti−matriptase polyclonal antibodyを使用した場合は、2次抗体としてbiotinylated anti−goat IgG (Vector Laboratories)(1000倍希釈)またはbiotinylated anti−sheep IgG(Vector Laboratories)(1000倍希釈)を用いた。2次抗体溶液に浸して室温で1時間振盪した。次に、alkaline phosphatase−conjugated avidin D(Vector Laboratories)(1000倍希釈)溶液に浸して室温で1時間反応させた。次に、0.6mg/ml 5−bromo−4−chloro−3−indolylphosphate(Vector Laboratories)、1.2mg/ml nitrobluetetrazolium(Vector Laboratories)、0.1M Tris−HCl(pH9.5)、5mM MgCl(Wako chemicals,Japan)て発色させた。
【0063】
上記以外の1次抗体を使用した場合は、2次抗体としてHorseradish peroxidase labeled anti−mouse IgG (Amersham Bioscience)(5000倍希釈)、Horseradish peroxidase labeled anti−rabbit IgG (Amersham Bioscience)(5000倍希釈)、Horseradish peroxidase labeled anti−rat IgG (Amersham Bioscience)(5000倍希釈)またはHorseradish peroxidase labeled anti−goat IgG (Santa Cruz)(5000倍希釈)を使用した。次にEnhanced chemiluminescence(ECL)キット(Amersham Bioscience)を用いて検出した。
【0064】
7.皮膚老化マーカーとしての判定
ウェスタンブロット法により検出したタンパク質の発現量をNIH imageにより数値化し、5代目のタンパク質の発現量を2代目のタンパク質の発現量で割った値を算出した。算出した値が2.0以上の場合は表皮角化細胞の老化に伴い発現量が有意に増加したと判定し、0.5未満の場合は表皮角化細胞の老化に伴い発現量が有意に減少したと判定した。一方、算出した値が0.5以上2.0未満の場合は表皮角化細胞の老化に伴う発現変化はないと判定した。
【0065】
実験結果
1.表皮角化細胞の老化に伴う形態変化
ヒト正常細胞は一定回数分裂すると増殖が停止する。この現象は細胞老化と呼ばれるが、この分裂回数は細胞種によって異なる。今回実験で用いたヒト表皮角化細胞は繰り返し継代することによりおおよそ5代目で増殖が停止する。図1(a)では150mmディッシュが飽和になるまでの日数を各継代数でプロットしたものを示している。ディッシュが飽和になるまでの日数が1代目では6日間かかったのに対して5代目では28日間と1代目〜5代目まで指数関数的に増殖速度が遅くなっている。さらに6代目では完全に増殖が停止した。また、細胞の形態も2代目に比べて5代目では細胞の大きさが2倍程大きくなり、細胞老化で観察される扁平肥大化の形態を示した{図1(b)}。
また、繰り返し継代した表皮角化細胞の増殖が低下する原因として、細胞老化あるいは最終分化の可能性がある。そこで、実際に表皮角化細胞が老化しているかを判別するために、最終分化では発現せず、細胞老化でのみ発現することが知られており、表皮角化細胞の老化と皮膚組織での老化のマーカーとして同定されたSA−β−Galの活性を調べた(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,9363−9367,1995)。2代目ではSA−β−Galを示すような青く染色された細胞は見られなかったが、5代目では青く染色された細胞が約半数まで増えた(図2)。
以上の結果から2代目の細胞を若い細胞、5代目の細胞を老化細胞として用いて、細胞老化マーカーの探索を行った。
【0066】
2.表皮角化細胞の老化に伴って変化する分泌タンパク質の二次元電気泳動による解析
2〜5代目のCMを調製し、2次元電気泳動により発現が変化するタンパク質を解析した(図3)。若い細胞(2代目)と老化した細胞(5代目)の細胞培養上清液(CM)のスポットを比較したところ、細胞老化に伴って発現が減少したタンパク質が19個(表1)、細胞老化に伴って発現が増加したタンパク質が49個同定された(表2)。同定されたタンパク質にはMaspin、Cystatin AおよびHSP 27など既知の皮膚老化マーカーが含まれており、本試験で実施した2次元電気泳動による解析は皮膚老化に伴って変化するタンパク質を同定するのに適切な方法であると考えられた。本試験では超微量タンパク質(1 femto−mol以下)の同定を可能とする技術を用いたことから、既知の皮膚老化マーカータンパク質以外にも新規の皮膚老化マーカータンパク質が同定された。表皮角化細胞の老化に伴って発現が減少した主な分泌タンパク質としてはβ−2 microglobulin、PAI−1およびKallikrein 7等が同定された。一方、表皮角化細胞の老化に伴って発現が増加した分泌タンパク質としてはMoesin、Keratin 1およびKeratin 9等が同定された。
【0067】
2次元電気泳動解析により表皮角化細胞の老化に伴って発現が減少したタンパク質を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
2次元電気泳動解析により表皮角化細胞の老化に伴って発現が増加したタンパク質を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
3.表皮角化細胞の老化に伴って発現が変化する分泌タンパク質および細胞内タンパク質のウェスタンブロッティングによる解析
上記のタンパク質の老化に伴う発現変化をさらに確認するために、それぞれの抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。2次元電気泳動による分析ではタンパク質量をそろえて比較解析した。しかし、表皮角化細胞は老化とともに形態も変化し扁平肥大化することから、同じ飽和状態でも細胞数が異なってくる。実際に細胞1個当たりの分泌タンパク質量を計算すると細胞培養上清液(CM)、細胞溶解液(CL)、細胞外マトリックス(ECM)のどのサンプルにおいても表皮角化細胞の老化に伴ってタンパク質量が増加することがわかった。そこで、細胞数をあわせたものとタンパク質量をあわせたものの2つのサンプルについて、ウェスタンブロッティングにより各タンパク質の発現量の変化を調べた。細胞数をあわせたものとタンパク質量をあわせたもので、どちらが表皮角化細胞の老化を調べる上で適しているかを検証するために、皮膚老化に伴ってダメージが蓄積する皮膚基底膜の主要構成成分であり、基底膜ケアの重要な成分であるLaminin 5(Laminin α3、Laminin β3、Laminin γ2の3量体){J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn.,総説,35(1),1−7,2001}および皮膚老化に伴って発現が低下することが知られているFibronectin{Ann Pathol.,4(3),185−94,1984}の発現変化を調べた。その結果、CMにおけるLaminin 5の発現は、細胞数であわせたものでは変化がないが、タンパク質量であわせたものでは発現量が減少した(図4)。同様に、CMにおけるFibronectinの発現は、細胞数であわせたものでは増加したが、タンパク質量であわせたものでは発現量が減少した。以上の結果から、タンパク質量をあわせたもので発現変化を解析する方が適切であることが判明した。
ここでは、各種抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果として細胞数をあわせたもの、タンパク質量をあわせたものの両方を示しているが、前述の結果からタンパク質量をあわせたものの結果により表皮角化細胞の老化との相関の有無を判断した。
【0072】
まず、プロテアーゼおよびプロテアーゼインヒビターでは、セリンプロテアーゼインヒビターであるMaspin、PAI−2、システインプロテアーゼインヒビターであるCystatin Aが老化に伴って発現量が増加した{図5(a)(b)}。一方、セリンプロテアーゼであるKallikrein 7、uPA、膜結合型セリンプロテアーゼであるMatriptase、セリンプロテアーゼインヒビターであるPAI−1が老化に伴って発現量が減少した。また、β2−microglobulinは酸性プロテアーゼにより切断を受けることが知られているが、老化に伴って切断型(13kDa)が減少し、非切断型(14kDa)が増加することがわかった{図5(a)}。
細胞内タンパク質である熱ショックタンパク質の一種であるHSP 70、HSP 90、GRP 94(GRP 94のみシグナルペプチドを持つ)は老化に伴ってCMへの分泌が多くなるが、CLでの発現量は変化しなかった(図6)。
細胞内の解糖系酵素であるEnolase−1、細胞膜のリン脂質と結合するAnnexin II、細胞骨格系タンパク質であるEzrin/Moesin/Radixinは老化に伴ってCMへの分泌量が増加することがわかった(図7)。細胞骨格系タンパク質であるGelsolinはCMへの分泌量は変化しなかったが、CLでの発現量は増加した(図7)。
レクチンファミリーの1つであるGalectin−1、Galectin−3、Galectin−7およびIGFBP−3は表皮角化細胞の老化に伴って細胞外に分泌されたタンパク質の発現量が有意に増加した(図8)。一方、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7およびIGFBP−3はCLには検出されなかった(図8)。
細胞骨格系タンパク質であるKeratinの中で13種類(Keratin 3、5、7、8、10、13、14、15、16、17、18、19および20)について調べた。その結果、Keratin 10、13、14、15、16、18、19および20は表皮角化細胞の老化に伴い細胞内での発現が有意に増加した(図9)。一方、ケラチン7は表皮角化細胞の老化に伴い細胞内での発現が有意に減少した(図9)。Keratin 3、5、8および17は発現が変化しなかった。Keratin類はCMには検出されなかった。
1次元ウェスタンブロッティング解析により表皮角化細胞の老化に伴って発現が変化したタンパク質を表3にまとめた。
【0073】
1次元ウェスタンブロッティング解析により表皮角化細胞の老化に伴って発現が変化したタンパク質を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
〔実施例2〕
実験方法
1.目尻の弾力性およびしわ体積率の測定
20〜60歳代の女性59名を対象に、目尻の弾力性およびしわ体積率を測定した。目尻の弾力性は吸引弾力性をCutemeter(Courage + Khazaka electronic GmbH)により測定した。吸引弾力性は、肌の弾力性の指標となる測定方法であり、加齢に伴って弾力性が低下することが明らかになっている。目尻のしわ体積率は、二剤混合型レプリカ剤であるスキンキャスト(Yamada Cosmetic Laboratories)を用いて目尻のレプリカを採取し、レプリカ画像解析によりしわの体積率を計測した。レプリカ画像解析は反射用レプリカ解析システムASA−03RXDを使用して行った。ASA−03RXDを用いて、採取したレプリカに角度30度の平行光を照射する事により得られるシワの形状に応じた陰影画像をCCDカメラで撮像し、コンピュータに取り込み画像処理することでレプリカ表面のしわ体積率(μm/mm/100)を計測した。しわ体積率は、加齢に伴って増加することが明らかになっている。
【0076】
2.目尻の角層からのタンパク質の抽出
20〜60歳代の女性59名を対象に、目尻から角層チェッカー(Asahibiomed Co., Ltd.)を用いて角層を剥離し、そこからタンパク質抽出溶液を用いてタンパク質を抽出した。具体的には、被験者の目尻に角層チェッカーを貼り、指先で軽く擦り付けた。これを3回繰り返した。その後、3枚の角層チェッカーに貼り付いた角層にそれぞれ50μlのタンパク質抽出溶液{50mM Tris−HCl(pH7.5)、120mM NaCl、0.4% Igepal CA−630(Sigma−Aidrich Co.)}を加え、セルスクレーパーを用いて角層をタンパク質抽出溶液に馴染ませた後、溶液を1.5mlのプラスチックチューブ(Eppendorf AG)に回収した。
10,000×g、15分間遠心し、不溶物を沈殿させ、上清を新しい1.5mlのプラスチックチューブに回収した。回収したサンプルのタンパク質量をDC assay kitを用いて測定した。
3.皮膚老化マーカーの測定
目尻角層から抽出したタンパク質10μgを用いて、実施例1に記載したKeratin 7、Keratin15およびKallikrein 7の抗体を用いてウェスタンブロット法により検出した。検出したバンドの強度をデンシトロメーター(Molecular Dinamics Co., Ltd.)により測定し、NIH imageにより数値化した。
【0077】
実験結果
表皮角化細胞の老化に伴って発現が変化するタンパク質の中で、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 15およびKallikrein 7についてヒトの皮膚老化度との相関があるかどうかを調べた。
KeratinについてはKeratin 10が皮膚老化に伴って発現が低下することが明らかになっていることから、Keratin 10とKeratin 7およびKeratin 15でどの種類のKeratinがヒトの皮膚老化度との相関があるかどうかを調べた。Keratin 10とKeratin 15の年齢との相関を調べた結果、Keratin 10は年齢との相関は見られず、Keratin 15は年齢との相関が見られたことから、Keratin 15は既存の皮膚老化マーカーに比べてもより適切な皮膚老化マーカーであることが明らかになった(図10および図11)。
ヒトの皮膚老化度の指標として、加齢との相関が明らかになっている目尻の弾力性としわ体積率を用いた。本試験で皮膚老化度を測定した20〜60歳代の女性59名においても、加齢に伴って目尻の弾力性は有意に減少し、しわ体積率は有意に増加した(図12および13)。
Keratin 7の発現量と目尻の弾力性との相関を図14に、Keratin 15の発現量と目尻の弾力性との相関を図15に示した。Keratin 7の発現量は目尻弾力性の低下に伴って有意に減少し、ケラチン15の発現量は目尻弾力性の低下に伴って有意に増加した。Keratin 7の発現量としわ体積率との相関を図16に、Keratin 15の発現量としわ体積率との相関を図17に示した。Keratin 7の発現量は目尻しわ体積率の増加に伴って有意に減少し、ケラチン15の発現量は目尻しわ体積率の増加に伴って有意に増加した。
また、Kallilrein 7について皮膚老化度と発現の相関を調べた。Kallilrein 7の発現量と目尻の弾力性との相関を図18に、Kallilrein 7の発現量と目尻のしわ体積率との相関を図19に示した。Kallilrein 7の発現量は目尻弾力性の低下に伴って有意に減少し、目尻のしわ体積率の増加に伴って有意に減少した。
以上の結果から、表皮角化細胞の細胞老化を指標に見出した3種のマーカー(Keratin 7、Keratin 10およびKallikrein 7)がヒトの皮膚老化度と相関することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
細胞老化に伴って発現が増加あるいは減少するタンパク質および切断型から非切断型に変化するタンパク質を見出した。これら新たに見つかったタンパク質は皮膚老化の診断マーカーとして化粧品のカウンセリングシステム等への応用が期待出来る。また、これらのタンパク質の発現を指標としてより有効な化粧品や健康食品を開発することも期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を測定することを含む、皮膚の老化度を判定する方法であって、前記分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は皮膚の老化度により発現が変化するものである前記方法。
【請求項2】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、Plasminogen activator inhibitor(PAI)−1、Urokinase plasminogen activator(uPA)、Matriptase、Glucose regulated protein(GRP) 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、Insulin growth factor binding protein(IGFBP)−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現をタンパク質レベルで測定する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の遺伝子発現をRNAレベルで測定する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質を特異的に認識できる抗体を含む、皮膚の老化度を判定するためのキット。
【請求項6】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される請求項5記載のキット。
【請求項7】
皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを含む、皮膚の老化度を判定するためのキット。
【請求項8】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される請求項7記載のキット。
【請求項9】
皮膚の老化により発現が変化する分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質のmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマー及び前記mRNAを鋳型として合成されるcDNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プライマーからなる1対の核酸プライマーを含む、皮膚の老化度を判定するためのキット。
【請求項10】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、β2−microglobulin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される請求項9記載のキット。
【請求項11】
皮膚の老化防止に効果のある物質を同定する方法であって、以下の工程:
(a)被験物質と皮膚細胞及び/又は皮膚組織を接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質と接触させた皮膚細胞及び/又は皮膚組織を所定時間培養する工程、
(c)工程(b)で培養した皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を測定する工程であって、前記分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質は皮膚の老化により発現が変化するものである前記工程、及び
(d)工程(c)で測定した分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現を対照の皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現と比較することにより、皮膚細胞及び/又は皮膚組織における分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質の発現及び/又はその遺伝子発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む前記方法。
【請求項12】
分泌タンパク質及び/又は細胞内タンパク質が、Kallikrein 7、PAI−1、uPA、Matriptase、GRP 94、HSP 70、HSP 90、Galectin−1、Galectin−3、Galectin−7、IGFBP−3、Enolase−1、Annexin II、Ezrin、Radixin、Moesin、Gelsolin、Keratin 7、Keratin 10、Keratin 13、Keratin 14、Keratin 15、Keratin 16、Keratin 18、Keratin 19、Keratin 20およびβ2−microglobulinからなる群より選択される請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−189602(P2012−189602A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−103365(P2012−103365)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2007−532124(P2007−532124)の分割
【原出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【出願人】(592032197)財団法人木原記念横浜生命科学振興財団 (4)
【Fターム(参考)】