説明

皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法

【課題】被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価する方法等を提供する。
【解決手段】老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における9種のマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価する。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体にマーカー物質を捕捉して、体液中のマーカー物質の濃度を算出する構成が推奨される。該評価方法を用いる物質のスクリーニング方法、該評価方法を簡便に行うことができるキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法に関し、さらに詳細には、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中におけるマーカー物質の濃度を指標し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価する皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法、該評価方法を簡便に行うことができる皮膚老化改善・進行遅延効果の評価用キット、並びに、該評価方法を用いて皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質をスクリーニングする物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療技術の進歩によって平均寿命が飛躍的に延びた現在、人々の関心は疾病の治療から予防へとシフトしつつある。特に、年齢を重ねても質の高い生活を維持できるように、加齢や老化の原因に対して早めに対処することを目的とした抗加齢医学(アンチエイジング)が、予防医学の代表例として注目を集めている。
【0003】
加齢や老化によってもたらされる外観上の変化として、皮膚の変化が挙げられる。すなわち、年齢を重ねるにつれて皮膚にシワ、たるみ、水分量の低下等の老化による皮膚症状が生じるようになる。当該の皮膚症状を改善するための外用剤や経口剤が多数開発されており(例えば特許文献1)、ビタミンCやビタミンEといった抗酸化物質の皮膚老化改善効果も知られている。
【0004】
また上述した予防医学の観点から、疾病等の将来の発症リスクを検出することができるようなバイオマーカー、すなわち「予防マーカー」あるいは「リスクマーカー」と呼ばれるマーカー物質の探索が盛んに行われている。老化による皮膚症状のリスクマーカーとしての皮膚老化マーカーがあれば、例えば、皮膚老化の進行度を判定することが可能となり、事前に適切な処置を行って皮膚老化の進行を遅延させることが可能となる。また、老化による皮膚症状のリスクマーカーを用いることで、被験物質が皮膚老化の進行を遅延させるような効果を有するかを容易に調べることも可能となり、食品素材や化粧品素材の機能性評価やスクリーニングにも有用である。そして、そのような評価・スクリーニング系で選抜された食品素材を含む食品を日常的に摂取したり、選抜された化粧品素材を含む化粧品を皮膚に塗布して体内に吸収させることで、皮膚老化の改善や進行遅延を容易に行うことが可能となる。特許文献2には、皮膚老化に対応して発現量が変化する遺伝子群の開示がある。
【特許文献1】国際公開第2007/125832号パンフレット
【特許文献2】特開2007−259851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、体液中に存在する皮膚老化マーカーは特定されておらず、老化による皮膚症状のリスクマーカーの存在も知られていない。本発明の目的は、老化による皮膚症状のリスクマーカーとなり得るマーカー物質を新たに特定し、該マーカー物質を用いて被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価する方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における下記マーカー物質(M1)〜(M9)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価することを特徴とする皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
(M1)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4620のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5740のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6030のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約21400のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約59600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4390のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7030のイオンピークを生じるタンパク質、
(M9)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約28000のイオンピークを生じるタンパク質。
【0007】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法は、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における上記(M1)〜(M9)の9種のマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価するものである。上記マーカー物質(M1)〜(M9)は、いずれも老化による皮膚症状の発症直前あるいは発症初期の段階にある動物の体液中で特異的に検出されるタンパク質であり、老化による皮膚症状の予防マーカー・リスクマーカーとして有用なものである。本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法によれば、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を、容易かつ高精度に評価することができる。なお、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0008】
ここで、各マーカー物質における質量/電荷比(以下、「m/z」と略記することもある。)の「約4620」、「約21400」、「約59600」等の値は、質量分析における測定値の誤差範囲を考慮した値であり、概ね±0.2%の幅を有する。すなわち、約4620は概ね4620±0.2%、約21400は概ね21400±0.2%、約59600は概ね59600±0.2%を表す。他の質量/電荷比についても全く同様に、概ね±0.2%の幅を有する。また、これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質である。被験物質が皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(M5)、(M8)、及び(M9)の濃度はより低値を示し、マーカー物質(M1)、(M2)、(M3)、(M4)、(M6)、及び(M7)の濃度はより高値を示す。
【0009】
請求項2に記載の発明は、下記(1)〜(6)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
(1)マーカー物質(M3)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M4)は血漿レチノール結合タンパク質又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M5)はヘモペキシン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M7)はα1−アンチトリプシン1−2又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(6)マーカー物質(M9)はアポリポタンパク質A1又はその修飾体である。
【0010】
血清アルブミン(serum albumin)、血漿レチノール結合タンパク質(plasma retinol-binding protein)、ヘモペキシン(hemopexin)、α1−アンチトリプシン1−2(alpha-1 antitrypsin 1-2)、アポリポタンパク質C1(apolipoprotein C1)、及びアポリポタンパク質A1(apolipoprotein A1)はいずれも物理化学的性質がよく知られているので、本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法によればマーカー物質(M3)、(M4)、(M5)、(M7)、(M8)、(M9)の解析が容易である。
【0011】
「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質である。「修飾」には化合物や官能基の付加(例:リン酸化)のみならず、脱離(例:脱リン酸化)も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。さらに「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。なお、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0012】
同様の課題を解決するための請求項3に記載の発明は、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における下記マーカー物質(A1)〜(A6)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価することを特徴とする皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)血漿レチノール結合タンパク質又はその修飾体、
(A3)ヘモペキシン又はその修飾体、
(A4)α1−アンチトリプシン1−2又はその修飾体、
(A5)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(A6)アポリポタンパク質A1又はその修飾体。
【0013】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法は、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における上記(A1)〜(A6)のいずれかに属する少なくとも1つのマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価するものである。上記(A1)〜(A6)に属するマーカー物質は、いずれも老化による皮膚症状の発症直前あるいは発症初期の段階にある動物の体液中で特異的に検出されるタンパク質であり、老化による皮膚症状の予防マーカー・リスクマーカーとして有用なものである。本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法によれば、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を、容易かつ高精度に評価することができる。特に、血清アルブミン、血漿レチノール結合タンパク質、ヘモペキシン、α1−アンチトリプシン1−2、アポリポタンパク質C1、及びアポリポタンパク質A1はいずれも物理化学的性質がよく知られているので、解析が容易である。なお本発明においても、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0014】
本発明においても「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質であり、「修飾」には化合物や官能基の付加のみならず、脱離も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォーム、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質、並びに、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。さらに、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記基準値は、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有さない既知物質を投与した際の、該動物の体液中における前記マーカー物質の濃度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
【0016】
かかる構成により、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を、より容易かつ高精度に評価することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物は、紫外線照射下で飼育された無毛動物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
【0018】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法では、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物として、紫外線照射下で飼育された無毛動物を用いる。かかる構成により、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物を容易に設定することができ、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果をきわめて容易に評価することができる。
【0019】
前記被験物質を経口的又は経皮的に投与する構成が推奨される(請求項6)。
【0020】
請求項7に記載の発明は、前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
【0021】
かかる構成により、測定試料となる体液を簡単に採取でき、より簡便かつ迅速に、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価することができる。
【0022】
請求項8に記載の発明は、前記被験物質は、食品素材、化粧品素材、又は医薬品素材であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
【0023】
かかる構成により、機能性食品、化粧品、又は医薬品の開発を目的として、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
【0025】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を使用する。そして、該担体に体液又は体液成分を接触させて、体液又は体液成分に含まれるマーカー物質を、マーカー物質に対する親和性を有する物質を介して担体上に捕捉し、捕捉されたマーカー物質の量に基づいて体液中のマーカー物質の濃度を算出する。本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法によれば、担体上に捕捉されたマーカー物質を測定対象とするので、測定試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、体液成分の例としては、体液が血液である場合の血清又は血漿が挙げられる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項9に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
【0027】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法では、平面部分を有する担体を用い、マーカー物質に対する親和性を有する物質は該平面部分の一部に固定化されている。かかる構成により、マーカー物質に対する親和性を有する物質を、担体上の複数箇所にスポット的に固定化することができる。その結果、1個の担体で複数の測定試料を同時処理することや、1個の担体で複数のマーカー物質の濃度を同時測定することが可能となり、作業効率がよい。さらに、各スポットの面積を小さくすることにより、微量の測定試料からでもマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、平面部分を有する担体の例としては、チップ等の基板が挙げられる。
【0028】
請求項11に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項9又は10に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法である。
【0029】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質としてイオン交換体又は抗体を用い、イオン交換体又は抗体を介して測定試料中のマーカー物質を担体上に捕捉する。当該物質がイオン交換体の場合は各種のものが入手容易であり、マーカー物質を捕捉するための担体を容易に調製することができる。また、当該物質が抗体の場合は、より特異的にマーカー物質を捕捉することができる。捕捉されたマーカー物質の量を測定する方法としては、質量分析、イムノアッセイ(抗体の場合)が挙げられる。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法によって被験物質を評価し、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法である。
【0031】
本発明は物質のスクリーニング方法にかかり、動物の体液中における上記(M1)〜(M9)の各マーカー物質および上記(A1)〜(A6)に属する各マーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質をスクリーニングするものである。上記(M1)〜(M9)の各マーカー物質および上記(A1)〜(A6)に属する各マーカー物質は、いずれも老化による皮膚症状の発症直前あるいは発症初期の段階にある動物の体液中で特異的に検出されるタンパク質であり、老化による皮膚症状の予防マーカー・リスクマーカーとして有用なものである。本発明の物質のスクリーニング方法によれば、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。例えば、被験物質が食品素材の場合は、皮膚老化の改善効果を有する機能性食品又は進行遅延効果を有する機能性食品の開発に有用な食品素材をスクリーニングすることができる。
【0032】
請求項13に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする皮膚老化改善・進行遅延効果の評価用キットである。
【0033】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む。かかる構成により、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0034】
請求項14に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項13に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価用キットである。
【0035】
かかる構成により、マーカー物質をより確実に担体上に捕捉することができる。
【0036】
皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質をスクリーニングするために使用される構成が推奨される(請求項15)。
【発明の効果】
【0037】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法によれば、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を、容易かつ高精度に評価することができる。
【0038】
本発明の物質のスクリーニング方法によれば、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。
【0039】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価用キットによれば、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0041】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法は2つの様相を含む。1つの様相では、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における下記マーカー物質(M1)〜(M9)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価する。
(M1)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4620のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5740のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6030のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約21400のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約59600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4390のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7030のイオンピークを生じるタンパク質、
(M9)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約28000のイオンピークを生じるタンパク質。
【0042】
これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質であり、老化による皮膚症状の発症直前あるいは発症初期の段階にある動物体内で特異的に検出されるものである。なお、(M5)、(M8)、及び(M9)の各マーカー物質(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ1」と称することがある。)は、老化による皮膚症状を発症している状態又は皮膚老化の進行が加速された状態(皮膚老化が急速に進行している状態)でより高値を示すものであるので、被験物質が皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する場合には、当該被験物質を投与した動物においてより低値を示す。一方、(M1)、(M2)、(M3)、(M4)、(M6)、及び(M7)の各マーカー物質(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ2」と称することがある。)は、老化による皮膚症状を発症している状態又は皮膚老化の進行が加速された状態でより低値を示すものであるので、被験物質が皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する場合には、当該被験物質を投与した動物においてより高値を示す。
【0043】
ある条件のペプチドマッピング並びにN末端アミノ酸解析の結果によれば、マーカー物質(M3)は血清アルブミンの断片と同定され得る。また、ある条件のペプチドマッピングによれば、マーカー物質(M4)は血漿レチノール結合タンパク質、マーカー物質(M5)はヘモペキシン(hemopexin)、マーカー物質(M7)はα1−アンチトリプシン1−2の修飾体、マーカー物質(M8)はアポリポタンパク質C1、マーカー物質(M9)はアポリポタンパク質A1と同定され得る。すなわち、ある実施形態では、下記(1)〜(6)の少なくとも1つを満たす。
(1)マーカー物質(M3)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M4)は血漿レチノール結合タンパク質又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M5)はヘモペキシン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M7)はα1−アンチトリプシン1−2又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(6)マーカー物質(M9)はアポリポタンパク質A1又はその修飾体である。
【0044】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法の他の様相では、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における下記(A1)〜(A6)のいずれかに属する少なくとも1つのマーカー物質の濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価する。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)血漿レチノール結合タンパク質又はその修飾体、
(A3)ヘモペキシン又はその修飾体、
(A4)α1−アンチトリプシン1−2又はその修飾体、
(A5)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(A6)アポリポタンパク質A1又はその修飾体。
【0045】
なお、マウス由来の血清アルブミン、血漿レチノール結合タンパク質、ヘモペキシン、α1−アンチトリプシン1−2、アポリポタンパク質C1、及びアポリポタンパク質A1のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1〜6に示すとおりである。
【0046】
タンパク質の修飾の例としては、N末端αアミノ基やリジンεアミノ基のメチル化、アセチル化、アデニリル化、ミリスチル化等;セリン・スレオニン・アスパラギンへの糖又は糖鎖の付加;セリン・スレオニン・チロシン・アルギニン・ヒスチジンのリン酸化;システインのシステイニル化、ホモシステイニル化、スルホニル化等;グルタミン酸のγ−カルボキシル化;N末端グルタミン酸のピログルタミン酸への変換、等が挙げられる。また、これらの修飾の脱離(脱メチル化、糖又は糖鎖の脱離、脱リン酸化等)も「修飾」に含まれる。
【0047】
「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。アイソフォームとしては、前記した各種の修飾の他、選択的スプライシングによって生じたタンパク質が挙げられる。さらに、「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。例えば、当該タンパク質由来と認められうる長さのタンパク質断片、例えば20個以上のアミノ酸残基からなるタンパク質断片、分子量が2千以上のタンパク質断片、等が挙げられる。また、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0048】
例えば、血清アルブミン(配列番号1)のC末端側55アミノ酸からなるタンパク質断片(配列番号7)は「血清アルブミンの修飾体」に含まれる。
【0049】
また、α1−アンチトリプシン1−2(配列番号4)の353番目のMetと354番目のSerとの間が切断され得ることが知られている。その結果生じるC末端側36アミノ酸からなるタンパク質断片(配列番号8)は「α1−アンチトリプシン1−2の修飾体」に含まれる。さらに、配列番号8のタンパク質断片のN末端のSerがチロシン化された修飾体や、配列番号4において353番目のMetの酸化によって切断位置がシフトし、352番目のProと353番目のMetとの間が切断されて生じるタンパク質断片(C末端側37アミノ酸)も、「α1−アンチトリプシン1−2の修飾体」に含まれる。
【0050】
また、シグナル配列が切断された後のアポリポタンパク質C1(配列番号5)のN末端アミノ酸配列は「Ala−Pro」から始まるが、これら2つのアミノ酸は切断され得ることが報告されている(Oleg Chertov et al., Proteomics, Vol. 4, No. 4, 2004)。このようなN末端の2アミノ酸が欠損したアポリポタンパク質C1の断片は「アポリポタンパク質C1の修飾体」に含まれる。
【0051】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法では、(M1)〜(M9)の各マーカー物質並びに(A1)〜(A6)に属する各マーカー物質の1つだけを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。複数を用いる場合の組み合わせ方については特に限定はないが、例えば、グループ1から選択したマーカー物質(1つ又は複数)とグループ2から選択したマーカー物質(1つ又は複数)とを組み合わせることができる。
【0052】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法の好ましい実施形態では、上記基準値として、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有さない既知物質を投与した際の、該動物の体液中における前記マーカー物質の濃度を用いる。すなわち、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有さない既知物質を投与した場合、その体液中の上記マーカー物質の濃度は「異常値」となる。そして、被験物質を投与した上記動物における値(測定値)と当該基準値(異常値)とを比較し、測定値が基準値と有意に差がありかつ正常側である場合(正常側に維持された場合)に、当該被験物質が皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有すると評価することができる。具体的には、グループ1に属するマーカー物質を指標とする場合は、測定値が当該基準値に比べて有意に低いときに、一方、グループ2に属するマーカー物質を指標とする場合は、測定値が基準値に比べて有意に高いときに、当該被験物質が皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0053】
さらに、基準値は複数あってもよい。例えば、上記の異常値に加え、老化による皮膚症状を発症していない動物又は皮膚老化の進行が遅い動物における値(正常値。陰性対照。)を基準値に加えることができる。具体的には、(1)老化による皮膚症状を発症していない動物又は皮膚老化の進行が遅い動物に、普通食又は被験物質を投与する群(正常値を示す群)、(2)老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物(皮膚老化の進行が速い動物)に、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有さない既知物質を投与する群(異常値を示す群)、及び、(3)老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与する群、の計3群を設定し、動物を飼育する。そして、各動物の体液中の上記マーカー物質を測定し、各測定値を比較する。このとき、(1)と(2)とで有意差があり、(3)と(2)とで有意差があり、かつ(3)が(2)に比べて正常側((1)に近い側)である場合(正常側に維持された場合)に、当該被験物質が皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0054】
さらに、基準値として、(4)老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する既知物質を投与する群、の動物における値(陽性対照)を加えることもできる。具体的には、上記(1)〜(3)に加えて、上記(4)の群を設定し、動物を飼育する。このとき、(1)と(2)とで有意差があり、(3)と(2)とで有意差があり、かつ(3)が(2)に比べて正常側((1)及び(4)に近い側)である場合に、当該被験物質が皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有すると評価することができる。すなわち、このような被験物質は、(4)で採用した上記既知物質と同様の挙動を示し、同様の作用を有する物質といえる。「皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する既知物質」の例としては、ヘリピロンA(helipyrone A;例えば国際公開第2007/125832号パンフレットに記載)が挙げられる。
【0055】
好ましい実施形態では、「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」として紫外線照射下で飼育した無毛動物を用いる。例えば、ヘアレスマウス、ヘアレスラットといった各種の無毛動物がすでに作出されており、これらを入手して使用することができる。この際、皮膚老化の程度は、例えば、しわの形態や皮膚表面の乾燥度を指標として評価することができる。なお、紫外線照射以外に、薬剤塗布によって皮膚老化を誘発させることも可能である。
【0056】
後述の実施例で示すとおり、Hos:HR1ヘアレスマウスを紫外線照射下で飼育すると、紫外線照射4〜5週で軽微なシワ形成が認められる。この段階のマウスは、老化による皮膚症状の発症直前あるいは発症初期の状態にあるといえる。本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法で用いるマーカー物質(M1)〜(M9)及び(A1)〜(A6)のいずれかに属するマーカー物質は、紫外線照射4〜5週の当該マウスの体液中に存在し、老化による皮膚症状の発症直前や発症初期の状態ではないマウス(例えば、正常マウス)と比較してその体液中の濃度に有意差を示す。したがって、本発明において紫外線照射下でヘアレスマウスを飼育する系を採用する場合には、例えば、紫外線照射4〜5週ごろの体液を測定試料として各マーカー物質の濃度を測定すればよい。
【0057】
被験物質を投与する経路としては特に限定はないが、好ましくは、経口的又は経皮的に投与する。経口的に投与する場合には、例えば、被験物質を含有させた食餌を摂取させればよい。経皮的に投与する場合には、例えば、被験物質を含有する軟膏、クリーム、ローション、溶液、パウダー、ゲル等を皮膚に塗布すればよい。パップ剤として皮膚に貼付し、体内に吸収させてもよい。
【0058】
「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」における動物の種類には特に限定はなく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ等を採用することができる。さらに、動物としてヒトを採用することもできる。この場合には、臨床試験の結果によって物質を評価することになる。
【0059】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法において使用する動物の体液としては、血液が好ましく用いられる。特に、血液から調製した血清又は血漿(体液成分)を測定試料とすることが好ましい。血清又は血漿は遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0060】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法における被験物質としては、食品素材、化粧品素材、医薬品素材などが挙げられる。例えば、食品素材を評価対象とする場合は、機能性食品の開発に役立てることができる。
【0061】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法において、マーカー物質の濃度を測定する方法は、そのマーカー物質の濃度を特異的に測定できる方法であれば、タンパク質の定量に一般に用いられている方法をそのまま用いることができる。例えば、各種のイムノアッセイ、質量分析(MS)、クロマトグラフィー、電気泳動等を用いることができる。
【0062】
イムノアッセイによれば、夾雑物質の多い試料のままでも正確にマーカー物質の濃度を測定することができる。イムノアッセイの例としては、抗原抗体結合物を直接的又は間接的に測定する沈降反応、凝集反応、溶血反応などの古典的な方法や、標識法と組み合わせて検出感度を高めたエンザイムイムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)等の方法が挙げられる。なお、これらのイムノアッセイに用いるマーカー物質に特異的な抗体は、モノクローナルでもよいし、ポリクローナルでもよい。
【0063】
質量分析によれば、各マーカー物質由来のイオンピークを特定し、そのイオンピーク強度をもって各マーカー物質の量(濃度)を測定することができる。質量分析によってマーカー物質の濃度を測定する場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time-of-flight mass spectrometer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカー物質由来のイオンピークを特定することができる。
【0064】
電気泳動によりマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、検査材料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供して目的のマーカー物質を分離し、適宜の色素や蛍光物質でゲルを染色し、目的のマーカー物質に相当するバンドの濃さや蛍光強度を測定すればよい。SDS−PAGEだけではマーカー物質の分離が不十分な場合は、等電点電気泳動(IEF)と組み合わせた2次元電気泳動を用いることもできる。さらに、ゲルから直接検出するのではなく、ウエスタンブロッティングを行って膜上のマーカー物質の量を測定することもできる。
【0065】
クロマトグラフィーによってマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)による方法を用いることができる。すなわち、試料をHPLCに供して目的のマーカー物質を分離し、そのクロマトグラムのピーク面積を測定することにより試料中のマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0066】
好ましい実施形態では、マーカー物質を担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカー物質を測定対象とする。すなわち、マーカー物質に対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカー物質を担体上に捕捉する。そして、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。本実施形態において用いることができる担体の例としては、ビーズ、金属、ガラス、樹脂等のような一般的なものの他、基板のような、平面部分を有する担体を用いることができる。基板を用いる場合は、その平面部分の一部にマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基板としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカー物質に親和性を有する物質を固定化した担体が挙げられる。なお「親和性」の例としては、イオン結合、金属キレート体とタンパク質中のヒスチジン残基等とのアフィニティ、抗原と抗体、酵素と基質、若しくはホルモンとレセプターのようなバイオアフィニティ、及び、疎水性相互作用のような化学的な相互作用、が挙げられる。
【0067】
イオン結合によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陽イオン交換体、陰イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体のいずれも用いることができるが、強陰イオン交換体と弱陽イオン交換体が好ましく用いられる。強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。
【0068】
金属キレート体を介してマーカー物質を捕捉する場合は、例えば、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Al3+、Fe3+、Ga3+等の金属キレート体を固定化した担体を用いることができる。
【0069】
抗体によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、マーカー物質に特異的な抗体を担体に固定化すればよい。
【0070】
疎水性相互作用によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0071】
本実施形態においてマーカー物質の測定方法にイムノアッセイを用いる場合は、抗体を固定化した担体を用いることが好ましい。このようにすれば、担体に固定化された抗体を1次抗体としたイムノアッセイの系を簡単に構築することができる。例えば、マーカー物質に特異的でエピトープの異なる2種類の抗体を用意し、一方を1次抗体として担体に固定化し、他方を2次抗体として酵素標識し、サンドイッチEIAの系を構築することができる。その他、結合阻止法や競合法によるイムノアッセイの系も構築可能である。さらに、担体として基板を用いる場合は、抗体チップによるイムノアッセイが可能である。抗体チップによれば、複数のマーカー物質の濃度を同時に測定でき、迅速な測定が可能である。
【0072】
一方、本実施形態において質量分析を用いる場合は、例えば、抗体の他、イオン交換体、金属キレート体又は疎水基を固定化した担体を用いることができる。なお、これらの物質による結合は抗原と抗体等のバイオアフィニティほどの特異性がないので、これらの物質を固定化した担体を用いる場合はマーカー物質以外の物質も担体上に捕捉されうるが、質量分析によれば分子量を反映した質量分析計スペクトルによって定量するので、問題はない。特に、担体として基板を用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface-enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time-of-flight mass spectrometry)(以下、「SELDI−TOF−MS」と称する)を行うことにより、マーカー物質の濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に弱陽イオン交換基板と、陰イオン交換基板、特に強陰イオン交換基板が好ましく用いられる。
【0073】
本発明の物質のスクリーニング方法は、本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法によって被験物質を評価し、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質をスクリーニングするものである。本発明の物質のスクリーニング方法においても、上記した本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法の実施形態と全く同様の実施形態をとることができる。
【0074】
本発明の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法を簡便に行なうために、必要な試薬類をまとめて評価用キットを構築することができる。当該評価用キットとしては、例えば、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むものが挙げられる。特に、担体として、CM等の弱陽イオン交換体、あるいはQAやQAE等の強陰イオン交換体を固定化した基板を含めた評価用キットによれば、SELDI−TOF−MS等を簡便に行なうことができる。本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、前処理用の各種緩衝液等を含めてもよい。なお本キットは、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質をスクリーニングするためのキットとしても使用できる。本発明のキットの構成例を以下に挙げる。
【0075】
〔キットの構成例〕
(1)弱陽イオン交換基板:1枚
(2)強陰イオン交換基板:1枚
(3)基板洗浄用バッファーA(pH3.0):適量
(4)基板洗浄用バッファーB(pH9.0):適量
(5)各マーカー物質の標準品:各適量
【0076】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0077】
1.紫外線照射皮膚障害モデル動物を使った動物実験
皮膚老化モデルとして、紫外線照射下でヘアレスマウスを飼育する系を採用した。まず、紫外線照射の有無と飼料の組み合わせが異なる以下の4つの群を設定した。各群の個体数は5匹以上とした。
第1群:紫外線照射なし+通常飼料
第2群:紫外線照射あり+通常飼料
第3群:紫外線照射あり+ヘリピロンA含有飼料
第4群:紫外線照射なし+ヘリピロンA含有飼料
すなわち、第1群は皮膚老化の進行が遅い群、第2群は皮膚老化が急速に進行する群、第3群は老化による皮膚症状の発症が抑制される群、に相当する。第4群はヘリピロンAの作用検証用の群である。飼育条件等の詳細は以下のとおりとした。
【0078】
〔動物種〕
・Hos:HR1ヘアレスマウス(雌、5週齢)
・5週齢より飼育開始(混餌投与を開始)、6週齢より紫外線照射開始
〔飼料〕
・通常飼料:MF(オリエンタル酵母工業社)
・ヘリピロンA含有飼料:ヘリピロンA(ファンケル社)を0.1%(50mg/kg体重に相当)含有するMF
〔紫外線照射条件〕
・隔日×10週間(16週齢まで)
・B波:20mJ/cm2/日(0.33〜0.36MED)
・A波:14J/cm2/日(強度:40〜45mW/m2
〔各種試験と採血のタイミング〕
・紫外線照射0週(6週齢)、2週(8週齢)、4週(10週齢)、10週(16週齢)の計4回
〔試験項目〕
・シワの形態観察:3D皮膚解析システム(ASA−03RX)によるレプリカ解析(キメ体積率)
・皮表面部乾燥度:簡易水分計(モイスチャーチェッカー)MY707Sによる測定
〔採血方法〕
・道具:26〜27G注射針を1mLシリンジに装着、ヘパリン処理
・採血箇所:心臓(右心室辺り)
・血漿分離:遠心分離まで氷冷、12,000G,4℃で10分間遠心分離、凍結保存
【0079】
〔シワの形態観察の結果〕
第1群と第2群とを比較すると、紫外線照射4週以降においてキメ体積率に有意差が認められ、第2群の方がシワが多かった。第2群と第3群とを比較すると、第4週においてキメ体積率に有意差が認められ、第3群の方がシワが少なかった。
〔皮表面部乾燥度の結果〕
第1群と第2群とを比較すると、紫外線照射10週において水分量に有意差が認められ、第2群の方が水分量が少なかった。第2群と第3群とを比較すると、第10週において水分量に有意差が認められ、第3群の方が水分量が多かった。
【0080】
以上の結果から、紫外線照射4週の時点が老化による皮膚症状の発症直前か発症初期の段階であると判断し、紫外線照射4週の血漿サンプルを以下のプロテオーム解析に供した。
【0081】
2.プロテインチップによる解析とイオンピークの選抜
採取した各血漿サンプル20μLに、変性バッファー(9M 尿素、2% CHAPS、50mM Tris−HCl(pH9.0))30μLを加えて前処理を行い、タンパク質を変性させた。次に、前処理した各体液試料を強陰イオン交換樹脂カラム(Q−Sepharose、GEヘルスケア社)にアプライした。次いで、pH9.0の緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、0.1%(w/v)1−o−N−オクチル−β−D−グルコピラノシド(以下、「OGP」と称する。))、pH5.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH3.0の緩衝液(50mM クエン酸ナトリウム(pH3.0)、0.1%(w/v)OGP)、及び有機溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸、50.0%アセトニトリルからなる混合液)各200μLで順に溶出させ、画分1(pH9.0で溶出、素通り)、画分2(pH5.0で溶出)、画分3(pH3.0で溶出)、画分4(有機溶媒で溶出)の4つの粗分画画分を得た。
【0082】
得られた各画分10μLをpH3.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM クエン酸ナトリウム)で10倍希釈した後、弱陽イオン交換チップCM10(バイオラッド社)に添加した。同様に、得られた各画分10μLをpH9.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0))で10倍希釈した後、強陰イオン交換チップQ10(バイオラッド社)に添加した。各チップを各結合バッファーで3回洗浄した後に脱イオン水で1回洗浄し、乾燥させた。次に、エネルギー吸収分子であるシナピン酸(SPA−H、SPA−L)又はα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を添加し、プロテインチップリーダーModel PBS IIc(バイオラッド社)を用いて、SELDI−TOF−MSを行なった。なお、測定分子量範囲(m/z)は、3000〜200000の範囲で行なった。また、測定は2連で行い、m/zの平均値を算出した。データ解析は、Protein Chip Software、CiphergenExpress Data Manager、及びBiomarker Patterns Software(いずれもバイオラッド社)を用いて行なった。具体的には、ベースライン補正、分子量校正、スペクトルの正規化処理を行なった後、シングルマーカー解析及び数本のマーカーを組み合わせたマルチフロー解析を行なった。その結果、粗分画画分の種類、プロテインチップの種類、チップの洗浄条件等の組み合わせによって多数のピークが検出された。各ピークについて、p値(Mann−Whitney検定法)、ROC面積、及びイオンピーク強度を算出し、さらに、以下の(1)〜(3)の条件を指標として9個の候補ピークを選抜した。
【0083】
(1)候補ピーク探索(基本)
第1群と第2群との間でイオン強度に有意差がある(p<0.05)。
(2)ヘリピロンA効果検証
第2群と第3群との間でイオン強度に有意差があり(p<0.05)、かつ第3群の値の方が第2群の値よりも第1群の値に近い(第3群の値が第1群側に復帰している)。
(3)増減パターン解析
第2群のみが高値または低値を示し、第1群、第3群および第4群の間ではあまり差がない。なお、第3群と第4群との間に差があっても、第4群の値の方が第3群の値よりも第2群から離れている場合には本条件を満たすものとして取り扱う。
【0084】
3.マーカー物質(M1)の特定
画分3(pH3.0)を強陰イオン交換チップQ10に接触させ、pH9.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が4616(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図1に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。図中、髭の上端と下端はそれぞれ最大値と最小値、箱の上辺と下辺はそれぞれ第3四分位(75パーセンタイル)と第1四分位(25パーセンタイル)、箱の中の線は中央値である(図2以降も同じ)。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0085】
ROC面積(第1群vs第2群):0.86
p値(第1群vs第2群):0.003
ROC面積(第2群vs第3群):0.86
p値(第2群vs第3群):0.007
【0086】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約4620のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M1))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M1)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約4620のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0087】
4.マーカー物質(M2)の特定
画分4(有機溶媒)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が5743(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図2に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0088】
ROC面積(第1群vs第2群):0.78
p値(第1群vs第2群):0.016
ROC面積(第2群vs第3群):0.74
p値(第2群vs第3群):0.041
【0089】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約5740のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M2))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M2)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約5740のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0090】
5.マーカー物質(M3)の特定
画分3(pH3.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が6029(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図3に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0091】
ROC面積(第1群vs第2群):0.78
p値(第1群vs第2群):0.041
ROC面積(第2群vs第3群):0.78
p値(第2群vs第3群):0.023
【0092】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6030のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M3))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M3)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約6030のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0093】
6.マーカー物質(M4)の特定
画分2(pH5.0)を強陰イオン交換チップQ10に接触させ、pH9.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が21398(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図4に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0094】
ROC面積(第1群vs第2群):0.90
p値(第1群vs第2群):0.003
ROC面積(第2群vs第3群):0.82
p値(第2群vs第3群):0.028
【0095】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約21400のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M4))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M4)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約21400のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0096】
7.マーカー物質(M5)の特定
画分2(pH5.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が59586(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で低値を示し、第2群で高値を示した。図5に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0097】
ROC面積(第1群vs第2群):0.90
p値(第1群vs第2群):0.002
ROC面積(第2群vs第3群):0.90
p値(第2群vs第3群):0.002
【0098】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約59600のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M5))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M5)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約59600のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0099】
8.マーカー物質(M6)の特定
画分3(pH3.0)を強陰イオン交換チップQ10に接触させ、pH9.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が4020(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図6に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0100】
ROC面積(第1群vs第2群):0.74
p値(第1群vs第2群):0.041
ROC面積(第2群vs第3群):0.82
p値(第2群vs第3群):0.008
【0101】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約4020のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M6))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M6)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約4020のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0102】
9.マーカー物質(M7)の特定
画分2(pH5.0)を強陰イオン交換チップQ10に接触させ、pH9.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が4391(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図7に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0103】
ROC面積(第1群vs第2群):0.86
p値(第1群vs第2群):0.007
ROC面積(第2群vs第3群):0.74
p値(第2群vs第3群):0.049
【0104】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約4390のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M7))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M7)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約4390のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0105】
10.マーカー物質(M8)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が7034(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で低値を示し、第2群で高値を示した。図8に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0106】
ROC面積(第1群vs第2群):0.74
p値(第1群vs第2群):0.028
ROC面積(第2群vs第3群):0.78
p値(第2群vs第3群):0.034
【0107】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約7030のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M8))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M8)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約7030のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0108】
11.マーカー物質(M9)の特定
画分2(pH5.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が27973(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で低値を示し、第2群で高値を示した。図9に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0109】
ROC面積(第1群vs第2群):0.90
p値(第1群vs第2群):0.001
ROC面積(第2群vs第3群):0.86
p値(第2群vs第3群):0.003
【0110】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約28000のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M9))が、老化による皮膚症状を発症しているマウス、又は皮膚老化の進行が加速されたマウスに特異的な物質であり、皮膚老化のマーカーとなり得ることがわかった。これにより、被験物質を投与した「老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物」の体液中におけるマーカー物質(M9)の濃度を指標として、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果の評価、並びに、そのような物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約28000のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、皮膚老化の改善効果、又は進行遅延効果を有すると評価することができる。
【0111】
なお、ヒトの体液中にもマーカー物質(M1)〜(M9)と同等のタンパク質が存在する場合には、ヒトの体液中における当該タンパク質の濃度を指標として、皮膚老化の発症の有無、又は将来の発症リスクを診断できる可能性も示唆された。
【実施例2】
【0112】
1.マーカー物質(M3)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。ICRマウスヘパリン血漿(清水実験材料社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて4℃で20分間変性処理した。変性処理したサンプルを、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)、100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、及び50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)で順に洗浄した後、33.3% イソプロパノール,16.7 アセトニトリル,0.1% TFAで溶出し、ピーク画分を分取した。分取した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M3)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0113】
弱陽イオン交換樹脂HiTrap CM FF(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH5.0)にて平衡化した。分取した前記ピーク画分を、平衡化した前記カラムに添加した。50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH5.0)でカラムを洗浄した後、100mM NaClを含有する50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で溶出し、ピーク画分を分取した。分取した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M3)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0114】
分取した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図10)。図10中、レーン1,2はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約6.0kDaのバンド(図10の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M3)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図11の矢印)。
【0115】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約6.0kDaのバンドを切り出し、還元アルキル化処理した後、0.01μg/μLのトリプシン溶液(50mM 炭酸水素アンモニウム(pH8.0)に溶解)を作用させてゲル内で消化した。消化したサンプル1μLを金属プレート上に滴下し、飽和CHCA溶液0.4μLをさらに滴下して乾燥させた後、質量分析計Proteomics Analyzer 4700(アプライドバイオシステムズ社)で測定したところ、少なくとも2個のピークが検出され、それらの精密質量は、「1850.84」及び「1981.99」と算出された。これらのデータを元にMascotデータベース(マトリックスサイエンス社)によって既知タンパク質を検索し、ペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号9、10で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「血清アルブミン」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第1表に示す。既報の血清アルブミンのアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
あらためて同様のSDS−PAGEを行ってPVDF膜に転写し、約6.0kDaのバンド部分をN末端アミノ酸解析に供した。その結果、配列番号11及び12で表される各10アミノ酸が決定された。これらのアミノ酸配列はマウス血清アルブミン(配列番号1)のC末端側の一部と完全一致していた。さらに、配列番号1のアミノ酸番号554(Ala)からC末端であるアミノ酸番号608(Ala)の部分に相当するタンパク質断片の予想される等電点が5.65、分子量が6019であり、これらの値がSELDI−TOF−MS分析の結果とよく一致した。このことから、マーカー物質(M3)は「血清アルブミンのC末端側の断片」と同定された。当該タンパク質断片に相当する、配列番号1のアミノ酸番号554(Ala)〜608(Ala)の部分のアミノ酸配列を配列番号7に示す。
【0118】
2.マーカー物質(M4)と(M9)の精製と同定
弱陰イオン交換樹脂Macro−Prep DEAE(バイオラッド社)を充填したスピンカラム(5mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。3.0mLのICRマウスヘパリン血漿(清水実験材料社)を20,000G、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清2.5mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,9M 尿素,2% CHAPS)を3.75mL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。非吸着画分を溶出させた後、50mM Tris−HCl(pH9.0)で溶出し、ピーク画分を分取した。分取した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M4)又は(M9)と同等の質量/電荷比を示す各ピークを確認した。
【0119】
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図12)。図12中、レーン1,2はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約28.0kDaのバンド(図12の矢印a)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M9)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図13の矢印)。
【0120】
同様に、分離された約21.4kDaのバンド(図12の矢印b)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M4)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図14の矢印)。
【0121】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約21.4kDaのバンドを切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも14個のピークが検出され、それらの精密質量は「1155.62」、「1485.77」、「1226.64」、「2705.14」、「2079.94」、「3146.45」、「1085.52」、「1241.62」、「1360.66」、「1076.51」、「1523.73」、「2237.04」、「1789.82」、及び「2104.97」と算出された。これらのデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号13〜26で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「血漿レチノール結合タンパク質」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第2表に示す。既報の血漿レチノール結合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0122】
【表2】

【0123】
同様に、約28.0kDaのバンドを切り出し、ゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも21個のピークが検出され、それらの精密質量は「1852.53」、「1265.88」、「1394.06」、「1236.86」、「1596.35」、「1340.01」、「1596.35」、「1098.77」、「842.51」、「1046.68」、「1317.96」、「1129.73」、「826.47」、「1296.90」、「1997.80」、「1885.68」、「1330.93」、「1039.71」、「1300.49」、「1561.26」、及び「989.60」と算出された。これらのデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号27〜47で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質A1」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第3表に示す。既報のアポリポタンパク質A1のアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
3.マーカー物質(M5)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(5mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。1.5mLのマウスヘパリン血漿(Pelfreez社)を20,000G、4℃で10分間遠心し、上清を回収した回収した上清1.0mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,9M 尿素,2% CHAPS)を1.5mL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)でカラムを洗浄した後、50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で溶出し(2段階)、各画分を分取した。分取した画分(2種)に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M5)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0126】
弱陽イオン交換樹脂HiTrap SP HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を50mM MES−NaOH(pH6.0)にて平衡化した。分取した前半の画分2.0mLに対して8mLの50mM MES−NaOH(pH6.0)を加えて希釈した後(5倍希釈)、平衡化した前記カラムに添加した。50mM、70mM、80mM、90mM、100mMのNaClを含有する50mM MES−NaOH(pH6.0)でカラムを順次洗浄した後、1M NaClを含有する50mM MES−NaOH(pH6.0)で溶出し、ピーク画分を回収した。分取した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M5)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0127】
回収した画分をAmicon Ultra(5kDaカット、ミリポア社)で脱塩及び濃縮した後、SDS−PAGE(7.5%ゲル)を行った(図15)。図15中、レーン1,2はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約60kDaのバンド(図15の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M5)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図16の矢印)。
【0128】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約60kDaのバンドを切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも10個のピークが検出され、それらの精密質量は、「793.46」、「1100.57」、「1128.62」、「1212.73」、「1504.91」、「1516.82」、「1727.92」、「1856.02」、「2448.38」、及び「2472.37」と算出された。これらのデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号48〜57で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「ヘモペキシン」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第3表に示す。既報のヘモペキシンのアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0129】
【表4】

【0130】
4.マーカー物質(M7)の精製と同定
弱陰イオン交換樹脂Macro−Prep DEAE(バイオラッド社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。マウスヘパリン血漿(Pelfreez社)1mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl pH9.0,9M 尿素,2% CHAPS)1.5mLを加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)、50mM Tris−HCl(pH7.0)で順次洗浄した後、100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で溶出し、ピーク画分を分取した。分取した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M7)と同等の質量/電荷比を示す約4.4kのピーク、並びに、約4.2kのピークを確認した。
【0131】
弱陽イオン交換樹脂HiTrap CM FF(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)で平衡化した。分取した画分を100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)で10倍希釈した後、ステリフリップHV0.45μm(ミリポア社)でろ過した。ろ過したサンプルを、平衡化した前記カラムに添加した。100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)、及び50mM NaClを含有する同バッファーで順次カラムを洗浄した後、100mM NaClを含有する同バッファーで溶出(画分I)、さらに150mM NaClを含有する同バッファーで溶出(画分II)した。各画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行った。その結果、画分Iではマーカー物質(M7)と同等の質量/電荷比を示す約4.4kDaのピークに加えて約4.2kDaのピークが検出された。一方、画分IIでは約4.2kDaのピークが検出されたが、約4.4kDaの明確なピークは検出されなかった。これら2種の物質は物理化学的性質が互いに似ており、約4.4kDaの物質を単離精製することが困難であった。そのため、画分IとIIとの差分の解析を行うことを試みた。
【0132】
回収した各画分(I、II)の一部をTCA沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図16)。図16中、レーン1は画分I、レーン2は画分II、Mは分子量マーカーである。レーン1で分離された約4.2〜4.4kDaのバンド(図17のバンドA)、レーン2で分離された同様のバンド(図17のバンドB)をそれぞれ切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行った。その結果、バンドA(画分I)からは、マーカー物質(M7)と同等の質量/電荷比を示す約4.4kDaのピークに加えて約4.2kDaのピークが検出された(図18(a))。一方、バンドB(画分II)からは、約4.2kDaのピークが主に検出されたが、約4.4kDaのピークも微量ながら検出された(図18(b))。
【0133】
あらためて同様のSDS−PAGEを行ってバンドB(画分II、約4.2kDa)を切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも1個のピークが検出され、その精密質量は「2648.35」と算出された。このデータを元に上記1と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、このペプチドはそれぞれ配列番号58で表わされるアミノ酸配列(FDHPFLFIIFEEHTQSPIFVGK)のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「α1−アンチトリプシン1−2」と同定され、さらに、予想される分子量(4021)から「α1−アンチトリプシン1−2のC末端側36アミノ酸からなる断片」(配列番号8)と同定された。既報のα1−アンチトリプシン1−2のアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0134】
さらに、バンドA(画分I、約4.4kDa+約4.2kDa)についてペプチドマスフィンガープリンティングを行っても全く同じペプチドが検出され、差分に相当するペプチドは検出されなかった。このことから、約4.4kDaのタンパク質は約4.2kDaのタンパク質の修飾体と考えられた。これらの分子量の差は163であり、修飾の可能性として、N末端のSerのチロシン化や、酸化されたMetのN末端への付加が考えられた。
【0135】
5.マーカー物質(M8)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q−Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。C57BLマウス血漿(清水実験材料社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。非吸着画分を回収し、SELDI−TOF−MSにて精製度を確認した。
【0136】
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0T(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った。図19に結果を示す。図19中、レーン1〜6はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約7.0kDaのバンド(図19の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M8)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図20のa)。
【0137】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約7.0kDaのバンドを切り出し、上記1と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも3個のピークが検出され、それらの精密質量は、「1279.70」、「1299.71」、及び「1042.53」と算出された。これらのデータを元にMascotデータベース(マトリックスサイエンス社)によって既知タンパク質を検索し、ペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、精密質量「1279.70」、「1299.71」、及び「1042.53」のペプチドはそれぞれ配列番号59〜61で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質C1」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第5表に示す。既報のアポリポタンパク質C1のアミノ酸配列は配列番号5に示すとおりである。
【0138】
【表5】

【0139】
なお、図20に示すように、SELDI−TOF−MS分析においてマーカー物質(M8)よりも小さい質量(約6.8kDa)を示すピークも検出された(図20のb)。これら2種のタンパク質は性質が非常に似ていること、並びに、質量の値の比較から、ピークbのタンパク質はアポリポタンパク質C1(配列番号5)のN末端の2アミノ酸(Ala−Pro)が欠損した「アポリポタンパク質C1の修飾体」であると考えられた。アミノ酸配列から計算される質量は、ピークaが6993Da、ピークbが6825Daであった。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】質量/電荷比が4616(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図2】質量/電荷比が5743(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図3】質量/電荷比が6029(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図4】質量/電荷比が21398(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図5】質量/電荷比が59586(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図6】質量/電荷比が4020(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図7】質量/電荷比が4391(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図8】質量/電荷比が7034(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図9】質量/電荷比が27973(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図10】マーカー物質(M3)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図11】マーカー物質(M3)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図12】マーカー物質(M4)及び(M9)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図13】マーカー物質(M9)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図14】マーカー物質(M4)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図15】マーカー物質(M5)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図16】マーカー物質(M5)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図17】マーカー物質(M7)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図18】マーカー物質(M7)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図であり、(a)は画分I、(b)は画分IIの場合を示す。
【図19】マーカー物質(M8)の精製過程で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図20】マーカー物質(M8)の精製過程で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における下記マーカー物質(M1)〜(M9)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価することを特徴とする皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
(M1)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4620のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約5740のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6030のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約21400のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約59600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4390のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約7030のイオンピークを生じるタンパク質、
(M9)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約28000のイオンピークを生じるタンパク質。
【請求項2】
下記(1)〜(6)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
(1)マーカー物質(M3)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M4)は血漿レチノール結合タンパク質又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M5)はヘモペキシン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M7)はα1−アンチトリプシン1−2又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はアポリポタンパク質C1又はその修飾体である、
(6)マーカー物質(M9)はアポリポタンパク質A1又はその修飾体である。
【請求項3】
老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に被験物質を投与して、該動物の体液中における下記マーカー物質(A1)〜(A6)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、被験物質が有する皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を評価することを特徴とする皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)血漿レチノール結合タンパク質又はその修飾体、
(A3)ヘモペキシン又はその修飾体、
(A4)α1−アンチトリプシン1−2又はその修飾体、
(A5)アポリポタンパク質C1又はその修飾体、
(A6)アポリポタンパク質A1又はその修飾体。
【請求項4】
前記基準値は、老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物に、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有さない既知物質を投与した際の、該動物の体液中における前記マーカー物質の濃度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
【請求項5】
前記老化による皮膚症状を発症している動物又は皮膚老化の進行が加速された動物は、紫外線照射下で飼育された無毛動物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
【請求項6】
前記被験物質を経口的又は経皮的に投与することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
【請求項7】
前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
【請求項8】
前記被験物質は、食品素材、化粧品素材、又は医薬品素材であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
【請求項9】
前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
【請求項10】
前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項9に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
【請求項11】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項9又は10に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法によって被験物質を評価し、皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする皮膚老化改善・進行遅延効果の評価用キット。
【請求項14】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項13に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価用キット。
【請求項15】
皮膚老化の改善効果又は進行遅延効果を有する物質をスクリーニングするために使用されることを特徴とする請求項13又は14に記載の皮膚老化改善・進行遅延効果の評価用キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図16】
image rotate

【図18】
image rotate

【図20】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図15】
image rotate

【図17】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2010−19683(P2010−19683A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180348(P2008−180348)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【出願人】(596156174)
【Fターム(参考)】