説明

皮膚補修組成物及びそれのスクリーニング方法

【課題】タンパク質である線維芽細胞増殖因子−1自体を用いなくとも、線維芽細胞増殖因子の作用を発現あるいは増強でき、損傷した皮膚を補修することができる皮膚補修組成物の提供。
【解決手段】線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質、及び線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質の少なくとも何れかの皮膚補修物質を含有する皮膚補修組成物。該皮膚補修物質としては、植物組織の抽出物、特に、ユリ科、イラクサ科、マメ科、バラ科、リンドウ科、シソ科、ゴマノハグサ科、ドクダミ科、サトイモ科、ウコギ科、ウリ科、アサ科、ユキノシタ科、イネ科、ヤシ科、パイナップル科、トウダイグサ科、カンナ科、ツユクサ科、クスノキ科、ショウガ科、クワ科、キク科、ノウゼンカズラ科、ウコギ科、チャセンシダ科、リュウゼンラン科、ラン科、ソテツ科、コショウ科、クロウメモドキ科、サトイモ科、ミズキ科の少なくとも何れかの植物の抽出物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷したり老化したりした皮膚を、補修して、治癒したり若返らせたりする皮膚補修組成物、及びそれを見出すスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体には、主に皮膚を作る線維芽細胞が存在する。この線維芽細胞を増殖させる線維芽細胞増殖因子(FGF)という一群のタンパク質が、今までに20数種類知られている。
【0003】
そのうちの一つのタンパク質である線維芽細胞増殖因子−1は、怪我などで皮膚組織が損傷したとき線維芽細胞を増殖させ傷口を塞いで修復させたり、コラーゲンやヒアルロン酸を産生する線維芽細胞を増殖させたりして、新生細胞を産生させるものである。
【0004】
加齢や紫外線曝露によって皮膚の弾力が低下し弛みや皺が増えたり、乾燥肌となったりするのは、この線維芽細胞増殖因子の活性の低下が一因である。
【0005】
特許文献1には、線維芽細胞増殖因子−1を含み線維芽細胞又は表皮細胞の増殖を促進する組成物が開示されている。
【0006】
線維芽細胞増殖因子−1は、生体に内在する稀少なタンパク質であるため簡便に工業的規模で大量生産できるものでなく、多工程を要する面倒な遺伝子工学によって僅かな量が調製されるに過ぎないものである。そのため内服薬やサプリメントのような内用剤や、化粧品のような外用剤に、線維芽細胞増殖因子−1をふんだんに用いることはできない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−265221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、簡易な構成で、大量に製造でき、線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質や線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質により、タンパク質である線維芽細胞増殖因子−1自体を用いなくとも、それの作用を発現したり増強したりでき、それによって損傷した皮膚を補修することができる皮膚補修組成物を提供することを目的とする。また、数多の候補物質の中から皮膚補修物質を効率よく峻別するためのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の皮膚補修組成物は、線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質、及び線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質の少なくとも何れかの皮膚補修物質を、含有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の皮膚補修組成物は、請求項1に記載されたもので、前記皮膚補修物質が、植物の組織を、水、有機溶媒、水−有機溶媒混合液、水溶液、水溶液−有機溶媒混合液で抽出した抽出液、その抽出液の濃縮物、前記抽出液の精製物、又は前記濃縮物の精製物であることを特徴とする。精製物は、例えば分離精製画分である。
【0011】
請求項3に記載の皮膚補修組成物は、請求項1に記載されたもので、前記植物が、ユリ科、イラクサ科、マメ科、バラ科、リンドウ科、シソ科、ゴマノハグサ科、ドクダミ科、サトイモ科、ウコギ科、ウリ科、アサ科、ユキノシタ科、イネ科、ヤシ科、パイナップル科、トウダイグサ科、カンナ科、ツユクサ科、クスノキ科、ショウガ科、クワ科、キク科、ノウゼンカズラ科、ウコギ科、チャセンシダ科、リュウゼンラン科、ラン科、ソテツ科、コショウ科、クロウメモドキ科、サトイモ科、ミズキ科の少なくとも何れかの植物であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の皮膚補修組成物は、請求項1に記載されたもので、前記植物が、アロエ、イラクサ、ウスベニアオイ、ハリモクシュク、アンズ、クジン、ゲンチアナ、サルビア、ジオウ、ドクダミ、ショウブ、セイヨウキズタ、ナギイカダ、ヘチマ、セイヨウカラハナソウ、ヤグルマソウ、クロゴメ、トウツルモドキ、パイナップル、ダンドク、クロトンノキ、ムラサキオモト、シバニッケイ、ゲットウ、ヒメイタビ、シロバナセンダングサ、クワ、ニンニクカズラ、ホンコンカポック、イヌビワ、オオタニワタリ、ドラセナ、シラン、アコウ、ソウシジュ、クワノハイチゴ、ジュズダマ、カクレミノ、ヒマ、ショウジョウボク、ソテツ、フウトウカズラ、クワズイモ、リュウキュウクロウメモドキ、及びリュウキュウハナイカダの少なくとも何れかであることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の皮膚補修剤は、請求項1に記載の皮膚補修組成物を、含んでいることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の皮膚補修剤は、請求項5に記載されたもので、内用剤、又は外用剤であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の皮膚補修剤は、請求項6に記載されたもので、前記内用剤が、医薬品、医薬部外品、食品添加物、又はサプリメントであり、前記外用剤が、医薬品、医薬部外品、又は化粧品であることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の皮膚補修物質のスクリーニング方法は、線維芽細胞増殖因子−1レセプターを持つ細胞を培養し、その培地又は培養液に被験物質を添加して培養し続け、該細胞の生存数の増減を測定し、その増殖を指標として前記被験物質から皮膚補修物質を峻別することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の皮膚補修物質のスクリーニング方法は、皮膚線維芽細胞を培養し、その培地又は培養液に被験物質を添加して培養し続け、該細胞の生存数の増減を測定し、その増殖を指標として前記被験物質から皮膚補修物質を峻別することを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の皮膚補修物質のスクリーニング方法は、非ヒト哺乳動物の除毛した皮膚に、粘着テープを貼り付けてからそれを剥離する操作を繰り返して、角質を取り除いて前記皮膚を損傷させた後、そこへの被験物質の投与群と非投与群とで、各々の皮膚の経皮水分蒸散量を測定し、前記非投与群よりも前記投与群での前記経皮水分蒸散量の低下を指標として前記被験物質から皮膚補修物質を峻別することを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の皮膚補修物質のスクリーニング方法は、請求項8〜10の何れかに記載のもので、峻別した前記皮膚補修物質が、線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質、及び線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質の少なくとも何れかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の皮膚補修組成物を含有する皮膚補修剤は、簡易な構成で、大量に入手可能な植物のような素材から簡便に得られる線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質や線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質により、それの作用を発現したり増強したりして、損傷した皮膚を補修することができる。この組成物は、大量に製造し難い線維芽細胞増殖因子−1のタンパク質を用いる必要がなく、生産性に優れ高品質のものを安定供給できるものであるから、内用剤や外用剤として、医療や美容のために、汎用できる。さらに、元来、生体内に存在する線維芽細胞増殖因子−1の活性を促進したり、それと同様な薬効活性を示したりするものであるから、安全性が高い。
【0021】
この皮膚補修物質のスクリーニング方法によれば、数多の候補物質、例えば植物抽出液から皮膚補修物質を効率よく簡便に短時間で見つけ出すことができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0022】
以下、本発明の実施のための好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明の皮膚補修組成物は、線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質、及び線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質の少なくとも何れかを有する植物抽出物からなる物質を、含有するものである。
【0024】
この組成物中、植物抽出物をその乾燥重量換算で、0.0001〜0.3w/v(重量/体積)%含んでいることが好ましい。
【0025】
植物抽出物は、一般的には植物の全体、又は植物の特定の組織例えば葉、茎、幹、樹皮、花、実、根、根茎、塊茎等の組織を、生のまま、又は乾燥し、必要に応じ粉砕し、抽出溶媒で抽出したものである。抽出溶媒は、抽出性に優れ、沸点が比較的低い溶媒が好ましく、複数種混合して用いてもよい。より具体的には、水;エタノール等のアルコール、ヘキサン等の炭化水素、酢酸エチル等のエステル、アセトン等のケトンのような有機溶媒;水とこれら有機溶媒との混合液;酸、アルカリ、又は塩の水溶液、例えば生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水;これら水溶液と有機溶媒との混合液が挙げられる。植物抽出物は、用時調製したものであってもよく、調製後保存したものであってもよく、市販品であってもよい。
【0026】
植物の乾燥1重量部に対し、抽出溶媒10〜120重量部で抽出することが好ましい。
【0027】
抽出は、常温下で行ってもよく、加熱して行ってもよい。加圧下で行ってもよい。抽出時間は、植物の種類や形状や形態、抽出溶媒の種類、抽出温度によって適宜調整されるが、1分間〜14日間程度である。抽出にはソックスレー抽出器を用いてもよい。
【0028】
抽出物は、これら溶媒で抽出した後、遠心分離、ろ過、デカンテートしたものであってもよい。抽出物は、そのままでもよいが、さらにそれを濃縮した濃縮物であってもよく、乾固させた後、粉砕した乾燥粉末であってもよく、それらを希釈した希釈液であってもよい。
【0029】
皮膚補修組成物は、線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質や線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質を含んでいる抽出物を、含有するものである。
【0030】
この皮膚補修組成物を含む皮膚補修剤は、液剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、散剤、錠剤、シロップ剤にして、医薬品、医薬部外品、食品添加物、サプリメントのような内用剤として用いてもよい。この皮膚補修剤は、液剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤、坐剤、貼付剤、湿布剤、ゲル、クリーム、フォーム、ミスト、ジェルのような剤型で、皮膚外用剤のような医薬品、医薬部外品、化粧品として用いてもよい。
【0031】
皮膚外用剤である医薬品、医薬部外品、化粧品のような外用剤として、より具体的には、ヘアトニック、ヘアジェル、ヘアクリーム、ヘアトリートメントローション、ヘアフォーム、ヘアミスト、ヘアシャンプー、ヘアリンス、育毛剤;化粧水、乳液、ローション、リップクリームのような顔用化粧品;石鹸、ボディローション、ボディソープ、ボディクリーム;軟膏、硬膏、湿布が挙げられる。
【0032】
外用剤には、ヒアルロン酸やセラミドのような保湿剤;脂肪、ロウ、パラフィン、オリーブ油、グリセリンのような油性成分;α−トコフェノールやL−アスコルビン酸のような抗酸化剤;界面活性剤;紫外線吸収剤;毛包賦活剤;香料;色素;防菌防黴剤;pH調整剤;増粘剤;賦形剤・担持剤;消炎剤、抗炎症剤、血行促進剤、鎮痛剤を含んでいてもよい。
【0033】
皮膚補修組成物が含有している線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質や線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質の物質は、線維芽細胞増殖因子レセプターを持つ細胞例えば線維芽細胞増殖因子レセプター−Ba/F3細胞に添加して培養したり、皮膚線維芽細胞例えば正常ヒト皮膚線維芽細胞に添加して培養したりしたときのその細胞の生存数の増加によって、数多の植物抽出物から峻別される。またこれらの物質は、非ヒト哺乳動物例えばマウスの損傷皮膚からの経皮水分蒸散量の経時的な低下によって、数多の植物抽出物から峻別される。
【実施例】
【0034】
本発明を適用する実施例について、詳細に説明する。
【0035】
先ず様々な植物の抽出物を被験物質として、線維芽細胞増殖因子(FGF)−1の活性促進物質を探索した。
【0036】
(植物の抽出物の調製)
先ず、植物の抽出物を得た。例えば、クロゴメの場合、乾燥重量2gに対し、70%エタノール水溶液20ミリリットルの割合で、室温にて7日間浸漬して、可溶性成分を抽出した。抽出液と抽出残渣との分離は、遠心分離またはろ過によって、行った。得られた上清を被験物質とした。
【0037】
他の植物の全体又は特定した葉や茎等の組織からも同様にして抽出物が得られる。抽出物は、抽出溶媒が水の場合、100℃で20分間抽出し、抽出液と抽出残渣とを遠心分離又はろ過したものであってもよい。抽出物は、市販の抽出物であってもよい。
【0038】
(一次スクリーニング方法及びその評価)
本発明を適用するスクリーニング方法のうち一次スクリーニングとして、遺伝子組み換えマウス細胞を用い、線維芽細胞増殖因子−1に特異的に細胞増殖率が変化する培養条件を検討し、341種の植物の抽出物を被験物質として、細胞増殖率を指標にしてスクリーニングを行った。その詳細を以下に示す。
【0039】
用いた細胞は、FR−Ba/F3細胞である。その親細胞株である「Ba/F3細胞」(マウスIL−3依存性pro−B細胞株)は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターの理研セルバンクから入手可能したものであるが、それ以外の様々なところから自由に入手可能なものである。「FR−Ba/F3」のFRとは、線維芽細胞増殖因子(FGF)レセプターの略であり、線維芽細胞増殖因子−1(FGF−1)を意味しており、具体的には「FGFレセプター 1c」を指している。FR−Ba/F3細胞は、「Ba/F3」へ発現カセット付の「FGFレセプター 1c」のcDNAを遺伝子導入することにより、安定に「FGFレセプター 1c」を発現させたものである。この細胞は、親株である「Ba/F3」と同様に、IL−3依存性、即ちIL−3非存在下では生存・増殖できないという性質を、有している。さらにFRを発現させたことによりFGF−1、さらにFGF−2,5などに対する応答性を獲得し、IL−3非存在下であっても、FGF−1及びヘパリンが存在すれば、生存・増殖可能である。なお、FGFがFRに結合しシグナルを入力する際にはヘパリンの結合が必須である。このスクリーニング方法では、自家培養して対数増殖期にある細胞を使用した。
【0040】
FR−Ba/F3細胞を1.0×10個/mLの濃度に調整し、96穴マイクロプレートで、10%FBS(ウシ胎児血清)存在下、培養した。培養液(SIGMA社製;商品名RPMI−1640)に、FGF−1(PEPRO TECH EC社製;商品名100−17A)、へパリン(SIGMA社製;商品名H3149)、及び適当に希釈した評価試料である被験物質(植物の抽出物)を添加して培養した。FGF−1の添加量は最終濃度10〜50ng/mLを基本とし、ヘパリンの添加量は最終濃度5μg/mLとし、被験物質は希釈倍率を最低でも4点設定した。各ウェルに、「cell counting kit−8」(株式会社同仁化学研究所製;商品番号341−08001)を添加し、3時間培養した後、細胞の増殖の程度を測定した。マイクロプレートリーダーで吸光度を測定し、生存細胞数を計算した。上記培養細胞の生存率が高いものは、FGF−1様活性又はFGF−1様活性を促進する効果があると考えられる。
【0041】
この一次スクリーニングの結果、表1〜3に挙げる46種類の被験物質が、FGF−1様活性物質、又はFGF−1様活性活性促進物質として、峻別された。その結果を、まとめて図1〜6に示す。
【0042】
【表1】


【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
(二次スクリーニング方法及びその評価)
本発明を適用するスクリーニング方法のうち二次スクリーニングとして、前記の一次スクリーニングで峻別された被験物質のうち、ヒトの皮膚細胞の増殖を促進するものを更に峻別するスクリーニングを行った。二次スクリーニングは、凍結正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF:Normal Human Dermal Fibroblasts)を用い、その細胞増殖率を指標にしてスクリーニングを行った。その詳細を以下に示す。
【0046】
用いたNHDF細胞は、市販の凍結正常ヒト皮膚線維芽細胞(新生児)(CamBrex社製;商品名CC−2509)である。このスクリーニング方法では、その細胞を購入後、自家培養して対数増殖期にある細胞、又は解凍後初回培養を行った細胞を使用した。
【0047】
NHDF細胞を3.2×10個/mLの濃度に調整し、培地としてFGM−2 BulletKit(Cambrex社製;商品名CC−3132)を用い、96穴マイクロプレート上に播種し、48時間培養した。培養開始48時間後に、無血清培地としてDMEM(Gibco社製;11885)へ培地交換し、24時間培養した。24時間培養後、DMEM(Gibco社製;商品名11885)にFGF−1(PEPRO TECH EC社製;商品名100−17A)、ヘパリン(SIGMA社製;商品名H3149)、及び適当に希釈した評価試料である被験物質(植物の抽出物)を添加して24時間培養した。このとき、FGF−1の添加量は最終濃度0.2〜1μg/mLとし、ヘパリンの添加量は最終濃度5μg/mLとし、被験物質は希釈倍率を最低でも4点設定した。「BrdU Cell Proliferation ELISA Colorimetric Assay」(exalpha社製;商品名X1327K1)を用いて、細胞を発色させた。マイクロプレートリーダーで吸光度を測定し、生存細胞数を算出した。上記培養細胞の生存率が高いものは、FGF−1様活性又はFGF−1様活性を促進する効果があると考えられる。
【0048】
この二次スクリーニングの結果、EC50(50%生存率)が高いFGF−1様活性物質、又はFGF−1様活性活性促進物質被験物質として、表4に挙げる3種類の被験物質が、峻別された。その結果を、まとめて図7に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4及び図7から明らかな通り、これら3種の植物の抽出液は、実際のヒト皮膚細胞の増殖に関し有効に作用することが明らかとなった。
【0051】
(三次スクリーニング方法及びその評価)
本発明を適用するスクリーニング方法のうち三次スクリーニングとして、前記の二次スクリーニングで峻別された3種類の被験物質について、非ヒト哺乳動物を用いテープストリッピング法により物理的に皮膚を損傷させたモデルを作成し、体液が体温で蒸発する量、即ち経皮水分蒸散量(TEWL)を指標にして、スクリーニングを行った。その詳細を以下に示す。
【0052】
用いた非ヒト哺乳動物は、5週齢のCrlj:CD−1(ICR)マウス(日本チャールス・リバー株式会社から入手)で、雄性 SPF,35例である。
【0053】
テープストリッピング法用の皮膚損傷モデルを、以下のようにして作製した。前記マウス7匹を1群としてそれらの体幹部の背側部の広い範囲の被毛を電気バリカンで除毛した。セロハンテープ(積水化学工業株式会社製)を、一定回数(約5回程度)皮膚に当てて,やや皮膚表面に光沢を認める状態まで角質を取り除いた。処置領域は背側部の正中線からやや左側にずらした領域で,中央部から頭側の部分とした。塗布部位は2×2cmの領域で、セロハンテープは同一品を用い、作製部位の状態を均質に揃えた。表皮各層を剥がす度合いは、経皮水分蒸散量(TEWL)を500g/h・mとなる程度にして、テープストリッピング法による皮膚損傷モデルとした。
【0054】
この損傷直後の損傷部位に、50μL/headずつ、被験物質を塗布した。塗布方法は、2×2cmの面積のプラスチックラップ(基材)を用い,基材と損傷皮膚との間に、被験物質を挟みこみ,5分間圧着した。5分後に基材をはがし,開放状態とした。圧着および投与は、同一者により、同一条件で行った。
【0055】
水分蒸散量測定装置(有限会社アサヒバイオメッド製;商品名 水分蒸散モニターAS−CT1)を用いて、経皮水分蒸散量(TEWL)を測定した。テープストリッピング前(角層除去前)、テープストリッピング直後(0時間,角層除去直後)、塗布投与終了直後、角層除去してから1時間後,8時間後,23.5時間後,30.5時間後,47.5時間後,52.5時間後に、経皮水分蒸散量を測定した。なお対照のため被験物質に代えて、陰性対照物質としてリン酸緩衝液(PBS)を用いた陰性コントロール群と、陽性対照物質として(FGF−1)を用いた陽性コントロール群とについても、同様に、測定した。その結果を図8に示す。
【0056】
図8から明らかな通り、3種類の何れの被験物質を用いた群とも、陰性コントロール群よりも経皮水分蒸散量が低く、皮膚の損傷の回復が早いことが示された。特に、時間の経過とともに、3種類の何れの被験物質を用いた群とも、陽性コントロール群よりも経皮水分蒸散量が低く、FGF−1だけを投与するよりも、皮膚の損傷の回復が早いことが示された。
【0057】
従って、これら3種類の被験物質は、皮膚補修組成物として、又、皮膚補修剤として、生体内に存するFGF−1と同等以上の効果を奏したり、FGF−1の活性を促進したりするものであることが示された。
【0058】
これにより、線維芽細胞増殖因子様活性物質、及び線維芽細胞増殖因子活性促進物質を含有する皮膚補修組成物は、医薬品、医薬部外品、食品添加物、若しくはサプリメントのような内用剤として、又は医薬品、医薬部外品、若しくは化粧品のような外用剤として、有用な皮膚補修剤となることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の皮膚補修組成物を含む皮膚補修剤は、加齢や紫外線曝露やホルモンバランス異常などにより皮膚が受けた弛み・シミ・小皺・色素沈着・乾燥肌・ニキビなどの損傷を修復して改善するスキンケア用品・美容用品等の化粧品・医薬部外品のような外用剤として、怪我による創傷や火傷や褥瘡を治療するための外用剤や内用剤のような医療用医薬品・医薬部外品として、また、食品添加物やサプリメントのような内用剤として、有用である。
【0060】
また、本発明の皮膚補修物質のスクリーニング方法は、この皮膚補修物質を効率よく見つけ出すのに有用であり、それを製剤化して内用剤や外用剤等の皮膚補修剤を創製するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明を適用する皮膚補修物質のスクリーニング方法で見出された皮膚補修物質による培養細胞の生存率を示すグラフである。
【図2】本発明を適用する皮膚補修物質のスクリーニング方法で見出された皮膚補修物質による培養細胞の生存率を示すグラフである。
【図3】本発明を適用する皮膚補修物質のスクリーニング方法で見出された皮膚補修物質による培養細胞の生存率を示すグラフである。
【図4】本発明を適用する皮膚補修物質のスクリーニング方法で見出された皮膚補修物質による培養細胞の生存率を示すグラフである。
【図5】本発明を適用する皮膚補修物質のスクリーニング方法で見出された皮膚補修物質による培養細胞の生存率を示すグラフである。
【図6】本発明を適用する皮膚補修物質のスクリーニング方法で見出された皮膚補修物質による培養細胞の生存率を示すグラフである。
【図7】本発明を適用する別な皮膚補修物質のスクリーニング方法で見出された皮膚補修物質による培養細胞の生存率を示すグラフである。
【図8】本発明を適用する別な皮膚補修物質のスクリーニング方法で見出された皮膚補修物質と対照物質を付したマウスの損傷皮膚での経皮水分蒸散量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質、及び線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質の少なくとも何れかの皮膚補修物質を、含有することを特徴とする皮膚補修組成物。
【請求項2】
前記皮膚補修物質が、植物の組織を、水、有機溶媒、水−有機溶媒混合液、水溶液、水溶液−有機溶媒混合液で抽出した抽出液、その抽出液の濃縮物、前記抽出液の精製物、又は前記濃縮物の精製物であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚補修組成物。
【請求項3】
前記植物が、ユリ科、イラクサ科、マメ科、バラ科、リンドウ科、シソ科、ゴマノハグサ科、ドクダミ科、サトイモ科、ウコギ科、ウリ科、アサ科、ユキノシタ科、イネ科、ヤシ科、パイナップル科、トウダイグサ科、カンナ科、ツユクサ科、クスノキ科、ショウガ科、クワ科、キク科、ノウゼンカズラ科、ウコギ科、チャセンシダ科、リュウゼンラン科、ラン科、ソテツ科、コショウ科、クロウメモドキ科、サトイモ科、ミズキ科の少なくとも何れかの植物であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚補修組成物。
【請求項4】
前記植物が、アロエ、イラクサ、ウスベニアオイ、ハリモクシュク、アンズ、クジン、ゲンチアナ、サルビア、ジオウ、ドクダミ、ショウブ、セイヨウキズタ、ナギイカダ、ヘチマ、セイヨウカラハナソウ、ヤグルマソウ、クロゴメ、トウツルモドキ、パイナップル、ダンドク、クロトンノキ、ムラサキオモト、シバニッケイ、ゲットウ、ヒメイタビ、シロバナセンダングサ、クワ、ニンニクカズラ、ホンコンカポック、イヌビワ、オオタニワタリ、ドラセナ、シラン、アコウ、ソウシジュ、クワノハイチゴ、ジュズダマ、カクレミノ、ヒマ、ショウジョウボク、ソテツ、フウトウカズラ、クワズイモ、リュウキュウクロウメモドキ、及びリュウキュウハナイカダの少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1に記載の皮膚補修組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の皮膚補修組成物を、含んでいることを特徴とする皮膚補修剤。
【請求項6】
内用剤、又は外用剤であることを特徴とする請求項5に記載の皮膚補修剤。
【請求項7】
前記内用剤が、医薬品、医薬部外品、食品添加物、又はサプリメントであり、前記外用剤が、医薬品、医薬部外品、又は化粧品であることを特徴とする請求項6に記載の皮膚補修剤。
【請求項8】
線維芽細胞増殖因子−1レセプターを持つ細胞を培養し、その培地又は培養液に被験物質を添加して培養し続け、該細胞の生存数の増減を測定し、その増殖を指標として前記被験物質から皮膚補修物質を峻別することを特徴とする皮膚補修物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
皮膚線維芽細胞を培養し、その培地又は培養液に被験物質を添加して培養し続け、該細胞の生存数の増減を測定し、その増殖を指標として前記被験物質から皮膚補修物質を峻別することを特徴とする皮膚補修物質のスクリーニング方法。
【請求項10】
非ヒト哺乳動物の除毛した皮膚に、粘着テープを貼り付けてからそれを剥離する操作を繰り返して、角質を取り除いて前記皮膚を損傷させた後、そこへの被験物質の投与群と非投与群とで、各々の皮膚の経皮水分蒸散量を測定し、前記非投与群よりも前記投与群での前記経皮水分蒸散量の低下を指標として前記被験物質から皮膚補修物質を峻別することを特徴とする皮膚補修物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
峻別した前記皮膚補修物質が、線維芽細胞増殖因子−1様の活性物質、及び線維芽細胞増殖因子−1の活性促進物質の少なくとも何れかであることを特徴とする請求項8〜10の何れかに記載の皮膚補修物質のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−40753(P2009−40753A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210128(P2007−210128)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(503167042)株式会社アドバンジェン (4)
【Fターム(参考)】