説明

皮膚角化促進剤

【課題】
皮膚のバリア機能の改善、皮膚の老化防止に有用な皮膚角化促進剤を提供する。
【解決手段】
(A)加水分解コンキオリン、及び(B)カルシウムイオン供給化合物を含有する皮膚角化促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の角化を促進し、皮膚の老化防止、皮膚のトラブル改善に有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は体の最も外側に存在しており、細菌などの外界からの刺激に対するバリアとしての役割を有している。皮膚においては、角質細胞が基底細胞から有棘細胞、顆粒細胞、さらには角層細胞へと約4週間かけて変化(角化)し、これらの細胞中で細胞間脂質やNMF、さらにはコーニファイドエンベローブを形成することによってバリア機能を成し遂げている。しかし老化等によってこの角化の速度が低下すると、皮膚のくすみや肌荒れなどを引き起こすことが知られている。そのためこの角化を改善する原料や皮膚外用剤が積極的に開発されてきた。
【0003】
皮膚の角化を促進する物質としては、タイソウ抽出物(特許文献1)やハス胚芽抽出物(特許文献2)などの生薬抽出物が数多く報告されている。
【特許文献1】特開2006−316028号公報
【特許文献2】特開2002−68993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら従来の角化促進成分の作用は十分ではなく、より優れた皮膚角化促進剤の開発が望まれている。
従って、本発明の目的は、皮膚のバリア機能の改善、皮膚の老化防止に有用な皮膚角化促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、皮膚の角化とともにコーニファイドエンベローブの成分として生成される蛋白質であるロリクリン、ケラチン1、ケラチン10の発現量を指標として皮膚角化促進剤を探索してきたところ、カルシウムイオンと加水分解コンキオリンとを併用すれば、それらを単独で使用した場合に比べて相乗的にロリクリン、ケラチン1、ケラチン10の発現が増強され、皮膚の角化促進剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は(A)加水分解コンキオリン、及び(B)カルシウムイオン供給化合物を含有する皮膚角化促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の皮膚角化促進剤は、皮膚の角化と共に生成するロリクリン、ケラチン1、ケラチン10の発現を顕著に促進することにより皮膚の角化を促進する。またロリクリン、ケラチン1、ケラチン10は、コーニファイドエンベローブの成分であることから、本発明の皮膚角化促進剤を用いれば、皮膚のバリア機能が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の皮膚角化促進剤は、(A)加水分解コンキオリンと(B)カルシウムイオン供給化合物との相乗作用により強力に皮膚の角化を促進する。
【0009】
(A)加水分解コンキオリンは、真珠母貝であるアコヤガイ(学名Pinctada fucata)の真珠層に含まれる硬タンパク質コンキオリンを加水分解した水溶液であり、当業者が容易に入手可能であり、市販されているものを使用できる。加水分解コンキオリンは、ヒスタミン抑制作用(特開平6−211625号公報)、酸化防止作用(特開平4−36214号公報)等を有することが知られている。
【0010】
本発明の皮膚角化促進剤中の(A)加水分解コンキオリンの含有量は、十分な皮膚角化促進作用を得る点から、0.0001〜50質量%、さらに0.0001〜20質量%、特に0.0001〜10質量%が好ましい。
【0011】
(B)カルシウムイオン供給化合物としては、水に溶解してカルシウムイオンを遊離する化合物であれば特に制限されず、例えばカルシウムハロゲン化物、水酸化カルシウム、無機酸カルシウム塩、有機酸カルシウム塩が挙げられる。ここでカルシウムハロゲン化物としては、塩化カルシウム、臭化カルシウム等が挙げられる。無機酸カルシウム塩としては、燐酸カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられる。有機酸カルシウムとしては、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、コハク酸カルシウム等が挙げられる。これらの化合物は、1種又は2種以上を組み合せて使用することができる。
【0012】
本発明の皮膚角化促進剤中の(B)カルシウム供給化合物の含有量は、十分な皮膚角化促進作用を得る点からカルシウムイオン濃度が0.001mM以上となる量であればよく、0.001〜10mMとなる量、さらに0.01〜5mMとなる量、特に0.062〜0.5mMとなる量が好ましい。具体的なカルシウムイオン供給化合物の含有量は、用いる化合物によって異なるが、例えば0.0001〜50質量%、さらに0.0001〜10質量%、特に0.0001〜1質量%が好ましい。
【0013】
また、本発明の皮膚角化促進剤中の(A)加水分解コンキオリンと(B)カルシウム供給化合物との含有質量比は、相乗作用を得る点から、(A)/(B)=50/1〜1/50、さらに30/1〜1/30、さらに20/1〜1/20が好ましい。
【0014】
後記実施例に示すように、成分(A)と成分(B)とを併用すると、これらを単独で用いた場合に比べて相乗的にロリクリン、ケラチン1、ケラチン10遺伝子発現量を増大させる。ここで、ロリクリン、ケラチン1、ケラチン10は、皮膚の角化とともにコーニファイドエンベローブの成分として生成されることが知られており、皮膚角化の指標として有用である。本発明の組成物は、このロリクリン、ケラチン1、ケラチン10の発現を顕著に増強させるので皮膚角化促進剤として有用である。
【0015】
本発明の皮膚角化促進剤は、皮膚外用剤の形態で皮膚に適用するのが好ましい。皮膚外用剤には、皮膚化粧料、外用医薬部外品、医療用皮膚外用剤が含まれる。
【0016】
また、本発明の皮膚角化促進剤には、上記成分の他に医薬品や化粧品の各種製剤において使用されている界面活性剤、油性成分、保湿剤、高分子化合物、紫外線吸収剤、抗炎症剤、殺菌剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、防腐剤、ビタミン類、色素、香料、水等を配合することができる。
【0017】
上記界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、非イオン性、天然、合成のいずれの界面活性剤も使用できるが、皮膚に対する刺激性を考慮すると非イオン性のものを使用することが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグリコシド等が挙げられる。
【0018】
油性成分としては、油脂類、ロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、精油類、シリコーン油類などを挙げることができる。油脂類としては、例えば大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド等の合成トリグリセリド等が;ロウ類としては、例えばカルナバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等が;炭化水素類としては、例えば流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、ブリスタン等が;高級脂肪酸類としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等が;高級アルコール類としては、例えばラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール等が;エステル類としては、例えばオクタン酸セチル、オクタン酸トリグリセライド、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール、POEソルビット脂肪酸エステル等が;精油類としては、例えばハッカ油、ジャスミン油、ショウ脳油、ヒノキ油、トウヒ油、リュウ油、テレピン油、ケイ皮油、ベルガモット油、ミカン油、ショウブ油、パイン油、ラベンダー油、ベイ油、クローブ油、ヒバ油、バラ油、ユーカリ油、レモン油、タイム油、ペパーミント油、ローズ油、セージ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラニオール、カンファー、チモール、スピラントール、ピネン、リモネン、テルペン系化合物等が;シリコーン油類としては、例えばジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これら上述の油性成分は一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。本発明においては、このうち特にミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド、ラノリン、流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、オクタン酸セチル、オクタン酸トリグリセライド、ミリスチレン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸コレステロール、POEソルビット脂肪酸エステル、ハッカ油、トウヒ油、ケイ皮油、ローズ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ゲラニオール、ピネン、リモネン、ジメチルポリシロキサンを使用することが好ましい。
【0019】
本発明の皮膚角化促進剤には、さらに下記のような成分を配合することができるが、その成分もこれらに限定されるものではない。
(a)色素類;黄色4号、青色1号、黄色202号等の厚生省令に定められたタール色素別表I及びIIの色素、クロロフィル、リボフラビン、クロシン、紅花、アントラキノン等の食品添加物として認められている天然色素等。
(b)ビタミン類;ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等。
(c)その他;殺菌剤、防腐剤、その他製剤上必要な成分等。
【0020】
本発明の皮膚角化促進剤は、前記必須成分に必要に応じて前記任意成分を加え、常法に従って製造することができ、クリーム、乳液、化粧水等の形態とすることができる。
【実施例】
【0021】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0022】
実施例1
皮膚は角化とともに細胞膜を蛋白質で裏打ちしてコーニファイドエンベローブを形成していく。この折、角化とともにコーニファイドエンベローブの成分として生成される蛋白質としてロリクリン、ケラチン1、ケラチン10が知られている。本試験ではこのロリクリン、ケラチン1、ケラチン10の遺伝子発現量を指標として、カルシウム塩と加水分解コンキオリンの組み合わせによる角化への影響を検討した。
<試験方法>
4系代目の人包皮由来ケラチノサイトを6ウェルのプレート1ウェルあたり2.25×105個播種し、3日間培養(37℃、95%Air、5%CO2)して70%コンフルエントにする。そして、加水分解コンキオリン(0.0062〜0.1%)或は加水分解コンキオリン(0.0062〜0.1%)とCaCl2○1.2mMを加えて、3日間或いは5日間培養した。
なお、カルシウムは培地に0.15mMの濃度で含まれているので、実際のカルシウム濃度は1.35mMとなる。(いずれも終濃度)
その後、上清を捨てて、細胞を完全に溶解する。全RNAを抽出し、RNAを逆転写してcDNAを作成し、定量リアルタイムPCRを用いてロリクリン、ケラチン1、ケラチン10の遺伝子発現量を検出した。
<試験結果>
結果を図1〜3に示す。
その結果、塩化カルシウム及び加水分解コンキオリン単品ではほとんどロリクリン、ケラチン1、ケラチン10の遺伝子は発現していないにもかかわらず、2成分を組み合わせることによって遺伝子発現量が飛躍的に増加することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ロリクリン発現量を示す図である。Medは培地のみ、HCは加水分解コンキオリンを示す。
【図2】ケラチン1発現量を示す図である。Medは培地のみ、HCは加水分解コンキオリンを示す。
【図3】ケラチン10発現量を示す図である。Medは培地のみ、HCは加水分解コンキオリンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解コンキオリンとカルシウムイオン供給化合物を含有する皮膚角化促進剤。
【請求項2】
加水分解コンキオリンとカルシウムイオン供給化合物を含有するロリクリン発現促進剤。
【請求項3】
加水分解コンキオリンとカルシウムイオン供給化合物を含有するケラチン1発現促進剤。
【請求項4】
加水分解コンキオリンとカルシウムイオン供給化合物を含有するケラチン10発現促進剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195521(P2011−195521A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65371(P2010−65371)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000166959)御木本製薬株式会社 (66)
【出願人】(502285457)学校法人順天堂 (64)
【Fターム(参考)】