説明

皮膚貼付基布

【課題】 使用時に違和感がないのはもちろんのこと、皮膚貼付基布の厚さ方向における内部で剥離しにくい皮膚貼付基布を提供すること。
【解決手段】 本発明の皮膚貼付基布は、高捲縮繊維を主体とする不織布からなる皮膚貼付基布であり、前記不織布の次の式から算出される換算曲げ剛性Bcが5.0×10−4gf・cm/cm/(g/m)以下、かつ層間剥離強度が50N/50mm幅を超えることを特徴とする。
Bc=Br/M
ここで、Brはたて方向の曲げ剛性とよこ方向の曲げ剛性の算術平均曲げ剛性(単位:gf・cm/cm)を表し、Mは目付(単位:g/m)を表す

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚貼付基布に関する。具体的には、パップ剤、プラスター剤、経皮吸収テープ製剤などに用いることのできる貼付薬用基布、化粧用ゲルを塗布又は化粧液を含浸して、顔面パック材を構成できる化粧用基布、又は貼付薬貼付後に、貼付箇所を被覆して使用できるカバー材、などとして使用できる、皮膚貼付基布に関する。
【背景技術】
【0002】
貼付薬は肘、膝、肩等の関節に貼付するなど、屈曲部に貼付する場合が多々あるため、貼付薬の基布として、伸縮性不織布が採用されている。この伸縮性不織布の1つの製造方法は、潜在捲縮性短繊維を含む繊維を、不織布の代表的な製造方法であるカード法或いはエアレイ法によって開繊して繊維ウエブを形成した後、熱を作用させることにより潜在捲縮性短繊維の捲縮を発現させて伸縮性不織布とすることが知られている。例えば、本出願人は特開2001−11762号公報(特許文献1)において、「顕在化した潜在捲縮繊維を主体とし、該潜在捲縮繊維の平均繊維長が40mm以下であることを特徴とする伸縮性不織布。」を提案した。この伸縮性不織布は、潜在捲縮繊維の捲縮発現時に繊維同士が収縮して絡み合っても、1本の繊維長が比較的短いために、引き伸ばされた際に繊維同士を拘束する引張強さが低く抑えられる結果、患者が動作に違和感を覚えないというものである。この伸縮性不織布はある程度、患者の違和感を解消できるものであったが、更に違和感のない皮膚貼付基布が求められていた。
【0003】
また、化粧用ゲルを塗布又は化粧液を含浸して、顔面パック材を構成できる化粧用基布として、前記と同様の伸縮性不織布が知られている(特許文献2、3)が、使用者が顔面に貼付した際に顔面の凹凸に十分に追従することができず、使用時に違和感を覚える場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−11762号公報
【特許文献2】特開2008−285433号公報
【特許文献3】特開2000−128732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本願出願人は、使用時に、更に違和感のない皮膚貼付基布として、「高捲縮繊維を主体とする不織布からなる皮膚貼付基布であり、換算曲げ剛性Bcが5.0×10−4gf・cm/cm/(g/m)以下である皮膚貼付基布」を提案した(特願2010−180405号)。この皮膚貼付基布は曲げやすく、風合いが柔らかいため、使用時に違和感のないものであったが、このような物性にするために、繊維同士の絡合を抑えているため、皮膚貼付基布の厚さ方向における内部で剥離しやすいものであった。このように、内部で剥離しやすいと、次のような問題があった。
【0006】
(1)貼付薬用基布として使用した場合、使用後に皮膚から剥がす際に、膏体が皮膚に残ってしまう。
(2)貼付薬用基布として使用した場合、時間経過に伴い表面が荒れたり、毛羽立ち、見栄えが良くない。ひどい場合には、膏体が露出する場合がある。
(3)皮膚貼付材の効能等について、鉛筆等で皮膚貼付材に記入する場合があるが、記載しにくく、ノリも良くない。無理に記入すると、毛羽立ったり、見栄えが悪いものとなり、文字認識性や外観に劣る。
(4)化粧用基布として使用し、化粧液を含浸して、顔面パック材とした場合、使用後に化粧液を含んだ顔面パック材で顔を拭いた際に、繊維が脱落して顔に繊維が残ってしまう。使用者の気分も悪くなるし、再度、繊維を洗い流す手間がかかる。
(5)貼付薬貼付後に、貼付箇所を被覆するカバー材として使用した場合、使用中に、時間経過に伴って、カバー材表面が荒れたり、毛羽立ち、見栄えが良くない。
【0007】
このような内部剥離の問題を解決するには、繊維同士の絡合の程度を高めれば良いが、絡合を強くすると、曲げにくく、風合いが硬くなるため、初期の目的である、使用時の違和感を解消することはできなかった。
【0008】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、使用時に違和感がないのはもちろんのこと、皮膚貼付基布の厚さ方向における内部で剥離しにくい皮膚貼付基布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は「高捲縮繊維を主体とする不織布からなる皮膚貼付基布であり、前記不織布の次の式から算出される換算曲げ剛性Bcが5.0×10−4gf・cm/cm/(g/m)以下、かつ層間剥離強度が50N/50mm幅を超えることを特徴とする皮膚貼付基布。
Bc=Br/M
ここで、Brはたて方向の曲げ剛性とよこ方向の曲げ剛性の算術平均曲げ剛性(単位:gf・cm/cm)を表し、Mは目付(単位:g/m)を表す」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1にかかる発明は、換算曲げ剛性Bcが5.0×10−4gf・cm/cm/(g/m)以下と曲げ剛性の小さいものであるため、使用時に、容易に変形して皮膚に密着できるため、違和感のない皮膚貼付基布である。また、層間剥離強度が50N/50mm幅を超える、厚さ方向における内部で剥離しにくい皮膚貼付基布である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の皮膚貼付基布(不織布)は伸縮性を有し、屈曲部の動き及び/又は皮膚の凹凸に対応でき、皮膚貼付基布(不織布)の内部で剥離することがないように、高捲縮繊維を主体として構成されている。高捲縮繊維は、例えば、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させることによって得ることができ、潜在捲縮繊維は捲縮を発現することによって、面積収縮率が35%以上の優れた捲縮発現能を有するのが好ましい。この面積収縮率が大きい程、捲縮発現能に優れ、前記効果に優れるため、面積収縮率は37%以上であるのが好ましく、より好ましくは40%以上である。
【0012】
なお、面積収縮率は次の方法により得られる値である。まず、潜在捲縮繊維のみをカードに通して一方向性繊維ウエブを得た後、一方向性繊維ウエブの繊維配向方向とのなす鋭角が15°となるように切断して、2枚の繊維ウエブを調製した後、これら2枚の繊維ウエブの繊維配向方向が交差するように積層して、クロスレイ繊維ウエブ(繊維配向方向の交差する鋭角:30°)を形成する。そして、このクロスレイ繊維ウエブを90メッシュのポリエステル製綾織ネット(支持体)を用いて、5m/min.の速度で搬送しながら、順に、シャワー、シャワーした面に対して水圧3.0MPa、シャワーした面の反対面に水圧3.0MPaの水流で絡合し、80g/mの水流絡合不織布を形成する。その後、水流絡合不織布を25cm角にカットして試験片を調製し、その試験片を温度160℃に設定したオーブンで30秒間熱処理し、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させ、試験片を収縮させて、たてL(cm)、よこC(cm)の大きさの試験片となった時に、次の式から得られる値を面積収縮率Sa(%)という。
Sa=[(25×25−L×C)/(25×25)]×100
【0013】
このような捲縮発現能の優れた潜在捲縮繊維を使用することによって、潜在捲縮繊維同士が捲縮発現時に絡みやすく、皮膚貼付基布の厚さ方向における内部で剥離しにくくなるため、好適に使用できる。このような潜在捲縮繊維は、例えば、特開平7−54216号公報に開示の方法、特開2003−89928号に開示の方法により製造することができる。
【0014】
この潜在捲縮繊維としては、例えば、熱収縮率の異なる複数の樹脂が複合された複合繊維、繊維の一部に特定の熱履歴を施した繊維を挙げることができる。より具体的には、複合繊維として、偏心型芯鞘構造のもの、又はサイドバイサイド型構造のものを好適に用いることができる。熱収縮率の異なる樹脂の組み合わせとしては、例えば、ポリエステル−低融点ポリエステル、ポリアミド−低融点ポリアミド、ポリエステル−ポリアミド、ポリエステル−ポリプロピレン、ポリプロピレン−低融点ポリプロピレン、ポリプロピレン−ポリエチレンなど種々の合成樹脂を組み合わせたものが使用できる。特に、ポリエステル−低融点ポリエステル若しくはポリプロピレン−低融点ポリプロピレンの組み合わせからなる潜在捲縮繊維は、化学的な耐性と伸度特性の点で優れているため好ましい。
【0015】
また、繊維の一部に特定の熱履歴を施した潜在捲縮繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂からなる繊維の一側面を熱刃などにあてながら通過させたものを使用できる。
【0016】
この潜在捲縮繊維の繊度は、曲げ剛性が小さく、使用時に違和感がないように、また、捲縮発現時に繊維同士が絡みやすいように、繊度は1.5dtex以下であるのが好ましく、1.4dtex以下であるのがより好ましく、1.3dtex以下であるのが更に好ましく、1.2dtex以下であるのが更に好ましく、1.1dtex以下であるのが更に好ましい。繊度の下限は特に限定するものではないが、乾式法により繊維ウエブを形成する場合には、均一な地合いの繊維ウエブを形成できるように、また、引張り伸縮性に優れているように、0.5dtex以上であるのが好ましく、0.8dtex以上であるのがより好ましい。
【0017】
なお、繊度の異なる潜在捲縮繊維を2種類含んでいる場合、次の式により算出される平均繊度が前記繊度範囲内にあるのが好ましい。また、繊度の異なる潜在捲縮繊維を3種類以上含んでいる場合も、同様にして算出した値が前記繊度範囲内にあるのが好ましい。
Fav=1/[(Pa/100)/Fa+(Pb/100)/Fb]
ここで、Favは平均繊度(単位:dtex)、Paは繊維ウエブに占める一方の繊維(繊維A)の質量割合(単位:mass%)、Faは繊維Aの繊度(単位:dtex)、Pbは繊維ウエブに占める他方の繊維(繊維B)の質量割合(単位:mass%)、Fbは繊維Bの繊度(単位:dtex)をそれぞれ意味する。
【0018】
また、潜在捲縮繊維の繊維長は曲げ剛性が小さく、使用時に違和感がないように、繊維長は60mm以下であるのが好ましく、50mm以下であるのがより好ましく、45mm以下であるのが更に好ましい。繊維長の下限は特に限定するものではないが、乾式法により繊維ウエブを形成する場合には、均一な地合いの繊維ウエブを形成できるように、25mm以上であるのが好ましく、30mm以上であるのがより好ましい。
【0019】
本発明の皮膚貼付基布(不織布)は上述のような高捲縮繊維を主体とするものであるが、「主体」とは高捲縮繊維を50mass%以上含むことを意味し、高捲縮繊維が多ければ多いほど、伸縮性に優れ、屈曲部の動き及び/又は皮膚の凹凸に対応でき、皮膚と密着して皮膚から剥離することがなく、しかも皮膚貼付基布の厚さ方向における内部で剥離しにくいため、70mass%以上含むのがより好ましく、90mass%以上含むのが更に好ましく、100mass%高捲縮繊維からなるのが最も好ましい。
【0020】
なお、高捲縮繊維以外の繊維は特に限定するものではないが、高捲縮繊維が潜在捲縮繊維の捲縮を発現させたものである場合、高捲縮繊維の作用を損なわないように、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させる際の熱によって溶融しない繊維であるのが好ましく、例えば、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維など)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド系繊維(6ナイロン繊維、66ナイロン繊維など)、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維等の合成繊維、又はコットンやレーヨン等のセルロース系繊維を含むことができる。
【0021】
本発明の皮膚貼付基布(不織布)は高捲縮繊維を主体とするものであれば良く、その製造方法は特に限定するものではないが、例えば、潜在捲縮繊維を主体とする繊維ウエブをカード法、エアレイ法などの乾式法、湿式法、又はスパンボンド法などの直接法により形成した後、ニードルや水流などの流体で絡合し、形態維持性を付与するのが好ましい。
【0022】
なお、乾式法で繊維ウエブを形成する場合、繊維ウエブはクロスレイウエブ、一方向性ウエブなどの単層であっても良いし、繊維ウエブを2枚以上積層して、積層構造とすることもできる。例えば、クロスレイウエブと一方向性ウエブとを積層したクリスクロスウエブ、クロスレイウエブ2枚と一方向性ウエブ1枚とを積層、又はクロスレイウエブ1枚と一方向性ウエブ2枚とを積層したトライアスクロスウエブであっても使用することができる。
【0023】
また、流体により絡合する場合、厚さ方向における内部で剥離しにくい皮膚貼付基布を製造しやすく、また、強度維持性に優れているように、ノズル1本あたりの平均流体圧を3.5MPa以上とするのが好ましく、4MPa以上とするのがより好ましく、5MPa以上とするのが更に好ましく、6MPa以上とするのが更に好ましい。このように絡合条件を強くすると、繊維同士の絡合が強くなり過ぎて、曲げ剛性が高くなり、使用時の違和感が強くなる傾向があるため、捲縮発現能力が高く、細い潜在捲縮繊維の捲縮を十分に発現させることによって、曲げ剛性の上昇を抑制し、使用時の違和感を感じないようにするのが好ましい。このような潜在捲縮繊維を使用したとしても、絡合条件が強すぎると、繊維同士の絡合が強くなり過ぎて、曲げ剛性が高くなり、使用時の違和感が強くなるため、ノズル1本あたりの平均流体圧を7.0MPa以下とするのが好ましく、6.5MPa以下とするのがより好ましい。なお、流体絡合に使用する繊維ウエブを搬送する支持体は皮膚貼付基布(不織布)の地合いを乱すことがないように、50〜100メッシュのプラスチック製又は金属製の平織り又は綾織りネットを使用するのが好ましい。
【0024】
次いで、絡合した繊維ウエブに対して加熱処理を施し、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させて、皮膚貼付基布(不織布)を製造することができる。なお、加熱手段としては、例えば、熱風ドライヤー、赤外線ランプ、加熱ロールなどを挙げることができるが、繊維同士の接合が強くなり、曲げ剛性が高くなる結果、使用時の違和感が強くなる傾向があるため、熱風ドライヤー、赤外線ランプなどの固体による強力な圧力がかからない条件下で実施するのが好ましい。特に、潜在捲縮繊維が十分に捲縮を発現し、厚さ方向における内部で剥離しにくく、また、伸縮性に優れるように、捲縮の発現による繊維ウエブの収縮分を見込んでオーバーフィードしながら加熱収縮させ、十分に捲縮を発現させるのが好ましい。
【0025】
この捲縮発現時の繊維ウエブの面積収縮率は44%以上とするのが好ましく、45%以上とするのがより好ましく、46%以上とするのが更に好ましく、47%以上とするのが更に好ましく、48%以上とするのが更に好ましく、49%以上とするのが更に好ましく、50%以上とするのが更に好ましい。面積収縮率が44%未満では、曲げ剛性が高くなり、使用時の違和感が強くなる傾向があるためである。
【0026】
この捲縮発現時の面積収縮率Ssは次の式から得られる値である。
Ss=[{1−(1−Sl)×(1−Sc)}/1]×100
ここで、Slはたて方向における収縮度、Scはよこ方向における収縮度をそれぞれ意味し、次の式から得られる値である。
Sl=[1−(Va/Vb)]
Sc=[1−(Wa/Wb)]
ここで、Vaは加熱処理装置出口における繊維ウエブの速度、Vbは加熱処理装置入口における繊維ウエブの速度、Waは加熱処理装置出口における繊維ウエブの幅、Wbは加熱処理装置入口における繊維ウエブの幅、をそれぞれ意味する。
【0027】
本発明の皮膚貼付基布は上述のような不織布からなるが、換算曲げ剛性Bcが5.0×10−4gf・cm/cm/(g/m)以下である。この換算曲げ剛性Bcが5.0×10−4gf・cm/cm/(g/m)よりも高いと、使用時の違和感が強くなる傾向があるためである。好ましい換算曲げ剛性Bcは4.0×10−4gf・cm/cm/(g/m)以下であり、より好ましい換算曲げ剛性Bcは3.5×10−4gf・cm/cm/(g/m)以下である。
【0028】
この換算曲げ剛性は次の式から算出される値である。
Bc=Br/M
ここで、Brはたて方向の曲げ剛性とよこ方向の曲げ剛性の算術平均曲げ剛性(単位:gf・cm/cm)を表し、Mは皮膚貼付基布(不織布)の目付(単位:g/m)を表す。なお、たて方向とは不織布生産時の流れ方向を指し、よこ方向とは不織布生産時の幅方向を指す。この曲げ剛性は皮膚貼付基布(不織布)を曲げた時の剛性であるが、皮膚貼付基布(不織布)の目付が大きくなると、曲げ剛性も大きくなり、目付と曲げ剛性とは比例関係があるため、曲げ剛性の目付の影響を排除するために、本発明においては、算術平均曲げ剛性を目付で除している。
【0029】
また、この算術平均曲げ剛性Brは純曲げ試験機(カトーテック(株)製、KES−FB2)を用いて、「風合い評価の標準化と解析第2版」(川端季雄ら著、風合い計量と規格化研究委員会編)の第27〜28頁に記載の方法により測定される値である。即ち、試料の皮膚貼付基布(不織布)を幅1cmの間隔で長さ20cmにわたってチャックに把持し、曲率K=−2.5〜2.5cm−1の範囲において、変形速度0.50cm−1/sec.で等速度曲率の純曲げを行い、この際の曲げモーメントを測定することにより、単位長さ当たりの曲げ剛性(gf・cm/cm)を求める計測を、皮膚貼付基布(不織布)のたて方向、よこ方向について、それぞれ3回ずつ行い、その算術平均した値である。
【0030】
目付Mは1mあたりの質量であり、JIS L 1085:1998 6.2 単位面積当たりの質量に規定する方法により得られる値である。
【0031】
なお、目付にかかわらず、曲げ剛性が低く、使用時の違和感が小さいように、算術平均曲げ剛性は0.050gf・cm/cm以下であるのが好ましく、0.040gf・cm/cm以下であるのがより好ましい。
【0032】
また、目付は皮膚貼付基布の地合いが優れているように、30g/m以上であるのが好ましく、40g/m以上であるのがより好ましい。他方で、目付が高いと曲げ剛性が高くなり、使用時の違和感が強くなるとともに、厚くなり、厚さ方向における内部で剥離しやすくなるため、120g/m以下であるのが好ましく、100g/m以下であるのがより好ましい。
【0033】
更に、皮膚貼付基布の厚さが厚いと、曲げ剛性が高くなり、使用時の違和感が強くなる傾向があるばかりでなく、厚さ方向における内部で剥離しやすくなるため、1.0mm以下であるのが好ましく、0.8mm以下であるのがより好ましく、0.6mm以下であるのが更に好ましい。なお、この「厚さ」は圧縮弾性試験機を用い、接触面積5cm、荷重0.98N{100gf}の条件で測定した値である。
【0034】
本発明の皮膚貼付基布(不織布)は前述のような換算曲げ剛性を満たすことに加えて、繊維同士が十分に絡んでいることによって、層間剥離強度が50N/50mm幅を超える、厚さ方向における内部で剥離しにくいものである。なお、この「層間剥離強度」は次の手順により得られる値である。
【0035】
(1)セキスイ製ビニクロステープNo.750(75mm巾)を20cm程度切り取り、皮膚貼付基布(不織布)の両面に、それぞれ貼付する。なお、貼付は皮膚貼付基布(不織布)のたて方向(不織布生産時の流れ方向)とテープの長手方向とを平行とする。また、貼付する際には、テープを皮膚貼付基布(不織布)から6cm程度はみ出すように貼付した後、はみ出したテープを折り返し、テープの粘着面同士を粘着させて、掴み部分を3cm程度形成する。
(2)前記テープ貼付皮膚貼付基布をロール圧力1.0kgf、2.0m/min.の速度で圧着し、長手方向13cm(掴み部分3cmを含む)、幅方向5cmの試験片を得る。
(3)前記試験片を標準状態温度(温度20℃、相対湿度65%)にて1時間放置した後、引張り強さ試験機(オリエンテック製、テンシロンUTM−III−100)のチャック間(距離:50mm)に固定し、引張速度500m/min.にて引張った際の初期最大荷重点を層間剥離強度とする。
【0036】
なお、皮膚貼付基布(不織布)における繊維配向がたて方向に偏っていると、たて方向における曲げ剛性が大きくなり、使用時に違和感を感じやすくなる傾向があるため、皮膚貼付基布(不織布)における(たて方向の引張り強さ)の(よこ方向の引張り強さ)に対する比は8/1〜0.5/1であるのが好ましく、4/1〜1/1であるのがより好ましい。
【0037】
なお、皮膚貼付基布(不織布)の引張り強さが低ければ低いほど曲げ剛性が低くなる傾向にあるが、十分な層間剥離強度が得られない傾向があるため、たて、よこのいずれの方向においても10N/50mm幅以上であるのが好ましく、15N/50mm幅以上であるのがより好ましい。
【0038】
更に、皮膚貼付基布(不織布)の伸び率は、関節部や可動部の動きに追従し、かつ貼付時の違和感が少ないように、また、使用時に皮膚貼付基布(不織布)の構造を破壊しないように、たて方向、よこ方向ともに、90%以上であるが好ましく、100%以上であるのがより好ましい。
【0039】
本発明における皮膚貼付基布(不織布)の「引張強さ」及び「伸び率」は、JIS L 1913:2010 6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法) 6.3.1(標準時)に則り、次の条件で測定した値である。
試験片の幅:50mm
チャック間距離:200mm
引張り速度:500mm/min.
【0040】
なお、前述の通り、目付が低ければ低いほど、曲げ剛性が低くなる傾向があるため、目付を低くして曲げ剛性を低くするということも考えられるが、その場合には皮膚貼付基布の地合いが悪くなり、膏体の抜け、化粧液の脱落、意匠性の低下などの問題が生じやすいため、地合いも優れているのが好ましい。具体的には、次に定義する平均地合指数が0.25以下であるのが好ましく、0.22以下であるのがより好ましく、0.20以下であるのが更に好ましい。
【0041】
平均地合指数は特願平11−152139号に記載されている方法により得られる値であり、次のようにして得られる値である。
【0042】
(1)光源から被測定物(皮膚貼付基布)に対して光を照射し、照射された光のうち、被測定物の所定領域において反射された反射光を受光素子によって受光して輝度情報を取得する。
(2)被測定物の所定領域を画像サイズ3mm角、6mm角、12mm角、24mm角に等分割して、4つの分割パターンを取得する。
(3)得られた各分割パターン毎に等分割された各区画の輝度値を輝度情報に基づいて算出する。
(4)各区画の輝度値に基づいて、各分割パターン毎の輝度平均(X)を算出する。
(5)各分割パターン毎の標準偏差(σ)を求める。
(6)各分割パターン毎の変動係数(CV)を次の式により算出する。
変動係数(CV)=(σ/X)×100
ここで、σは各分割パターン毎の標準偏差を示し、Xは各分割パターン毎の輝度平均を示す。
(7)各画像サイズの対数をX座標、当該画像サイズに対応する変動係数をY座標とした結果得られる座標群を、最小二乗法により一次直線に回帰させ、その傾きを算出し、この傾きの絶対値を地合指数とする。
(8)この地合指数の測定を3回繰り返し行い、その平均値を平均地合指数とする。
【0043】
また、本発明の皮膚貼付基布(不織布)は、曲げやすく、使用時に違和感のないものであるように、たて方向、よこ方向のいずれの50%伸長時応力も30N/50mm幅以下であるのが好ましく、25N/50mm幅以下であるのがより好ましい。一方で、たて方向、よこ方向のいずれの50%伸長時応力も小さ過ぎると、取り扱い性が悪いため、たて方向、よこ方向のいずれの50%伸長時応力も0.5N/50mm幅以上であるのが好ましく、1N/50mm幅以上がより好ましい。
【0044】
この「50%伸長時応力」は、次のようにして得られる値をいう。
(1)皮膚貼付基布(不織布)から、150mm×50mmの長方形の試験片を3枚採取する。例えば、幅方向の50%伸長時応力の場合には、幅方向150mm、長さ方向50mmの長方形の試験片を3枚採取する。
(2)試験片を引張り強さ試験機(オリエンテック製、テンシロンUTM−III−100)のチャック間(距離:100mm)に固定し、引張り速度200mm/min.で引っ張り、チャック間距離が150mmとなった時の応力を測定する。
(3)上記(1)〜(2)の操作を繰り返し、3枚の試験片について前記応力を測定し、その算術平均値を50%伸長時応力とする。
【0045】
更に、本発明の皮膚貼付基布(不織布)は、曲げやすく、使用時に違和感のないものであるように、たて方向、よこ方向のいずれかの50%伸長時回復率は30%以上であるのが好ましく、35%以上であるのがより好ましい。
【0046】
なお、50%伸長時回復率は次の手順により得られる値である。
(1)皮膚貼付基布(不織布)から、50mm×300mmの長方形の試験片を採取する。例えば、幅方向の50%伸長時回復率の場合には、幅方向300mm、長さ方向50mmの長方形の試験片を採取する。
(2)試験片を定速伸長型引張試験機である『テンシロン』(オリエンテック社製,商品名)に、つかみ間隔200mmとして長手方向の両端をセットする。このつかみ間隔200mmの位置を始点とし、始点から100mmの位置、即ち50%伸長位置(L50=100)まで速度200mm/分で引っ張り、すぐに同速度で始点まで戻す。このとき、試験片の引張応力がゼロになるときの始点からの距離をLとしたとき、次の式より算出される数値を50%伸長回復率とする。
50%伸長回復率(%)=(L50−L)/L50×100=100−Ln
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施例について特定条件を挙げて説明するが、これら条件は説明の理解を容易とするための例示に過ぎず、本発明は、これら特定条件にのみ限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で設計変更及び変形を行い得る。
【0048】
まず、次のような潜在捲縮繊維A〜Eを準備した。
【0049】
(潜在捲縮繊維A)
ポリエステル/低融点ポリエステルの組み合わせでサイドバイサイド型に構成された潜在捲縮繊維A(繊度1.1dtex、繊維長44mm、面積収縮率42.9%)
【0050】
(潜在捲縮繊維B)
ポリエステル/低融点ポリエステルの組み合わせでサイドバイサイド型に構成された潜在捲縮繊維B(繊度1.3dtex、繊維長44mm、面積収縮率43.5%)
【0051】
(潜在捲縮繊維C)
ポリエステル/低融点ポリエステルの組み合わせでサイドバイサイド型に構成された潜在捲縮繊維C(繊度1.7dtex、繊維長51mm、面積収縮率37.1%)
【0052】
(潜在捲縮繊維D)
ポリエステル/低融点ポリエステルの組み合わせでサイドバイサイド型に構成された潜在捲縮繊維D(繊度2.2dtex、繊維長51mm、面積収縮率56.5%)
【0053】
(潜在捲縮繊維E)
ポリエステル/低融点ポリエステルの組み合わせでサイドバイサイド型に構成された潜在捲縮繊維E(繊度2.2dtex、繊維長51mm、面積収縮率45.0%)
【0054】
(潜在捲縮繊維F)
ポリエステル/低融点ポリエステルの組み合わせでサイドバイサイド型に構成された潜在捲縮繊維G(繊度1.1dtex、繊維長44mm、面積収縮率34.2%)
【0055】
(実施例1〜6、比較例1〜7)
表1〜3に示す質量百分率で潜在捲縮繊維をカード機にかけて、表1〜3に示すような繊維ウエブを形成した後、90メッシュのポリエステル製綾織ネット(支持体)を用いて、20m/min.で搬送しながら水流により絡合した。なお、水流絡合時のノズル1本あたりの平均水圧は、表1〜3の通りとした。
【0056】
次いで、水流絡合不織布を110℃で乾燥した後、オーバーフィードしながら、熱風ドライヤーによる温度185℃での熱処理を約15秒間加えることによって、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させ、表1〜3に示す物性を有する皮膚貼付基布を得た。なお、熱処理時における面積収縮率は表1〜3に記載の通りとした。
【0057】
【表1】















【0058】
【表2】


















【0059】
【表3】

【0060】
(物性評価)
次の方法により、耐摩耗性、層間剥離強度、文字の書きやすさ、文字の認識性、及び文字記入後の毛羽立ちについて評価した。この結果は表4〜6に示す通りであった。
【0061】
(耐摩耗性)
JISL1076「織物及び織物のピリング試験方法」に規定されているC法(アピアランス・リテンション形試験機を用いる方法)に準じ、試料ホルダの底面積約26cm、押圧加重約3.23N、シリコンカーバイト製摩擦板を使用し、皮膚貼付基布(不織布)を30回摩擦した場合の表面状態について、下記基準で表面状態の等級を判定した。この等級判定を3枚の皮膚貼付基布(不織布)について行い、その平均値を級数とした。この級数が小さいほど、耐摩耗性に優れていることを表す。
【0062】
0級・・・ピルは発生しなかった。
1級・・・ピルは発生したが、0.5mm以下だった。
2級・・・ピルは発生したが、0.5〜1mmの大きさだった。
3級・・・ピルが発生。1mm以上3mm以下の大きさだった。
4級・・・3mm以上のピルが発生。
【0063】
(層間剥離強度)
次の手順により層間剥離強度を測定した。
(1)セキスイ製ビニクロステープNo.750(75mm巾)を20cm程度切り取り、皮膚貼付基布(不織布)の両面に、それぞれ貼付した。なお、貼付は皮膚貼付基布(不織布)のたて方向(不織布生産時の流れ方向)とテープの長手方向とを平行とした。また、貼付する際には、テープを皮膚貼付基布(不織布)から6cm程度はみ出すように貼付した後、はみ出したテープを折り返し、テープの粘着面同士を粘着させて、掴み部分を3cm程度形成した。
(2)前記テープ貼付皮膚貼付基布をロール圧力1.0kgf、2.0m/min.の速度で圧着し、長手方向13cm(掴み部分3cmを含む)、幅方向5cmの試験片を得た。
(3)前記試験片を標準状態(温度20℃、相対湿度65%)にて1時間放置した後、引張り強さ試験機(オリエンテック製、テンシロンUTM−III−100)のチャック間(距離:50mm)に固定し、引張速度500m/min.にて引張った際の初期最大荷重点を層間剥離強度とした。
【0064】
(文字の書きやすさ)
テンプレート定規の○、△、×の形状に沿って、HBの鉛筆を用い、一定の力で皮膚貼付基布(不織布)に記載した。また、ブランクとして、同様にして、紙に記載した。そして、これらの鉛筆のノリ(濃さ)を比較することにより、文字の書きやすさを、次の基準により評価した。
【0065】
○:1度でブランクと同等の濃さを得た
△:2度でブランクと同等の濃さを得た
×:3度以上書かなければブランクと同等の濃さを得られなかった
【0066】
(文字の認識性)
前記(文字の書きやすさ)の評価方法と同様にして1度書きしたサンプルを、45°の傾きを有する台の傾斜面に置いた後、その台から1m離れて、サンプルを観察し、サンプルの図形を明確に認識できるものを「○」、鉛筆が薄い、毛羽立つなど、明確に認識できないものを「×」、と評価した。
【0067】
(文字記入後の毛羽立ち)
文字の認識性で評価したサンプルを水平に置いた後、真上及び真横からサンプルを観察し、毛羽立ちがないものを「○」、毛羽立っているものを「△」、繊維の脱落や穴が開いていたものを「×」と評価した。










【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
これら表4〜6の結果から、層間剥離強度が50N/50mm幅以上であることによって、文字を書きやすく、かつ毛羽立ちが少なく、結果として、文字の認識性に優れていることがわかった。
【0072】
また、平均地合指数が小さく、皮膚貼付基布(不織布)の均一性が高いと、文字の認識性に優れる傾向があることがわかった。
【0073】
更に、繊度が比較的小さく、捲縮発現能の優れる繊維を使用すること、比較的高い水流圧力で絡合させること、及び十分に捲縮を発現させることによって、換算曲げ剛性が小さく、使用時に違和感がなく、しかも層間剥離強度が強く、文字を明確に書きやすい皮膚貼付基布(不織布)を製造しやすいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の皮膚貼付基布は使用時に違和感がないばかりでなく、厚さ方向における内部で剥離しにくいものであるため、パップ剤、プラスター剤、経皮吸収テープ製剤などの貼付薬用基布、化粧用ゲルを塗布又は化粧液を含浸して、顔面パック材を構成できる化粧用基布、又は貼付薬貼付後に、貼付箇所を被覆して使用するカバー材、などとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高捲縮繊維を主体とする不織布からなる皮膚貼付基布であり、前記不織布の次の式から算出される換算曲げ剛性Bcが5.0×10−4gf・cm/cm/(g/m)以下、かつ層間剥離強度が50N/50mm幅を超えることを特徴とする皮膚貼付基布。
Bc=Br/M
ここで、Brはたて方向の曲げ剛性とよこ方向の曲げ剛性の算術平均曲げ剛性(単位:gf・cm/cm)を表し、Mは目付(単位:g/m)を表す

【公開番号】特開2013−94513(P2013−94513A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241776(P2011−241776)
【出願日】平成23年11月3日(2011.11.3)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】