説明

皮膚透過ガス検出装置

【課題】皮膚透過ガス検出装置の精度を向上させることができるとともに、操作性を向上させることができる皮膚透過ガス検出装置を提供することにある。
【解決手段】アルコール濃度検出装置11には、固定ケース15、及び固定ケース15を収容する可動ケース16を有する収容ケース13が設けられている。可動ケース16はガスセンサ12を収容するとともに、固定ケース15と可動ケース16とによって容積が可変であるガス室14を区画している。収容ケース13には被検者から放出された皮膚透過ガスをガス室14に取り入れる取り入れ口36と、可動ケース16を操作可能な被押圧用突部24とが設けられている。そして、固定ケース15と可動ケース16との間には、ガス室14の容積が拡大できる所定の位置に可動ケース16を保持する複数の巻きばね17が介装されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体から放出された皮膚透過ガス中の成分を検出する皮膚透過ガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の汗腺から分泌される汗中の成分は血液中の成分に依存しているという事実は周知である。そして、従来、このような事実に基づいて、被検者の健康状態を診断するために用いられる検出装置としては、人体から放出され、汗と同じ成分を含んでいる皮膚透過ガスの成分をガスセンサによって検出する皮膚透過ガス検出装置が考えられている。
【0003】
このような皮膚透過ガス検出装置の一例としては、皮膚に密着可能であるとともに底部が開口された容器を備え、開口部を介して皮膚から放出された皮膚透過ガスを容器内に導入した後、導入した皮膚透過ガスを容器内から追い出して測定に供する皮膚透過ガス検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の皮膚透過ガス検出装置では、容器内を下部槽と上部槽とに仕切る仕切板が設けられ、仕切板にはその中央部に下部槽と上部層とを連通する開口が設けられている。そして、この皮膚透過ガス検出装置では、仕切板に設けられた開口を弁部材によって閉じた状態で、皮膚透過ガス検出装置の容器の開口部を被検者の皮膚に押し当てて固定して下部槽に皮膚透過ガスを収集する。その後、操作部材を操作して弁部材によって閉じられた開口を開き、下部槽から上部槽内に皮膚透過ガスを流入させる。そして、次に、上部槽と連通する導出口及び送風口を開き、送風口から導出口に流れる通気とともに皮膚透過ガスを追い出してその皮膚透過ガスを測定に供する。
【0004】
また、その他に、皮膚透過ガス中の成分を測定する検出装置としては、被検者の皮膚から放出された汗をガス(皮膚透過ガス)としてガスセンサにまで導入し、ガスセンサによって汗に含まれるアルコール濃度を測定して、被検者の血液中のアルコール濃度を得るアルコール濃度測定装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に記載のアルコール濃度測定装置では、被検者が指の腹を防滴透湿膜に押し付けた状態で、プランジャを引いて汗中の揮散成分をプローブ内で清浄空気に拡散し、シリンダ内に貯留する。そして、バルブを切り替えた後、貯留したガスをプランジャによってセンサ室に送り込み、センサ室を略一定のガス圧に維持しつつセンサ室に設けられたガスセンサによって、被検者の汗に含まれるアルコール濃度を測定する。
【特許文献1】特開2002−195919号公報
【特許文献2】特開2001−21567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の皮膚透過ガス検出装置において、皮膚透過ガスをセンサ付近にまで導く方法として自然流動を採用する場合には、皮膚透過ガスがセンサ付近に到達するまでに時間を要するためセンサの反応時間が遅くなる。また、センサが外気中の雑ガスの影響を受けることで、皮膚透過ガス中の成分を正確に検出できないという問題があった。
【0006】
また、特許文献1に記載の皮膚透過ガス測定装置では、容器の開口部を被検者の皮膚に押し当てる作業とは別に、操作部材を操作する作業、導出口及び送風口を開く作業を行わなければ収集された皮膚透過ガスを側定に供することはできない。したがって、この皮膚透過ガス測定装置は、皮膚透過ガスの測定を行うまでに多くの操作を行わなければならない分だけ、操作が煩雑であるという問題があった。
【0007】
特許文献2に記載の血液中のアルコール濃度測定装置では、被検者が指の腹をプローブの防滴透湿膜に押し付ける作業とは別に、駆動部によりプランジャを動かす操作と、バルブを切り換える操作を行わなければ、センサを備えるセンサ室にガスを送り込むことはできない。したがって、この血液中のアルコール濃度測定装置でも、特許文献1と同様に、被検者から発生したガスから血液中のアルコール濃度を測定するまでに多くの操作を行わなければならない分だけ、操作が煩雑であった。また、特許文献2に記載の体内中のアルコール濃度測定装置では、強制的にガスをガス室に流し込むためにプランジャポンプのような装置を使用する分、簡便性に欠けるという欠点もある。
【0008】
本発明は、こうした事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガスセンサの精度を向上させることができるとともに、操作性を向上させることができる皮膚透過ガス検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ガスセンサによって被検者の皮膚から放出された皮膚透過ガス中の成分を検出する皮膚透過ガス検出装置において、固定部を有し、容積が可変であるガス室を区画する収容ケースと、前記ガス室に収容されるガスセンサと、前記収容ケースに設けられ、前記被検者の皮膚から放出された皮膚透過ガスを前記ガス室に取り入れる取り入れ口と、前記ガス室の容積を拡大できる所定の状態で前記収容ケースを保持する保持手段と、前記収容ケースに設けられ、前記保持手段による保持を解除するとともに前記ガス室の容積が拡大するように前記収容ケースを操作可能な操作部とを備えることを要旨とする。
【0010】
なお、「皮膚透過ガス」とは、汗腺から分泌されるガスや、体内から分泌された後に皮膚を透過して放出されるガスや、皮膚から分泌されるガスのことを意味する。「所定の状態」とは、被検者が操作部を操作して、皮膚透過ガス中の成分の検出を開始するときの状態を意味する。
【0011】
この発明では、保持手段によってガス室の容積が所定の容積に保持されている状態から、被検者が、例えば、直接、操作部に触れて操作することで、保持手段による保持を解除してガス室の容積が拡大するように収容ケースを操作すると、ガス室内の圧力が収容ケース外の圧力よりも低くなる。そして、被検者が操作部を操作する際には、例えば、被検者の指等が取り入れ口付近に位置するため、操作部を操作している最中に、被検者の皮膚から放出された皮膚透過ガスが取り入れ口から吸引され、皮膚透過ガスがガス室内に取り込まれる。そのため、皮膚透過ガスは強制的にガス室内に吸引されてガスセンサにまで到達して皮膚透過ガス中の成分が検出される。したがって、被検者から放出された皮膚透過ガスはガス室内に取り込まれて速やかにガスセンサにまで到達するため、皮膚透過ガスがガスセンサに到達するまでに、センサに影響を与えるガスが皮膚透過ガスと混合することを抑制し、皮膚透過ガス中の成分の検出精度を向上させることができる。
【0012】
また、被検者が操作部を操作すれば、皮膚透過ガス検出装置は被検者から放出された皮膚透過ガスを自動的に吸引し、ガスセンサによって皮膚透過ガス中の成分を検出することができる。したがって、皮膚透過ガス中の成分を検出するまでに多くの操作を行わなくともよく、皮膚透過ガス検出装置の操作性を向上させることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記固定部は前記取り入れ口が設けられた固定ケースであり、前記収容ケースは前記固定ケースと、前記固定ケースを収容するとともに、前記取り入れ口と連通する開口部が設けられ前記操作部が操作されると移動する可動ケースとによって構成され、前記ガス室は前記固定ケース及び前記可動ケースによって区画されていることを要旨とする。
【0014】
この発明では、操作部が操作されると固定ケースに対して可動ケースが移動して、ガス室の容積は拡大され、開口部及び取り入れ口を介して皮膚透過ガスはガス室内に吸引される。そして、収容ケースを固定ケースと可動ケースとによって二重構造に構成することでガス室の容積を可変に構成しているため、収容ケースの作りを丈夫な作りにすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記収容ケースの前記ガス室には、前記取り入れ口と前記ガス室との間を連通状態又は非連通状態にする弁体が設けられ、前記弁体は、前記操作部が操作されると開くように構成されていることを要旨とする。
【0016】
この発明では、取り入れ口から皮膚透過ガスを取り入れるとき以外は、弁体によって取り入れ口とガス室とは非連通状態になるため、検出を行うとき以外に、取り入れ口を介して収容ケース外のガスがガス室内に流入することを抑制できる。したがって、皮膚透過ガス中の成分の検出を行うときに、ガスセンサによる検出に対して影響を及ぼすガスがガス室内に存在することを抑制でき、精度よく皮膚透過ガス中の成分を検出することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記収容ケースには、前記ガス室と前記収容ケース外とを連通する排気孔が設けられ、前記収容ケースには、前記排気孔を開閉する排気用弁体が設けられ、前記排気用弁体は、前記収容ケースが拡大した状態から最小の容積となる状態に戻る際に開くように構成されていることを要旨とする。
【0018】
この発明では、被検者が操作部の操作を止めた後、ガス室の容積が縮小する際に、弁体が閉じられてガス室内のガスを取り入れ口から放出させることができなくとも、排気用弁体を開かせて排気孔からガス室内のガスを収容ケース外に排気できる。したがって、取り入れ口が塞がれていても、皮膚透過ガス検出装置による検出が終わった後、ガス室内に取り込んだ皮膚透過ガスを排気することができるため、ガス室の容積を拡大できる所定の状態に収容ケースを支障なく戻すことができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において前記収容ケースは、前記ガス室の少なくとも一部を区画する蛇腹部を備えた単体のケースであり、前記蛇腹部は、前記操作部に対する操作に連動して伸長するように構成されていることを要旨とする。
【0020】
この発明では、操作部が操作されて、保持手段による保持が解除されるとともに蛇腹部が伸長するとガス室の容積は拡大し、取り入れ口から皮膚透過ガスの吸引を行うことができる。また、容積が可変であるガス室を有する収容ケースは単体に構成されているため、可動ケースと固定ケースとからなる2重構造の収容ケースでガス室を区画する場合に比べて、ガス室内の密閉性を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、検出精度を向上させることができるとともに、操作性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を自動車に搭載されたアルコール濃度検出装置に具体化した一実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
図1に示すように、アルコール濃度検出装置11は、ガスセンサ12を収容する収容ケース13を備えている。収容ケース13は、固定ケース15と固定ケース15を収容する可動ケース16とから構成されている。そして、図2(a)に示すように、固定ケース15によって区画される収容室18と、可動ケース16の本体部22及び固定ケース15の底部20によって区画される室19とによってガス室14が構成されている。ガス室14は可動ケース16が移動することで容積が変化するように構成されている。なお、収容室18と室19とは、本体部27の底部20に設けられている連通孔20aを介して連通している。固定ケース15と可動ケース16との間には複数の巻きばね17が介装されるとともに、巻きばね17は可動ケース16をガス室14の容積が最小の状態となる方向に付勢している。
【0023】
図1に示すように、可動ケース16は、略有底円筒状の本体部22と、本体部22の上端に設けられた天板23と、天板23の中央部に設けられた操作部としての被押圧用突部24とから構成されている。
【0024】
本体部22には、その外周面25aに可動ケース16の軸方向に沿って延びる一対の案内溝26a(ただし、図1では一つのみ図示する。)及び案内溝26bが形成されている。案内溝26a,26bは可動ケース16が移動することを許容している。被押圧用突部24にはその内部にパイプ収容孔28が形成されるとともに、その先端にパイプ収容孔28よりも径が小さく、なおかつ、パイプ収容孔28と外部とを連通する開口部としての吸引口29が形成されている。
【0025】
固定ケース15は、略有底円筒状の本体部27と、本体部27の上端に設けられた天板30と、天板30の中央部に設けられるとともにパイプ収容孔28に向かって延出する取り入れ用パイプ37とから構成されている。
【0026】
固定ケース15には、天板30の周縁から延出する一対の固定片32(ただし、図1では一つのみ図示する。)、及び断面略矩形状の筒部33が設けられている。固定片32は案内溝26aに挿通されるとともに、筒部33は案内溝26bに挿通されている。
【0027】
固定片32には図示しないボルトの軸部が挿通される貫通孔34が設けられている。そして、貫通孔34に挿通されたボルトの軸部は図示しない被固定部(例えば、自動車のインスツルメントパネルの内部)に設けられたねじ穴に螺着されることで、固定ケース15は固定される。また、筒部33の導出孔35は収容室18内と連通している。
【0028】
一方、取り入れ用パイプ37はその途中部分までが被押圧用突部24に形成されたパイプ収容孔28に対して挿入されている。取り入れ用パイプ37の先端に存在する取り入れ口36は、パイプ収容孔28を介して被押圧用突部24の吸引口29と連通している。取り入れ用パイプ37はその中心線が被押圧用突部24の中心線と一致するように構成されるとともに、その孔38が収容室18と連通している。
【0029】
収容室18は、ガスセンサ12を収容している。収容室18内においては、図示しない取り付け手段によって底部20の上方に基板39が取り付けられるとともに、基板39にはガスセンサ12の端子40が接合されている。ガスセンサ12は天板30から底部20側に向かって延出する複数の支持片41によって支持されている。なお、ガスセンサ12はガス中のアルコール濃度を検出するとともに、検出したアルコール濃度に応じた電圧値を外部の図示しない外部装置に入力するように構成されている。また、基板39上に接合されたガスセンサ12等の電子部品は、導出孔35を介して収容ケース13外に導出された図示しない複数の配線によって図示しない外部装置と電気的に接続されている。そして、収容ケース13外のガスが導出孔35から流入しないように、導出孔35に存在する隙間は図示しないシール材によって埋められている。
【0030】
また、収容室18には収容室18と取り入れ用パイプ37の取り入れ口36との間を連通状態又は非連通状態にする弁体42が設けられている。弁体42は、一方の端部が天板30の下面30aに接着材等の接合材により接合されるとともに、他方の端部が自由端となっている。弁体42の他方の端部にはその取り入れ用パイプ37側に円錐状の突起43が設けられている。なお、突起43はその基端の径が孔38の径よりも大きくなるように形成されるとともに、弁体42に外力が加えられていない状態では孔38を塞ぐように構成されている。
【0031】
そして、可動ケース16の室19は、可動ケース16の底部44に設けられた排気孔46によって可動ケース16外と連通されている。排気孔46のうち可動ケース16の外側の開口は、可動ケース16の底面44aに取り付けられた排気用弁体47によって開閉される。
【0032】
排気用弁体47は、一方の端部が可動ケース16の底部44に対して接着材等の接合材により接合されるとともに、他方の端部が自由端となっている。排気用弁体47の他方の端部には排気孔46と対向する部位に円錐状の突起48が設けられている。なお、突起48はその基端の径が排気孔46の径よりも大きく形成されるとともに、排気用弁体47に外力が加えられていない状態では排気孔46における可動ケース16の外側の開口を塞ぐ。
【0033】
また、可動ケース16と固定ケース15との間に介装された巻きばね17は、ガス室14の容積を拡大できる所定の位置で可動ケース16を保持している。巻きばね17は、可動ケース16の内部に収容された状態でその一方の端部が天板30に取り付けられるとともに、他方の端部が天板23の下面に取り付けられている。そして、巻きばね17は圧縮ばねである。巻きばね17は可動ケース16の天板30を固定ケース15の天板23から離間する方向に付勢するように構成されている。また、巻きばね17は、可動ケース16を所定の位置に復帰させる復帰手段としても機能する。
【0034】
次に、前記のように構成されたアルコール濃度検出装置11の作用を説明する。
アルコール濃度検出装置11は、例えば、被押圧用突部24のみが図示しないインスツルメントパネルから突出し、その他の部分がインスツルメントパネル内部に位置する状態で設けられている。そして、アルコール濃度検出装置11は自動車に乗車した運転者が運転を開始する前に、運転者から放出される皮膚透過ガス中の成分を検出することを目的として使用される。
【0035】
ここで、アルコール濃度検出装置11は、皮膚透過ガスの検出を行わないときには弁体42によって孔38のガス室14側開口が閉塞されているため、取り入れ口36とガス室14とは非連通状態となる。そのため、被押圧用突部24の先端に存在する吸引口29が開放されていても、収容ケース13外に存在する雑ガスがガス室14に流入することは抑制される。なお、「雑ガス」とは、ガスセンサ12によってガス中の成分を検出する際、ガスセンサ12の検出結果に影響を与えるガスのことを意味する。
【0036】
そして、エンジンを始動して運転を開始する前に、運転者は自身の血液中のアルコール濃度を測定するため、まず、自身の指Pで被押圧用突部24を押圧する。そして、被押圧用突部24に対して巻きばね17の付勢力に打ち勝つ力が付与されると、可動ケース16は所定の位置から案内溝26a及び案内溝26bに沿って移動を開始する。そして、図2(a)に示すように、固定ケース15の底部20と可動ケース16の底部44とは離間してガス室14の容積は拡大される。すると、ガス室14内の圧力は収容ケース13外の圧力(大気圧)よりも低くなるため、被押圧用突部24を押圧する指Pから放出される皮膚透過ガスが吸引口29から吸引される。吸引口29から吸引された皮膚透過ガスは、パイプ収容孔28及び孔38を通過した後、ガス圧によって弁体42を開かせてガス室14に流入する。ガス室14に流入した皮膚透過ガスがガスセンサ12の検出素子にまで到達すると、ガスセンサ12は皮膚透過ガス中のアルコール濃度に応じた電圧値を収容ケース13の外部に設けられた図示しない外部装置に入力する。そして、外部装置は、ガスセンサ12から入力された電圧値に基づいて、運転者の血液中のアルコール濃度を測定する。
【0037】
ここで、アルコール濃度検出装置11を用いたアルコール濃度の測定が終了すると、図2(b)に示すように、運転者が被押圧用突部24から指Pを離すことで、可動ケース16は巻きばね17によって付勢され所定の位置に復帰する。このとき、ガス室14の容積が縮小することでガス室14内の圧力が一時的に高まるが、排気孔46を閉塞していた排気用弁体47がガス室14内のガスの圧力を受けて開き、排気孔46を介してガス室14内のガスが排気される。したがって、ガス室14の容積を拡大した状態から縮小させる際に、ガス室14内にガスが溜まることで可動ケース16の移動が阻害されることはなく、可動ケース16を円滑に元の位置に復帰させることができる。
【0038】
本実施形態では、以下の効果を得ることができる。
(1)アルコール濃度検出装置11は、ガス室14の容積が可変である収容ケース13と、可動ケース16を動かしてガス室14の容積を拡大させる操作を行うことができる操作部としての被押圧用突部24を備えている。したがって、被検者から放出された皮膚透過ガスを吸引してガス室14内に強制的に取り込むことができるため、皮膚透過ガスを速やかにガスセンサ12にまで到達させることができ、皮膚透過ガス中の成分の検出精度を向上させることができる。
【0039】
(2)アルコール濃度検出装置11においては、被押圧用突部24が押圧されると可動ケース16が移動して、自動的に皮膚透過ガスの吸引を開始するように構成されている。したがって、被検者は、被押圧用突部24を押圧するだけでアルコール濃度検出装置11による皮膚透過ガスの成分の検出を実行させることができるため、バルブを操作する作業や、プランジャ等のガス移送装置を駆動させる作業を行わなくともよく、アルコール濃度検出装置11の操作性を向上させることができる。
【0040】
(3)ガスセンサ12は、可動ケース16及び固定ケース15からなる収容ケース13によって覆われている。したがって、ガスセンサ12によって皮膚透過ガス中の成分を検出する際に、皮膚透過ガスに大気中の雑ガスが混ざることを抑制できるため、ガスセンサ12による検出精度を向上させることができる。
【0041】
(4)収容ケース13は、固定ケース15と固定ケース15を収容する可動ケース16とによって二重構造に構成されている。したがって、収容ケース13の作りを丈夫な作りにすることができる。
【0042】
(5)ガス室14の一部である収容室18には、収容室18と取り入れ用パイプ37の取り入れ口36との間を連通状態又は非連通状態にする弁体42が設けられている。したがって、アルコール濃度検出装置11が皮膚透過ガス中の成分の検出を行うとき以外に、ガス室14にガスが流入することを抑制して、雑ガスがガス室14に流入することを抑制できる。そのため、検出する際にガス室14に取り入れられた皮膚透過ガスに雑ガスが混ざることを抑制でき、ガスセンサ12は精度よく皮膚透過ガス中の成分を検出することができる。
【0043】
(6)可動ケース16には、その底部20にガス室14と可動ケース16外とを連通する排気孔46が設けられ、可動ケース16の底面44aには、排気孔46を開閉する排気用弁体47が設けられている。したがって、被検者が被押圧用突部24の押圧を止めた後、排気用弁体47を開かせて排気孔46からガス室14内のガスを収容ケース13外に排気できる。孔38の収容室18側開口が弁体42によって塞がれていても、排気孔46からガスを排気することができるため、可動ケース16は円滑に戻ることができる。
【0044】
(7)巻きばね17は可動ケース16を元の位置に復帰させる復帰手段として機能するように構成されている。したがって、被検者から放出された皮膚透過ガスの検出を行った後、被検者が被押圧用突部24から指Pを離せば、巻きばね17は付勢力によって可動ケース16を自動的に復帰させることができる。
【0045】
(8)操作部として被押圧用突部24を採用しているため、平坦な部位を押圧する場合に比べて押圧し易く、より操作性が向上する。
(9)ガスセンサ12を支持する支持片41が設けられている。したがって、アルコール濃度検出装置11が、例えば、頻繁に振動する自動車に搭載された装置に用いられた場合であっても、ガスセンサ12が振動して、ガスセンサ12の端子と基板39との接合部に応力が生じることを抑制できる。
【0046】
実施の形態は、前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ ガス室14内に残留している皮膚透過ガスを排出するために、操作部としての被押圧用突部でない箇所、例えば、天板23を押す操作を行うことでガス室14の容積を拡大させた後、再び、ガス室14の容積を最小の状態に戻してもよい。このような操作を行えば、過去に取り込まれた皮膚透過ガスを収容ケース外に排気して、ガス室14に新たに空気を取り入れることができるため、ガスセンサは、検出を行う際に過去の皮膚透過ガスの影響を受けることなく、精度よく皮膚透過ガス中の成分を検出することができる。
【0047】
○ 弁体42の種類についてはとくに限定されない。吸引口29から吸引された皮膚透過ガスのガス圧を受けて孔38のガス室側の開口を開くことができるような弁体であれば、例えば、弁体として、金属製の板ばねを用いてもよいし板状のゴム弁を用いてもよい。
【0048】
○ 排気用弁体47の種類についてはとくに限定されない。可動ケース16が操作されてガス室14の容積が拡大した状態から可動ケース16が所定の位置に復帰する際に、排気孔46を介して加えられる圧力を受けて排気孔46の外側の開口を開くことができる排気用弁体であれば、排気用弁体として、金属製の板ばねを用いてもよいし、板状のゴム弁を用いてもよい。
【0049】
○ 保持手段及び復帰手段として用いる部材を変更してもよい。巻きばねの代わりに、板ばねを用いてもよい。この場合、板ばねを湾曲した状態で、板ばねの一方の端部を天板30に取り付けるとともに他方の端部を天板23の下面23aに取り付けることで、可動ケース16が所定位置から移動した際には付勢力が加えられるように構成してもよい。また、保持手段及び復帰手段として、例えば、ゴム部材を用いてもよいし、蛇腹部材を用いてもよい。
【0050】
○ 保持手段の構成を変更してもよい。例えば、本体部27の外周面に係合突部を設けるとともに本体部22の内周面に収容凹部を設け、係合突部と収容凹部とで保持手段を構成してもよい。そして、可動ケースの移動方向において収容凹部から若干、天板23側に離間した部位から可動ケースの移動方向に沿って延びる案内溝を設ける。そして、係合突部と収容凹部とを係合させることで可動ケース16を所定位置で保持し、可動ケースを移動させてガス室の容積を拡大する際には、被押圧突部を介して可動ケースに力を加え、係合突部と収容凹部との係合を解除する。さらに、係合突部を案内溝に収容させた状態で可動ケースを移動させてガス室の容積を拡大させれば、吸引口から皮膚透過ガスを吸引させることができる。また、検出作業を終えた後、可動ケースを操作者が操作して動かすことで係合突部を収容凹部に係合させれば、再び、可動ケースを所定位置に保持することができる。
【0051】
○ 図3に示すように、弁体42、排気孔46及び排気用弁体47を省略してもよい。この場合、皮膚透過ガス中の成分を検出する際に、被検者の指で被押圧用突部24を押して、可動ケース16を所定位置から移動させることでガス室14の容積を拡大させれば、ガス室14内に皮膚透過ガスを吸引することができる。そして、この際に、例えば、取り入れ用パイプ37の孔38の径を吸引口29の径よりも小さくなるように設計して、検出作業を行わないときには取り入れ口36からガス室14にガスが入り難くなるようにするとよい。また、弁体、排気孔及び排気用弁体を省略するのであれば、取り入れ用パイプを可動ケース側に設けてもよい。例えば、取り入れ用パイプ37を省略し、可動ケース16の内側にパイプ収容孔28と連通するとともに中心線が被押圧用突部24の中心線と一致する取り入れ用パイプを設けてもよい。そして、天板30の中央部に取り入れ用パイプよりも径が大きく、中心が取り入れ用パイプの中心線と一致する挿通口を設ける。このように構成すれば、被押圧用突部24が押圧されて可動ケース16が移動すると取り入れ用パイプの一部は挿通口に挿通されて、取り入れ用パイプの先端はガス室内に配置される。したがって、被押圧用突部24の吸引口29から吸引された皮膚透過ガスはパイプ内を経由して収容室18内に導入されるため、吸引口29は皮膚透過ガスをガス室に取り入れる取り入れ口として機能する。
【0052】
○ 取り入れ用パイプ37の外周部に図示しないシールリングを設け、取り入れ用パイプ37の外周部と被押圧用突部24の内壁部との間から雑ガスがガス室に流入することを抑制するように構成してもよい。
【0053】
○ 固定ケース15の外周部に図示しないシールリングを設け、本体部27の外周面と可動ケース16の内周面との隙間から雑ガスがガス室に流入することを抑制するように構成してもよい。
【0054】
○ 固定ケース15の下部を蛇腹で構成してもよい。例えば、図4に示すように、その下部に設けられた有底の蛇腹部50と、蛇腹部50の上端に設けられた上部51と、天板30と、取り入れ用パイプ37とから収容ケース49を構成する。そして、蛇腹部50、上部51、及び天板30によってガス室57を区画するとともに、蛇腹部50の伸縮によって容積が変化するようになっている。そして、図示しない固定片を介して収容ケース49を被固定部に固定するとともに、複数の巻きばね17を介して収容ケース49の天板30を可動体52に連結する。可動体52は、円板状のプレート53と、プレート53の中央部に設けられた操作部としての被押圧用突部52aと、プレート53の周縁部から蛇腹部50の底部50aに向かって延びる連結部54とから構成されている。連結部54の先端部54aは蛇腹部50の底部50aに連結されている。可動体52は、巻きばね17による付勢力だけが加えられている状態では、連結部54を介して蛇腹部50を収縮状態にさせてガス室57の容積を所定の容積に設定している。また、可動体52は、被押圧用突部52aに対して押圧力が加えられると移動して、連結部54を介して蛇腹部50を伸長状態にさせることでガス室57の容積が最小の状態から拡大できるように構成されている。この構成では、ガス室57を単体の収容ケース49で区画しており、2つのケースを用いて収容ケースを2重構造にした場合のようにガスが漏れるようなケース間の隙間が存在することはないため、ガス室57内の密閉性を高めることができる。また、被押圧用突部52aが押圧されるのに伴って力が加えられると伸長し、被押圧用突部52aに対する押圧を止めると縮小するような部材であれば、蛇腹部50以外の部材を固定ケース15の下部に設けて、ガス室の容積が可変となるように構成してもよい。例えば、蛇腹部50の代わりに弾性体である有底のゴム体を固定ケース15の下部に設け、収容ケースのガス室の容積が可変となるように構成してもよい。
【0055】
○ 被押圧用突部を省略してもよい。この場合、例えば、図5(a)に示すように、可動ケース16の内側に筒状の収容部55を設けるとともに、収容部55の孔56に取り入れ用パイプ37を挿通するように構成する。そして、収容部55の外側の開口を吸引口58として構成するとともに、吸引口58付近の部位を操作部として兼用するように構成してもよい。
【0056】
○ 固定ケース15に基板39を固定する代わりに、可動ケース16に基板39を取り付けてもよい。この場合、底部及び支持片を省略して、図5(b)に示すように、可動ケース16の底部44に支持手段59を設ける。そして、支持手段59によって基板39を支持するとともに、ガスセンサ12と電気的に接続されている図示しない複数の配線を十分にたるませた状態で導出孔から導出させる。このように構成すれば、ガスセンサ12を可動ケース16に取り付けても、可動ケース16は支障なく移動できる。
【0057】
○ インスツルメントパネルの内部を被固定部とする代わりに、ドアのハンドル部分を被固定部として構成してもよい。この場合、運転者が把持する箇所に皮膚透過ガス検出装置の操作部が位置するように構成すれば、運転者が乗車する際に自然に操作部を操作させて、運転者から放出される皮膚透過ガス中の成分を検出することができる。また、皮膚透過ガス検出装置から導出される配線を容易に目立たないようにすることができる。
【0058】
○ アルコール濃度センサの代わりに、皮膚透過ガスとしてアセトンの成分量を検出するアセトンセンサを用いてもよい。また、皮膚透過ガスとしてアンモニアの成分量を検出するアンモニアセンサを用いてもよい。
【0059】
以下の技術的思想は前記実施形態から把握できる。
○ 前記ガス室の容積が縮小する方向に前記収容ケースを付勢する復帰手段が設けられている請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の皮膚透過ガス検出装置。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】アルコール濃度検出装置の模式断面斜視図。
【図2】(a)はアルコール濃度検出装置で皮膚透過ガスを検出している状態を示す模式断面図、(b)はアルコール濃度検出装置による皮膚透過ガスの検出を完了した後の状態を示す模式断面図。
【図3】別の実施形態におけるアルコール濃度検出装置の模式断面図。
【図4】別の実施形態におけるアルコール濃度検出装置の模式断面図。
【図5】(a)は別の実施形態におけるアルコール濃度検出装置の部分模式断面図、(b)は別の実施形態におけるアルコール濃度検出装置の部分模式断面図。
【符号の説明】
【0061】
11…アルコール濃度検出装置、12…ガスセンサ、13,49…収容ケース、14,57…ガス室、15…固定ケース、16…可動ケース、17…保持手段としての巻きばね、24…操作部としての被押圧用突部、36…取り入れ口、42…弁体、46…排気孔、47…排気用弁体、50…蛇腹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサによって被検者の皮膚から放出された皮膚透過ガス中の成分を検出する皮膚透過ガス検出装置において、
固定部を有し、容積が可変であるガス室を区画する収容ケースと、
前記ガス室に収容されるガスセンサと、
前記収容ケースに設けられ、前記被検者の皮膚から放出された皮膚透過ガスを前記ガス室に取り入れる取り入れ口と、
前記ガス室の容積を拡大できる所定の状態で前記収容ケースを保持する保持手段と、
前記収容ケースに設けられ、前記保持手段による保持を解除するとともに前記ガス室の容積が拡大するように前記収容ケースを操作可能な操作部とを備えることを特徴とする皮膚透過ガス検出装置。
【請求項2】
前記固定部は前記取り入れ口が設けられた固定ケースであり、
前記収容ケースは前記固定ケースと、前記固定ケースを収容するとともに、前記取り入れ口と連通する開口部が設けられ前記操作部が操作されると移動する可動ケースとによって構成され、
前記ガス室は前記固定ケース及び前記可動ケースによって区画されている請求項1に記載の皮膚透過ガス検出装置。
【請求項3】
前記収容ケースの前記ガス室には、前記取り入れ口と前記ガス室との間を連通状態又は非連通状態にする弁体が設けられ、
前記弁体は、前記操作部が操作されると開くように構成されている請求項1又は請求項2に記載の皮膚透過ガス検出装置。
【請求項4】
前記収容ケースには、前記ガス室と前記収容ケース外とを連通する排気孔が設けられ、
前記収容ケースには、前記排気孔を開閉する排気用弁体が設けられ、
前記排気用弁体は、前記収容ケースが前記所定の状態に戻る際に開くように構成されている請求項3に記載の皮膚透過ガス検出装置。
【請求項5】
前記収容ケースは、前記ガス室の少なくとも一部を区画する蛇腹部を備えた単体のケースであり、
前記蛇腹部は、前記操作部に対する操作に連動して伸長するように構成されている請求項1に記載の皮膚透過ガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−85873(P2009−85873A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258789(P2007−258789)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】