説明

皮膜を有する成形品の製造方法

【課題】熱可塑性樹脂をマトリクスとした、シートなどの面状の炭素繊維複合材料を加熱、加圧により成形して、生産性に優れ、かつ意匠性に優れ加飾することができる成形品を製造する方法を提供すること。
【解決手段】1)熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料の表面に放電処理をする表面処理工程と、2)当該複合材料を金型に配置して加熱及び加圧する成形工程と、3)当該金型内に塗料を注入し硬化させて当該複合材料の表面に皮膜を形成させる皮膜形成工程とを含む、皮膜を有する成形品の製造方法であって、当該塗料が、塗料全体を基準として0.01重量%以上20重量%の多官能イソシアネート化合物を含むものである、皮膜を有する成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膜を有する成形品の製造方法に関する。より詳しくは、熱可塑性樹脂をマトリクスとした炭素繊維を含有する複合材料を用いて、表面に皮膜を形成してなる成形品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を含む複合材料(以下、炭素繊維複合材料ということがある)は比強度、比剛性が高く極めて優れた材料として重用されているが、黒色の材料であることから、炭素繊維複合材料を用いた成形品は原着による加飾が極めて困難である。プレス成形や射出成形による生産性向上が期待される、熱可塑性樹脂をマトリクスとした炭素繊維複合材料(以下、熱可塑性炭素繊維複合材料ということがある)の成形品においても原着はもとより、該成形品表面への塗装若しくは化粧フィルムなどの貼付も、炭素繊維複合材料の炭素繊維目が表面に転写するため製品の意匠性が著しく損なわれ、加飾は極めて困難である。
【0003】
ところで、ヒケやピンホールなどの樹脂からなる成形品表面の不具合を隠蔽する技術として、インモールドコートと称す特許文献1に記載されている樹脂成形直後に金型内に不飽和結合を有する反応性の塗料を注入して金型内で硬化させ、成形品の表面に皮膜を形成させる方法が知られている。上記熱硬化性樹脂成形品表面には不飽和結合が残存しており、注入した塗料の硬化中に結合し、皮膜と熱硬化性樹脂成形品表面とが良好に密着すると考えられているため、この技術は主として特許文献2や3のように不飽和結合を有する熱硬化性樹脂成形品の加飾に用いられることが多い。一方、ポリプロピレンやポリアミドなどの熱可塑性樹脂からなる成形品の表面は一般に反応性が低く、特許文献4のように反応基を有する樹脂をブレンドしたり特許文献5のように塗料にさらに反応性の添加物を配合したりして、皮膜と熱可塑性樹脂成形品との密着性向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−273921号公報
【特許文献2】特開昭54−139962号公報
【特許文献3】特開2004−106210号公報
【特許文献4】特開2004−99884号公報
【特許文献5】特開平8−258080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面反応性が低い炭素繊維が熱可塑性炭素繊維複合材料からなる成形品表面に露出すると、該成形品と皮膜との密着性が著しく悪くなる。また熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂もインモールドコート塗料との反応性が決して高いわけではない。したがって従来のインモールドコート塗料や特許文献4のように添加物によって反応性を高めた塗料であっても、塗料と熱可塑性炭素繊維複合材料の成形品表面とが結合しにくいため十分に密着せず、皮膜が容易に剥離する問題があった。また、反応性向上を期待して該マトリックス樹脂中に官能基を有する反応性の熱可塑性樹脂をブレンドすることは、熱可塑性炭素繊維複合材料全体の物性に影響を与えるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂をマトリクスとした、シートなどの面状の炭素繊維複合材料を加熱、加圧により成形して、生産性に優れ、かつ意匠性に優れ加飾することができる成形品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
インモールドコート塗料と熱可塑性炭素繊維複合材料との密着性を良好にするために熱可塑性炭素繊維複合材料を用いたインモールドコートを鋭意検討した結果、特定の反応性の添加剤を含有する塗料を用いること、及び上記複合材料に予めコロナ放電などの表面処理を行うと皮膜密着性が格段に向上することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、1)熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料を成形する複合材料成形工程と、2)かかる複合材料の表面に放電処理を施す表面処理工程と、3)当該複合材料を金型に配置して加熱及び加圧する加熱加圧成形工程と、4)当該金型内に塗料を注入して硬化させ表面処理された複合材料の表面に皮膜を形成させる皮膜形成工程とを含む、皮膜を有する成形品の製造方法であって、当該塗料が、塗料全体を基準として0.01重量%以上20重量%以下の多官能イソシアネート化合物を含んでいる、皮膜を有する成形品の製造方法である。またかかる製造方法によって得られる成形品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料からなる成形品(以下、熱可塑性炭素繊維複合材料成形品ということがある)が製造できるが、該皮膜は成形品の表面との密着性が良いので炭素繊維目を隠蔽することができ、意匠性が向上された熱可塑性炭素繊維複合材料成形品を効率よく得ることができる。本発明で得られる皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料成形品は、例えば、ドアやボンネットなどの自動車用途、産業ロボットパーツ、医療機器パーツなどの産業用途の材料、部品として有用であり、なかでも外観部分に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、インモールドコート塗料に特定の反応性の添加剤を配合し、さらに熱可塑性炭素繊維複合材料の表面に対し予め放電処理を行った後に、かかるインモールドコート塗料を注入・硬化させ皮膜を形成して加飾を行う熱可塑性炭素繊維複合材料成形品の製造方法である。以下、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[複合材料成形工程]
本発明では、以下に説明するような、1)複合材料成形工程と、2)表面処理工程と、3)加熱加圧成形工程と、4)皮膜形成工程とを含むものである。好ましくは、1)〜4)の工程を順に行なうことによって、目的とする成形品を効率よく製造することができる。
【0012】
[熱可塑性炭素繊維複合材料]
本発明における熱可塑性炭素繊維複合材料とは、熱可塑性樹脂をマトリックスとし、該樹脂と、強化繊維として炭素繊維とを含む材料である。熱可塑性炭素繊維複合材料は、炭素繊維100重量部に対し熱可塑性樹脂が50〜1000重量部含まれているものであることが好ましい。より好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜400重量部、更に好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜100重量部である。
【0013】
熱可塑性炭素繊維複合材料における炭素繊維の形態は、とくに限定されず、連続繊維であっても、不連続繊維であっても、またそれらを層状に積層させても良い。
連続繊維の場合、もちろん部材の大きさや形状などにより不連続となるので、繊維長100mm超のものを連続繊維とする。連続繊維の場合は、織編物、ストランドの一方向配列シート状物及び多軸織物等のシート状、または不織布状の形態が好ましい。なお、多軸織物とは、一方向に引き揃えた炭素繊維の束をシート状にして角度を変えて積層したもの(多軸織物基材)を、ナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等のステッチ糸で、この積層体を厚さ方向に貫通して、積層体の表面と裏面の間を表面方向に沿って往復しステッチした織物をいう。繊維を一方向に配置する場合は、層の方向を変えて多層に積層する、例えば交互に積層することができる。また積層面を厚み方向に対称に配置することが好ましい。
【0014】
不連続繊維は、不連続の炭素繊維を分散して重なるように配置したランダムマット状のもの(以下、ランダムマットということがある)が好ましく挙げられる。不連続の炭素繊維は複合材料中で2次元ランダムに配置されているランダムマットが好ましい。2次元ランダムに配置されているランダムマットとは、面内において、強化繊維は特定の方向に配向しておらず、無作為な方向に分散して配置された、面内等方性の材料である。本発明では、このランダムマットを用いた場合、得られる成形品は、ランダムマット中の強化繊維の等方性が維持される。この場合の平均繊維長は10mm以上100mm以下、平均繊維径は3〜12μmが好ましい。炭素繊維は複合材料中で炭素繊維束の状態で存在していてもよく、また炭素繊維束と単糸の状態が混在していることも好ましい。
【0015】
熱可塑性炭素繊維複合材料のマトリックスである熱可塑性樹脂としては、特に制限はないが、具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリ乳酸、ポリアミド樹脂、ASA樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびこれらの樹脂から選ばれる2種類以上の樹脂組成物が挙げられる。好ましい熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびポリフェニレンスルフィド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0016】
熱可塑性炭素繊維複合材料を製造する方法としては、特に制限はないが、例えば、まず、炭素繊維を開繊させながら所望の長さにカットし、また同時に適度な長さにドライカットした熱可塑性樹脂からなる繊維をランダムに混在散布しランダムマットを得る。次に、このランダムマットをダイ等で該繊維を溶融させながら押出して製造することができる。
【0017】
[樹脂層成形工程]
本発明においては、前記工程1)で上記複合材料を製造したのち、上記複合材料の少なくとも一方の表面には、熱可塑性樹脂からなる樹脂層を設けるための樹脂層成形工程を行なってもよい。本発明により得られる成形品において、かかる樹脂層を有していると、熱可塑性炭素繊維複合材料と後述する皮膜との間の密着性がより向上することができる。炭素繊維と上記皮膜との密着性は、得られた熱可塑性炭素繊維複合材料成形品の表面に炭素繊維が露出した場合、露出した程度にもよるが、該成形品の表面から皮膜が多少剥がれやすくなるなどの不具合が生じる場合がある。かかる熱可塑性樹脂層は、皮膜を形成しようとする成形品の表面の50%以上〜全体に設けられていることが好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂層を設ける方法としてはとくに限定はないが、例えば、前述の熱可塑性炭素繊維複合材料の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂からなるフィルムを積層し、ついで、該フィルム及び当該材料を加熱して当該複合材料中の炭素繊維に含浸することができる程度に該フィルムを溶融させ、必要により加圧することにより製造することができる。上記フィルムの他に、シート、織物、不織布などの面状体、短繊維、粉状などの粉体の形状からなる熱可塑性樹脂材料を用いることも出来る。
【0019】
熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性炭素繊維複合材料のマトリックス樹脂と相溶する樹脂とすることが好ましく、熱可塑性炭素繊維複合材料を構成するマトリックス樹脂と同様の前記熱可塑性樹脂が好ましく挙げられる。熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素繊維複合材料を構成する熱可塑性樹脂は同種の樹脂であることがより好ましい。
【0020】
かかる熱可塑性樹脂層の厚みは好ましくは5μm以上5mm以下であり、より好ましくは20μm以上4mm以下であり、さらに好ましくは40μm以上3mm以下である。樹脂層の厚みが5μm未満では炭素繊維が樹脂層から露出する場合があり、また樹脂層が5mmを超えると全体の重量が嵩んでしまうことがある。
【0021】
[インモールドコート塗料]
本発明で用いられるインモールドコート塗料はとくに限定はなく、例えば、大日本塗料株式会社からグラスクラッドやプラグラスなどの名称で購入することができるようなものを用いることができる。かかる塗料の組成は、例えば特開平1−126316号公報に記載されているように、(a)ウレタンアクリレート化合物と、不飽和エポキシアクリレート化合物と、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートモノマーと、前記以外の少なくとも一種の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとからなるビヒクル成分に、充填材、顔料、添加剤を加えた塗料本体と、(b)加熱によってラジカルを発生する開始剤および必要に応じて開始剤用促進剤を加えた硬化剤成分とからなるものが好ましく挙げられる。これらウレタンアクリレート化合物、不飽和エポキシアクリレート化合物、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートモノマー、エチレン性不飽和モノマーはいずれも分子内に不飽和二重結合を有しており、開始剤の熱分解で発生する活性ラジカルにより、重合(硬化反応)を開始し、皮膜を形成する。このとき高温に加熱されている熱可塑性炭素繊維複合材料の熱可塑性樹脂の一部が熱解離し、この活性ラジカルが反応する結果、成形品と塗料が化学結合し、塗料との密着性が発現するものと推察される。ウレタンアクリレート化合物としては、例えば、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネートなどのジイソシアネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール、および下記式
【化1】

(ただし、Rは水素またはメチル基であり、nは2〜8の整数である)
で示されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとからNCO基/OH基の比が0.9〜1.0になるような割合でイソシアネート末端ポリウレタンオリゴマーを生成させたのち、ほとんどの遊離イソシアネート基が反応するまでヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを反応させることにより製造される。ウレタンアクリレート化合物の重量平均分子量はとくに限定はないが、約500〜10000程度が適当である。なお、前記ジイソシアネートとしてはトルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート等のジイソシアネートが使用できるが、特にトルエンジイソシアネートの2,4−および2,6−異性体の混合物が有用である。前記ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルキレンジオール、ジカルボン酸又はその無水物のジエステル反応物であるジエステルジオールが代表的に物として挙げられる。
【0022】
不飽和エポキシアクリレート化合物はビスフェノールA型エポキシ、フェノール性ノボラック型エポキシなどのエポキシ化合物と、アクリル酸やメタクリル酸などの不飽和カルボン酸とをエポキシ基1当量あたりカルボキシル基0.5〜1.5当量となるような割合で、通常のエポキシ基への酸の開環付加反応によって得られた重量平均分子量300〜2000の化合物である。カルボキシル基を有するアクリレートモノマーとしてはβ−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレートなどが挙げられる。エチレン性不飽和モノマーとしては例えばスチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0023】
塗料は、前記成分の他に、必要に応じ、金属粉、離型剤、硬化促進剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの充填材、着色顔料、体質顔料、導電性顔料などの顔料、改質樹脂、表面調整剤などの添加剤を配合することができる。塗料粘度は、塗料の回り込みや、泡の発生を抑える観点から、B型粘度計30℃での測定において、500〜10,000mPa・sが好ましく、600〜7,000mPa・sがより好ましく、700〜6,000mPa・sが特に好ましい。
【0024】
インモールドコート塗料の皮膜を形成させるために塗料に含まれるビヒクル成分を開始剤により重合・硬化させる。開始剤の開裂によりラジカルが発生し、ラジカルが移動しながら連鎖的にビヒクル成分の不飽和結合を結合させることにより重合が進行し、塗料全体を硬化せしめる。開始剤の反応性は熱解離によって開始剤が半分に減少するまでの時間、半減期で表現されるが、本発明で使用される開始剤の半減期は代表的な金型温度における140℃において、2000秒以下が好ましく、1500秒以下がより好ましく、1000秒以下がさらにより好ましい。これは熱可塑性炭素繊維複合材料の熱可塑性樹脂の一部が、後述の成形温度範囲においてある確率で熱解離していると考えられるが、開始剤の半減期が2000秒を超えるとラジカルが発生しにくく、共に該熱解離部と結合することができず、皮膜と熱可塑性炭素繊維複合材料との密着性が発現できず好ましくない。
【0025】
上記の反応性を有する開始剤としては、具体的には、7,7−ジメチルペルオキシオクタン酸1−メチル−1−フェニルエチル、ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ペルオキシビス(ギ酸2−エチルヘキシル)、7,7−ジメチルペルオキシオクタン酸tert−ブチル、ペルオキシネオヘプタン酸tert−ブチル、ピバロイルtert−ブチルペルオキシド、ビス(3,5,5−トリメチル−1−オキソヘキシル)ペルオキシド、ピバロイルtert−ブチルペルオキシド、ペルオキシネオヘプタン酸tert−ブチル、7,7−ジメチルペルオキシオクタン酸tert−ブチル、4,4−ビス[(tert−ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチル、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、(2−エチルヘキサノイル)(tert−ブチル)ペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、2,2−ビス[4,4−ビス(イソブチルペルオキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,1−ビス(1,1−ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン、t−アミルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ(2−エチルヘキシル)カーボネート、tert−ブチル(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、2,2−ビス(tert−ブチルジオキシ)ブタン、tert−ブチルベンゾイルペルオキシドが好ましく挙げられる。これらの開始剤は二種以上を混合して用いても良い。
【0026】
上記開始剤の添加量としては、インモールドコート塗料100重量部に対し、0.1〜15重量部とすることが好ましく、より好ましくは0.2〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。開始剤の量が0.1重量部未満であると発生するラジカルが少なすぎて反応が進行しないことがあり、また15重量部を超えると発生するラジカルが多すぎて、言い換えると塗料に対する重合反応点が多すぎて皮膜の分子量が低くなり、その結果皮膜自身の強度が低くなることがある。
【0027】
[インモールドコート塗料用添加剤]
本発明においては、インモールドコート塗料用添加剤として、2つ以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物を用いる。かかる多官能イソシアネート化合物としては、例えば、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を挙げることができる。かかる多官能イソシアネート化合物はインモールドコート塗料成分と熱可塑性炭素繊維複合材料の表面に存在する熱可塑性樹脂とが架橋するように結合するため、塗料皮膜と熱可塑性炭素繊維複合材料とを強固に密着させる。多官能イソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物を主成分とすることが好ましく、残りの他の多官能イソシアネート化合物として、3官能、4官能のイソシアネート化合物を含んでいてもよい。また、多官能イソシアネート化合物は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の化合物、例えばモノイソシアネート化合物を含んでもよい。かかる他の化合物は全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。後述の実施例では、ジイソシアネート化合物が100重量%の場合を例として挙げている。
【0028】
かかる添加剤の配合量としては、塗料全体を基準として0.01重量%以上20重量%以下であり、インモールドコート塗料100重量部に対し、0.1以上20重量部以下が好ましく、0.5以上15重量部以下がより好ましく、1以上10重量部以下がさらにより好ましい。配合量が0.1重量部未満であると、塗料皮膜と炭素繊維複合材料との結合が不十分で密着せず、20重量部を超えるとインモールドコート塗料自体の反応性が高くなりすぎて、塗料を調製してから固まって使用できなくなるまでの時間(可使時間)が短くなりすぎるため共に好ましくない。
【0029】
本発明では、2)前記熱可塑性炭素繊維複合材料の表面に放電処理をする表面処理工程と、3)当該複合材料を金型に配置して加熱及び加圧を行う成形工程と、4)当該金型内に塗料を注入して硬化させ当該複合材料の表面に皮膜を形成させる皮膜形成工程とを含むものである。好ましくはかかる工程2)〜4)を順に行う。以下に、本発明の製造方法における各工程を説明する。
【0030】
[表面処理工程]
本発明においては、塗料皮膜と炭素繊維複合材料との結合を積極的に行うために、前記炭素繊維複合材料の表面の一部または全部に表面処理を行う。本発明で行う表面処理は放電処理であり、例えば、コロナ放電による処理が好ましく用いられる。コロナ放電によって酸素等の気体成分が活発なプラズマ状態となり、熱可塑性炭素繊維複合材料中の熱可塑性樹脂表面に衝突して分子鎖切断と含酸素官能基付加が起き、その結果樹脂表面に水酸基やカルボニル基などの極性基が発生すると考えられる。かかる表面処理は例えばフィルム表面の改質で用いられているような市販のコロナ放電機によって実施することができる。これら表面にできた水酸基やカルボニル基等は前述のインモールドコート用添加剤と反応して結合を生じるため極めて好ましい。
【0031】
[加熱加圧成形工程]
加熱加圧成形工程では、前記複合材料を、まず金型内にセットし、ついで加熱及び加圧する。具体的には、加熱プレス成形、射出成形などが挙げられる。熱可塑性炭素繊維複合材料は、加熱して可塑化したのち、すみやかに金型へ導入するのがよい。加熱する方法としては加熱プレス成形の場合は熱風乾燥機や赤外線加熱機などが用いられ、射出成形の場合は備え付けのエクストルーダーが用いられる。なお、熱可塑性炭素繊維複合材料中の熱可塑性樹脂が吸水性を示す場合にはあらかじめ乾燥しておくことが好ましい。加熱する熱可塑性炭素繊維複合材料の温度は含有する熱可塑性樹脂の溶融温度+15℃以上かつ分解温度−30℃であることが好ましい。温度がその範囲より低いと樹脂が溶融しないため成形しにくく、またその範囲を超えると樹脂の分解が進むことがある。
【0032】
かように加熱した熱可塑性炭素繊維複合材料を金型に仕込み、プレス成形や射出成形により成形する。加圧条件としてはプレス成形の場合は0.1〜20MPa、好ましくは0.2〜15MPa、さらに0.5〜10MPaの圧力をかけることが好ましい。圧力が0.1MPa未満ではスプリングバックした複合材料が十分に押し切れず、素材強度が低下することがある。また圧力が20MPaを超えるのは例えば熱可塑性炭素繊維複合材料の大きさが大きい場合、きわめて大きなプレスが必要となり、経済的に好ましくない場合がある。また射出成形の場合には樹脂圧は50〜100MPa程度にもなるため、加圧条件は相応した条件とすることが望まれる。また加圧中の加熱条件は、溶融した熱可塑性樹脂が冷却されて固化し、熱可塑性炭素繊維複合材料が形作られるために、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は結晶溶解温度、非晶性の場合はガラス転移温度、それぞれより20℃以下である。
【0033】
本発明で使用される熱可塑性炭素繊維複合材料は加圧時に後述の通り金型を用いるが、その成形工程における金型温度は前述の通り、熱可塑性炭素繊維複合材料の熱可塑性樹脂が熱解離する確率を高めるために、本発明において好ましくは120〜180℃であり、より好ましくは125〜170℃であり、さらにより好ましくは130〜160℃である。金型温度がその範囲未満では熱可塑性樹脂の熱解離が起こりにくく、そのため塗料と熱可塑性炭素繊維複合材料との反応も起こりにくく得られた皮膜との結合が不十分なため皮膜の剥離が起こる場合がある。表面温度がその範囲を超えるとインモールドコート塗料の反応、硬化が速すぎて後述の皮膜成形工程にて塗料が流れにくくなる場合がある。
【0034】
[皮膜形成工程]
上記のごとく熱可塑性炭素繊維複合材料を金型内で成形し、所望の形状に成形したのち皮膜形成工程に処する。具体的に皮膜形成工程においては所望の形状に成形された熱可塑性炭素繊維複合材料の、被覆したい側と対面する型との間に、前記インモールドコート塗料を注入する。かかる塗料は当該熱可塑性炭素繊維複合材料および金型双方の熱で反応し硬化して皮膜を形成すると同時に当該熱可塑性炭素繊維複合材料と接合し密着される。そして金型及び金型内部の温度を通常冷却し、型開・脱型する。インモールドコート塗料注入の際には、特開平9−76285号公報に記載されているように、インモールドコート専用の注入機を使用することが好ましい。該注入機のインジェクターを介して塗料を型内に注入する際の注入圧力は、射出シリンダー直下で1MPa以上、より好ましくは5MPa以上、さらにより好ましくは10MPa以上である。注入圧力が低過ぎる場合は、金型面と成形品表面との間に熱硬化塗料が十分浸透、流動しないことがある。一方、注入圧力の上限は金型の構造や型締め機の能力に応じて適宜決めればよいが概ね50MPa以下である。
【0035】
インモールドコート塗料の注入量は、成形品の被覆すべき表面積および所望の皮膜の厚さに応じて適宜選択される。
インモールドコート塗料の注入時間は、通常0.5〜9秒であるが、適宜調節されることが好ましい。注入時間が早すぎると巻き込み泡などの不具合が発生することがある。また遅すぎると塗料が早く重合・硬化して流れなくなったりすることがある。インモールド塗料を注入後、金型を所定時間、所定温度に保持することにより硬化させる。塗料の硬化時間は通常20秒〜6分であり、好ましくは60秒〜4分である。20秒より短いと、インモールド塗料の硬化が不十分で、皮膜の強度が不足して割れるなどの不具合が発生することがある。逆に6分を越えると、硬化は十分であるが、生産性が劣る。
【0036】
[金型]
本発明に用いられる金型は、金型表面と皮膜との密着性を低減させてあることが好ましい。金型の材料は成形およびインモールドコート塗料注入に耐えうる観点から鉄、クロム、ニッケル、アルミニウムまたはそれらの合金など金属が好ましく、インモールドコート塗料が硬化した皮膜と型表面との密着性が低いという観点から、クロム、ニッケル、アルミニウムが好ましい。強度確保のため鉄で型を形成し、その表面にクロム、ニッケル、アルミニウム層を形成させた金型でも良い。また金属は鋳造よりも鍛造が好ましく、緻密な電鋳でもよい。例えば鋳造金型などの場合、金型の表面がポーラスな状態であると、塗料がその中に入り込んだ後に硬化してしまう。そうすると、その部分の皮膜が熱可塑性炭素繊維複合材料成形品の表面から剥がれる可能性があり好ましくないことがある。さらに金型にはパッキンを設けるなど、注入された塗料が金型から漏洩しないための機構や、塗料注入の際に塗料注入口から最遠の部位に空気を排出する貫通孔を設けることが好ましい。
【0037】
[皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料成形品]
本発明で得られる皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料成形品は、所望の皮膜厚みを有するものであり、皮膜と所望の形状に成形された熱可塑性炭素繊維複合材料との密着性に優れることを特徴とする。皮膜の厚みは、好ましくは、30μmから300μmであり、より好ましくは50μmから250μmであり、さらにより好ましくは70μmから200μmである。熱可塑性樹脂のみからなる成形品に比べ、かかる複合材料成形品の表面は炭素繊維によってその平滑性が乏しいため、皮膜の厚みが30μm未満では、皮膜による熱可塑性炭素繊維複合材料成形品表面の隠蔽が十分とならず斑模様を呈することがある。また皮膜厚みが300μmを超えると塗料が硬化する際の収縮が大きくなってその結果熱可塑性炭素繊維複合材料成形品と皮膜との界面における応力が大きくなって皮膜が剥がれることがある。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
[参考例1] ランダムマットの製造、及び熱可塑性樹脂層の製造
炭素繊維(東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(繊維径7μm、引張強度4000MPa)を、開繊させながら長さ20mmにカットし、炭素繊維の供給量を300g/minでテーパ管内に導入し、テーパ管内で空気を炭素繊維に吹き付けて繊維束を部分的に開繊しつつ、テーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。またマトリックス樹脂として、2mmにドライカットしたPA66(ポリアミド)繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 1400dtex)を500g/minでテーパ管内に供給し、炭素繊維と同時に散布することで、平均繊維長20mmの炭素繊維とPA66が混合された、厚み4mm程度のランダムマットを得た。このランダムマットを2枚積層して積層体とし、これにさらに、旭化成ケミカルズ製PA66レオナ1300Sを320℃でダイに押出して得た約40μのフィルム1枚を当該積層体の片方の表面に重ねた。ついで、300℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、厚み1.6mmの成形板を得た。
【0040】
[参考例2] ランダムマットからなる炭素繊維複合材料のコロナ放電処理
参考例1で得られた成形板の皮膜を形成する側の面全体に、信光電気計装株式会社製コロナフィットCFG−500を用い、該成形板の表面より上面約20mmの距離から約10mm/sの速度で表面に並行に移動させながら満遍なくその表面にコロナ炎を当てた。
【0041】
[実施例1]
(塗料の調製)ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート1重量部を2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラート1重量部と常温で混ぜ合わせペースト状にした。大日本塗料株式会社「グラスクラッドAC18グレー」100重量部に上記ペースト2重量部、イソホロンジイソシアネート5重量部を添加し、常温で十分攪拌した。
【0042】
(成形および被覆)参考例2でコロナ処理された成形板を195mm×245mmに切り出し、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。中央に塗料注入口、および、周囲端末に塗料漏洩防止用パッキンを具備した200mm×250mm平板用金型を140℃に設定した。次に、設定温度に達した当該、鋳鉄の表面にクロムめっきを施し600番程度に研磨した金型の内部に、上記加熱された成形板を二枚重ねて直ちに導入し、2MPa、1分間加圧した。引き続いて、金型内に、株式会社メットジャパン製インモールドコート注入機を用いて上記塗料5mL、注入圧20MPaで約1秒間注入した。金型を定温のまま2分間加圧し、被覆剤を硬化させた。その後該炭素繊維複合材料成形品を金型から取り出した。塗料注入側表面の綺麗に被覆されている部分についてJISK5600に準拠し剥離試験を行ったところ皮膜は剥離しなかった。同JISに準拠して皮膜の厚みを測定したところおよそ100μmであった。
【0043】
[実施例2]
イソホロンジイソシアネートの添加量を1重量部としたほかは実施例1と同様にして皮膜を有する炭素繊維複合材料成形品を作成した。塗料注入側表面の綺麗に被覆されている部分についてJISK5600に準拠し剥離試験を行ったところ皮膜は剥離しなかった。同JISに準拠して皮膜の厚みを測定したところおよそ100μmであった。
【0044】
[実施例3]
イソホロンジイソシアネートの添加量を10重量部としたほかは実施例1と同様にして皮膜を有する炭素繊維複合材料成形品を作成した。塗料注入側表面は綺麗に被覆されており、皮膜の厚みはおよそ100μmであった。JISK5600に準拠し剥離試験、膜厚測定を行ったところ、皮膜は剥離しなかった。
【0045】
[比較例1]
イソホロンジイソシアネートを添加しない他は実施例1と同様にして皮膜を有する炭素繊維複合材料成形品を作成した。塗料注入側表面は綺麗に被覆されており、皮膜の厚みはおよそ100μmであった。JIS K5600に準拠し剥離試験、膜厚測定を行ったところ、皮膜は炭素繊維複合材料成形品からたやすく剥離してしまい密着していなかった。
【0046】
[比較例2]
参考例2のコロナ放電処理を行わず、参考例1のランダムマットを用いたほかは、実施例1と同様にして皮膜を有する塗料を被覆した炭素繊維複合材料成形品を作成した。塗料注入側表面は綺麗に被覆されており、皮膜の厚みはおよそ100μmであった。JIS K5600に準拠し剥離試験、膜厚測定を行ったところ、皮膜は炭素繊維複合材料成形品からたやすく剥離してしまい密着していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む複合材料を成形する複合材料成形工程と、2)かかる複合材料の表面に放電処理を施す表面処理工程と、3)当該複合材料を金型に配置して加熱及び加圧する加熱加圧成形工程と、4)当該金型内に塗料を注入して硬化させ表面処理された複合材料の表面に皮膜を形成させる皮膜形成工程とを含む、皮膜を有する成形品の製造方法であって、当該塗料が、塗料全体を基準として0.01重量%以上20重量%以下の多官能イソシアネート化合物を含んでいる、皮膜を有する成形品の製造方法。
【請求項2】
複合材料の少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂からなる樹脂層を設ける樹脂層成形工程を有する、請求項1に記載の皮膜を有する成形品の製造方法。
【請求項3】
放電処理がコロナ放電処理である請求項1または2記載の皮膜を有する成形品の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、およびポリフェニレンスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
2)の成形工程が加熱プレス成形である、請求項1〜4のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られる皮膜を有する成形品。

【公開番号】特開2013−59712(P2013−59712A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198351(P2011−198351)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】