説明

皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法

【課題】皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料を得る。
【解決手段】1)表面温度が120℃以上180℃以下である金型を用いて、熱可塑性炭素繊維複合材料からなる成形品を得る工程と、2)得られた成形品の表面に皮膜を形成する皮膜形成工程とを含む、皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法であって、2)の皮膜形成工程において、140℃における半減期が1秒以上2000秒以下である開始剤を添加したインモールドコート用塗料を金型内に注入して硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法であり、型内において熱可塑性炭素繊維複合材料の表面に皮膜を形成して熱可塑性炭素繊維複合材料を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維複合材料は比強度、比剛性が高く極めて優れた材料として重用されているが、黒色の材料であることから原着による加飾は極めて困難である。プレス成形や射出成形による生産性向上が期待される熱可塑性炭素繊維複合材料においても原着はもとより、材料表面への塗装若しくは化粧フィルムなどの貼付も、炭素繊維複合材料の炭素繊維目が表面に転写するため製品の意匠性が著しく損なわれ、加飾は極めて困難である。
【0003】
ヒケやピンホールなどの樹脂表面の不具合を隠蔽する技術としてインモールドコートと称す特許文献1に記載されている樹脂成形直後に金型内に不飽和結合を有する反応性の塗料を注入して金型内で硬化、皮膜を形成させる方法が知られている。上記熱硬化性樹脂表面には不飽和結合が残存しており、注入した塗料の硬化中に結合し、皮膜と熱硬化性樹脂表面とが良好に密着すると考えられているため、この技術は主として特許文献2や3のように不飽和結合を有する熱硬化性樹脂の加飾に用いられることが多い。一方、ポリプロピレンやポリアミドなどの熱可塑性樹脂表面は一般に反応性が低く、特許文献4のように反応基を有する樹脂をブレンドしたり特許文献5のように塗料にさらに反応性の添加物を配合したりして、皮膜と熱可塑性樹脂との密着性向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−273921号公報
【特許文献2】特開昭54−139962号公報
【特許文献3】特開2004−106210号公報
【特許文献4】特開2004−99884号公報
【特許文献5】特開平8−258080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱可塑性炭素繊維複合材料は共に表面反応性が低い炭素繊維と熱可塑性樹脂からなることから、成形直後に従来のインモールドコート用塗料を注入しても塗料と熱可塑性炭素繊維複合材料表面が結合しにくいため十分に密着せず、皮膜が容易に剥離する問題があった。また、反応性向上を期待して熱可塑性炭素繊維複合材料中の熱可塑性樹脂にブレンドすることは、熱可塑性炭素繊維複合材料全体の物性に影響を与えるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
熱可塑性炭素繊維複合材料を用いたインモールドコートを鋭意検討した結果、特定の範囲の金型温度で熱可塑性炭素繊維複合材料を成形し、引き続き型内に注入するインモールドコート用塗料の反応性を決める開始剤について特定の反応性を有する開始剤を用いることによって皮膜密着性が格段に向上することを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、1)表面温度が120℃以上180℃以下である金型を用いて、熱可塑性炭素繊維複合材料からなる成形品を得る工程と、2)得られた成形品の表面に皮膜を形成する皮膜形成工程とを含む、皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法であって、2)の皮膜形成工程において、140℃における半減期が1秒以上2000秒以下である開始剤を添加したインモールドコート用塗料を金型内に注入して硬化させる、皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法であり、この方法によって得られる材料、部品、製品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料が製造できるが、該皮膜は密着性が良く炭素繊維目を隠蔽することができ、意匠性が向上された熱可塑性炭素繊維複合材料を効率よく得ることができる。本発明で得られる皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料は、ドアやボンネットなどの自動車用途、産業ロボットパーツ、医療機器パーツなどの産業用途、なかでも外観部分に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は特定の温度範囲の金型を用いて熱可塑性炭素繊維複合材料を成形し、金型内に特定の反応性を有する開始剤を用いたインモールドコート用塗料を注入・硬化させ皮膜を形成して加飾を行う熱可塑性炭素繊維複合材料製造方法である。以下本発明の実施形態について説明する。
【0009】
[熱可塑性炭素繊維複合材料]
本発明における熱可塑性炭素繊維複合材料とは、熱可塑性樹脂をマトリックスとし、強化繊維として炭素繊維を含む材料である。炭素繊維複合材料は、炭素繊維100重量部に対し熱可塑性樹脂が50〜1000重量部含まれているものであることが好ましい。より好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜400重量部、更に好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜100重量部である。
熱可塑性炭素繊維複合材料における炭素繊維の形態は、とくに限定されず、連続繊維であっても、不連続繊維であっても良い。
【0010】
連続繊維の場合、もちろん部材の大きさや形状などにより不連続となるので、繊維長100mm超のものを連続繊維とする。連続繊維の場合は、織編物、ストランドの一方向配列シート状物及び多軸織物等のシート状、または不織布状の形態が好ましい。なお、多軸織物とは、一般に、一方向に引き揃えた繊維強化材の束をシート状にして角度を変えて積層したもの(多軸織物基材)を、ナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等のステッチ糸で、この積層体を厚さ方向に貫通して、積層体の表面と裏面の間を表面方向に沿って往復しステッチした織物をいう。繊維を一方向に配置する場合は、層の方向を変えて多層に積層する、例えば交互に積層することができる。また積層面を厚み方向に対称に配置することが好ましい。
【0011】
熱可塑性炭素繊維複合材料のマトリックスである熱可塑性樹脂は、具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリ乳酸、ポリアミド樹脂、ASA樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびこれらの樹脂から選ばれる2種類以上の樹脂組成物が挙げられるが特に制限はない。好ましくは熱可塑性樹脂は、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート、およびポリフェニレンスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0012】
不連続繊維は、不連続の炭素繊維を分散して重なるように配置したランダムマット状のものが好ましく挙げられる。この場合の平均繊維長は10mm以上100mm以下、平均繊維径は3〜12μmが好ましい。不連続の炭素繊維は複合材料中で2次元ランダムに配置されていることも好ましい。炭素繊維は複合材料中で炭素繊維束の状態で存在していてもよく、また炭素繊維束と単糸の状態が混在していることも好ましい。
【0013】
[熱可塑性樹脂層]
本発明においては熱可塑性炭素繊維複合材料と後述の皮膜との間に、熱可塑性樹脂層を設けることが好ましい。炭素繊維と皮膜との密着性は乏しいため、熱可塑性炭素繊維複合材料の炭素繊維が表面に露出した場合、皮膜が剥れるなどの不具合が生じる可能性があるので熱可塑性樹脂層は皮膜を形成しようとする面の50%以上〜全体に設けることが好ましい。
【0014】
熱可塑性樹脂層は、フィルム状、織物状、不織布状、粉状などで配置することができる。熱可塑性樹脂層を設ける方法はとくに限定はないが、具体的には後述の成形工程で熱および圧力をかけ、熱可塑性樹脂を熱可塑性炭素繊維複合材料の繊維に含浸させることができる程度に溶融させ、炭素繊維複合材料表面に形成させる方法が挙げられる。
【0015】
熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性炭素繊維複合材料のマトリックス樹脂と相溶する樹脂とすることが好ましく、熱可塑性炭素繊維複合材料を構成するマトリックス樹脂と同様の樹脂が好ましく挙げられる。熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素繊維複合材料を構成する熱可塑性樹脂は同種の樹脂であることがより好ましい。
【0016】
かかる熱可塑性樹脂層の厚みは好ましくは5μm以上5mm以下であり、より好ましくは20μm以上4mm以下であり、さらに好ましくは40μm以上3mm以下である。樹脂層の厚みが5μm未満では炭素繊維が樹脂層から露出する可能性があり、また樹脂層が5mmを超えると全体の重量が嵩んでしまうことがある。
【0017】
[インモールドコート用塗料]
本発明で用いられるインモールドコート用塗料はとくに限定はなく、大日本塗料株式会社からグラスクラッドやプラグラスなどの名称で購入することができるような公知のものが用いられる。その組成は、例えば特開平1−126316号公報に記載されているように、(a)ウレタンアクリレート化合物と、不飽和エポキシアクリレート化合物と、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートモノマーと、前記以外の少なくとも一種の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとからなるビヒクル成分に、充填材、顔料、添加剤を加えた塗料本体と、(b)加熱によってラジカルを発生する開始剤および必要に応じて開始剤用促進剤を加えた硬化剤成分とからなるものが好ましく挙げられる。これらウレタンアクリレート化合物、不飽和エポキシアクリレート化合物、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートモノマー、エチレン性不飽和モノマーはいずれも分子内に不飽和二重結合を有しており、開始剤の熱分解で発生する活性ラジカルにより、重合(硬化反応)を開始し、皮膜を形成する。このとき高温に加熱されている熱可塑性炭素繊維複合材料の熱可塑性樹脂の一部が熱解離し、この活性ラジカルが反応する結果、成形品と塗料が化学結合し、塗料との密着性が発現するものと推察される。ウレタンアクリレート化合物はトルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネートなどのジイソシアネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオールおよび下記式(1)
【化1】

(ただし、Rは水素またはメチル基、nは2〜8の整数)
で示されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとからNCO基/OH基の比が0.9〜1.0になるような割合でイソシアネート末端ポリウレタンオリゴマーを生成させたのち、ほとんどの遊離イソシアネート基が反応するまでヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを反応させることにより製造される。ウレタンアクリレート化合物の重量平均分子量はとくに限定はないが、約500〜10000程度が適当である。なお、前記有機ジイソシアネートとしてはトルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート等の通常塗料用に使用されている有機ジイソシアネートが使用できるが、特にトルエンジイソシアネートの2,4−および2,6−異性体の混合物が有用である。前記有機ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルキレンジオール、ジカルボン酸又はその無水物のジエステル反応物であるジエステルジオールが代表的に物として挙げられる。
【0018】
不飽和エポキシアクリレート化合物はビスフェノールA型エポキシ、フェノール性ノボラック型エポキシなどのエポキシ化合物と、アクリル酸やメタクリル酸などの不飽和カルボン酸とをエポキシ基1当量あたりカルボキシル基0.5〜1.5当量となるような割合で、通常のエポキシ基への酸の開環付加反応によって得られた重量平均分子量300〜2000の化合物である。カルボキシル基を有するアクリレートモノマーとしてはβ−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレートなどが挙げられる。エチレン性不飽和モノマーとしては例えばスチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。塗料は、前記成分の他に、必要に応じ、金属粉、離型剤、硬化促進剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの充填材、着色顔料、体質顔料、導電性顔料などの顔料、改質樹脂、表面調整剤などの添加剤を配合することができる。塗料粘度は、塗料の回り込みや、泡の発生を抑える観点から、B型粘度計30℃での測定において、500〜10,000mPa・sが好ましく、600〜7,000mPa・sがより好ましく、700〜6,000mPa・sが特に好ましい。
【0019】
[開始剤]
本発明の皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法において、インモールドコート用塗料に特定の反応性を有する開始剤を添加する。本発明で使用される開始剤はインモールドコート用塗料のビヒクル成分を重合・硬化させる機能を担う。その機構は自らの開裂によりラジカルが発生し、ラジカルが移動しながら連鎖的にビヒクル成分の不飽和結合を結合させることにより重合・硬化せしめる。開始剤の反応性は熱解離によって開始剤が半分に減少するまでの時間、半減期で表現されるが、本発明で使用される開始剤の半減期は代表的な金型温度における140℃において、1秒以上2000秒以下である。具体的にビス(3,5,5−トリメチル−1−オキソヘキシル)ペルオキシド、ピバロイルtert−ブチルペルオキシド、ペルオキシネオヘプタン酸tert−ブチル、7,7−ジメチルペルオキシオクタン酸tert−ブチル、4,4−ビス[(tert−ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチル、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、(2−エチルヘキサノイル)(tert−ブチル)ペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、2,2−ビス[4,4−ビス(イソブチルペルオキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,1−ビス(1,1−ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン、t−アミルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ(2−エチルヘキシル)カーボネート、tert−ブチル(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、2,2−ビス(tert−ブチルジオキシ)ブタン、tert−ブチルベンゾイルペルオキシドが挙げられる。開始剤の半減期は好ましくは10秒以上1500秒以下であり、具体的には4,4−ビス[(tert−ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチル、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、(2−エチルヘキサノイル)(tert−ブチル)ペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、2,2−ビス[4,4−ビス(イソブチルペルオキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,1−ビス(1,1−ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン、t−アミルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ(2−エチルヘキシル)カーボネート、tert−ブチル(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、2,2−ビス(tert−ブチルジオキシ)ブタン、tert−ブチルベンゾイルペルオキシドが挙げられる。開始剤の半減期はさらにより好ましくは30秒以上1000秒以下であり、具体的には、(2−エチルヘキサノイル)(tert−ブチル)ペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、2,2−ビス[4,4−ビス(イソブチルペルオキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,1−ビス(1,1−ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン、t−アミルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ(2−エチルヘキシル)カーボネート、tert−ブチル(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、2,2−ビス(tert−ブチルジオキシ)ブタン、tert−ブチルベンゾイルペルオキシドが挙げられる。熱可塑性炭素繊維複合材料の熱可塑性樹脂の一部が、後述の成形温度範囲においてある確率で熱解離していると考えられるが、開始剤の半減期が1秒未満であると発生したラジカルの消滅が早すぎて好ましくない。また開始剤の半減期が2000秒を超えるとラジカルが発生しにくく、共に該熱解離部と結合することができず、皮膜と熱可塑性炭素繊維複合材料との密着性が発現できず好ましくない。
【0020】
またこれらの開始剤は二種以上を混合して用いても良い。開始剤の添加量は、インモールドコート用塗料100重量部に対し、0.1〜15重量部とすることが好ましく、より好ましくは0.2〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。開始剤の量が0.1重量部未満であると発生するラジカルが少なすぎて反応が進行しないことがあり、また15重量部を超えると発生するラジカルが多すぎて、言い換えると塗料に対する重合反応点が多すぎて皮膜の分子量が低くなり、その結果皮膜自身の強度が低くなることがある。
【0021】
[成形工程]
本発明における熱可塑性炭素繊維複合材料を成形する方法としては加熱プレス成形、射出成形などが挙げられる。熱可塑性炭素繊維複合材料は成形直前に加熱して可塑化し、金型へ導入する。加熱する方法としては加熱プレス成形の場合は熱風乾燥機や赤外線加熱機などが用いられ、射出成形の場合は備え付けのエクストルーダーが用いられる。熱可塑性炭素繊維複合材料中の熱可塑性樹脂が吸水性を示す場合にはあらかじめ乾燥しておくことが好ましい。加熱する熱可塑性炭素繊維複合材料の温度は含有する熱可塑性樹脂の溶融温度+15℃以上かつ分解温度−30℃であることが好ましい。温度がその範囲以下であると樹脂が溶融しないため成形しにくく、またその範囲を超えると樹脂の分解が進むことがある。かように加熱した熱可塑性炭素繊維複合材料を金型に仕込み、プレス成形や射出成形により成形する。加圧条件としてはプレス成形の場合は0.1〜20MPa、好ましくは0.2〜15MPa、さらに0.5〜10MPaの圧力をかけることが好ましい。圧力が0.1MPa未満ではスプリングバックした複合材料が十分に押し切れず、素材強度が低下することがある。また圧力が20MPaを超えるのは例えば熱可塑性炭素繊維複合材料の大きさが大きい場合、きわめて大きなプレスが必要となり、経済的に好ましくない場合がある。また射出成形の場合には樹脂圧は50〜100MPa程度にもなるため、加圧条件は相応した条件とすることが望まれる。また加圧中の加熱条件は、溶融した熱可塑性樹脂が冷却されて固化し、熱可塑性炭素繊維複合材料が形作られるために、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は結晶溶解温度、非晶性の場合はガラス転移温度、それぞれより20℃以下である。本発明で使用される熱可塑性炭素繊維複合材料は加圧時に後述の通り金型を用いるが、その成形工程直前の金型表面温度は前述の通り、熱可塑性炭素繊維複合材料の熱可塑性樹脂が熱解離する確率を高めるために本発明において120〜180℃であり、好ましくは125〜170℃であり、さらにより好ましくは130〜160℃である。表面温度がその範囲未満では熱可塑性樹脂の熱解離が起こりにくく、そのため塗料と熱可塑性炭素繊維複合材料との反応も起こりにくく得られた皮膜との結合が不十分なため皮膜の剥離が起こる場合がある。表面温度がその範囲を超えるとインモールドコート用塗料の反応、硬化が速すぎて後述の被覆成形工程にて塗料が流れにくくなる場合がある。
【0022】
[皮膜成形工程]
上記のごとく熱可塑性炭素繊維複合材料を型内で成形したのち皮膜成形工程に処する。具体的に皮膜形成工程においては熱可塑性炭素繊維複合材料の被覆したい側と対面する型との間にインモールドコート用塗料を注入し、熱可塑性炭素繊維複合材料および金型双方の熱で固化して皮膜を形成すると同時に熱可塑性炭素繊維複合材料と接合し、型開・脱型する。インモールドコート用塗料注入の際には、特開平9−76285号公報に記載されているように、インモールドコート専用の注入機を使用することが好ましい。該注入機のインジェクターを介して塗料を型内に注入する際の注入圧力は、射出シリンダー直下で1MPa以上、より好ましくは5MPa以上、さらにより好ましくは10MPa以上である。注入圧力が低過ぎる場合は、金型面と成形品表面との間に熱硬化塗料が十分浸透、流動しないことがある。一方、注入圧力の上限は金型の構造や型締め機の能力に応じて適宜決めればよいが概ね50MPa以下である。
【0023】
インモールドコート用塗料の注入量は、成形品の被覆すべき表面積および所望の皮膜の厚さに応じて適宜選択される。
インモールドコート用塗料の注入時間は、通常0.5〜9秒であるが、適宜調節されることが好ましい。注入時間が早すぎると巻き込み泡などの不具合が発生することがある。また遅すぎると塗料が早く重合・硬化して流れなくなったりすることがある。インモールド塗料を注入後、金型を所定時間、所定温度に保持することにより硬化させる。塗料の硬化時間は通常20秒〜6分であり、好ましくは60秒〜4分である。20秒より短いと、インモールド塗料の硬化が不十分で、皮膜の強度が不足して割れるなどの不具合が発生することがある。逆に6分を越えると、硬化は十分であるが、生産性が劣る。
【0024】
[金型]
本発明に用いられる金型は、金型表面と皮膜との密着を低減させてあることが好ましい。例えば鋳造金型などの場合、表面がポーラスな状態であると塗料がその中に入り込んだ後に硬化して皮膜を形成するためでアンカー効果により脱型の際に熱可塑性炭素繊維複合材料表面から剥がれる可能性があり好ましくないことがある。さらに金型にはパッキンを設けるなど、注入された塗料が金型から漏洩しないための機構や、塗料注入の際に塗料注入口から最遠の部位に空気を排出する貫通孔を設けることが好ましい。
【0025】
[皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料]
本発明で得られる皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料は、所望の皮膜厚みを有するものであり、皮膜と熱可塑性炭素繊維複合材料との密着性に優れることを特徴とする。皮膜の厚みは、好ましくは、30μmから300μmであり、より好ましくは50μmから250μmであり、さらにより好ましくは70μmから200μmである。熱可塑性樹脂のみの成形品に比べ、複合材料成形品表面は炭素繊維によってその平滑性が乏しいため、皮膜の厚みが30μm未満では、皮膜による熱可塑性炭素繊維複合材料表面の隠蔽が十分とならず斑模様を呈することがある。また皮膜厚みが300μmを超えると塗料が硬化する際の収縮が大きくなってその結果熱可塑性炭素繊維複合材料と皮膜との界面における応力が大きくなって皮膜が剥がれることがある。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[参考例1]ランダム材からなる炭素繊維複合材料
炭素繊維(東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(繊維径7μm、引張強度4000MPa)を、開繊させながら長さ20mmにカットし、炭素繊維の供給量を300g/minでテーパ管内に導入し、テーパ管内で空気を炭素繊維に吹き付けて繊維束を部分的に開繊しつつ、テーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。またマトリックス樹脂として、2mmにドライカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 1400dtex)を500g/minでテーパ管内に供給し、炭素繊維と同時に散布することで、平均繊維長20mmの炭素繊維とPA66が混合された、厚み4mm程度のランダムマットを得た。
【0028】
[実施例1]
(塗料の調製)大日本塗料株式会社「グラスクラッドAC18グレー」(主成分:ウレタンアクリレート化合物、エポキシアクリレート、スチレン、充填剤)100重量部にtert−ブチルベンゾイルペルオキシド(140℃での半減期900秒)2重量部を添加し、常温で十分攪拌した。
(成形および被覆)参考例2で得られたランダムマットを195mm×245mmに切り出し、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。中央に塗料注入口、および、周囲端末に塗料漏洩防止用パッキンを具備した200mm×250mm平板用金型を140℃に設定し、上記材料加熱後二枚を重ねて直ちに同金型内に導入し、プレス圧力2MPa、1分間加圧後、引き続いて上記塗料5mLを、(株)メットジャパン製インモールドコート注入機を用いて注入シリンダー直下の圧力が20MPaで約1秒間注入した。金型を定温のまま2分間加圧し、被覆剤を硬化させ、該炭素繊維複合材料を金型から取り出した。得られた熱可塑性炭素繊維複合材料は、表面の一部に、皮膜下の炭素繊維維束の存在が透けて見えるような筋が目視観察されたが、それ以外の表面は微小な皺が観察されたがほぼ平坦な皮膜が形成され、炭素繊維目は見えなかった。
塗料注入側表面の略平坦部分についてJIS K5600に準拠し剥離試験を行ったところ皮膜は剥離しなかった。また炭素繊維維束がみられる部分は、その繊維存在部分のみ塗膜が剥れた。同JISに準拠して皮膜の厚みを測定したところおよそ100μmであった。
【0029】
[実施例2]
tert−ブチルベンゾイルペルオキシドを(2−エチルヘキサノイル)(tert−ブチル)ペルオキシド(140℃での半減期約30秒)に変えた以外は実施例1と同様にして、皮膜を有する炭素繊維複合材料を作成した。得られた熱可塑性炭素繊維複合材料は、表面の一部に、皮膜下の炭素繊維維束の存在が透けて見えるような筋が目視観察されたが、それ以外の表面は微小な皺が観察されたがほぼ平坦な皮膜が形成され、炭素繊維目は見えなかった。塗料注入側表面の略平坦部分についてJIS K5600に準拠し剥離試験を行ったところ皮膜は剥離しなかった。また炭素繊維維束がみられる部分は、その繊維存在部分のみ塗膜が剥れた。またJIS K5600に準拠し膜厚測定を行ったところ、皮膜の厚みはおよそ100μmであった。
【0030】
[実施例3]
平板用金型を160℃に設定し、注入した塗料を10mLとし、注入時間を2秒としたほかは実施例1と同様にして皮膜を有する炭素繊維複合材料を作成した。得られた熱可塑性炭素繊維複合材料は、表面の一部に、皮膜下の炭素繊維維束の存在が透けて見えるような筋が目視観察されたが、それ以外の表面は微小な皺が観察されたがほぼ平坦な皮膜が形成され、炭素繊維目は見えなかった。塗料注入側表面の略平坦部分についてJIS K5600に準拠し剥離試験を行ったところ皮膜は剥離しなかった。また炭素繊維維束がみられる部分は、その繊維存在部分のみ塗膜が剥れた。JIS K5600に準拠し膜厚測定を行ったところ、皮膜の厚みはおよそ200μmであった。
【0031】
[実施例4]
平板用金型を130℃に設定し、注入した塗料を2mLとし、注入時間を0.4秒としたほかは実施例1と同様にして皮膜を有する炭素繊維複合材料を作成した。得られた熱可塑性炭素繊維複合材料は、表面の一部に、皮膜下の炭素繊維維束の存在が透けて見えるような筋が目視観察されたが、それ以外の表面は微小な皺が観察されたがほぼ平坦な皮膜が形成され、炭素繊維目は見えなかった。塗料注入側表面の略平坦部分についてJIS K5600に準拠し剥離試験を行ったところ皮膜は剥離しなかった。また炭素繊維維束がみられる部分は、その繊維存在部分のみ塗膜が剥れた。JIS K5600に準拠し膜厚測定を行ったところ、皮膜の厚みはおよそ40μmであった。
【0032】
[実施例5]
参考例2で得られたランダムマットを195mm×245mmに切り出し、さらにその上に各辺2割増に切り出した25μm厚のナイロン6フィルム(ユニチカ・エンブレムON(登録商標)25μm厚)2枚をランダムマットとナイロンフィルムの面中心が概ね重なるように設置したほかは実施例1と同様にして皮膜を有する炭素繊維複合材料を作成した。得られた熱可塑性炭素繊維複合材料は、表面に微小な皺が観察されたがほぼ平坦な皮膜が形成され、炭素繊維目は見えなかった。皮膜下の炭素繊維維束の存在が透けて見えるような筋は目視観察されなかった。JIS K5600に準拠し剥離試験、膜厚測定を行ったところ、皮膜は剥離しなかった。また皮膜の厚みはおよそ40μmであった。
【0033】
[実施例6]
3mm厚ナイロン6シート(溶融温度225℃)1枚を設置したほかは実施例5と同様にして皮膜を有する炭素繊維複合材料を作成した。得られた熱可塑性炭素繊維複合材料は、表面に微小な皺が観察されたがほぼ平坦な皮膜が形成され、炭素繊維目は見えなかった。皮膜下の炭素繊維維束の存在が透けて見えるような筋は目視観察されなかった。JIS K5600に準拠し剥離試験、膜厚測定を行ったところ、皮膜は剥離しなかった。また皮膜の厚みはおよそ40μmであった。
【0034】
[比較例1]
ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(140℃での半減期約0.6秒)1重量部を2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラート1重量部と常温で混ぜ合わせペースト状にした。tert−ブチルベンゾイルペルオキシドを該ペーストに替えた以外は実施例1と同様にして皮膜を有する炭素繊維複合材料を作成した。塗料注入側表面には厚みはおよそ100μmの塗料膜が形成されていたが炭素繊維複合材料には全く密着しておらず、すぐに剥離した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)表面温度が120℃以上180℃以下である金型を用いて、熱可塑性炭素繊維複合材料からなる成形品を得る工程と、2)得られた成形品の表面に皮膜を形成する皮膜形成工程とを含む、皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法であって、2)の皮膜形成工程において、140℃における半減期が1秒以上2000秒以下である開始剤を添加したインモールドコート用塗料を金型内に注入して硬化させる、
皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項2】
皮膜と熱可塑性炭素繊維複合材料間に厚みが5μm以上5mm以下である熱可塑性樹脂層を設ける請求項1に記載の皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項3】
開始剤がビス(3,5,5−トリメチル−1−オキソヘキシル)ペルオキシド、ピバロイルtert−ブチルペルオキシド、ペルオキシネオヘプタン酸tert−ブチル、7,7−ジメチルペルオキシオクタン酸tert−ブチル、4,4−ビス[(tert−ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチル、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、(2−エチルヘキサノイル)(tert−ブチル)ペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、2,2−ビス[4,4−ビス(イソブチルペルオキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,1−ビス(1,1−ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン、t−アミルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ(2−エチルヘキシル)カーボネート、tert−ブチル(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、2,2−ビス(tert−ブチルジオキシ)ブタン、およびtert−ブチルベンゾイルペルオキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性炭素繊維複合材料を構成する熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート、およびポリフェニレンスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項5】
1)の成形品を得る工程が、加熱プレス成形である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法によって得られる、皮膜を有する熱可塑性炭素繊維複合材料。

【公開番号】特開2012−232506(P2012−232506A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102922(P2011−102922)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】