説明

皮膜を有する繊維糸条およびその製造方法

【課題】繊維糸条の耐摩耗性を向上させることができ、簡便に製造できて耐久性のある皮膜を有する繊維糸条を提供する。
【解決手段】油脂が固化またはゲル化してなる皮膜を有する繊維糸条であり、繊維糸条2の表面に油脂を付与し、さらに固化剤またはゲル化剤を付与することにより皮膜3を形成して製造することができる。油脂は使用済みの食用油を含み、固化剤としては、12−ヒドロキシステアリン酸などの脂肪酸を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸などに好適な繊維糸条に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、釣糸として用いられる繊維糸条の耐摩耗性を向上させる目的で、繊維糸条のすべり性を良くする方法として、紡糸や延伸の工程後にすべりを良くする油剤などを糸条に付与する方法や、シリコン系化合物や滑剤などを紡糸時に練りこむ方法が行われていた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−115802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来法のうち、紡糸や延伸の工程後に油剤などを付与する方法で得られた繊維糸条では、液体状の油膜が表面に形成されるが、かかる油膜は、繊維糸条が例えば釣糸として使用された場合のロッドガイドやリールなどとの接触によりすぐに除去されてしまい、耐久性に乏しい。
【0005】
また、シリコン系化合物や滑剤などを紡糸時に練りこむ方法では、原糸を自由に選択できないため、釣糸のような少量多品種の繊維糸条の製造には適さず、また、紡糸後に製紐などの後加工を施す場合にはガイドなどで滑りが発生しやすいために加工性が著しく劣り、生産性が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は、この様な現状に鑑みて行われたものであり、繊維糸条の耐摩耗性を向上させることができ、簡便に製造できて耐久性のある皮膜を有する繊維糸条を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、繊維糸条表面に油脂を付与し、さらに固化剤またはゲル化剤を付与して固化またはゲル化した皮膜が糸条の耐摩耗性を向上し、耐久性も備えるという事実を見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]油脂が固化またはゲル化してなる皮膜を有する繊維糸条、
[2]油脂が固化またはゲル化してなる皮膜には固化剤またはゲル化剤を含有する前項[1]に記載の繊維糸条、
[3]固化剤またはゲル化剤が脂肪酸である前項[2]に記載の繊維糸条、
[4]脂肪酸が12−ヒドロキシステアリン酸である前項[3]に記載の繊維糸条、
[5]油脂の少なくとも一部が使用済みの食用油である前項[2]〜[4]のいずれか1に記載の繊維糸条、
[6]組紐である前項[1]〜[5]のいずれか1に記載の繊維糸条、
[7]撚糸である前項[1]〜[5]のいずれか1に記載の繊維糸条、
[8]モノフィラメントである前項[1]〜[5]のいずれか1に記載の繊維糸条、
[9]繊維断面の異形度が1.1以上である前項[8]に記載の繊維糸条、
[10]釣糸である前項[1]〜[9]のいずれか1に記載の繊維糸条、および
[11]繊維糸条の表面に油脂を付与し、さらに固化剤またはゲル化剤を付与することを特徴とする前項[2]〜[10]のいずれか1に記載の繊維糸条の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、すべり性が良いために耐摩耗性の向上した繊維糸条が提供される。本発明により提供される皮膜を有する繊維糸条においては、耐摩耗性向上に資する皮膜は簡便に形成できて耐久性も備える。また、該皮膜は使用済み食用油を用いて形成することもできるので、かかる態様においてはエコロジー的にも優れている。このように優れた特長を備えた本発明に係る皮膜を有する繊維糸条は、各種用途に使用でき、例えば陸上や水中で使用されるネット、ロープ等の産業資材やレジャー用品の用途に使用できる。本発明に係る皮膜を有する繊維糸条は、特に水中で使用される漁網や釣糸として好適であり、とりわけ釣糸として好適であり、有害性の低い油脂などを用いて上記皮膜を形成することができるので、使用中に皮膜成分が徐々に水中に放出されても、従来のシリコン系化合物使用のものに比べて自然環境に与える害を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る皮膜を有する繊維糸条(本明細書においては、「本発明の繊維糸条」ということがある。)は、基材としての繊維糸条の表面に、油脂が固化またはゲル化してなる皮膜(以下、「本発明における皮膜」ということがある。)が形成されて構成される。
【0011】
基材となる繊維糸条としては、特に限定されず、いかなる繊維からなる糸条でも適用可能であり、例えば、公知の合成繊維からなる糸条を目的に応じ適宜選択して用いることができる。合成繊維の具体例としては、例えば脂肪族ポリアミド系、芳香族系ポリアミド系、芳香族系ポリエステル系、脂肪族系ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系などの合成繊維、またはこれら合成繊維の再生品などが挙げられる。これらのうち、例えば耐摩耗性を考慮すればポリアミド系繊維が、寸法安定性を考慮すればポリエステル系繊維が、生分解性を考慮すれば脂肪族系ポリエステル系繊維が、伸縮性を考慮すればポリウレタン系繊維が、軽量性を考慮すれば比重の軽いポリオレフィン系繊維が、それぞれ好ましい。特に釣糸として用いる場合には、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、感度や高強力に優れた高分子量ポリエチレン繊維などが好ましい。
【0012】
また、必要に応じて上記したような合成繊維の2種類以上を任意に組み合わせて使用することができ、さらには、2種類以上の樹脂から成形される芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型などの複合繊維を使用することもできる。また、合成繊維には、一般に使用されている難燃剤、着色剤、顔料、滑剤、耐候剤、酸化防止剤や耐熱剤などが適宜添加されていてもよい。また、繊維のラスターについては任意であり、ブライト、セミダル、フルダルのいずれでもよく、酸化チタンなどの添加物の含有量を適宜増減して調整することができる。
【0013】
また、合成繊維の形態としては、長繊維、紡績糸のいずれでもよいが、耐摩耗性や強力に優れることから長繊維が好ましい。長繊維で構成される繊維糸条の形態としてはモノフィラメント、マルチフィラメント、撚糸、組紐などを適宜選択することができる。また、繊維糸条としては、例えば伸縮性を付与するなどの目的で仮撚加工などの加工が施された加工糸を用いてもよい。また、構成フィラメント間に例えば熱融着樹脂などの樹脂が含浸された繊維糸条を用いてもよい。
【0014】
合成繊維の強力としては、目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば釣糸に用いる繊維糸条においては、直線強力が5cN/dtex以上であり、結節強力が2.5cN/dtex以上である合成繊維が好ましい。
【0015】
次に、繊維糸条の断面については、本発明における皮膜を付着させる面積を多くし、さらには、アンカー効果により皮膜を除去されにくくするという点から、糸条全体として異形断面としたり、糸条が他の物体と接触する外周表面に凹凸や溝を有する断面としたりすることが好ましい。なお、本明細書において、繊維糸条の断面およびフィラメントの断面とは、繊維軸方向に垂直な断面を意味する。
【0016】
マルチフィラメントの場合には、構成フィラメント間の間隙が表面に現れることにより、各構成フィラメントの断面は丸断面であっても、糸条の外周表面には凹凸や溝があるのと同じような効果を発現させることが可能である。さらに言えば、撚糸の場合は構成フィラメントの単繊度や撚数などを適宜設定することにより、組紐の場合には構成フィラメントの単繊度や組角などを適宜設定することにより、糸条外周表面の表面積や凹凸の度合いを調整することもできる。もちろん、マルチフィラメントであっても、各構成フィラメントのフィラメント断面形状として丸断面以外の断面形状を採用できることはいうまでもない。
【0017】
これに対して、モノフィラメントの場合には、フィラメント断面形状がそのまま糸条の断面形状となるので、フィラメント断面形状として、異形断面ないし外周に溝や凹凸を有する形状を採用することは、繊維糸条がモノフィラメントである場合において特に好ましい。なお、本明細書においてフィラメント断面というときは、モノフィラメント、マルチフィラメントを問わず、1本のフィラメントの断面を意味する。したがって、例えばマルチフィラメントにおいては、構成フィラメントそれぞれの断面を意味する。なお、マルチフィラメントなど複数本のフィラメントで構成される糸条においては、各構成フィラメントの断面形状は同じであってもよく、断面形状の異なるフィラメントが混用されていてもよい。
【0018】
フィラメント断面としての丸断面以外の異形断面としては、特に限定されないが、例えば、三角断面、四角断面、五角断面、扁平断面、くさび型断面、あるいは、アルファベットを象ったC型断面、H型断面、I型断面、W型断面、星型断面、ギヤ型断面などが挙げられる。中でも、図1に示されるような星型断面や、図2に実線で示されるようなギヤ型断面が好ましい。また、図3に示されるような扁平かつ星型の断面や、扁平かつギヤ型の断面も好ましい。
【0019】
異形断面を用いる場合の異形度としては、上記した表面積を増大させる効果やアンカー効果を大きくするうえで、1.1以上とすることが好ましく、1.1〜1.3程度とすることがより好ましい。異形度とは、例えば図2に示すように、フィラメント断面における内接円の半径をr、外接円の半径をrとしたときに、r/rとして算出される値である。したがって、異形度の具体的な測定方法としては、繊維を安全剃刀などを使用して繊維軸と垂直に切断し、得られた横断面の形状を、例えば200倍の倍率で光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で画像化し、その画像から内接円直径rと外接円直径rを測定し、r/rにより繊維の異形度を算出する方法を採用できる。
【0020】
異形断面形状を得る手段としては、特に限定されず、公知の手段を適宜採用すればよい。例えば、溶融紡糸時に直接異形断面形状が得られるように工夫された口金を用いるいわゆる直紡による方法や、割繊による方法、染色加工時のアルカリ処理による方法などが挙げられ、これらの方法以外にも任意の方法で行うことができる。
【0021】
本発明における皮膜を形成するための油脂としては、固化またはゲル化した皮膜が繊維糸条の耐摩耗性を向上させることができる油脂であればよく、特に限定されないが、本発明の繊維糸条の製造時において油脂を付与する加工の効率を考慮すれば、常温(23℃)〜100℃程度の温度下において液状である油脂が好ましい。
【0022】
油脂の種類としては、鉱物油系の油脂、植物性または動物性の天然油脂のいずれも使用可能であるが、本発明における皮膜が繊維糸条に与えるすべり性を考慮すれば、鉱物油系の油脂が好ましい。油脂は複数の種類を混合して用いることも可能であり、例えば粘性の高い鉱物油系の油脂に天然油脂類を混合することで粘性を下げることができるので、それによって製造時に繊維糸条に油脂を付与する際の加工スピードを高めることができる。
【0023】
なお、鉱物油とは、天然の石油由来の油分で、精製蒸留されて得られる液状の化学物質のことであり、ワセリンやパラフィンと呼称されている。具体的には、流動パラフィンで代表されるパラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、芳香族系炭化水素を例示することができる。
【0024】
植物性もしくは動物性の天然油脂類としては、例えば、2−エチルヘキシルステアレート、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、ノルマルブチルステアレート、イソラウリルオレエート、オレイルオレエート、ジオレイルアジペート、ネオペンチルグリコール(NPG)ジオレエート、トリメチロールプロパントリ2−エチルヘキサネート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネートなどの脂肪族エステル類、及び、ヤシ油、牛脂、パーム油、ひまし油、ナタネ油などが挙げられる。
【0025】
また、油脂の一部または全部に使用済みの食用油、例えば廃てんぷら油などを用いることができ、これにより資源の有効利用や廃棄物の低減という効果が奏されるので、本発明の繊維糸条を地球環境にやさしいエコロジー商品とすることもできる。
なお、必ずしも理由は明らかではないが、新品よりもむしろ使用済みの食用油を用いた方が、その粘度が低いためか皮膜形成時の作業性が良い場合があることを本発明者は知見している。
【0026】
本発明における皮膜は、上記したような油脂が固化またはゲル化してなる皮膜であるが、かかる固化またはゲル化は、固化剤またはゲル化剤の作用により行われることが好ましい。その理由は、固化剤またはゲル化剤を用いることにより、通常の使用状態において液状にならない実質的に不可逆な固化またはゲル化した皮膜を形成することができるためである。したがって、本発明における皮膜には、固化剤またはゲル化剤が含有されることが好ましい。なお、油脂が固化するかゲル化するかは、油脂の種類や使用量によっても異なるので、固化剤とゲル化剤とを区別する必要はなく、同じ物質が用い方によって固化剤にもゲル化剤にもなりうる。
【0027】
本発明における固化剤またはゲル化剤としては、油脂を固化またはゲル化させることができるものであれば特に限定されず、一般的に知られている剤を用いることができる。固化剤またはゲル化剤としては、例えばワックス類を用いることができ、具体例としては、例えばカルナバワックス、キャンデリラワックス、シュガーワックス、ライスワックス、木ロウ、ベイベリーワックス、オーキュリーワックス、エスパルトワックスなどの植物系ワックス、みつろう、昆虫ロウ、鯨ロウ、セラックロウ、ラノリンワックスなどの動物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油系ワックス、モンタンワックス、オゾケライトワックス、セレシンなどの鉱物系ワックス、ヘキストワックス、ポリエチレンワックス、カルボワックス、カスターワックス、フィッシャートロプッシュワックス、ケゾールワックスなどの合成ワックスが挙げられる。さらに前記動植物系ワックスを加水分解して得られる高級脂肪酸および高級脂肪族アルコール、それらの合成エステルも固化剤またはゲル化剤として使用できる。
【0028】
また、アルキル基置換または非置換のアリールスルホン酸塩のホルマリン縮合物、高級脂肪族硫酸塩も固化剤またはゲル化剤として用いることができる。具体的には、アルキル基置換又は非置換のアリールスルホン酸塩のホルマリン縮合物としては、市販品のマイテイ100(商品名、花王社製。)、デモール(商品名、花王社製。)などが挙げられ、高級脂肪族硫酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどが挙げられ、高級脂肪酸塩としては、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0029】
さらに、油脂をゲル化させる方法として、金属石けんと少量の水を加える方法、ポリオールとベンズアルデヒドとの縮合物を用いる方法、O/W型界面活性剤と少量の水を加える方法などを採用することもできる。
【0030】
上記したような多種多様な固化剤またはゲル化剤のうち、好ましいのは脂肪酸、特に高級脂肪酸(炭素数が12以上の脂肪酸を意味する)であり、とりわけ好ましいのは12−ヒドロキシステアリン酸である。この12−ヒドロキシステアリン酸は、例えばトウゴマの種子からとったひまし油に水素添加し分解して得ることができ、植物由来であり環境にもやさしく、安価で市販品としても入手できる。例えば本発明者の知るところでは、一般消費者向けに廃食用油の固化剤として販売されている「固めるテンプル(商品名)」(ジョンソン社製)は、12−ヒドロキシステアリン酸を主成分としている。
【0031】
なお、固化剤またはゲル化剤は1種類を用いてもよく、2種類以上を混用してもよい。
【0032】
油脂と固化剤またはゲル化剤との比率としては、油脂および固化剤またはゲル化剤の種類にもよるが、油脂100質量部に対して固化剤またはゲル化剤を2〜10質量部とすることが好ましい。
【0033】
本発明における皮膜を形成する方法としては、繊維糸条に油脂を付与した後、必要に応じてさらに固化剤を付与することにより油脂を固化またはゲル化させてもよく、油脂に固化剤またはゲル化剤を添加した油脂組成物を予め調製し、これを繊維糸条に塗布してもよい。ただし、後者の方法では組成物のポットライフによる制限を受けるので、好ましい方法としては、繊維糸条の表面に油脂を付与し、その後さらに固化剤またはゲル化剤を付与する方法である。
【0034】
繊維糸条に油脂ないし油脂組成物を付与する加工の方法は、繊維に油剤を付与する方法として通常知られている方法に準じればよく、常用の加工機を用いてこれを行うことができる。加工温度や加工スピードも任意に設定可能であり、必要に応じて油脂ないし油脂組成物を常温より高い温度に加温した状態で加工に供してもよい。繊維糸条に付与するための油脂ないし油脂組成物の性状は特に限定されず、ストレート系でもエマルジョン系でもよく、イオン性についても繊維糸条の種類や加工機に合わせて適宜選択すればよい。
【0035】
また、繊維糸条への付着の均一性を高めるために、エタノールやイソプロピルアルコールなどの低級アルコール類、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのオキシド系化合物などを油脂ないし油脂組成物に添加してもよく、必要に応じて帯電防止剤を添加してもよい。帯電防止剤の例としては、アルキルサルフェート、脂肪酸石鹸、アルキルスルフォネート、アルキル燐酸エステルなどのアニオン性界面活性剤が挙げられる。帯電防止剤を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、本発明における皮膜を形成するために用いる全成分の質量のうちの3〜15質量%程度とするのが一般的である。また、その他必要に応じて、酸化防止剤、防腐剤、濡れ性向上剤などを油脂ないし油脂組成物に添加しても差し支えない。例えば釣糸や漁網として使用する場合に、集魚効果のある香料等の添加物を本発明における皮膜に含有させてもよい。
【0036】
さらに必要に応じて固化剤またはゲル化剤を付与する加工の方法は、上記した油脂ないし油脂組成物を付与する加工の方法に準ずる。
【0037】
本発明の繊維糸条の製造において、製造工程のどの段階で油脂ないし油脂組成物を繊維糸条に付与し、さらに必要に応じて固化剤またはゲル化剤を付与する加工を行うかは任意であるが、生産性などを考慮すれば、加工の最終段階で行うことが好ましい。
【0038】
かくして形成される、本発明における皮膜の量としては、繊維の形状にもよるが、概ね繊維糸条(ここでは、皮膜を有していない繊維糸条を意味する。)100質量部に対して、皮膜の質量が3〜30質量部であることが好ましく、5〜25質量部がより好ましい。
【0039】
皮膜は繊維糸条の外表面全体において形成されていることが好ましいが、凹凸状の外表面において、例えば図4に示すように凹凸の頂点を超える厚みで皮膜を有していることは必ずしも必要ではなく、図5に示すように凹部を満たす程度の厚さで皮膜が有する状態であっても一定の効果が得られる。したがって、例えば当初図4に示すような状態であったものが使用により図5に示すような状態となっても継続して使用効果が得られるので、耐久性に優れている。もちろん、当初から図4に示すような状態のものであってもよい。
【実施例】
【0040】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ(登録商標)SK60」、110dtex/96f)を4本打ちで製紐し、462dtexの組紐状の繊維糸条を得た。大豆油と菜種油からなるサラダ油(日清オイリオグループ株式会社製)600mlを100℃に加熱し、これに固化剤(ジョンソン株式会社製「固めるテンプル(商品名)」)18gを加えて攪拌することにより油脂組成物を調製した後すみやかに、この油脂組成物に上記繊維糸条を浸漬し、次いで余分な油脂組成物をシボリ加工で除去した後、室温(15℃)で自然冷却することにより、繊維表面に油脂の固化皮膜を形成させた。かくして得られた皮膜を有する繊維糸条においては、皮膜を除く繊維糸条の繊度が462dtexであるのに対し、皮膜を含めて実測した全体の繊度は527dtexであった。
【0041】
[実施例2]
ナイロン6/66共重合樹脂を原料に用い、ギヤ型断面(ギヤの歯の数が32)を成形するための紡糸口金を装着した溶融紡糸装置にて、常法に従って溶融紡糸および延伸を行って、直径(外接円の直径)0.19mmのギヤ型断面(異形度1.25)を有する繊度が265dtexであるモノフィラメント状の繊維糸条を得た。この繊維糸条の表面に、実施例1と同様にして油脂の固化皮膜を形成させた。かくして得られた皮膜を有する繊維糸条においては、皮膜を除く繊維糸条の繊度が265dtexであるのに対し、皮膜を含めて実測した全体の繊度は314dtexであった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に使用可能なフィラメントの形状の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明に使用可能なフィラメントの形状の他の例を示す断面模式図である。
【図3】本発明に使用可能なフィラメントの形状の他の例を示す断面模式図である。
【図4】本発明の繊維糸条の一例についての断面模式図である。
【図5】本発明の繊維糸条の他の例についての断面模式図である。
【符号の説明】
【0043】
1 フィラメント
2 繊維糸条
3 皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂が固化またはゲル化してなる皮膜を有する繊維糸条。
【請求項2】
油脂が固化またはゲル化してなる皮膜には固化剤またはゲル化剤を含有する請求項1に記載の繊維糸条。
【請求項3】
固化剤またはゲル化剤が脂肪酸である請求項2に記載の繊維糸条。
【請求項4】
脂肪酸が12−ヒドロキシステアリン酸である請求項3に記載の繊維糸条。
【請求項5】
油脂の少なくとも一部が使用済みの食用油である請求項2〜4のいずれか1に記載の繊維糸条。
【請求項6】
組紐である請求項1〜5のいずれか1に記載の繊維糸条。
【請求項7】
撚糸である請求項1〜5のいずれか1に記載の繊維糸条。
【請求項8】
モノフィラメントである請求項1〜5のいずれか1に記載の繊維糸条。
【請求項9】
繊維断面の異形度が1.1以上である請求項8に記載の繊維糸条。
【請求項10】
釣糸である請求項1〜9のいずれか1に記載の繊維糸条。
【請求項11】
繊維糸条の表面に油脂を付与し、さらに固化剤またはゲル化剤を付与することを特徴とする請求項2〜10のいずれか1に記載の繊維糸条の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−266833(P2008−266833A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111447(P2007−111447)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(506269149)株式会社ワイ・ジー・ケー (21)
【Fターム(参考)】