説明

皮膜付き光学レンズの仮の最外皮膜層上に別の皮膜層を成膜もしくはそれにより該最外皮膜層を置換する方法

本発明は、仮の最外皮膜層上に該仮の最外皮膜層の特性とは異なる表面特性を有する新しい最終コーティングからなる層で、皮膜付き光学レンズの仮の最外皮膜層を置換する方法に関し、該方法は以下を含む:(a)表面の水接触角が少なくとも65°の仮の最外皮膜層を有する皮膜付き光学レンズを準備する;(b)前記仮の最外皮膜層に、水接触角が10°以下に処理された表面を得るために、活性化学種による処理をほぼ常圧で1分未満実施する;および(c)前記処理された表面上に、前記仮の最外皮膜層の特性とは異なる表面特性を有する最終コーティングからなる層を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、皮膜付き光学レンズ、特に眼科用レンズの初期(仮)の最外皮膜層を、該層上に、仮の最外皮膜層とは表面特性の異なる新たな最終皮膜層を成膜して置換する方法または該成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用レンズの製造において、耐衝撃性、傷付き防止性、反射防止性および防汚性などの種々特性を最終の眼科用レンズに付与するために、レンズを1またはいくつかの機能性皮膜層で被覆することはますます一般化しつつある。
【0003】
上記のように、通常の眼科用レンズは、無機ガラスまたは有機ガラスなどの光学的に透明な材料からなる基材からなり、その主表面の少なくとも片面上に、連続して皮膜付き、プライマーコート層、耐傷付き膜層、反射防止膜層および防汚膜層(疎水性および/または疎油性トップコート)を有しているであろう。
【0004】
眼科用レンズの最外皮膜層は、通常、防汚膜層(またはトップコート)である。
【0005】
上記トップコート技術における高速現像の観点では、初期に成膜した疎水性トップコートを、別のまたは改善された特性をもつ新たなトップコートで安全に置き換えることが可能かどうかが注目されるであろう。
【0006】
勿論、そのような他のコーティングによる最外皮膜層の置換は、その下方の皮膜層および/または基材に、特にその光学特性に、不都合な影響を及ぼすことなく実施されなくてはならない。
【0007】
具体的に、上記トップコートは、通常、反射防止膜上に成膜され、置換プロセスは、この反射防止膜の特性を損なうべきではない。
【0008】
また、眼科用レンズは、レンズの凸および凹の両方の光学表面の表面形状を決定づける、成型および/または表面仕上げ/研磨仕上げからなる一連の操作、およびその後の上記したような適切な表面処理により得られる。眼科用レンズの最終仕上げ方法は、機械加工において、レンズのリムまたは周縁を、嵌めようとする眼鏡のマウント内にレンズが適応するために必要な寸法に一致させることからなる縁取り工程である。
【0009】
縁取りは、一般に、上記に説明した決められた機械加工を実施するダイアモンドホィールを含む装置で行われる。
【0010】
レンズは、この操作の間、軸阻止手段によって保持される。
上記ホィールに対するレンズの相対運動は、所望形状を得るために、一般に、数値制御される。
したがって、上記運動の間、レンズをしっかり保持することは絶対必要である。
この目的のために、縁取り操作の前に、保持手段はレンズの凸表面側上に配置される。
【0011】
粘着性ウェハなどの保持パッド、たとえば両面接着テープを、保持手段とレンズの凸表面との間に置かれる。
【0012】
このように装備されたレンズは、前述の軸回転阻止手段の一方の上に配置され、他方の回転阻止手段は、弾性ストッパーを介してレンズの凹表面上に圧を与える。
【0013】
機械加工の間、レンズが充分に固定されてなければレンズを保持手段に対し相対的に回転させることができる正接トルクをレンズ上に適用した。
【0014】
レンズをうまく制止できるかは、理論的に、保持パッドとレンズ凸表面との間の界面の良好な密着性に依存する。
【0015】
すでに説明したとおり、眼科用レンズの最外皮膜層は、通常、一般に反射防止膜上に形成された疎水性および/または疎油性の防汚性トップコートからなる。
【0016】
このようなトップコートに係る一つの問題点は、その表面特性により、保持パッドとレンズ凸表面との間の界面の良好な密着性を獲得させないことであり、この密着性のなさは、トップコートの疎水性および/または疎油性の性能が強まるほど強くなる。
【0017】
このため、縁取り操作のための保持パッドとの良好な密着性が得られ、かつその後この最初の最外皮膜層を、意図する最終用途に応じて、より高性能または適切な最終皮膜層によって置き換えることができる最外皮膜層を有する眼科用レンズの製造が重要であろう。
【0018】
特許文献1は、露出領域の表面エネルギーを上昇させ、フォギングにより視認可能に現れたマーキングを得るために、眼科用レンズの表面に、コロナ放電などの高エネルギー・マーキングを生じさせるための装置および方法を開示する。レンズ表面の極小さい領域のみが曝露され、下にある皮膜または基材の部分的な除去は、レンズの光学特性に影響を及ぼさないとして許容することができる。
【0019】
日本の未審査特許出願公開公報(特許文献2)は、光学部品などの基材の表面に、前処理を施すことにより、防汚性(anti-fouling)、傷付き防止性(scratch-resistance)および耐溶剤性に優れた防汚層を形成することを開示する。前処理は、高周波プラズマ、電子ビーム、イオンビーム、蒸着、スパッタリング、アルカリ、酸、コロナ放電または常圧グロー放電法が可能である。
【0020】
処理(treated)表面は、反射防止膜の外側表面とすることができる。より正確には、反射防止膜の表面エネルギーは60J/m程度の高さである。それ故、非常に高い表面エネルギーのため、該処理表面は、無機層の表面、通常、反射防止積層膜のSiO層である。
【0021】
【特許文献1】国際公開第01/68384号パンフレット
【特許文献2】特開2000−308846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、本発明の目的は、皮膜付き光学レンズの仮の最外皮膜層を、その下にある機能層および/またはレンズ基材の特性、特に光学特性に不利益な影響を及ぼすことなく、該仮の最外皮膜とは異なる表面特性を有する新しい最終皮膜で置換する方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明によれば、以下の工程を含む、仮の最外皮膜層上に、該仮の最外皮膜層の特性とは異なる表面特性を有する新しい最終皮膜からなる層を成膜することによる皮膜付き光学レンズの仮の最外皮膜層の置換方法もしくは該成膜方法が提供される:
−(a)表面の水接触角が少なくとも65°の仮の最外皮膜層を有する皮膜付き光学レンズを準備すること:
−(b)上記仮の最外皮膜層に、水接触角が10°以下に処理された表面を得るために、活性化学種による処理をほぼ常圧で1分未満施すこと;
−(c)上記処理された表面上に、前記仮の最外皮膜層の特性とは異なる表面特性を有する最終皮膜からなる層を成膜すること。
【0024】
本発明の他の態様において、本発明の方法は、処理工程(b)の前または処理工程(b)の後であってかつ上記最終皮膜層の成膜工程(c)の前に、上記レンズの縁取り工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の方法の必須工程は、上記処理工程(b)である。
処理工程(b)では、上記完全レンズのほとんどの表面、好ましくは全表面が処理されると理解されるべきである。
仮の最外皮膜層の活性化学種による処理時間は、好ましくは40秒以下、より好ましくは30秒以下、より一層好ましくは約20秒であり、処理表面の水接触角は、好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下である。
【0026】
活性化学種による処理時間とは、仮の最外皮膜層の表面上の各点が活性化学種と接触している時間と定義される。
【0027】
特にことわりがなければ、表面の水接触角とは、液滴法にしたがい測定された水との静的接触角を意味し、該法は、直径2mm未満の水滴が光学物品上に形成され、その接触角が測定される。
【0028】
本質的に、活性化学種はフリー・ラジカルであり、特に酸素フリー・ラジカルである。
【0029】
活性化学種の作用がレンズの全表面上で均一となるように、処理工程(b)の間、空気を吹き付けることが望ましい。
【0030】
一定流量の空気を、2つの電極間に吹き付ける。これは、アークまたは生成したプラズマを偏光させ、処理する基材の表面上に拡散を生じさせる。これにより、レンズなどの三次元物体を処理することができる。
【0031】
活性化学種による好ましい処理は、コロナ放電処理および常圧プラズマ処理であり、特にコロナ放電処理である。
【0032】
コロナ放電処理の出力は、通常、10〜2.10W、好ましくは5.10〜10Wの範囲である。
たとえば、コロナ放電処理は、電極あたり12KVの放電量の3DT製マルチダイン(Multidyne)800ワットモデルのコロナ放電ユニットを用いて実施することができる。
安全性の理由からは低めの周波数が好ましいが、たとえば2000Hzの高めの周波数はよい結果をもたらすであろう。
【0033】
好ましい常圧プラズマ処理は、酸素プラズマ処理である。
プラズマ処理の出力は、一般的に10〜10W、通常、6.10W程度であろう。
【0034】
本発明の方法の処理工程(b)の重要な特徴は、常圧で実施されることである。常圧とは、250〜760mmHg、好ましくは600〜760mmHgの範囲の圧力を意味する。
【0035】
上記仮の最外皮膜は、表面エネルギーが好ましくは少なくとも20mJ/m、より好ましくは少なくとも15mJ/mかまたはより良好な少なくとも13mJ/mで、また好ましくは35mJ/m未満、一層良好には30mJ/m未満であり、厚みが1〜100nm、好ましくは1〜60nm、より好ましくは10〜60nmである。該仮の最外皮膜は、1〜10nm、好ましくは1〜5nm程度の薄膜であってもよい。
【0036】
本発明において、すべての表面エネルギーは、次の文献に記載されたオーエンス−ウェンツ(OWENS-WENDT)法にしたがい算出される:“ポリマーの表面力エネルギー概算” OWENS D.K. WENDT R.G. (1969)J. APPL. POLYM. SCI., 13,1741-1747。
【0037】
仮の最外皮膜層は、光学レンズ分野におけるどのような伝統的な外層皮膜であってもよく、具体的には、防汚性皮膜(疎水性および/または疎油性トップコート)、傷付き防止膜の外表面部、または反射防止性積層体の最外層であればよい。
【0038】
本発明に係る仮の最外皮膜層は、好ましくは有機性である。本発明において、有機性とは、皮膜全重量の少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%が有機材料からなることを意味する。
【0039】
好ましい仮の最外皮膜層は、疎水性および/または疎油性トップコートであり、少なくとも1つのフッ素化合物を含む組成物からなるトップコートなどが好ましい。
【0040】
好ましいフッ素化合物は、フルオロカーボン、ポリフルオロカーボン、フルオロポリエーテルおよびポリフルオロポリエーテルから選ばれる少なくとも1つの基、特にはパーフルオロポリエーテルを含有するシランおよびシラザンである。
【0041】
フッ素化合物は、とりわけ、米国特許第4,410,563号明細書、欧州特許第0203730号明細書、欧州特許第749021号明細書、欧州特許第844265号明細書および欧州特許第933377号明細書中に開示される。
【0042】
フルオロシランとして、下記式の化合物を挙げることができる:
【化1】

【0043】
n=5,7,9または11、かつRはアルキル基、通常、−CH3,C25およびC37などのC1−C10のアルキル基である;
CF3CH2SiCl3
【0044】
【化2】

n’=7または9、かつRは上記に定義されるとおり。
【0045】
米国特許第6,183,872号に開示されたフッ素化合物を含有する組成物もトップコート作製に有用である。
米国特許第6,183,872号のケイ素含有有機フルオロポリマーは、一般式で示され、5×102〜1×105の数平均分子量をもつ。
【0046】
【化3】

【0047】
式中、Rfは、パーフルオロアルキルを表し;Zは、フッ素またはトリフルオロメチルを表し;a,b,c,dおよびeは、それぞれ独立に0または1以上の整数を表し、ただしa+b+c+d+eは1以上であり、この式中に存在する下付き文字a,b,c,dおよびeで括られた各繰り返し単位の順序は記載された順序に限定されず;Yは、水素または炭素原子数1〜4のアルキルを表し;Xは、水素、臭素またはヨウ素を表し;R1は、水酸基または加水分解性の置換基を表し;R2は、水素または1価の炭化水素基を表し;lは、0、1または2を表し;mは、1、2または3を表し;かつn”は、1以上、好ましくは2以上を表す。
【0048】
仮のトップコート形成用として他種の好ましい組成物は、フルオロポリエーテル基、具体的にポリフルオロポリエーテル基、より具体的にパーフルオロポリエーテル基を含有するものである。特に好ましい種類のフルオロポリエーテル基を含有する組成物は、米国特許第6,277,485号に開示されている。
【0049】
米国特許第6,277,485号の防汚性トップコートは、少なくとも下記式で示されるフッ素化シランを含有するコーティング組成物(通常、溶液形状)を塗布することにより作製されたフッ素化シロキサンを含む少なくとも一部が硬化した皮膜である:
【化4】

【0050】
式中:Rfは、1価または2価のポリフルオロポリエーテル基であり、R1は、2価のアルキレン基、アリレン基、またはそれらの混合であり、任意に1以上のヘテロ原子または官能基を含有していてもよく、任意にハロゲン化物類で置換されていてもよく、好ましくは2〜16の炭素原子を含有する;R2は、低級アルキル基(すなわち(C1−C4)アルキル基)であり;Yは、ハロゲン化物、低級アルコキシ基(すなわち(C1−C4)アルコキシ基、好ましくはメトキシまたはエトキシ基)、または低級アシロキシ基(すなわち−OC(O)R3、ここでR3は(C1−C4)アルキル基である);xは0または1であり;かつyは1(Rfは1価)または2(Rfは2価)である。好適な化合物は、通常、少なくとも約1000の分子量(数平均)をもつ。好ましくは、Yは低級アルコキシ基であり、かつRfはパーフルオロポリエーテル基である。
【0051】
上記トップコート作製のための市販組成物は、信越化学工業(SHINETSU)から上市されている組成物KP801Mである。
【0052】
皮膜付きレンズの仮の最外皮膜層の厚みは、通常、1〜100nm、好ましくは1〜60nm、より好ましくは10〜5nmの範囲である。
【0053】
皮膜付きレンズの仮の疎水性トップコートは、好ましくは、反射防止膜上に成膜される。
反射防止膜およびその作製方法は、当技術分野において周知である。反射防止膜は、最終レンズにおける反射防止性を改善するものであれば、いかなる層または積層膜であってもよい。
【0054】
反射防止膜は、好ましくは、SiO、SiO2 Si34、TiO2、ZrO2、La23、MgF2またはTa25、またはこれらの混合物などの誘電体からなる単層膜または多層膜からなる。
【0055】
反射防止膜は、具体的に、以下の技術の1つによる真空成膜法により設けることができる:
1.蒸着により、任意にイオンビームでアシストして;
2.イオンビームを用いるスプレーにより;
3.陰極スパッタリングにより;あるいは
4.プラズマアシスト気相化学蒸着により。
【0056】
上記膜を単層と数える場合には、その光学的厚みを、450〜650nmの波長λに対し、λ/4に相当させるべきである。
【0057】
好ましくは、反射防止膜は、高および低の屈折率が交互した3以上の誘電体層からなる多層膜である。
【0058】
好ましい反射防止膜は、真空成膜法により形成された4層の積層膜、たとえば約35〜75nmの光学厚みをもつ第一のZrO2層、約20〜40nmの光学厚みをもつ第二のSiO2層、約120〜190nmの光学厚みをもつ第三のZrO2層、約100〜160nmの光学厚みをもつ第四のSiO2層からなる(光学厚みは、波長λ=550nmに対するものである)。
【0059】
すでに説述したとおり、皮膜付きレンズは、好ましくは傷付き防止膜層を含み、通常、上記反射防止膜層が該傷付き防止膜層上に成膜されている。
【0060】
この傷付き防止膜は、公知の光学的傷付き防止膜組成物をどれでも使用して形成することができる。したがって、傷付き防止膜組成物はUVおよび/または熱硬化性組成物といえる。
【0061】
傷付き防止膜とは、光学物品の最終製品の擦傷(abration)抵抗性を、同じ光学物品であるが傷付き防止膜を有していないものに比較して改善する皮膜であると定義される。
【0062】
好ましい傷付き防止膜は、エポキシアルコキシシランまたはその加水分解物を含む前駆組成物の硬化により形成されたものである。傷付き防止膜は、好ましくは、少なくとも1つの無機充填材たとえばSiO2および/または金属酸化物コロイドを含む。このような組成物の例は、米国特許第4,211,823号明細書,国際公開第94/10230号パンフレット、米国特許第5,015,523号明細書中に開示されている。
【0063】
特に好ましい傷付き防止膜組成物は、たとえばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)などのエポキシアルコキシシランおよびたとえばジメチルジエトキシシラン(DMDES)などのジアルキルジアルコキシシラン、コロイダルシリカおよび触媒量の硬化触媒たとえばアルミニウムアセチルアセトナトもしくはその加水分解物を主成分として含むものであり、該組成物の残余が、本質的に通常これら組成物の調製に使用される溶媒で構成される。
【0064】
傷付き防止膜は、少なくとも1のカプリング剤を有効量で含むことができる。
好ましいカプリング剤は、エポキシアルコキシシランと、好ましくはエチレン性二重結合末端を有する不飽和アルコキシシランとの予備縮合液である。
【0065】
エポキシアルコキシシランは、たとえばγ-グリシドキシプロピルトリ(ter)メトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ-グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、(γ-グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジイソプロピルエトキシシランおよび(γ-グリシドキシプロピル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシランなどである。
【0066】
好ましいエポキシアルコキシシランは、(γ-グリシドキシプロピル)トリメトキシシランである。
【0067】
不飽和アルコキシシランは、ビニルシラン、アリルシラン、アクリルシランまたはメタクリルシランであればよい。
【0068】
ビニルシランは、たとえばビニルトリ(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリスイソブトキシシラン、ビニルトリ-t-ブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルビス(トリメチルシロキシ)シランおよびビニルジメトキシエトキシシランなどである。
【0069】
アリルシランは、たとえばアリルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシランおよびアリルトリス(トリメチルシロキシ)シランなどである。
【0070】
アクリルシランは、たとえば3-アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3-アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、n-(3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどである。
【0071】
メタクリルシランは、たとえば3-メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメトキシシロキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3-メタクリロキシプロペニルトリメトキシシランおよび3-メタクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシランなどである。
好ましいシランは、アクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【0072】
上記カプリング剤の調製に使用されるエポキシアルコキシシラン(または複数種)および不飽和アルコキシシラン(または複数種)の量は、好ましくは下記重量比Rが0.8≦R≦1.2となる条件である。
【数1】

【0073】
カプリング剤は、上記エポキシアルコキシシラン(または複数種)と不飽和アルコキシシラン(または複数種)とから得られる固形物を、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%含む。
【0074】
カプリング剤は、液状の水および/または有機溶媒の含有量が、好ましくは40重量%未満、より好ましくは35重量%未満である。
【0075】
“エポキシアルコキシシラン(または複数種)と不飽和アルコキシシラン(または複数種)とから得られる固形物”とは、これらシラン類からの理論上の乾燥抽出物を意味し、QkSiO(4-k)/2(ここでQはエポキシまたは不飽和基を含む有機基)単位の計算重量値であり、QkSiO(4-k)/2は、SiR'が加水分解反応してSiOHを形成するQkSiR'O(4-k)に由来する。
kは1ないし3の整数であり、好ましくは1に相当する。
R'は、好ましくはたとえばOCH3などのアルコキシ基である。
【0076】
上記した水および有機溶媒は、カプリング剤組成物中に最初に添加されたもの、およびカプリング剤組成物中に存在するアルコキシシラン類の加水分解および縮合により生じる水およびアルコールに由来する。
【0077】
カプリング剤の好ましい調製方法としては下記が挙げられる。
1)アルコキシシラン類の混合;
2)好ましくは塩酸などの酸添加による、上記アルコキシシラン類の加水分解;
3)上記混合物の撹拌;
4)任意に有機溶媒の添加;
5)アルミニウムアセチルアセトナトなどの触媒の1種または数種の添加;
6)撹拌(通常の処理時間:一夜)。
【0078】
傷付き防止膜組成物中に導入されるカプリング剤は、通常、全組成物重量の0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%の量で存在する。
【0079】
傷付き防止膜組成物は、スピンコート、ディップコートまたはフローコートなどのどのような古典的方法を用いて反射防止膜上に塗布してもよい。
【0080】
傷付き防止膜組成物は、単に乾燥してもよく、あるいは次の反射防止膜を設ける前に任意に予備硬化させてもよい。傷付き防止膜組成物の特徴に応じて、熱硬化、U紫外線硬化またはこれら両方の組合わせを用いることができる。
【0081】
傷付き防止膜の厚みは、硬化後、一般的に、1〜15μm、好ましくは1.5〜6μmである。
【0082】
傷付き防止膜組成物は、少なくとも1の疎水性界面活性剤を含むこともできる。
疎水性界面活性剤とは、硬化した傷付き防止膜の疎水性能を、該界面活性剤を含まない以外は同じ硬化膜に比べて強める(たとえば表面エネルギーを低下させる)界面活性剤を意味する。
【0083】
界面活性剤の例は:
ダウ・コーニング社(Dow Corning)製:シリコーン、オルガノシラン、フルオロシラン;
ウィトコ社(Witco)製:シリコーン、変性トリシロキサン、アクリラート、変性シリコーンポリマーである。
【0084】
好ましい界面活性剤は、フッ素化合物、特にフッ素化ケイ素化合物、具体的には上記したフッ素化ケイ素化合物である。
好ましい疎水性界面活性剤は、3M社製商品フルオラッド(Fluorad)FC430、またはEFKA社製EFKA−3034である。
EFKA−3034は、有機的に変性したポリシロキサン含有フルオロカーボンである。
界面活性剤の量は、通常、0.01〜0.5wt%の範囲である。
【0085】
皮膜付きレンズは、好ましくは傷付き防止膜のレンズ基材への密着性を高めるための、および/またはレンズの耐衝撃性を高めるためのプライマーコート層を含む。
プライマーコートは、最終光学製品の耐衝撃性および/または傷付き防止膜の密着性を高めるために通常使用されるどのようなコーティング膜であってもよい。
【0086】
耐衝撃性プライマーコートとは、該耐衝撃性プライマーコートをもたないこと以外は同一の光学製品に比べ、最終の光学製品の耐衝撃性を改善する皮膜である、と定義される。
【0087】
通常のプライマーコートは、(メタ)アクリル系コーティングおよびポリウレタン系コーティングである。
(メタ)アクリル系コーティングは、たとえば、とりわけ熱可塑性の架橋したポリウレタン樹脂コーティングを開示する米国特許第5,015,523号中に、日本特許63−141001号および63−87223号、欧州特許第0404111および米国特許第5,316,791中に開示されている。
【0088】
具体的に、本発明に係るプライマーコートは、ポリ(メタ)アクリルラテックス、ポリウレタンラテックスまたはポリエステルラテックスなどのラテックス組成物から形成することができる。
好ましい(メタ)アクリル系プライマーコート組成物として、たとえばテトラエチレングリコールジアクリラート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリラート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリラート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリラートとともに、ウレタン(メタ)アクリラートおよびこれらの混合物などのポリエチレングリコール(メタ)アクリラート系組成物を挙げることができる。
【0089】
プライマーコートは、好ましくは30℃より低いガラス転移点(Tg)を有する。
好ましいプライマーコート組成物として、ゼネカ社(ZENECA)より上市されているアクリルラテックス(ACRYLIC LATEX)A−639の商品名で市販されているアクリルラテックスおよびW−240およびW−234の商品名でバクセンデン(BAXENDEN)から市販されているポリウレタンラテックスを挙げることができる。
【0090】
好ましい態様において、プライマーコートは、光学基材および/または傷付き防止膜に対する該プライマーコートの接着性を向上させるための有効量のカプリング剤を含んでいてもよい。
前記傷付き防止膜組成物のためのものと同じカプリング剤を、同量で、プライマーコート組成物にも使用することができる。
【0091】
プライマーコート組成物は、スピンコート、ディップコートまたはフローコートなどのどのような古典的方法を用いて塗布してもよい。
耐衝撃性プライマーコート組成物の特徴に応じて、熱硬化、紫外線硬化またはこれら両方の組合わせを用いることができる。
【0092】
プライマーコートの厚みは、硬化後、通常、0.05〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは0.6〜6μmである。
【0093】
レンズ基材は、当光学分野で使用されるどのような材料で作製されてもよく、たとえば無機または有機ガラス、好ましくは有機ガラスで作製することができる。
このようなレンズ基材は、たとえば下記のものである:
−ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマーおよびコポリマー系基材;
−(メタ)アクリルポリマーおよびコポリマー系基材、たとえばビスフェノール−Aから誘導される(メタ)アクリルポリマーからなる基材;
−チオ(メタ)アクリルポリマーおよびコポリマー系基材;
−ポリチオウレタンポリマーおよびコポリマー系基材;
−エポキシおよび/またはエピスルフィドポリマーおよびコポリマー系基材;および
−ポリカーボナート系基材。
【0094】
本発明の他の態様において、皮膜付きレンズの仮の最外皮膜層は、少なくとも1の疎水性界面活性剤を含有する傷付き防止膜の外表在性部から構成される。
この傷付き防止膜は、前述の疎水性界面活性剤を少なくとも1つ含有する前述のコーティングのどれであってもよい。
【0095】
疎水性界面活性剤は、好ましくはフッ素化合物であり、特に、前述したような、少なくとも1のフルオロカーボン、ポリフルオロカーボン、フルオロポリエーテルまたはポリフルオロポリエーテル基を含有するシランおよびシラザンである。
傷付き防止膜の上記外表在性部の厚みは、通常、1〜100nm、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜10nm、さらに良好には1〜5nmである。
【0096】
また、傷付き防止膜の上記外表在性部の処理は、前述したとおりである。
フッ素化合物(または複数種)を含有する仮の最外皮膜層の膜厚が薄い(30nm以下)である場合には、工程(b)後のレンズの表面でのフッ素の完全除去が可能であることはまったく意外である。
事実、工程(b)後、AlのKα線X線光電子分光(XPS)により、フッ素は検出されない。
【0097】
他の態様において、仮の最外コーティングは、ゾル/ゲル法により得られる反射防止積層体からなる最外コーティングであってもよい。
このような最外コーティングの厚みは、一般的に60nmないし120nm、好ましくは70nm〜100nmで構成され、一般的に1.45以下(好ましくは1.38〜1.44)の低屈折率値をもつ。
【0098】
上記最外皮膜層またはコーティングは、光学的機能性であり、全積層体のAR性能に寄与する。
最外コーティングは、好ましくはジ,トリまたはテトラアルコキシシランの加水分解物、好ましくはエポキシシラン加水分解物および付加的にSiO2などの低屈折率フィラーからなることが好ましい。
【0099】
このような最外コーティングは、たとえば以下の特許に記載されている:
米国特許第4,590,117号,米国特許第5,173,368号,米国特許第5,104,692号,米国特許第4,687,707号および欧州特許第1279443号、その内容を引用することにより本明細書に記載されているものとする。
終りの2つの文献において、フルオロアルコキシシラン成分は、A積層体の仮の最外コーティングを構成し、かつその屈折率を低下させる最終マトリックスの前駆体として使用されている。
【0100】
本発明の方法の最終工程は、工程b)後に得られる処理表面上への、仮の最外コーティングの特性とは異なる表面特性を有する最終皮膜層の成膜からなる。
最終コーティングの水接触角は、好ましくは少なくとも100°である。
【0101】
また、最終コーティングの表面エネルギーは、好ましくは25mJ/m以下、好ましくは22mJ/m以下、より好ましくは15mJ/m以下、なお一層好ましくは12mJ/m以下である。
【0102】
一般に防汚性トップコートと使用されるいかなるコーティングも、それが仮の最外コーティングの特性とは異なる表面特性をもつものとして供され、特に、たとえば大きめの水接触角または低めの表面エネルギー、または脂肪族化合物(スクアレン)の前進接触角と後退接触角との間の接触損失が小さめであるなどの疎水性の高められた最終コーティングとして使用することができる。
【0103】
好ましい最終コーティングは、上記したような疎水性トップコートであればどれでもよいが、特に、米国特許第6,277,485号および米国特許第6,183,872号特許明細書に開示されるものである。この最終コーティングは、公知のどのような方法、具体的に、真空コート、ディップコート、スピンコート、スプレーコートまたはスタンピングコート法により成膜されてもよい。
【0104】
最終コーティングの厚みは、通常、1〜100nm、好ましくは2〜60nm、より好ましくは1〜60nm、なお一層好ましくは2〜50nmである。
【0105】
本発明の方法は、活性化学種を用いる処理工程(b)の前、またはこの工程の後であって最終コーティングの成膜工程(c)の前、好ましくは工程(b)の前に、レンズの縁取り工程をさらに含むことができる。
【0106】
活性化学種を用いる処理工程(b)の前に、レンズの縁取り工程を行うには、縁取り操作の間、保持パッドへの良好な接着を得るために、仮の最外皮膜層が、通常少なくとも15mJ/mの比較的高い表面エネルギーをもつ必要がある。
【0107】
他方、暫定的コーティングは、縁取り操作に先だって、仮の最外皮膜の最表面上に成膜してもよいが、その後除去されるものである。
このような暫定的コーティングは、無機コーティングであってもよく、具体的に金属フッ化物もしくは金属フッ化物の混合物、および金属酸化物もしくは金属酸化物の混合物からなるコーティングである。
【0108】
フッ化物としては、MgF2,LaF3,AlF3またはCF3を挙げることができる。
金属酸化物としては、title酸化物、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物およびプラセオジミウム酸化物を挙げることができる。
【0109】
好ましい混合物は、アルミナとプラセオジミウム酸化物との混合物である。無機材料製であるとき、暫定層の厚みは、通常、50nm以下、一般に1〜50nm、好ましくは5〜50nmである。暫定コーティングは、通常、眼科用レンズのマーキングに用いられるインクまたはこれらインクのバインダーとなる樹脂で形成されてもよい。
【0110】
この場合には、無機コーティングのみが用いられる場合よりも厚い膜厚のコーティングを有することができる。この厚みは、5〜1.50μmの範囲であればよい。好ましい樹脂は、アルキッド樹脂である。
【0111】
縁取り工程後、暫定の保護膜は液状媒体を用いてまたは乾燥掃引により、またはこれら両方の組合わせにより除去することができる。
液状媒体を用いる除去は、好ましくは酸溶液、具体的には0.01〜5Nの範囲のモル濃度のオルソリン酸溶液を用いて行うことができる。
上記酸溶液は、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0112】
暫定的保護膜の除去後、皮膜付きレンズの仮の最外皮膜層は、活性化学種による処理(b)が施されてもよい。
【0113】
活性化学種による処理(b)の前に、皮膜付きレンズに縁取り処理を施すことは好ましい。しかしながら、処理(b)後のレンズを削り取る可能性もある。この場合には、活性化学種による処理が、通常、縁取り装置の保持パッドへの密着性が求められる皮膜付きレンズの外表面におけるものであるなら、暫定膜は必要ではないだろう。
したがって、縁取り工程は、工程(b)の前に容易に行うことができ、また暫定保護膜の必要性もない。
【実施例】
【0114】
実施例1および2および比較例A〜C
本発明に係る方法の工程(a)および(b)を用いて、および本発明の処理工程(b)に代えて真空酸素プラズマを用いて比較するために、種々の皮膜付きレンズを処理する。
処理後のレンズ表面の水接触角および表面エネルギーを測定し、計算し、均質性を評価した。
皮膜付きレンズの組成物および構造、処理のパラメータおよび結果を以下に示す。
【0115】
皮膜付きレンズNo.1
レンズを、基材からはじめて、プライマーコート、傷付き防止膜、反射防止積層体および疎水性トップコートでコーティングする。
【0116】
基材
組成物:ジエチレングリコールジアリルカーボナート重合物(エシロール社製CR39(登録商標)−ORMA(登録商標)レンズ)
【0117】
プライマーコート
組成物:バクセンデン社製ポリウレタン・ラテックスW234
厚み:約1μm
成膜方法:ディップコート法
【0118】
傷付き防止膜
【表1】


厚み:約3.5μm
成膜方法:ディップコート法
【0119】
反射防止膜
基材直上の層からはじめて、4つの無機層の積層体。
【表2】


各層は真空成膜されている。
【0120】
疎水性トップコート
組成物:信越化学工業社製商品名KP801Mで市販されているフルオロシラザン
厚み:2〜5μm
成膜方法:蒸着
【0121】
処理No.1
この処理は、本発明にしたがう以下の特徴をもつ常圧コロナ放電処理である。
処理の種類:コロナ放電
圧:750−760mmHg
出力:800W
活性種:フリーラジカル
処理時間:10秒
【0122】
処理No.2
処理時間を20秒にした以外は、処理No.2と同様である。
【0123】
処理No.3
この処理は、本発明の範囲外の真空下での酸素プラズマ処理であり、以下の条件で行う。
処理の種類:酸素プラズマ
圧 :200ミリバール
出力 :600W
活性種 :イオン
処理時間:20秒
【0124】
処理No.4
この処理は、本発明の範囲外の真空下での酸素プラズマ処理であり、以下の条件で行う。
処理の種類:酸素プラズマ
圧 :200ミリバール
出力 :600W
活性種 :イオン
処理時間:10秒
【0125】
処理No.5
この処理は、本発明の範囲外の真空下での酸素プラズマ処理であり、以下の条件で行う。
処理の種類:酸素プラズマ
圧 :300ミリバール
出力 :300W
活性種 :イオン
処理時間:10秒
【0126】
【表3】


)レンズ表面上の測定位置に依存
0=不良
+=良好
【0127】
実施例3〜5および比較例D〜F
本発明に係る方法に従い、種々の皮膜付きレンズを処理した。活性化学種による処理の後、処理されたレンズを、OPTOOL DSXの0.1重量%パーフルオロヘキサン溶液中に浸してコーティングし、レンズを50℃のオーブン中で3時間加熱した。
【0128】
得られたレンズを接着試験に供した。プロトコルを以下に示す。
レンズを、まず最初に、パーフルオロヘキサン中に1分間浸す。21℃+/-1℃で上記溶媒中に浸す前および後の両方で、レンズ表面の水接触角を測定した。
溶媒中に浸す前および後に、インク試験も行った。
【0129】
その後、レンズを上記溶媒中に2分間、第二回目の浸漬をした。得られたレンズにインク試験を行った。皮膜付きレンズの特性が、レンズNo.1と異なるかどうか、後に示す。 比較のため、本発明にしたがって処理されていない同様のレンズを、上記溶媒中への同じ浸漬を行った(これらレンズに水接触角およびインク試験を測定ないし実施した)。
もしインク試験の結果が良くなければ、疎水性コーティングOPTOOL DSXはパーフルオロヘキサン溶液中に溶出したことを意味し、接着不良を示す。
結果を表IIに示す。
【0130】
皮膜付きレンズNo.2
このレンズは、基材と、疎水性界面活性剤を含む傷付き防止膜のみからなる。
基材 :レンズNo.1に示すとおり
傷付き防止膜:レンズNo.1に示すとおり
【0131】
皮膜付きレンズNo.3
傷付き防止膜が疎水性界面活性剤をまったく含まない以外は、皮膜付きレンズNo.2と同様である。
【0132】
【表4】

【0133】
OPTOOL DSX:ダイキン工業社(DAIKIN)製パーフルオロプロピレン基含有化合物
水接触角は以下のように測定した:
環境温度T°:21℃+/-1℃
および相対湿度Rh:55%
ファースト・テン・アングスロムス(First Ten Angstroms)社製ゴニオメータFTA200を用いた。
液滴容量は6μl.
【0134】
表面エネルギーを、FTA32バージョン2.0ソフトウェアを用いるOWENS-WENDT2要素のモデルにしたがうか、またはASTM D−2578−67手順に準拠するレクトロ(Lectro)処理による“濡れ張力試験キット”を用いて算出した。
【0135】
インク試験は、処理または皮膜付きレンズの表面上に、寺西化学工業(株)製マジックインクNo.500の線を引くことで評価した。
マジックインクの線が不連続な点線となれば、該レンズは試験に合格とし、マジックインクの線が連続線となれば、該レンズは試験に不合格とする。
この試験は、レンズの表面特性を評価するものである。
【0136】
本発明にしたがって置き換えたコーティングを有するレンズと、仮のすなわち本発明の方法を行う前のレンズとは表面特性が顕著に相違することを示すには、First Ten Angstroms社製のFTA200シリーズ装置を用いて、先の実施例3および4で得られたレンズおよび初期レンズ(皮膜付きレンズ1および2)に各種測定が実施される。
【0137】
上記特性を測定するために使用した液体は脂肪族化合物:スクワレンである。
4〜5μlの間の所望化成品(この実験ではスクアレン)を各試験されるレンズの表面上に滴下する。液滴中に針を残し、以下のプログラムによりポンプを稼動する:
・10秒間で5mLのスクアレンを添加する。
・ポンプを5秒間停止
・5mLのスクアレンを10秒間添加
・ポンプを5秒間停止
(上記堆積がポンプ停止後の所定時間存続するという事実に基づき、実に10mLを超えるスクアレンが堆積する)
【0138】
・10秒間で15mLのスクアレンを除去
・ポンプを5秒間停止
・10mLのスクアレンを10秒間添加
・ポンプを4秒間停止
・10秒間で15mLのスクアレンを除去
・ポンプを5秒間停止
【0139】
このプロセスを介して80像を記録し、これら各像について接触角を測定する。これにより時間に対する接触角の関数のグラフを描くことができる。このグラフから、次いでヒステリシスを測定するのは容易である。
【0140】
【表5】

【0141】
皮膜付きレンズNo.2および1は、すべての処理前の初期レンズであり、先に定義されている。
処理No.2およびOPTOOL DSX成膜後の最終レンズは、初期レンズに比べ格段に良好なヒステリシスを有することを明確に表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)表面の水接触角が少なくとも65°の仮の最外皮膜層を有する皮膜付き光学レンズを準備すること;
(b)前記仮の最外皮膜層に、水接触角が10°以下に処理された表面を得るために、活性化学種による処理をほぼ常圧で1分未満実施すること;および
(c)前記処理された表面上に、前記仮の最外皮膜層の特性とは異なる表面特性を有する最終皮膜からなる層を成膜すること
を含む、仮の最外皮膜層上に該仮の最外皮膜層の特性とは異なる表面特性を有する新しい最終皮膜からなる層の成膜もしくはそれによる皮膜付き光学レンズの仮の最外皮膜層の置換方法。
【請求項2】
前記(b)活性種による処理時間が40秒以下、好ましくは30秒以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(b)活性種による処理時間が約20秒である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記処理された表面の水接触角が7°以下である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記処理された表面の水接触角が5°以下である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記活性化学種が本質的にフリーラジカルである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フリーラジカルが酸素フリーラジカルである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記活性化学種による処理がコロナ放電処理である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記コロナ放電処理の出力が10〜2.10Wである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記コロナ放電処理の出力が5.10〜10Wである請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記活性化学種による処理がOプラズマ処理である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記仮の最外皮膜の表面エネルギーが少なくとも15mJ/mである請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記最終皮膜の水接触角が少なくとも100°である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記最終皮膜の表面エネルギーが25mJ/m以下である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記最終皮膜の表面エネルギーが22mJ/m以下である請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記最終皮膜の表面エネルギーが15mJ/m以下である請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記最終皮膜の表面エネルギーが12mJ/m以下である請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記仮の最外皮膜層が、少なくとも1のフッ素化合物を含む組成物からなる疎水性トップコートである請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記フッ素化合物が、少なくとも1のフルオロカーボン、ポリフルオロカーボン、フルオロポリエーテルまたはポリフルオロポリエーテル基を含有するシランおよびシラザンから選ばれる請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記仮の最外皮膜層が反射防止膜上に成膜される請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記反射防止膜が低および高屈折率無機層の交互積層体である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
傷付き防止膜、および任意にプライマーコート層をさらに含む請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記仮の最外皮膜層の厚みが、1〜100nm、好ましくは1〜60nm、より好ましくは10〜60nmである請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記仮の最外皮膜層の厚みが1〜5nmである請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記最終皮膜の厚みが1〜100nmの範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記最終皮膜が、真空コート、ディップコート、スピンコート、スプレーコートまたはスタンピングコート法により成膜される請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記仮の最外皮膜層が、少なくとも1の疎水性界面活性剤を含有する傷付き防止膜の外表在性部を含む請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記疎水性界面活性剤がフッ素化合物である請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記フッ素化合物が、少なくとも1のフルオロカーボン、ポリフルオロカーボン、フルオロポリエーテルまたはポリフルオロポリエーテル基を含有するシランおよびシラザンから選ばれる請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記外表在性部が、1〜100nm、好ましくは1〜30nmの厚みを有する請求項27に記載の方法。
【請求項31】
活性化学種による処理の間、該反応性化学種の活性化を均一にするためにエアブローすることをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記工程(a)または(b)の後にレンズの縁取り工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記工程(a)の後にレンズの縁取り工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記光学レンズが眼科用レンズである請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2006−527402(P2006−527402A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515888(P2006−515888)
【出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006293
【国際公開番号】WO2004/111691
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】