説明

皮膜形成液及びこれを用いた皮膜形成方法

【課題】連続又は繰り返し使用した場合でも、銅と感光性樹脂の密着性を向上させる皮膜を安定して形成できる皮膜形成液、及びこれを用いた皮膜形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の皮膜形成液は、銅と感光性樹脂を接着させるための皮膜を形成する皮膜形成液であって、環内にある異原子として窒素原子のみを有するアゾールと、25℃における酸解離定数の逆数の対数値が3〜8の酸及びその塩とを含む水溶液からなり、25℃におけるpHが4を超えて7以下であることを特徴とする。また、本発明の皮膜形成方法は、銅と感光性樹脂を接着させるための皮膜を形成する皮膜形成方法であって、前記銅の表面に前記本発明の皮膜形成液を接触させて前記皮膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅と感光性樹脂を接着させるための皮膜を形成する皮膜形成液と、これを用いた皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅表面に感光性樹脂(フォトレジスト)を用いてめっきレジスト又はエッチングレジストを形成し、パターニングを行うプリント配線板の製造過程において、レジストを形成するための銅表面の前処理として、バフ研磨などの物理研磨やソフトエッチングなどの化学研磨が一般的に採り入れられている。これらの研磨処理は、銅表面を活性化させるという目的のほかに、銅表面を粗化することによってアンカー作用で感光性樹脂との密着性を向上させるという目的もある。
【0003】
しかしながら絶縁層を有する基材自体の薄層化、あるいはレジストが形成される銅層自体の薄層化(無電解めっき等を採用することによる薄層化)に伴い物理研磨や化学研磨が困難なケースが増えてきたため、銅表面の活性化処理を希硫酸による除錆に変更するケースが増えてきている。更に、近年では、形成されるパターンの細線、縮小化によって、希硫酸活性処理では銅表面とパターニングされたレジストとの密着性に問題が生じ、生産性の低下が起きつつある状況にある。
【0004】
より具体的には、銅表面に形成された感光性樹脂層は、露光後に炭酸ナトリウム水溶液などの現像液で現像され、その現像パターンが次工程でめっきレジスト又はエッチングレジストとして利用されるが、めっき工程又はエッチング工程でレジストの密着性が確保できなければ、所望のパターン形状が得られなくなる。特に、絶縁層上に導電層として形成される無電解銅めっき膜は薄いため、研磨が困難であることから、研磨せずに銅表面と感光性樹脂との密着性を向上させる手法の確立が求められている。
【0005】
物理研磨や化学研磨が行なえない銅表面に対しても感光性樹脂との密着性を向上できる銅表面処理剤として、下記特許文献1には、特定の複素環式化合物を含有し、かつpHが4以下の水溶液からなる処理剤が提案されている。この銅表面処理剤を用いて銅表面を処理すると、銅表面上に前記特定の複素環式化合物を含む皮膜が形成され、この皮膜を介して銅表面と感光性樹脂とが密着するため、細線パターンに適用可能な密着性を確保できる。なお、下記特許文献1の銅表面処理剤をめっきレジスト形成前の前処理に用いた場合は、通常、めっきレジスト形成後、電解めっきを行う前に、露出した上記皮膜を酸性液等により除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−45156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の銅表面処理剤を連続又は繰り返し使用すると、処理剤の銅イオン濃度の増加に伴って厚い皮膜が形成されるようになり、その結果、銅表面と感光性樹脂との密着性が低下することが本発明者らの検討により判明した。また、連続又は繰り返し使用すると、銅表面処理剤の組成によっては、めっき工程処理剤やエッチング工程処理剤等がレジスト下へ潜り込み易くなり、パターン形成が困難になる場合があることが本発明者らの検討により判明した。更に、銅表面処理剤の組成によっては、皮膜の除去が困難になる場合があることが本発明者らの検討により判明した。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、連続又は繰り返し使用した場合でも、銅と感光性樹脂の密着性を向上させる皮膜を安定して形成できる皮膜形成液、及びこれを用いた皮膜形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の皮膜形成液は、銅と感光性樹脂を接着させるための皮膜を形成する皮膜形成液であって、環内にある異原子として窒素原子のみを有するアゾールと、25℃における酸解離定数の逆数の対数値が3〜8の酸及びその塩とを含む水溶液からなり、25℃におけるpHが4を超えて7以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の皮膜形成方法は、銅と感光性樹脂を接着させるための皮膜を形成する皮膜形成方法であって、前記銅の表面に前記本発明の皮膜形成液を接触させて前記皮膜を形成することを特徴とする。
【0011】
なお、上記本発明における「銅」は、銅からなるものであってもよく、銅合金からなるものであってもよい。また、本明細書において「銅」は、銅又は銅合金をさす。
【0012】
また、上記本発明における「感光性樹脂」は、露光前の感光性樹脂だけでなく、現像後に銅表面上にパターニングされたレジストを形成する樹脂もさす。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続又は繰り返し使用した場合でも、銅と感光性樹脂の密着性を向上させる皮膜を安定して形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の皮膜形成液は、銅と感光性樹脂を接着させるための皮膜を形成する皮膜形成液であり、後述する各成分を含み、かつ25℃におけるpHが4を超えて7以下であることを特徴とする。皮膜を設ける銅層は特に限定されず、銅スパッタ膜や銅蒸着膜、あるいは銅めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)、又は電解銅箔、圧延銅箔等の銅箔等が使用できる。なかでも、薄膜化された銅層、例えば5μm以下の銅層、特に1μm以下の銅スパッタ膜、銅蒸着膜、銅めっき膜等は、物理研磨や化学研磨が困難なため、研磨(粗化)しなくても感光性樹脂との密着性を確保できる本発明の効果が有効に発揮される。
【0015】
また、銅表面に皮膜を介して設けるレジストの材料である感光性樹脂についても特に限定されず、例えばアクリル系樹脂やメタクリル系樹脂等を含む感光性樹脂が使用でき、その形状も液状やドライフィルム状等、種々の形状のものが使用できる。なかでもドライフィルムは、例えば10μm以上の厚みで30μm以下の幅(又は径)に微細化すると、従来は銅表面との密着性を確保するのが困難であったため、微細化されたレジストでも銅との密着性を確保できる本発明の効果が有効に発揮される。
【0016】
本発明の皮膜形成液は、25℃におけるpHが4を超えて7以下である。pHを前記範囲内に調整することにより、皮膜形成液を連続又は繰り返し使用した場合でも、銅と感光性樹脂の密着性を向上させる皮膜を安定して形成できる。pHが4以下の処理液を連続又は繰り返し使用すると、液中への銅の溶解が進行することによって液中の銅イオンが過剰に増え、この銅イオンがアゾールとキレートを形成するため、銅イオンを介して皮膜が積層化されて、厚い皮膜(積層皮膜)が形成されるものと推察される。皮膜が厚く形成された場合に銅と感光性樹脂の密着性が低下する理由は定かではないが、積層皮膜中の層間において界面剥離が生じ易くなるため、銅と感光性樹脂の密着性が低下するものと考えられる。
【0017】
また、皮膜が厚くなると、めっき液やクリーナー等のめっき工程処理剤、あるいはエッチング液等のエッチング工程処理剤などのような酸性処理液がレジスト下の皮膜中へ潜り込み易くなる上、後工程の皮膜除去が困難になる等の問題が生じる。本発明では、pHを上記好適な範囲内に調整することによって、形成される皮膜の付着量(厚み)を適正な範囲に保つことができるため、酸性処理液の潜り込みを防ぐことができる。また、皮膜除去も容易に行うことができるため、特にめっきレジスト形成前の前処理に適用した場合は、めっきの付着性が良好となる。
【0018】
皮膜形成液中への銅の溶解をより効果的に抑制する観点からは、pHが4.2以上であることが好ましく、4.5以上であることがより好ましい。また、皮膜形成液中のアゾールの溶解性低下を防止する観点からは、pHが6.8以下であることが好ましく、6.5以下であることがより好ましい。これらの観点を総合すると、皮膜形成液のpHは、4を超えて7以下であり、4.2〜6.8が好ましく、4.5〜6.5がより好ましい。pHは後述するアゾール及び酸の含有量で調整することができる。以下、本発明の皮膜形成液の含有成分について説明する。
【0019】
(アゾール)
本発明に用いられるアゾールは、銅と感光性樹脂を密着させる接着層としての役割を果たす皮膜の主成分となる。本発明では、皮膜形成性能の観点から、環内にある異原子として窒素原子のみを有するアゾールを使用する。具体的には、ジアゾール及びその誘導体等のジアゾール化合物;トリアゾール及びその誘導体等のトリアゾール化合物;テトラゾール及びその誘導体等のテトラゾール化合物が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。密着性向上の観点から、トリアゾール化合物及びテトラゾール化合物が好ましく、テトラゾール化合物がより好ましい。同様の観点から、アミノ基を有するアゾールが好ましい。
【0020】
ジアゾール化合物としては、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾール等が挙げられ、密着性向上の観点からベンゾイミダゾールが好ましい。
【0021】
トリアゾール化合物としては、トリアゾール(1H−1,2,3−トリアゾール及び/又は1H−1,2,4−トリアゾール)、ベンゾトリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等が挙げられ、密着性向上の観点から、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾールが好ましく、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールがより好ましい。
【0022】
テトラゾール化合物としては、テトラゾール(1H−テトラゾール)、5−アミノ−1H−テトラゾール、1−メチル−5−アミノテトラゾール、1−エチル−5−アミノテトラゾール、α−ベンジル−5−アミノテトラゾール、β−ベンジル−5−アミノテトラゾール、1−(β−アミノエチル)テトラゾール等があげられ、密着性向上の観点から、5−アミノ−1H−テトラゾール、1−メチル−5−アミノテトラゾール、1−エチル−5−アミノテトラゾール、α−ベンジル−5−アミノテトラゾール、β−ベンジル−5−アミノテトラゾール、1−(β−アミノエチル)テトラゾールが好ましく、5−アミノ−1H−テトラゾール、1−メチル−5−アミノテトラゾール、1−エチル−5−アミノテトラゾールがより好ましい。
【0023】
アゾールの含有量は、密着性向上の観点、及び皮膜形成液のpHを上記範囲内に調整する観点から、0.01重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、0.2重量%以上であることが更に好ましい。また、皮膜形成液中のアゾールの溶解性低下を防止する観点、及び皮膜形成液のpHを上記範囲内に調整する観点から、10重量%以下であることが好ましく、8重量%以下であることがより好ましく、6重量%以下であることが更に好ましい。これらの観点を総合すると、アゾールの含有量は、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.1〜8重量%であることがより好ましく、0.2〜6重量%であることが更に好ましい。
【0024】
(酸及びその塩)
本発明に用いられる酸及びその塩は、皮膜形成液のpHを、4を超えて7以下に調整するpH調整剤としての役割を果たすと共に、皮膜形成液を連続又は繰り返し使用した際のpHの変動を抑制する緩衝剤としての役割も果たす。これにより、形成される皮膜の付着量を一定に保つことができるため、銅と感光性樹脂の密着性を向上させる皮膜を安定して形成することができる。また、皮膜形成液を連続又は繰り返し使用しても、酸性処理液の潜り込みを防ぐことができ、かつ皮膜除去も容易に行うことができる。なお、緩衝成分が存在しないと、前工程(例えば酸洗浄工程)からの液の持ち込みや、皮膜形成液の濃縮等により、皮膜形成液のpHが変動するため、密着性を向上させる皮膜を安定して形成することが困難となる。
【0025】
上記観点から、本発明では、25℃における酸解離定数の逆数の対数値が3〜8の酸及びその塩を用いる。皮膜形成液のpHを上記範囲内に容易に制御する観点からは、上記値が3.5〜7.5の範囲が好ましく、3.8〜7.2の範囲がより好ましい。ここで、「25℃における酸解離定数の逆数の対数値」は、一塩基酸を用いる場合はpKである。二塩基酸を用いる場合は、一段階目の酸解離定数の逆数の対数値(pKa1)及び二段階目の酸解離定数の逆数の対数値(pKa2)のいずれかが3〜8の範囲内であればよい。三塩基酸以上の多塩基酸の場合も同様である。また、二塩基酸以上の多塩基酸を用いる場合、配合する塩については、所望のpH値や要求される緩衝能力に応じて、その正塩及び酸性塩の中から1種以上の塩を選択すればよい。
【0026】
25℃における酸解離定数の逆数の対数値が3〜8の酸としては、酢酸(pK=4.8)、リン酸(pKa2=7.2)、クエン酸(pKa3=6.4)、フタル酸(pKa2=5.4)、ギ酸(pK=3.6)等が例示でき、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0027】
上記酸の塩としては、特に限定されず、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、リチウム塩等が例示でき、これらの1種又は2種以上を使用できる。皮膜形成液中の溶解性及び入手容易性の観点からは、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩が好ましい。また、皮膜形成液の長期保存安定性の観点からは、マグネシウム塩が好ましい。
【0028】
皮膜形成液のpHを上記範囲内に容易に制御する観点からは、酢酸、リン酸、クエン酸及びフタル酸から選ばれる1種以上の酸と、その塩を用いるのが好ましく、酢酸と酢酸塩の組み合わせがより好ましい。
【0029】
酸の含有量は、皮膜形成液のpHを上記範囲内に調整する観点から、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.05〜5重量%であることがより好ましく、0.1〜4重量%であることが更に好ましい。
【0030】
酸の塩の含有量は、皮膜形成液のpHを上記範囲内に調整し、かつ皮膜形成液を連続又は繰り返し使用した際のpHの変動を抑制する観点から、酸1モルに対し0.05〜20モルであることが好ましく、0.1〜10モルであることがより好ましく、0.5〜5モルであることが更に好ましい。
【0031】
(他の成分)
本発明の皮膜形成液は、上述した本発明の効果を妨げない限り、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、あるいは、グリコール、グリコールエーテル、ポリエチレングリコール等のグリコール類やそれらの誘導体等の他の成分が含まれていてもよい。他の成分を含有する場合、その含有量は、0.001〜1.0重量%程度であるのが好ましい。ただし、銅表面を研磨(粗化)せずに感光性樹脂との密着性を向上させる観点から、ハロゲン化物イオンの含有量は100ppm未満であることが好ましく、10ppm未満であることがより好ましく、1ppm未満であることが更に好ましく、不可避的不純物として含有されるハロゲン化物イオン以外は実質的に含有しないことが更により好ましい。
【0032】
本発明の皮膜形成液は、上記の各成分を水に溶解させることにより、容易に調製することができる。上記水としては、イオン性物質や不純物を除去した水が好ましく、例えばイオン交換水、純水、超純水などが好ましい。
【0033】
本発明の皮膜形成液を用いて皮膜を形成する場合、例えば下記のような条件で形成できる。
【0034】
まず、銅表面を硫酸水溶液等の酸性液で洗浄する。次に、銅表面に上記皮膜形成液を接触させることにより銅表面上に皮膜が形成される。この際の接触方法としては、特に限定されず、浸漬処理やスプレー処理等を採用することができるが、均一な皮膜を形成する観点から、浸漬処理が好ましい。
【0035】
浸漬処理を採用する場合、皮膜形成液の温度は、皮膜形成性の観点から、10〜50℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。同様の観点から、浸漬時間は、5〜120秒であることが好ましく、15〜90秒であることがより好ましい。通常、浸漬処理後、水洗工程、及び乾燥工程が行われる。
【0036】
スプレー処理を採用する場合、皮膜形成液の温度は、皮膜形成性の観点から、10〜50℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。同様の観点から、スプレー圧0.01〜0.3MPaでスプレー時間5〜120秒で処理することが好ましく、スプレー圧0.05〜0.2MPaでスプレー時間15〜90秒で処理することがより好ましい。通常、スプレー処理後、水洗工程、及び乾燥工程が行われる。
【0037】
本発明の皮膜形成液で形成された皮膜の付着量(厚み)は、例えばFT−IR RAS法、つまり反射吸収法(RAS法)によるFT−IR(フーリエ変換型赤外分光法)を分析手段として用いることができる。その場合、皮膜の付着量(厚み)は、波数3000〜3500cm−1の範囲内で最大吸収を示すピークの吸光度から把握することができると共に、この吸光度の値で管理することができる。皮膜付着量は、皮膜形成液中のアゾールの濃度、皮膜形成液のpH、皮膜形成液の温度、銅表面と皮膜形成液との接触時間等により調整できる。本発明の皮膜形成液は、上記特定の酸及びその塩を含有するため、連続又は繰り返し使用した場合でも、その緩衝作用により所望の皮膜付着量を容易に維持できる。
【0038】
本発明の皮膜形成液によって得られた皮膜は、めっきレジスト、エッチングレジスト、ソルダーレジスト等の感光性樹脂との密着性を確保できる。なかでも、セミアディティブ工法でプリント配線板を製造する場合において、薄層化された銅層にめっきレジストを形成する前の前処理工程に好適である。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0040】
[新液及び古液の調製]
以下の表1及び表2に示す配合(残部イオン交換水)の皮膜形成液を試験に供する新液として調製した。また、前記新液とは別に、表1及び表2に示す配合(残部イオン交換水)の皮膜形成液を調製し、この皮膜形成液を用いて10m2/Lに相当する面積の片面銅張積層板を浸漬処理し(25℃、30秒)、処理後の皮膜形成液を古液として試験に供した。なお、上記片面銅張積層板としては、前処理として10重量%硫酸水溶液を用いて、25℃、20秒間の浸漬洗浄を行った後、水洗・乾燥したものを用いた。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
[試験方法1]
小径ドットのレジストパターンを用いて、ドライフィルム現像時のスプレー圧力により生じるドット剥がれを定量的に計測することにより、銅表面とドライフィルムの密着性の評価を行った。評価方法を下記に示す。
【0044】
テスト基板として、0.5μmの膜厚の無電解銅めっき膜を有する基材を用意し、このテスト基板を各皮膜形成液に浸漬し(25℃、30秒)、水洗・乾燥を行った。次いで、テスト基板の銅表面に旭化成社製ドライフィルム(サンフォートSPG-102、厚み10μm)を貼り合わせ、露光パターンとしてドット/スペース=20μmφ/40μm(ドット数:255ドット)のフォトマスクを用いて、150mJ/cm2の露光条件で露光した。次いで、1重量%炭酸ナトリウム水溶液(25℃)を用いて、スプレー処理(スプレー圧0.05MPa、スプレー時間60秒)にて現像した後、現像後のドット残存数を計数し、下式によりドット残存率を算出した。結果を表3及び表4に示す。なお、ドット残存率が高いほど、銅表面とドライフィルムの密着性が高いと評価できる。
ドット残存率(%)=ドット残存数/255ドット×100
【0045】
[試験方法2]
本発明によれば、めっき工程処理剤等の酸性液のレジスト下への潜り込みを防止できる。この効果を確認するため、全面露光したドライフィルムに対しクロスカットを行った後、塩酸浸漬処理し、銅表面とドライフィルムとの間に塩酸が浸食することによって、ドライフィルムの浮きや剥がれが生じるか否かの確認を行った。評価方法を下記に示す。
【0046】
テスト基板として、0.5μmの膜厚の無電解銅めっき膜を有する基材を用意し、このテスト基板を各皮膜形成液に浸漬し(25℃、30秒)、水洗・乾燥を行った。次いで、テスト基板の銅表面に旭化成社製ドライフィルム(サンフォートSPG-102、厚み10μm)を貼り合わせ、150mJ/cm2の露光条件で全面露光した。次いで、1重量%炭酸ナトリウム水溶液(25℃)を用いて、スプレー処理した(スプレー圧0.05MPa、スプレー時間60秒)。なお、本試験ではパターン露光を行っていないが、通常の工程履歴を再現するために上記の1重量%炭酸ナトリウム水溶液による処理を行った。次いで、カッターを用いてドライフィルムに1mm×1mmの碁盤目状の切れ目(クロスカット)を入れた後、このテスト基板について、塩化水素濃度17.5重量%の塩酸を用いて浸漬処理し(25℃、10分間)、水洗・乾燥後、テスト基板の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表3及び表4に示す。
評価基準
○:異常発生なし
△:部分的にレジストの浮きや剥がれが発生
×:全体的に浮きや剥がれが発生
【0047】
[試験方法3]
本発明によれば、形成した皮膜を酸洗浄等によって容易に除去できる。この効果を確認するため、皮膜除去性の評価を行った。評価方法を下記に示す。
【0048】
テスト基板として、0.5μmの膜厚の無電解銅めっき膜を有する基材を用意し、このテスト基板を各皮膜形成液に浸漬し(25℃、30秒)、水洗・乾燥を行った。次いで、形成された皮膜に、10重量%硫酸水溶液(25℃)を30秒間接触させた。接触方法としては、浸漬処理及びスプレー処理(スプレー圧0.05MPa)を採用した。そして、硫酸洗浄前後の皮膜付着量について、テスト基板をFT-IR RAS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製Nicolet380)により分析し、波数3000〜3500cm-1の範囲内で最大吸収を示すピークの吸光度(例えば、実施例1の場合は3440cm-1における吸光度)から皮膜残渣の確認を行い、以下の基準で評価した。結果を表3及び表4に示す。なお、実施例1の新液で処理した皮膜(吸光度0.009)を、重量法により定量したところ、皮膜の付着量は0.02g/mであった。
評価基準
○:硫酸洗浄後は吸収無し
△:硫酸洗浄前の吸光度に対し、硫酸洗浄後は1/10未満の吸光度を示した。
×:硫酸洗浄前の吸光度に対し、硫酸洗浄後は1/10以上の吸光度を示した。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
表3及び表4に示すように、本発明の実施例は、いずれの評価項目についても、新液及び古液共に良好な結果が得られた。これに対し、比較例は、特に古液の評価が実施例に比べ低下した。この結果から、本発明によれば、連続又は繰り返し使用した場合でも、銅と感光性樹脂の密着性を向上させる皮膜を安定して形成できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と感光性樹脂を接着させるための皮膜を形成する皮膜形成液であって、
環内にある異原子として窒素原子のみを有するアゾールと、25℃における酸解離定数の逆数の対数値が3〜8の酸及びその塩とを含む水溶液からなり、
25℃におけるpHが4を超えて7以下である、皮膜形成液。
【請求項2】
前記アゾールの含有量が、0.01〜10重量%である、請求項1に記載の皮膜形成液。
【請求項3】
前記酸の含有量が、0.01〜10重量%であり、
前記酸1モルに対し、その塩を0.05〜20モル含有する、請求項1又は2に記載の皮膜形成液。
【請求項4】
前記アゾールが、トリアゾール化合物及びテトラゾール化合物から選ばれる1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膜形成液。
【請求項5】
前記アゾールが、アミノ基を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膜形成液。
【請求項6】
前記酸が、酢酸、リン酸、クエン酸及びフタル酸から選ばれる1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膜形成液。
【請求項7】
銅と感光性樹脂を接着させるための皮膜を形成する皮膜形成方法であって、
前記銅の表面に請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮膜形成液を接触させて前記皮膜を形成する、皮膜形成方法。

【公開番号】特開2012−224895(P2012−224895A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92055(P2011−92055)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000114488)メック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】