説明

皮膜形成用無溶媒塗布液、その塗布液及び皮膜の製造方法

【課題】基材表面の凹凸を平滑化し、200℃〜350℃の雰囲気においても耐えることができる皮膜形成用無溶媒塗布液を提供する。
【解決手段】フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物であって、その分子量分布のピークが200〜350の範囲と750〜1500の範囲に各々あり、分子量200〜350の範囲のピーク値と分子量750〜1500の範囲のピーク値との比(以下、「分子量ピーク値比という。」)が0.5〜4.0の範囲内であり、その粘度が3〜30mPa・sであることを特徴とする皮膜形成用無溶媒塗布液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に絶縁皮膜を形成するために用いる塗布液に関するものであって、フェニルトリアルコキシシランの加水分解・縮合反応物を主成分とするものに関する。
【背景技術】
【0002】
電子ペーパー、有機ELディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などのデバイス用基板にはガラス基板が用いられているが、可撓性や耐久性の観点からステンレス箔などの基材に絶縁皮膜を形成した部材を用いることが検討されている。
【0003】
これらの基材に形成される皮膜は、所定の絶縁性及び耐久性を付与するため所定以上の膜厚で形成されること、また基材表面がガラス基板にできるだけ近い平滑性を有することが要求される。
【0004】
次に、基材に形成される皮膜には耐熱性が求められている。耐熱性が求められる理由は、基材に皮膜を形成した部材は、熱処理工程、例えば薄膜太陽電池に用いられる場合には、200℃〜350℃の温度の雰囲気の中に曝される機会があるからである。
【0005】
皮膜形成用塗布剤の種類としては、材料の観点から有機材料、無機材料、有機・無機ハイブリッド材料の3種類があり、溶媒の有無の観点から2種類があり、3×2=6種類が考えられる。
【0006】
しかしながら、皮膜の厚さ及び皮膜の平滑性の観点から、有機・無機ハイブリッド材料を用いた無溶媒のものが良い。
【0007】
まず、有機・無機ハイブリッド材料を用いた塗布液が良い理由としては、有機材料は熱による劣化・分解が起きるうえ熱膨張係数が大きいので耐熱性の観点でプロセス温度は150℃程度以下に限定され(非特許文献1)、無機材料については、高い耐熱性を有するが厚膜にするとクラックが入りやすいので、実用的には1.0ミクロン未満の膜厚しか得られず、樹脂フィルムや金属箔の表面の凹凸を十分に被覆することはできないという問題がある(非特許文献2)ことが挙げられる。
【0008】
有機・無機複合材料は、例えば、オルガノシロキサンの加水分解・縮合反応物を利用して皮膜を作製することができる(非特許文献3)。
【0009】
次に、無溶媒のものが良い理由は、塗布液が溶質と溶媒とから構成されている場合には、塗布液の溶媒が揮発することにより必然的に凹部が生じることが挙げられる。
【0010】
無溶媒の塗布液の例としては、特許文献1ないし5および非特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−299088号公報
【特許文献2】特開平8−209028号公報
【特許文献3】特開平7−278497号公報
【特許文献4】特開平11−21509号公報
【特許文献5】特開2002−146285号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】I-C. Cheng, et al., Mat. Res. Soc. Symp. Proc., Vol. 664. A26.1, (2001)
【非特許文献2】C. J. Brinker and G. W. Scherer., “Sol-Gel Science”, Academic Press, p841 (1990)
【非特許文献3】H. Schmidt, J. Non-Cryst. Solids, Vol.73, p681 (1985)
【非特許文献4】厚地幹人他、ポリマー材料フォーラム講演予稿集15巻p9 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1ないし5に開示された有機・無機ハイブリッド材料を用いた無溶媒塗布液には以下のような問題がある。
【0014】
特許文献1ないし特許文献2には、耐摩耗性、耐擦傷性、耐候性、耐水性の付与を目的として、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する架橋重合性化合物とアルコキシ化合物などの加水分解物で表面が修飾されたシリカ粒子からなる無溶媒塗布液が開示されている。
【0015】
しかしながら、シリカ粒子により高硬度と耐候性が得られる上、耐熱性の向上も期待できるが、粒子状のものを含有する皮膜ではガラス並みの表面平滑性を得ることができない。
【0016】
非特許文献4には、常温で硬化するオルガノシロキサンの無溶媒塗布液が開示されている。
【0017】
しかしながら、これは、触媒によって空気中の水分を利用して加水分解・脱水縮合反応を進めるものであり、建材など大面積のコーティングには向いているが、硬化反応時間として3〜10日間を要する。そのため、硬化反応中にダストなどが巻き込まれると膜中異物となり、数日に及ぶ硬化時間は電子部品用材料の製造プロセスとしては不適である。
【0018】
特許文献3には、耐水性、耐溶剤性、耐候性、高光沢性の付与を目的とした無溶媒のアルコキシ基含有液状シリコーンレジン、アミノ基含有シランカップリング剤および硬化触媒からなる塗布液が開示されている。
【0019】
しかし、アルコキシ基含有液状シリコーンレジンは、R1nSi(OR2)4-n(R1は1価炭化水素残基、R2は炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜2の整数)で示されるアルコキシシランもしくはその部分加水分解物またはそれらの混合物を金属化合物触媒の存在下、かつ、酸性条件下で加水分解し、発生するアルコールを除去して得られるが、その粘度が280mPa・sないし820mPa・sと高粘度であり、このままでは塗布することができない。ステンレス箔に無溶剤の塗布液を塗布して高平滑な表面を得るためには、塗布した直後の液面が水平になることが必要であり、少なくとも30mPa・s以下の液体として十分低い粘度が必要であるからである。
【0020】
特許文献4では、無溶媒の例として、高密着性、柔軟性、遮熱断熱性、耐候性、耐汚染性に優れた材料として、(A)ヒドロキシル基または加水分解性基を含有する特定の硬化性ポリオルガノシロキサン、(B)特定のフェニル基含有シラン、(C)特定のアルコキシシランの部分加水分解物、(D)顔料、(E)触媒を含有してなる塗布液が開示されている。実施例によると、(A)および(C)はオルガノクロロシラン由来の塩酸或いは酢酸による酸触媒下ですべて加水分解されており、その後、溶媒・揮発成分を留去して10〜8000mPa・sの液状ポリオルガノシロキサンを得ている。
【0021】
特許文献5には、初期乾燥性、耐熱水性、耐候性、耐クラック性などに優れた塗膜を形成することができる塗布液として、(I)R1nSi(OR2)4-n (R1は炭素数1〜8の有機基であり、R2は炭素数1〜5のアルキル基であり、nは1または2である)で示されるオルガノシランの液状部分加水分解縮合物、(II)アミノ基とケイ素原子に直接結合している加水分解性基とを有する有機ケイ素化合物、(III)R1nSi(OR2)4-nで示されるオルガノシラン化合物で構成される塗布液が開示されている。特許文献5の(I)成分は重量平均分子量300〜5000、粘度1〜100mPa・sが適当であり、オルガノアルコキシシランを酸触媒下で加水分解・縮合反応をさせ、アルコール成分を加熱および/または減圧により除去することで作製している。すなわち、特許文献4および5では、無溶媒であり、かつ、低粘度の塗布液が得られる。
【0022】
しかし、特許文献4ないし5に記載された塗布液を金属箔上に塗布した場合、図2に示すようなハジキ状の皮膜欠陥(以下、「ハジキ欠陥」という。)が発生する。これは、ガラス並みの平滑性が求められる電子部品用の基板では看過できない問題である。
【0023】
本発明者らは、無溶媒の有機・無機ハイブリッド材料による無溶媒塗布液であって、上記のハジキ欠陥を発生させない皮膜を構築すべく、フェニルトリアルコキシシランに着目してこの皮膜を基材の上に構築することを検討した。しかし、フェニルトリアルコキシシランにより皮膜を構成する塗布液を作りだすには、フェニルトリアルコキシシランの分子を複数結合した物質とするべきであるが、いくつ結合させたらよいか、また、他に何を混ぜるのが適切かについては解明がされていない。
【0024】
本発明は、フェニルトリアルコキシシランを主成分として、平滑性と耐熱性とを併せもつ皮膜を基材の上に形成しうる塗布液及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは有機・無機ハイブリッド膜を形成するための塗布液を調合するにあたり、フェニルトリアルコキシシランに着目し、その部分加水分解・縮合反応物であって、耐熱性と平滑性を有するものを、鋭意、研究開発し、本発明を完成した。こうして、本発明は、下記を提供する。
【0026】
(1)フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物であって、その分子量分布のピークが200〜350の範囲と750〜1500の範囲に各々あり、分子量200〜350の範囲のピーク値と分子量750〜1500の範囲のピーク値との比(以下、「分子量ピーク値比という。」)が0.5〜4.0の範囲内であり、その粘度が3〜30mPa・sであることを特徴とする皮膜形成用無溶媒塗布液。
【0027】
(2)Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、前記フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物に含まれるシリコン(Si)1モルに対して0.0002モル〜0.01モルの量でさらに含む、(1)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【0028】
(3)前記分子量ピーク値比が0.8〜3.5の範囲内である、(1)又は(2)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【0029】
(4)前記分子量ピーク値比が1.0〜3.0の範囲内である、(1)又は(2)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【0030】
(5)粘度が6〜18mPaである、(1)〜(4)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【0031】
(6)フェニルトリアルコキシシランが、炭素原子数が1〜6個のフェニルトリアルコキシシラン又はその混合物である、(1)〜(5)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【0032】
(7)溶媒中でフェニルアルコキシシランに、
Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、前記フェニルトリアルコキシシランに含まれるシリコン(Si)1モルに対して0.0002モル〜0.01モルと、
前記フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して0.5モル以上2モル以下の水を加えて撹拌し、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物を生成し、ここで、部分加水分解・縮合反応物の分子量分布のピークが200〜350の範囲と750〜1500の範囲に各々あり、分子量200〜350の範囲のピーク値と分子量750〜1500の範囲のピーク値との比が0.5〜4.0の範囲内である部分加水分解・縮合反応物を生成し、
前記溶媒及び前記反応の副生成物としてのアルコキシドに基づくアルコールを除去することを特徴とする皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【0033】
(8)前記溶媒及び前記反応の副生成物としてのアルコキシドに基づくアルコールを除去するとき、水も除去する、(7)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【0034】
(9)前記金属を金属アルコキシドとして添加する、(7)又は(8)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
(10)溶媒中でフェニルアルコキシシランに、前記金属アルコキシド及び水とともに、前記金属アルコキシド1モルに対しての1.8〜2.2モルのアセト酢酸エチル、β-ジケトンまたはβ-ケトエステル又は金属カルボン酸塩をさらに加える、(9)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【0035】
(11)前記溶媒が、前記フェニルアルコキシシランより沸点が低いアルコールである(7)〜(10)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【0036】
(12)前記溶媒及び前記反応の副生成物としてのアルコキシド基づくアルコールを、85℃以上95℃以下の温度で加熱減圧留去する、(7)〜(11)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【0037】
(13) 反応進行中のフェニルアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物のアルコキシ基の量Bをモニターして、反応前の当該アルコキシ基の量Aに対して、(A−B)/Aの値が0.55以上0.85以下のときに、部分加水分解・縮合反応から、溶媒及び水を除去する工程に移行する、(7)〜(12)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【0038】
(14)(1)〜(6)に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液を基材に塗布して、150℃〜250℃で1〜60分乾燥させ、350℃〜600℃の温度で5〜60分熱処理して0.6μm〜5.0μmの膜厚を有する皮膜を形成することを特徴とする皮膜の製造方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液は、これを金属箔・薄いガラス板・有機樹脂などの表面に凹凸を有する基材に塗布して皮膜を形成することで、基材表面の凹凸を平滑化し、かつ、200℃〜350℃の雰囲気においても耐えることができるという顕著な効果を奏する。そのため、有機EL・TFTなどのデバイスに用いることができる。
【0040】
本発明の皮膜形成用塗布液を用いて得られる皮膜は、基材表面の凹凸を平滑化し、かつ、200℃〜350℃の雰囲気においても耐えることができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】皮膜形成用無溶媒塗布液をステンレス箔に塗布して製造した皮膜付きステンレス箔の断面図である。
【図2】ステンレス箔上に塗布した無溶剤シリカ系塗布液によるハジキ欠陥の例を示す顕微鏡写真である。
【図3】本発明による皮膜形成用無溶媒塗布液のGPCクロマトグラムの例である。分子量が275と1489にピークを有している。
【図4】フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合生成物の構造の例を示している。(a)には低分子量(200−350)の場合の例を、(b)には高分子量(750−1500)の場合の例を記載している。
【図5】本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造プロセスのフローチャートである。
【図6】本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液におけるフェニルトリエトキシシランの部分加水分解・縮合生成物の合成過程のFT-IRスペクトルの例を示す。
【図7】加水分解物のイメージを示し、(a)低分子量の分子、(b)高分子量の分子である。
【図8】本願発明の塗布液を塗布して空気に触れた後に生じた塗布膜のイメージを示すものであり、高分子量のもの及び低分子量のものに含まれるフェニルトリエトキシシラン分子が無数結合して皮膜を構成している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明者らは、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物を構成し、
1)分子量計測したところ分子量200〜350にピークが現れる部分加水分解・縮合反応物(以下、「P200−350反応物」という。)と分子量750〜1500にピークが現れる部分加水分解・縮合反応物(以下、「P750−1500反応物」という。)が含まれており、
2)分子量200〜350にピークを有する分子量のピーク値を分子量750〜1500にピークを有する分子量のピーク値で除した値(以下、「分子量ピーク値比」という。)が0.5〜4.0の範囲内であり、
3)P200−350反応物とP750−1500反応物を含むフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の粘度が3〜30mPa・sである皮膜形成用無溶媒塗布液は、
4)皮膜形成後は基材表面の凹凸を平滑にすることができ(平滑性)、300℃以上の雰囲気中においてもクラックを生じない(耐熱性)皮膜を形成できることを見出したのである。
この皮膜形成用無溶媒塗布液は、好ましい態様において、Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物に含まれる1モルのSiに対して0.0002モル〜0.01モルの量でさらに含有する。
【0043】
本発明によって提供される皮膜形成用無溶媒塗布液は、図1に示すように、ステンレス箔などの基板1の表面に塗布し、加熱して表面が平坦な絶縁皮膜2を形成することを意図するものである。
(皮膜形成用無溶媒塗布液)
本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液は、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物であって、その分子量分布のピークが200〜350の範囲と750〜1500の範囲に各々あり、分子量200〜350の範囲のピーク値と分子量750〜1500の範囲のピーク値との比が0.5〜4.0であり、その粘度が3〜30mPa・sであることを特徴とする皮膜形成用無溶媒塗布液である。
【0044】
本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液は、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物である。
【0045】
フェニルトリアルコキシシランは、PhSi(OR)〔式中、Phはフェニル基、Rはアルキル基である。〕で表わされる化合物である。アルキル基としては、炭素原子数1〜6個のアルキル基が好ましく、メチル基及びエチル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。
【0046】
フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物は、フェニルトリアルコキシシラン2分子間では次のように反応する。
【0047】
2PhSi(OR)+HO→Ph(OR)Si−O−Si(OR)Ph+2ROH
さらに3分子になると次のように反応する。
【0048】
Ph(OR)Si−O−Si(OR)Ph+HO→Ph(OR)Si−O−Si(OR)Ph−O−Si(OR)Ph+2ROH
4分子以上になると、上記の化合物に対して、線状に延びることも、分岐することも可能である。
【0049】
さらに、このように加水分解・縮合して生成した反応物どうしが、加水分解・縮合して、三次元的に架橋した構造を生成することも可能である。
【0050】
例えば、フェニルトリエトキシシランの場合、そのモノマーの分子量は244であるが、2分子縮合反応物であるPh(OR)Si−O−Si(OR)Phの分子量は414であり、3分子縮合反応物では584である。
【0051】
図6に、フェニルトリアルコキシシランのP200〜350とP750〜1500の部分加水分解・縮合反応物の分子構造の例を示す。
【0052】
図3に、フェニルトリエトキシシランの部分加水分解・縮合反応物の分子量分布の測定例を示す。横軸は時間、縦軸は電位であり、これによれば分子量275と1489にピークがある。
【0053】
フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定したもの、より具体的には、日本ウォーターズ製Alliance HPLCシステムを使用し、示差屈折計を用いてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定したものであり、分子量はポリスチレン換算値である。
【0054】
このゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した分子量分布は、分子量が実際の分子量よりなだらかなスロープになるのでそのピーク値をもって分子量ピーク値とする。200〜350の範囲及び/又は750〜1500の範囲に複数のピークがある場合には、その範囲に1つのピークがあるものとみなし、その中で最大のピーク値をもってそのピーク値とする。
【0055】
本発明の膜形成用無溶媒塗布液は、その分子量分布において第1のピークが200〜350の範囲にある。分子量分布のピークが200〜350の範囲にあるフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物(以下、簡単のために「P200−350反応物」という。)は、フェニルトリアルコキシシランの0〜3個(1〜2個)が部分加水分解・縮合反応して生じたもの(P200−350反応物には未反応フェニルトリアルコキシシランを含む)は基本的にフェニルアルコキシシランのモノマー分子程度のものであり、いわゆる溶媒としての役割を果たす。ただし、P200−350反応物は、形成用無溶媒塗布液において溶媒としての役割を果たすが、膜形成膜原料であり、後の加熱工程において縮合反応して皮膜を形成する成分であるので、単なる溶媒(後述する)とは異なる。
【0056】
一方、分子量750〜1500にピーク値を有するフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物(以下、「P750−1500反応物」という。)は、フェニルトリアルコキシシランの4〜8個が部分加水分解・縮合反応して生じたもので、基本的にフェニルアルコキシシランのオリゴマー程度のものであり、P200−350反応物に溶質として溶け込んでいると考えられるものである。P750−1500反応物の分子量750〜1500の範囲のピーク値についても、P200−350反応物の場合と同様な方法で求める。
【0057】
形成用無溶媒塗布液において、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物に含まれるアルコキシ基の一部は、塗布直後の膜および乾燥膜にも残り、大気中の水分で加水分解されてアルコールを生成し、このアルコールが液滴として凝縮後、蒸発すると皮膜にハジキ欠陥を生じさせる原因になるおそれがある。すなわち、高分子量の縮合反応の周りは、加水分解されていないアルコキシ基で取り囲まれており、このアルコキシ基が大気中の水分と反応してアルコールを生成し、これが凝縮して液滴を生じ、この液滴が蒸発した結果、ハジキ欠陥が発生する。液滴の生じやすさは、縮合反応の大きさとアルコキシ基の残量によって決まると考えられる。したがって、750よりも低分子量側にピークが存在する場合には、アルコキシ基が多量に多く残っており、液滴ができやすく、結果としてハジキ欠陥が発生する可能性が高くなると考えられる。
【0058】
また、本発明者らは、分子量が1500よりも高分子側にピークが存在すると、縮合反応が進みすぎ、高粘度な塗布液となるとともに、皮膜中の気泡が抜けないことから、塗布液の塗布後に精製する皮膜が均一でなくなることを見出した。
【0059】
したがって、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の分子量分布に第2のピークが、750〜1500の範囲にあることが必要である。この第2のピーク値の範囲は、750〜1500の範囲にあるが、望ましくは850〜1400にあり、さらには950〜1300にあることが望ましい。
【0060】
本発明の形成用無溶媒塗布液において、分子量200〜350の範囲のピーク値と分子量750〜1500の範囲のピーク値との比は、0.5〜4.0である。
【0061】
分子量ピーク値比の下限は0.5である。フェニルトリアルコキシシランの加水分解されていないアルコキシ基がアルコール溶媒のように機能して塗布液の流動性とぬれ性を担保することで、基板に塗布した塗布液を乾燥させた場合であっても、アルコール等を溶媒とした場合に見られるように皮膜に応力がかかることで皮膜表面に凹凸ができるという現象を回避することを可能にする。分子量ピーク値比が0.5未満であると、ぬれ性・流動性が担保できなくなる。分子量ピーク値比の下限値は0.5であるが、望ましくは0.8であり、さらに望ましくは1.0である。
【0062】
分子量ピーク値比が0.5以上を満たすように、フェニルトリアルコキシシランを特定の条件下で部分加水分解・縮合させた後、有機溶媒を留去して得られる形成用無溶媒塗布液を、表面に凹凸を有する基材に塗布して皮膜を形成すると、図2に示されるようなハジキ欠陥が構成されることなく均一な皮膜を形成することができる。
【0063】
一方、分子量ピーク値の比が4.0超となると、塗布液が低粘度になり、膜が薄くなるとともに、ハジキ欠陥を生じやすくなるのである。分子量ピーク値の比の上限は、4.0であるが、より望ましくは3.5、さらに望ましくは3.0である。
【0064】
本発明の形成用無溶媒塗布液に含まれるフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物は、上記の分子量の範囲、すなわち、200〜350の範囲と、750〜1500の範囲に分子量分布のピークを有する。先に述べたように、これらの範囲に各々に2以上のピークがあるときは、その範囲にピークがあるとし、その最大のピーク値をもってその分子量範囲のピーク値とする。本発明の形成用無溶媒塗布液では、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の分子量分布において、200〜350の範囲と、750〜1500の範囲のほかにピークを有してもよいが、そのピーク値は、200〜350の範囲と750〜1500の範囲のいずれのピーク値よりも低いものでなければならない。
【0065】
本発明の形成用無溶媒塗布液は、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物であり、それ以外の皮膜形成成分を含まないことは望ましい。しかし、その他のシランなど、他の皮膜形成成分を本発明の本質を損なわない範囲で含んでいてもよい。トリオルガノシランのみならず、ジオルガノシランなどが含まれていてもよい。に、オルガノアルコキシシランの例として、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。しかし、その含有量は30モル%以下であり、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下が望ましい。
【0066】
このようなオルガノアルコキシシランは、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物から溶媒を留去した後で加えるほか、原料としてのフェニルトリアルコキシシランに添加してもよい。原料として添加する場合も溶媒を留去した後で加える場合も、そのフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物は上記の分子量ピーク値の比を満たす必要がある。
本発明の形成用無溶媒塗布液は、好ましい態様において、Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物に含まれる1モルのSiに対して0.0002モル〜0.01モルを含有する。好ましくは、0.0005〜0.005モル、さらに好ましくは0.001〜0.003モルである。
【0067】
Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素は、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応の触媒として作用するものである。
【0068】
フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応の触媒としては、酸やアルカリも用いることができるが、酸やアルカリでは反応が激しくなりすぎて、得られる皮膜にムラを生じ、クラックの原因になったり、皮膜の表面が平滑でなくなるおそれがあるので、本発明では上記の金属元素を用いる。Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素が好ましい。しかし、本発明の形成用無溶媒塗布液においても、本発明を損なわない範囲で、酸やアルカリを添加することが排除されるものではない。
【0069】
Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素の量がフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の1モルのSiに対して0.0002モルより少ない場合は、加水分解・脱水縮合反応が進まないので、フェニルトリアルコキシシランが乾燥・熱処理工程中にそのまま揮発してしまい極めて薄い膜しか得られなかったり、乾燥中に塗布液が表面張力で液滴を作って均一に膜ができなかったりすることがある。
【0070】
一方、Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素の量がフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の1モルのSiに対して0.01モルよりもこれらの金属元素が多い場合は、加水分解中にゾルが白濁しやすくなる。白濁しやすくなる理由はこれらの金属元素を導入する時に用いる金属アルコキシド、アセチルアセトナート、カルボン酸塩などはフェニルトリエトキシシランよりも反応性が高く、加水分解時に水酸化物と酸化物の混じったクラスターを作るためである。
【0071】
なお、Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を加えるにあたっては、有機金属化合物、たとえば、金属アルコキシド(オロガノアルコキシドを含む)の形で加えることができる。その際、加える金属アルコキシドなどの金属化合物1モルに対して1.8〜2.2モルのアセト酢酸エチル、β―ジケトンまたはβ―ケトエステル、カルボン酸塩、ジヒドロキシ化合物、アミン化合物などの安定性向上剤を加えることが望ましい。白濁を防止するためである。1.8倍以下だと白濁防止の効果がなく、2.2倍以上だと部分加水分解・縮合反応が適切に行われない場合が生じる。
【0072】
本発明の形成用無溶媒塗布液は、好ましい態様において、Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、上記の量で含有する。これらの金属元素は、本発明の形成用無溶媒塗布液を製造する際にフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応の触媒として作用するものである。しかし、このような金属元素を、また上記の量で、用いることなく製造したフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物であっても、例えば、その分子量分布のピークが200〜350の範囲にあるものと、ピークが750〜1500の範囲にあるものを、それらの分子量ピーク値比が0.5〜4.0の範囲内であるように混合し、その粘度が3〜30mPa・sであれば、本発明の形成用無溶媒塗布液として使用できるものである。
【0073】
本発明の形成用無溶媒塗布液は、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の粘度が3〜30mPa・s、望ましくは6〜18mPa・sである。
【0074】
本発明の形成用無溶媒塗布液のように、溶媒レスの塗布液の場合、加水分解された分子の衝突確率が上がるため縮合反応が進み、高分子量化して粘度が高くなりやすいが、P200−350反応物の存在により本願発明の部分加水分解・縮合反応物は低粘度を保つことができる。また、粘度はフェニルトリエトキシシランの部分化水分解および縮合反応の進行度によって異なり、部分加水分解および縮合反応が進むにつれて粘度が高くなる傾向がある。
【0075】
フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の粘度が3mPa・sより低い場合は、原料であるフェニルトリアルコキシシランの加水分解がほとんど進んでないため、乾燥・熱処理の工程でフェニルトリアルコキシシランがそのまま揮発してしまうため極めて薄い膜しか得られず、絶縁膜および平滑膜として機能しにくくなる。粘度が30mPa・sを超える場合はスリットコータ、ディップコータ、スピンコータなどによる塗布時に吐出ムラ・液の広がりムラなどが出やすく均一な膜厚を得ることが難しくなる傾向がある。
【0076】
本発明の形成用無溶媒塗布液は、無溶媒の塗布液である。本発明の形成用無溶媒塗布液は、溶媒中でフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物を所定の条件で行ったのち、溶媒を選択的に除去することで、無溶媒の塗布液にすることができる。例えば、溶媒の融点がフェニルトリアルコキシシランの融点より低ければ、加熱して溶媒を選択的に除去することができる。
【0077】
本発明の形成用無溶媒塗布液において、溶媒は本質的に全く含まれないように完全に除去することが可能である。溶媒の含有量は、例えば、0.1質量%未満、さらには0.01質量%未満、0.001質量%未満にすることが可能である。溶媒は少ないこと、特に全く含まないことが望ましい。しかし、溶媒の存在が皮膜外観および性能を損なうことがない範囲であれば、少量の溶媒を含んでもよい。例えば、5質量%以下、さらには2質量%以下、特に1質量%以下を含むことが許容される場合はあり得る。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチエルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン類などが挙げられる。
【0078】
本発明の形成用無溶媒塗布液によれば、皮膜形成後は基材表面の凹凸を平滑にすることができ(平滑性)、300℃以上の雰囲気中においてもクラックを生じない(耐熱性)皮膜を形成できる。
【0079】
本発明の塗布液は無溶媒であるから、溶媒の揮発により塗布膜に凹凸を生じることがない。これは、低分子量(P200−350)のフェニルアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物、すなわち、フェニルアルコキシシラン分子を0〜3個程度が結合したものが溶媒の役割を果たし、高分子量(P750−1500)のフェニルアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物すなわち、フェニルアルコキシシラン分子を6〜7個程度が結合したものが溶質の役割を果たし、塗布後に大気に触れることで、低分子量(P200−350)のフェニルアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物のフェニルアルコキシシランが結合して高分子量(P750−1500)のフェニルアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物に変化するから、溶媒を用いた塗布液のように溶質が蒸発することで凹部が生じることがないのである。主成分がフェニルトリエトキシシランであることから400℃以上の雰囲気中における熱分解による減少量が5質量%以下である。
(皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法)
次に、本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法について説明する。
【0080】
本発明の皮膜形成用塗布液は、フェニルトリエトキシシランを部分加水分解・縮合反応して製造することができる。すなわち、
エタノールなどの溶媒中で、フェニルトリアルコキシシランに、
Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、前記フェニルトリアルコキシランの部分加水分解・縮合反応物に含まれるシリコン(Si)1モルに対して0.0002モル〜0.01モルと、
フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して0.5モル以上2モル以下の水を加えて撹拌し、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物を生成し、ここで、部分加水分解・縮合反応物の分子量分布のピークが200〜350の範囲と750〜1500の範囲に各々あり、分子量200〜350の範囲のピーク値と分子量750〜1500の範囲のピーク値との比が0.5〜4.0である部分加水分解・縮合反応物を生成し、
前記溶媒及び前記反応の副生成物としてのアルコールと水を加熱減圧留去して、皮膜形成用無溶媒塗布液を製造する。
【0081】
本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造において、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応を行う溶媒としては、有機溶媒、特にアルコール、例えば、エタノールが好ましく用いられる。本発明の製造方法で用いる溶媒は、反応後に溶媒を除去するために、フェニルトリアルコキシシランの融点より低い融点を有するものが好ましく用いられるが、フェニルトリアルコキシシランに含まれるアルコキシ基から生成するアルコールと同一のアルコールが特に好ましい。
【0082】
エタノールなどの溶媒中で、フェニルトリアルコキシシランに、Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、前記フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物に含まれるシリコン(Si)1モルに対して0.0002モル〜0.01モル加える。
【0083】
金属元素はフェニルトリアルコキシシランの加水分解・脱水縮合反応を進める触媒の役割を果たす。
【0084】
この金属元素は、金属アルコキシドなどの化合物の形で有機溶剤中に添加することができる。
金属アルコキシドを用いるときは、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルなどで化学改質してから使用することが望ましい。この金属アルコキシド1モルに対し1.8〜2.2モル倍程度のアセト酢酸エチル、β―ジケトンまたはβ―ケトエステルなどの安定性向上剤を加えることが望ましい。これは、白濁を防止するためである。1.8倍以下だと白濁防止の効果がなく、2.2倍以上だと部分加水分解・縮合反応が適切に行われない場合が生じる。
【0085】
次に、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して0.5モル以上2モル以下の水を加える。水の量が0.5モルより少ないときは加水分解反応が十分に進まず極めて薄い皮膜しか得られないことがある。水が2モルを超える場合は、加水分解時に液が白濁する場合がある。好ましい水の量は、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して0.8〜1.5モルである。
【0086】
上記の成分の混合物を撹拌することで、均一に加水分解・脱水縮合反応を行うことができる。
【0087】
例えば、フェニルトリアルコキシシランと触媒を有機溶媒中で混合しているところに、水を加えると徐々に加水分解が進行する。水をすべて添加し終わった後も、少しずつ加水分解が進んでいく。酸・アルカリ触媒を使用した場合は、加水分解が早く進行するが(塩酸触媒などを使うと、一瞬にして図6(b)の状態を通り越して加水分解が進んでしまう。)、金属アルコキシド(例えば、Tiエトキシド)触媒を使用すると、加水分解の進行が緩慢となる。
【0088】
そこで、加水分解の進行度を赤外線吸収(FTIR)スペクトルでモニターし、図6(b)まで進んだとき(961と881の値がほとんど等しくなった場合)に、有機溶媒(最初にフェニルトリアルコキシシランと触媒を混ぜるときに使用した有機溶媒と副生成物のアルコールの両方)の減圧留去を開始する。
【0089】
加水分解後、有機溶媒を留去するときは、任意の温度(例えば85℃以上95℃以下の温度は好ましい)において、有機溶媒が出なくなるまで減圧留去することが望ましい。例えば、エタノールは、90℃に加熱して減圧留去すると、ほとんどすべて除去できる。この温度が低すぎる場合は、有機溶媒の種類によるが、有機溶媒が残存し、成膜時にピンホールなどの欠陥を引き起こすことがある。この温度が高すぎる場合は、縮合反応がランダムに進みゲル状の縮合反応物となり皮膜が形成できなくなることがある。
【0090】
また、有機溶媒と同時に又は別途水を除去する。水が残っていると加水分解反応が進行するので、水は本質的に除去することが望ましい。しかし、水が残っていても、反応しても得られる加水分解・縮合反応生成物の分子量ピーク値比が、本発明が規定する所定の範囲内であればよい。
【0091】
有機溶媒を加熱あるいは減圧留去すると、水も同時に除去される。
【0092】
有機溶媒と水を除去すると、部分加水分解されたフェニルトリアルコキシシランのみが残る。有機溶媒の留去温度が適当(フェニルトリエトキシシランとエタノールでは85〜95℃)である場合、加水分解されずに残っていたアルコキシ基(上記の場合エトキシ基)は、留去後も殆どそのまま残ることを見出した。したがって、図6のような方法でモニターすれば最終的に塗布液に残るアルコキシ基の量を制御することができる。
【0093】
十分に加水分解が進んでいる系で溶媒を除去すると、固形のレジンが残り膜を形成することが難しい。加水分解が極めて不十分な状態で溶媒を除去すると、大量のアルコキシ基が残り、大気中の水分と反応してアルコールの液滴を生じ、ハジキ状の皮膜欠陥ができる。従って、図6(b)に示すような加水分解の進行度の段階で、溶媒の除去を行うことが重要である。そのためには加水分解が緩慢になる触媒を使用することと、進行度をFTIRでモニターすることが望ましい。
【0094】
本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液は、P200−350反応物とP750−1500反応物を含むフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の粘度が3〜30mPa・sとし、さらに望ましくは6〜18mPa・sとする。なお、フェニルトリエトキシシランそのものの粘度は、室温で2.0〜2.5mPa・sである。
【0095】
図面を参照して、本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造プロセスの例を説明する。図5は、フェニルトリエトキシシランを用いる製造プロセスのフローチャートの例である。
【0096】
最初に、フェニルトリエトキシシラン、テトラエトキシチタン、アセト酢酸エチル及びエタノールを混合させた後に、水を加えて撹拌させ、しかる後にアルコールや水分を留去して無溶媒塗布液を製造するプロセスを図示している。
【0097】
フェニルトリエトキシシラン、テトラエトキシチタン、アセト酢酸エチル及びエタノールを混合させた直後の溶液を、FTIRの(a)溶液として解析した結果の例を、図6の(a)に示す。図6(a)では、フェニルトリエトキシシランのエトキシ基の存在を示す961cm-1のピークが大きく現れている。溶媒として使用しているエタノールに帰属される881cm-1のピークはわずかに小さく見えている。
【0098】
次いで、フェニルトリエトキシシラン、テトラエトキシチタン、アセト酢酸エチル及びエタノールを混合させ、さらに、水を加えた直後の溶液を、FTIRの(b)溶液として解析した結果の例を、図6の(b)に示す。図6(b)では、加水分解反応の進行につれて、961cm-1のエトキシ基が減少し、副生成物としてエタノールが生成するため881cm-1のピークが大きくなる。加水分解反応の進行度は、水の量・攪拌時間・触媒のテトラエトキシチタン量・温度などに依存する。完全に加水分解が進めば、961cm-1のピークは消失して881cm-1のピークがさらに大きくなる。
【0099】
従って、図6の(a)と(b)のスペクトルにおける961cm-1のピーク高さをそれぞれA、Bとすると、(A−B)/Aが加水分解進行度を大雑把に表すことになる。この値が0.55以上0.85以下のときに濃縮工程に進むことによって、低分子量(200-350)と高分子量(750-1500)のバランスのとれた無溶剤塗布液を作製することができる。原料の種類や組成及び製造条件に依存するが、(A−B)/Aはより好ましくは0.6〜0.8の範囲内、さらに好ましくは0.65〜0.75の範囲内である。
【0100】
本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液は、上記の方法で好ましく製造できるが、所定の組成を有し、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の分子量ピーク値比が0.5〜4.0の範囲内にあればよいので、異なる方法で製造したフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物どうし、あるいは或る方法で製造したフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物とフェニルトリアルコキシシランとを、混合して得られるものであってもよい。
【0101】
また、図3に本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液のGPCクロマトグラフの例を示す。フェニルトリエトキシシランの部分加水分解・縮合反応物であって、分子量200から350の範囲のピークが275であり、分子量が750〜1500の範囲のピークが1489である。分子量275におけるピーク値は107mVであり、分子量1489におけるピーク値は35mVである。したがって、ピーク値比=107/35≒3.1であり、3.1は0.〜4.0の範囲に属する。フェニルトリエトキシシランの部分加水分解・縮合反応物に含まれるシリコン(Si)1モルに対してTiを0.0005モル加えている。フェニルトリエトキシシランの部分加水分解・縮合反応物の粘度が3〜30mPa・sとしている。
【0102】
このような本発明の皮膜形成用無溶媒塗布液の場合には、耐熱性と平滑性を満足する皮膜を基材上に構成できる。
【0103】
(皮膜の製造方法)
本発明によれば、上記の皮膜形成用無溶媒塗布液を、基材に塗布して、150℃〜250℃で1〜60分乾燥させ、350℃〜600℃の温度で5〜60分熱処理して形成させる0.6μm〜5.0μmの膜厚を有する皮膜の製造方法である。
【0104】
この皮膜の形成方法は、本発明による新規な皮膜形成用無溶媒塗布液を用いる以外、基本的に、従来と同様であることができるが、下記に具体的な態様を例示する。
【0105】
本発明のフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物は、スピンコータ、ディップコータ、バーコータ、スリットコータなどにより基材に塗布することができる。
【0106】
塗布後、150〜250℃で1〜60分乾燥させ、窒素・ドライエア・アルゴン・大気などの雰囲気下で350〜600℃で5〜60分熱処理を施すことにより焼付ができる。
【0107】
本発明のフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物を塗布する基板としては、アルミ、ステンレス、銅、鋼などの金属薄板および金属箔、ガラス、ポリイミド・PEN・PESなどの樹脂基板などが挙げられる。
【0108】
P750−1500反応物及びP200−350反応物は、モノマーユニットを○で表わすと、図7に模式的に示すような分子構造である。P200−350反応物は、低分子量であり、(a)に示すように0〜3個(1〜2個)程度のフェニルトリエトキシシラン分子が結合したものであり、溶媒の役割を果たす。P750−1500反応物は、高分子量であり、(b)に示すように4〜8個程度のフェニルトリエトキシシラン分子が結合したものであり、溶質の役割を果たす。
【0109】
このようなP750−1500反応物及びP200−350反応物は、塗布・乾燥後、熱処理によって縮合反応が進んで、フェ二ル基で修飾されたシロキサン骨格を形成する。P750−1500反応物及びP200−350反応物は、空気に触れると、図8に示すような無数のフェニルトリアルコキシシランの結合体に変化し、溶媒を有する塗布液を乾燥させた後に見られる表面上の凹凸をつけることなく皮膜が形成される。
【0110】
本発明のフェニルトリエトキシシランの部分加水分解・縮合反応物によって得られたシリカ系皮膜の膜厚は0.6〜5μmであることが望ましく、さらに望ましくは0.8〜3.0μmである。膜厚が0.6μmより薄い場合は、十分な凹凸埋め込みができないことがある。膜厚が5μmを超えると膜にクラックが入ることがある。
【実施例】
【0111】
以下の実施例及び比較例では、塗布液の分子量分布、粘度、皮膜の膜厚、平滑性、耐熱性などの評価を下記の方法で行った。
(分子量分布)
フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の分子量分布は、日本ウォーターズ製Alliance HPLCシステムを使用し、示差屈折計を用いてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した。分子量はポリスチレン換算値である。
(粘度)
塗布液の粘度は、振動式粘度計(CBC株式会社製VISCOMATE VM−10A型振動式粘度計)を用い、25℃の条件で測定した。
(膜厚)
皮膜のSEM断面顕微鏡写真から平均膜厚を測定した。
(膜欠陥)
皮膜表面を目視して、図2に示すようなハジキ欠陥の有無を調べ、ハジキ欠陥がある場合は×、ハジキ欠陥が無い場合は○とした。
(平滑性)
皮膜表面の凹凸を視野15μm各四方でAFM(Atomic Force Microscope)を用いて測定し、平均粗さRaが5nm超の場合は×とし、5nm以下の場合は○と判断した。平均粗さRaは、JIS R1683に準拠した。
(耐熱性)
窒素中で熱重量分析を行い、400℃における重量減少量が5%未満を○とし、5%以上を×とした。
(総合評価)
膜厚が0.6μm以上であり、皮膜の色が透明であり、皮膜に欠陥が無く、平滑性が○であり、かつ、耐熱性が○である場合に○とした。
【0112】
実施例1
1000ccのナス型フラスコにエタノール138.2gを入れ、アセト酢酸エチル0.781gとチタニウムエトキシドを0.342g加え15分攪拌した。フェニルトリエトキシシランを360.6g加えてさらに15分攪拌した。エタノール69.1gと水35.1gを別の容器で混ぜ合わせておき、1000ccのナス型フラスコに1時間かけて滴下した。90℃窒素雰囲気中で還流し、1時間後から適宜FTIRスペクトルで加水分解進行度をモニターした。加水分解進行度が図6(b)の状態になったら、ロータリーエバポレータを用いてオイルバスを50℃にセットしてエタノールの減圧留去を始めた。エタノールの流出量が減ってきたら徐々にオイルバスの温度を上げて90℃にした。90℃でエタノールが出なくなってから10分待って溶媒の留去を終了した。得られた濃縮物を塗布液として使用した。
【0113】
得られた塗布液をステンレス箔(厚さ100μm、表面粗さRa14nm)に塗布し、140℃で45分間乾燥した後、400℃で45分間の熱処理をした。
【0114】
塗布液の分子量分布、粘度、及び皮膜の評価の結果を表1に示す。
【0115】
実施例2〜10
用いる成分の量及び皮膜の形成条件を表1に示すように変更した以外、実施例1と同様の手順で、塗布液及び皮膜を作成した。
【0116】
塗布液の分子量分布、粘度、及び皮膜の評価結果を表1に示す。
【0117】
比較例1〜4
用いる成分の量及び皮膜の形成条件を表1に示すように変更し、加水分解進行度を必ずしもモニターして図6(b)の状態にすることをしなかった以外、実施例1と同様の手順で、塗布液及び皮膜を作成した。
【0118】
塗布液の分子量分布、粘度、及び皮膜の評価結果を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
実施例1〜10は、本発明の方法により皮膜形成用無溶媒塗布液を製造し、本発明の方法により基材表面に皮膜を形成したもので、良好な皮膜が得られている。
【0121】
比較例1〜4は、本発明の方法によらずに製造する皮膜形成用塗布液を製造し、基材表面に皮膜を形成したものである。本発明と同様の方法を用いて皮膜を形成しても、皮膜形成用無溶媒塗布液の水量が少ないと皮膜の厚さが0.5μmという極めて薄いものしか得られない(比較例1)か、水量が多いと皮膜が白濁した(比較例2)。エタノールの減圧留去温度が98℃の場合には皮膜は形成できず(比較例3)、減圧留去温度が82℃の場合には皮膜欠陥が入ってしまった(比較例4)。
【0122】
実施例11〜12
用いる成分の量及び皮膜の形成条件を表2に示すように変更した以外、実施例1と同様の手順で、塗布液及び皮膜を作成した。
【0123】
塗布液の分子量分布、粘度、及び皮膜の評価結果を表2に示す。
【0124】
比較例5〜8
用いる成分の量及び皮膜の形成条件を表3に示すように変更し、加水分解進行度をモニターして図6(b)の状態にすることをしなかった以外、実施例1と同様の手順で、塗布液及び皮膜を作成した。
【0125】
塗布液の分子量分布、粘度、及び皮膜の評価結果を表2に示す。
【0126】
実施例13〜14
用いる成分の量及び皮膜の形成条件を表4に示すように変更した以外、実施例1と同様の手順で、塗布液及び皮膜を作成した。
【0127】
塗布液の分子量分布、粘度、及び皮膜の評価結果を表2に示す。
【0128】
比較例9〜12
用いる成分の量及び皮膜の形成条件を表4に示すように変更し、加水分解進行度を必ずしもモニターして図6(b)の状態にすることをしなかった以外、実施例1と同様の手順で、塗布液分子量分布、及び皮膜を作成した。
【0129】
塗布液の粘度、及び皮膜の評価結果を表2に示す。
【0130】
【表2】

【0131】
実施例11〜14では、本願発明の方法により皮膜形成用塗布液を製造し、本願発明の方法により基材表面に皮膜を形成し、良好な皮膜が得られた。
【0132】
比較例5では、乾燥温度が低く、ハジキ状欠陥が発生した。
【0133】
比較例7では、乾燥時間が短く、ハジキ状欠陥が発生した。
【0134】
比較例6では、乾燥温度が高く、皮膜にクラックを生じ、皮膜の平滑性が損なわれた。
【0135】
比較例8では、乾燥時間が長く、皮膜にクラックを生じ、皮膜の平滑性が損なわれた。
【0136】
比較例9では、熱処理温度が低く、皮膜の耐熱性が損なわれた。
【0137】
比較例11では、熱処理時間が短く、皮膜の耐熱性が損なわれた。
【0138】
比較例10では、熱処理温度が高く、皮膜にクラック欠陥が生じ、平滑性が損なわれた。
【0139】
比較例12では、熱処温度が長く、皮膜にクラック欠陥が生じ、平滑性が損なわれた。
【0140】
実施例15
1000ccのナス型フラスコにエタノール138.2gを入れ、アセト酢酸エチル0.781gとチタニウムエトキシドを0.342g加え15分攪拌した。フェニルトリメトキシシランを290.1g加えてさらに15分攪拌した。エタノール69.1gと水35.1gを別の容器で混ぜ合わせておき、1000ccのナス型フラスコに1時間かけて滴下した。90℃窒素雰囲気中で還流し、1時間後から適宜FTIRスペクトルで加水分解進行度をモニターした。加水分解進行度が図6(b)の状態になったら、ロータリーエバポレータを用いてオイルバスを50℃にセットしてエタノールの減圧留去を始めた。エタノールの流出量が減ってきたら徐々にオイルバスの温度を上げて90℃にした。90℃でエタノールが出なくなってから10分待って溶媒の留去を終了した。
【0141】
得られた塗布液の分子量分布の測定において、200〜350の範囲に160mVのピーク値と、750〜1500の範囲に70mVのピーク値が見られた。分子量ピーク値比は2.3である。得られた塗布液の粘度は5.0mPa/sであった。
【0142】
得られた濃縮物を塗布液として使用した。得られた塗布液をステンレス箔(厚さ100μm、表面粗さRa14nm)に塗布し、140℃で45分間乾燥した後、400℃で45分間の熱処理をして、膜厚2.9μmの皮膜を得た。皮膜はハジキ欠陥がなく、平滑性、耐熱性、総合評価とも○であった。
【0143】
この実施例から、フェニルトリエトキシシランをフェニルトリメトキシシランに代えても、塗布液の粘度が少し低くなり、得られる皮膜の膜厚が小さくなったが、ほぼ同様の結果が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本願発明のフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物を用いることにより各種基板上に高耐熱性で基板の凹凸埋め込み性に優れた平滑化膜を得ることができる。本願発明の高耐熱性平滑化膜で被覆された金属薄板・金属箔・ガラス・樹脂などの基板は、薄型液晶ディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー・有機EL照明・太陽電池等の電子部材として用いることができる。
【符号の説明】
【0145】
1 基材
2 皮膜
3 ハジキ欠陥
4 フェニルトリアルコキシシラン1分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物であって、その分子量分布のピークが200〜350の範囲と750〜1500の範囲に各々あり、分子量200〜350の範囲のピーク値と分子量750〜1500の範囲のピーク値との比(以下、「分子量ピーク値比という。」)が0.5〜4.0の範囲内であり、その粘度が3〜30mPa・sであることを特徴とする皮膜形成用無溶媒塗布液。
【請求項2】
Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、前記フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物に含まれるシリコン(Si)1モルに対して0.0002モル〜0.01モルの量でさらに含む、請求項1に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【請求項3】
前記分子量ピーク値比が0.8〜3.5の範囲内である、請求項1又は2に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【請求項4】
前記分子量ピーク値比が1.0〜3.0の範囲内である、請求項1又は2に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【請求項5】
粘度が6〜18mPaである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【請求項6】
フェニルトリアルコキシシランが、炭素原子数が1〜6個のフェニルトリアルコキシシラン又はその混合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液。
【請求項7】
溶媒中でフェニルアルコキシシランに、
Al, Ti, Sn, Zn, Zr, Ta, Nbから選ばれる1種類以上の金属元素を、前記フェニルトリアルコキシシランに含まれるシリコン(Si)1モルに対して0.0002モル〜0.01モルと、
前記フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して0.5モル以上2モル以下の水を加えて得られる混合物を撹拌して、フェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物を生成し、ここで、部分加水分解・縮合反応物の分子量分布のピークが200〜350の範囲と750〜1500の範囲に各々あり、分子量200〜350の範囲のピーク値と分子量750〜1500の範囲のピーク値との比が0.5〜4.0の範囲内である部分加水分解・縮合反応物を生成し、
前記溶媒及び前記反応の副生成物としてのアルコキシドに基づくアルコールを除去することを特徴とする皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒及び前記反応の副生成物としてのアルコキシドに基づくアルコールを除去するとき、水も除去する、請求項7に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【請求項9】
前記金属を金属アルコキシドとして添加する、請求項7又は8に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【請求項10】
溶媒中でフェニルアルコキシシランに、前記金属アルコキシド及び水とともに、前記金属アルコキシド1モルに対しての1.8〜2.2モルのβ―ジケトンまたはβ―ケトエステル、アセト酢酸エチル又は金属カルボン酸塩をさらに加える、請求項7〜9のいずれか1項に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒が、前記フェニルアルコキシシランより沸点が低いアルコールである、請求項7〜10のいずれか1項に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒及び前記反応の副生成物としてのアルコキシドに基づくアルコールを、85℃以上95℃以下の温度で加熱減圧留去する、請求項7〜11のいずれか1項に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【請求項13】
反応進行中のフェニルアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物のアルコキシ基の量Bをモニターして、反応前の当該アルコキシ基の量Aに対して、(A−B)/Aの値が0.55以上0.85以下のときに、部分加水分解・縮合反応から、溶媒及び水を除去する工程に移行する、請求項7〜12のいずれか1項に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮膜形成用無溶媒塗布液を基材に塗布して、150℃〜250℃で1〜60分乾燥させ、350℃〜600℃の温度で5〜60分熱処理して0.6μm〜5.0μmの膜厚を有する皮膜を形成することを特徴とする皮膜の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140528(P2012−140528A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293916(P2010−293916)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】