説明

皮革に対する加飾加工法および加飾加工皮革

【課題】この発明は、天然皮革素材に対し、その表面に極めて優れた密着性、耐摩耗性を有する加飾層を形成してなる皮革に対する加飾加工法およびその加飾加工皮革を提供すること。
【解決手段】レーザー加工、ウォータージェット加工および/またはサンドブラスト加工により、天然皮革Lの表面を凹状に起毛処理してなる加飾部4を形成する加飾部形成工程と、前記加飾部形成工程によって形成された加飾部に対して、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段7により彩色処理してなる彩色処理工程とを含むものからなることを特徴とする皮革に対する加飾加工法であり、天然皮革Lの表面を凹状に起毛してなる加飾部4と、天然皮革の表面として残る非加飾部5とを備えてなり、加飾部4のみを、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段7により彩色処理してなることを特徴とする加飾加工皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、天然皮革素材に対し、その表面に極めて優れた密着性、耐摩耗性を有する加飾層を形成してなる皮革に対する加飾加工法およびその加飾加工皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、天然皮革素材に対し、その表面あるいは裏面に、例えば絵、模様、写真、文字、図形、記号、マークなどを施す試みは、古くから行われている。上記する天然皮革素材に対する伝統的な加飾技術としては、印伝という方法が知られている。
この印伝とは、天然の皮革をなめし、ある程度起毛した状態の後に、このなめした革の表面あるいは裏面に直に彩色を施し、漆などで模様、柄などを描出するという方法によって行われている。
さらに、印伝という方法では、模様などを切り抜いた型紙を用いて、皮革に対して、手作業により漆を塗布するという煩雑な作業により行われていた。
【0003】
従来、天然皮革の吟面(銀面)に漆や塗料あるいはインクなどで加飾を行う場合、皮革表面への喰らいつきが悪く、密着性、耐摩耗性が低く、加飾層が離脱してしまうという大きな問題点を有していた。
【0004】
上記する問題点を解消する目的において、従来、天然皮革に多様な模様、柄を描く手段として、特許文献1、2および3に開示されるような皮革に対する加飾方法が提供されてきている。
特許文献1に記載のものは、皮革の表面処理法に関するものであって、なめし加工された皮革の表面に、水性アクリルペイントを吹き付けて所望の図柄をカラー印刷する印刷工程と、この図柄が印刷された皮革の表面にクリア液を吹き付けてオーバーコートするオーバーコート工程とによるものである。それによって、図柄がカラー印刷されたファッション性の高い皮革製品を供するものである。
特許文献2に記載のものは、彩色加工した革製品に関するものであり、表皮1の表面に樹脂薄層を介して金箔3などの金属箔を貼着し、凹凸加工を施し、得られた凹凸模様上に、彩色を施し、且つ、該彩色上に樹脂上塗層を設けるという構成のものである。上記凹凸加工は、製品表面に立体感を持たせる目的で、型押し、エンボス、木槌によるものとされている。
特許文献2に記載のものは、装飾模様を有する皮革などの布帛製品とその製造方法に関するものであって、模様などが印刷された紙1と熱融着性フィルム2とからなる積層体Aを皮革などの布帛Lの表面に接着剤を介して接着一体化した構成のもので、それによって、高効率、高生産、低コストを達成しようとするものである。
【0005】
しかしながら、上記各特許文献に開示される各発明は、皮革表面に模様層や柄層を形成するにあたって、皮革表面に密着性をよくするために全面的な前処理を施し、この前処理層をバインダーとして、その上に印刷などの手段によって模様を描くという構成のものであり、皮革の表面に設けた模様、柄などの密着性並びに耐摩耗性に乏しく、さらには、皮革の持つ本来的な趣を欠如してしまうという大きな問題点を有するものであった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−63900号公報 (要約、図3)
【特許文献2】特開2003−190679号公報 (要約、図1)
【特許文献3】特開2003−200547号公報 (要約、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、天然皮革素材に対する加飾加工法にみられる上記する従来の技術的な問題点を解消しようとするものであって、特に、天然皮革素材の表面に対し、レーザー加工、ウォータージェット加工、サンドブラスト加工などによる加飾部を設け、この加飾部に対して、漆、塗料あるいはインクなどで彩色することによって、極めて優れた密着性、耐摩耗性を有する加飾層を形成してなる皮革に対する加飾加工法およびその加飾加工皮革を提供することにある。
【0008】
さらに、この発明では、天然皮革素材に対して、その表面に、レーザー加工、ウォータージェット加工、サンドブラスト加工などによる加飾部および表面素地のままの非加飾部を形成し、これらを併せ持つファッション性並びに意匠性が高く、風合いのよい加飾加工皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記する目的を達成するにあたって、請求項1に記載の発明は、レーザー加工、ウォータージェット加工および/またはサンドブラスト加工により、天然皮革の表面を凹状に起毛処理してなる加飾部を形成する加飾部形成工程と、
前記加飾部形成工程によって形成された加飾部に対して、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段により彩色処理してなる彩色処理工程とを含むものからなることを特徴とする皮革に対する加飾加工法を構成するものである。
【0010】
さらに、この発明において請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の皮革に対する加飾加工法であって、前記加飾部形成工程が、コンピュータなどで読み込んだデジタル画像データに基づいて駆動制御される第1の駆動制御手段を含み、
前記彩色処理工程が、前記デジタル画像データに基づいて駆動制御される第2の駆動制御手段を含むものからなることを特徴とするものである。
【0011】
さらにまた、この発明において、請求項3に記載の発明は、レーザー加工、ウォータージェット加工および/またはサンドブラスト加工により、天然皮革の表面を凹状に起毛してなる加飾部と、天然皮革の表面として残る非加飾部とを備えてなり、
前記加飾部のみを、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段により彩色処理してなることを特徴とする加飾加工皮革を構成するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明になる皮革に対する加飾加工法は、レーザー加工、ウォータージェット加工および/またはサンドブラスト加工により、天然皮革の表面を凹状に起毛処理してなる加飾部を形成する加飾部形成工程と、加飾部に対して、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段により彩色処理してなる彩色処理工程とを含むものであることから、極めて微細で精確な加工が可能であり、密着性並びに耐摩耗性のある加飾加工皮革を供するという作用効果を奏するものである。
【0013】
さらに、この発明になる皮革に対する加飾加工法は、加飾部形成工程が、コンピュータなどで読み込んだデジタル画像データに基づいて駆動制御される第1の駆動制御手段を含み、彩色処理工程が、デジタル画像データに基づいて駆動制御される第2の駆動制御手段を含むもであることから、所望の絵、模様、写真、文字、図形、記号、マークなど、ほとんど全ての画像を問題なく精確に再現形成することができる。さらに、第1および第2の駆動制御手段を連動させることにより、加飾部に対する精確な彩色処理が極めて容易に行えるという作用効果を奏するものである。さらに、コンピュータによるデジタル画像データにの適用により、コストダウン、量産化が可能であり、その点においても有効に作用する。
【0014】
さらに、この発明になる加飾加工皮革は、レーザー加工、ウォータージェット加工および/またはサンドブラスト加工により、天然皮革の表面を凹状に起毛してなる加飾部と、天然皮革の表面として残る非加飾部とを備えてなり、加飾部のみを、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段により彩色処理したものであることから、希望する紋様、柄などを精確に形成できると共に、彩色により加飾する加飾部と、天然皮革の素地面そのままの非加飾部との双方を併せ持つという点において、ファッション性並びに意匠性が高く、立体感があり、且つ、風合いのよい加飾加工皮革を供するという作用効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明になる皮革に対する加飾加工法およびその加飾加工皮革について、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明になる皮革に対する加飾加工法について、その加飾加工手順を順に示すものであり、図1Aは、皮革を断面にした状態で示す概略的な側断面図、図1Bは、この皮革の表面に、レーザー加工、ウォータージェット加工あるいはサンドブラスト加工を施し、加飾部を形成した状態を示す概略的な斜視図、図1Cは、この加飾部に、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段により彩色処理した状態を示す概略的な側断面図である。
【0016】
まず、この発明に適用される皮革Lは、各図に示すように、皮革の吟面(あるいは銀面ともいう)1、中間層2、皮革とこ面3によって構成されている。この発明において、当該皮革素材Lは、特に限定されるものではなく、牛皮、馬皮、豚皮、山羊皮、羊皮あるいはその他これらに類する天然皮革のいずれであってもよい。
【0017】
この発明になる皮革Lに対する加飾加工法は、加飾部形成工程と、彩色処理工程とを含むものからなっている。
まず、前記加飾部形成工程では、上記皮革Lに対して、その表面に、レーザー加工、ウォータージェット加工あるいはサンドブラスト加工などにより、該皮革Lの表面を凹状に起毛処理して、凹状起毛面6を形成する。この加飾部形成工程により、凹状に起毛処理された加飾部4は、後述する彩色処理工程における漆などの彩色手段を強固に喰らい付かせ、密着性、耐摩擦性を高めるのに機能する。
【0018】
この発明に適用されるレーザー加工は、ラスター工法などによって皮革Lの表面を凹状に彫り、絵、写真、文字、模様、柄などを形成するものであり、レーザー光がコンピュータによって変動するレーザー光制御機構を通じて、選択された画像情報を加工するためのものである。
【0019】
この発明に適用されるウォータージェット加工は、ノズルから噴射される高圧の水、または研磨材入りの水と、被加工物(皮革)との間に起こる衝突によって、被加工物表面に凹状の加飾部4を形成する加工法であり、当該ウォータージェット加工は、ほとんどの材料がフレキシブルに加工することができ、さらには、熱影響を受けないので、材料の形状変化や、素材変化がないという利点を有するものである。
【0020】
この発明に適用されるサンドブラスト加工は、研磨材を高圧に圧縮した空気により、被加工物の表面に吹き付けることによって、該被加工物を加工するものであり、コンピュータ処理した写真などのデジタル画像を直接的に被加工物に彫り込むことができ、精確な画像を加工処理することができる。
【0021】
この発明では、上記皮革Lの表面に、上記する加飾部形成工程によって凹状に起毛形成される加飾部4と、天然皮革の素地のまま残される非加飾部5とが形成されるようになっている。
【0022】
前記彩色処理工程は、上記する加飾部形成工程によって凹状に起毛形成される加飾部4に対し、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段7により彩色処理を施す工程である。この発明では、前記加飾部形成工程によって形成された加飾部4に対して彩色されるもので、非加飾部5に対して彩色処理を行わずに、皮革素材面のまま残しておけば、風合いを保った状態で、ファッション性並びに意匠性をも高めることができる。
【0023】
一方、この発明では、前記加飾部形成工程が、コンピュータなどで読み込んだデジタル画像データに基づいて駆動制御される第1の駆動制御手段8を含み、前記彩色処理工程が、前記デジタル画像データに基づいて駆動制御される第2の駆動制御手段9を含むものからなっている。
【0024】
この発明において適用されるデジタル画像データとしては、例えば、紙などのスキャナーで読み込んだデータ、絵画や写真などを直接スキャナーで読み込んだデータ、コンピュータ上で描いたコンピュータグラフィックデータ、デジタルカメラで撮影したデジタル写真データなどのいずれであってもよい。
【0025】
このようなデジタル画像データをコンピュータCで選択して、まず、その出力データにもとづいて、第1の駆動制御手段8を駆動する。この第1の駆動制御手段8は、例えば、レーザー加工の場合には、レーザー光制御機構により構成されていて、前記コンピュータCの出力信号にもとづいて、レーザー光を制御し、皮革表面にレーザー光を照射し、デジタル画像データに沿った画像を凹状に起毛加工する。
【0026】
しかる後、凹状に起毛加工された加飾部4に対して、彩色処理が施される。この彩色処理に関しても、コンピュータCなどで読み込んだ同一のデジタル画像データにもとづいて加工することができる。その場合、所望のデジタル画像データを、コンピュータCで選択して、その出力データにもとづいて、第2の駆動制御手段9を駆動する。この第2の駆動制御手段9は、例えば、インクジェットプリンタである場合、前記コンピュータCの出力信号にもとづいて、前記加飾部4に対してインクを吐出塗布することによって彩色処理がなされるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、この発明になる皮革に対する加飾加工法について、その加飾加工手順を順に示すものであり、図1Aは、皮革を断面にした状態で示す概略的な側断面図、図1Bは、この皮革の表面に、レーザー加工、ウォータージェット加工あるいはサンドブラスト加工を施し、加飾部を形成した状態を示す概略的な斜視図、図1Cは、この加飾部に、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段により彩色処理した状態を示す概略的な側断面図である。
【符号の説明】
【0028】
L 皮革
1 皮革の吟面(銀面)
2 中間層
3 皮革とこ面
4 加飾部
5 非加飾部
6 凹状起毛面
7 彩色手段
C コンピュータ
8 第1の駆動制御手段
9 第2の駆動制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー加工、ウォータージェット加工および/またはサンドブラスト加工により、天然皮革の表面を凹状に起毛処理してなる加飾部を形成する加飾部形成工程と、
前記加飾部形成工程によって形成された加飾部に対して、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段により彩色処理してなる彩色処理工程とを含むものからなることを特徴とする皮革に対する加飾加工法。
【請求項2】
前記加飾部形成工程が、コンピュータなどで読み込んだデジタル画像データに基づいて駆動制御される第1の駆動制御手段を含み、
前記彩色処理工程が、前記デジタル画像データに基づいて駆動制御される第2の駆動制御手段を含むものからなることを特徴とする請求項1に記載の皮革に対する加飾加工法。
【請求項3】
レーザー加工、ウォータージェット加工および/またはサンドブラスト加工により、天然皮革の表面を凹状に起毛してなる加飾部と、天然皮革の表面として残る非加飾部とを備えてなり、
前記加飾部のみを、漆、塗料あるいはインクなどの彩色手段により彩色処理してなることを特徴とする加飾加工皮革。

【図1】
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【公開番号】特開2010−84056(P2010−84056A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256192(P2008−256192)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(392025711)株式会社アウラ (4)
【Fターム(参考)】