説明

皮革様シート状物

【課題】
表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する皮革様シート状物であって、凹凸模様の明瞭性および耐久性に優れるとともに、風合いが柔軟で、しかも、実用的強度を有する皮革様シート状物、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
複数のパイルからなるパイル層と、地組織とからなるパイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂からなる表皮層を有し、かつ、表皮層の表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する皮革様シート状物であって、パイル層の最大厚さが0.01〜1.63mmであり、パイルの繊度が0.07〜3dtexであり、パイルの密度が1万6千〜460万本/(25.4mm)であり、表皮層の重量が10〜120g/mである皮革様シート状物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然皮革の外観を模倣したシート状物、およびその製造方法に関する。詳しくは、表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する皮革様シート状物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維質基材に樹脂層を積層した構造の皮革様シート状物は、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両内装材など様々な分野で用いられている。皮革様シート状物の外観をより一層天然皮革に近付けたり、装飾性を付与したりすることを目的に、皮革様シート状物の表面にはしばしば凹凸模様が形成されるが、その方法としてはエンボス加工が主流である。エンボス加工とは、所望の凹凸模様と反転する凹凸模様を有する、加熱された型(エンボス型という)をシート状物の表面に押し当て、凹凸模様を形成するものである。しかしながら、エンボス加工により形成された凹凸模様は、例えば、離型紙上の凹凸模様を樹脂層表面に転写することによって形成された凹凸模様に比べて、一般に、明瞭性や耐久性に劣るという問題があった。このような問題に対し、エンボス加工条件、樹脂、繊維質基材など多方面から、多くの提案がなされている。
【0003】
最も一般的な対処法は、エンボス加工を高温、高圧下で行うことであるが、皮革様シート状物の風合いが粗硬になるという点で好ましくない。
【0004】
このほか、エンボス加工条件や樹脂に着目するものとして、例えば、特許文献1には、繊維質基体層と仕上層との中間部を構成する表面層に、他の層の構成材料より低温で軟化成形あるいは溶融成形のできるポリウレタンを主体とする重合体を用いることによって、鮮明な賦型を行わせるとともに、柔軟な風合いで、摩擦や衝撃などにも強い皮革様シートを得ることが記載されている。具体的には、繊維質基体層の少なくとも一面に、軟化成形温度が130〜185℃であり、かつ該基体層を構成する主体繊維および主体重合体の軟化温度より少なくとも30℃低い軟化成形温度を有するポリウレタンを主体とする重合体で構成された表面層と、該表面層を構成する重合体より少なくとも30℃高い軟化成形温度を有する重合体で構成された仕上層とを積層し、得られるシートを、表面層を構成する重合体が軟化成形される温度であって、かつ仕上層を構成する重合体を流動変形させない温度でエンボス加工することを特徴とする、皮革様シートの製造法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、繊維質基材上に、二液型ポリウレタン系接着剤を介してポリウレタン表皮層を積層してなる合成皮革を得るに際し、二液型ポリウレタン系接着剤が硬化する前にエンボス加工を施すことによって、乾式法で得られる合成皮革でありながら、エンボス加工による深い凹凸模様が形成され、湿式法で得られる合成皮革と同様の風合い、触感を有するとともに、従来の乾式法で得られる合成皮革と同様に耐摩耗性などの諸物性にも優れた合成皮革を得ることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、表面層を構成する重合体の軟化成形温度が130〜185℃と低いため、例えば、車両用内装材などに適用されて過酷な環境におかれた場合、溶融により凹凸模様が変形するという問題があった。また、特許文献2に記載の技術では、二液型ポリウレタン系接着剤が硬化する前にエンボス加工を施すため、エンボス加工時の接着剤の硬化状態が一定でなく、均一な加工が困難である結果、凹凸模様の再現性が悪いという問題があった。
【0007】
一方、繊維質基材に着目するものとして、例えば、特許文献3には、極細繊維の毛羽が樹脂により固定され、かつ、エンボス加工により形成された銀面調外観を有する布帛を得るに際し、基材として、毛羽の繊度が0.5デニール以下、好ましくは0.3デニール以下であり、毛羽の長さが0.5〜5mmであり、毛羽の密度が約2万本/cm以上である起毛または植毛織編物を用いることによって、エンボス加工により良好な銀面を形成することができることが記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、両面に超音波を作用させて形成されるエンボスパターンを有する立毛シートを得るに際し、基材として、立毛の繊度が0.8デニール以下、好ましくは0.5デニール以下、より好ましくは0.2デニール以下であり、立毛の長さが0.01〜5mm、好ましくは0.1〜3mmであり、立毛の密度が好ましくは1万本/cm以上、より好ましくは5万本/cm以上である起毛布を用いること、および、基材に高分子弾性体を付与してもよいことが記載されている。
【0009】
さらに、特許文献5には、ポリエステル繊維編物からなる基材の両面が、単繊維繊度0.5デニール以下、繊維長1〜10mmのアクリル極細短繊維群によって覆われたシート状物の片面に、100%モジュラスが15〜90kg/cmのポリウレタンエラストマーからなる厚さ15〜50μmの皮膜層が形成され、かつ、シート状物中に占めるポリウレタンの重量比率が20%以下である皮革様シート状物が、柔軟性および賦型加工性に優れ、しかも、賦型模様の耐久性にも優れることが記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献3〜5に記載の皮革様シート状物は、凹凸模様の明瞭性および耐久性の点で今一つ満足できるものでなく、改良の余地があると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2622162号公報
【特許文献2】特許第3101572号公報
【特許文献3】特公昭62−35512号公報
【特許文献4】特公平3−25552号公報
【特許文献5】特開昭60−81377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する皮革様シート状物であって、凹凸模様の明瞭性および耐久性に優れるとともに、風合いが柔軟で、しかも、実用的強度を有する皮革様シート状物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は第1に、複数のパイルからなるパイル層と、地組織とからなるパイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂からなる表皮層を有し、かつ、表皮層の表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する皮革様シート状物であって、パイル層の最大厚さが0.01〜1.63mmであり、パイルの繊度が0.07〜3dtexであり、パイルの密度が1万6千〜460万本/(25.4mm)であり、表皮層の重量が10〜120g/mである皮革様シート状物である。
【0014】
本発明は第2に、
(1)複数のパイルからなるパイル層と、地組織とからなるパイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂液を塗布する工程、ここで、パイル層の厚さは0.1〜2.1mmであり、パイルの繊度は0.07〜3dtexであり、パイルの密度は1万6千〜460万本/(25.4mm)である、
(2)ポリウレタン樹脂液を固化させて表皮層を形成する工程、ここで、表皮層の重量は10〜120g/mである、
(3)エンボス加工を施して表皮層の表面に凹凸模様を形成する工程、
をこの順で含んでなる皮革様シート状物の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する皮革様シート状物であって、凹凸模様の明瞭性および耐久性に優れるとともに、風合いが柔軟で、しかも、実用的強度を有する皮革様シート状物、およびその製造方法を提供することができる。
本発明の皮革様シート状物は、インテリア資材、車両内装材として、特に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の皮革様シート状物は、複数のパイルからなるパイル層と、地組織とからなるパイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂からなる表皮層を有し、かつ、表皮層の表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する構成のものである。
その外観は、目的や具体的用途に応じて適宜選択・設定されるパイル布帛、ポリウレタン樹脂、表皮層、エンボス加工条件などによって異なるが、凡そ銀面調であるか、銀面調のなかにパイルによる毛羽が混在した外観のものである。
【0017】
本発明の皮革様シート状物は、パイル布帛のパイル層側の面にポリウレタン樹脂液を塗布する工程、ポリウレタン樹脂液を固化させて表皮層を形成する工程、エンボス加工を施して表皮層の表面に凹凸模様を形成する工程、を経ることにより製造することができる。
【0018】
はじめに、繊維質基材であるパイル布帛について説明する。
本発明においてパイル布帛とは、複数のパイルからなるパイル層と、地組織とからなる布帛をいい、パイル層を構成する複数のパイル(繊維1本1本を指す)は、地組織の表面に立毛状に伸び出るような状態で存在している。地組織の形態としては、例えば、編物、織物などの布帛である。また、パイル層は、編成または織成によって形成されたものであっても、起毛によって形成されたものであっても構わない。編成または織成によって形成されたものとしては、ダブルラッセル編物やモケット織物のパイル糸(パイルを発生し得る糸条(繊維束)を指す)をセンターカットしたもの、ポールトリコット編物やシンカーパイル編物のパイル糸をポールシンカーで形成したものなどを挙げることができ、起毛によって形成されたものとしては、浮きの長い編組織にて編成した編物または浮きの長い織組織にて織成した織物の浮きの長い組織部の糸条(パイル糸)を起毛したものなどを挙げることができる。なかでも、風合いの点から、トリコット編物を起毛して形成したものが好ましい。
【0019】
パイルの素材は、エンボス加工による賦型性(すなわち、形成された凹凸模様の明瞭性)および形成された凹凸模様の耐久性の点から、熱可塑性繊維が主体であることが好ましい。熱可塑性繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等の合成繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、物性の点から、合成繊維がより好ましく、ポリエステルがさらに好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。また、物性を損なわない範囲内で、熱可塑性繊維以外の繊維、例えば、天然繊維、再生繊維などの繊維を、混紡、混繊、交撚、交織、交編などの手法により組み合わせたものであってもよい。
【0020】
なお、前記の通り、パイルとは1本1本の繊維そのものである。したがって、本発明において「パイルの素材」という場合、「パイルを構成する繊維の素材」という意味に他ならず、他の項目について述べる場合も同様であるものとする。
【0021】
パイル層の厚さは、0.1〜2.1mmであることが求められ、さらには0.2〜1.9mmであることが好ましい。厚さが0.1mm未満であると、エンボス加工による賦型性が悪く、明瞭な凹凸模様を形成することができない。厚さが2.1mmを超えると、パイルが倒伏しやすくなり、エンボス加工によってパイル間の空隙が著しく減少して、皮革様シート状物の風合いが粗硬になる。また、風合いが粗硬になることで、耐揉み性が悪くなる。なお、ここでいうパイル層の厚さとは、表皮層を形成する前のパイル層の厚さをいう。
【0022】
パイル層の厚さは、パイルの長さ、および、地組織に対するパイルの交叉角度を調整することにより、前記範囲に調整することができる。
【0023】
すなわち、パイルの長さは、0.2〜2.3mmであることが好ましく、0.3〜1.8mmであることがより好ましい。また、地組織に対するパイルの交叉角度は、30〜90度であることが好ましく、45〜75度であることがより好ましい。なお、交叉角度が90度とは、パイルが傾斜することなく直立している状態をいう。
【0024】
パイルの繊度(パイル糸の単繊維繊度に相当する)は、0.07〜3.0dtexであることが求められ、さらには0.1〜2.5dtexであることが好ましい。繊度が0.07dtex未満であると、パイルが倒伏しやすくなり、エンボス加工によってパイル間の空隙が著しく減少して、皮革様シート状物の風合いが粗硬になる。また、風合いが粗硬になることで、耐揉み性が悪くなる。繊度が3.0dtexを超えると、パイルの表面積が小さくなり、ポリウレタン樹脂が浸透しやすくなって、皮革様シート状物の風合いが粗硬になる。また、風合いが粗硬になることで、耐揉み性が悪くなる。
【0025】
パイルの密度は、1万6千〜460万本/(25.4mm)であることが求められ、さらには8万5千〜170万本/(25.4mm)であることが好ましい。密度が1万6千本/(25.4mm)未満であると、ポリウレタン樹脂が浸透しやすくなって、皮革様シート状物の風合いが粗硬になったり、パイルが倒伏しやすくなり、パイル間の空隙が減少して、エンボス加工による賦型性が悪くなったりする。密度が460万本/(25.4mm)を超えると、ポリウレタン樹脂が浸透しにくくなって、皮革様シート状物の剥離強度が悪くなったり、エンボス加工による賦型性が悪くなったりする。
【0026】
パイルの形態は特に限定されるものではなく、長繊維、短繊維のいずれであってもよい。また、断面形状も、通常の丸型だけでなく、例えば、扁平型、三角形、中空型、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。これらは目的や具体的用途に応じて適宜選択することができる。
【0027】
パイル糸の形態は特に限定されるものではなく、マルチフィラメント糸(長繊維糸)、紡績糸(短繊維糸)のいずれであってもよい。さらには長繊維と短繊維を組み合わせた長短複合紡績糸であってもよい。マルチフィラメント糸は、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体攪乱処理などの加工を施してもよい。これらは目的や具体的用途に応じて適宜選択することができる。なかでも、強度、特には引裂強度、引張強度の点から、加工糸が好ましい。
【0028】
パイル糸の繊度(総繊度)は特に限定されるものではなく、目的や具体的用途に応じて適宜選択することができるが、好ましくは20〜200dtexであり、より好ましくは50〜150dtexである。繊度が20dtex未満であると、所望のパイル密度が得られない虞がある。繊度が200dtexを超えると、編成または織成が困難になる虞がある。
【0029】
一方、地組織を構成する繊維の素材は特に限定されるものではなく、例えば、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができ、目的や具体的用途に応じて適宜選択することができる。なかでも、物性の点から、合成繊維が好ましく、ポリエステルがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0030】
地組織を構成する繊維の繊度(地組織を構成する糸条の単繊維繊度に相当する)は特に限定されるものではなく、目的や具体的用途に応じて適宜選択することができるが、好ましくは1〜5dtexであり、より好ましくは1.5〜4dtexである。繊度が1dtex未満であると、皮革様シート状物の強度が悪くなる虞がある。繊度が5dtexを超えると、皮革様シート状物の風合いが粗硬になる虞がある。
【0031】
地組織を構成する繊維の形状は特に限定されるものではなく、長繊維、短繊維のいずれであってもよい。また、断面形状も、通常の丸型だけでなく、例えば、扁平型、三角形、中空型、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。これらは目的や具体的用途に応じて適宜選択することができる。
【0032】
地組織を構成する糸条(地糸)の形態は特に限定されるものではなく、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸(以上、長繊維糸)、紡績糸(短繊維糸)のいずれであってもよい。さらには長繊維と短繊維を組み合わせた長短複合紡績糸であってもよい。マルチフィラメント糸は、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体攪乱処理などの加工を施してもよい。これらは目的や具体的用途に応じて適宜選択することができる。
【0033】
地組織を構成する糸条の繊度(総繊度)は特に限定されるものではなく、目的や具体的用途に応じて適宜選択することができるが、好ましくは30〜100dtexであり、より好ましくは45〜85dtexである。繊度が30dtex未満であると、強度、特には引裂強度、引張強度が悪くなる虞がある。繊度が100dtexを超えると、皮革様シート状物の風合いが粗硬になったり、耐揉み性が悪くなったりする虞がある。
【0034】
パイル布帛の厚さは、0.3〜2.5mmであることが好ましく、0.4〜2.0mmであることがより好ましい。厚さが0.3mm未満であると、エンボス加工による賦型性が悪く、明瞭な凹凸模様を形成することができない虞がある。厚さが2.5mmを超えると、加工性、特にはポリウレタン樹脂の塗工性が悪くなる虞がある。なお、ここでいうパイル布帛の厚さとは、表皮層を形成する前のパイル布帛の厚さをいうものとする。
【0035】
パイル布帛は、必要に応じて、プレセット、精練、着色などの処理が施されていてもよい。
【0036】
本発明の皮革様シート状物は、以上に説明したパイル布帛を繊維質基材として用い、かかるパイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂からなり、かつ、表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する表皮層が積層されたものである。
【0037】
本発明の皮革様シート状物を製造するには、まず、パイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂液を塗布する。ポリウレタン樹脂液とは、表皮層形成用の樹脂液であって、ポリウレタン樹脂を少なくとも含み、必要に応じて、添加剤や溶媒を含んでなるものである。
【0038】
本発明に用いられるポリウレタン樹脂は特に限定されるものではなく、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などを挙げることがでる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができ、目的や具体的用途に応じて適宜選択することができる。なかでも、耐摩耗性および耐光堅牢性の点から、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。また、ポリウレタン樹脂の形態は、無溶剤系、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液硬化型を問わず使用可能であり、目的や具体的用途に応じて適宜選択することができる。なかでも、任意の添加剤、特には架橋剤や顔料との相溶性がよいという理由から、水系の一液型樹脂が好ましい。
【0039】
ポリウレタン樹脂には、必要に応じて、ポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、ウレタン化触媒、架橋剤、平滑剤、シランカップリング剤、充填剤、チクソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、難燃剤、導電性付与剤、耐電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、艶消し剤、触感向上剤、スリップ改良剤、増粘剤などの添加剤を、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
ポリウレタン樹脂液の塗布には、例えば、スプレーコーター、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、T−ダイコーター、リバースコーターなど従来公知の装置を、特に制限なく用いることができる。なかでも、加工速度と塗布量のコントロールが容易であるという理由から、リバースコーターによる塗布が好ましい。
【0041】
ポリウレタン樹脂液の塗布量(樹脂液が溶媒を含む場合には、湿潤状態における塗布量をいう)は、表皮層の重量に応じて適宜設定する。
すなわち、表皮層の重量は、10〜120g/mであることが求められ、さらには20〜60g/mであることが好ましい。重量が10g/m未満であると、皮革様シートの耐摩耗性が悪くなる。重量が120g/mを超えると、エンボス加工による賦型性が悪く、明瞭な凹凸模様を形成することができない。
表皮層の重量が前記範囲となるように、ポリウレタン樹脂液の塗布量を設定することが求められる。
【0042】
次いで、ポリウレタン樹脂液を固化させる。
溶剤系または水系のポリウレタン樹脂を用いる場合には、熱処理により、ポリウレタン樹脂液中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥、固化させる。また、熱処理によって架橋反応を起こす架橋剤を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する被膜を形成するためにも熱処理が必要となる。
【0043】
熱処理温度は特に限定されるものではなく、選択するポリウレタン樹脂や、任意で用いられる添加剤、塗布量などに応じて適宜設定することができるが、好ましくは80〜140℃であり、より好ましくは100〜120℃である。熱処理温度が80℃未満であると、ポリウレタン樹脂の乾燥や架橋が不十分となり、耐摩耗性が悪くなる虞がある。熱処理温度が140℃を超えると、ポリウレタン樹脂の過剰な加熱によりピンホールが発生し、意匠性が損なわれる虞がある。また、熱処理時間も特に限定されるものではないが、好ましくは100〜300秒間であり、より好ましくは150〜250秒間である。熱処理時間が100秒間未満であると、ポリウレタン樹脂の乾燥や架橋が不十分となり、耐摩耗性が悪くなる虞がある。熱処理時間が300秒間を超えると、ポリウレタン樹脂が劣化し、耐摩耗性が悪くなる虞がある。
【0044】
熱処理には、例えば、ループ式乾燥機、ネット式ドライヤー、オーブン、ヒートセッターなど従来公知の装置を、特に制限なく用いることができる。
【0045】
ホットメルト系のポリウレタン樹脂を用いる場合には、加熱溶融した樹脂を塗布後、冷却することにより固化させる。
【0046】
また、二液硬化型のポリウレタン樹脂を用いる場合には、固化後、エージング処理を行う。
【0047】
かくして、パイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂からなる表皮層が形成される。このとき、表皮層は、パイルの先端部と一体化するように形成されるが、パイルの根元部から中間部にかけては、表皮層と一体化されることなく、そのまま残っている。このように、パイル層の一部が残存することにより、エンボス加工による賦型性が向上し、形成された凹凸模様の明瞭性および耐久性を良好ならしめることができる。さらには、エンボス加工を、過度に高い温度および圧力下で行う必要がなく、皮革様シート状物の風合いを柔軟に保つことができる。
【0048】
残存するパイル層の厚さは、0.01〜1.63mmであることが好ましく、0.03〜1.38mmであることがより好ましい。厚さが0.01mm未満であると、エンボス加工による賦型性が悪く、明瞭な凹凸模様を形成することができない虞がある。厚さが1.63mmを超えると、パイルが倒伏しやすくなり、エンボス加工によってパイル間の空隙が著しく減少して、皮革様シート状物の風合いが粗硬になる虞がある。また、風合いが粗硬になることで、耐揉み性が悪くなる虞がある。
【0049】
次いで、シート状物にエンボス加工を施す。すなわち、加熱したエンボス型を、シート状物の表面、具体的には表皮層の表面に押圧し、凹凸模様を形成する。このとき、凹凸模様は、表皮層にとどまらず、パイル層にまで及んで形成されるため、明瞭性に優れた凹凸模様となる。
【0050】
凹凸模様として、典型的にはシボ模様を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、例えば、織物調、デニム調などの布帛模様や、ランダムな点、線、丸形、三角形、四角形などを、単独または2種以上組み合わせた幾何学模様などであることができる。
【0051】
エンボス加工には、従来公知のエンボス装置を特に制限なく用いることができる。エンボス型は、ロール状のもの(エンボスロール)であっても、平板状のもの(エンボス板)であってもよい。さらに、互いの凹凸模様が対向部において重なり合うように製造されたもの(雄型と雌型)であっても、一方が凹凸模様を有し、他方は平坦面を有するものであってもよい。
【0052】
エンボス型の加熱温度(すなわち、加熱押圧時の熱処理温度に相当する)は、パイルの素材に応じて適宜設定すればよい。例えば、パイルの素材がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)である場合、加熱温度は60〜150℃であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。加熱温度があまりに低い温度であると、形成された凹凸模様の耐久性、特には耐熱性が不十分になる虞がある。加熱温度があまりに高い温度であると、皮革様シート状物の風合いが粗硬になる虞がある。
【0053】
加熱したエンボス型をパイル布帛に押圧する時間は、エンボス型の形状によって大きく異なる。ロール状エンボス型を備えるエンボス装置の場合、押圧時間は0.01〜5秒であることが好ましく、0.1〜2秒であることがより好ましい。また、平板状エンボス型を備えるエンボス装置の場合、押圧時間は30〜120秒であることが好ましく、50〜90秒であることがより好ましい。押圧時間が下限値未満であると、明瞭な凹凸模様を形成することができず、耐久性も悪くなる虞がある。押圧時間が上限値を超えると、皮革様シート状物の風合いが粗硬になったり、ポリウレタン樹脂が変色したり、生産性が悪くなったりする虞がある。
【0054】
ロール状エンボス型を備えるエンボス装置を用いて加工する場合の処理速度は、通常2〜9m/分であり、好ましくは3.5〜7m/分であり、平板状エンボス型を備えるエンボス装置を用いて加工する場合の処理速度は、通常0.5〜6m/分であり、好ましくは0.6〜3m/分である。
【0055】
押圧時の圧力は、50〜240kgf/cmであることが好ましく、80〜200kgf/cmであることがより好ましい。圧力が50kgf/cm未満であると、明瞭な凹凸模様を形成することができない虞がある。圧力が240kgf/cmを超えると、皮革様シート状物の風合いが粗硬になる虞がある。
【0056】
なお、エンボス加工時のその他の諸条件、例えば、皮革様シートの導入張力などについては、所望の凹凸模様が得られるように適宜設定すればよい。
【0057】
かくして、表皮層の表面に凹凸模様が形成される。前記の通り、凹凸模様、特には、エンボス型の凸部が押し当てられて形成される凹部は、パイル層にまで及ぶため、エンボス加工の前後でパイル層の厚さが部分的に変化する。パイル層の最大厚さは、通常、0.01〜1.63mmであり、好ましくは0.03〜1.38mmである。厚さが0.01mm未満であると、形成された凹凸模様の明瞭性および耐久性が劣る。厚さが1.63mmを超えると、皮革様シート状物の風合いが粗硬になったり、耐揉み性が悪くなったりする。
【0058】
かくして、本発明の皮革様シート状物を得ることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。得られた、皮革様シート状物の性能は、以下の方法に従って評価した。
【0060】
[凹凸模様の明瞭性]
官能評価を行い、下記の基準に従って判定した。
○:明瞭な凹凸感を有する
△:凹凸感はあるが、やや不明瞭である
×:凹凸感が不明瞭である
【0061】
[風合い]
官能評価を行い、下記の基準に従って判定した。
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
【0062】
[耐熱性]
10cm四方の大きさに裁断した試験片を広口試薬瓶(共栓付250ml瓶、硬質ガラス製)の中に試験片を試薬瓶の側面に沿わせて入れ、110℃に調整された乾燥機内に400時間静置して熱処理した。熱処理後、試薬瓶を乾燥機から取り出し室温まで冷却した後、試薬片を試薬瓶から取り出し、熱処理前後の試験片を目視にて観察し、熱処理後の試験片について、JIS L−0804規格のグレースケール(gray scale)を用いて変退色の程度を等級付けし、下記の基準に従って判定した。
○:変退色4級以上
△:変退色3級以上4級未満
×:変退色3級未満
【0063】
[耐揉み性]
幅25mm、長さ150mmの大きさの試験片を、タテ、ヨコ各方向からそれぞれ2枚ずつ採取した。同一方向の2枚の試験片について、その表面側を内側にして重ね合わせたものを、スコット型耐揉み摩耗試験機(株式会社大栄科学精器製作所製)のつかみ具に、間隔を20mmとして取り付けた。つかみ具の間隔を狭めて試験片同士の表面に掛かる荷重を9.8Nに調整し、ストローク40mm、速度120回/分の条件で、1000回の揉み操作を行った。揉み操作後の試験片表面を観察し、下記の基準に従って判定した。
○:表面に亀裂の発生がない
△:表面にわずかに亀裂が発生した
×:表面に亀裂が発生した
【0064】
[実施例1]
28ゲージで3枚の筬を有するトリコット編機を使用して、パイル糸として84dtex/96f(単繊維繊度0.875dtex)のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を使用し、地糸として84dtex/36f(単繊維繊度2.333dtex)のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を使用して、トリコット編地を得た。
得られた編地を190℃で1分間熱処理してプレセットした後、分散染料を用いて130℃で染色し、次いで、熱処理して乾燥した。
【0065】
次いで、針布起毛機にてフルカット起毛を施した後、整毛処理し、次いで、190℃で1分間熱処理してセットした。得られたパイル編地の厚さは0.9mm、パイルの長さは0.46mm、地組織に対するパイルの交叉角度は60度、パイル層の厚さは0.4mm、コース密度は78コース/25.4mm、ウエル密度は72ウエル/25.4mm、パイル密度は1078272本/(25.4mm)であった。
【0066】
次いで、パイル編地のパイル層側の面に、処方1のポリウレタン樹脂液(固形分41重量%)を、表皮層の重量が30g/mとなるように、リバースコーターを用いて塗布した後、80℃で5分間熱処理して乾燥し、表皮層を形成した。このとき、パイル層の厚さは0.22mmであった。
【0067】
処方1
1)商品名「WT−78−018」;30重量部
(ポリウレタン樹脂、固形分25重量%、スタールジャパン株式会社製)
2)商品名「RU−40−350」;30重量部
(ポリウレタン樹脂、固形分40重量%、スタールジャパン株式会社製)
3)商品名「WF−13−552」;30重量部
(ポリウレタン樹脂、固形分35重量%、スタールジャパン株式会社製)
4)商品名「EX−9345」;3.3重量部
(架橋剤、固形分40重量%、スタールジャパン株式会社製)
5)商品名「HM−186」;5重量部
(平滑剤、固形分30重量%、スタールジャパン株式会社製)
6)商品名「DILAC BLACK HS−9530」;13.3重量部
(顔料、固形分100重量%、DIC株式会社製)
【0068】
次いで、シート状物をエンボスロール装置に通して表皮層にシボ模様を形成した。このとき、ロールの加熱温度は100℃、ロールの接圧は130kgf/cm、処理速度は4m/分であった。また、シボ模様を形成した後のパイル層の最大厚さは0.17mmであった。
かくして、実施例1の皮革様シート状物を得た。
得られた皮革様シート状物の性能は、凹凸模様の明瞭性は「○」、風合いは「○」、耐熱性は「○」、耐揉み性は「○」であった。
【0069】
[比較例1]
トリコット編地のパイル糸として56dtex/24f(単繊維繊度2.333dtex)のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を用い、プレセット時にトリコット編地の生機の幅出しを行い、起毛率30%のセミカット起毛とした以外は、実施例1と同様にして比較例1の皮革様シート状物を得た。
【0070】
表皮層を形成する前のパイル編地の厚さは0.9mm、パイルの長さは0.46mm、地組織に対するパイルの交叉角度は60度、パイル層の厚さは0.4mm、コース密度は30コース/25.4mm、ウエル密度は25ウエル/25.4mm、パイル密度は10800本/(25.4mm)であった。
また、表皮層を形成した後のパイル層の厚さは0.22mm、シボ模様を形成した後のパイル層の最大厚さは0.17mmであった。
得られた皮革様シート状物の性能は、凹凸模様の明瞭性は「△」、風合いは「×」、耐熱性は「○」、耐揉み性は「×」であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパイルからなるパイル層と、地組織とからなるパイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂からなる表皮層を有し、かつ、表皮層の表面にエンボス加工により形成された凹凸模様を有する皮革様シート状物であって、パイル層の最大厚さが0.01〜1.63mmであり、パイルの繊度が0.07〜3dtexであり、パイルの密度が1万6千〜460万本/(25.4mm)であり、表皮層の重量が10〜120g/mである皮革様シート状物。
【請求項2】
(1)複数のパイルからなるパイル層と、地組織とからなるパイル布帛のパイル層側の面に、ポリウレタン樹脂液を塗布する工程、ここで、パイル層の厚さは0.1〜2.1mmであり、パイルの繊度は0.07〜3dtexであり、パイルの密度は1万6千〜460万本/(25.4mm)である、
(2)ポリウレタン樹脂液を固化させて表皮層を形成する工程、ここで、表皮層の重量は10〜120g/mである、
(3)エンボス加工を施して表皮層の表面に凹凸模様を形成する工程、
をこの順で含んでなる皮革様シート状物の製造方法。

【公開番号】特開2012−82545(P2012−82545A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228611(P2010−228611)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】