説明

皮革様基材、および該皮革様基材を用いた人工皮革,並びに研磨パッド

【課題】しなやかな風合いを有し、また軽量である、人工皮革や研磨パッド等の製造に用いられる、不織布と多孔質高分子弾性体とを含む皮革様基材を提供することを目的とする。
【解決手段】不織布と不織布に含浸された多孔質高分子弾性体とを含む皮革様基材であって、不織布は、横断面に複数の孔を有する多孔中空繊維の絡合体であり、横断面の複数の孔の平均孔径(A)は1〜10μmであり、多孔質高分子弾性体の平均孔径(B)は1〜10μmであり、平均孔径(A)/平均孔径(B)=0.5〜2であり、不織布と多孔質高分子弾性体との合計量に対する多孔質高分子弾性体の含有割合が、15〜50%である皮革様基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革や研磨パッド等の製造に用いられる、不織布と多孔質高分子弾性体とを含む皮革様基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、不織布を含む皮革様基材が知られている。このような皮革様基材は、履物、鞄、衣類、家具等の表面素材になる人工皮革の製造に広く用いられている。
【0003】
人工皮革には、機械的特性や風合い等の特性に加えて、軽量性が求められている。軽量性が改善された人工皮革として、極細繊維から形成された繊維基材を含む人工皮革が知られている。極細繊維から形成された繊維基材は、例えば、海島型複合繊維からなる繊維基材から、海成分のみを選択的に溶解除去することにより形成される。このような方法によれば極細繊維からなる軽量化された繊維基材を得ることができる。しかしながら、このような方法により得られた繊維基材は、厚みを調整するためのプレス処理により、繊維間の空隙が大幅に減少するために軽量性が充分に得られないという問題があった。このような問題を解決するために、中空繊維から形成された繊維基材を人工皮革として用いる方法が知られている。
【0004】
例えば、下記特許文献1は、平衡水分率が2%以下である熱可塑性重合体からなる中空繊維を含む、軽量性に優れた繊維構造物を開示している。また、例えば、下記特許文献2は、中空率40〜85%のポリエステル系繊維を含む人工皮革を開示している。また、例えば、下記特許文献3は、中空繊維からなる不織布であって、厚さ方向の一方から他方に向かって該中空繊維の中空率が勾配を有している不織布を開示している。また、例えば、下記特許文献4は、0.5デシテックス以下の極細繊維(A)と、5デシテックス以下で横断面に5〜50個の中空部を有し、該中空部の総面積率が25〜50%の範囲であり、該中空部1個の占める面積が5%以下の繊維(B)とが(A)/(B)が重量比で20/80〜80/20で三次元絡合されている不織布と高分子弾性体からなる人工皮革用基材を開示している。
【0005】
また、不織布と多孔質高分子弾性体とを含む皮革様基材は、例えば、下記特許文献5に開示されているように、砥粒のスラリーを滴下しながら、被研磨基材を押し当てて研磨するケミカルメカニカル研磨(CMP)に用いられる研磨パッドの製造にも用いられている。
【0006】
CMPに用いられる研磨パッドとしては、ポリウレタン成形体からなる研磨パッドと、不織布と高分子弾性体とを含む皮革様基材を主体とする研磨パッドが知られている。これらのうち、ポリウレタン成形体からなる研磨パッドは、剛性が高いために被研磨基材表面に対する追随性が悪く、また、砥粒の凝集体に力が掛かることによりスクラッチを発生させやすいという問題があった。これに対して、不織布と高分子弾性体とを含む皮革様基材を主体とする研磨パッドは、剛性が低くしなやかであるために、被研磨基材表面の形状に対する追随性に優れ、そのために平坦化性に優れているために、スクラッチを発生させにくいという利点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−220741号公報
【特許文献2】特許3924360号公報
【特許文献3】特許3361967号公報
【特許文献4】特開2002―242077号公報
【特許文献5】国際公開2010/0164486号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
人工皮革においては、天然の皮革のような自然なしなやかさと軽量性との両立が求められている。また、CMPに用いられる研磨パッドにおいても、被研磨基材表面の形状に対して優れた追随性を得るためにしなやかさが求められている。
【0009】
本発明は、しなやかな風合いを有し、また軽量である、人工皮革や研磨パッド等の製造に用いられる、不織布と多孔質高分子弾性体とを含む皮革様基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面は、不織布と不織布に含浸された多孔質高分子弾性体とを含む皮革様基材であって、不織布は、横断面に複数の孔を有する多孔中空繊維の絡合体であり、横断面の複数の孔の平均孔径(A)は1〜10μmであり、多孔質高分子弾性体の平均孔径(B)は1〜10μmであり、平均孔径(A)/平均孔径(B)=0.5〜2であり、不織布と多孔質高分子弾性体との合計量に対する多孔質高分子弾性体の含有割合が、15〜50質量%である皮革様基材である。
【0011】
また、皮革様基材は見かけ密度が0.1〜0.4g/cm3であることが好ましい。
【0012】
また、不織布と多孔質高分子弾性体とが接着していないことが好ましい。
【0013】
また、多孔中空繊維が多孔中空ポリアミド繊維であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかの皮革様基材を含む人工皮革である。
【0015】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかの皮革様基材を含む研磨パッドである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、柔軟性(しなやかさ)及び軽量性に優れた皮革様基材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の皮革様基材10の模式縦断面図である。
【図2】本実施形態の皮革様基材10の模式拡大縦断面図である。
【図3】本実施形態の人工皮革20の模式拡大縦断面図である。
【図4】実施例1で得られた皮革様基材のSEMによる撮像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る皮革様基材の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の皮革様基材10の模式縦断面図である。皮革様基材10は、例えば、繊度0.5〜10dtex程度の多孔中空繊維1aを三次元的に絡合させた不織布1と、不織布1に含浸付与された多孔質高分子弾性体2と、を含む。多孔質高分子弾性体2の含有割合は、不織布1と多孔質高分子弾性体2との合計量に対して15〜50質量%の範囲である。
【0020】
図2は、皮革様基材10の模式拡大縦断面図である。図2に示すように、多孔中空繊維1aは、その横断面に1個あたりの孔径(平均孔径(A))が1〜10μmである中空部v1を有する。また、多孔中空繊維1aの周囲には、多孔質高分子弾性体2が存在する。
多孔質高分子弾性体2は微細孔v2を有するスポンジ状の弾性体である。多孔質高分子弾
性体の微細孔v2の孔径(平均孔径(B))は1〜10μmである。そして、多孔質高分
子弾性体の微細孔v2の平均孔径(B)に対する、多孔中空繊維1aの横断面の平均孔径
(A)(平均孔径(A)/平均孔径(B))が0.5〜2の範囲である。
【0021】
はじめに、多孔中空繊維1aについて詳しく説明する。
多孔中空繊維を形成する樹脂は、特に限定されないが、具体的には、ポリアミド6等のポリアミド;ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート,イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、溶融紡糸の安定性に優れ、また、機械的特性や耐坐屈性にとくに優れている点からポリアミド6が好ましい。
【0022】
また、多孔中空繊維を形成する樹脂は、染料や顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、各種安定剤等を必要に応じて含有してもよい。
【0023】
多孔中空繊維1aの繊度はとくに限定されないが、0.5〜10dtex、さらには1〜6dtexの範囲であることが好ましい。繊度が高すぎる場合には、得られる皮革様基材のしなやかさが低下して、ゴワゴワとした触感が強くなる傾向がある。また、繊度が低すぎる場合には、製造時に繊維密度が高くなりすぎて軽量性を維持することが困難になる傾向がある。
【0024】
多孔中空繊維1aは、その横断面に1個あたりの孔径(平均孔径(A))が1〜10μmであるような中空部v1を有する。また、多孔中空繊維1aの横断面における中空部v1の数は、5〜50個、さらには10〜30個であることが好ましい。中空部の数が少なすぎる場合には、均質な隔壁を有する中空構造を形成することが困難になる。また、中空部の数が多すぎる場合には、平均孔径(A)が低くなりすぎる傾向がある。この場合には中空部v1が潰れやすくなる。
【0025】
多孔中空繊維1aの横断面における中空部v1の1個あたりの中空率は1〜10%、さ
らには2〜5%であることが好ましい。ここで、中空部v1の1個あたりの中空率とは、
多孔中空繊維1aの横断面の外周輪郭内部の総面積に対する、中空部v1の1個あたりの
面積の割合である。中空部v1の1個あたりの中空率が高すぎる場合には、屈曲や圧縮等
の外力を受けた場合に、中空部が潰れやすくなって軽量性が低下したり、耐坐屈性が低下しやすくなる。また、中空部v1の1個あたりの中空率が低すぎる場合には、平均孔径(
A)が低くなりすぎる傾向がある。
【0026】
また、多孔中空繊維1aの横断面における中空部v1の総中空率は25〜50%、さら
には30〜40%であることが好ましい。ここで、中空部v1の総中空率とは、多孔中空
繊維1aの横断面の外周の輪郭の内部の総面積に対する、全中空部v1の総面積の割合で
ある。総中空率が低すぎる場合には、充分に軽量化することが困難になる傾向があり、高すぎる場合には、屈曲や圧縮等の外力を受けることにより、中空部が潰れやすくなることにより、軽量性が低下したり、耐坐屈性が低下したりする傾向がある。
【0027】
多孔中空繊維1aは長繊維(フィラメント)であっても、短繊維(ステープル)であってもよいが、引裂強度等に優れている点から長繊維であることが好ましい。なお、長繊維は、連続した長い繊維であり、所定の繊維長にカットされた短繊維である、所謂、ステー
プルと区別される。
【0028】
不織布1は、多孔中空繊維1aが三次元的に絡合された不織布である。このような不織布は、例えば、後述するように、海島型複合フィラメントからなる三次元絡合不織布から、島成分を形成する樹脂成分を選択的に溶解除去することにより形成される。
【0029】
不織布1の見かけ密度は特に限定されないが、0.05〜0.3g/cm3、さらには
0.1〜0.2g/cm3であることがしなやかさに優れる点から好ましい。
【0030】
また、不織布1の目付けは、100〜1000g/m2、さらには200〜600g/
2であることが軽量性の点から好ましい。
【0031】
次に、多孔質高分子弾性体2について詳しく説明する。
【0032】
図1及び図2に示すように、多孔質高分子弾性体2は不織布1の内部に存在する空隙に付与されている。
【0033】
多孔質高分子弾性体2を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステルエーテルコポリマー、ポリアクリル酸エステルコポリマー、ネオプレン、スチレンブタジエンコポリマー、シリコーン樹脂、ポリアミノ酸、ポリアミノ酸ポリウレタンコポリマー等の弾性体が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタンが、柔軟な風合いが得られる点から特に好ましい。また、高分子弾性体2は、必要に応じて、顔料、染料、架橋剤、充填剤、可塑剤、各種安定剤などを含有してもよい。
【0034】
図1及び図2に示すように、多孔質高分子弾性体2は微細孔v2を有するスポンジ状の弾性体である。多孔質高分子弾性体の微細孔v2の孔径(平均孔径(B))は1〜10μmであり、好ましくは3〜7μmである。また、多孔質高分子弾性体中の微細孔v2の単位断面積あたりの数は、20〜200個/10000μm2、さらには50〜150個/
10000μm2であることが好ましい。微細孔v2の単位断面積あたりの数が少なすぎ
る場合には、しなやかな風合いが低下する傾向がある。また、微細孔v2の単位断面積あたりの数が多すぎる場合には、基材の反発性が強くなりゴムライクな風合いになる。
【0035】
多孔質高分子弾性体2の含有割合は、不織布1と多孔質高分子弾性体2との合計量に対して15〜50質量%であり、好ましくは20〜50質量%である。多孔質高分子弾性体2の含有割合が15質量%未満の場合には、耐久性、形態安定性及び表面平滑性が低下するとともに、耐坐屈性が低下し、また、折れ曲げ皺も生じやすくなる。また、高分子弾性体2の含有割合が50質量%を超える場合には、ゴムライクな硬い風合いになり、また、軽量性が低下する。
【0036】
また、多孔質高分子弾性体2は不織布1の内部の空隙に含浸付与されて一体化されているが、多孔質高分子弾性体2は不織布1を形成する多孔中空繊維1aの表面との間に空隙を有することが好ましい。言い換えれば、多孔中空繊維1aの表面と多孔質高分子弾性体2とは実質的に接着していないか、わずかに接着していることが好ましい。具体的には、例えば、図2に示すように、皮革様基材10の断面において、多孔中空繊維1aの外周の0〜50%、さらには、0〜30%の範囲に多孔質高分子弾性体2が接着しており、外周の50〜100%、さらには70〜100%の範囲が多孔質高分子弾性体2と接着していないことが好ましい。このように、多孔中空繊維1aの外周面に多孔質高分子弾性体2が強固に接着固定されていない場合には、多孔中空繊維1aと多孔質高分子弾性体2とが互いに適度にずれることが可能である。それにより、しなやかな風合いを有する皮革様基材
が得られ、また、折り曲げたときにも、多孔中空繊維1aと多孔質高分子弾性体2との伸び特性の違いにより発生する坐屈皺の発生が抑制される。
【0037】
なお、多孔中空繊維の横断面の外周に接着している多孔質高分子弾性体の割合は、皮革様基材の厚み方向の断面を電子顕微鏡で観察し、観察視野において多孔中空繊維の軸方向に対して垂直な横断面を、例えば50個選択し、各横断面の外周長及び外周に各横断面において外周に高分子弾性体が接着している部分の長さをそれぞれ測定し、各断面毎に、外周の全長に対して、高分子弾性体が接着している部分の長さの割合を算出することにより得られる。
【0038】
そして、本実施形態の皮革様基材10は、多孔質高分子弾性体の微細孔v2の平均孔径
(B)に対する、多孔中空繊維1aの横断面の平均孔径(A)(平均孔径(A)/平均孔径(B))が0.5〜2である。このように、平均孔径(A)/平均孔径(B)が0.5〜2であることにより、皮革様基材中の繊維と多孔質高分子弾性体それぞれの風合いを損なわず、全体として風合いの一体感が得られる。平均孔径(A)/平均孔径(B)が0.5未満の場合には多孔質高分子弾性体の風合いが不織布に対して柔らかくなり過ぎ、折れ皺の大きい充実感の不足した風合いになり、2を超える場合には、逆に充実感はあるが硬いゴムライクな風合いになる。
【0039】
皮革様基材の厚さは特に限定されないが、0.3〜3mm、さらには0.7〜1.8mmの範囲であることが好ましい。皮革様基材の厚さが薄すぎる場合には、実用性に耐え得る耐久性や機械的特性が得られにくくなる傾向があり、厚すぎる場合には軽量感が薄れる傾向がある。
【0040】
また、皮革様基材の見かけ密度は0.1〜0.4g/cm3、さらには0.2〜0.3
g/cm3であることが好ましい。見かけ密度が高すぎる場合には、得られる皮革様基材
のしなやかな風合いが失われる傾向があり、見かけ密度が低すぎる場合には、機械的特性が低下する傾向がある。
【0041】
次に、本実施形態の皮革様基材の製造方法の一例について、詳しく説明する。
本実施形態の皮革様基材の製造方法においては、はじめに、上述したような多孔中空繊維を形成する樹脂を海成分とし、海成分となる樹脂と化学的または物理的性質が異なる選択的に抽出除去可能な海成分となる樹脂以外の樹脂を島成分とする、例えば、繊度0.5〜10dtexの海島型複合繊維を製造する。そして、このような海島型複合繊維のウェブを形成する。海島型複合繊維は長繊維であっても短繊維であってもよいが、本実施形態においては、代表的に長繊維のウェブを形成する例について説明する。
【0042】
海島型複合繊維の長繊維のウェブは、いわゆるスパンボンド法を用いて形成される。具体的には、海成分を形成するための樹脂と、選択的に抽出除去可能な島成分を形成するための樹脂とを溶融複合紡糸して海島型複合繊維のストランドを得る。引き続いて、得られた海島型複合繊維のストランドを冷却装置で冷却した後、エアジェットノズルのような吸引装置で、例えば、1000〜6000m/分の引取り速度に相当する速度で高速気流により延伸して細化させることにより海島型複合繊維のフィラメント(以下、海島型複合フィラメントとも呼ぶ)を得る。そして、海島型複合フィラメントを開繊させながら移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることによりスパンボンドシートが得られる。
【0043】
海島型複合フィラメントは、海成分を形成するための樹脂と、海成分を形成するための樹脂と化学的または物理的性質の異なる、選択的に抽出除去可能な島成分を形成するための樹脂とが海島状の断面を形成した長繊維の複合繊維である。そして、このような海島型複合フィラメントから、島成分の樹脂を選択的に抽出除去することにより、海成分を形成
するための樹脂を主成分とする多孔中空繊維のフィラメントが形成される。
【0044】
海成分を形成するための樹脂としては、上述したような多孔中空繊維を形成する各種樹脂が挙げられる。また、島成分を形成する抽出除去可能な樹脂としては、海成分を形成する樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性が異なり、且つ、海成分を形成する樹脂と相溶性が低い樹脂であって、溶融紡糸可能な樹脂であれば特に限定なく用いられうる。このような樹脂の具体例としては、例えば、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂(以下、単にPVAとも呼ぶ)や、海成分を形成する樹脂と溶剤溶解性を異にするポリスチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体等が挙げられる。これらの中では、PVAが、中空部を形成する外壁や隔壁が破壊されたりしにくい点から特に好ましい。さらに、PVAは環境負荷が低い点からも好ましい。本実施形態においては、PVAを海成分として用いた場合を代表例として、詳しく説明する。
【0045】
PVAは、熱水に溶解可能なポリビニルアルコールであり、脂肪酸ビニルエステル系単量体に由来するビニルエステル単位と必要に応じて含まれる他の共重合単位を含有する重合体をケン化することにより得られる。
【0046】
脂肪酸ビニルエステル系単量体の具体例としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられる。
【0047】
また、必要に応じて含まれる他の共重合単位を形成する単量体の具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα−オレフィン類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、等が挙げられる。これらの中では、得られる人工皮革の機械的特性に優れる点からエチレンがとくに好ましい。PVA中の他の共重合単位の含有割合としては、1〜20モル%、さらには4〜15モル%、とくには、6〜13モル%含有することが好ましい。
【0048】
PVAとしては、4〜15モル%、さらには6〜13モル%のエチレン単位を含有する、酢酸ビニルに由来するビニルエステル単位を主体とする重合体をケン化することにより得られる変性PVAが共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性に優れている点からとくに好ましい。
【0049】
PVAの重合度は、200〜500、さらには230〜470、特には250〜450であることが、溶融紡糸安定性や、熱水に対する溶解除去性に優れている点から好ましい。
【0050】
なお、上記重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される粘度平均重合度を意味する。具体的には、PVAを再ケン化及び精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められるものである。
P=([η]103/8.29)(1/0.62)
【0051】
PVAのケン化度は、90〜99.99モル%、さらには、93〜99.98モル%、とくには94〜99.97モル%、ことには、96〜99.96モル%の範囲であることが好ましい。ケン化度が低すぎる場合には、溶融紡糸性が低下したり、水溶性が低下したりする傾向がある。
【0052】
PVAの融点(Tm)は、160〜230℃、さらには、170〜227℃、とくには、ことには、175〜224℃、さらには、180〜220℃の範囲であることが好ましい。融点が低すぎる場合にはPVAの熱安定性が低くなるために繊維化が困難になる傾向がある。また、融点が高すぎる場合には、融点と分解温度が近づくために安定に紡糸することができなくなる傾向がある。
【0053】
PVAの融点は、DSCを用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で300℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0054】
PVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを用いたラジカル重合により得られる。これらの中では、無溶媒で重合する塊状重合法やアルコールなどの極性溶媒中で重合する溶液重合が好ましく用いられる。溶液重合で用いられる極性溶媒の具体例としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。また、ラジカル重合の開始剤の具体例としては、a、a´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)などのアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物系開始剤等が挙げられる。また、重合温度は特に限定されないが、例えば、0〜150℃の範囲が挙げられる。
【0055】
溶融複合紡糸においては、島数は5〜50島/繊維断面、さらには9〜30島/繊維断面にすることが好ましい。
【0056】
また、海成分が形成する中空構造の隔壁の厚さとしては、0.5〜5μm程度であることが好ましい。このような範囲である場合には、島成分の抽出除去処理が容易である点から好ましい。
【0057】
さらに、海島型複合フィラメント中の島成分を形成するための樹脂の割合は、25〜60質量%、さらには30〜55質量%であることが好ましい。島成分を形成するための樹脂の割合が高すぎる場合には、形成される中空部の割合が高くなりすぎる傾向があり、低すぎる場合には、形成される中空部の割合が低くなりすぎる傾向がある。
【0058】
溶融複合紡糸により形成された海島型複合ストランドは冷却装置で冷却された後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引き取り速度に相当する速度の高速気流により延伸される。そして、延伸された海島型複合繊維を移動式の捕集面の上に堆積することによりスパンボンドシートが形成される。なお、このとき、必要に応じてスパンボンドシートを、部分的に圧着してもよい。
【0059】
海島型複合フィラメントの繊度は、0.7〜12.5dtex、さらには2.5〜8dtexの範囲であることが、島成分の抽出除去性に優れる点から好ましい。
【0060】
また、海島型複合フィラメントを形成する島部分の繊度は、0.5〜5dtex、さらには2〜5dtexの範囲であることが、得られる中空繊維の中空構造の安定性の点から好ましい。
【0061】
また、スパンボンドシートの目付量は、20〜50g/m2の範囲であることが生産性
に優れる点から好ましい。
【0062】
次に、上述のようにして得られたスパンボンドシートを2枚以上重ね合わせ、ニードルパンチング処理により絡合ウェブを形成する。本工程は、スパンボンドシートを複数枚重
ね合わせた後、ニードルパンチングによる絡合処理を施すことにより、厚み方向に繊維同士が絡合された絡合ウェブを得る工程である。重ね合わせるスパンボンドシートの枚数はとくに限定されないが、例えば4枚以上、さらには、8枚以上であることが好ましい。
【0063】
複数枚のスパンボンドシートを重ね合わせて得られる重ね合わせ体にニードルパンチングによる絡合処理を施すことにより、絡合ウェブが形成される。
【0064】
ニードルパンチングで用いるフェルト針の種類は特に限定されない。厚さ方向への繊維の交絡を充分に高めるためには、細いフェルト針や、1バーブ針のようなバーブが少ないフェルト針を用いることが好ましい。また、海島型複合フィラメントの切断を抑制する点からは、3バーブ、6バーブ、9バーブ等のフェルト針を用いることが好ましい。
【0065】
また、ニードルパンチングで用いるフェルト針の単位面積辺りの本数もとくに限定されないが、200〜2500本/cm2の範囲が好ましい。
【0066】
このようにして得られる絡合ウェブの目付けとしては100〜3000g/m2、さら
には200〜1000g/m2の範囲であることが好ましい。
【0067】
なお、得られた絡合ウェブは表面を平滑化したり、厚みを調整したりするために加熱プレスされることが好ましい。加熱プレスの方法としては、複数の加熱ロール間に通す方法、予熱した絡合ウェブを冷却ロール間に通す方法等が挙げられる。なおプレスの際に、絡合ウェブにポリビニルアルコール、デンプン、樹脂エマルジョン等の接着剤を塗布してもよい。このように接着剤を塗布することにより、繊維の圧着状態や、絡合ウェブの形態を制御することができる。このような加熱プレスにより、絡合ウェブの表面が平滑化され、また厚みが調整される。
【0068】
プレス前の絡合ウェブの厚みに対する、プレス後の絡合ウェブの厚みの減少率としては、5〜30%、さらには、10〜25%であることが好ましい。
【0069】
次に、加熱プレスされた絡合ウェブに高分子弾性体の溶液を含浸させた後、高分子弾性体を乾式または湿式凝固させる。具体的には、例えば、有機溶媒に高分子弾性体を溶解させた高分子弾性体溶液をプレス後の絡合ウェブに含浸させた後、高分子弾性体を湿式凝固させることが好ましい。
【0070】
高分子弾性体溶液を加熱プレスされた絡合ウェブに含浸し、湿式凝固浴に浸漬処理することにより、多孔質高分子弾性体を凝固させることができる。
【0071】
高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステルエーテルコポリマー、ポリアクリル酸エステルコポリマー、ネオプレン、スチレンブタジエンコポリマー、シリコーン樹脂、ポリアミノ酸、ポリアミノ酸ポリウレタンコポリマー等が挙げられる。
【0072】
高分子弾性体溶液を調整するための有機溶媒としては、アセトン、メチルエチケトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。
【0073】
なお、多孔質高分子弾性体の細孔径や細孔の数は、ポリウレタンの組成、湿式凝固浴の凝固液成分や液温、凝固調節剤の種類や添加量により調整することができる。例えば、高分子弾性体としてポリウレタンを用いる場合には、高分子弾性体溶液としては、湿式凝固性に優れる点からポリウレタンのDMF溶液が用いられる。ポリウレタン溶液中のポリウレタン濃度としては、10〜25質量%程度であることが好ましい。また、ポリウレタン
溶液を用いる場合、液温20〜50℃のDMF水溶液中で湿式凝固するのが好ましい。DMF水溶液としてはDMFの0〜40質量%水溶液が好ましく用いられる。
【0074】
絡合ウェブに高分子弾性体溶液を含浸させる方法としては、例えば、ナイフコーター、バーコーター、又はロールコーターを用いる方法、または、ディッピングする方法等が挙げられる。
【0075】
次に、海島型複合フィラメントから島成分の樹脂を溶解除去することにより多孔中空繊維からなる不織布が形成される。本工程において、海島型複合フィラメントに含まれる島成分を形成する樹脂の全部または大部分(例えば、95%以上)を抽出除去することが好ましい。
【0076】
高分子弾性体が付与された絡合ウェブを、界面活性剤を含有する熱水中で処理することにより、絡合ウェブを形成する海島型複合フィラメントからPVA等の島成分の樹脂を溶解除去する。
【0077】
熱水処理の方法としては、PVAの場合、80〜95℃の水温にて、液流染色機、ジッガー等の染色機や、オープンソーパー等の精練加工機を用いて処理する方法が挙げられる。特に、抽出効率の向上のためには、中空繊維に物理的な変形を与えることができる、液流染色機や、バイブロ洗浄機と搾液装置を多段に組み合わせた装置等を用いることが好ましい。
【0078】
また、島成分の樹脂の抽出効率を高めるために、海成分の樹脂の濡れ性を向上させるポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル類等で代表されるノニオン系界面活性剤や、公知のアニオン系界面活性剤を含有する熱水を用いることが好ましい。このような界面活性剤のHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)としては、4〜16の範囲であることが好ましい。
【0079】
そして、海島型複合フィラメントに含まれるPVA等の島成分の樹脂の全部または大部分を抽出除去した後、乾燥することにより本実施形態の皮革様基材が得られる。
【0080】
このようにして得られる本実施形態の皮革様基材は、剛性の低い、しなやかな基材である。従って、本実施形態の皮革様基材は、しなやかな風合いで軽量性、耐坐屈性に優れた、履物、鞄、衣類、家具等の表面素材として用いられる人工皮革として好ましく用いられうる。
【0081】
人工皮革は、上述した皮革様基材に、各種用途に応じて、銀面処理、起毛処理、柔軟化処理、2分割処理、成形処理、染色処理等の後加工を施すことにより得られる。
【0082】
例えば、銀面調人工皮革を製造する場合には、皮革様基材の表面に高分子弾性体を含む樹脂表皮層を形成する。図3は、皮革様基材10の表面に樹脂表皮層4が形成されてなる人工皮革20の模式断面図である。
【0083】
樹脂表皮層の形成方法としては、皮革様基材の表面に高分子弾性体の分散液または溶液を直接塗布した後、高分子弾性体を凝固させる方法や、皮革様基材の表面に離型紙上に形成された樹脂表皮層を接着剤で貼り合わせる方法等が用いられる。樹脂表皮層の形成に用いられる高分子弾性体としては、従来から銀面調人工皮革の製造に用いられている高分子弾性体がとくに限定なく用いられうる。
【0084】
樹脂表皮層を形成する樹脂は特に限定されない。具体的には、例えば、ポリウレタン樹
脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタン樹脂、またはアクリル樹脂が表面耐磨耗性、耐屈曲性、表面タッチ性、耐久性などに優れている点から好ましい。
【0085】
樹脂表皮層の厚みは特に限定されないが、20〜500μm、さらには、50〜300μmであることが好ましい。樹脂表皮層の厚みが厚すぎる場合には、軽量感が低下する傾向があり、厚みが薄すぎる場合には、人工皮革の表面を充分に保護及び加飾できなくなる傾向がある。
【0086】
樹脂表皮層は平滑な表面を有する銀面様のものであっても、エンボス加工等により加飾された表面を有するものであってもよい。また、多孔質構造や非多孔質構造とすることにより、所望の機能や風合い等を付与することもできる。
【0087】
上記のようにして得られた人工皮革の見かけ密度は、特に限定されないが、0.25〜0.35g/cm3の範囲であることが、耐久性、軽量性、及び耐坐屈性のバランスに優
れる点から好ましい。また、人工皮革の厚みは、特に限定されないが、0.3〜4mm程度の範囲であること好ましい。
【0088】
また、本実施形態の皮革様基材は、上述のように、剛性の低いしなやかな基材である。従って、本実施形態の皮革様基材は、被研磨基材表面の形状に対して優れた追随性を有するCMPに用いられる研磨パッドとしても好ましく用いられうる。
【0089】
研磨パッドは、上述した皮革様基材に、成形処理、平坦化処理、起毛処理、積層処理、表面処理等を施すことにより得られる。
【0090】
成形処理、及び平坦化処理は、得られた皮革様基材の表面を研削により所定の厚みに熱プレス成形したり、所定の外形に切断したりする加工である。研磨パッドとしては、厚み0.5〜3mm程度に研削加工されたものであることが好ましい。
【0091】
起毛処理とは、平坦化処理された皮革様基材の表面をサンドペーパー、針布、ダイヤモンド等により研磨パッド表面に機械的な摩擦力や研磨力を与えて、多孔中空繊維を起毛する処理である。このような起毛処理により、表面の多孔中空繊維が立毛される。
【0092】
積層処理とは、研磨パッドに加工される皮革様基材をスポンジ、不織布、ゴム、樹脂フィルム等の各種基材に張り合わせて積層化することにより剛性を調整する処理である。このように他の基材と積層することにより、得られる研磨パッドの平坦化性能をさらに向上させることができる。
【0093】
また、表面処理は、砥粒スラリーの保持性や排出性を調整するために研磨パッド表面に、格子状、同心円状、渦巻き状等の溝や孔を形成する処理である。
【0094】
本実施形態の皮革様基材を加工して得られる研磨パッドは、ウエハ(シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、半導体ウエハ等)、液晶・表示部材(LED基板、ガラス基板)、半導体製品、ガラス製品、金属製品、プラスチック製品、セラミック製品、水晶、MEMS(マイクロ−エレクトロ−メカニカルシステムズ)、その他の基板(ハードディスク基板、金属基板、プラスチック基板、セラミック基板、光学基板、電子回路基板、電子回路マスク基板、多層配線基板、ハードディスク基板等)等の各種被研磨基材を研磨するための研磨パッドとして好ましく用いられる。
【実施例】
【0095】
実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。また、実施例中で記載される部および%は、特にことわりのない限り質量に関する。
【0096】
はじめに、本実施例で用いた測定方法及び評価方法について、まとめて説明する。
【0097】
[多孔中空繊維の横断面の平均孔径(A)の測定]
得られた皮革様基材の厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡で200倍〜1000倍程度に拡大して撮影した。そして観察された撮像の多孔中空繊維の軸方向に対して垂直な断面を偏りのないように20個選択した。そして、各横断面のそれぞれに含まれる複数の孔の直径を求めた。
【0098】
[多孔質高分子弾性体の平均孔径(B)の測定]
「多孔中空繊維の横断面の平均孔径(A)」で得られたのと同様にして得られた撮像から満遍なく10個の多孔質高分子弾性体の孔径を求め平均した。平均的な5箇所の各撮像から平均値を求めた値をさらに平均化した値を多孔質高分子弾性体の平均孔径(B)とした。
【0099】
[柔軟性試験]
得られた皮革様基材を200×200mmの正方形に切断した試料を手のひらに入れてつかんだときの触感により以下の基準により判定した。
A:腰があり、しなやかさに富んだ柔軟性を有する。
B:折れ皺の大きく一体感が不足した風合い、あるいは反発性が強くゴムライクな風合いを有する。
【0100】
[皮革様基材の見かけ密度の測定]
得られた皮革様基材の単位面積あたりの質量(g/cm2)をその厚さ(cm)で除し
た値を見かけ密度(g/cm3)とした。結果は、任意の10箇所について測定した見か
け密度の算術平均値である。なお、厚さは、JISL1096に準じて240gf/cm2の荷重下で測定した。
【0101】
[耐坐屈性試験]
得られた皮革様基材を200×200mmの正方形に切断した試料を上端と下端を合わせるように谷折りしたときに発生する折り曲げ形状を目視により観察した。そして、以下の基準により判定した。
A:牛皮革を折りこんだときと同様の、表面に緻密且つ均質な折れシワが発生した。
B:AとCの中間的な様子であった。
C:折りこんだ表面にダンボールを折り込んだような荒い折れシワが発生した。
【0102】
[実施例1]
海成分としてポリアミド6(PA6)、島成分として水溶性熱可塑性PVAを含み、海成分/島成分の質量比50/50である島数12島の海島型複合繊維ストランドを240℃で溶融複合紡糸用口金から吐出した。なお、ポリアミド6としては宇部興産(株)製ウベナイロン1011、水溶性熱可塑性PVAとしてはクラレ社製エクセバールCP−4104MI(融点209℃、JIS K7210のM法で測定したMFR:80)を用いた。
そして、口金から吐出された樹脂ストランドを、口金直下に設置したエアジェット吸引装置により延伸して細化しながら冷却することにより平均繊度3.0dtexの海島型複合フィラメントを紡糸した。なおエアジェット吸引装置の吸引力は、単位時間辺りの吐出量と、得られる長繊維の繊度の比率から間接的に求められる紡糸速度が2000m/minとなるように調整された。そして、海島型複合フィラメントをエアジェット吸引装置の
直下に設置した移動式ネット上に連続的に捕集し、表面温度50℃の金属ロールを用いて線圧25kg/cmでプレスすることにより目付け30g/m2のスパンボンドシートを
得た。
【0103】
スパンボンドシートをクロスラッパーを用いて8枚分に相当する目付けになるように重ね合わせた。また、針折れ防止油剤をスプレーを用いてスパンボンドシート表面に均一に付与した。次に、スパンボンドシート両面に交互にニードルパンチング処理を行って海島型複合フィラメント同士を絡合させることにより、目付350g/m2の絡合ウェブを得
た。この絡合ウェブを表面温度180℃の平滑な一対の金属ロールでプレスすることにより厚さをプレス前の85%に圧縮した。そして、両表面を180番手のサンドペーパーでバフィングすることにより平滑化した。このようにして、厚さ2.7mm、密度0.13g/cm3で表面が平滑化された絡合ウェブを得た。
【0104】
次に、平滑化された絡合ウェブに固形分濃度4質量%のPVAを含浸させて乾燥した。そして、さらに両表面を240番手のサンドペーパーでバフィングすることにより平滑化した。そして、固形分濃度13質量%のポリエステル系ポリウレタンDMF溶液を含浸付与し、続いて、DMFと水の混合溶液(DMF濃度30質量%)を貯めた凝固浴に浸漬させて多孔質ポリウレタン弾性体を凝固させた。
【0105】
次に、液流染色機を用い、HLBが5.5のノニオン系界面活性剤(日華化学社製サンモールBK−57NM)を0.1%含有させた95℃の熱水中で絡合ウェブ中の海島型複合フィラメントから島成分であるPVAを溶解除去させた。そして、乾燥処理することにより、厚さ1.3mm、目付350g/m2で、横断面に12個の中空部を有する、ポリ
アミド6の多孔中空フィラメントの三次元絡合不織布と多孔質ポリウレタン弾性体とを含む皮革様基材を得た。
【0106】
得られた皮革様基材のポリアミド6の多孔中空フィラメントと多孔質ポリウレタン弾性体との質量比は、多孔中空フィラメント/多孔質ポリウレタン弾性体=50/50であった。また、多孔中空フィラメントの横断面のSEMによる撮像から、横断面の複数の孔の平均孔径(A)は5μmであり、多孔質ポリウレタン弾性体の平均孔径(B)は5μmであった。このときの撮像を図4に示す。このようにして得られた皮革様基材を前述の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
[実施例2〜4]
実施例1の皮革様基材の製造において、海島型複合フィラメントの島数、海成分/島成分の質量比、フィラメントの繊度、及び多孔質ポリウレタン弾性体の固形分濃度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして皮革様基材を得た。そして、このようにして得られた皮革様基材を評価した。結果を表1に示す。
【0109】
[比較例1]
実施例1と同様にして、平滑化された絡合ウェブを得た。次に、平滑化された絡合ウェブに固形分濃度35質量%の強制乳化型水系ポリウレタンエマルジョンを含浸付与した。そして、150℃の熱風により乾燥処理およびキュアリング処理を施すことにより無孔性ポリウレタンを凝固させた。
【0110】
次に、実施例1と同様にして、液流染色機を用い、絡合ウェブ中の海島型複合フィラメントから島成分であるPVAを溶解除去させた。そして、乾燥処理することにより、厚さ0.9mm、目付350g/m2で、横断面に12個の中空部を有するポリアミド6の多
孔中空フィラメントの三次元絡合不織布と無孔性ポリウレタン弾性体とを含む皮革様基材を得た。
【0111】
得られた皮革様基材のポリアミド6の多孔中空フィラメントと無孔性ポリウレタン弾性体との質量比は、多孔中空フィラメント/無孔性ポリウレタン弾性体=50/50であった。また、多孔中空フィラメントの横断面のSEMによる撮像から、横断面の複数の孔の平均孔径(A)は5μmであった。また、無孔性ポリウレタン弾性体はスポンジ状ではなく、実質的に空隙を有さない弾性体であった。このようにして得られた皮革様基材を前述の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0112】
[比較例2〜5]
実施例1の皮革様基材の製造において、海島型複合フィラメントの島数、海成分/島成分の質量比、フィラメントの繊度、及び湿式凝固条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして皮革様基材を得た。そして、このようにして得られた皮革様基材を評価した。結果を表1に示す。
【0113】
表1の結果から、実施例1〜4の皮革様基材は何れも柔軟性試験において腰があるにもかかわらず、しなやかであり、優れた柔軟性を有していた。また、見かけ密度が0.35g/cm3以下であり軽量性にも優れていた。従って、このような皮革様基材は、人工皮
革として用いた場合には天然の皮革のような自然なしなやかさと軽量性との両立が実現できることがわかる。また、CMPに用いられる研磨パッドの基材として用いた場合には、被研磨基材表面の形状に対して優れた追随性を得るために充分なしなやかさを有することがわかる。
【0114】
一方、無孔性ポリウレタン弾性体を含む比較例1〜5の皮革様基材は、柔軟性試験においてしなやかさがなく、硬い風合いを有していた。また、比較例1の皮革様基材は、見かけ密度が0.41g/cm3であり軽量性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の皮革様基材は優れたしなやかさを有するために、履物、鞄、衣類、家具等の表面素材になる人工皮革の製造や、CMPに用いられる研磨パッドの製造、さらには、浄水フィルター等の用途に好ましく用いられうる。
【符号の説明】
【0116】
1 不織布
1a 多孔中空繊維
2 多孔質高分子弾性体
3 人工皮革用基材
4 樹脂表皮層
10 皮革様基材
v1 多孔中空繊維1aの中空部
v2 多孔質高分子弾性体2の微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と前記不織布に含浸された多孔質高分子弾性体とを含む皮革様基材であって、
前記不織布は、横断面に複数の孔を有する多孔中空繊維の絡合体であり、
前記横断面の複数の孔の平均孔径(A)は1〜10μmであり、
前記多孔質高分子弾性体の平均孔径(B)は1〜10μmであり、
平均孔径(A)/平均孔径(B)=0.5〜2であり、
前記不織布と前記多孔質高分子弾性体との合計量に対する前記多孔質高分子弾性体の含有割合が、15〜50質量%の範囲であることを特徴とする皮革様基材。
【請求項2】
見かけ密度が0.1〜0.4g/cm3である請求項1に記載の皮革様基材。
【請求項3】
前記不織布と前記多孔質高分子弾性体とが接着していない請求項1または2に記載の皮革様基材。
【請求項4】
前記多孔中空繊維が多孔中空ポリアミド繊維である請求項1〜3の何れか1項に記載の皮革様基材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の皮革様基材を含むことを特徴とする人工皮革。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の皮革様基材を含むことを特徴とする研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214944(P2012−214944A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277400(P2011−277400)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】