説明

皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている自動車シート用天然皮革及びその製造方法

【課題】天然皮革の表面には皮革を製造するための処理工程以前より傷による凹凸が存在しており、天然皮革の表面の傷を隠蔽し、天然皮革の傷による凹凸による影響を出来る限り少なくし、天然皮革の有効面積率を高くして、同時に、皮革の特性である柔軟性及び強靭性を有する塗膜層を設けた新規な天然皮革の提供。
【解決手段】皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための発泡層であるスキン層を、水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料を含む組成物により28〜61μmの膜厚で30〜36μmの接着剤層を介して天然皮革の表面に、又34〜41μmの耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層を転写紙により形成し、プレスキン層の表面にスプレー噴霧により、10〜18μmのトップコート層を形成し、塗膜全体の厚みは、102μm〜156μmであり、製造時の有効面積率は59〜66%である自動車シート用天然皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている自動車シート用天然皮革及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車シート用天然皮革の製造にあたっては、原皮を前処理し、なめした後に、再なめし、染色及び加脂の工程を経て、乾燥後、その表面に塗膜を形成することにより完成する。自動車シート用皮革は単に薄い膜を形成するということではなく、作用が定められている各層を積層して形成する。これまでの自動車シート用皮革の製造では天然皮革の表面部分にベースコート層、次にカラーコート層及び表面にトップコート層をスプレー塗装により積層する。この方法により、合計で40〜60μmの薄い塗膜が形成される。その結果、本革のもつ柔軟性を維持すると共に、無理な使用条件下にも耐える強靭さを兼ね備えている本革の自動車シートは、高く評価されている。現在では、完成の域に達していると評価されている。天然皮革の表面に塗膜層を形成するには、溶剤に溶解されている良好な塗膜を形成する塗料が要求される。熟練した技術者が設定されている条件に従って塗装し、最新の設備を操作することにより天然皮革に塗膜が完成する。
現在の経営環境のもとで、生産の合理化を目指すことが要求されている。合理化をはかる点からは、溶剤の利用を抑制する方法、又は溶剤が発生しない条件により本革の表面に塗膜を形成する方法を開発することを目指し、新たに転写技術を利用することにより、合理化をはかることは可能である。この場合に従来法で製造されるような、柔軟性を維持すると共に、無理な使用条件下にも耐える強靭さを兼ね備えている本革の自動車シートを得ることは期待できないとされる。塗膜層の形成方法に単に転写技術を用いるという程度のことであり、画期的進歩ということにはならない。
現在用いられている本革を用いる自動車シートでは製品の有効面積率(製造された本革面積のうち、製品に使用される面積の割合)は、4〜5割程度とされている。これは用いる本革には傷があることによるものである。従来、本革の傷などに対しては、傷の深さについて修復することを考慮することなく、傷の部分を避けて裁断を行ってきたことによるものである。この製品の有効面積率を高めることは重要である。この傷については修復することができるものもあるであろうし、修復不可能なものも含まれていることもあり得る。修復した結果、不具合が発生することもあり得ることである。
そこで、従来のスプレー塗装にかわり、傷による革表面の凹凸が塗膜表面にあらわれ難い転写技術を適用すれば、傷を視認しにくくなり全体としての有効面積率を向上できる。ただし、有効面積率の面のみからみれば、塗膜を厚くしていけば傷を隠蔽する効果が増大して容易に改善できることになるが、革に求められる耐摩耗性や耐寒性、柔軟性などの物性が損なわれることは避けなければならない。これらの点を総合的に満たせるような塗膜層の成分・構成・厚みを検討することによって、従来のスプレー塗装では達成できない新しい転写技術が開発されることになる。この点について自動車シート用天然皮革の製造技術の確立が要求されている。
【0003】
従来の革の加工に際して転写技術を利用する発明について従来技術を見てみると以下の通りである。
(1)塗膜の形成には、離型性のよいキャリアーの表面に樹脂溶液による層を設け、革の表面に中間層を介して熱転写により塗膜を形成する発明が知られている(特許文献1 特開昭54−140701号公報)。本発明では、塗膜形成に離型性媒体の表面に1種類の樹脂層を設けておいて、熱転写により塗膜を形成することができることを示している。転写に先立ち予め皮革表面に中間層を設けておくことが必要となることを述べている。この中間層は皮革にある傷に対する対策にもなることを記載しているものの、処理の内容を含めて具体的な態様は不明である。そして、中間層を形成する場合には接着剤層や多孔質層を設けること、同時に合成樹脂層を転写することを述べている。接着剤層や多孔質層、合成樹脂層は具体的に示されていないし、どのようにして塗膜の基礎となる部分を形成するかについては不明のままである。現在の自動車シートの製造方法を述べるものではない。
反応染料を含むインクをプリント又は付与した転写紙を、天然皮革に密着して転写する際に湿熱固着処理する転写捺染法についてもよく知られている(特許文献2 特開2010−222550号公報、特許文献3 特開2010−070737号公報、特許文献4 特開2003−027381号公報、特許文献5 特開2003−003379号公報、特許文献6 特開2002−235288号公報)。
いずれも、自動車シート用天然皮革の好ましい特性を意図する内容ではなく、転写技術を用いて色付けを行いことができることを述べるにとどまるものである。
(2)銀面の傷を考慮してその対策を講じている発明には以下の発明が知られている。
「表面に、しぼ模様を有する、膜厚が10〜60μmのポリカーボネート系ポリウレタン皮膜を成形する工程と、このポリカーボネート系ポリウレタン皮膜の裏面に天然皮革の表面を接着して表皮材を形成する工程と、その表皮材にミリング加工を施して、該表皮材の前記皮膜に小皺を、発現させる工程とを含むことを特徴とする自動車の内装用表皮材の製造方法。」及び「また、 前記皮革と皮膜との間の接着剤層がポリカーボネート系2液ウレタンより構成され、その接着剤層の厚みが30〜70μmに設定される自動車の内装用表皮材の製造方法。」(特許文献7 特開平08−81700公報)
本発明方法において用いられる天然皮革としては、銀面に傷の無い天然の高級皮革(本革)よりも安価な銀面に傷のある天然皮革が選定される。例えば、天然皮革の中の銀面のある表層部を剥ぎ取った残り、又は一般に床革と呼ばれる皮革下層部(以下、本明細書では単に「床革」という)などを指し、銀面に傷があってそのままでは使用に供し得ないような皮革が利用される(0011)。銀面に傷があってそのままでは使用に供し得ないとするものの、対応策は開示されていない。
(3)A級と分類される高級下地革を確保することが現状では困難であり、原皮に傷やピンホールが存在している低級下地革を何とか利用しなければならない状況にあるとして、(a)傷などを目立たなくさせる型押し仕上げ方法、(b)水性ボトム処理において厚膜可能なバインダーと隠蔽力の高い顔料を豊富に使用する厚肉仕上げ方法、(c)発泡バインダー等で極小の傷やピンホールを隠す仕上げ方法、(d)熱転写によって絵柄層をトップコート層に設ける仕上げ方法、(e)熱転写によって疑似皮革層をトップコート層に設ける仕上げ方法などが提案されている。いずれも適切な処理ではないとして、「 水性ボトム処理とトップコート処理とを順次に包含する天然皮革の仕上げ方法において、水性ボトム処理前に、水性ボトム処理剤の転写層を形成した熱転写フィルムによる水性ボトム処理剤の熱転写処理を行う天然皮革の仕上げ方法」の発明がある(特許文献8 特開2002−180100号公報)。皮革の表面の傷がどの程度解消されるのか不明である。
(4)バフ加工を施した本革の表面に発泡ポリウレタン層を設ける発明がある。発泡ポリウレタン層は、天然皮革様の触感や風合い、凹凸模様を有し、細やかなシワ表現が可能で、凹凸模様の消失や型流れがなく、しかも耐摩耗性および耐熱性に優れた皮革素材を目指している(0007)。「厚さ200〜1000μmの銀面層を有する天然皮革の表面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、凹凸模様を有する厚さ50〜350μmの発泡層が積層され、さらにその表面に厚さ10〜100μmの保護層が、発泡層が有する凹凸模様を消失させること無く積層されていることを特徴とする皮革素材。」(特許文献9 特開2008−265300号公報)
ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の混合物を、凹凸を有する離型性基材に塗布した後、前記混合物が粘稠性を有する状態のうちに、バフ加工を施した天然皮革の銀面層表面に貼り合わせ、エージング処理して発泡層を形成した後、離型性基材を剥離し、発泡層の表面に樹脂を塗布し、熱処理して保護層を形成する。表面に傷がある皮革の利用を述べるものではない。層としてみると、発泡層が厚すぎて革のよい特性が失われている。
【0004】
以上の経過を見てみると、以下のことが明らかになる。
現状で傷がある原皮より自動車シート用天然皮革を製造する際には5割前後に留まり、有効面積率は低い。これを改善して、傷がある原皮より有効面積率の高い自動車シート用天然皮革を得る具体的な手段を開発することが必要不可欠となる。
同時に、原皮をなめした後に、再なめし、染色及び加脂の工程を経て、乾燥後、その表面にベースコート層、カラーコート層及びトップコート層を形成することによる自動車シートは、過酷な使用条件下にさらされることから、耐摩耗性、耐摩擦性、耐光性、耐熱性、耐寒性及び耐久性など広範囲の特性が要求される。従来、この三層の塗膜の形成には、樹脂からなる塗料をスプレーコーティングなど各種の塗装手段を用いて塗布してきた。しかし、スプレーした塗料の多くが皮革の表面に塗着せず使用する塗料に無駄が出ること、溶剤系の塗料を使用すると溶剤が揮散することにより、ベースコート層、カラーコート層及びトップコート層を形成する際に、塗装現場の環境が悪化するため排気設備を要すること、また溶剤自体が無駄になるという問題点がある。不必要な材料の使用量をできるだけ抑制し、同時に塗布手段に用いてきた溶剤の使用量を抑制し安全性が高い手段で層形成を行う具体的な手段を新に見出すことが重要である。
以上の2点について改善を行って本革製である従来知られていない新規な自動車シートを発明することが重要である。ここで述べる本革製とは、自動車用シートとした場合に銀面が残されていること、そして水性ラミネート樹脂によりラミネートの手段を用いて自動車用シートの特性を有している塗膜層を形成することが望まれている。
【0005】
皮革の表面に傷がある場合には、傷のある銀面を削った床革に表面層を形成し、その上に塗膜層を形成することが行われる。銀面革が残されている天然皮革と銀面を削った床革とは製品としては、相違して取り扱われる。従来は傷のある銀面を削った床革に表面層を形成することはなく、床革として利用されてきた。床革の層形成について見てみると以下の通りである。
床皮とウレタン系樹脂表皮との間に接着剤介して合成樹脂緩衝層を設ける。この緩衝層は、床皮の表面の凹凸に対して緩衝し、凹凸による表皮への悪影響を無くして、スプリットレザーの表面平滑性、外観均一性等の外観特性を向上させる。緩衝層、表皮、接着剤による層の形成により、透湿性が向上し、かつ天然皮革様のシワ入りを容易とする(特許文献10 特開平5−345384号公報)。
革の網状層側表面に積層された発泡層と、前記発泡層の表面に積層されたポリウレタン樹脂からなる保護層とを備えたスプリットレザーである発明がある(特許文献11 特開2009−297985号公報)。
床革の表面に合成樹脂製接着剤を介してポリウレタン系樹脂からなる表皮層が積層されてなるスプリットレザーであり、接着剤層を形成する接着剤が、樹脂100重量部に対し、充填剤を10〜60重量部含有してなることを特徴とするスプリットレザー(特許文献12特開平07−242900号公報)である発明である。
皮革の表面に、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を主体とする樹脂からなる接着剤層を介して、無黄変型ポリカーボネート系ウレタン樹脂を主体とする樹脂表皮層を積層してなる皮革様シート(特許文献13 特開平07−150479号公報)の発明である。
厚さ200〜1000μmの銀面層を有する天然皮革の表面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、凹凸模様を有する厚さ50〜300μmの発泡層が積層され、さらにその表面に厚さ10〜100μmの保護層が、発泡層が有する凹凸模様を消失させること無く積層されている皮革素材(特許文献14 特開2008−265300)の発明が知られている。
厚さ0.7〜1.3mmのフレッシュサイド床革と、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、前記フレッシュサイド床革の網状層側表面に積層された発泡層と、前記発泡層の表面に積層されたポリウレタン樹脂からなる保護層とを備えたスプリットレザー(特許文献11 2009−297985号公報)の発明である。
また、前記フレッシュサイド床革が、天然皮革から銀面を取り除いた網状層と皮下組織からなる床革を厚さ方向に分割して得られる、網状層の下層部分と皮下組織を含む肉面側の床革であるスプリットレザーが知られている。本発明は、天然皮革から銀面を取り除いた床革の表面にポリウレタン樹脂からなる表皮層を設けた、所謂スプリットレザーに関するものであり、特には、床革と表皮層の一体感に優れ、外観、触感、風合いが銀面付き天然皮革に酷似しながら、インテリア資材や車輌用内装材などの高い強度が求められる産業資材用途での使用が可能なスプリットレザーに関するものである。熱処理は、ポリウレタン樹脂組成物中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるとともに、熱処理によって架橋反応を起こす架橋剤を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。床革の過剰な水分蒸発を防ぐため、熱処理は、床革自体が80℃以上の温度にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は50〜120℃であることが好ましく、より好ましくは60〜100℃である。
熱処理時間が2分間未満であると、樹脂の架橋が不十分となって耐摩耗性が得られない結果となる虞がある。熱処理時間が20分間を超えると、床革から水分が過剰に失われることにより、床革が収縮して、好ましくないシワが発生したり、触感や風合いが粗硬になったりする結果となる虞がある。保護層の厚さは、5〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。保護層の厚さは、発泡層の厚さの50%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下である。発泡層の厚さは100〜400μmであることが好ましく、より好ましくは200〜350μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−140701号公報
【特許文献2】特開2010−222550号公報
【特許文献3】特開2010−070737号公報
【特許文献4】特開2003−027381号公報
【特許文献5】特開2003−003379号公報
【特許文献6】特開2002−235288号公報
【特許文献7】特開平08−81700公報
【特許文献8】特開2002−180100号公報
【特許文献9】特開2008−265300号公報
【特許文献10】特開平5−345384号公報
【特許文献11】特開2009−297985号公報
【特許文献12】特開平07−242900号公報
【特許文献13】特開平07−150479号公報
【特許文献14】特開2008−265300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、皮の前処理工程、皮のなめし工程、革の再なめし、革の染色、及び加脂工程、及び乾燥処理する工程を経て得られた天然皮革であり、この天然皮革の表面には前記処理工程以前より傷による凹凸が存在していることが問題となっていた。このような皮革の表面では、傷による凹凸を隠蔽することが必要とされている。
傷による凹凸を隠蔽することが必要とされる天然皮革及びその天然皮革の製造方法を合理化する点から考えると、天然皮革製品としての有効面積率を高くすることを考慮しつつ、天然皮革の表面に、傷を隠蔽すると同時に、天然皮革の特性として、柔軟性を有して、強靭さを兼ね備えている塗膜層を、接着剤層を介して設けている自動車用天然皮革を提供することが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明者らは前記の課題を解決すべく皮革の製造の研究及び開発に長年にわたり、前記解決しようとする課題で示される自動車シート用天然皮革の製造をめざしてきた。このような特性の天然皮革を製造することができれば理想的である。実際に塗膜層を形成して諸特性を測定して検討してみると、理想とほど遠いことがわかった。具体的には、全部の特性を有する天然皮革を得ることは困難であることがわかった。
(2)革の表面に以下に述べる膜を形成して、傷を隠蔽する塗膜層を形成すると同時に、柔軟性を有していると共に、強靭さを兼ね備えている塗膜層が必要となる。このような塗膜層を形成することについて述べる。
(3)傷を隠蔽する塗膜層については傷を隠蔽するという要求を完全に満たすためには、深い傷に対処することが有効であり、傷を完全に隠蔽する塗膜層は厚い層とならざるをえない。一方では塗膜層は、薄い塗膜層の形成を目指し、天然皮革の味わいを残すと共に柔軟性と強靭性を兼ね備えている塗膜層の形成を意図していることは理解しているつもりではあるものの、もっとも考慮すべき役割を果たさない結果になりかねない。
(4)本発明者らは、一定の厚さの塗膜層を積層して形成した剥離シートを用いて天然皮革の表面に塗膜層を形成する方法を採用した。塗膜層を有する剥離シートを用いて天然皮革の表面に膜厚の制御を一定に保つことができ、また塗料の塗着効率は100%に近い値となる。溶剤系塗料に替えて水性塗料を用いれば、排気設備を必要としないなどの長所を有している。さらに、スプレー噴射を用いて薄い層を形成すると、一定化した厚さの塗膜を形成できることとなる。適度の艶のある薄い塗膜の形成に、スプレー噴射を用いる場合には剥離シートでは対応できないことが可能になるので、有効な方法となる。
(5)以上の条件を満たす塗膜層を想定し実験を繰り返し、これらの結果より総合判断して適切な塗膜層とすることを決定することが可能となる。
(a)特定の厚さの塗膜層を形成すべく、本発明者らは天然皮革の塗膜層の一部に自動車シート用天然皮革形成用転写紙を用いて、以上述べてきたことに合致するもっとも良好な塗膜層を形成できた。
(b)塗膜を形成するためには、以下のような塗膜層とすることが有効であるとした。
ポリウレタン樹脂分散液、ポリウレタン艶消し剤、アクリル艶消し剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤からなる組成物を、自動車シート用天然皮革形成用転写紙により転写されて形成されているプレスキン層の表面に、スプレー塗布することにより形成される、耐久性付与及び艶調整の層である膜厚10〜18μmのトップコート層、耐久性付与及び色調整の層である水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤から形成される膜厚34〜41μmのプレスキン層、水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤からなる組成物により形成される膜厚28〜61μmのスキン層、接着剤、イソシアネート及び増粘剤を塗布することにより形成された膜厚30〜36μmの接着剤層が皮革表面に傷による凹凸が存在する天然皮革の表面に積層され、塗膜全体の膜厚は102〜156μmであり、自動車シート製造時の天然皮革の有効面積率は59〜66%である、自動車シート用天然皮革形成用転写紙により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている天然皮革を得ることができた。
このような塗膜層を形成する積層体は、積層体を構成する個々の層の適切な膜厚の組み合わせとして表現できること、スプレー塗布により耐久性付与及び艶調整の層である10〜18μmの膜厚のトップコート層を、耐久性付与及び色調整の層である膜厚34〜41μmのプレスキン層及び膜厚28〜61μmのスキン層を自動車シート用天然皮革形成用転写紙により形成できること、膜厚30〜36μmの接着剤層を含めて塗膜全体の膜厚は102〜156μmであり、この塗膜を形成することにより、自動車シート製造時の天然皮革の有効面積率は、有効面積率は55%程度の状態から、59〜66%に向上することを本発明者らは見出した。製造方法の改善に寄与できたことを実感した。また、前記自動車シート用天然皮革のワイゼンビークによる平面摩耗性(回数)は乾布で170〜300、湿布で170〜300である結果を得た。天然皮革の耐摩耗性に関する特性として、良好な結果を得た。また、柔軟性に関する特性として、良好な結果を得た。
(c)このような塗膜層を形成する積層体を製造するための転写紙は以下のとおりである。
剥離シートであるフィルムの表面に、耐久性付与及び色調整の層となる、水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤から形成される34〜41μmのプレスキン層、このプレスキン層の表面に、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための層となる、水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤から形成される28〜61μmスキン層、次に、このスキン層の表面に、接着剤、イソシアネート及び増粘剤を塗布することにより形成した30〜36μmの接着剤層を積層して形成した自動車シート用天然皮革形成用転写紙を用いた。
前記耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層の表面には、天然皮革に塗膜層を転写した後で、水性ポリウレタン塗料組成物をスプレー塗布することにより、耐久性付与及び艶調整の層であるトップコート層を形成することを併用する。艶調整は、自動車シート用天然皮革の外観上重要であるが、ラミネートでトップコートを形成した場合には、表面が平滑な剥離シートを使用した場合は艶消し効果が得られないなど、艶の程度が剥離シート表面の平滑性に影響され調整が困難なためである。このようにする結果、要求に耐える理想的な塗膜の形成が可能となった。
従来の天然皮革の塗膜形成にあたっては、なめし工程、再なめし、染色、及び加脂工程を得た天然皮革の表面に塗膜を形成する際に、各塗膜の果たす役割に応じて、ベースコート層、カラーコート層及びトップコート層を設けている。ベースコート層は天然皮革に接して設けられており、塗膜層の基礎を形成するものであり、塗膜層に対して土台を形成することを目的としている。
本発明では、従来の塗膜層のベースコート層に相当する部分が、スキン層になっている。スキン層は皮革表面の傷による凹凸を隠蔽する層であり、水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤から形成されることが有効とされるものである。
本発明者らは、表面の凹凸を隠蔽するために、更にスキン層を設けて対処した(スキン層1.このスキン層1は発泡剤を添加しておらず、アルミナシリケートからなる充填剤、及び増粘剤を添加して形成している。)。しかしながら、順次検討を進めるうちに、このスキン層(スキン層1)は、むしろ不要であることがわかり、設けないこととして、解決をはかった。
スキン層に隣接して耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層を設けた。隣接するプレスキン層は軟質水性ポリウレタンに水性硬質ポリウレタンを添加している。耐久性付与は軟質水性ポリウレタン及び水性硬質ポリウレタンにアルミナシリケートからなる充填剤を組み合わせて用いることにより行った。
色調整には製品を着色するための顔料を用いる。このほかに増粘剤及びレべリング材を用いる。これらの塗膜層は天然皮革の表面に固定する必要があり、又、塗膜層に摩擦力が付与された際にも剥がれることを防止することなどを意図している。
以上の結果、自動車シート製造時の有効面積率は59.8〜65.8%に拡大することができる。この内容は実験により明らかにすることができた。
天然皮革に塗膜を設けた場合の特性は、塗膜層のワイゼンビークによる平面摩耗性(回数)は乾布で170〜300、湿布で170〜300、テーバーによる磨耗性は5000回以上である。耐屈曲性は常態で縦横5.0、平均で5.0、塗膜密着性(N/25mm)で平均25〜35であり、満足できる結果となった。合理的な計測手段を導入して合理化を推進できたことは、自動車用シートを意図した皮革産業に携わるものとして画期的な技術である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、(a)耐久性付与及び艶調整の層であるトップコート層、耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための発泡層であるスキン層が積層された状態として、接着剤により皮革の表面に形成されている自動車シート用天然皮革形成用転写紙により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている天然皮革を得ることができる。
対象となる天然皮革は、皮の前処理工程、皮のなめし工程、革の再なめし、革の染色、及び加脂工程、及び乾燥処理する工程を経て得られた天然皮革であり、天然皮革の表面に傷による凹凸が存在するものであること。また、前記耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための発泡層であるスキン層が積層された状態とする。接着剤層により革の表面にこられの層を固定する。スキン層には、隣接して耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層を設けておくことが必要となる。さらに、塗膜層の表面には、水性ポリウレタン塗料組成物を塗布により耐久性付与及び艶調整の層であるトップコート層をスプレー塗布により形成することが必要となる。
天然皮革の表面に形成される塗膜層はトップコート層、プレスキン層、スキン層及び接着剤層により形成され、膜厚10〜18μmのトップコート層、膜厚34〜41μmのプレスキン層、膜厚28〜61μmのスキン層、及び膜厚30〜36μmの接着剤層が皮革表面に配置され、表面に積層される。塗膜全体の膜厚は102〜156μmである。自動車シート製造時の有効面積率は59〜66%である、自動車シート用天然皮革形成用転写紙により形成された塗膜層により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている天然皮革である。自動車シート用天然皮革形成用転写紙により形成された塗膜層により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている天然皮革の特性は、ワイゼンビークによる平面摩耗性(回数)が乾布で170〜300、湿布で170〜300であり、テーバーによる磨耗性が5000回以上、耐屈曲性が常態で縦横5.0、平均で5.0、塗膜密着性(N/25mm)が平均で25〜35である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の表面に塗膜層を形成した天然皮革の断面図(実施例6の場合)を示している。
【図2】本発明の表面に塗膜層を形成した天然皮革の断面図(実施例1の場合)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の自動車シート用天然皮革は以下のとおりである。
耐久性付与及び艶調整の層であるトップコート層、耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための発泡層であるスキン層が積層された状態として、接着剤層により天然皮革の表面に形成されている自動車シート用天然皮革である。
【0012】
本発明の自動車用シ−トの被覆材として用いられる天然皮革を製造する工程は、以下のとおりである。
皮をなめすための準備工程、クロム又はクロムフリーなめし剤によるなめし工程、芳香族スルホン酸(主としてナフタレン及びフェノールのスルホン酸)のホルムアルデヒド縮合物などの合成なめし剤による再なめし・染色・加脂工程とこれに続く乾燥工程、及び仕上げ工程からなる一連の工程を得て製造される天然皮革であって、再なめし・染色・加脂工程とこれに続く乾燥工程がセッター工程、がら干し乾燥工程、味取り工程、空打ち工程、ネット張り工程、バイブレーション工程及びバフ工程からなり、裏のり工程を経た後、天然皮革を自動車シートや自動車内装用部品に用いた場合の耐摩耗性、触感の向上及び色の調整などを行い、本発明では新たに傷を隠蔽することができる塗膜の形成を併せて行うものである。
【0013】
天然皮革の表面の傷を隠蔽する場合には、傷の表面に塗膜を形成して、傷による凹部を埋めて他の部分と同じ面になるように塗膜を形成することにより行うことが有効である。
物品の表面に見られる凹みを修復することと変わるところはない。傷による凹部の形状に合わせて、補修剤を送りこむことが行われる。この場合に傷を完全に隠蔽するようにするためには、深い凹部に対しても完全に埋めつくすように塗膜を形成することが考えられる。天然皮革の表面に形成する塗膜は天然皮革の特徴を活かすことを考えて、塗膜層はできるだけ薄い層であることと同時に、柔軟性を有していると共に、強靭さを兼ね備えている塗膜層を形成してきた。深い凹部に対しても完全に埋めつくすために必要となる塗膜の高さと、天然皮革の特性を十分に発揮するための天然皮革の表面に形成する塗膜層の高さは一致しない。ある程度の深さの凹部の修復を心がけることにより修復する膜の厚さを一定の範囲に抑制すると共に、天然皮革の表面に形成する塗膜の膜厚をある程度厚くするという要求に応えると共に、塗膜層はできるだけ薄い層であることと同時に、柔軟性を有していると共に、強靭さを兼ね備えている塗膜層を形成しなければならない。
【0014】
本発明の自動車シート用天然皮革形成用転写紙により形成された塗膜層により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている天然皮革は以下のとおりである。
【0015】
ポリウレタン樹脂分散液、シリカを含まないポリウレタン艶消し剤、アクリル樹脂からなる艶消し剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤からなる組成物をスプレー塗布することにより形成される、耐久性付与及び艶調整の層である10〜18μmの膜厚のトップコート層が存在する。
このトップコート層は、以下に述べる自動車シート用天然皮革形成用転写紙により天然皮革の表面に形成される塗膜層の表面にスプレー噴射によって形成される。
トップコート層は、以下の組成物から形成される。ポリウレタン樹脂分散液20〜30重量%、シリカを含まないポリウレタン樹脂からなるポリウレタン艶消し剤15〜20重量%、アクリル樹脂からなる艶消し剤15〜20重量%、レベリング剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤及び顔料15〜20重量%、水15〜25重量%(合計100重量%)。
【0016】
自動車シート用天然皮革形成用転写紙により天然皮革の表面に形成される塗膜層は、天然皮革の表面から順に、接着剤層、スキン層、プレスキン層である。トップコート層は、プレスキン層の表面にスプレー噴射により形成される。
【0017】
スキン層は、皮革表面の傷による凹凸を隠蔽する層として設けられている。スキン層は、専ら皮革表面の傷による凹凸の隠蔽を目指す。傷による凹凸を隠蔽するために凹凸をなくすこととなるが、凹凸すべてを覆い隠すというものではなく、傷を限定的に覆い隠す。その材料としては、水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤から形成される。厚みは28〜61μmである。この厚さにすると皮革表面の凹凸個数の9割程度を隠蔽することが可能となる。天然皮革に塗膜を形成する場合に例えると、スキン層はベース層に相当する。平坦で安定した基盤を形成することとなる。発泡層として形成したことにより、凹部の隠蔽には有効である。発泡した状態の層では通常の皮革の表面に形成される塗膜層では耐久性の点で十分でないという指摘に対しては他の層を積層して、積層した全体で、塗膜層の特性に合わせて解決を図ることとなる。具体的には、耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層をスキン層の上面(天然皮革と反対側)に隣接して設置する。
皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のためのスキン層を形成する組成物は、水性ポリウレタン分散液60〜70重量%、発泡剤20〜30重量%、顔料及び増粘剤10〜20重量%(合計100重量%)である。
スキン層は皮革表面の傷による凹凸を隠蔽する層であるから、軟質水性ポリウレタンを用いて、発泡剤により微細な発泡層とすることにより有効としたものであり、この点が従来のベース層と相違する点である。当初は、表面の凹凸を隠蔽するために、更にスキン層を設けて対処した(スキン層1、スキン層1は発泡剤を添加しておらず、アルミナシリケートからなる充填剤、及び増粘剤を添加している。)。しかしながら、後の検討の結果、このスキン層(スキン層1)を不要とすることにより、解決した。
【0018】
スキン層の上面(天然皮革と反対側)には、耐久性付与及び色調整の層となる、水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤から形成される34〜41μmのプレスキン層が設けられている。
プレスキン層は、以下の組成物から形成される。水性硬質ポリウレタン樹脂分散液40〜44重量%、水性軟質ポリウレタン樹脂分散液40〜44重量%、レベリング剤1.5〜2.5重量%、顔料6〜12重量%、充填剤3〜5重量%、及び増粘剤2.5〜3.5重量%(合計100重量%)。
【0019】
スキン層の下面(天然皮革側)には、接着剤90〜96重量%、イソシアネート3〜6重量%及び増粘剤1〜2重量%(合計100重量%)からなる組成物を塗布することにより膜厚30〜36μmの接着剤層が積層して形成され、スキン層はこの接着剤層により天然皮革上に固定される。接着剤層を形成する組成物は、以下のとおりである。接着剤90〜95重量%、脂肪族シアネート4〜6重量%及び増粘剤2〜4重量%(合計100重量%)。
【0020】
上記皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている天然皮革を製造するためには以下の自動車シート用天然皮革形成用転写紙を用いる。
剥離シートであるフィルムの表面に、耐久性付与及び色調整の層となる、水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤から形成される膜厚34〜41μmのプレスキン層、このプレスキン層の表面に、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための層となる、水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤から形成される膜厚28〜61μmのスキン層、次に、このスキン層の表面に、接着剤、イソシアネート及び増粘剤を塗布することにより形成した膜厚30〜36μmの接着剤層を積層して形成したことを特徴とする自動車シート用天然皮革形成用転写紙。
【0021】
前記自動車シート用天然皮革転写紙を、接着剤層が天然皮革の表面に接するようにして天然皮革の表面に圧着し、次に剥離シートを取り除くことによって、耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層を、水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤からなる組成物により、34〜41μmの膜厚でスキン層の表面に積層し、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための発泡層であるスキン層を水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤からなる組成物により、28〜61μmの膜厚で接着剤層の表面に積層して自動車シート用天然皮革に固定した後、ポリウレタン樹脂分散液、ポリウレタン艶消し剤、アクリル艶消し剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤からなる組成物をプレスキン層の表面にスプレー塗布することにより耐久性付与及び艶調整の層であるトップコート層を10〜18μmの膜厚で形成することにより自動車シート用天然皮革が製造される。
【0022】
前記の層を形成するに当たり、用いる材料物質は以下のとおりである。
スキン層は、水性ポリウレタン分散液60〜70重量%、発泡剤20〜30重量%、顔料及び増粘剤10〜20重量%(合計100重量%)の組成物から形成される。
樹脂としては、水性軟質二液性ポリウレタン樹脂が用いられる。
前記水性ポリウレタン分散液としては、以下のようにして製造される。(A)水系ポリウレタン分散体が、(a)〜(c)成分を反応させて得られたものであり、かつポリウレタン主鎖の末端基がOH基である水系ポリウレタン分散体として製造される。 (a)1分子中に2つ以上のイソシアネート基を含有する有機ポリイソシアネート化合物。 (b)1,4−ブタンジオール系(1)及び1,6−ヘキサンジオール系(2)の繰返し単位からなり、(1)/(2)=80/20〜20/80(モル比)であり、末端基が水酸基である脂肪族ポリカーボネートジオール。 (c)カルボキシル基及び/又はスルホン基含有ポリオールもしくはその塩(たとえば、特開2008−303285号公報などに記載されている)。
水性軟質ポリウレタンとしては、以下の市販品を好適に使用することができる。ASTACIN FINISH PUM、ASTACIN FINISH SUSI、NOVOMATT GG(以上BASF社製)、AQUALEN TOP 2003.A、AQUALEN TOP 2007.A、AQUALEN TOP D−2012.B、AQUALEN TOP D−2019、PROMUL95.A(以上CLARIANT社製)、LCCバインダーUB−1450、UB−1650F(以上DIC社製)、BAYDERM FINISH 60UD、BAYDERM BOTTOM 51UDBAYDERM BOTTOM DLV、BAYDERM FINISH 50UD、BOTTOM CTR、HYDRHOLAC 3089、HYDRHOLAC HW−G HYDRHOLAC TS(以上LANXESS社製)、RH−6663、RH−6677、RU−3906、WT-13−486、WT−2524(以上STAHL社製)。
【0023】
発泡剤は以下のとおりである。
ポリウレタン樹脂/アクリル樹脂混合発泡剤は、EUDERM X−Grade MPである。
顔料はPigmentmixを用いる。
増粘剤 ACRYSOL RM825(1:2)を用いる。
【0024】
前記のスキン層は天然皮革の表面に接着剤層を介して固定される。接着剤層は塗膜層全体を天然皮革の表面に固定するものであり、塗膜層に摩擦力が付与された際にも剥がれることを防止することなどを意図している。
接着剤層は、接着剤90〜95重量%、及び脂肪族シアネート4〜6重量%及び増粘剤2〜4重量%(合計100重量%)の組成物により形成される。スキン層は接着剤、イソシネート及び増粘剤を添加した組成物により形成された膜厚が30〜36μmである接着剤層により天然皮革の表面に固定される。
接着剤は、ポリイソシアネート官能性、ポリエポキシド官能性、ポリ無水物官能性またはポリケトン官能性化合物またはポリマーおよび反応性水素を含む化合物との混合物であって、反応性水素を含む化合物を前記反応性水素を含む化合物に対して無反応の物質中に分散させ、混合は周囲の条件に無反応または反応性に乏しいが、選択条件下では高反応性である混合物を、周囲の温度で基材に塗布し、その後、高い温度で前記化合物を反応させる(シュタール 特表2003−510431号公報)。具体的には、LEVACAST FOND PG2を用いる。
脂肪族ポリイソシアネートには、AQUADERM XL50を用いる。
増粘剤 ACRYSOL RM825(1:2)を用いる。
【0025】
耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層をスキン層に隣接して設ける。塗膜層に耐久性を付与するために設けるものである。同時に色調整を行う。
スキン層は耐久性付与という点では十分でないので、隣接するプレスキン層は、水性軟質ポリウレタン分散液に水性硬質ポリウレタン分散液を添加して用いる。
レべリング剤、着色するために顔料、充填剤及び増粘剤を用いる。水性軟質ポリウレタン分散液(40〜45重量%)に水性硬質ポリウレタン分散液(40〜45重量%)、レべリング剤、顔料、充填剤、及び増粘剤(20〜10重量%)(合計100重量%)からなる組成物を用いる。天然皮革に塗膜を形成する場合に例えると、スキン層はカラーコート層に相当する。プレスキン層は膜厚34〜41μmの範囲の層とする。
【0026】
ポリウレタン分散液には、水性硬質ポリウレタンと水性軟質ポリウレタンを混合して用いる。
水性硬質ポリウレタンとしては、以下の市販品を好適に使用することができる。ASTACIN MATTING MA、ASTACIN FINISH PF、ASTACIN FINISH PE、ASTACIN FINISH PFM、ASTACIN TOP LH(以上BASF社製)、AQUALEN TOP 2006.B(CLARIANT社製)、FINISH BB、BAYDERM FINISH 61UD、AQUADERM FINISH HAT、BAYDERM FINISH DLH、 BAYDERM FINISH 71UD、BAYDERM FINISH 80UD、BAYDERM FINISH 95UD(以上LANXESS社 製)、WT−7370、WT−2511(以上STAHL社製)、HUX−561M1(アデカ社製)。
水性軟質ポリウレタンとしては、以下の市販品を好適に使用することができる。ASTACIN FINISH PUM、ASTACIN FINISH SUSI、NOVOMATT GG(以上BASF社製)、AQUALEN TOP 2003.A、AQUALEN TOP 2007.A、AQUALEN TOP D−2012.B、AQUALEN TOP D−2019、PROMUL95.A(以上CLARIANT社製)、LCCバインダーUB−1450、UB−1650F(以上DIC社製)、BAYDERM FINISH 60UD、BAYDERM BOTTOM 51UDBAYDERM BOTTOM DLV、BAYDERM FINISH 50UD、BOTTOM CTR、HYDRHOLAC 3089、HYDRHOLAC HW−G HYDRHOLAC TS(以上LANXESS社製)、RH−6663、RH−6677、RU−3906、WT-13−486、WT−2524(以上STAHL社製)。
レべリング剤としては、AQUADERM Fluid Hを挙げることができる。
顔料にはPigmentmixを用いることができる。
充填剤にはアルミニウムシリケートEUDERM Paste Doをあげることができる。
増粘剤には、ACRYSOL RM825(1:2)の混合物を用いることができる。
【0027】
トップコート層を、プレスキン層の表面に形成する。
以下のトップコート層を採用した。
耐久性付与及び艶調整の層としてトップコート層を設ける。これは耐久性付与とつや消しのための層である。スキン層及びプレスキン層の形成には剥離シート上に形成したこれらの層を、天然皮革の表面に移して塗膜層を形成する。
トップコート層を形成するためには前記の剥離シートにトップコート層となる層を形成しておくことによりプレスキン層の表面にトップコート層を形成することができる。しかしながら、このようにして形成したトップコート層は、剥離シート表面が平滑であるとつやを発生し、自動車シートとしては好まれない結果となる。実際に設けられたトップ層は光沢を帯びてしまい、塗膜の表面としては適当でない。そこで、光沢が出ないようにつや消し剤を添加して、スプレー塗装によりトップコート層を形成する。
トップコート層の形成には、ポリウレタン樹脂分散液、シリカを含まないポリウレタン樹脂からなるポリウレタン艶消し剤、アクリル樹脂からなる艶消し剤、レベリング剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤及び顔料からなる組成物を用いる。
ポリウレタン樹脂分散液は20〜30重量%、シリカを含まないポリウレタン樹脂からなるポリウレタン艶消し剤15〜20重量%、アクリル樹脂からなる艶消し剤15〜20重量%、レベリング剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤及び顔料15〜20重量%、水15〜25重量%(合計100重量%)である。
トップコート層の膜厚は、10〜18μmである。
【0028】
ポリウレタン分散液には、水性硬質ポリウレタンを用いる。以下の市販品を好適に使用することができる。ASTACIN MATTING MA、ASTACIN FINISH PF、ASTACIN FINISH PE、ASTACIN FINISH PFM、ASTACIN TOP LH(以上BASF社製)、AQUALEN TOP 2006.B(CLARIANT社製)、FINISH BB、BAYDERM FINISH 61UD、AQUADERM FINISH HAT、BAYDERM FINISH DLH、 BAYDERM FINISH 71UD、BAYDERM FINISH 80UD、BAYDERM FINISH 95UD(以上LANXESS社 製)、WT−7370、WT−2511(以上STAHL社製)、HUX−561M1(アデカ社製)。シリカフリーポリウレタンつや消し剤は、以下の市販品を好適に使用することができる。NOVOMATT GG(BASF社製)、Aquqlen Top DP―2100、Top DP―2055、Top DP−2100、MELIO 09―R―100(以上Clariant社製)、AQUADERM Matt 100(LANXESS社製)、WT―21―431、WT―21―412、WT―13―485、WT―13―985(以上Stahl社製)。
アニオン系イソシアネート官能性アニオン系ポリウレタンプレポリマーを、第3級アミノ官能性ウレタンオリゴマーまたはポリマー存在下の水中に分散させ、水中への分散時または分散後に、反応性水素官能性物質を用いてアニオン系ポリウレタンプレポリマーを鎖伸長させて得られるウレタン分散液(シュタール 特表2003ー511529号公報)
A)脂肪族、(脂環式)脂肪族又は脂環式のポリイソシアネート及びヒドロキシル基含有の化合物をベースとする、40〜130℃の融点、5質量%未満の遊離NCO含量及び6〜18質量%のウレットジオン含量を有する少なくとも1種のウレットジオン含有の粉末塗料硬化剤、B)40〜130℃の融点及び20〜200mgKOH/グラムのOH価を有する少なくとも1種のヒドロキシル基含有のポリマー、C)式[NR[R-[式中、R〜Rは同時に又は互いに無関係に1〜18個の炭素原子を有するアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、アルコキシアルキル基(それぞれ直鎖状又は分枝鎖状であり、非架橋又は別の基R〜Rと環、二環又は三環を形成して架橋しており、架橋原子は炭素の他にヘテロ原子であってよい)を表し、かつどの基R〜Rも更に1つ以上のアルコール基、アミノ基、エステル基、ケト基、チオ基、ウレタン基、尿素基、アロファネート基、二重結合、三重結合又はハロゲン原子を有していてよく、RはOH又はFのいずれかを意味する]で表される少なくとも1種の触媒を主に含有し、A)及びB)の両者の成分が、成分B)の各ヒドロキシル基に対して成分A)の0.3〜1個のウレットジオン基が割り当てられる比で存在し、かつC)における触媒の割合が成分A)及びB)の全体量の0.001〜3質量%であるポリウレタン−粉末塗料組成物。特開2003−238891号公報(P2003−238891A)デグッサ 皮革被覆組成物)
アクリルつや消し剤HYDHRHOAC AD−1
水性ポリマー分散液の製造法であって、その際に最初にアクリル酸、メタクリル酸またはその誘導体を適当な触媒により重合させる、水性ポリマー分散液の製造法において、その後にこうして得られた、未反応の残留モノマーの全体量または部分量で膨潤されているポリマーに最後の工程で表面活性剤および水を添加し、この場合も最後の工程で得られたポリマーは、完全には残留モノマーと分離されていないことを特徴とする、水性ポリマー分散液の製造法(特表2006−511629号公報 BASF)。
シリコーン誘導体 ROSILK2229W
レベリング剤 AQUADERM Fluid H
増粘剤 ACRYSOL RM1020
イソシアネート架橋剤 AQUADERM XL―DI
【0029】
以上により天然皮革の表面に形成する塗膜層については以下の通りの性状となる。
塗膜層全体の厚みは、102μmから156μmであること、
トップコート層は、10〜18μmであること、
プレスキン層は34〜41μm、
スキン層は28〜61μm、
接着剤層は30〜36μmである。
この塗膜層を設けたことにより、有効面積率は55%程度の状態から、60〜66%程度に上昇させることができる。
特性の測定結果は以下の通りである。
塗膜層のワイゼンビークによる平面摩耗性(回数)は乾布で170〜300、湿布で170〜300、テーバーによる磨耗性は5000回以上である。耐屈曲性は常態で縦横5.0、平均で5.0、塗膜密着性(N/25mm)で平均25〜35である。自動車シート製造時の有効面積率は59.8〜65.8%である。
【0030】
スキン層及びプレスキン層となる塗膜層をフィルム(剥離材)の表面に形成する方法は以下の通りである。
剥離シートであるフィルムの表面に、耐久性付与及び色調整の層となるプレスキン層を、乾燥後の膜厚が34〜41μmとなるように、水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤からなる組成物よりドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させることにより形成する。
【0031】
次に、プレスキン層の表面に、スキン層となる塗膜層を、ドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させる。スキン層には水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤を混合して用いる。スキン層は、乾燥後膜厚が28〜61μmとなるように形成する。
【0032】
次に、スキン層の表面に、接着剤、イソシネート及び増粘剤を添加した組成物からなる接着剤層を、ドクターブレードを用いて塗布して形成し積層することにより自動車シート用天然皮革形成用転写紙を製造する。接着剤層は、厚さ30〜36μmの範囲の層とする。
【0033】
自動車シート用天然皮革の製造方法は、以下のようにして行う。
前記自動車シート用天然皮革形成用転写紙を接着剤層が天然皮革の表面に接するようにして圧着して貼り付け、次いで剥離シートを取り除くことにより、耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層を水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤からなる組成物としてスキン層の表面に積層し、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための発泡層であるスキン層を水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤からなる組成物として接着剤層の表面に積層して自動車シート用天然皮革に固定した後、ポリウレタン樹脂分散液、ポリウレタン艶消し剤、レベリング剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤からなる組成物を、耐久性付与及び艶調整の層であるトップ層としてプレスキン層の表面にスプレー塗布することにより自動車シート用天然皮革を製造する。
【0034】
塗膜厚みの測定は、マイクロスコープにより行った。マイクロスコープで皮革サンプルの断面を観察、10か所で厚みを測定した平均値を塗膜厚みとした。
【0035】
有効面積率の測定は次のように行った。
まず、製造された自動車シート用天然皮革(半裁革、牛1頭分の皮革を背中で2等分したもの)の面積を測定する。次に、皮革の表面を観察し、一定の基準を超えた傷に印をつける。次に、自動車シートのパーツをこの傷を避けるようにとり、とることのできたパーツの総面積の半裁革面積に対する割合(パーセント)を有効面積率とする。
【0036】
ワイゼンビーク平面摩耗性の評価は次のように行う。
乾布を用いる場合と湿布を用いる場合がある。
乾布を用いる場合の耐摩耗性の評価は、以下の通りである。
長さ230mm×幅約60mmの試験片を、縦方向(頭―尻方向)と横方向(背―腹方向)からそれぞれ1枚ずつとる。その後、ワイゼンビーク摩耗試験機(Wyzenbeek Tester、SCHAP SPECIALTY MACHINE、INC.製)に固定し、摩擦子に乾布の綿帆布を用い、試験片と接触させる。
往復摩耗を行い、塗膜が剥がれ下地が見えた摩耗状態の摩耗回数で摩耗性能を評価する。170回以上であれば、経験に基づいて自動車シート用天然皮革として好適であると判断する。湿布を用いる場合の耐摩耗性の評価は、以下の通りである。
摩擦子に使用する綿帆布を水に十分に浸したあとで前記摩擦試験を行う。摩擦試験方法は、乾布試験と同じ。縦横平均170回以上であれば、経験に基づいて自動車シート用天然皮革として好適であると判断する。
乾布及び湿布でテストする。
【0037】
以下に実施例により本発明の内容を説明する。
【0038】
以下の実施例に際しては、次に記載する組成物により以下の層を形成した。そして各実施例では形成した各層の厚さを示した。
プレスキン層
水性硬質ポリウレタン樹脂溶液5kg(42重量%)、水性軟質ポリウレタン樹脂溶液50kg(42重量%)、レベリング剤0.2kg(2重量%)、顔料1kg(9重量%)、充填剤0.5kg(4重量%)、増粘剤0.3kg(3重量%)及び増粘剤0.4kg(3重量%)
スキン層1
水性軟質ポリウレタン分散液10kg(83重量%)、レベリング剤0.15kg(1重量%)、顔料1kg(8重量%)及び充填剤0.5kg(4重量%) 途中で使用をやめた層である。
スキン層2
水性軟質ポリウレタン分散液7kg(62重量%)、発泡剤3kg(27重量%)、顔料1kg(9重量%)、及び増粘剤0.3kg(3重量%)。
接着剤層
接着剤層10kg(94重量%)、脂肪族ポリイソシネート0.5kg(5重量%)、及び増粘剤0.2kg(2重量%)である。
トップコート層
水性硬質ポリウレタン樹脂2.5kg(25重量%)、シリカフリーポリウレタンつや消し剤1.9kg(19重量%)、アクリルつや消し樹脂1.9kg(19重量%)、水2kg(20重量%)、シリコーン誘導体0.7kg(7重量%)、レベリング剤0.1kg(1重量%)、増粘剤0.1kg(1重量%)、及びイソシアネート架橋剤0.8kg(8重量%)
【実施例1】
【0039】
各層の厚さは以下のとおりであった。
トップコート層の膜厚 11.25μm
プレスキン層の膜厚 43.97μm
スキン層1膜厚 53.09μm
スキン層2膜厚 70.81μm
接着剤層 35.81μm
合計 膜厚 214.93μm

物性試験結果
ワイゼンビーク摩耗性
(平均摩耗値) 乾布 平均147.5(回)
湿布 平均157.5(回)
有効面積率 65.9%
物性試験結果の詳細は表1にまとめて示してある。
図2に天然皮革の部分断面図を示した。
【実施例2】
【0040】
トップコート層の膜厚 10.63μm
プレスキン層の膜厚 28.38μm
スキン層1膜厚 26.09μm
スキン層2膜厚 36.37μm
接着剤層 31.86μm
合計 膜厚 133.33μm

物性試験結果
ワイゼンビーク摩耗性
(平均摩耗値) 乾布 平均300.0(回)
湿布 平均300.0(回)
有効面積率 59.8%
【実施例3】
【0041】
トップコート層の膜厚 17.82μm
プレスキン層の膜厚 40.25μm
スキン層1膜厚 0.00μm
スキン層2膜厚 37.22μm
接着剤層 35.43μm
合計 膜厚 130.72μm

物性試験結果
ワイゼンビーク摩耗性
(平均摩耗値) 乾布 平均300.0(回)
湿布 平均300.0(回)
有効面積率 59.8%
【実施例4】
【0042】
トップコート層の膜厚 10.03μm
プレスキン層の膜厚 34.32μm
スキン層1膜厚 0.00μm
スキン層2膜厚 28.94μm
接着剤層 30.20μm
合計 膜厚 103.49μm

物性試験結果
ワイゼンビーク摩耗性
(平均摩耗値) 乾布 平均185.0(回)
湿布 平均250.0(回)
有効面積率 59.9%
物性試験結果の詳細は表1にまとめて示してある。
【実施例5】
【0043】
トップコート層の膜厚 10.18μm
プレスキン層の膜厚 28.29μm
スキン層1膜厚 0.00μm
スキン層2膜厚 33.35μm
接着剤層 23.44μm
合計 膜厚 95.26μm

物性試験結果
ワイゼンビーク摩耗性
(平均摩耗値) 乾布 平均170.0(回)
湿布 平均225.0(回)
有効面積率 54.4%
【実施例6】
【0044】
トップコート層の膜厚 10.43μm
プレスキン層の膜厚 39.20μm
スキン層1膜厚 0.00μm
スキン層2膜厚 60.84μm
接着剤層 31.36μm
合計 膜厚 142.33μm

物性試験結果
ワイゼンビーク摩耗性
(平均摩耗値) 乾布 平均300(回)
湿布 平均255.0(回)
有効面積率 65.8%
図1に天然皮革の部分断面図を示した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記の実施例の結果については、以下のとおりである。
1 実施例1の結果について
これは最初の試作結果である。
膜厚が214.93μmである。
膜厚として厚すぎる結果である。スキン層も123.9μmであり、厚すぎる結果である。
ワイゼンビーク摩耗性及び塗膜密着性の結果は低い結果となっている。
テーバー磨耗性の結果、耐もみ性、耐屈曲性、ガラス霞み性について問題なし。
有効面積率は65.9%であり、良好である。
以上の結果、膜厚をできるだけ下げること、スキン層の膜厚を下げること、ワイゼンビーク摩耗性及び塗膜密着性は、膜厚をできるだけ下げることにより接着剤層を維持すれば改善できると予測した。
2 実施例2の結果について
膜厚が133.33μm、スキン層の内の発泡層を含む層(スキン層2)を36.37μm、スキン層の内の発泡層を含まない層(スキン層1)を26.09μm、プレスキン層も28.38μmに減少させた。
ワイゼンビーク摩耗性及び塗膜密着性は改善されている。有効面積率は59.8%である。
以上の結果より、膜厚をできるだけ下げることは、ワイゼンビーク摩耗性及び塗膜密着性については有効であることを確認できた。
この結果から膜厚が133.33μmをさらに薄くすることにより、どこまで低減できるかを検討することとした。
3 実施例3の結果について
膜厚が130.72μm、スキン層の内の発泡層を含む層(スキン層2)を37.22μm、スキン層の内の発泡層を含まない層(スキン層1)を廃止、プレスキン層も40.25μmに上昇させた。
ワイゼンビーク摩耗性は実施例2とほぼ同等、塗膜密着性はやや劣る。有効面積率は59.8%で同様であった。
以上の結果より、膜厚をさらに下げる場合には、ワイゼンビーク摩耗性及び塗膜密着性に与える影響を調べることとした。
4 実施例4及び5の結果
膜厚を103.49m(実施例4)及び膜厚を95.26(実施例5)に低下させたときのワイゼンビーク摩耗性は実施例3に比較して大きく低下していることがわかった。実施例4では、自動車シート用皮革として問題の範囲を維持していたが、実施例5ではこの範囲を下回り、自動車シート用皮革としは不適当なものとなった。又実施例4では有効面積率59.9%で改善効果が認められたが、実施例5の有効面積率は従来を下回る54.4%に低下し、改善効果は認められなかった。
以上の結果より、膜厚を実施例3で示される膜厚103.49μmより薄くすることはワイゼンビーク摩耗性を自動車シート用皮革として不適当な範囲まで下げる結果となり、好ましくないことを確認した。
実施例5の場合には、実施例4に比較して塗膜密着性については上昇しているもののワイゼンビーク摩耗性が更に低下し、有効面積率も劣る結果となっている。膜厚を実施例4の103.49μmより薄くすることは結果としてよくないことがわかる。以上から、膜厚を薄くすることは実施例4の場合の近辺が限界であることがわかる。実施例2、3、及び4の結果を見てみると有効面積率の変動も少ない。逆に実施例3の場合には、大きな変化は期待できないものの有効面積率を上昇させる可能性を残している。実施例3の場合に、膜厚を少し大きな値に変化させる場合は効果が期待できる。
5 実施例6について
実施例6ではスキン層を37.22より、60.84μmに上昇させ、130.72(実施例3)であった膜厚を142.33にしたところ、画期的に上昇させることができた。
ワイゼンビーク摩耗性は実施例3と同等及びやや低い結果となっている。塗膜密着性は上昇し、有効面積率は65.8%に上昇した。実施例6のスキン層の膜厚及び膜厚を大きくすることは良好な結果を得ることができることを確認できた。
6 以上から、実施例3、実施例4及び実施例6の条件に挟まれた範囲が良好な範囲であるということができる。
具体的には以下のとおりである。
以上により天然皮革の表面に形成する塗膜層については以下の通りの性状となる。
塗膜層の厚みは以下のとおりである。
トップコート層 10〜18μm
プレスキン層 34〜41μm
スキン層 28〜61μm
接着剤層 30〜36μm
塗膜層全体 102〜156μm(各層の合計)
この塗膜層を設けたことにより、有効面積率を、59〜66%程度に上昇させることができる。
特性の測定結果は以下の通りである。
塗膜層のワイゼンビークによる平面摩耗性(回数)は乾布で170〜300、湿布で170〜300である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
皮革の表面の塗膜形成に塗膜形成の新しい方法を提案するものであり、新しいラミネーションによる塗膜形成方法として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離シートであるフィルムの表面に、耐久性付与及び色調整の層となる、水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤から形成される膜厚34〜41μmのプレスキン層、このプレスキン層の表面に、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための層となる、水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤から形成される膜厚28〜61μmのスキン層、次に、このスキン層の表面に、接着剤、イソシアネート及び増粘剤を塗布することにより形成した膜厚30〜36μmの接着剤層を積層して形成したことを特徴とする自動車シート用天然皮革形成用転写紙。
【請求項2】
ポリウレタン樹脂分散液、ポリウレタン艶消し剤、アクリル艶消し剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤からなる組成物を、表面に傷による凹凸が存在する天然皮革に自動車シート用天然皮革形成用転写紙により転写されて形成されているプレスキン層の表面にスプレー塗布することにより形成される、耐久性付与及び艶調整の層である膜厚10〜18μmのトップコート層、耐久性付与及び色調整の層である水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤から形成される膜厚34〜41μmのプレスキン層、水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤からなる組成物により形成される膜厚28〜61μmのスキン層、接着剤、イソシアネート及び増粘剤を塗布により形成された膜厚30〜36μmの接着剤層が皮革表面に傷による凹凸が存在する天然皮革の表面に積層され、塗膜全体の膜厚は102〜156μmであり、自動車シート製造時の有効面積率は59〜66%であることを特徴とする自動車シート用天然皮革形成用転写紙により形成された塗膜層により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている自動車シート用天然皮革。
【請求項3】
請求項2記載の表面に傷による凹凸が存在する天然皮革は、皮の前処理工程、皮のなめし工程、革の再なめし、革の染色及び加脂工程、及び乾燥処理する工程を経て得られた天然皮革であることを特徴とし、皮革表面の傷による凹凸を隠蔽することを必要とする自動車シート用天然皮革。
【請求項4】
請求項2記載の自動車シート用天然皮革形成用転写紙により形成された塗膜層により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている天然皮革のワイゼンビークによる平面摩耗性(回数)は、乾布で170〜300、湿布で170〜300であり、テーバーによる磨耗性は5000回以上であり、耐屈曲性は常態で縦横5.0、平均で5.0、塗膜密着性(N/25mm)で平均25〜35であることを特徴とする自動車シート用天然皮革形成用転写紙により形成された塗膜層により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている自動車シート用天然皮革。
【請求項5】
請求項1記載の自動車シート用天然皮革形成用転写紙を、接着剤層が天然皮革の表面に接するようにして天然皮革の表面に圧着し、次に剥離シートを取り除くことによって、耐久性付与及び色調整の層であるプレスキン層を、水性ポリウレタン分散液、レベリング剤、顔料、充填剤、増粘剤からなる組成物により、34〜41μmの膜厚でスキン層の表面に積層し、皮革表面の傷による凹凸の隠蔽のための発泡層であるスキン層を水性ポリウレタン分散液、発泡剤、顔料及び増粘剤からなる組成物により、28〜61μmの膜厚で接着剤層の表面に積層して自動車シート用天然皮革に固定した後、ポリウレタン樹脂分散液、ポリウレタン艶消し剤、アクリル艶消し剤、シリコーン誘導体、イソシアネート架橋剤及び増粘剤からなる組成物により耐久性付与及び艶調整の層であるトップコート層としてプレスキン層の表面にスプレー塗布により10〜18μmの膜厚で形成することを特徴とする自動車シート用天然皮革形成用転写紙により形成された塗膜層により皮革表面の傷による凹凸が隠蔽されている自動車シート用天然皮革の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−103971(P2013−103971A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247931(P2011−247931)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】