説明

皺のない弾性カバーを有する拡張可能なステント

【課題】完全展開直径に達する前にカバーが皺のない状態になることを可能にする技術でステントに独自のカバー材料を適用することによって、動作拡径範囲に亘って平滑な流動面を提供する、改良された拡張可能なステント・グラフト装置を提供する。
【解決手段】独自のカバー材料によって、装置が完全展開直径に達するまで連続的に拡張しながら、この付加的な拡張の過程において一貫した平滑な流動面を維持することが可能になる。自己拡張装置を使用する際に、装置を拘束による圧縮直径から解放すると完全展開直径まで自己拡張し、完全展開直径の約30〜50%から100%の直径範囲でグラフトには実質的に皺がない。好ましくは、グラフト成分は、シリコーン、ポリウレタンおよびPAVE−TFEコポリマーのような弾性材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種々の医療処置に使用するためのカバー付きステントに係わる。
【背景技術】
【0002】
本願明細書中に使用する下記の用語を以下に定義する。
【0003】
用語「ステント」は体内への移植を目的とする、多くは円筒状を呈し、壁を通る開口部を有するフレーム構造体を意味する。ステントは、自己拡張性であってよく、および/または力を与えて拡張させてもよい。
【0004】
ここに使用される用語「カバー付きステント」および「ステント・グラフト」はいずれもその全長の少なくとも一部にカバーが施されているステントを意味する。カバーはステントの外面、内面、または両面に施すことができ、あるいはステントをカバーそのものに埋め込むことができる。カバーは多孔質または非孔質であってよく、透過性または非透過性であってよい。カバーには活性剤または不活性剤または充填剤を付着させるか、または組み込むことができる。
【0005】
図4から明らかなように、本願明細書中に使用される用語「皺」65は隣接するステント支持ストラット68の厚さ66よりも大きい頂部から谷部までの高さ64を有するステントカバー62の折り畳みを意味する。皺はステント開口部を通してステント・グラフトの外面または内面、またはこの両方を超えて延びてもよい。皺は肉眼で観察することができ、または、例えば光学顕微鏡法のような拡大処理で観察し、測定することができる。「皺がない」とは、ステントカバーには実質的に皺がないことを意味する。
【0006】
ここに使用する用語「自己拡張」は拘束手段を取り除くと外方へ、例えば、ほぼ半径方向に拡張し、外力の助けなしで拡径する、この装置の属性を意味する。即ち、自己拡張装置は拘束機構を取り除くと同時に自力で拡径する。拘束手段としては、例えば押し出すことによってステントまたはカバー付きステント装置が解放されるチューブが挙げられるが、これに限られない。拘束用のチューブまたは鞘を破ることによって装置を解放してもよく、繊維から構成されている拘束手段なら、繊維をほぐすこともできる。拡張する前に、例えば、バルーン・カテーテルによる外力を利用すれば、拡張を円滑に開始させ、拡張中は拡張を容易にし、および/またはステントまたはカバー付きステントの展開後、さらなる拡張または完全な展開を助け装置を着座させることができる。
【0007】
本願明細書中に使用する用語「弾性」は比較的低い応力下で伸長可能であり、応力が除かれると即座にほぼ初期の寸法まで力を伴って復旧する物質の性能を指す。用語「エラストマー」は弾性である材料を指す。
【0008】
ここに使用する表現「完全な展開」とは、拘束手段が取り除かれた後、約37℃の温度において約30秒間で、何らの制約もなく自力で拡張した自己拡張ステントの状態を意味する。自己拡張ステントの1箇所または数箇所が完全に拡張し、ステントの残りの部分が完全に拡張していない場合もある。
【0009】
表現「動作直径範囲」とはステントまたはステント・グラフトが使用される直径サイズの範囲を意味し、多くの場合、装置の内径を指す。装置は多くの場合、完全展開状態に相当する直径よりも小さい直径の血管内にインプラントされる。この動作直径範囲は製品説明書または製品包装体に記載されている表示サイズであってよく、あるいは装置の使用目的に応じてより広い範囲に亘ってもよい。
【0010】
ここで使用する用語「多孔質」は、材料が小さなまたは微視的な開口または孔を有することを指す。「多孔質」は、例えば、顕微鏡検査で観察可能な孔を有する材料をも包含する。「非孔質」は、材料に実質的な孔のないことを指す。「透過性」とは、材料が流体(液体および/または気体)を通過させることが可能であることを指す。「非透過性」とは材料が流体の通過を阻止することを指す。尚、非孔質でありながら、ある種の物質を透過させることができる材料もある。
【0011】
ステントおよびカバー付きステントは外傷性損傷や疾病、特に血管疾患の治療に長い歴史を有する。ステントは血流に必要な寸法的に安定した導管を提供可能である。さらにステントはバルーン膨張後に血管が萎縮するのを防止して最大限の血液流量を維持することが可能である。カバー付きステントは装置の壁を通して血液が漏れるのを防止し、ステントを透過してその内腔に組織が成長するのを、防止できないまでも抑制するという追加の機能も提供可能である。ステントの隙間からのこのような成長はステント植え込みの所期の効果を台無しにしかねない。
【0012】
頚動脈および神経血管構造の治療に際して、カバーは血小板粒子および血管壁に対するその他の塞栓形成要因をトラップし、これらが血流に入り込んで卒中発作を惹き起こすのを防止する。ステントのカバーは動脈瘤の治療にも極めて望ましい。カバーは、充填剤またはその他の生体活性剤(抗凝血剤、抗生物質、成長抑制剤、など)を添加するための有用な基材でもあり、装置の性能を高めることができる。
【0013】
バルーン拡張可能なステント・グラフトは血管疾病の治療に関して長い歴史を有する。例えば、Palmazの米国特許第4,739,762号明細書には、多孔質ポリウレタンやPTFEのような薄く、高弾性の生物学的に不活性なコーティングか開示されている。Palmaz特許は完全展開直径よりも小さい直径状態のステントにコーティングを施すことを開示しておらず示唆してもいない。さらにまた、Palmaz特許の内容はバルーン拡張可能なステントに限定されている。
【0014】
Chouinardの米国特許第6,156,064号明細書は、自己拡張ステントにポリマーを適用するのに浸漬コーティングを利用することを開示している。ステントおよびステント・グラフトをポリマー−溶剤溶液に浸漬することによってステント表面にフィルムを形成した後、チューブにポリマー・フィルムを吹付け塗布する。少なくとも3層(即ち、ステント、移植片、および膜)を含むステント・グラフトを上記のように構成することが開示されている。
【0015】
Changほかの米国特許出願第2004/0024448A1号明細書はPAVE−TFEのようなエラストマー材料でカバーしたステントを開示している。この材料から成る自己拡張ステント・グラフトは他の材料から成る公知の製品と同様に、装置の動作全範囲に亘って皺がないわけではない。自己拡張ステントのこれらのカバーは、完全展開状態でステントに適用されるのが普通である。従って、ステント・グラフトがやや目立つ程度に潰れると皺が形成される。
【0016】
ステントカバーはステントの1箇所または数箇所または全長にわたって延在させることができる。一般に、ステントカバーは生体適合性であり且つ堅牢であることが要求される。ステントカバーには、ほぼゼロでない平均圧の周期的な応力が作用する可能性がある。従って、血圧による長時間に亘る影響に耐えるため、ステントカバーは疲労抵抗およびクリープ抵抗を有することが望ましい。ステントカバーは耐磨耗性であることも要求される。このような属性は、送達システム外形をできるだけ小さくするためにカバーをできるだけ薄くしたいという要望とは相容れない。カバーは装置の流路断面積を犠牲にして装置の血流面積をせまくすることになり、流動抵抗を増大させる。流路面積を広くすることが望ましいが、カバー付きステントを長時間に亘って動作させるには耐久性が極めて重要であろう。従って、設計上の選択として、強固な、従って、厚いカバーが好まれる場合がある。しかし、厚いカバーはその他の点では同じより薄いカバーと比較して拡張し難い。
【0017】
完全展開直径よりも小さい直径のステントに配置した、厚くて丈夫なカバーは、バルーンの極圧で拡張させることができるため、ステントの全動作範囲において皺のない、バルーン拡張可能なステントカバーがある。しかし、(例えば、Campbellほかの米国特許第6,923,827号および第5,800,552号明細書に開示されているような)ePTFEを材料とする公知の最も薄いカバーでさえ強固すぎて、最も堅牢な自己拡張ステントによる半径方向の力をもってしても拡張できない場合がある。
【0018】
そこで、完全に展開した状態のステントに、非弾性且つ非変形性の自己拡張ステントカバーを皺のない状態で取り付けるのが普通である。このようなカバー付きステントが完全展開時よりも外径が小さい状態にある時、必然的にカバーに皺が発生する。困ったことに、このような皺は、血流を妨げ、血栓を発生させ、感染症などの問題を惹き起こす部位となる恐れがある。特にカバー付きステントの入口において、皺の存在は有害となる場合がある。皺を生じたカバーの前縁と血管壁との間のギャップは、血栓の蓄積や増殖の部位となる恐れがある。皺がもたらす有害な結果は血栓で詰まり易い細い血管において特に顕著であり、脳へ血液を供給する小血管においてはさらに深刻である。
【0019】
(例えば、Myersほかの米国特許第5,735,892号明細書に開示されているように)移植可能な装置に薄く、強靭な材料を使用することは公知である。自己拡張ステントの場合もバルーン拡張ステントの場合も、延伸PTFE(ePTFE)極薄フィルムでカバーすることが開示されている。多くの場合、装置を構成する過程でこれらのフィルムを延伸することによって装置に周方向の強度を付与する。その結果、自己拡張ステントの拡張力が著しく低下し、これらの材料を拡張させることができなくなる。事実、このような装置は概して高圧に耐えるように設計される。他の公知カバーと同様に、これらのカバーは装置が完全に展開した時に初めて皺のない状態になる。
【0020】
ステントを弾性材料から成る連続的な層でカバーすることも公知である。Lukicの米国特許第5,534,287号明細書に開示されているように、ステントを半径方向に収縮させてから、内面にコーティングを施してあるチューブの内側に配置することによってステントにカバーを施すことができる。ステントを拡張させることによってチューブに施してあるコーティングと接触させる。次いで、ステントとチューブとの接触面を加硫させるなどして接合する。完全展開状態におけるステントの直径に対するチューブの直径について、この特許は言及していない。この特許は、ある実施態様において拡張状態のステントにコーティングを施すことを具体的に開示している。発明者はステントカバーの皺をなくす、または軽減する方法を教示していない。この特許は寧ろ如何にしてコーティングの厚さを増大させるかを教示し、皺の発生を助長するような製造方法を開示している。
【0021】
Changほかの米国特許出願第2004/0024448A1号明細書はPAVE−TFEのようなエラストマー材料でカバーしたステントを開示している。この材料から成る自己拡張ステント・グラフトは他の材料から成る公知の製品と同様に、装置の動作全範囲に亘って皺がないわけではない。自己拡張ステントのこれらのカバーは、完全展開状態でステントに適用されるのが普通である。従って、ステント・グラフトがやや目立つ程度に潰れると皺が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は動作拡径範囲に亘って平滑な流動面を提供する、改良された拡張可能且つ移植可能なステント・グラフト装置である。このステント・グラフトは完全展開直径に達する前にカバーが皺のない状態になることを可能にする独自の技術でステントに独自のカバー材料を適用することによって達成される。この独自のカバー材料は装置が完全展開直径に達するまで連続的に拡張しながら、この付加的な拡張の過程において一貫して平滑な流動面を維持することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の1つの実施形態はステントの少なくとも一部にグラフトカバーを取り付けた直径方向に自己拡張するステント・グラフト装置である。この装置は体腔内へ挿入するための圧縮直径に拘束されるようになっており、グラフト表面に沿って皺を形成する。但し、装置を拘束による圧縮直径状態から解放すると、完全展開直径まで自己拡張し、完全展開直径の50%〜100%の直径範囲でグラフトには実質的に皺がない。
【0024】
本発明における他の改良点として、均質な連続的なチューブまたはフィルム・チューブの形態で、弾性グラフト成分を設けることを含んでもよい。好適な弾性材料としては、シリコーン、ポリウレタンおよび種々の形態のPAVE−TFEコポリマーが挙げられる。
【0025】
材料および/または構成技術を変えることによって皺を伴わない拡張範囲を約30%〜100%またはそれより広い範囲に拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1a】ステントの外側にカバーを設けられ、拘束された状態にある本発明のカバー付きステントの1実施形態を示す45°の角度から見た斜視図である。
【図1b】図1aに示した本発明のカバー付きステントの実施形態を完全展開状態で示す45°の角度から見た斜視図である。
【図2a】本発明のカバー付きステントの実施形態を装置の完全展開外径の30%まで展開した状態を示す横断面図である。
【図2b】接着剤−ステントカバー界面が円滑に且つ徐々に移行する状態を拡大して詳細に示すとともに、本発明のカバー付きステントの実施形態を装置の完全展開外径の50%まで展開した状態を示す横断面図である。
【図2c】接着剤−ステントカバー界面が円滑に且つ徐々に移行する状態を拡大して詳細に示すとともに、本発明のカバー付きステントの実施形態を装置の完全展開外径の100%まで展開した状態を示す、図1bの2c−2c線における横断面図である。
【図3】完全展開時の本発明のカバー付きステント示す顕微鏡写真である。
【図4】ステントの外面に設けたカバーに現れる皺を例示する横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明はステント・グラフトのカバーに現れる皺の問題と取組むものである。従来、自己拡張ステント・グラフトのカバーは多くの場合完全展開直径状態のステントにカバーを取り付けるが、この完全展開直径に達するまでの展開直径状態では皺が現れた。体腔がステント・グラフトの直径と一致することは稀であり、均一な円形断面を呈することは少なく、テーパーがないことも稀であるから、自己拡張ステント・グラフトの一部または全長が完全に展開することは多くない。そのため、血液またはその他の体液の流れに対して皺のある表面を提供することになる。しかも、カバー付きステントは多くの場合、ステント自体の半径方向拡張力を利用して装置を体組織により良好に着座させ、血流による装置の移動を防止するため、完全展開直径よりも小さい直径で意図的に移植される。このような方法では、装置のカバーの少なくとも一部に皺が残ることを容認せざるを得ない。本発明では、一見互いに相反する2つの性質の組み合わせ、すなわち一定の周期的な血圧によって加えられる力に耐える強度を有する一方、自己拡張ステントによる拡張力に応答して拡張可能であるといった性質を有する、独自のステントカバー材料を使用する。
【0028】
また、このような材料を利用して自己拡張ステント・グラフトを構成するためには独自の製造方法を考案しなければならなかった。温度に制約される自己拡張ステントの形状記憶性は製造方法上の難関である。究極的には、ステントへのカバーの適用が低温環境で行なわれる製造方法が開発された。
【0029】
図1aおよび図1bに示すように、本発明は装置の動作直径範囲に亘って皺のないカバー62(または双方)を有する自己拡張ステント成分63を含む移植装置60に係わる。カバー62は拘束状態においては図1aに示すように皺65を有する。しかし、カバーがステント上に形成された所定の直径まで装置が自己拡張すると、皺が消える。図1bに示すように、完全展開直径に至るまで装置60がさらに自己拡張する過程でカバー62は皺のない状態を維持する。本発明はカバー材料を最小限に抑えながら、自己拡張ステントカバーにおける皺に関連する臨床上の問題と取り組むものである。皺が血流を妨げ、凝血塊が沈積する部位となる可能性があり、最終的にはグラフトによる血栓症および塞栓剥離を惹起する場合があることが知られている。これらの続発症は特に脳のような器官において深刻な臨床結果を招く可能性がある。単一の、極めて薄いカバーを組み込むことによって、カバーの質量または容積によってではなく、主としてステント支持ストラットの寸法によってステント・グラフト装置の外形を決定することができる。従って、本発明は所与のサイズのステント・グラフトの展開直径と広い展開直径範囲に亘る皺のないカバー面との新規の組み合わせを提供する。
【0030】
本発明において使用するステント材料としては、ニチノール(ニッケル−チタニウム形状記憶合金)およびステンレススチールが好ましい。ニチノールは形状記憶性能に優れている。記憶特性は合金を製造する過程で、ステントの使用条件に合わせて調整することができる。また、ステントの製造に使用されるニチノールは、例えば、編んだり熔接したりできるワイヤーでもよいし、ステントを切り取られるチューブ原料であってもよい。ニチノールは多様なステント・デザインの選択を可能にするが、ステンレススチールなども多様な形状および構造に形成することができる。
【0031】
本発明のステントカバーは耐久性に優れ、生体適合性であることが好ましい。本発明のステントカバーは自己拡張ステントによる最小限の力で拡張されることを可能にする低い引張弾性係数を有する。また、ステントが拡張した後、カバーがステント・グラフトを経時で縮径させないように、カバーの弾性反跳力を最小限(またはゼロ)にする。カバーはまた薄いことが好ましい。薄いということには、装置の導入サイズを小さくし、血流断面積を最大限にし、半径方向拡張に対する抵抗を小さくし、弾性反跳を小さくするという多重的な利点がある。
【0032】
好ましいカバー材料としては、例えば、薄い弾性の生体適合材料が挙げられる。より具体的には、このような弾性材料として、ポリウレタン、シリコーン材料、ペルフルオロエチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン(PEVE−TFE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン(PPVE−TFE)、などがある。下記モノマーの少なくとも2つを含有するターポリマーも好ましい:PEVE、PPVE、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)およびTFE。最も好ましくはペルフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン(PMVE−TFE)を使用する。これらの材料は種々の態様で、例えば、接着チューブの形でステントの内面および/または外面に取り付けることができる。
【0033】
これらの弾性材料は自己拡張ステントをカバー材料の溶液中に浸漬して適用することが好ましい。ステント・グラフトの外形を極力小さくするため、この方法でステントを被覆すればカバー材料が最小限で済む。ステント開口部に及ぶカバー材料はステント要素の厚さよりも薄いことが好ましい。場合によっては、ステントカバーがステント要素の厚さよりも厚いことが好ましい。このようなカバーは、例えば、浸漬被覆を複数回繰返すか、またはより粘性の高いコーティング溶液を利用して、より多くのエラストマーを適用することにより形成することができる。ステントカバーには治療薬剤、充填材、などを添加することができる。エラストマーは公知の手段で多孔質にすることもできる。カバー材が多孔質であれば、例えば、カバーに他の材料を付着させることが容易になる。
【0034】
好ましい実施形態では、ニチノール・ステントを冷却し、完全展開外径よりも小さい直径になるまで圧縮する。ステントを圧縮された状態に維持するには冷却が望ましい。次いで、皺を発生させずにカバーを適用する。拘束状態での直径は装置の所要動作パラメータに従って選択する。例えば、完全展開外径の約90%以下、完全展開外径の約80%以下、完全展開外径の約70%以下、完全展開外径の約60%以下などであり、多くの用途において、完全展開外径の約50%以下であることが最も好ましい。装置を冷却された状態に維持しながら、ステント・グラフトを自然乾燥させた後、冷却された圧縮工具でさらに圧縮し、送達カテーテルへ挿入する。
【0035】
他の好ましい実施形態では、完全展開直径に達した時に初めてカバー材料溶液にニチノール・ステントを浸漬することによって被覆した後、カバーを自然乾燥させる。皺のないことを確かめるためカバーをチェックする。カバーで被覆されたステントを冷却し、圧縮する。このようにしてカバーを設けられたステントを圧縮するとカバー材料に皺が発生する。所要の拘束条件下で、例えば、完全展開外径の約90%以下、完全展開外径の約80%以下、完全展開外径の約70%以下、完全展開外径の約60%以下、または完全展開外径の約50%以下の状態で再度縮径を行なってもよい。
【0036】
そして、弾性カバー材料を再び流動化させる冷却された溶液に圧縮されたカバー付きステントを浸漬する。カバー材料の再流動化によって圧縮時に発生した皺が消える。装置を冷却された状態に維持しながら、ステント・グラフトを自然乾燥させ、冷却された圧縮工具でさらに圧縮して送達カテーテルへ移す。
【0037】
これら本発明の方法のいずれかによって製造されたステント・グラフトは、カバーが適用または再形成(総称して「形成」という)された時点での減少した直径から完全展開直径に至るまでの装置直径範囲に亘ってカバーに皺がない。図2aは完全展開外径の50%において皺なし状態で構成され、圧縮されて送達カテーテルへ移され、次いで装置の完全展開外径の30%まで展開させた、本発明のカバー付きステントの断面図を示す。図2bは、最初にステント63のステント支持ストラット68に接合され、カバー付きステント60を形成した時点での直径で皺のないステントカバー62を示す。図2bもステントの完全展開直径においてカバーが適用され、より小さい直径の状態においてカバーが再形成されたステント・グラフトのカバーに皺がないという特性を示す。
【0038】
内側または外側または両側の弾性カバーはこの縮径状態においてステント63に取り付けることができる。カバー取り付けには公知の手段、例えば、接着剤、溶剤接合、またはヒートシールを利用することができる。内側および外側カバーの両方をステントに取り付ける際には、図2bに示すようにステント支持ストラット68を包み込むように適用すればよい。
【0039】
薄い弾性カバー62は図2cに示すように完全展開直径まで伸びて皺のない状態を維持する。この特性を達成するためには、ステントが完全展開直径よりも小さい直径の状態においてもカバーに実質的に皺がない状態でなければならない。この直径は移植時の所定の最小直径を超えてはならない。カバーが形成された時の直径よりもさらに装置を圧縮すると、図4に示すようにステントカバー62に皺が現れる。図4では図2bのカバー付きステントが圧縮されて、この装置を送達カテーテルへ移すことができる状態を示している。中間的なステントのサイズにおいてカバーを形成すれば、送達カテーテルに挿入できるようにステント・グラフトを縮径するのに大きく圧縮する必要がなくなる。しかも、大きく圧縮する必要がなければ、圧縮の過程でカバーに孔が開く恐れも少なくなる。
【0040】
本発明の物品に皺がないという特徴はテーパー形状ステント・グラフトの性能を高めることができる。テーパー形状グラフトは大動脈腸骨動脈疾病の治療に広く使用されている。テーパー形状ステントおよび/またはカバーを含んでもよい本発明の装置は、カバーに皺を形成することなくテーパー形状の脈管内に移植することができる。即ち、本発明の装置は、出発材料の形状に関係なく、テーパー形状の体腔内で展開するとテーパー形状自己拡張ステント・グラフトとなるように適合させることができる。従って、不適切なサイズのステント・グラフトを展開させることなく、容易に且つ低コストで構成できる非テーパー形状の装置でテーパー形状の体腔を処置することができる。さらに、形状の異なる製品の数を増やさなくても、有効に展開可能な広範囲のサイズおよび形状を可能にする。
【0041】
本発明は極めて条件の厳しい小口径のステント植え込みにおいて真価を発揮する。これらは、バルーン血管形成術後に血小板や他の細片が血流に混入するのを防ぐため、または動脈瘤を塞ぐために、カバーを必要とする用途である。恐らく最も条件の厳しい用途は、ステントカバーに僅かな皺があっても血栓症の病巣を形成することがある頚動脈や神経脈管に対する処置を伴う場合である。脳の敏感さを考えれば、このような血栓集積や塞栓の結果は深刻である。本発明は実用可能なステント・グラフトに皺のないカバーを設けるという難問を克服するたけでなく、極めて少量のカバー材料でこれを実現する。このような拡張可能な、薄い、且つ低質量の材料がステントカバーとして満足に機能するということは予想外の所見であった。
【0042】
下記の例は飽くまでも本発明を説明するための例であり、本発明がこれらの例に制限されるものではない。本発明の範囲は添付する特許請求の範囲の記述内容によって定義される。
【実施例】
【0043】
下記の例を評価するため、以下に述べるような試験方法を採用した。
【0044】
試験方法
【0045】
皺の評価
倍率を上げて拡大せずに、室温でステント・グラフト装置のカバーを目視で検査した。超小型の装置については顕微鏡による検査を行なうことはいうまでもない。装置の両端を中空のDELRIN(登録商標)アセタール樹脂ブロック内に固定することにより、ステント・グラフトの内面を観察できるように装置の長手軸を水平に対して約45°の角度に固定した。装置の自由縁および装置両端近傍のステント開口部を検査できるように装置を配置した。検査中、完全展開していないステント・グラフトを剛性チューブ内に拘束した。検査に先立って、完全展開させた装置を約37℃の湯浴中に浸漬した。
【0046】
しわの存否を確かめるため、光学顕微鏡検査または走査電子顕微鏡検査を採用することもできる。
【0047】
寸法測定
テーパー形状のマンドレルを利用してステントおよびカバー付きステントの外径を測定した。装置端部がマンドレル周面と嵌合するまでマンドレルに沿って装置端部を摺動させた。次いで、ノギスを使用して装置外径を測定した。上記のようにマンドレルに嵌合させたまま、投影機を使用して装置外径を測定することもできる。
【0048】
自己拡張装置を37℃の湯浴中で完全展開させ、次いで、上述したように湯浴中での装置直径を測定した後、完全展開外径を測定した。
【0049】
円形断面を有する拘束手段内に拘束されている装置については、拘束状態の装置外径を拘束手段の内径とした。
【0050】
装置の完全展開直径のあるパーセントに相当する直径まで展開した状態での装置を検査するためには、先ず完全展開時における直径を知らねばならない。装置全体からある長さだけ切り取り、その完全展開直径を測定することができる。例えば、装置のある長さに相当する部分を送達カテーテルから取り出し、37℃湯浴中で完全展開させた後、その直径を測定することができる。
【0051】
実施例1
米国特許第6,709,453号明細書の図4に記述されているようなパターンを利用してチューブ状の自己拡張ニチノール・ステントを得た。ステントの外径は約8mm、長さは約30mmであった。ステントに下記のような処理を施した。また、Changほかの米国特許出願第2004/0024448号明細書の例5に開示されているような液化熱可塑フルオロポリマーであるPMVE−TFEの溶液を得た。PMVE−TFEは弾性材料である。比較的希釈度の大きい3質量%のポリマーを利用した。ステントをこのエラストマー溶液に浸漬した。浸漬被覆されたステントを溶液から取り出し、エラストマーが全てのステント開口部に及んでいることを確かめるためチェックし、4時間に亘って自然乾燥させた。
【0052】
弾性カバー付きステント・グラフト、ポリマー希釈溶液FC−77(3Mフルオロイナート、3M Specialty Chemicals Division, St Paul, MN)、ピンセット、および(Motsenbockerの米国特許出願第2002/0138966A1に開示されているような)圧縮工具を−15℃に設定された公知の冷凍室内で一緒に冷却した。ステントの直径を全長に沿って約4mmまで均一に縮径するため、冷却された圧縮工具を使用した。冷却されたピンセットを使用して、冷凍室内で下記の処理を行った。このステップにおいて、弾性ステントカバーに皺が現れた。
【0053】
約3秒間、ステントを冷却されているFC−77溶液に浸漬した。これによってエラストマーがやや再流動化し、ステントカバーの皺が消えた。これらの処理ステップを低温で(冷凍室内で)行なうことで、装置を自己拡張可能な状態になるまで暖めることなく、圧縮された、しかも拘束されていないニチノール・ステントを取扱うことができた。浸漬被覆され、再流動化されたカバー付きステントを溶液から取り出し、冷凍室に収納したままでチェックし、エラストマーが全てのステント開口部にまで及んでおり、カバーに皺がないことを確認した。皺のない装置を冷凍室内で4時間に亘って自然乾燥させた。
【0054】
次に、再び圧縮工具を使用してエラストマーでカバーしたステントを約2mmの送達直径まで圧縮した。得られたステント・グラフトは約2mmの送達外形を呈した。次いで、装置をその2mmの送達外形拘束鞘から、装置が製造された時のサイズに相当する装置の完全展開外径の約50%に相当する内径を有する中空のDELRIN(登録商標)樹脂ブロック内へ移した。顕微鏡検査の結果、この直径においてカバーに皺のないことが立証された。
【0055】
次いで、装置を拘束ブロックから解放し、37℃の湯浴中で完全自己拡張させた。装置は最初の外径8mmまで拡張した。拡張の過程において、または完全展開状態において、カバーには皺が現れなかった。
【0056】
比較例2
本発明のステント・グラフトを上記態様で製造することの利点は実施例1の装置を公知装置と比較すれば明白である。別のカバー付きステントを上記の通りの態様で、但し、完全展開直径と送達直径との中間的な直径においてステントを圧縮し、エラストマーを再流動化するという本発明のステップを含まない態様で製造した。即ち、比較例としてのカバー付きステントは冷却せず、外径の50%まで圧縮せず、また、弾性カバーを再流動化するために溶剤溶液に浸漬もしなかった。代わりに、周囲条件下で8mmのカバー付きステントを外径の50%まで圧縮し、中空の拘束ブロック内へ移した。比較例としての(公知の)装置は本発明の装置とは異なり、完全展開外径の50%において皺が現れた。
【0057】
実施例3
下記相違点を除き、実施例1の記述内容通りにチューブ状の自己拡張ステント・グラフトを製造した。ここでは、皺のないカバーを形成するために実施例1とは異なるステップを採用した。即ち、弾性カバーを形成するためにシリコーン材料(MED−1137 Silicone Adhesive, NuSil Silicone Technology, Carpinteria, CA)を使用した。シリコーンおよびヘプタンのエラストマー溶液をも得た。比較的希釈度の高い1質量%のエラストマー溶液を形成した。ステント、エラストマー溶液、ピンセット、および圧縮装置を、−15℃に設定された公知の冷凍室内で一緒に冷却した。
【0058】
ステントをその全長の亘って均一に縮径させるため、冷却した圧縮工具を使用した。ステントの外径は約4mmまで縮径された。冷却したピンセットを使用して冷凍室内で下記の処理を行った。冷却したエラストマー溶液にステントを浸漬した。浸漬され、被覆されたステントを溶液から取り出し、エラストマーが全てのステント開口部に及んでいるかを確認した後、冷凍室内で4時間に亘って自然乾燥させた。
【0059】
次に、再び圧縮工具を使用して弾性カバー付きのステントを送達直径である約2mmまでさらに圧縮した。得られたステント・グラフトは約2mmの送達外形を呈した。装置をその2mmの送達外形拘束鞘から、装置の完全展開外径の約50%に相当する内径を有する中空のDELRIN(登録商標)樹脂ブロックへ移した。完全展開外径の50%は装置が製造された時の外径に相当する。顕微鏡検査の結果、この直径において、カバーに皺がないことが立証された。
【0060】
装置を拘束ブロックから解放し、37℃湯浴中で完全に自己拡張させた。装置は8mmの初期外径まで拡張した。この完全展開状態においてカバーには皺が認められなかった。
【0061】
本発明の特定の実施形態を図示し、説明したが、本発明はこれに制限されるものではない。特許請求の範囲が定義する本発明の範囲を逸脱しない限り、多様な変更を加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフトカバーがステントの少なくとも一部を覆って設けられている自己拡張ステントを備える、直径方向に拡張可能なステント・グラフトであって、前記ステントが、体腔に挿入されるための圧縮直径を有し、かつ解放後に圧縮直径から完全展開直径まで自己拡張し、前記グラフトカバーが完全展開直径の50%〜100%の直径範囲に亘って実質的に皺を有さないことを特徴とする、直径方向に拡張可能なステント・グラフト。
【請求項2】
前記カバーが弾性材料を含む、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項3】
皺のない直径が30%〜100%の範囲に亘る、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項4】
ステント・グラフト装置の製造方法であって、
完全収縮直径と、完全拡張直径と、完全収縮直径と完全拡張直径の間の中間直径を有するステントを用意し;
中間直径の状態にステントを配向し;
中間直径の状態にあるステント上に弾性カバーを形成してステント・グラフトを形成する
ことを含み;
中間直径から完全拡張直径まで拡張する際にステント・グラフトに実質的に皺がないことを特徴とする、方法。
【請求項5】
得られたステント・グラフトを収縮させて送達システム内に移すことをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステント・グラフト装置の製造方法であって、
完全収縮直径と、完全拡張直径と、完全収縮直径と完全拡張直径の間の中間直径を有するステントを用意し;
ステント上に弾性カバーを形成してステント・グラフトを形成し;
中間直径の状態にステントを配向し、この中間直径の状態において実質的に皺がないように弾性カバーを再形成する
ことを含み;
中間直径から完全拡張直径まで拡張する際にステント・グラフトに実質的に皺がないことを特徴とする、方法。
【請求項7】
得られたステント・グラフトを収縮させて送達システム内に移すことをさらに含む、請求項6に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−27710(P2013−27710A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−174981(P2012−174981)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【分割の表示】特願2009−506529(P2009−506529)の分割
【原出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】