説明

監視領域における標的の遠隔検査方法

用途:監視領域内の標的の遠隔的な検査
主題:監視領域に、2以上の主要マイクロ波エミッタを用いてマイクロ波を照射する。監視領域から反射された信号を1以上の平行記録チャネルを用いて記録し、さらにこの記録信号をコヒーレント処理し、監視領域内散乱体の(主要エミッタから標的までの距離に基づいて)再構築された形状の最大強度の値を得る。前記コヒーレント処理の結果として得られた情報を、三次元表面に相当するマイクロ波イメージを構築することによって表示する。さらに、マイクロ波エミッタに同期した2以上のビデオカメラを用いて、標的のビデオイメージを獲得し、得られたビデオイメージを変換し、三次元ビデオイメージ及びマイクロ波イメージを一般化座標系へと変換する。これによる技術的成果として、秘密裏の検査における誘電体の存在又は非存在決定の信頼性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隠された物体の遠隔検知の分野、具体的には、人が身につけた衣服の下に隠された誘電性爆発性化合物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代のセキュリティー問題の中で、テロリストの体に隠されている、いわゆる自爆用爆弾の検出の問題は、特に重要である。
【0003】
現在、この課題の解決のために主に使われている方法は、金属探知機、蒸気探知機、X線装置、警察犬などの使用に基づいている。諸外国において、人体の検査方法の開発が進められており、それらは新しい物理的原理、すなわち核四重極共鳴(NQR)、後方ラマン散乱、誘電性ポータル(dielectric portal)、人体検査のための受動及び能動テラヘルツ領域装置、受動ミリ波レーダー及び能動マイクロ波ポータルに基づくものである。
【0004】
上記公知の方法は、遠隔的且つ秘密裏の検査を実現する可能性に乏しく、「自爆テロリスト」を適時に突き止め、テロリストが爆発装置を作動させる前に武装解除させる手段を取ることができない。既存の方法のその他の主要な欠陥は、検出した物体の危険度を自動的に判定することができず、また誤認警報の割合が高いことである。そのため、これらの方法は、現実の状況下で、流れに乗って動いている多数の人々を検査するために使うことはできない。
【0005】
従って「自爆テロリスト」が運ぶ爆発物を検出するための課題は、
遠隔的な検査であること;
自動検査方式であること;
あらゆるタイプの物体(誘電体、伝導体のいずれも)を検出すること;
実時間において検査を実施すること;
検出した物体の、脅威レベルを自動的に決定すること;
秘密裏に検査を行う方法として実施する可能性があること;
検査が外部環境から独立していること;
人間に対して安全であること;
危険信号を特定の人物に割り当てられること;
システムの移動性及び比較的低コストであること;
の要件を満たす必要がある。
【0006】
衣服の下に隠された物体を検知するための公知の方法があるが、この方法は金属製のみならず非金属製の物体をも検知するものであり、例えば衣服の下に隠された爆発物を検知するために使用される。この方法では、人間の体の小さな領域に焦点を当てた受信アンテナを使うことによって、この領域から放射された電磁波を受信する。続いて、ラジオメータ及びこれに結合した処理装置を使うことによって、受信信号の強度を測定し、光線の位置を記録する。測定した受信信号の強度が、表示画面の発光強度として表示され、この発光強度の分布を解析することによって金属製又は非金属製の物体の存在又は非存在が確認される(特許文献1)。
【0007】
この方法の不都合な点は受信したイメージのコントラストが低いことであるが、これは、採用している照射領域にある誘電体の透過性により、非金属製の物体と人体とを明確に区別できないことに起因する。
【0008】
監視領域内の標的を遠隔的に検査する別の公知の方法は、2以上の主要エミッタを使用してこの領域にマイクロ波を照射すること、1以上の平行記録チャネルを使用して監視領域から反射された信号を記録すること、反射信号をコヒーレント処理すること、及びこのような処理の結果として得られたデータを表示することを含む(特許文献2)。
【0009】
電磁場のエミッタ及び受信器は、複数の予備セットポジションに配置される。検査の結果は、広帯域において検出された放射をデジタル処理した結果として得られる三次元イメージの解析に基づいている。
【0010】
この方法を実施するとき、監視領域へのマイクロ波の照射は、その照射幅を、監視領域イメージの半径方向空間分解能とも記録された反射信号のコヒーレント処理が可能な時間間隔とも関連づけることなく、周波数帯域幅において実行される。これにより、以下の不都合が生じる:
・反射信号を記録している間の物体の動きにより、受信・変換アンテナに対する物体の相対位置が変化するために、検査対象物体(標的)が動いている場合にはこの方法を使用することができない。これは、記録された信号のコヒーレント処理適性条件に反する。検査される物体の軌道が未知である場合、インコヒーレント処理によって質の良いイメージを得ることはできない。
・イメージの解像度が低いために、イメージの解析によって物体(標的の構成要素)の誘電率に関する量的な情報及びそれらの等価質量を出力することができない。
【0011】
監視領域における標的の遠隔検査のための公知の方法として、2以上の主要マイクロ波エミッタを使用してこの領域へマイクロ波を照射すること;監視領域から反射された信号を、1以上の平行記録チャネルを使用して記録すること;記録された信号をコヒーレント処理し、監視領域内散乱体の(主要エミッタから標的までの距離に基づいて)再構築された形状の最大強度の値を得ること;前記コヒーレント処理の結果として得られた情報を、いくつかの三次元表面の形状をとるマイクロ波イメージを構築することによって表示すること、を含む方法がある(特許文献3)。
【0012】
上記で言及した技術的解決方法を、本発明のプロトタイプとして使用した。
本発明のプロトタイプとして用いた方法の不都合な点は、以下の通りである:
・空気と誘電体との境界から反射される信号の強度が低く、誘電率が〜3である誘電体(これは爆発性化合物に典型的な値である)の信号強度の約7%しかないこと。このため、誘電体と人体との境界から反射された信号(前記誘電体の信号強度の〜90%)は、空気と誘電体との物理的境界を表している三次元表面を著しく歪める可能性があり、ひいては、爆発性化合物の存在の検出においてエラーを導く。
・空気と誘電体との境界から反射された放射線を記録することの可能なマイクロ波の入射角及び受信角の範囲が狭いこと。これは、マイクロ波領域における波長と比較して誘電体の表面が通常十分に滑らかであり、空気と誘電体との境界における散乱が鏡面反射の性質を獲得するという事実による。そのため、この方法を効果的に実施できるのは、検査の角度範囲が狭い場合に限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】露国特許第2133971(C1)号明細書
【特許文献2】米国特許第5557283(A)号明細書
【特許文献3】露国特許第2294549(C1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、秘密裏の検査において、誘電体の存在又は非存在決定の信頼性を向上させること、及び検査に使用可能な角度領域を拡張することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、監視領域内の標的を遠隔検査するための方法は、
2以上の主要マイクロ波エミッタを使用して前記領域へマイクロ波を照射すること;
監視領域から反射された信号を、1以上の平行記録チャネルによって記録すること;
記録された信号をコヒーレント処理し、監視領域内散乱体の(主要エミッタから標的までの距離に基づいて)再構築された形状の最大強度の値を得ること;
及び
前記コヒーレント処理の結果として得られた情報を、三次元表面に相当するマイクロ波イメージを構築することによって表示すること、を含む。
加えて、この方法は
標的のビデオイメージを、マイクロ波エミッタに同期された2以上のビデオカメラによって獲得すること;
結果として得られたビデオイメージをデジタル形式に変換し、標的の三次元ビデオイメージを構築すること;
三次元ビデオイメージ及びマイクロ波イメージを、一般化座標系へと変換すること;
一般化座標系における、マイクロ波イメージとビデオイメージとの距離lを決定すること;
l<lのとき(ここで、lは定義されたlの閾値)、標的の中に、許容される最大値を超える量の隠された誘電体は存在していないことが確定されること;
及び
l>lのとき、l>lである領域の三次元マイクロ波イメージにおける空洞の存在がさらに決定され、
空洞の深さhが下式
【数1】

(hはhの閾値、εは探索対象誘電体の誘電率)
よりも大きい場合、標的における隠された誘電体の存在が確定されること、を特徴とする。
【0016】
出願人は、請求する主題と同一のいかなる技術的解決法も認識していない。従って、本発明が新規性の要件を満たしていることが示唆される。
【0017】
本発明の際立った特徴を実施することにより、請求する主題の新しい重要な特徴が導かれる。まず、空気と誘電体との物理的境界を示す三次元表面の歪みを除去することにより、爆発性化合物の存在(又は非存在)を決定する際のエラーの可能性を顕著に減少させることができる。
また、さらに三次元ビデオイメージを使用することにより、検査における有効角度領域を顕著に拡張することができ、これは秘密裏の検査において特に意義深い。
【0018】
出願人は、本発明の際立った特徴と達成された技術的効果との関係についてのいかなる知識を提供する、いかなる情報源も認識していない。上記で概略した、本願で請求する主題の新しい特徴は、出願人の意見では、本発明の主題が進歩性の要件を満たすことを明示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下、発明の説明を、実施例の詳細な記述によって、参照図なしで行う。
【発明を実施するための形態】
【0020】
監視領域における標的の遠隔検査を実行するため、この領域へ連続的に、8〜12GHzの範囲内で、14種の等間隔周波数のマイクロ波を照射する。照射は主要エミッタを用いて実施するが、この主要エミッタは、本実施例においては、256個の主要放射アンテナからなる切替式アンテナアレイで表されている。監視領域から反射された信号は、この実施例においては、2つの広帯域ヴィヴァルディアンテナ及び2つの受信器を含む、2つの平行チャネルによって記録する。受信器のアウトプットから、記録信号に相当するデータをコンピュータに転送し、コンピュータにおいてこれらのデータをコヒーレント処理し、主要エミッタから標的までの距離に基づいて、監視領域内の散乱体の再構築された形状の最大強度値に相当する点から構成されるひとつの三次元表面の形で、標的のイメージを構築する。
【0021】
さらに2つのビデオカメラ(本実施例ではSDU−415型)を間隔を置いて設置し、マイクロ波エミッタと同期させて使用することによって、標的のビデオイメージを受信し、これをデジタル形式へ変換した。標的の三次元ビデオイメージを、コンピュータを用いて再構築し、マイクロ波イメージと共に一般化座標系へと変換する。座標系は、アンテナアレイ平面と、この平面に対して垂直な軸とによって設定する。ここで、一般化座標系におけるマイクロ波イメージとビデオイメージとの距離lが決まる。爆発誘電化合物の許容される最大量に相当するl(lの閾値)を設定する。l<lの場合、標的において、許容最大値を超える量の隠された誘電体は存在しないことが確定する。l>lの場合、l>lである領域において、三次元マイクロ波イメージ中の空洞の存在決定がさらに行われる。空洞の深さhが下式
【数2】

(hは空洞の深さhの閾値、εは探索している誘電体の誘電率の値)よりも大きい場合、標的における隠された誘電体の存在が確定する。一般的な爆発性化合物のほとんどにおいて、誘電率の値は、ε≒3である。
【0022】
空気と誘電体との境界の三次元イメージと、誘電体と人体との境界の三次元イメージとがそれぞれ異なる物理的原理に基づいて再構築される(空気と誘電体との境界イメージはビデオデータを用いて再構築され、誘電体と人体との境界のイメージは受信した反射マイクロ波信号を用いて再構築される)ことにより、反射マイクロ波信号によって生じる空気と誘電体との境界の歪みは排除される。そのため、爆発性化合物の存在(非存在)を決定する際のエラーの可能性を著しく減少できる。さらに、空気と誘電体との境界の再構築に、マイクロ波照射を使用するのではなく、代わりにビデオイメージを使用することにより、誘電体表面が平滑であることには何ら影響を受けず、よって、物体の検査における検査可能角度範囲が拡張される。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明を実施するために、公知の材料及び装置を使用する。そのため、出願人の意見では、本発明は産業上利用可能性の要件を満たす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域内の標的の遠隔的な検査の方法であって、
前記領域へ、2以上の主要マイクロ波エミッタを用いてマイクロ波を照射すること;
監視領域から反射された信号を、1以上の平行記録チャネルを用いて記録すること;
記録された信号をコヒーレント処理し、監視領域内散乱体の(主要エミッタから標的までの距離に基づいて)再構築された形状の最大強度の値を得ること;
及び
前記コヒーレント処理の結果として得られた情報を、三次元表面に相当するマイクロ波イメージを構築することによって表示すること;
を含み、
標的のビデオイメージを、マイクロ波エミッタに同期した2以上のビデオカメラを用いることによって付加的に獲得すること;
結果として得られたビデオイメージをデジタル形式へ変換し、標的の三次元ビデオイメージを構築すること;
三次元ビデオイメージ及びマイクロ波イメージを、一般化座標系へ変換すること;
一般化座標系におけるマイクロ波イメージとビデオイメージとの距離lを決定すること;
l<l(lはlの定義された閾値)のとき、標的において、許容された最大値を超える量の隠された誘電体は存在しないことが確定されること;
及び
l>lのとき、l>lである領域における三次元マイクロ波イメージの中の空洞の存在が決定され、
前記空洞の深さhが下式
【数1】

(hはhの閾値、εは探索される誘電体の誘電率の値)
よりも大きいとき、標的において隠された誘電体の存在が確定されること、
を特徴とする検査方法。

【公表番号】特表2013−512431(P2013−512431A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541049(P2012−541049)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/RU2010/000725
【国際公開番号】WO2011/065869
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512306829)アプステック システムズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】