説明

盤膨れ防止工法

【課題】掘削底面までの盤下げ中にも、盤膨れに対する安全性を確保しながらも、より簡易な施工で盤膨れ防止を図る。
【解決手段】土留掘削の対象地盤において、被圧水層3まで伸びる所定径の孔5を複数削孔する工程と、配管13が接続された袋体11、12同士を互いに所定強度の引張材14で連結した補強体10を、前記削孔により形成した各孔に挿入する工程と、前記孔5において前記被圧水層3および前記底部地盤4に位置する前記補強体10の各袋体11、12に対し、前記配管13を通じて固化剤30を充填し、孔壁をなす前記被圧水層3および前記底部地盤4に各袋体11、12を圧接させる工程とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盤膨れ防止工法に関するものであり、具体的には、掘削底面までの盤下げ中にも、盤膨れに対する安全性を確保しながらも、より簡易な施工で実施できる盤膨れ防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば都市土木工事等の、施工領域が限定されるような現場においては、限られた施工領域を有効活用する意味からも、鋼矢板や横矢板等の土留壁を腹起し・切梁やアンカー等の支保工で支持して掘削を進行させる、土留掘削を伴う工事が多く施工されている。ただしこの土留掘削には、施工地盤や地下水の性状に応じて留意すべき現象の発生が従来より指摘されている。この現象とは、盤ぶくれ、ボイリング、およびヒービングといった底部地盤の変状現象である。
【0003】
このうち、例えば盤ぶくれに関して言えば、掘削底部の地盤に含まれる被圧帯水層(例:砂・礫層など)の水圧が、該被圧帯水層上部に存在する不透水層や難透水層を含む地盤を上方に押し上げる現象であり、この現象に対処する工法が従来より提案されてきた。例えば、土留めの根入れを深くしたり、掘削底面以下の一定深さを地盤改良によって固めてしまう等の対応策が存在する。また、これらよりも工費の安い手法として、杭を地盤に打設し、杭表面と地盤との摩擦力を介して底部地盤と被圧帯水層との間を連結する技術や、或いは、グラウンドアンカーを地盤に打設し、該アンカーの引っ張り材を介して、グラウンドアンカー表面と地盤との摩擦力を定着板(コンクリート板)に伝えることで、底部地盤と被圧帯水層との間を連結する技術(特許文献1、特許文献2等)も考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−17676号公報
【特許文献2】特開2001−182088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、杭を打設する上記技術の場合、杭が発揮する設計上の摩擦力を踏まえて打設を行うと、打設ピッチが大きくなりがちとなり、杭間での盤膨れすなわち中抜けを起こす懸念がある。一方、この懸念を解消すべく杭の打設ピッチを小さくすると、施工の手間およびコストが増大するという問題が生じる。また、盤ぶくれが問題となる大深度掘削の場合、掘削底面の深さまでヤットコを使用して杭を打設するのは困難であり、掘削が進行するに伴い、掘削底面から露出する杭上部(例:鋼材)の切除工程が発生してしまうといった問題もある。
【0006】
また、グラウンドアンカーを打設する上記技術の場合、定着盤を床付け底盤に構築する必要があり、しかも、この定着盤に引っ張り材を固定するのは掘削完了時であることから、掘削施工中に進行する盤膨れについては十分な対処が出来ないという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、掘削底面までの盤下げ中にも、盤膨れに対する安全性を確保しながらも、より簡易な施工で実施できる盤膨れ防止工法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の盤膨れ防止工法は、土留掘削における底部地盤の盤膨れを防止する工法であって、土留掘削の対象地盤において、被圧水層まで伸びる所定径の孔を複数削孔する工程と、配管が接続された袋体同士を互いに所定強度の引張材で連結した補強体を、前記削孔により形成した各孔に挿入する工程と、前記孔において前記被圧水層および前記底部地盤に位置する前記補強体の各袋体に対し、前記配管を通じて固化剤を充填し、孔壁をなす前記被圧水層および前記底部地盤に各袋体を圧接させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
このような技術によれば、被圧水層および底部地盤を貫く孔にて膨張した各袋体が、被圧水層および底部地盤をそれぞれ押圧して密着し、大きな摩擦抵抗力を発揮する。底部地盤が被圧水層の揚圧力を受けて盤膨れしようとしても、底部地盤に圧接している袋体が、少なくとも被圧水層で大きな摩擦抵抗力を発揮している袋体から引張材を介して反力を得て、底部地盤の上方への変形すなわち盤膨れを抑制する。被圧水層の層厚が薄い場合などは、被圧水層側の袋体を被圧水層だけでなく被圧水層周囲の地層に跨って配置する状況も想定できる。
【0010】
また、1つ1つの袋体が発揮する周囲地盤との接触抵抗および、上下の袋体間に引張力を伝達する引張材の強度が杭に比較して過大でないゆえ、掘削領域に対する打設ピッチは細かな配置となり、合理的な設計においていわゆる中抜けが発生する懸念も解消できる。また、袋体を用いる本工法は、杭等を用いる手法より低廉なコストで盤膨れ防止を図ることができる。また、グラウンドアンカーを用いる従来手法のように定着板を構築する必要はなく、掘削中においても盤膨れ防止効果を確保することが可能である。従って本発明によれば、掘削底面までの盤下げ中にも、盤膨れに対する安全性を確保しながらも、より簡易な施工で盤膨れ防止を図ることが可能となる。
【0011】
また、本発明の盤膨れ防止工法は、土留掘削における底部地盤の盤膨れを防止する工法であって、土留掘削の対象地盤において、被圧水層まで伸びる所定径の孔を複数削孔する工程と、配管が接続され、前記被圧水層から前記底部地盤に至る長さで所定の引張強度を備えた袋体からなる補強体を、前記削孔により形成した各孔に挿入する工程と、前記孔に挿入された前記補強体における袋体に対し、前記配管を通じて固化剤を充填し、孔壁をなす前記被圧水層および前記底部地盤に袋体を圧接させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
このような技術によれば、被圧水層および底部地盤を貫く孔にて膨張した一体の袋体が、被圧水層から底部地盤に至るまで地盤を押圧して密着し、大きな摩擦抵抗力を発揮する。また、袋体自体が適宜な引張強度を有しており、底部地盤が被圧水層の揚圧力を受けて盤膨れしようとしても、一体の袋体のうち底部地盤に圧接している部分が、少なくとも被圧水層で大きな摩擦抵抗力を発揮している部分から反力を得て、底部地盤の上方への変形すなわち盤膨れを抑制する。なお、被圧水層の層厚が薄い場合などは、被圧水層側の袋体を被圧水層だけでなく被圧水層周囲の地層に跨って配置する状況も想定できる。
【0013】
また、1つ1つの袋体が発揮する周囲地盤との接触抵抗と、引張力を伝達する袋体自体の強度は過大でないゆえ、掘削領域に対する打設ピッチは細かな配置となり、合理的な設計においていわゆる中抜けが発生しない。また、袋体を用いる本工法は、杭等を用いる手法より低廉なコストで盤膨れ防止を図ることができる。また、グラウンドアンカーを用いる従来手法のように定着板を構築する必要はなく、掘削中においても盤膨れに対する安全性が確保できる。従って本発明によれば、掘削底面までの盤下げ中にも、盤膨れに対する安全性を確保しながらも、より簡易な施工で盤膨れ防止を図ることが可能となる。
【0014】
なお、前記盤膨れ防止工法において、棒状のガイド材を前記補強体に対し脱着可能に取り付け、当該ガイド材を前記孔において下降させることで、前記孔への補強体の挿入を行い、前記袋体への固化剤の充填がなされ、前記被圧水層および前記底部地盤に袋体が圧接された後、前記ガイド材を前記補強体から取り外す工程を含むとしてもよい。
【0015】
これによれば、可撓性を有する袋体を、限られた孔壁内空間において確実に被圧水層まで送り込むことが可能となり、施工精度を良好なものとすることができる。また、固化剤が充填され周囲の地盤に圧接された袋体に反力を得ることで、ガイド材の取り外しは容易であり、施工性が良好である。しかも、土留掘削の進行に伴って掘削底面からガイド材が露出することが無いため、掘削機械等による掘削動作に支障を生じることがない。
【0016】
また、前記盤膨れ防止工法において、前記ガイド材が、前記袋体の位置で吐出口を備える管体であり、固化剤充填用の前記配管を兼ねるものであるとしてもよい。
これによれば、被圧水層まで袋体を送り込む工程と、該袋体への固化剤の充填を行う工程とをガイド材を利用して行うことができ、施工の効率とコストをより良好なものとできる。
【0017】
なお、上述した本発明において、土留掘削の進行に伴って掘削底面から補強体が露出したとしても、繊維等で構成された袋体とそれに充填された固化剤(例:グラウト剤等)は、掘削機械による掘削動作に支障を与えないから、土留掘削全体の施工効率は良好なものとなる。
【0018】
また、モルタルやグラウトなどの固化剤を充填する対象は、浸透による漏出等が懸念される地盤が露出した孔壁内空間ではなく袋体であり、該袋体への固化剤注入量の管理が確実に行える。つまり、袋体の適宜な膨張と、それによる周囲地盤へ圧接を確実なものとできる。当然ながら、袋体周囲の地盤に地下水流が存在したり、孔壁崩壊が生じたとしても、袋体に充填したグラウトの散逸はない。
【0019】
なお、前記袋体は、可撓性を有する部材であって、柔軟性や耐摩耗性を有する麻や合成繊維等からなる織布または不織布に、アラミド繊維や炭素繊維等の引張強度の強い補強繊維を混入したもの等を用いることができる。また、袋体は、水分が滲み出にくいように、目合いの調整や水密加工が施されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、良好な効率性やコスト性の下で土留掘削の施工中にも盤膨れ防止を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態における盤膨れ防止工法の適用例1を示す図である。
【図2】本実施形態における袋体等の構造例を示す図である。
【図3】本実施形態における盤膨れ防止工法の手順例1を示すフロー図である。
【図4】本実施形態における盤膨れ防止工法の適用例2を示す図である。
【図5】本実施形態における盤膨れ防止工法の手順例2を示すフロー図である。
【図6】本実施形態における盤膨れ防止工法の適用例3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
−−−適用例1−−−
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態における盤膨れ防止工法の適用例1を示す図、図2は本実施形態における袋体等の構造例を示す図、図3は本実施形態における盤膨れ防止工法の手順例1を示すフロー図である。盤膨れ防止工法を適用する土留掘削工事において、例えば、鋼矢板の打設や腹起し・切梁等による支保を実行し土留壁1を形成しているとする。この土留壁1で囲まれた地盤は、下層から順に、例えば被圧水層たる砂礫層3、軟弱な難透水層たる粘土層4、および砂質土層6により主として構成されており、砂礫層3の中には土留壁1の先端が達している。また、土留壁1で囲まれた地盤のうち、砂質土層6の一部(ないし全部)が土留掘削の対象地盤2となっている。
【0023】
このままこの対象地盤2である砂質土層6を掘り進んで粘土層4より上の重量が減少すれば、砂礫層3における被圧水の揚圧力が粘土層4より上の部分の重量に勝る事態となり、粘土層4より上の部分を上方に押し上げる盤膨れ現象が生じると懸念されていたとする。
【0024】
そこで本実施形態の盤膨れ防止工法を適用し、対象地盤2において、まずは被圧水層たる砂礫層中まで伸びる所定径の孔5を複数削孔する(s100)。孔5の径は、後に孔5に挿入される補強体10の袋体11、12が膨張時に示す径より小さいものである。よって、グラウト等の固化剤30の充填により孔5にて膨張しようとする袋体11、12は、周囲地盤と十分に圧接されて必要な摩擦抵抗力を発揮しうることになる。従来技術で用いられる杭は、例えば径600mm程度のものであったが、本実施形態における孔5の径は100〜140mm、袋体11,12の径は150〜300mm程度のものとできる。
【0025】
また、袋体11が、少なくともその定着長分は砂礫層3に配置されるよう、孔5の削孔長も決定される。また、1つの補強体10が負担できる応力と、被圧水層から生じる盤膨れの揚力とに基づいて、掘削底面における単位面積あたりに必要な補強体10の設置に関する設計は、例えば次のように行われる。
【0026】
被圧水層の上面で生じる揚力を“A”、被圧水層より上方にある土塊重量を“B”、被圧水層より上の補強体10の長さを“l”、該補強体10における単位長さ当たりの孔5との摩擦力を“c”、とする。この場合、“(A−B)/(c×l)”の値を算定すれば、盤膨れの応力を負担する為に必要な袋体のセット数、すなわち孔5の削孔数が得られる。また、被圧水層以下における孔5と補強体10の間の単位長さあたりの摩擦力を“d”とすれば、“(c×l)/d”の値を算定することで、被圧水層以下における袋体が孔5の壁面に対して確保すべき必要な接触長l、すなわち孔5の長さ(地盤における砂礫層3での孔5の長さ)が得られる。なお、砂礫層3は地盤最下層にあるから、上記のように砂礫層3での孔5の長さが決まれば、自ずと、粘土層4および砂質土層6を貫いて砂礫層3での孔5の底部に至るまでの長さが孔5の長さとなる。なお、袋体に充填される固化剤30と袋体内部の引張材14との付着力(摩擦力)および引張材14の強度は、当然ながら、上述の値“c×l”すなわち、1本の孔5の壁面と袋体との間に生じうる摩擦力以上である必要がある。また、これらの設計には、適宜な安全率が考慮されることは言うまでもない。
【0027】
次に、削孔した孔5に補強体10を挿入し、袋体11を砂礫層3の中に配置し、袋体12を粘土層4の中に配置する(s101)。補強体10は、それぞれ配管13が接続された袋体11、12同士を互いに所定強度の引張材14で連結した構造となっている。袋体11は砂礫層3の中で膨張するものであり、袋体12は粘土層4の中で膨張するものである。また、引張材14は鋼棒や鋼製ワイヤーなど所定の引張強度を備えた部材で構成されており、例えば、砂礫層3に配置される袋体11の底部から、粘土層4に配置される袋体12の上部まで貫いている。この引張材14の備える引張強度は、粘土層4と圧接した袋体12が、砂礫層3に圧接した袋体11から反力を得て、粘土層4の盤膨れ応力に対抗する際の引っ張りに応じたものとなる。また、配管13は、例えば袋体11、12のそれぞれに接続されており、所定の固化剤供給装置40から送られてくるモルタルやグラウトなどの固化剤30を、袋体11、12らに提供する管路となる。この配管13としては塩ビパイプ等の適宜な樹脂製パイプを適用すれば、土留掘削時に床付け底盤から露出しても掘削重機等で容易に除去でき、掘削の支障とならず好適である。
【0028】
補強体10を孔5に挿入するにあたっては、棒状のガイド材50を、前記補強体10の例えば引張材14ないし袋体12に対し脱着可能に取り付け、当該ガイド材50を前記孔5において下降させることで、前記孔5への補強体10の挿入を行うとすれば好適である。ガイド材50を補強体10の引張材14や袋体12らに脱着自在に取り付ける手法としては、例えば次の手法が考えられる。図2に示すように、例えば、引張材14の上端のうち袋体上部に突出した部位に雄ねじ51が切られており、ガイド材50の下端には雌ねじ52が切られた袋ナット53が備わっており、孔5への補強体10の挿入時には、ガイド材下端の袋ナット53が引張材上端の雄ねじ51と螺合して一体となり、一方、ガイド材50を補強体10から取り外す際には、周囲地盤に圧接した袋体11,12等に反力を得てガイド材50を回転させ、その下端の袋ナット53を引張材体上部の雄ねじ51における螺合から解くといった手法である。或いは、ガイド材50の下端にアーム状の把持機構が備わっており、孔5への補強体10の挿入時には、ガイド材下端の把持機構が引張材14を把持して一体となり、一方、ガイド材50を補強体10から取り外す際には、ガイド材下端の把持機構が引張材14の把持を解除して分離するといった手法もある。
【0029】
続いて、孔5において砂礫層3に位置する補強体10の袋体11に対し、配管13を通じてモルタルやグラウトなどの固化剤30を充填し(s102)、孔壁をなす砂礫層3に袋体11を圧接させる(s103)。同様に、孔5において粘土層4に位置する袋体12に対し、配管13を通じてモルタルやグラウトなどの固化剤30を充填し(s104)、孔壁をなす粘土層4に袋体12を圧接させる(s105)。こうした処理により、被圧水層たる砂礫層3および底部地盤たる粘土層4を貫く孔5にて膨張した各袋体11、12が、砂礫層3および粘土層4をそれぞれ押圧して密着し、大きな摩擦抵抗力を発揮することになる。
【0030】
また、モルタルやグラウトなどの固化剤30を充填する対象は、浸透による漏出等が懸念される地盤が露出した孔壁内空間ではなく袋体11、12であるから、該袋体11、12への固化剤注入量の管理が確実に行える。つまり、袋体11,12の適宜な膨張と、それによる周囲地盤へ圧接を確実なものとできる。当然ながら、袋体周囲の地盤に地下水流が存在したり、孔壁崩壊が生じたとしても、袋体11,12らに充填した固化剤30の散逸はない。
【0031】
なお、図2に示すように、袋体内における配管13の接続部位には、配管13の先端開口を包含するボックス状の逆止弁機構15が備わっていて、該袋体へ充填された固化剤30が固化剤供給装置側へ逆流しないよう配慮されているとすれば好適である。逆止弁機構15は、例えば、上方に凸の円錐形状で頂部に適宜な開口16aが設けられたストッパー16と、該ストッパー16の開口を完全に塞ぐことが可能な表面形状、サイズを備えた可動体17、ストッパー16との間に可動体17の可動空間を確保しつつ固化剤30の通過を阻害しないメッシュ状板材18とからなる構成があげられる。配管13の開口から袋体内部の逆止弁機構15に流入した固化剤30は、ストッパー16の開口16aを通り(そこに可動体17があれば下方に押し下げつつ)、メッシュ状板材18のメッシュ開口を通過し、そのまま袋体内空に充填されることになる。一方、袋体内空を満たした固化剤30が、メッシュ状板材18を上方に通過して逆止弁機構15に流入してきた場合、この流入圧で上方に移動させられる可動体17が、円錐形状のストッパー16の表面を上方に移動しつつ頂部の開口16aに押し当てられ、開口16aは塞がれる。つまり、固化剤30の上昇はこの時点で止まり、固化剤供給措置側への逆流は抑止される。図2では袋体12に設置される逆止弁機構15について例示しているが、袋体11についても同様に逆止弁機構15が設置され、上記同様の機能を果たす。
【0032】
袋体11、12への固化剤30の充填がなされ、砂礫層3および粘土層4に袋体11,12が圧接された後、前記ガイド材50を補強体10から取り外す(s106)。固化剤30が充填され周囲地盤に圧接された袋体11、12に反力を得ることで、ガイド材50の取り外しは容易であり、施工性も良好である。しかも、土留掘削の進行に伴って掘削底面からガイド材50が露出することが無いため、掘削機械等による掘削動作に支障を生じることがない。
【0033】
上述のごとき本実施形態によれば、被圧水層たる砂礫層3および底部地盤たる粘土層4を貫く孔5にて膨張した各袋体11、12が、砂礫層3および粘土層4をそれぞれ押圧して密着し、大きな摩擦抵抗力を発揮する。底部地盤たる粘土層4の上部が被圧水層たる砂礫層3の揚圧力を受けて盤膨れしようとしても、粘土層4に圧接している袋体12が、砂礫層3で大きな摩擦抵抗力を発揮している袋体11から引張材14を介して反力を得て、粘土層4の上方への変形すなわち盤膨れを抑制する。
【0034】
また、1つ1つの袋体11、12らが発揮する周囲地盤との接触抵抗および引張材の強度は杭に比較して過大でないため、掘削領域に対する打設ピッチは細かな配置となり、合理的な設計においていわゆる中抜けが発生しない状態が実現できる。また、袋体11、12を用いる本工法は、杭等を用いる手法より低廉なコストで盤膨れ防止を図ることができる。また、グラウンドアンカーを用いる従来手法のように定着板を構築する必要はなく、掘削中における盤膨れ防止対策として機能させることが可能である。
【0035】
なお、孔壁内における袋体11と袋体12との間の領域19に、ベントナイト、グラウト、砂等の間詰め材を充填し、孔壁崩壊等に備えるとしてもよい。
【0036】
また、図1の右上に示すように、補強体10として袋体が上下で各々複数セットになっている構成を採用しても良い。或いは、例えば被圧水層に袋体11を1つ、難透水層とその上方の地層のそれぞれに袋体12を1つずつ配置し、計3つの袋体から補強体10を構成するなどとしてもよい。いずれにしても、袋体の配置や数については状況に応じて設定すればよい。
【0037】
−−−適用例2−−−
続いて、補強体10における袋体が被圧水層および底部地盤の各層毎に分離している上記適用例1とは異なり、各層を跨って一体となっている例について説明する。図4は本実施形態における盤膨れ防止工法の適用例2を示す図であり、図5は本実施形態における盤膨れ防止工法の手順例2を示すフロー図である。この場合の袋体100は、固化剤30の充填用に配管13が接続され、被圧水層たる砂礫層3から底部地盤たる粘土層4に至る長さで所定の引張強度を備えているものとなる。袋体100が備える引張強度は、袋体100のうち粘土層4と圧接した部位101が、砂礫層3に圧接した部位102から反力を得て、粘土層4の盤膨れ応力に対抗する際の引っ張りに応じたものとなる。この適用例における袋体100は、上記適用例1と比較して、引張材14を用いる必要がないから、袋体100すなわち補強体10の構造がより簡略化され、補強体10の取り扱いが簡便なものとなる。
【0038】
袋体100は、少なくともその定着長分は砂礫層3に配置されるよう、孔5の削孔長も決定される。また、1つの袋体100が負担できる応力と、被圧水層から生じる盤膨れの揚力とに基づいて、掘削底面における単位面積あたりに必要な袋体100の設置に関する設計は、例えば次のように行われる。
【0039】
被圧水層の上面で生じる揚力を“A”、被圧水層より上方にある土塊重量を“B”、被圧水層より上の袋体100の長さを“l”、該袋体100における単位長さ当たりの孔5との摩擦力を“c”とする。この場合、“(A−B)/(c×l)”の値を算定すれば、盤膨れの応力を負担する為に必要な袋体100のセット数、すなわち孔5の削孔数が得られる。また、被圧水層以下における孔5と袋体100の間の単位長さあたりの摩擦力を“d”とすれば、“(c×l)/d”の値を算定することで、袋体100が孔5の壁面に対して確保すべき必要な接触長l、すなわち孔5の長さ(地盤における砂礫層3での孔5の長さ)が得られる。なお、砂礫層3は地盤最下層にあるから、上記のように砂礫層3での孔5の長さが決まれば、自ずと、粘土層4および砂質土層6を貫いて砂礫層3での孔5の底部に至るまでの長さが孔5の長さとなる。なお、これらの設計には、適宜な安全率が考慮されることは言うまでもない。
【0040】
また、この例において、孔5の削孔(s200)と、孔5への補強体10の挿入(s201)の工程は上記適用例1と同様であり、説明は省略する。ここで、孔5に挿入された補強体10における袋体100に対し、配管13を通じて固化剤30を充填し(s202)、孔壁をなす砂礫層3および粘土層4に袋体100を圧接させる(s203)。
【0041】
このような適用例によれば、砂礫層3および粘土層4を貫く孔5にて膨張した一体の袋体100が、砂礫層3から粘土層4に至るまで地盤を押圧して密着し、大きな摩擦抵抗力を発揮する。また、袋体自体が適宜な引張強度を有しており、粘土層4が砂礫層3の揚圧力を受けて盤膨れしようとしても、一体の袋体100のうち粘土層4に圧接している部位101が、少なくとも砂礫層3で大きな摩擦抵抗力を発揮している部位102から反力を得て、粘土層4の上方への変形すなわち盤膨れを抑制する。
【0042】
なお、ガイド材50が、図6(a)にて例示するように、その下端付近に吐出口55を備えて袋体底部まで延びる管体であり、固化剤充填用の前記配管13を兼ねるものであるとしてもよい。これによれば、被圧水層たる砂礫層3の深さまで補強体10を送り込む工程と、袋体100への固化剤30の充填を行う工程とを該ガイド材50を利用して行うことができ、より効率的に盤膨れ防止を図ることができる。このガイド材50として、塩ビパイプ等の適宜な樹脂製部材を適用すれば、そのまま袋体100と共に土中に残置し、土留掘削時に床付け底盤から露出しても掘削重機等で容易に除去でき、掘削の支障とならず好適である。
【0043】
また、図6(b)に示すように、ガイド材50が袋体上部までの配管13を兼ねるとしてもよい。この場合、例えば、ガイド材下端の雌ねじ52と、袋体に取り付けらた接続用治具60の雌ねじ51とが螺合することで接続されている。固化剤供給装置40から供給された固化剤30は、配管13としてのガイド材50の内空を通過し、その下端から前記接続用治具60を介し袋体内部に流入していくことになるため、袋体内空における接続用治具周囲に逆止弁機構15(上述の適用例1と同様のもの)が備えられているのが望ましい。こうした逆止弁機構15が備わっていれば、袋体内空へ充填された固化剤30の、固化剤供給装置側への逆流を抑制できる。
【0044】
以上、本実施形態によれば、掘削底面までの盤下げ中にも、盤膨れに対する安全性を確保しながらも、より簡易な施工で盤膨れ防止を図ることが可能となる。また、本実施形態において、袋体の強度のみで揚圧力に抵抗する引張力を分担しきれない場合には、袋体内部に引張材を設置する形態も考えられる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 土留壁
2 対象地盤
3 被圧水層、砂礫層
4 底部地盤、粘土層
5 孔
10 補強体
11、12 袋体
13 配管
14 引張材
15 逆止弁機構
16 ストッパー
16a ストッパーの開口
17 可動体
18 メッシュ状板材
30 固化剤
40 固化剤供給装置
50 ガイド材
60 接続用治具
100 袋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留掘削における底部地盤の盤膨れを防止する工法であって、
土留掘削の対象地盤において、被圧水層まで伸びる所定径の孔を複数削孔する工程と、
配管が接続された袋体同士を互いに所定強度の引張材で連結した補強体を、前記削孔により形成した各孔に挿入する工程と、
前記孔において前記被圧水層および前記底部地盤に位置する前記補強体の各袋体に対し、前記配管を通じて固化剤を充填し、孔壁をなす前記被圧水層および前記底部地盤に各袋体を圧接させる工程と、
を含むことを特徴とする盤膨れ防止工法。
【請求項2】
土留掘削における底部地盤の盤膨れを防止する工法であって、
土留掘削の対象地盤において、被圧水層まで伸びる所定径の孔を複数削孔する工程と、
配管が接続され、前記被圧水層から前記底部地盤に至る長さで所定の引張強度を備えた袋体からなる補強体を、前記削孔により形成した各孔に挿入する工程と、
前記孔に挿入された前記補強体における袋体に対し、前記配管を通じて固化剤を充填し、孔壁をなす前記被圧水層および前記底部地盤に袋体を圧接させる工程と、
を含むことを特徴とする盤膨れ防止工法。
【請求項3】
請求項1または2において、
棒状のガイド材を前記補強体に対し脱着可能に取り付け、当該ガイド材を前記孔において下降させることで、前記孔への補強体の挿入を行い、
前記袋体への固化剤の充填がなされ、前記被圧水層および前記底部地盤に袋体が圧接された後、前記ガイド材を前記補強体から取り外す工程を含むことを特徴とする盤膨れ防止工法。
【請求項4】
請求項3において、
前記ガイド材が、前記袋体の位置で吐出口を備える管体であり、固化剤充填用の前記配管を兼ねるものとすることを特徴とする盤膨れ防止工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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