説明

目地処理材用組成物

【課題】作業性を確保しつつ、硬化後の目地処理材の収縮、すなわちヤセを少なくし、目地処理材を塗布する作業の回数を減らすことが可能な目地処理材用組成物を提供すること。
【解決手段】目地処理材の主材100質量部に対し、無機質中空粒子1〜20質量部、鎖状または層状構造を有する鉱物3〜20質量部を含む目地処理材用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の内壁や天井などの内装工事において、隣接する下地材間の目地部に充填することにより目地部を塞ぐとともに、目地部を下地材の表面と略同一の高さに処理するための目地処理材用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の内装は、まず、内壁あるいは天井を構成する部分に、石膏ボード、合板、ケイ酸カルシウム板などの下地材を複数、所定位置に配置、固定する。次いで、これら下地材間の継ぎ目、すなわち、目地部分に目地処理材を充填する。そして、この目地処理材が乾燥・硬化するまで養生した後に目地部を研磨して下地材と面一となるように平滑化し、その上から壁紙を貼るなどして内壁や天井を仕上げるという手順で一般に行われている。
【0003】
このような目地処理を行う理由としては、以下の3点が挙げられる。
(1)目地の段差や隙間をなくし、継ぎ目を隠すこと
(2)目地を補強し、亀裂の発生を防止すること
(3)目地を塞ぎ、耐火・遮音性能を確保すること
前記目地処理材としては、主として、乾燥硬化形と反応硬化形のものが使用されている。
【0004】
乾燥硬化形の目地処理材は、例えば、特許文献1に開示されているように、炭酸カルシウムを主材とし、石粉及び樹脂接着剤などの結合材を配合したものである。これは、一般に塗り付けの作業性が良く、表面が綺麗に仕上がる。また、乾燥硬化形目地処理材は、乾燥しないと硬化しないので製造元でペースト状にして、缶、カートリッジ等の容器に詰めて出荷することができ、建築現場等で混練する必要がないという利点がある。しかしながら、塗工後の乾燥による目地処理材の収縮、つまりヤセが大きく、ひび割れし易いなどの欠点があるため、主に塗厚の小さい仕上げ工程に使用されている。
【0005】
一方、反応硬化形の目地処理材は、例えば、特許文献2、特許文献3に開示されているように、半水石膏すなわち焼石膏を主材とし、接着剤やその他の添加剤を配合したものである。これは、水和硬化して膨張する特性を持つ焼石膏が主材であるため、乾燥硬化形の目地処理材に比べて収縮量が小さい。従って、比較的肉やせが少なくなるため、主に塗厚の大きい場所などの下塗りに用いられている。しかしながら、反応硬化形の目地処理材であっても、目地処理材が水和硬化する前に、水分が下地に吸収されると、目地部へ塗布した目地処理材の収縮、つまりヤセを生じるという欠点がある。
【0006】
以上のように、いずれのタイプの目地処理材も収縮するため、目地を形成する目地処理材の表面と目地部の高さが略同一にならず、くぼみが発生する。目地部にくぼみがあると、その上に張った壁紙に凹凸が生じ外観上問題となってしまう。このため、下地材表面と目地部の高さが略同一になるまで、目地処理材の再塗布・再乾燥を繰り返す必要があったが、作業が多くなる上に、1回の塗布、乾燥に時間を要するため、繰り返し回数が多いと工期が長くなるという問題があった。
【0007】
係る課題を解決する手段として、目地処理材に中空粒子等の、粒子内に空気を含んだ軽量骨材を配合することにより、このヤセを抑えた目地処理材が提案されている。具体的な例としては、特許文献4に、石膏・炭酸カルシウムなどの無機充填剤、中空バルーン・パーライト・ヒル石などの軽量充填剤、及びエマルジョン樹脂を主成分とした液状固着剤とからなる下地調整剤が開示されている。
【0008】
しかしながら、ヤセを少なくするためには中空粒子の配合量を増加する必要があるが、添加量の増加に伴い、目地処理材をヘラで塗りつける際の作業性が悪化するという問題があった。このため、中空粒子の配合量を一定量以上に増やすこともできず、係る方法ではヤセを十分に低減できなかった。
【0009】
このように、従来の目地処理材においては、作業性を確保しつつ十分にヤセを低減できている材料はなく、これらの問題を解決できる、より高性能な目地処理材が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実公昭58−35799号公報
【特許文献2】特公昭59−19059号公報
【特許文献3】特開昭55−144459号公報
【特許文献4】特開2001−40277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、作業性を確保しつつ、硬化後の目地処理材の収縮、すなわちヤセを少なくし、目地処理材を塗布する作業の回数を減らすことが可能な目地処理材用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明は、目地処理材の主材100質量部に対し、無機質中空粒子1〜20質量部、鎖状または層状構造を有する鉱物3〜20質量部を含むことを特徴とする目地処理材用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、目地処理材をヘラで塗りつける際の作業性を良好に保ちつつも、ヤセの少ない目地処理材を提供することが可能となる。また、ヤセが少なくなることにより、目地処理材を目地部へ塗布する回数を減らすことができ、工期の短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1乃至4の評価方法の説明図
【図2】本発明の実施例5、6の評価方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0016】
本発明の発明者は、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物とを、所定量ずつ目地処理材に配合することにより、作業性を良好に保ちつつ、従来よりもヤセを低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
本発明の目地処理材用組成物としては、主材100質量部に対し、無機質中空粒子を1〜20質量部、鎖状又は層状構造を有する鉱物を3〜20質量部を含むものである。ここで、ヤセへの効果や、作業性、コスト等を考慮して、無機質中空粒子を5〜15質量部、鎖状または層状構造を有する鉱物を5〜15質量部含むことがより好ましい。更には、鎖状または層状構造を有する鉱物が8〜15質量部含むことが好ましい。
【0018】
なお、本発明の目地処理材用組成物は、さらに水分、樹脂剤(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル樹脂等)、硬化調整剤(二水石膏等)、増粘剤(メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)等を適宜添加、混錬し、ペースト状に調製し目地処理材としてから使用する。
【0019】
前記主材としては、目地処理材において従来から使用されているものを同様に採用することができる。具体的には、焼石膏(半水石膏)または、炭酸カルシウムが好ましく使用できる。
【0020】
前記無機質中空粒子としては、無機化合物、無機鉱物等の中空粒子であれば物質が限定されるものではなく使用できる。なかでも、物質の安定性、コストや入手容易性の観点から、シラスバルーン、フライアッシュ、パーライト、ガラスバルーンが好ましく使用できる。特に、シラスバルーンがより好ましく使用できる。なお、添加する無機質中空粒子は1種類に限定されるものではなく、同時に複数種類を添加することもできる。
【0021】
また、その粒径は目地処理材の使用する場所、作業性等を考慮して適宜選択されるものであり、限定されない。例えば、下塗り用として使用する場合には、作業性を損なわない程度に比較的大きな粒径のものも許容される。ただし、上塗り用途など、施工表面部分に使用する場合には、外観を良くするために粒径の小さいものが好ましい。このような場合、平滑性を失わないように平均粒径で20〜300μm程度のものを使用することが好ましく、更には30〜150μm程度のものを使用することが好ましい。
【0022】
次に、前記鎖状または層状構造を有する鉱物とは、その結晶構造中に鎖状または層状の構造を有するものを意味しており、係る構造を有するものであれば特に限定されず使用できる。ただし、コストや、入手容易性の観点から、層状構造を有するマイカ、ワラストナイト、ベントナイト、鎖状構造を有するアタパルジャイト、セピオライト等が好ましく使用でき、特に、マイカがより好ましく使用できる。なお、無機質中空粒子の場合と同様に、添加する鎖状または層状構造を有する鉱物は1種類に限定されるものではなく、同時に複数種類を添加することもできる。また、その粒径については、中空粒子と同様に、使用する場所、作業性等を考慮して適宜選択されるものであり限定されない。
【0023】
また、本発明の目地処理材用組成物は、さらにカルボキシメチルセルロース及びその塩類(以下「CMC及びその塩類」ともいう)の少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0024】
カルボキシメチルセルロース及びその塩類の添加量としては特に限定されるものではなく、作業性等を考慮して規定することができるが、例えば目地処理材の主材100質量部に対して、0.6質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることが更に好ましい。
【0025】
下限値については特に限定されるものではなく、添加されている、すなわち0質量部より多いことが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましい。
【0026】
なお、カルボキシメチルセルロース及びその塩類は、上記のように1種以上添加することができ、2種以上添加する場合には、添加量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0027】
特に目地処理材の主材100質量部に対してカルボキシメチルセルロース及びその塩類の少なくとも1種以上を0.02〜0.5質量部含むように添加した場合、作業性を損ねることなく、大幅にヤセを低減することができるため好ましい。
【0028】
カルボキシメチルセルロース及びその塩類は、前記増粘剤として例示列挙したセルロースエーテル類とは異なり、吸水性が非常に良く、目地処理材に用いようとすると、目地処理材用組成物を混練するために必要となる水量が多くなり、水量が多くなることに起因する目地処理材の「ヤセ」の原因となりえる。しかし、本発明者らが本発明の目地処理材用組成物に対して適用を検討したところ、従来の知見とは異なり、目地処理材として用いたときにヤセを低減させる効果があることを見出したものである。
【0029】
これは、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物と、カルボキシメチルセルロース及びその塩類とを同時に添加することによって、何らかの相互作用が生じたためヤセが起こりにくくなる、又は、カルボキシメチルセルロース及びその塩類を添加することによって、本発明の目地処理材用組成物に水を添加し、混練して目地処理材として用いる際、目地処理材中に含まれる気泡が破泡しにくくなり、塗布後、乾燥した際にヤセが起こりにくくなると考えられる。
【実施例】
【0030】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1〜4においては、それぞれ表1〜4に示す配合の質量比で原料を混合し、本発明の目地処理材用組成物を用いた目地処理材を作製した。そして、実際の施工現場同様、図1に示す、石膏ボードの小口部の突き付け部を鉋で削ることにより作製したVカット目地11(図1中、Vカット目地の幅12は6mm、深さ13は6mmとなっている)へ目地処理材を1回塗布し、十分に乾燥した後、目地部のくぼみを「ヤセ」としてダイヤルゲージを用いて測定し、評価した。作業性が良好な目地処理材は、石膏ボード表面と目地部の高さが略同一になるまで、すなわち、目地部のくぼみがなくなるまで、目地処理材の再塗布・再乾燥を繰り返した。そして、その回数は各表中、目地部が平滑になるまでの塗布回数として記録した。
【0032】
作業性の評価は、作業性が良好であるものを丸、良好でないものを×として評価した。作業性が良好でないものとは、目地処理材が十分伸びない等の理由で目地部への充填が困難な場合を意味している。
【0033】
そして、表中の「水/粉体(%)」とは水の質量の、主材、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物、樹脂剤、硬化調整剤、増粘剤の合計質量に対する比を百分率で示したものであり、各試料の粘度、濃度が作業する上で最適になるように水を調整、添加した。
【0034】
また、樹脂剤、硬化調整剤、増粘剤としては、目地処理材において一般的に使用されているものを使用することができる。本実施例においては、樹脂剤としてポリビニルアルコールを、硬化調整剤として二水石膏を、増粘剤としてセルロースエーテルをそれぞれ使用した。
【0035】
なお、実施例1、2については、主材として焼石膏を使用して反応硬化形の目地処理材とした。また、実施例3、4については、主材として炭酸カルシウムを使用して乾燥硬化形の目地処理材とした。
【実施例1】
【0036】
上述のように、主材として焼石膏を使用した。また、無機質中空粒子としてはシラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物としてはマイカをそれぞれ使用し、その添加量を変化させて、性能を評価した。また、比較例として、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物を添加していないブランク試料、シラスバルーン、マイカのいずれかしか添加していない試料についても検討を行なった。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物とを併用して使用した実施例1(試料No.011〜015)では、ヤセが0.2〜0.4mmとなった。なお、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物を添加せず、同様に実施した比較例であるブランク試料(試料No.111)ではヤセが1.0mmであったことから、本発明によりヤセを半分以下とすることができた。これに対して、併用せずにいずれか一方のみを添加した比較例(試料No.112、113)では0.8、1.0mmとなっており、ヤセの低減について併用した場合に比べて効果が小さいことが分かる。特に、試料No.113のマイカのみを添加した場合は、添加していない場合と全く変化がない結果となった。つまり、マイカのみではヤセを低減させる効果はなかった。また、本発明と同程度のヤセとなるように、無機質中空粒子を多く入れた比較例(試料No.114)では、ヤセは低減するものの、作業性が損なわれ、Vカット目地部に容易に目地処理材を充填することができず、実際の使用に耐えられるものではなかった。
【0038】
以上のように、無機質中空粒子と鎖状または層状構造を有する鉱物とを組み合わせることによって、それぞれ個別に添加した場合とは異なり、作業性を良好なものとしつつも、ヤセを大幅に低減させることができた。これは両者を同時に添加することによって何らかの相互作用が生じたためと考えられる。また、ヤセが低減したため目地部が平坦になるまでの塗布回数が3回から2回と少なくすることができ、工期の短縮が可能となった。
【実施例2】
【0039】
本実施例においては、実施例1と同様に、主材として焼石膏を使用した。ただし、無機質中空粒子として、フライアッシュ、パーライト、ガラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物として、ワラストナイト、アタパルジャイト、ベントナイト、セピオライトをそれぞれ使用した。また、比較例として、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物の添加量を変化させて検討を行った。表2に結果を示す。
【0040】
【表2】

表2に示すように、本発明の目地処理材用組成物を用いた試料(試料No.021〜025)は、いずれもヤセが0.5mm以下と少なく、作業性も良好なものとなった。また、実施例1の場合と同様に塗布回数を2回にまで少なくできることができた。つまり、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物であれば特定の材料に限定されることなく使用でき、本発明の目的を達成できることが分かる。
【0041】
これに対して、比較例である試料No.121、122に示すように、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物のいずれかを過剰に添加した場合、作業性が悪化しており、実際の使用に耐えないことが分かる。また、同じく比較例である試料No.123、124に示すように、その添加量が一方でも少なければ、ヤセはほとんど低減しなかった。以上の結果から、本発明の目的を達成するためには各成分をそれぞれ所定量添加する必要があることが分かる。
【実施例3】
【0042】
実施例3においては、上述のように、主材として炭酸カルシウムを使用した。また、無機質中空粒子としてはシラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物としてはマイカをそれぞれ使用し、その添加量を変化させて、性能を評価した。また、比較例として、ブランク試料、シラスバルーン、マイカのいずれかしか添加していないものについて検討を行なった。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

表3の結果によれば、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物とを併用して使用した場合(試料No.031〜035)では、ヤセが0.4〜0.8mmとなった。ここで、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物を添加せずに同様に実施した比較例であるブランク試料(試料No.131)では、ヤセは1.5mmであったことから、本実施例では、ヤセを半分以下程度に低減できている。
【0044】
これに対して、いずれか一方のみしか添加していない比較例(試料No.132、133)ではヤセが1.2mm、1.4mmとなっており、併用した場合に比べて効果が小さい。特に、試料No.133のマイカのみを添加した場合はほとんど変化がない。また、ヤセを本発明と同程度のものとするために、無機質中空粒子を多量に配合した比較例である試料No.134は、ヤセについては改善されるものの、作業性が悪く目地処理材としての使用は困難であった。これら結果は、主材として焼石膏を使用した場合と同様の結果を示している。
【0045】
以上のように、主材が炭酸カルシウムでも本発明を適用することによって、作業性を良好なものとしつつもヤセを大幅に低減できた。つまり、本発明は、主材の種類によらず適用できるものであり、目地処理材用組成物全般に適用できるものといえる。
【実施例4】
【0046】
実施例4においては、実施例3と同様に、主材として炭酸カルシウムを使用した。ただし、無機質中空粒子として、フライアッシュ、パーライト、ガラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物として、ワラストナイト、アタパルジャイト、ベントナイト、セピオライトをそれぞれ使用した。また、比較例として、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物の添加量を変化させて検討を行った。表4に結果を示す。
【0047】
【表4】

表4に示すように、本発明の目地処理材用組成物を用いた試料(試料No.041〜045)は、いずれもヤセが0.8〜1.0mmと少なく、作業性も良好なものとなった。また、その結果、実施例3の場合と同様に塗布回数を3回にまで少なくすることができた。つまり、主材が炭酸カルシウムの場合でも、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物を所定量ずつ含むものであれば、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物は特定の材料に限定されることなく使用でき、本発明の目的を達成できることが分かる。
【0048】
これに対して、比較例である試料No.141、142に示すように、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物のいずれかを過剰に添加した場合、作業性が悪くなるため実使用に耐えないことが分かる。また、比較例である試料No.143、144に示すように、その添加量が一方でも少なければ、ヤセをほとんど低減することはできず、本発明の目的は達成し得ないことが分かる。従って、この場合でも、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物をそれぞれ所定量添加することが必要であることが分かる。
【0049】
以上のように、本発明においては、無機質中空粒子と鎖状または層状構造を有する鉱物を同時に所定量、目地処理材に添加することによって、それぞれを単独で添加した場合とは異なり、作業性を良好に保ったまま、目地処理材のヤセを低減することが可能となった。
【実施例5】
【0050】
本実施例では、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下、「CMC-Na」とも記載する)の添加効果について評価を行った。
【0051】
主材として焼石膏を使用した。また、無機質中空粒子としてはシラスバルーンを、鎖状または層状構造を有する鉱物としてはマイカをそれぞれ使用し、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量を変化させて、その性能を評価した。
【0052】
具体的な実験手順としては、表5に示す配合の質量比で各原料を混合し、本発明の目地処理材用組成物を用いた目地処理材を作製した。
【0053】
そして、評価方法としては、図2に示すような目透し目地を石膏ボードを組み合わせて作製し、図2中の目地部21に作製した目地処理材を目地が埋まるまで充填し、十分に乾燥した後、目地部のくぼみを「ヤセ」としてダイヤルゲージを用いて測定し、評価した。また、石膏ボード表面と目地部21の高さが略同一になるまで、すなわち、目地部21のくぼみがなくなるまで、目地処理材の再塗布・再乾燥を繰り返した。そして、その回数は各表中、目地部が平滑になるまでの塗布回数として記録した。
【0054】
なお、図2中の目地部21は直方体形状をしており、その幅22は10mm、深さ23は12.5mmとなっている。
【0055】
作業性の評価は、作業性が良好であるものを丸、多少充填しにくいものについては三角として評価した。多少充填しにくいとは、目地処理材を目地部に充填する際、目地処理材が若干伸びにくく力を要することを意味している。
【0056】
そして、表中の「水/粉体(%)」とは水の質量の、主材、無機質中空粒子、鎖状または層状構造を有する鉱物、樹脂剤、硬化調整剤、増粘剤及びCMC-Naの合計質量に対する比を百分率で示したものであり、各試料の粘度、濃度が作業する上で最適になるように水を調整、添加した。
【0057】
また、樹脂剤、硬化調整剤、増粘剤としては、目地処理材において一般的に使用されているものを使用することができる。本実施例においては、樹脂剤としてポリビニルアルコールを、硬化調整剤として二水石膏を、増粘剤としてメチルセルロースをそれぞれ使用した。
【0058】
結果を表5に示す。
【0059】
【表5】

表5の結果によれば、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を添加した試料No.052〜055については、添加していない試料No.051と比較して、作業性を損ねることなくヤセが低減していることが分かる。特に試料No.054については試料No.051と比較してヤセが最大で半分にまで低減していることが分かる。また、目地部が平滑になるまでの処理回数も3回から2回に少なくなることも分かる。ただし、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量が特に多い試料No.056については、ヤセの効果については添加していない場合と同程度で十分な性能を有するものの、作業性が若干低下していることが確認された。
【0060】
以上のように本発明の目地処理材用組成物において、CMC及びその塩類を添加することにより、目地処理材として用いた際にヤセを低減させ、繰り返し塗布(充填)する回数についても低減できることが確認できた。これは、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物と、カルボキシメチルセルロース及びその塩類とを同時に添加することによる何らかの相互作用によるもの、又はCMC及びその塩類が有する、目地処理材中に含まれる気泡が破泡すること(気泡がつぶれること)を防ぐ機能によるものと考えられる。
【実施例6】
【0061】
本実施例においては、主材として炭酸カルシウムを用いた以外は実施例5と同様にしてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加効果について評価を行った。
【0062】
具体的な実験手順としては、表6に示す配合の質量比で各原料を混合し、本発明の目地処理材用組成物を用いた目地処理材を作製した。
【0063】
そして、評価方法としては、実施例5と同様にして行った。
【0064】
結果を表6に示す。
【0065】
【表6】

表6の結果によれば、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を添加した試料No.062〜065については、添加していない試料No.061と比較して、作業性を損ねることなくヤセが低減していることが分かる。特に試料No.064については最大で試料No.061と比較してヤセが2/3まで低減していることが分かる。また、目地部が平滑になるまでの処理回数も5回から4回に少なくなることも分かる。ただし、カルボキシメチルセルロースの添加量が特に多い試料No.066については、ヤセの効果については添加していない場合と同程度で十分な性能を有するものの、作業性が若干低下していることが確認された。
【0066】
以上のように本発明の目地処理材用組成物において、CMC及びその塩類を添加することにより、目地処理材として用いた際にヤセを低減させ、繰り返し塗布(充填)する回数についても低減できることが確認できた。これは、無機質中空粒子と、鎖状または層状構造を有する鉱物と、カルボキシメチルセルロース及びその塩類とを同時に添加することによる何らかの相互作用によるもの、又はCMC及びその塩類が有する、目地処理材中に含まれる気泡が破泡すること(気泡がつぶれること)を防ぐ機能によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、建築物の内壁や天井などの内装工事において、隣接する下地材間の目地部に充填することにより目地部を塞ぐとともに、目地部を下地材の表面と略同一の高さに処理するための目地処理材に用いる目地処理材用組成物に関する発明である。そして、本発明によれば、ヘラで塗りつける際の作業性を確保しつつ、よりヤセを少なくすることができる。また、従来よりも少ない塗布回数で目地処理を完了することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目地処理材の主材100質量部に対し、無機質中空粒子1〜20質量部、鎖状または層状構造を有する鉱物3〜20質量部を含むことを特徴とする目地処理材用組成物。
【請求項2】
前記目地処理材の主材が焼石膏又は炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載の目地処理材用組成物。
【請求項3】
前記鎖状または層状構造を有する鉱物が、マイカ、ワラストナイト、アタパルジャイト、ベントナイト、セピオライトからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の目地処理材用組成物。
【請求項4】
前記無機質中空粒子が、シラスバルーン、フライアッシュ、パーライト、ガラスバルーンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載の目地処理材用組成物。
【請求項5】
前記鎖状または層状構造を有する鉱物が、マイカであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項に記載の目地処理材用組成物。
【請求項6】
前記無機質中空粒子が、シラスバルーンであることを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項に記載の目地処理材用組成物。
【請求項7】
カルボキシメチルセルロース及びその塩類の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至6いずれか一項に記載の目地処理材用組成物。
【請求項8】
前記目地処理材の主材100質量部に対してカルボキシメチルセルロース及びその塩類の少なくとも1種以上を0.02〜0.5質量部含むことを特徴とする請求項7に記載の目地処理材用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−251418(P2012−251418A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72169(P2012−72169)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000160359)吉野石膏株式会社 (48)