説明

目地部の形成方法及び目地充填用粉末

【課題】耐酸性、遮水性等に優れた目地部を、仕上り良好で、短時間に容易に形成することが可能な目地部の形成方法及び、目地部への充填が容易で、加熱溶融を速やかに実施しうる目地充填用粉末を提供すること。
【解決手段】本発明の目地部の形成方法は、改質硫黄及び無機系細骨材を含む粒径5mm以下の目地充填用粉末を、目地部に充填する工程と、目地部に充填した粉末を加熱し、改質硫黄を溶融する工程と、溶融した改質硫黄を冷却固化する工程とを含む。また本発明の目地充填用粉末は、改質硫黄の溶融物及び特定粒径の無機系細骨材の溶融混合物を冷却固化した改質硫黄含有固化物を、粒径5mm以下に粉砕した粉砕物、若しくは粒径5mm以下の改質硫黄粉末及び特定粒径の無機系細骨材を、質量比で1:0.5〜10で含む混合粉末からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性、遮水性等に優れる目地部を、仕上り良好で容易に形成することが可能なタイルやパネル等の目地部の形成方法及び該方法に利用可能な目地充填用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
タイルやパネル等の目地部を充填する目地材料としては、従来、樹脂製材料やセメントモルタル材料等が主に利用されている。
近年、セメントコンクリートやセメントモルタルに比して、耐酸性、遮水性等に優れる点で、改質硫黄含有材料が注目され、土木・建設用材料としての利用が図られている。
このような材料は、その性能から特に、温泉地等における耐酸性能を必要とする箇所の目地充填材料としての利用が期待でき、そのような用途への利用も提案されている。
例えば、特許文献1には、改質硫黄100質量部と、粒径5mm以下の細骨材30〜400質量部とを含む充填用硫黄含有固化物を、アプリケータを用いて、溶融しながら目地部等に充填する方法や材料が提案されている。また、特許文献2には、カートリッジ式の硫黄固化体を溶融して目地部に充填するための充填器が提案されている。
しかし、このような硫黄含有固化物を溶融しながら目地部に充填する方法では、前記特許文献に記載されるように、硫黄含有固化物を溶融するための加熱部と、溶融物を押出す加熱機構を有する押出し部等を備える特殊な充填器が必要である。また、このような改質硫黄等の硫黄材料を溶融状態において目地部に充填する方法では、該溶融物が、充填時に目地部以外の箇所に付着し、仕上り状態の低下を招く恐れがあり、このような充填作業には熟練が必要である他、該充填にある程度の時間を要する。
【特許文献1】特開2005−248483号公報
【特許文献2】特開2006−43509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、特に、耐酸性を要する環境下においても充分な耐酸性、遮水性を発揮しうる目地部を、仕上り良好で、短時間に容易に形成することが可能な目地部の形成方法を提供することにある。
本発明の別の課題は、目地部への充填が容易で、加熱溶融を速やかに実施しうる、本発明の目地部の形成方法に利用できる目地充填用粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、改質硫黄及び無機系細骨材を含む粒径5mm以下の目地充填用粉末を、目地部に充填する工程(A)と、目地部に充填した目地充填用粉末を加熱し、改質硫黄を溶融する工程(B)と、工程(B)の後、溶融した改質硫黄を冷却固化する工程(C)とを含む目地部の形成方法が提供される。
また本発明によれば、改質硫黄の溶融物と、粒径0.5mm以下の無機系細骨材との溶融混合物を冷却固化して得た改質硫黄含有固化物を、粒径5mm以下に粉砕して得た、目地部を形成するための目地充填用粉末が提供される。
更に本発明によれば、粒径5mm以下の改質硫黄粉末と、粒径0.5mm以下の無機系細骨材とを、質量比で1:0.5〜10で含む混合粉末からなる、目地部を形成するための目地充填用粉末が提供される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の目地部の形成方法は、改質硫黄を含む特定粒径の目地充填用粉末を、目地部に充填し、充填した目地充填用粉末を加熱し、改質硫黄を溶融した後、冷却固化するという簡便の方法を採用するので、耐酸性を要する環境下においても充分な耐酸性、遮水性を発揮しうる目地部を、仕上り良好で、短時間に容易に形成することができる。特に、取扱いの容易な特定の目地充填用粉末を用いることにより、簡便に、しかも速やかに該粉末を目地部に充填することができる。更に、該粉末の加熱溶融は、該粉末を目地部に充填した後に実施するので、ヒータ等の加熱機構を有する簡易な装置を用いて効率良く、容易に実施することができる。
本発明の目地部充填材は、特定の改質硫黄含有固化物の粉砕物であって、特定粒径を有するか、若しくは特定粒径の改質硫黄粉末と特定粒径の無機系細骨材とを特定割合で含む構成を採用するので、目地部への充填が容易であり、しかも改質硫黄の加熱溶融が速やかに進行する。従って、本発明の目地部の形成方法に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の目地部の形成方法は、タイル、耐熱性パネル等の目地部を形成する方法であって、特に、耐酸性や遮水性を必要とする、例えば、温泉地における施設の目地部形成等に特に有用である。また、本発明の形成方法は、目地部の新規の形成の他に、目地部の修繕等にも利用可能である。
本発明の目地部の形成方法は、改質硫黄及び無機系細骨材を含む粒径5mm以下の目地充填用粉末を、目地部に充填する工程(A)を含む。
【0007】
工程(A)に用いる目地充填用粉末は、改質硫黄及び無機系細骨材を含む粒径5mm以下、通常0.5〜5mmの範囲の粉末の混合物であれば良いが、例えば、1〜4mmの粉末が70〜99重量%と、1mm未満の粉末及び4mmを超え5mm以下の粉末の合計が1〜30重量%とを含む混合粉末であることが、目地への充填し易さの点で好ましい。
本発明の目地充填用粉末は、改質硫黄の溶融物と、特定粒径の無機系細骨材との溶融混合物を冷却固化して得た改質硫黄含有固化物を、粒径5mm以下に粉砕して得た粉砕物(以下、本発明の粉末(a)という)、若しくは特定粒径の改質硫黄粉末と、特定粒径の無機系細骨材とを特定割合で含む混合粉末(以下、本発明の粉末(b)という)である。
【0008】
前記改質硫黄は、例えば、天然産又は、石油や天然ガスの脱硫によって生成した硫黄等を硫黄改質剤により重合したものであって、硫黄と硫黄改質剤との反応物である。
硫黄改質剤としては、例えば、炭素数4〜20のオレフィン系炭化水素又はジオレフィン系炭化水素、具体的には、リモネン、ピネン等の環状オレフィン系炭化水素、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン等の芳香族炭化水素、ジシクロペンタジエン及びそのオリゴマー、シクロペンタジエン、テトラヒドロインデン、ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロオクタジエン等のジエン系炭化水素等の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。
【0009】
改質硫黄は、硫黄と硫黄改質剤とを溶融混合することにより得ることができる。この際、硫黄改質剤の使用割合は、硫黄と硫黄改質剤との合計量に対して、通常0.1〜20質量%、特に、1.0〜10質量%の割合が好ましい。
前記溶融混合は、公知の各種加温可能なミキサー等を用いて、硫黄と硫黄改質剤とを120〜160℃の範囲で溶融混合し、例えば、硫黄を充分に改質し、耐酸性を向上させるために、140℃における粘度が通常0.05〜1.0Pa・s、好ましくは0.05〜0.5Pa・s程度となるように混合する方法等により行うことができる。
【0010】
本発明の粉末(a)の製造には、前記溶融混合した改質硫黄の溶融物を用いる。一方、本発明の粉末(b)に用いる改質硫黄粉末は、まず、該溶融物を適当な型枠等に導入した後、冷却固化する。次いで、得られた固化物を、公知の破砕機等を用いて破砕、粉砕した後、所望粒径に調整することにより得ることができる。
粒径の調整は、例えば、所望の網目を有する篩等を用いて行うことができる。
本発明の粉末(b)に用いる改質硫黄粉末の粒径は、5mm以下、通常0.5〜5mmの範囲の粉末の混合物であれば良いが、例えば、1〜4mmの粉末が70〜99重量%と、1mm未満の粉末及び4mmを超え5mm以下の粉末の合計が1〜30重量%とを含む混合粉末であることが、目地への充填し易さの点で好ましい。
【0011】
本発明の粉末(a)及び粉末(b)に用いる無機系細骨材の粒径は、0.5mm以下、好ましくは0.1mm以下である。該粒径が0.5mmを超える場合には、目地部への充填が困難になる恐れがある他、後述する充填後の目地充填用粉末を加熱溶融した際に、無機系細骨材が露出する恐れがある。
【0012】
前記無機系細骨材の種類は、特に限定されないが、耐酸性をより改善するために、少なくともCa及びSiを含み、細骨材中のCa、Si、Alを酸化物換算したCaO/(SiO2+Al2O3)の割合が、質量比で0.2以下の細骨材が好ましい。前記細骨材中のCaO/(SiO2+Al2O3)の割合は、Ca量をCaOに換算し、Si量をSiO2に換算して、Al量をAl2O3に換算してそれぞれ質量比により決定する。この際、Alは必ずしも含まれなくて良い。
このような無機系細骨材としては、例えば、石炭灰、珪砂、シリカヒューム、石英粉、砂、ガラス粉末、電気集塵灰等のシリカ成分を主体とする細骨材の1種又は2種以上が挙げられる。
【0013】
本発明の粉体(a)を製造するには、前述の改質硫黄の溶融物と、好ましくは予め120〜160℃に予熱した前記特定粒径の無機系細骨材とを混合し、得られた溶融混合物を、所望の型枠等に導入して冷却固化して改質硫黄含有固化物を調製する。次いで、該固化物を公知の破砕機等を用いて破砕、粉砕し、上述の粒径5mm以下の粒径となるように、篩等を用いて調整する方法等により得ることができる。
本発明の粉体(b)を製造するには、前述の特定粒径の改質硫黄粉末と、前記特定粒径の無機系細骨材とを、公知の混合機を用いて後述する所定の混合割合で混合することにより得ることができる。
【0014】
工程(A)に用いる目地充填用粉末、又は本発明の粉体(a)若しくは粉体(b)において、前記改質硫黄と前記無機系細骨材との含有割合は、質量比で通常、1:0.5〜10、好ましくは1:1〜2である。改質硫黄1質量部に対する無機系細骨材の含有割合が0.5質量部未満では、充填後の充填部の強度が低下する恐れがあり、一方、10質量部を超える場合には、充填部の接着力が低下する恐れがある。
【0015】
工程(A)において、目地充填用粉末の目地部への充填は、該粉末を目地部に詰め、好ましくは押圧する方法等により行なうことができる。この際、目地部が垂直面等の場合であっても、通常、押圧により目地充填用粉末は充填した所定箇所に保持することができる。また、目地充填用粉末を充填した所定箇所により強固に保持させるために、例えば、充填前の目地充填用粉末に液状接着剤を適量混合し、目地充填用粉末に接着性を付与してから充填することも可能である。
【0016】
本発明の目地の形成方法は、目地部に充填した目地充填用粉末を加熱し、改質硫黄を溶融する工程(B)を含む。
工程(B)において加熱は、目地部に充填した目地充填用粉末中の改質硫黄を溶融しうるように、通常、120℃以上、好ましくは120〜170℃で加熱しうる加熱具を用いて行うことができる。目地部が垂直面等の場合、該加熱は、溶融した改質硫黄のタレ等が発生しないように短時間で行なうことが好ましい。
前記加熱具としては、所望温度制御が可能な熱風式ヒータ、ハロゲンヒータ等が挙げられ、効率性の点から目地部を集中して加熱しうる小型のヒータが好ましい。
【0017】
本発明の目地の形成方法は、工程(B)の後、溶融した改質硫黄を冷却固化する工程(C)を含む。
工程(C)は、通常、自然冷却により実施できる。従って、工程(B)における加熱を上記ヒータにより実施する場合には、ヒータを移動させながら目地部の加熱箇所を移動することにより、自動的に工程(C)が工程(B)の終了箇所から随時開始され、通常、数時間で冷却固化を完了させることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
密閉型撹拌混練機に固体硫黄100質量部を入れ、120℃で溶融後、130℃に保持した。この際の粘度をB型粘度計で測定したところ0.018Pa・sであった。続いて、ジシクロペンタジエン3重量部をゆっくり添加し、撹拌した。反応が始まり発熱反応により系の温度が約140℃となった。その後、温度上昇が終了したことを確認し、その際の反応系の粘度を測定したところ約0.1Pa・s程度であった。
次に上記状態において、平均粒径50μm、CaO/(SiO2+Al2O3)の質量比0.1の石炭灰100質量部及び平均粒径250μm、CaO/(SiO2+Al2O3)の質量比0.1未満の珪砂80質量部からなる140℃で予熱した無機系細骨材を投入し混合を開始した。混合物の温度を140℃に制御し20分間混合した。混合終了後、得られた溶融状態の改質硫黄を型枠に流し込んで冷却した後、電動ミキサーで砕いて粉末とした。
得られた粉末を、粒径が5mm以下となるように篩い分けして目地充填用粉末を調製した。得られた目地充填用粉末は、粒径1〜4mmの粉末を約80質量%含むものであった。
得られた目地充填用粉末を、タイル目地に充填したところ、容易に充填可能であった。次いで、熱風式小型ヒータを用いて、前記充填した粉末に目地部の一端側から130〜150℃の熱風を照射し、改質硫黄を溶融しながらヒータを他端側に移動させ、一端側の充填部から自然冷却させた。
得られた目地部は、外観の仕上りも良く、目地充填用粉末の充填から冷却までを短時間で行なうことができた。
【0019】
実施例2
密閉型撹拌混練機に固体硫黄100質量部を入れ、120℃で溶融後、130℃に保持した。この際の粘度をB型粘度計で測定したところ0.018Pa・sであった。続いて、ジシクロペンタジエン3重量部をゆっくり添加し、撹拌した。反応が始まり発熱反応により系の温度が約140℃となった。その後、温度上昇が終了したことを確認し、その際の反応系の粘度を測定したところ約0.1Pa・s程度であった。得られた溶融状態の改質硫黄を型枠に流し込んで冷却した後、ハンマーで砕いて粉末とした。
得られた粉末を、粒径が5mm以下となるように篩い分けして改質硫黄粉末を調製した。得られた改質硫黄粉末は、粒径1〜4mmの粉末を約75質量%含むものであった。
次に、得られた改質硫黄粉末100質量部と、平均粒径50μm、CaO/(SiO2+Al2O3)の質量比0.1の石炭灰60質量部及び平均粒径250μm、CaO/(SiO2+Al2O3)の質量比0.1未満の珪砂60質量部とを混合して目地充填用粉末を調製した。
得られた目地充填用粉末を、タイル目地に充填したところ、容易に充填可能であった。次いで、反射鏡付きハロゲンヒータを用いて、前記充填した粉末に目地部の一端側から130〜170℃の反射熱を照射し、改質硫黄粉末を溶融しながらヒータを他端側に移動させ、一端側の充填部から自然冷却させた。
得られた目地部は、外観の仕上りも良く、目地充填用粉末の充填から冷却までを短時間で行なうことができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質硫黄及び無機系細骨材を含む粒径5mm以下の目地充填用粉末を、目地部に充填する工程(A)と、
目地部に充填した目地充填用粉末を加熱し、改質硫黄を溶融する工程(B)と、
工程(B)の後、溶融した改質硫黄を冷却固化する工程(C)とを含む目地部の形成方法。
【請求項2】
目地充填用粉末中の改質硫黄と無機系細骨材との含有割合が、質量比で1:0.5〜10である請求項1記載の形成方法。
【請求項3】
工程(A)において、目地充填用粉末を目地部に充填するにあたり、予め目地充填用粉末に液状接着剤を混合する請求項1又は2記載の形成方法。
【請求項4】
改質硫黄の溶融物と、粒径0.5mm以下の無機系細骨材との溶融混合物を冷却固化して得た改質硫黄含有固化物を、粒径5mm以下に粉砕して得た、目地部を形成するための目地充填用粉末。
【請求項5】
改質硫黄と無機系細骨材との含有割合が、質量比で1:0.5〜10である請求項4記載の目地充填用粉末。
【請求項6】
粒径5mm以下の改質硫黄粉末と、粒径0.5mm以下の無機系細骨材とを、質量比で1:0.5〜10で含む混合粉末からなる、目地部を形成するための目地充填用粉末。

【公開番号】特開2007−262799(P2007−262799A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91361(P2006−91361)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】