説明

目標検出装置

【課題】長パルス信号波による受信障害を回避することができる目標検出装置を提供すること。
【解決手段】短パルス信号を送信し、目標における前記短パルス信号の反射により生じた第1の信号が受信された時点を前記目標との距離として識別する第1の識別手段と、前記短パルス信号よりパルス幅が長い長パルス信号を前記短パルス信号の後に送信し、前記目標における前記長パルス信号の反射により生じた第2の信号のパルス幅を圧縮することにより、前記目標を識別する第2の識別手段とを備えた目標検出装置において、前記第2の識別手段は、前記第1の信号が受信された時点が早いほど、前記長パルス信号の送信電力を小さな値に設定することによって構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば陸地や建造物等のような目標を検出する目標検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目標を検出する装置としては、例えば、マイクロ波帯の電波を送信してその反射波を受信し、現在地から目標までの距離や方位を測定するレーダ装置がある。レーダ装置を用いて遠距離にある目標を高い距離分解能で検出しようとする場合、尖頭送信電力を上げ、且つ幅の狭いパルス信号を空間に発射する必要がある。
【0003】
ところで、近年、電波資源有効利用の観点から、マグネトロンやクライストロン等の電子管に比べて不要輻射の少ない、半導体アンプを用いた固体化レーダ装置に注目が集まっている。しかしながら、固体化レーダ装置は、電子管を用いたレーダ装置に比べて送信電力が小さいので、遠方の目標に対する感度が低下してしまうという課題がある。
【0004】
この課題を解決するため、所定の変調を施した幅の長いパルス信号(以下「長パルス信号」という。)の電波を発射し、目標からの反射波を受信してパルス圧縮処理を行うことにより、遠方の目標を高い距離分解能で検出できる装置(以下「パルス圧縮レーダ装置」という。)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、従来のパルス圧縮レーダ装置では、長パルス信号の発射に起因し、放送波や通信波等を受信する設備(以下「電波受信設備」という。)において受信障害が発生することがあった。例えば、スーパーヘテロダイン方式を採用している受信機のイメージ帯域に本レーダ装置が発射する長パルス信号が位置した場合、パルス圧縮レーダ装置特有の幅の広いパルス発射により、マグネトロンやクライストロン等の電子管に比べて長い期間、電波が照射され、混信が顕在化することがある。
【0006】
そこで、その対策として、例えば、従来のパルス圧縮レーダ装置を陸上設置型の気象レーダに適用する場合は、受信障害が起こりうると想定した方位及び仰角方向に対し、長パルス信号の送信を停止するためセクタブランクを設ける処理を行っていた。
【0007】
また、例えば、従来のパルス圧縮レーダ装置を船舶に搭載する場合は、図8に示すようなアジマスブランクを設ける処理を行っていた。図8は、パルス圧縮レーダ装置を搭載した停泊中の船舶1と、陸地2と、長パルス信号が発射可能である領域を示す電波発射可能領域3と、長パルス信号の発射を制限する領域を示す電波発射制限領域4とを表している。船舶1に搭載されたパルス圧縮レーダ装置からは、電波発射可能領域3に向けて長パルス信号を発射し、受信障害が起こりうると想定した陸地2の方位には長パルス信号を発射しないよう電波発射領域を設定し、陸地2における受信障害を回避するようにしている。
【非特許文献1】吉田 孝監修「改訂 レーダ技術」、社団法人電気通信学会、平成11年5月25日発行、p275−280
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のパルス圧縮レーダ装置では、電波受信設備が存在すると予測される領域とレーダ装置の位置との関係に応じて、電波送信制限を設ける方位や仰角を都度設定する必要がある。そのため、海浜付近を航行する船舶や、都市型豪雨観測のために人口密集地帯で移動観測を行う移動体に従来のパルス圧縮レーダ装置を搭載した場合は、電波発射制限領域を常に最適に設定することは困難であった。したがって、従来のパルス圧縮レーダ装置では、長パルス信号による受信障害の回避が困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、長パルス信号による受信障害を回避することができる目標検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目標検出装置では、第1の識別手段は、短パルス信号を送信し、前記短パルス信号を送信した時点から目標における前記短パルス信号の反射により生じた第1の信号が受信された時点までの時間を前記目標との距離として識別する。第2の識別手段は、前記短パルス信号よりパルス幅が長い長パルス信号を前記短パルス信号の後に送信し、前記目標における前記長パルス信号の反射により生じた第2の信号のパルス幅を圧縮することにより、前記目標を識別する。また、前記第2の識別手段は、前記短パルス信号を送信した時点から前記第1の信号が受信された時点までの時間が短いほど、前記長パルス信号の送信電力を小さな値に設定する。
【0011】
この構成により、本発明の目標検出装置では、目標の識別に用いられる長パルス信号の送信電力は、その目標との距離が短いほど小さな値に設定される。したがって、このような目標との距離の如何にかかわらず送信電力が変更されることがない場合に比べて、到来する長パルス信号の電力が大き過ぎることに起因する目標への干渉・妨害等の障害が緩和され、あるいは回避される。
【0012】
また、本発明の目標検出装置では、請求項1に記載の目標検出装置において、前記第2の識別手段は、前記目標に到来する前記長パルス信号に対する前記目標の受信諸元データと、前記第2の識別手段が前記第2のパルス信号に対して有する送信諸元データとに基づいて、前記長パルス信号の送信電力を求める。
【0013】
この構成により、本発明の目標検出装置では、長パルス信号が第2の識別手段から目標に到達する(照射される)往路の伝搬路と、反対に第2の信号が目標から第2の識別手段に到達する復路の伝搬路との特性が加味されて、長パルス信号の送信電力が設定される。したがって、既述の目標への干渉・妨害等の障害がより確度高く緩和され、あるいは回避される。
【0014】
さらに、本発明の目標検出装置では、請求項1または請求項2に記載の目標検出装置において、前記第2の識別手段は、前記長パルス信号の送信および前記第2の信号の受信に供されるアンテナのビームの方向を可変し、前記ビームを介して前記長パルス信号が照射される領域毎の相対距離に基づいて前記送信諸元データを設定する。
【0015】
この構成により、本発明の目標検出装置では、長パルス信号が照射される領域が変化する場合であっても、その領域毎に既述の往路および復路の伝搬路の特性が加味されつつ長パルス信号の送信電力が設定される。したがって、長パルス信号を用いて識別されるべき目標が異なる方向に位置し、あるいは分布する場合であっても、これらの目標への干渉・妨害等の障害がより確度高く緩和され、あるいは回避される。
【0016】
さらに、本発明の目標検出装置では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の目標検出装置において、レンジ補完手段は、前記第1の信号と前記第2の信号との組み合わせにより、前記目標より近いレンジと遠いレンジとをカバーする。
【0017】
この構成により、本発明の目標検出装置では、Aスコープ上における長パルス信号のパルス幅以下のレンジは、そのレンジ内に位置する反射体(分布目標を含む。)で短パルスが反射することによって生じた信号に基づいて補完される。したがって、測位や測距なレンジの幅にかかわる制約の緩和が可能となる。
【0018】
本発明の目標検出装置では、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の目標検出装置において、前記長パルス信号は、前記圧縮を可能とする処理が施された電波、音波、光の何れか1つに該当する。
【0019】
この構成により、本発明の目標検出装置は、多様な目標および分野に適した波動信号にパルス圧縮の技術を適用することによる測位や測距が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る目標検出装置によれば、長パルス信号の電力が大き過ぎることに起因する目標への干渉・妨害等の障害が緩和され、あるいは回避される。
【0021】
本発明に係る目標検出装置によれば、長パルス信号を用いて識別されるべき目標が異なる方向に位置し、あるいは分布する場合であっても、これらの目標への干渉・妨害等の障害がより確度高く緩和され、あるいは回避される。
【0022】
本発明に係る目標検出装置によれば、測位や測距なレンジの幅にかかわる制約が緩和される。
【0023】
本発明に係る目標検出装置によれば、多様な目標および分野に適した波動信号にパルス圧縮の技術を適用することによる測位や測距が可能となる。
【0024】
したがって、本発明によれば、従来例に比べてハードフェアの構成が大幅に変更されることなく、所望の目標にかかわる測位や測距が精度よく柔軟に実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明に係る目標検出装置を、船舶に搭載され、マイクロ波帯の電波を使用するレーダ装置に適用した例を挙げて説明する。
【0026】
まず、本発明に係るレーダ装置の一実施形態における構成について説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態におけるレーダ装置10は、送信タイミング指示部11、ニアパルス信号生成部12、長パルス信号生成部13、送信部14、空中線部15を備えている。また、レーダ装置10は、受信部16、目標検出部17、電界強度計算部18、諸元データ保持部19、閾値データ保持部20、判定部21、長パルス信号指示部22を備えている。
【0028】
送信タイミング指示部11は、予め定められたパルス繰り返し周期(Pulse Repetition Interval:PRI)に基づいて、後述するニアパルス信号及び長パルス信号を送信するタイミングを指示する送信トリガ信号を生成し、ニアパルス信号生成部12及び長パルス信号生成部13にそれぞれ出力するようになっている。
【0029】
ニアパルス信号生成部12は、送信タイミング指示部11から送信トリガ信号を入力し、送信トリガ信号に基づいてニアパルス信号を生成するようになっている。このニアパルス信号は、長パルス信号の発射期間中にその回り込み信号が原因となって信号の受信が不可能となる期間を、補完する為に発射するものである。前記信号受信不可能期間は、長パルス信号幅と光速により、以下の様に計算される。
【0030】
[数1]
信号受信不可能期間=(光速×長パルス信号幅)/2
【0031】
例えば、50μsの長パルス信号を発射する場合、ニアパルス信号はレーダ装置10を搭載した船舶の位置を中心として、半径7.5kmまでの領域に存在する目標を検出するための近距離観測用のパルス信号である。また、ニアパルス信号は、例えば、パルス幅が最大4μs程度で、無変調のパルス信号である。ここで、目標とは、陸地や、その海岸線、陸上又は海上の建造物等をいう。以下の説明では、レーダ装置10が目標を検出した場合は、検出した目標の付近に電波受信設備があるものと仮定する。なお、ニアパルス信号生成部12は、本発明に係る第1の識別手段を構成する。
【0032】
長パルス信号生成部13は、送信タイミング指示部11から送信トリガ信号を入力し、送信トリガ信号に基づいて長パルス信号を生成するようになっている。この長パルス信号は、レーダ装置10を搭載した船舶の位置を中心として、数1で決まる信号受信不可能期間以遠に存在する目標を検出することができるパルス信号である。この長パルス信号は、例えば、パルス幅が20μs〜50μs程度で、予め定めた変調方式によって変調された信号成分を含むものである。変調方式としては、例えば、チャープ変調方式や位相変調方式を挙げることができる。なお、長パルス信号生成部13は、本発明に係る第2の識別手段を構成する。
【0033】
ここで、送信トリガ信号、ニアパルス信号及び長パルス信号について、図2を用いて説明する。図2は、各信号の時間軸上の位置関係を概念的に示すタイミングチャートである。
【0034】
まず、図2の上段に示すように、送信トリガ信号は、PRIに基づき、送信タイミング指示部11によって生成される。また、図2の中段に示すように、ニアパルス信号及び長パルス信号は、送信トリガ信号に基づき、それぞれ、ニアパルス信号生成部12及び長パルス信号生成部13によって生成される。すなわち、PRIごとに、ニアパルス信号及び長パルス信号がそれぞれ1つずつ生成されるようになっている。ニアパルス信号と長パルス信号との時間間隔は、例えば、長パルス信号のパルス幅相当の時間間隔とされる。
【0035】
次に、図2の下段は、受信部16における検波出力を示したものであって、同図左から、ニアパルス信号が目標で反射した反射波信号の波形と、長パルス信号の発射期間中にその回り込み信号(メインバング)が原因となって信号の受信が不可能となる期間(ブラインドレンジ)と、長パルス信号が目標で反射した反射波信号の波形とが示されている。公知の技術として、ニアパルス信号による反射波信号を用いてブラインドレンジを補完する手法が知られている。本実施形態においては、受信部16が、ブラインドレンジを補完するようになっている。
【0036】
図1に戻り、送信部14は、ニアパルス信号生成部12が生成したニアパルス信号と、長パルス信号生成部13が生成した長パルス信号とを入力し、ニアパルス信号及び長パルス信号を空間に発射する周波数に周波数変換し、電力増幅を行って空中線部15に出力するようになっている。
【0037】
空中線部15は、船舶を中心とする周囲360度の領域に対し、電波の発射及び反射波の受信を行うアンテナ15aと、アンテナ15aの方位角を可変してアンテナ15aの走査領域を設定する駆動部15bとを備え、送信部14が周波数変換及び電力増幅を行ったニアパルス信号による電波と、長パルス信号による電波とを順次発射するようになっている。また、空中線部15は、ニアパルス信号及び長パルス信号による各電波が目標で反射した反射波信号を受信し、受信部16に出力するようになっている。なお、本実施形態において、駆動部15bが、アンテナ15aの方位角のみを可変できるものとして説明するが、駆動部15bがアンテナ15aの方位角及び仰角の少なくともいずれか一方を可変するものであってもよい。
【0038】
受信部16は、空中線部15からの反射波信号の電力増幅、検波及び長パルス信号に対してはパルス圧処理を行って、検波後の反射波信号を目標検出部17に出力するようになっている。また、前述のように、受信部16は、ニアパルス信号による反射波信号を用いて、ブラインドレンジを補完するようになっている。なお、受信部16は、本発明に係るレンジ補完手段を構成する。
【0039】
目標検出部17は、検波後の反射波信号に基づいて、目標である陸地や建造物等の検出を行うようになっている。また、目標検出部17は、目標を検出しない場合はその旨を示す信号を長パルス信号指示部22に出力し、目標を検出した場合はレーダ装置10から目標までの距離を求め、求めた距離情報を含む信号を電界強度計算部18に出力するようになっている。陸地や建造物等の検出方法としては、例えば、特開2003−227871号公報の図2に示されたセルアベレージ値の単調減少規則を利用することができる。なお、目標検出部17は、本発明に係る第1の識別手段及び第2の識別手段を構成する。
【0040】
電界強度計算部18は、目標検出部17が求めた距離に基づき、検出した目標の付近に存在すると仮定した電波受信設備における長パルス信号によるパルス信号波の電界強度を計算するようになっている。この電界強度は、例えば数2によって、レーダ装置10から距離rだけ離れた電波受信設備における受信電力を求めることにより算出できる。
【0041】
[数2]


【0042】
各変数の説明を以下に示す。
Pr:レーダ装置10から距離rだけ離れた位置での受信電力(=電界強度の2乗)
Pt:長パルス信号の尖頭送信電力[W]
τ:長パルス信号の変調パルス幅[秒]
Gt:長パルス信号の空中線利得[倍]
Gr:電波受信設備の受信空中線利得[倍]
Grec:長パルス信号の送信波長に対する電波受信設備の受信機利得[倍]
Ae:電波受信設備の受信空中線の開口面積[m
λ:長パルス信号の送信波長[m]
数1の右辺の変数のうち、Pt、τ、Gt及びλは、レーダ装置10における送信に係る変数であり、以下「送信諸元」という。また、数1の右辺の変数のうち、Gr、Grec及びAeは、電波受信設備での受信に係る変数であり、以下「受信諸元」という。
【0043】
諸元データ保持部19は、数2に示した送信諸元及び受信諸元のデータを保持しており、電界強度計算部18によって読み出されるようになっている。ここで、送信諸元のデータは、レーダ装置10を動作させる際に決定されるものであるので自明である。一方、受信諸元のデータは、受信障害の回避対象とする電波受信設備によって異なるものであるが、各電波受信設備が備える受信機は、放送波や通信波等に関する規格団体が提案した規格に基づいて設計されているので、その規格を参照して受信諸元のデータを決定することができる。また、予め実験を行って、受信諸元のデータを決定することもできる。
【0044】
閾値データ保持部20は、受信障害の回避対象とする電波受信設備において、受信障害が発生するか否かを判定するための電界強度閾値のデータを保持するようになっている。この電界強度閾値は、受信障害の回避対象とする電波受信設備における受信機が期待する所望信号受信電力に基づいて決定される値である。例えば、閾値データ保持部20は、前記受信機の所望信号受信電力の2倍の値を電界強度閾値として保持している。前記受信機の所望信号受信電力は、放送波や通信波等に関する規格団体が提案した規格を参照して、又は予め実験を行って決定されるものである。
【0045】
さらに図3を用いて閾値データ保持部20が保持する電界強度閾値のデータを説明する。図3において、横軸はレーダ装置10から目標までの距離を示し、縦軸は目標位置での電界強度を示す。
【0046】
図3に示すように、レーダ装置10が発射する長パルス信号波の電界強度は、距離の2乗に反比例し、尖頭送信電力が大きくなるに従って電界強度も大きくなるので、図示のように電界強度閾値を定めることにより、目標検出部17が求めた距離と、電界強度計算部18が計算した電波受信設備における電界強度とにより、その電波受信設備において受信障害が発生するおそれが有るか否かを判定できることとなる。
【0047】
図1に戻り、判定部21は、目標検出部17が求めた距離と、電界強度計算部18が計算した電波受信設備における電界強度と、閾値データ保持部20が保持する電界強度閾値とに基づいて電界強度閾値に対する電波受信設備における電界強度の多寡を判定し、判定結果を示す信号を長パルス信号指示部22に出力するようになっている。また、判定部21は、目標検出部17が目標を検出した場合は、目標ごとの電界強度を示す信号を長パルス信号指示部22に出力するようになっている。
【0048】
長パルス信号指示部22は、諸元データ保持部19が保持する送信諸元及び受信諸元のデータ及び判定部21の判定結果に基づいて、長パルス信号に係る送信諸元のデータ値を長パルス信号生成部13に指示するようになっている。なお、長パルス信号指示部22は、本発明に係る第2の識別手段を構成する。以下、図4を用いて長パルス信号指示部22の処理を具体的に説明する。
【0049】
図4は、送信トリガ信号に基づいて生成されたニアパルス信号により目標からの反射波が得られた状態を示している。前述のように、この反射波の受信によって、陸地や建造物等の目標が有るか無いかの情報、レーダ装置10から目標までの距離、目標付近の電波受信設備における電界強度が得られ、判定部21は閾値データ保持部20から電界強度閾値を読み出す(図1参照)。
【0050】
そして、長パルス信号指示部22は、陸地や建造物等が無い領域、又は陸地や建造物等は有るが受信障害の発生が無いと推定される領域に対して、長パルス信号を最大電力で送信するよう長パルス信号生成部13に指示する。
【0051】
また、長パルス信号指示部22は、受信障害の発生が有ると推定される領域に対して、電波受信設備における電界強度と電界強度閾値との差に応じて、当該領域に対しては長パルス信号の振幅を低減する処理、パルス幅を短縮する処理、又は長パルス信号の送信停止を行う処理のいずれか1つを長パルス信号生成部13に指示する。長パルス信号生成部13は、この指示に基づいて長パルス信号を生成する。
【0052】
次に、本実施形態におけるレーダ装置10の動作について図1及び図5を用いて説明する。図5は、レーダ装置10において、ニアパルス信号の生成から長パルス信号による反射波の受信までの動作を示すフローチャートである。
【0053】
ニアパルス信号生成部12は、送信タイミング指示部11が出力する送信トリガ信号に基づいてニアパルス信号を生成し(ステップS11)、送信部14に出力する。
【0054】
送信部14は、入力したニアパルス信号を空間に発射する周波数に周波数変換し、電力増幅を行って(ステップS12)、空中線部15に出力する。
【0055】
空中線部15は、ニアパルス信号の電波を発射し(ステップS13)、目標からの反射波を受信する(ステップS14)。そして、空中線部15は、反射波信号を受信部16に出力する。
【0056】
受信部16は、反射波信号を周波数変換して電力増幅し(ステップS15)、目標検出部17に出力する。
【0057】
目標検出部17は、反射波信号に基づき、陸地や建造物等の目標が有るか無いかを判定する(ステップS16)。
【0058】
ステップS16において、目標検出部17は、目標が無いと判定した場合は、その旨を示す信号を長パルス信号指示部22に出力し、長パルス信号指示部22は、長パルス信号の振幅を最大値に設定するよう長パルス信号生成部13に指示する(ステップS20)。
【0059】
一方、ステップS16において、目標検出部17は、目標が有ると判定した場合は、ニアパルス信号を送信してから反射信号を受信するまでの時間に基づいてレーダ装置10から目標までの距離を計算し(ステップS17)、距離を示す信号を電界強度計算部18に出力する。
【0060】
電界強度計算部18は、目標検出部17が目標を検出した場合、諸元データ保持部19から送信諸元のデータを読み出し、検出した目標付近の電波受信設備における電界強度を、例えば前述の数2により計算する(ステップS18)。
【0061】
判定部21は、閾値データ保持部20から電界強度閾値データを読み出し、読み出した電界強度閾値と、目標検出部17が求めた距離と、電界強度計算部18が計算した電波受信設備における電界強度とに基づいて電界強度閾値に対する電波受信設備における電界強度の多寡を判定し、判定結果を示す信号を長パルス信号指示部22に出力する(ステップS19)。また、判定部21は、目標ごとの電界強度を示す信号を長パルス信号指示部22に出力する。
【0062】
長パルス信号指示部22は、諸元データ保持部19が保持する送信諸元及び受信諸元のデータ及び判定部21の判定結果に基づいて、電波受信設備における電界強度と電界強度閾値との差に応じた指示信号を長パルス信号生成部13に出力する。
【0063】
まず、長パルス信号の振幅を最大値に設定しても受信障害の発生が無いと推定される領域(条件1)に対して、長パルス信号指示部22は、ステップS20において長パルス信号を最大電力で送信するよう長パルス信号生成部13に指示する。
【0064】
また、長パルス信号の振幅を最大値に設定すると受信障害の発生が起こりうるが、長パルス信号の振幅の低減(又はパルス幅の短縮)を行えば受信障害を回避することができる領域(条件2)に対して、長パルス信号指示部22は、距離に応じた長パルス信号の振幅の低減(又はパルス幅を短縮)を行うよう長パルス信号生成部13に指示する(ステップS21)。
【0065】
また、長パルス信号の振幅の低減(又はパルス幅の短縮)を行っても受信障害を回避することができない領域(条件3)に対して、長パルス信号指示部22は、長パルス信号の送信停止(換言すれば振幅値ゼロの長パルス信号を生成)を行うよう長パルス信号生成部13に指示する(ステップS22)。
【0066】
以降、図示を簡略化したが、長パルス信号生成部13は、長パルス信号指示部22の指示に基づいて、長パルス信号の振幅(又はパルス幅)の設定を行い、送信部14は、長パルス信号を空間に発射する周波数に周波数変換し、電力増幅を行って、空中線部15は、長パルス信号の電波を発射した後、反射波を受信する(ステップS23)。なお、受信部16は、空中線部15からの反射波信号の電力増幅、検波及び長パルス信号に対してはパルス圧縮処理、長パルス信号の送信期間においてブラインドレンジの補完処理を行う。
【0067】
以上説明したレーダ装置10の動作を図6に基づいて具体的に説明する。図6は、レーダ装置10を搭載した船舶31が、陸地32の海岸付近を点線矢印で示す方向に航行している状態を表している。船舶31のレーダ装置10からはニアパルス信号波が360度の方向の領域に向かって発射されるものとする。
【0068】
レーダ装置10が発射したニアパルス信号波による反射波により、目標検出部17は、海の領域41と、陸地を含む領域42〜43とを検出する。また、目標検出部17は、陸地を含む領域42〜43における各海岸線からレーダ装置10までの距離を求める。その結果、目標検出部17は、レーダ装置10の位置を基準として、領域44、42、43の順で各海岸線が遠くなることを把握できる。電界強度計算部18は、領域42〜44からレーダ装置10までの各距離における電界強度を計算する。判定部21は、電界強度閾値に対する電波受信設備における電界強度の多寡を判定する。長パルス信号指示部22は、各領域の電波受信設備において受信障害が発生するか否かを判定する。
【0069】
その結果、領域44が、長パルス信号の振幅の低減を行っても受信障害を回避することができない領域であるとすると、長パルス信号指示部22は、領域44に対し、長パルス信号波の発射を停止するよう長パルス信号生成部13に指示する。
【0070】
また、領域42及び43が、長パルス信号の振幅を最大値に設定すると受信障害の発生が有るが、長パルス信号の振幅の低減を行えば受信障害を回避することができる領域であるとすると、長パルス信号指示部22は、領域42及び43に対し、それぞれ、受信障害を回避できる長パルス信号の振幅値のデータを指示する。
【0071】
具体的には、長パルス信号指示部22は、領域42に対しては長パルス信号の振幅を、例えば最大値の1/4とするよう長パルス信号生成部13に指示する。また、長パルス信号指示部22は、領域43に対しては長パルス信号の振幅を、例えば最大値の1/2とするよう長パルス信号生成部13に指示する。すなわち、船舶31に搭載されたレーダ装置10は、長パルス信号の振幅を動的に設定し、受信障害を動的に回避することができる。
【0072】
以上のように、本実施形態におけるレーダ装置10によれば、ニアパルス信号によって求めた距離に応じて、長パルス信号を受信する領域における受信電界強度が閾値以下になるよう長パルス信号の送信諸元データを設定する長パルス信号指示部22を備える構成としたので、長パルス信号波による受信障害を回避することができる。
【0073】
次に、本実施形態の他の態様を図7に基づき説明する。図7は、前述の実施形態における長パルス信号生成部13の構成を変更した長パルス信号生成部50の構成を示す図である。その他の構成は図1と同様であるので説明を省略する。
【0074】
図7(a)に示すように、長パルス信号生成部50は、長パルス信号生成器51〜54と、長パルス信号選択部55と、D/A変換部56とを備えている。
【0075】
長パルス信号生成器51〜54は、それぞれ、送信トリガ信号に基づいて、互いに異なる振幅の長パルス信号を生成するようになっている。
【0076】
具体的には、長パルス信号生成器51〜54は、それぞれ、長パルス信号を生成するためのテーブルデータを保持しており、デジタル信号からなる長パルス信号を送信トリガ信号に基づいて生成するものである。図7に示した例では、長パルス信号生成器51〜54は、それぞれ、最大振幅、最大振幅の1/2、最大振幅の1/4及び振幅ゼロの長パルス信号を生成するものとしている。
【0077】
長パルス信号選択部55は、長パルス信号指示部22の指示に基づき、長パルス信号生成器51〜54のいずれか1つを選択するようになっている。
【0078】
D/A変換部56は、長パルス信号選択部55が選択した長パルス信号生成器51〜54のいずれか1つの出力である長パルス信号をアナログ信号に変換し、送信部14(図示省略)に出力するようになっている。
【0079】
この構成により、長パルス信号生成部50は、長パルス信号指示部22の指示に基づく長パルス信号を容易に生成することができる。
【0080】
なお、前述の説明では、長パルス信号の振幅の低減により受信障害を回避する例を挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図7(b)に示すように、パルス幅減少Aとして示すように、振幅低減と等価となる、短縮化した1つのパルス信号で長パルス信号を構成してもよい。
【0081】
なお、前述の実施形態において、尖頭送信電力を減少させる処理を振幅の低減やパルス幅の減少により行う例を挙げて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、尖頭送信電力を減少させる処理であれば同様の効果が得られる。
【0082】
また、前述の実施形態において、レーダ装置10を船舶に搭載する例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、車両や航空機等の移動体や、固定設置される気象レーダ等にレーダ装置10を搭載しても同様の効果が得られる。
【0083】
また、前述の実施形態において、マイクロ波帯の電波を使用するレーダ装置10を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、マイクロ波帯以外の電波や、超音波、赤外線、光等を使用して目標を検出する装置に適用しても同様の効果が得られる。
【0084】
また、前述の実施形態において、マイクロ波帯の電波を使用するレーダ装置10を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、マイクロ波帯以外の電波や、超音波、赤外線、光等を使用して目標を検出する装置に適用しても同様の効果が得られる。
【0085】
さらに、前述の実施形態において、長パルス信号のパルス圧縮を実現するためのチャープ変調は、例えば、PNコードやGOLDコードのように「急峻な自己相関特性」を有する符号系列に基づいて行われる変調で代替されてもよい。
【0086】
また、前述の実施形態において、ニアパルス信号を送信してから反射信号を受信するまでの時間に基づいて目標までの距離を求める処理は、換算等の算術演算に基づいて行われなくてもよく、例えば、その時間を「目標までの距離」として識別する処理で代替されてもよい。
【0087】
さらに、前述の実施形態において、目標は、雲、霧、波等の分布目標であってもよい。
【0088】
また、前述の実施形態において、長パルス信号波によって受信障害等を被る対象は、電波受信設備に限定されず、例えば、到来した長パルス信号に起因する干渉や妨害によって性能が低下し、あるいは誤動作その他の障害が発生し得る機器であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上ように、本発明に係る目標検出装置は、長パルス信号による既述の目標への干渉・妨害等の障害がより確度高く緩和され、あるいは回避される。したがって、目標検出装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施形態におけるレーダ装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の一実施形態におけるレーダ装置において、送信トリガ信号、ニアパルス信号及び長パルス信号の時間軸上の位置関係を概念的に示すタイミングチャート
【図3】本発明の一実施形態におけるレーダ装置において、閾値データ保持部が保持する電界強度閾値の説明図
【図4】本発明の一実施形態におけるレーダ装置において、長パルス信号指示部の処理の一例を示す図
【図5】本発明の一実施形態におけるレーダ装置の動作を示すフローチャート
【図6】本発明の一実施形態におけるレーダ装置を搭載した船舶の航行中における動作の説明図
【図7】本発明の一実施形態におけるレーダ装置において、他の態様を示す図
【図8】従来のレーダ装置においてアジマスブランクを設ける処理の説明図
【符号の説明】
【0091】
10 レーダ装置
11 送信タイミング指示部
12 ニアパルス信号生成部
13 長パルス信号生成部
14 送信部
15 空中線部
15a アンテナ
15b 駆動部
16 受信部
17 目標検出部
18 電界強度計算部
19 諸元データ保持部
20 閾値データ保持部
21 判定部
22 長パルス信号指示部
31 船舶
32 陸地
41〜44 領域
50 長パルス信号生成部
51〜54 長パルス信号生成器
55 長パルス信号選択部
56 D/A変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短パルス信号を送信し、前記短パルス信号を送信した時点から目標における前記短パルス信号の反射により生じた第1の信号が受信された時点までの時間を前記目標との距離として識別する第1の識別手段と、前記短パルス信号よりパルス幅が長い長パルス信号を前記短パルス信号の後に送信し、前記目標における前記長パルス信号の反射により生じた第2の信号のパルス幅を圧縮することにより、前記目標を識別する第2の識別手段とを備えた目標検出装置において、前記第2の識別手段は、前記短パルス信号を送信した時点から前記第1の信号が受信された時点までの時間が短いほど、前記長パルス信号の送信電力を小さな値に設定することを特徴とする目標検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の目標検出装置において、前記第2の識別手段は、前記目標に到来する前記長パルス信号に対する前記目標の受信諸元データと、前記第2の識別手段が前記第2のパルス信号に対して有する送信諸元データとに基づいて、前記長パルス信号の送信電力を求めることを特徴とする目標検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の目標検出装置において、前記第2の識別手段は、前記長パルス信号の送信および前記第2の信号の受信に供されるアンテナのビームの方向を可変し、前記ビームを介して前記長パルス信号が照射される領域毎の相対距離に基づいて前記送信諸元データを設定することを特徴とする目標検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の目標検出装置において、前記第1の信号と前記第2の信号との組み合わせにより、前記目標より近いレンジと遠いレンジとをカバーするレンジ補完手段を備えたことを特徴とする目標検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の目標検出装置において、前記長パルス信号は、前記圧縮を可能とする処理が施された電波、音波、光の何れか1つであることを特徴とする目標検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133868(P2010−133868A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311434(P2008−311434)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】