説明

目標検出装置

【課題】変調パルス信号による受信障害を回避することができる目標検出装置を提供すること。
【解決手段】レーダ装置10は、電界強度マップを生成する電界強度マップ生成部17と、電界強度閾値のデータを保持する閾値データ保持部18と、電界強度マップのデータと電界強度閾値のデータとを比較して受信障害の可能性の有無を示す受信障害マップを生成する受信障害マップ生成部19と、受信障害マップに基づき、変調パルス信号の進行方向が受信障害の発生の可能性が有る領域と重なった場合、今次の変調パルス信号の発射において受信障害が発生する可能性が有る旨を示す信号を出力する受信障害判定部20と、レーダ装置10から目標までの距離に応じて変調パルス信号の送信電力を設定するための指示を行う変調諸元指示部21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば陸地や建造物等のような目標を検出する目標検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目標を検出する装置としては、例えば、マイクロ波帯の電波を送信してその反射波を受信し、現在地から目標までの距離や方位を測定するレーダ装置がある。レーダ装置を用いて遠距離にある目標を高い距離分解能で検出しようとする場合、尖頭送信電力を上げ、且つ幅の狭いパルス信号を空間に発射する必要がある。
【0003】
ところで、近年、電波資源有効利用の観点から、マグネトロンやクライストロン等の電子管に比べて不要輻射の少ない、半導体アンプを用いた固体化レーダ装置に注目が集まっている。しかしながら、固体化レーダ装置は、電子管を用いたレーダ装置に比べて送信電力が小さいので、遠方の目標に対する感度が低下してしまうという課題がある。
【0004】
この課題を解決するため、所定の変調を施した幅の広いパルス信号(以下「変調パルス信号」という。)の電波を発射し、目標からの反射波を受信してパルス圧縮処理を行うことにより、遠方の目標を高い距離分解能で検出できる装置(以下「パルス圧縮レーダ装置」という。)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、従来のパルス圧縮レーダ装置では、変調パルス信号の発射に起因し、放送波や通信波等を受信する設備(以下「電波受信設備」という。)において受信障害が発生することがあった。例えば、スーパーヘテロダイン方式を採用している受信機のイメージ帯域に本レーダ装置が発射する変調パルス信号が位置した場合、パルス圧縮レーダ装置特有の幅の広いパルス発射により、マグネトロンやクライストロン等の電子管に比べて長い期間、電波が照射され、混信が顕在化することがある。
【0006】
そこで、その対策として、例えば、従来のパルス圧縮レーダ装置を陸上設置型の気象レーダに適用する場合は、受信障害が起こりうると想定した方位及び仰角方向に対し、変調パルス信号の送信を停止するためセクタブランクを設ける処理を行っていた。
【0007】
また、例えば、従来のパルス圧縮レーダ装置を船舶に搭載する場合は、図9に示すようなアジマスブランクを設ける処理を行っていた。図9は、パルス圧縮レーダ装置を搭載した停泊中の船舶1と、陸地2と、変調パルス信号が発射可能である領域を示す電波発射可能領域3と、変調パルス信号の発射を制限する領域を示す電波発射制限領域4とを表している。船舶1に搭載されたパルス圧縮レーダ装置からは、電波発射可能領域3に向けて変調パルス信号を発射し、受信障害が起こりうると想定した陸地2の方位には変調パルス信号を発射しないよう電波発射領域を設定し、陸地2における受信障害を回避するようにしている。
【非特許文献1】吉田 孝監修「改訂 レーダ技術」、社団法人電気通信学会、平成11年5月25日発行、p275−280
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のパルス圧縮レーダ装置では、電波受信設備が存在すると予測される領域とレーダ装置の位置との関係に応じて、電波送信制限を設ける方位や仰角を都度設定する必要がある。そのため、海浜付近を航行する船舶や、都市型豪雨観測のために人口密集地帯で移動観測を行う移動体に従来のパルス圧縮レーダ装置を搭載した場合は、電波発射制限領域を常に最適に設定することは困難であった。したがって、従来のパルス圧縮レーダ装置では、変調パルス信号による受信障害の回避が困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、変調パルス信号による受信障害を回避することができる目標検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目標検出装置は、予め定めた変調方式で変調した変調パルス信号を送信し、前記変調パルス信号を送信した時点から目標における前記変調パルス信号の反射により生じた信号が受信された時点までの時間を前記目標との距離として識別する目標識別手段を備えた目標検出装置において、前記目標識別手段は、前記変調パルス信号を送信した時点から前記目標における前記変調パルス信号の反射により生じた信号が受信された時点までの時間が短いほど、前記変調パルス信号の送信電力を小さな値に設定する送信電力設定手段を備えた構成を有している。
【0011】
この構成により、本発明の目標検出装置は、送信電力設定手段が、変調パルス信号を送信する位置から変調パルス信号が受信される位置までの距離が短いほど変調パルス信号の送信電力を小さな値に設定するので、変調パルス信号による受信障害を回避することができる。
【0012】
また、本発明の目標検出装置は、請求項1に記載の目標検出装置において、前記目標識別手段は、前記目標に到来する前記変調パルス信号に対する前記目標の受信諸元データと、前記目標識別手段が前記変調パルス信号に対して有する送信諸元データとに基づいて、前記変調パルス信号の送信電力を求める。
【0013】
この構成により、本発明の目標検出装置では、変調パルス信号が目標識別手段から目標に到達する(照射される)往路の伝搬路と、反対に変調パルス信号が目標から目標識別手段に到達する復路の伝搬路との特性が加味されて、変調パルス信号の送信電力が設定される。したがって、既述の目標への干渉・妨害等の障害がより確度高く緩和され、あるいは回避される。
【0014】
さらに、本発明の目標検出装置は、前記送信電力設定手段が、前記変調パルス信号の送信及び前記反射信号の受信に供されるアンテナのビームの方向を可変し、前記ビームを介して前記変調パルス信号が照射される領域毎の相対距離に基づいて前記変調パルス信号の送信電力を設定する構成を有している。
【0015】
この構成により、本発明の目標検出装置では、変調パルス信号が照射される領域が変化する場合であっても、その領域毎に既述の往路および復路の伝搬路の特性が加味されつつ変調パルス信号の送信電力が設定される。したがって、変調パルス信号を用いて識別されるべき目標が異なる方向に位置し、あるいは分布する場合であっても、これらの目標への干渉・妨害等の障害がより確度高く緩和され、あるいは回避される。
【0016】
さらに、本発明の目標検出装置は、前記変調パルス信号の電界強度を計算する電界強度計算手段と、現在の位置情報を取得する位置情報取得手段と、地図データ及び海図データの少なくともいずれか一方を含むマップデータを取得するマップデータ取得手段とを備え、前記送信電力設定手段は、前記変調パルス信号の電界強度、前記現在位置情報及び前記マップデータに基づいて前記変調パルス信号の送信電力を設定する構成を有している。
【0017】
この構成により、本発明の目標検出装置は、送信電力設定手段が、変調パルス信号の電界強度、現在の位置情報及びマップデータに基づいて変調パルス信号の送信電力を設定するので、変調パルス信号による受信障害を回避することができる。
【0018】
さらに、本発明の目標検出装置は、前記変調パルス信号が、前記反射信号のパルス圧縮を可能とする処理が施された電波、音波、光のいずれか1つである構成を有している。
【0019】
この構成により、本発明の目標検出装置は、多様な目標及び分野に適した波動信号にパルス圧縮の技術を適用することによる測位や測距が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、変調パルス信号による受信障害を回避することができるという効果を有する目標検出装置を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明に係る目標検出装置を、船舶に搭載され、マイクロ波帯の電波を使用するレーダ装置に適用した例を挙げて説明する。また、本実施形態において、目標とは、陸地や、その海岸線、陸上又は海上の建造物等をいう。以下の説明では、レーダ装置10が目標を検出した場合は、検出した目標の付近に電波受信設備があるものと仮定する。
【0022】
まず、本発明に係るレーダ装置の一実施形態における構成について説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態におけるレーダ装置10は、電界強度計算部11、諸元データ保持部12、ジャイロ13、全地球測位システム(以下「GPS」という。)14、マップデータ保持部15、送信タイミング指示部16、電界強度マップ生成部17、閾値データ保持部18、受信障害マップ生成部19を備えている。さらに、レーダ装置10は、受信障害判定部20、変調諸元指示部21、変調部22、送信部23、空中線部24、受信部25を備えている。
【0024】
電界強度計算部11は、レーダ装置10の位置に対して任意の距離における電界強度を計算するものであり、目標の付近に存在すると仮定した電波受信設備における変調パルス信号によるパルス信号波の電界強度を計算するようになっている。この電界強度は、例えば数1によって、レーダ装置10から距離rだけ離れた電波受信設備における受信電力を求めることにより算出できる。なお、電界強度計算部11は、本発明に係る電界強度計算手段を構成する。
【0025】
【数1】

【0026】
各変数の説明を以下に示す。
Pr:レーダ装置10から距離rだけ離れた位置での受信電力(=電界強度の2乗)
Pt:変調パルス信号の尖頭送信電力[W]
τ:変調パルス信号の変調パルス幅[秒]
Gt:変調パルス信号の空中線利得[倍]
Gr:電波受信設備の受信空中線利得[倍]
Grec:変調パルス信号の送信波長に対する電波受信設備の受信機利得[倍]
Ae:電波受信設備の受信空中線の開口面積[m
λ:変調パルス信号の送信波長[m]
【0027】
数1の右辺の変数のうち、Pt、τ、Gt及びλは、レーダ装置10における送信に係る変数であり、以下「送信諸元」という。また、数1の右辺の変数のうち、Gr、Grec及びAeは、電波受信設備での受信に係る変数であり、以下「受信諸元」という。
【0028】
諸元データ保持部12は、数1に示した送信諸元及び受信諸元のデータを保持しており、電界強度計算部11によって読み出されるようになっている。ここで、送信諸元のデータは、レーダ装置10を動作させる際に決定されるものであるので自明である。一方、受信諸元のデータは、受信障害の回避対象とする電波受信設備によって異なるものであるが、各電波受信設備が備える受信機は、放送波や通信波等に関する規格団体が提案した規格に基づいて設計されているので、その規格を参照して受信諸元のデータを決定することができる。また、予め実験を行って、受信諸元のデータを決定することもできる。
【0029】
ジャイロ13は、船体の姿勢を検知するものであり、予め定めたロール軸(x軸)、ピッチ軸(y軸)及びヨー軸(z軸)の各軸においてロール角、ピッチ角及びヨー角を求め、これらのデータを船体の姿勢情報として所定時間ごとに出力するようになっている。本実施形態では、レーダ装置10を船舶に搭載する例を挙げているのでジャイロ13を備える構成としたが、例えば地上に固定した建造物にレーダ装置10を搭載する場合はジャイロ13を省略してもよい。
【0030】
GPS14は、GPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信し、船舶の現在位置を示す緯度及び経度の情報(以下「現在位置情報」という。)を所定時間ごとに取得するようになっている。なお、GPS14は、本発明に係る位置情報取得手段を構成する。
【0031】
マップデータ保持部15は、地図データ及び海図データ(以下、両者を総称して「マップデータ」という。)を保持しており、GPS14が取得した現在位置情報に基づき、レーダ装置10の現在位置を中心としたマップデータを所定時間ごとに生成するようになっている。ここで、マップデータ保持部15は、本発明に係るマップデータ取得手段を構成する。レーダ装置10は、このマップデータを参照することにより、レーダ装置10の周囲環境の情報を取得することができる。なお、マップデータ保持部15が保持するマップデータは、地図データ及び海図データの少なくともいずれか一方であってもよい。また、マップデータ保持部15に代えて、例えばインターネットを介し、無線通信によってマップデータを取得する無線通信手段を備える構成としてもよい。
【0032】
送信タイミング指示部16は、予め定められたパルス繰り返し周期(Pulse Repetition Interval:PRI)に基づいて、変調パルス信号を送信するタイミングを指示する送信トリガ信号を生成し、生成した送信トリガ信号を電界強度マップ生成部17、受信障害マップ生成部19、受信障害判定部20、変調部22にそれぞれ出力するようになっている。
【0033】
電界強度マップ生成部17は、レーダ装置10のレーダ履域における電界強度を示すマップ(以下「電界強度マップ」という。)を生成するようになっている。具体的には、電界強度マップ生成部17は、電界強度計算部11から電界強度のデータ、ジャイロ13から船体の姿勢情報、GPS14から現在位置情報、マップデータ保持部15からマップデータ、送信タイミング指示部16から送信トリガ信号、空中線部24からアンテナ24aの指向方位及び仰角の情報(図中ではアンテナ情報と記載)をそれぞれ入力し、電界強度マップを生成するようになっている。電界強度マップ生成部17が生成する電界強度マップの一例を図2に示す。
【0034】
図2に示した電界強度マップには、レーダ装置10を搭載した船舶31が、陸地32の海岸付近を点線矢印で示す方向に航行している状態が示され、船舶31を中心とした等電界強度線33が描かれている。すなわち、電界強度マップは、船舶31の現在位置情報と、船体の姿勢情報と、電界強度のデータと、マップデータとが合成されて得られたものである。この電界強度マップは、送信トリガ信号の受信ごとに、電界強度マップ生成部17によって更新されるようになっている。
【0035】
図1に戻り、閾値データ保持部18は、受信障害の回避対象とする電波受信設備において、受信障害が発生するか否かを判定するための電界強度閾値のデータを保持するようになっている。この電界強度閾値は、受信障害の回避対象とする電波受信設備における受信機が期待する所望信号受信電力に基づいて決定される値である。例えば、閾値データ保持部18は、受信機の所望信号受信電力の2倍の値を電界強度閾値として保持している。受信機の所望信号受信電力は、放送波や通信波等に関する規格団体が提案した規格を参照して、又は予め実験を行って決定されるものである。
【0036】
さらに図3を用いて閾値データ保持部18が保持する電界強度閾値のデータを説明する。図3において、横軸はレーダ装置10から目標までの距離を示し、縦軸は目標位置での電界強度を示す。
【0037】
図3に示すように、レーダ装置10が発射する変調パルス信号の電界強度は、距離の2乗に反比例し、尖頭送信電力が大きくなるに従って電界強度も大きくなるので、図示のように電界強度閾値を定めることにより、レーダ装置10から目標までの距離と、電界強度計算部11が計算した電波受信設備における電界強度とにより、その電波受信設備において受信障害が発生するおそれが有るか否かを判定できることとなる。
【0038】
図1に戻り、受信障害マップ生成部19は、送信タイミング指示部16が出力する送信トリガ信号と、電界強度マップ生成部17が生成した電界強度マップのデータと、閾値データ保持部18が保持する電界強度閾値のデータとを入力するようになっている。また、受信障害マップ生成部19は、入力した電界強度マップのデータと電界強度閾値のデータとを比較し、電界強度閾値に対する電波受信設備における電界強度の多寡に応じて、受信障害の可能性の有無を示すマップ(以下「受信障害マップ」という。)を生成するようになっている。受信障害マップの一例を図4に示す。
【0039】
図4に示した受信障害マップは、電界強度マップ生成部17が生成した電界強度マップと電界強度閾値のデータとを基に、受信障害の発生の可能性が無い領域41と、受信障害の発生の可能性が有る領域42〜45とを示している。この受信障害マップは、送信トリガ信号の受信ごとに、受信障害マップ生成部19によって更新されるようになっている。
【0040】
図1に戻り、受信障害判定部20は、空中線部24からアンテナ24aの指向方位及び仰角の情報を入力し、この情報に基づいてアンテナ24aが発射する変調パルス信号の進行方向(ビーム方向)を検出するようになっている。また、受信障害判定部20は、検出した変調パルス信号の進行方向が、電界強度マップに示される受信障害の発生の可能性が有る領域と重なるか否かを判定するようになっている。
【0041】
ここで、受信障害判定部20は、変調パルス信号の進行方向が受信障害の発生の可能性が有る領域と重なった場合、今次の変調パルス信号の発射において受信障害が発生する可能性が有る旨を示す信号を、送信トリガ信号の受信ごとに、変調諸元指示部21に出力するようになっている。この際、受信障害判定部20は、閾値データ保持部18が保持する閾値データを参照し、今次の変調パルス信号の電界強度が、受信障害が発生する可能性の有る領域において電界強度閾値からどの程度超過するかを示すデータ(以下「閾値超過データ」という。)も併せて変調諸元指示部21に出力するようになっている。
【0042】
変調諸元指示部21は、諸元データ保持部12が保持する送信諸元及び受信諸元のデータと、受信障害判定部20の判定結果及び閾値超過データとに基づいて、変調パルス信号に係る送信諸元のデータ値を変調部22に指示するようになっている。
【0043】
具体的には、変調諸元指示部21は、レーダ装置10から目標までの距離に応じて変調パルス信号の送信電力を設定するための指示を変調部22に対して行うようになっている。例えば、変調諸元指示部21は、変調パルス信号による受信障害が発生する可能性が無い領域に対しては変調パルス信号を最大電力で送信するよう変調部22に指示する。また、例えば、変調諸元指示部21は、変調パルス信号による受信障害が発生する可能性が有る領域に対しては、その領域からレーダ装置10までの距離に応じた電力で変調パルス信号を送信するよう変調部22に指示する。なお、変調諸元指示部21は、本発明に係る送信電力設定手段を構成する。
【0044】
変調部22は、送信タイミング指示部16から送信トリガ信号を入力し、送信トリガ信号の受信ごとに、変調諸元指示部21の指示に基づいた変調パルス信号を生成するようになっている。この変調パルス信号は、例えば、パルス幅が20μs〜50μs程度で、予め定めた変調方式によって変調された信号成分を含むものである。変調方式としては、例えば、チャープ変調方式や位相変調方式を挙げることができる。
【0045】
ここで、図5を用いて変調部22の処理を具体的に説明する。図5(a)は送信タイミング指示部16がPRIに基づいて生成した送信トリガ信号を示し、図5(b)〜(e)は変調部22が生成する変調パルス信号A〜Dをそれぞれ例示している。
【0046】
まず、図5(b)に示す変調パルス信号Aは、最大電力で送信する際の変調パルス信号である。この変調パルス信号Aは、変調諸元指示部21から変調パルス信号を最大電力で送信する指示があった場合に、変調部22によって生成される。
【0047】
また、図5(c)に示す変調パルス信号Bは、変調諸元指示部21から変調パルス信号の送信電力を所定値(例えば最大電力の半分)に設定する指示があった場合に、変調部22によって生成される。この場合、変調部22は、変調パルス信号の振幅を低減する処理に代えて、図5(d)に示す変調パルス信号Cのように、変調パルス信号のパルス幅を短縮する処理を行うこともできる。
【0048】
また、図5(e)に示すように、変調部22は、変調諸元指示部21から変調パルス信号の送信を停止する指示があった場合は、変調パルス信号を生成しない(換言すれば振幅値ゼロの変調パルス信号Dを生成する)処理を行う。
【0049】
図1に戻り、送信部23は、変調部22が生成した変調パルス信号を入力し、変調パルス信号を空間に発射する周波数に周波数変換し、電力増幅を行って空中線部24に出力するようになっている。なお、送信部23は、本発明に係る目標識別手段を構成する。
【0050】
空中線部24は、船舶を中心とする周囲360度の領域に対し、電波の発射及び反射波の受信を行うアンテナ24aと、アンテナ24aの方位角を可変してアンテナ24aの走査領域を設定する駆動部24bとを備えている。また、空中線部24は、変調パルス信号による各電波が目標で反射した反射波信号を受信し、受信部25に出力するようになっている。また、空中線部24は、アンテナ24aの指向方位及び仰角の情報を電界強度マップ生成部17及び受信障害判定部20に出力するようになっている。なお、本実施形態において、駆動部24bが、アンテナ24aの方位角のみを可変するものとして説明するが、駆動部24bがアンテナ24aの方位角及び仰角の少なくともいずれか一方を可変するものであってもよい。
【0051】
受信部25は、空中線部24からの反射波信号の電力増幅、検波及びパルス圧縮処理を行って、目標である陸地や建造物等の検出を行うようになっている。また、受信部25は、目標を検出した場合、レーダ装置10から目標までの距離を、例えば特開2003−227871号公報の図2に示されたセルアベレージ値の単調減少規則を利用することによって求めるようになっている。なお、受信部25は、本発明に係る目標識別手段を構成する。
【0052】
次に、本実施形態におけるレーダ装置10の動作について図1及び図6を用いて説明する。図6は、レーダ装置10の動作を示すフローチャートである。
【0053】
電界強度計算部11は、諸元データ保持部12から送信諸元のデータを読み出し、レーダ装置10の位置に対して任意の距離における電界強度を計算し(ステップS11)、計算結果のデータを電界強度マップ生成部17に出力する。
【0054】
ジャイロ13は、船体のロール角、ピッチ角及びヨー角を求めることによって船体の姿勢情報を取得し(ステップS12)、取得した船体の姿勢情報を所定時間ごとに電界強度マップ生成部17に出力する。船体の姿勢情報が分かれば船体に搭載してある空中線部24の姿勢情報も得られることとなる。
【0055】
GPS14は、GPS衛星からの電波を受信することによって船舶の現在位置情報を取得し(ステップS13)、取得した船舶の現在位置情報を所定時間ごとにマップデータ保持部15及び電界強度マップ生成部17にそれぞれ出力する。
【0056】
マップデータ保持部15は、地図又は海図の中心が船舶の現在位置となるマップデータを取得し(ステップS14)、取得したマップデータを所定時間ごとに電界強度マップ生成部17に出力する。
【0057】
電界強度マップ生成部17は、電界強度計算部11から電界強度のデータ、ジャイロ13から船体の姿勢情報、GPS14から現在位置情報、マップデータ保持部15からマップデータ、送信タイミング指示部16から送信トリガ信号、空中線部24からアンテナ24aの指向方位及び仰角の情報をそれぞれ入力し、電界強度マップ(図2参照)を生成する(ステップS15)。また、電界強度マップ生成部17は、生成した電界強度マップのデータを受信障害マップ生成部19に出力する。
【0058】
受信障害マップ生成部19は、電界強度マップ生成部17が生成した電界強度マップのデータと、閾値データ保持部18が保持する電界強度閾値のデータとを入力し、入力した電界強度マップのデータと電界強度閾値のデータとを比較し、電界強度閾値に対する電波受信設備における電界強度の多寡に応じて受信障害マップ(図4参照)を生成する(ステップS16)。また、受信障害マップ生成部19は、生成した受信障害マップのデータを受信障害判定部20に出力する。
【0059】
受信障害判定部20は、空中線部24から入力するアンテナ24aの指向方位及び仰角の情報と、受信障害マップ生成部19から入力する受信障害マップのデータとに基づき、変調パルス信号による受信障害が発生するか否かの判定を行う(ステップS17)。
【0060】
具体的には、受信障害判定部20は、アンテナ24aが発射する変調パルス信号の進行方向を検出し、検出した変調パルス信号の進行方向が、電界強度マップに示される受信障害の発生の可能性が有る領域と重なるかを判定する。ここで、受信障害判定部20は、変調パルス信号の進行方向が受信障害の発生の可能性が有る領域と重なった場合、今次の変調パルス信号の発射において受信障害が発生する可能性が有る旨を示す信号を、送信トリガ信号の受信ごとに、変調諸元指示部21に出力するとともに、今次の変調パルス信号の電界強度が、受信障害が発生する可能性の有る領域において電界強度閾値からどの程度超過するかを示す閾値超過データも併せて変調諸元指示部21に出力する。
【0061】
変調諸元指示部21は、受信障害判定部20の判定結果に基づいた変調パルス信号を生成して送信部23に出力する。
【0062】
まず、受信障害判定部20が、変調パルス信号の振幅を最大値に設定しても受信障害の発生が無いと判定(判定1)した領域に対して、変調諸元指示部21は、変調パルス信号の振幅を最大値に設定して最大電力で送信するよう変調部22に指示する(ステップS18)。
【0063】
また、受信障害判定部20が、変調パルス信号の振幅を最大値に設定すると受信障害の発生が起こりうるが、変調パルス信号の振幅の低減(又はパルス幅の短縮)を行えば受信障害を回避することができると判定(判定2)した領域に対して、変調諸元指示部21は、距離に応じた変調パルス信号の振幅の低減(又はパルス幅を短縮)を行うよう変調部22に指示する(ステップS19)。
【0064】
また、受信障害判定部20が、変調パルス信号の振幅の低減(又はパルス幅の短縮)を行っても受信障害を回避することができないと判定(判定3)した領域に対して、変調諸元指示部21は、変調パルス信号の送信停止(換言すれば振幅値ゼロの変調パルス信号を生成)を行うよう変調部22に指示する(ステップS20)。
【0065】
変調部22は、変調諸元指示部21の指示に基づいて、変調パルス信号の振幅(又はパルス幅)を設定した変調パルス信号(例えば図5(b)〜(e))を生成し(ステップS21)し、送信部23に出力する。
【0066】
送信部23は、入力した変調パルス信号を空間に発射する周波数に周波数変換し、電力増幅を行って空中線部24を介して送信し(ステップS22)、空中線部24は、目標で反射された反射波信号を受信し(ステップS23)、受信部25に出力する。受信部25は、空中線部24からの反射波信号の電力増幅、検波及びパルス圧縮処理を行う。
【0067】
以上説明したレーダ装置10の動作を図1及び図7に基づいて具体的に説明する。図7は、レーダ装置10を搭載した船舶31が、陸地32の海岸付近を点線矢印で示す方向に航行している状態を表した図である。
【0068】
前述したように、受信障害判定部20は、電界強度閾値に対する電波受信設備における電界強度の多寡を判定して受信障害マップ(図4参照)を生成する。変調諸元指示部21は、受信障害マップに基づいて以下の処理を行う。
【0069】
変調諸元指示部21は、受信障害の発生の可能性が無い領域51に対しては、最大の送信電力で変調パルス信号を発射するよう変調部22に指示する。
【0070】
また、領域53が、変調パルス信号の振幅の低減(又はパルス幅の短縮)を行っても受信障害を回避することができない領域であるとすると、変調諸元指示部21は、領域53に対し、変調パルス信号の発射を停止するよう変調部22に指示する。
【0071】
また、領域52及び54が、変調パルス信号の振幅を最大値に設定すると受信障害の発生の可能性が有るが、変調パルス信号の振幅の低減を行えば受信障害を回避することができる領域であるとすると、変調諸元指示部21は、領域52及び54に対し、それぞれ、受信障害を回避できる変調パルス信号の振幅値のデータを指示する。
【0072】
具体的には、変調諸元指示部21は、領域52に対しては変調パルス信号の振幅を、例えば最大値の1/4とするよう変調部22に指示する。また、変調諸元指示部21は、領域52よりも遠方の領域54に対しては変調パルス信号の振幅を、例えば最大値の1/2とするよう変調部22に指示する。すなわち、船舶31に搭載されたレーダ装置10は、変調パルス信号の振幅を動的に設定し、受信障害を動的に回避することができる。
【0073】
以上のように、本実施形態におけるレーダ装置10によれば、現在位置情報及び地図情報を用いて、変調パルス信号を送信する位置から変調パルス信号が受信される位置までの距離が短いほど変調パルス信号の送信電力を小さな値に設定する変調諸元指示部21を備える構成としたので、変調パルス信号による受信障害を回避することができる。
【0074】
次に、本実施形態の他の態様を図8に基づき説明する。図8は、前述の実施形態における変調部22の構成を変更した変調部60の構成を示す図である。その他の構成は図1と同様であるので説明を省略する。
【0075】
図8に示すように、変調部60は、変調パルス信号生成器61〜64と、変調パルス信号選択部65と、D/A変換部66とを備えている。
【0076】
変調パルス信号生成器61〜64は、それぞれ、送信トリガ信号に基づいて、互いに異なる振幅の変調パルス信号を生成するようになっている。
【0077】
具体的には、変調パルス信号生成器61〜64は、それぞれ、変調パルス信号を生成するためのテーブルデータを保持しており、デジタル信号からなる変調パルス信号を送信トリガ信号に基づいて生成するものである。図8に示した例では、変調パルス信号生成器61〜64は、それぞれ、最大振幅、最大振幅の1/2、最大振幅の1/4及び振幅ゼロの変調パルス信号を生成するものとしている。
【0078】
変調パルス信号選択部65は、変調諸元指示部21の指示に基づき、変調パルス信号生成器61〜64のいずれか1つを選択するようになっている。
【0079】
D/A変換部66は、変調パルス信号選択部65が選択した変調パルス信号生成器61〜64のいずれか1つの出力である変調パルス信号をアナログ信号に変換し、送信部23(図示省略)に出力するようになっている。
【0080】
この構成により、変調部60は、変調諸元指示部21の指示に基づく変調パルス信号を容易に生成することができる。
【0081】
なお、前述の実施形態において、尖頭送信電力を減少させる処理を振幅の低減やパルス幅の減少により行う例を挙げて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、尖頭送信電力を減少させる処理であれば同様の効果が得られる。
【0082】
また、前述の実施形態において、レーダ装置10を船舶に搭載する例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、車両や航空機等の移動体や、固定設置される気象レーダ等にレーダ装置10を搭載しても同様の効果が得られる。
【0083】
さらに、前述の実施形態において、マイクロ波帯の電波を使用するレーダ装置10を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、マイクロ波帯以外の電波や、超音波、赤外線、光等を使用して目標を検出する装置に適用しても同様の効果が得られる。
【0084】
さらに、前述の実施形態において、変調パルス信号のパルス圧縮を実現するためのチャープ変調は、例えば、PNコードやGOLDコードのように「急峻な自己相関特性」を有する符号系列に基づいて行われる変調で代替されてもよい。
【0085】
さらに、前述の実施形態において、目標は、雲、霧、波等の分布目標であってもよい。
【0086】
さらに、前述の実施形態において、変調パルス信号によって受信障害等を被る対象は、電波受信設備に限定されず、例えば、到来した変調パルス信号に起因する干渉や妨害によって性能が低下し、あるいは誤動作その他の障害が発生しうる機器であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上のように、本発明に係る目標検出装置は、変調パルス信号による既述の目標への干渉・妨害等の障害がより確度高く緩和され、あるいは回避される。したがって、目標検出装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施形態におけるレーダ装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の一実施形態におけるレーダ装置の電界強度マップ生成部が生成する電界強度マップの一例を示す図
【図3】本発明の一実施形態におけるレーダ装置の閾値データ保持部が保持する電界強度閾値の説明図
【図4】本発明の一実施形態におけるレーダ装置の受信障害マップ生成部が生成する受信障害マップの一例を示す図
【図5】本発明の一実施形態におけるレーダ装置の変調部の処理の説明図
【図6】本発明の一実施形態におけるレーダ装置の動作を示すフローチャート
【図7】本発明の一実施形態におけるレーダ装置を搭載した船舶の航行中における動作の説明図
【図8】本発明の一実施形態におけるレーダ装置において、他の態様を示す図
【図9】従来のレーダ装置においてアジマスブランクを設ける処理の説明図
【符号の説明】
【0089】
10 レーダ装置
11 電界強度計算部
12 諸元データ保持部
13 ジャイロ
14 GPS
15 マップデータ保持部
16 送信タイミング指示部
17 電界強度マップ生成部
18 閾値データ保持部
19 受信障害マップ生成部
20 受信障害判定部
21 変調諸元指示部
22 変調部
23 送信部
24 空中線部
24a アンテナ
24b 駆動部
25 受信部
31 船舶
32 陸地
33 等電界強度線
41〜45、51〜54 領域
60 変調部
61〜64 変調パルス信号生成器
65 変調パルス信号選択部
66 D/A変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定めた変調方式で変調した変調パルス信号を送信し、前記変調パルス信号を送信した時点から目標における前記変調パルス信号の反射により生じた信号が受信された時点までの時間を前記目標との距離として識別する目標識別手段を備えた目標検出装置において、前記目標識別手段は、前記変調パルス信号を送信した時点から前記目標における前記変調パルス信号の反射により生じた信号が受信された時点までの時間が短いほど、前記変調パルス信号の送信電力を小さな値に設定する送信電力設定手段を備えたことを特徴とする目標検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の目標検出装置において、前記目標識別手段は、前記目標に到来する前記変調パルス信号に対する前記目標の受信諸元データと、前記目標識別手段が前記変調パルス信号に対して有する送信諸元データとに基づいて、前記変調パルス信号の送信電力を求めることを特徴とする目標検出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の目標検出装置において、前記送信電力設定手段は、前記変調パルス信号の送信及び前記反射信号の受信に供されるアンテナのビームの方向を可変し、前記ビームを介して前記変調パルス信号が照射される領域毎の相対距離に基づいて前記変調パルス信号の送信電力を設定することを特徴とする目標検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の目標検出装置において、前記変調パルス信号の電界強度を計算する電界強度計算手段と、現在の位置情報を取得する位置情報取得手段と、地図データ及び海図データの少なくともいずれか一方を含むマップデータを取得するマップデータ取得手段とを備え、
前記送信電力設定手段は、前記変調パルス信号の電界強度、前記現在の位置情報及び前記マップデータに基づいて前記変調パルス信号の送信電力を設定することを特徴とする目標検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の目標検出装置において、前記変調パルス信号は、前記反射信号のパルス圧縮を可能とする処理が施された電波、音波、光のいずれか1つであることを特徴とする目標検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−145339(P2010−145339A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325595(P2008−325595)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】