説明

目標追尾装置

【課題】必要最小限のセンサ使用回数を効率的に決定することができる目標追尾装置を提供する。
【解決手段】目標追尾装置10は、追尾処理部2と、レーダ制御要否判定部3と、レーダ使用回数決定部4と、レーダ指示部5とを有している。追尾処理部2は、レーダ群1から得られた観測値を用いて目標の運動諸元を算出して、その算出した運動諸元から、目標航跡を導出するとともに、目標航跡の誤差共分散行列を算出する。レーダ制御要否判定部3は、目標航跡の誤差共分散行列に基づく目標航跡の推定精度と要求精度とを用いて、レーダ制御を実施するか否かを判定する。レーダ使用回数決定部4は、目標航跡の誤差共分散行列と、センサ毎の観測精度及び要求精度とを用いて、第1及び第2レーダ1a,1bのそれぞれについてのセンサ使用回数を制約付き最適化問題から導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、目標を観測するセンサから得られる位置情報の観測値を用いて、目標の航跡である目標航跡を生成する目標追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、センサにより目標を観測して得られた観測値を用いて目標を追尾する技術については、すでに多くの論文や特許等の文献で取り挙げられており、その装置及び方法については、様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、追尾状況に応じてセンサの資源配分を決定する方法の一例が記載されている。この従来技術では、追尾目標の航跡の個々の追尾状況、例えば誤差楕円の大きさや、探知抜け回数や、目標距離や、目標速度や、目標とセンサ間の距離等の諸元に応じて、目標毎に優先度を設定する。その優先度が高い目標に対して、優先的にセンサ資源を割り当てる。
【0004】
図9は、特許文献1に示すような従来装置を示すブロック図である。なお、図9の構成は、特許文献1の従来の技術の欄に記載された内容に相当する。ここで、特許文献1には、フィルタの動作を決定するパラメータの制御や、クラッタ発生地域の情報等の観測条件を取得する点についても記載されている。しかしながら、ここでは、それらの内容を省略し、この従来装置におけるセンサ制御の機能、即ち追尾状況を基にセンサの割り当てを決定する機能を中心に説明する。
【0005】
センサ群100は、第1センサ100a、第2センサ100b等の複数のセンサを含んでいる。また、センサ群100は、センサ群指示部101が出力する動作条件によって指定された時刻に指定された目標を観測し、その観測情報を観測情報融合部102へ出力する。観測情報融合部102は、センサ群100のいずれかのセンサから観測情報を受けると、上記の動作条件より、該当する目標の運動諸元を推定する追尾処理部103に対して、目標の観測値を出力する。
【0006】
追尾処理部103は、対応する目標の追尾計算を実行することにより、各目標の位置及び速度の推定並びに予測を行い、目標の追尾情報を更新する。追尾情報抽出部104は、追尾処理部103内に含まれる追尾フィルタ群(図示せず)が出力する目標の追尾情報から、目標の運動諸元(例えば位置、速度)の推定値の誤差に関する情報として推定誤差範囲である誤差楕円(誤差共分散行列)を抽出し、その情報を目標状態評価部105に出力する。
【0007】
目標状態評価部105は、各目標に対して、センサ割り当ての優先度に相当する評価値を設定する。具体的に、目標状態評価部105は、追尾フィルタ群に属する追尾フィルタから推定誤差範囲が得られるため、それが広い目標に対しては誤差を縮小する目的で評価値を大きく設定する。
【0008】
次に、資源配分方式作成部106は、目標状態評価部105から評価値を受け取ると、追尾データベース107を参照しながら、目標状態評価部105が出力する評価値に基づいて、各目標に対するセンサの割り当てとその配分効果についての評価値とを複数組算出して出力する。即ち、資源配分方式作成部106は、目標状態評価部105が出力する評価値である各目標の追尾状態に基づいて、目標に対して割り当てるセンサ及び観測時刻を決定する。この割り当ては、候補として複数作り、これらの複数の候補のそれぞれについて、各目標の追尾精度が割り当てられたセンサの観測によってどれだけ向上するかについての期待値を目標状態評価値の大きさで重み付けした配分効果評価値を算出する。
【0009】
この追尾精度の向上の度合の計算は、カルマンフィルタの誤差共分散行列計算により可能である。カルマンフィルタでは、目標航跡の推定値のみでなく、その推定誤差も計算することに特徴がある。推定値と推定誤差との計算方法を以下に示す。目標航跡の現サンプリング時刻kの推定値である平滑値をxk|kとし、その推定誤差である平滑誤差共分散行列をPk|kとする。
【0010】
次のサンプリング時刻k+1であるセンサによって得られる観測値zk+1,jによってこの目標航跡を更新する場合、まず予測処理を行う。予測処理計算は、次の式(1),(2)を用いた演算により行われる。
【0011】
【数1】

【0012】
但し、この式(1),(2)において、Φk+1は推移行列であり、Qk+1は駆動雑音共分散行列である。
【0013】
次に、センサの観測値zk+1,jと、次の式(3),(4)とを用いて、平滑処理を行う。
【0014】
【数2】

【0015】
但し、この式(3),(4)において、Kk+1はカルマンゲインであり、Hk+1は観測行列であり、Sk+1は残差共分散行列である。また、カルマンゲインKk+1及び残差共分散行列Sk+1は、次の式(5),(6)を用いて計算できる。
【0016】
【数3】

【0017】
但し、この式(5),(6)において、Rk+1は観測誤差共分散行列であり、センサ特有のパラメータから決まる。
【0018】
ここで、平滑誤差共分散行列Pk+1|k+1は、観測値zk,jに依存しないので、実際に観測を行う前に式(2),(4),(5),(6)を用いて、Pk+1|k+1を算出し、現在の目標航跡の推定誤差Pk|kとの差異により、その観測の効果の予想計算を行うことができる。
【0019】
次に、資源管理計算部108は、資源配分方式作成部106から各資源の複数のセンサ割り当てと配分効果評価値とを受ける。また、資源管理計算部108は、センサ群100の現在の動作状況を受けると、資源データベース109を参照しながら、各センサ割り当てが実行可能であるかどうか、センサ群100に及ぼす放射エネルギー等の負荷がどの位になるかについて考慮して、配分効果評価値が大きいセンサ割り当てを選択する。
【0020】
センサ群指示部101は、資源管理計算部108が最適な配分方式を決定すると、それに従ってセンサ群100を構成するセンサの動作指示を行う。
以上が従来装置によるセンサ制御の主な手順である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第4014785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
ここでは、センサの例として、レーダを考える。このレーダは、目標に向かって電波を放射し、その反射波に信号処理を施すことによって目標の位置の情報を得る。このため、使用回数(観測回数)が多い程、電力を消費することになる。以下では、この消費電力を必要最小限とするようにレーダ制御(センサ制御)を行う場合を考える。
【0023】
ここで、ある時刻での目標航跡の推定精度が要求精度に満たなかったとする。この場合、資源配分方式作成部106及び資源管理計算部108は、2つのレーダで、できるだけ少ない使用回数で要求精度を達成するための使用回数を決定しようとする。
【0024】
第1レーダの使用回数をnとし、第2レーダの使用回数をmとすると、その効果を予想するためにはn+m回の式(2),(4),(5),(6)の計算が必要となる。つまり、使用回数が最小となるn,mを決めるためには、現実的な使用回数の全てのn,mの組合せについてn+m回の式(2),(4),(5),(6)の計算を行い、その効果から要求精度の達成が可能であるか判定し、さらに要求精度達成が可能である組合せの中から使用回数が最も少ない組合せを選択する必要がある。従って、従来装置では、その試行錯誤における組合せの候補の数に応じて演算量が増大する問題がある。
【0025】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、必要最小限のセンサ使用回数を効率的に決定することができる目標追尾装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この発明の目標追尾装置は、それぞれ異なる位置に配置された複数のセンサから得られる観測値を追尾処理して目標航跡を作成するためのものであって、前記センサから得られた観測値を用いて目標の運動諸元を算出して、その算出した運動諸元から、前記目標航跡を導出するとともに、前記目標航跡の誤差共分散行列を算出する追尾処理部と、前記目標航跡の誤差共分散行列に基づく前記目標航跡の推定精度と所定の要求精度とを用いて、センサ制御を実施するか否かを判定するセンサ制御要否判定部と、前記目標航跡の誤差共分散行列と、前記センサ毎の観測精度と、前記要求精度とを用いて、前記複数のセンサのそれぞれについてのセンサ使用回数を、制約付き最適化問題から導出するセンサ使用回数決定部と、前記センサ使用回数決定部によって導出された前記センサ使用回数に従って、前記複数のセンサのそれぞれに観測を指示するセンサ指示部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0027】
この発明の目標追尾装置によれば、センサ使用回数決定部が、目標航跡の誤差共分散行列と、センサ毎の観測精度及び要求精度とを用いて、複数のセンサのそれぞれについてのセンサ使用回数を制約付き最適化問題から導出するので、従来装置に比べて演算量を削減可能となることから、必要最小限のセンサ使用回数を効率的に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1による目標追尾装置を示すブロック図である。
【図2】図1の目標追尾装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】レーダ使用回数を決定するための方式を説明するための説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2による目標追尾装置を示すブロック図である。
【図5】図4の目標追尾装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】レーダ使用回数を決定するための方式を説明するための説明図である。
【図7】この発明の実施の形態3による目標追尾装置を示すブロック図である。
【図8】図7の目標追尾装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】特許文献1に示すような従来装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による目標追尾装置(多目標追尾装置)を示すブロック図である。
図1において、実施の形態1の目標追尾装置10は、第1レーダ(第1センサ)1a及び第2レーダ(第2センサ)1bを含むセンサ群としてのレーダ群1に接続されている。第1及び第2レーダ1a,1bは、互いに異なる場所に設置されている。
【0030】
また、目標追尾装置10は、追尾処理部2と、センサ制御要否判定部としてのレーダ制御要否判定部3と、センサ使用回数決定部(センサ観測回数決定部)としてのレーダ使用回数決定部4と、センサ指示部としてのレーダ指示部5とを有している。
【0031】
また、目標追尾装置10は、通常は第1及び第2レーダ1a,1bを用いて予め決められた一定時間間隔をおいて観測し、第1及び第2レーダ1a,1bから定期的に得られる観測値を用いて目標の追尾処理を行い、目標航跡を生成する。
【0032】
また、目標追尾装置10は、追尾処理の際に、観測値に対して追尾フィルタ(カルマンフィルタ等)を用いた演算を行うことにより、目標航跡の推定値を導出する。この目標航跡の推定値は、レーダ群1の過去数回の観測値の情報を反映しているため、推定誤差は、レーダ群1の1回の観測における観測値に含まれる誤差である観測誤差よりも小さい。
【0033】
さらに、目標追尾装置10は、ユーザによって設定された目標航跡についての所定の要求精度(ユーザが要求する目標航跡の精度)を予め記憶しているとする。また、目標追尾装置10は,追尾フィルタとしてカルマンフィルタを用いる場合、レーダ群1の観測値の観測精度を記憶しており、また、目標航跡の推定値の精度である推定精度を算出可能である。さらに、目標追尾装置10は、目標の追尾状況に応じて、具体的には推定精度が要求精度を満たしておらず,両者の差異が大きいことが分かった時点でレーダ制御(センサ制御)を行い、特定の目標及び領域に短期間に集中してレーダ資源を重点的に割り当てる。
【0034】
次に、目標追尾装置10の各機能ブロック2〜5による目標追尾とそれに伴うレーダ制御に関する決定とのそれぞれの方法について説明する。図2は、図1の目標追尾装置10の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、観測値の定期的な1観測時刻分の処理の流れを示しており、各機能ブロック2〜5は、観測の度にこの図2の全体の処理を1回行う。以下では、このフローチャートに沿って追尾及びレーダ制御決定の処理内容を説明する。
【0035】
図2において、最初に、ステップS1の「通常追尾処理」では、第1及び第2レーダ1a,1bの少なくともいずれか一方の定期的な観測により得られる観測値が追尾処理部2に入力され、その観測値を用いて追尾処理部2が目標追尾処理を行う。この目標追尾処理では、観測値に含まれる観測誤差を低減して目標の運動諸元を計算する。その手順について以下に説明する。
【0036】
観測値による処理前の目標航跡の平滑値をxk−1|k−1とし、その誤差共分散行列をPk−1|k−1としたときに、追尾処理部2は、次の式(7),(8)を用いた演算を行うことにより、予測処理を行う。
【0037】
【数4】

【0038】
但し、この式(7),(8)において、Φは推移行列であり、Qは駆動雑音共分散行列である。
【0039】
次に、追尾処理部2は、観測値がこの目標航跡に対応付けが可能か否かを判定する。具体的に、追尾処理部2は、レーダ群1によって得られる観測値をとしたとき、次の式(9)が成立する場合には、対応付け可能と判断する。
【0040】
【数5】

【0041】
但し、この式(9)において、dはカイ平方検定で利用するゲートサイズパラメータである。また、Hは観測行列である。さらに、Sは残差共分散行列であり、次の式(10)に従って計算できる。
【0042】
【数6】

【0043】
但し、この式(10)において、Rは観測誤差共分散行列であり、第1又は第2レーダ1a,1bの距離の観測誤差標準偏差と角度の観測誤差標準偏差とにより算出できる。
【0044】
追尾処理部2は、式(9)が成り立って、目標航跡と観測値との対応付けが可能と判定した場合には、次の式(11),(12)を用いた平滑処理を行い、最新の目標の運動諸元の推定値であるxk|kと、その誤差共分散行列であるPk|kとを得る。
【0045】
【数7】

【0046】
但し、この式(11),(12)において、Kはカルマンゲインであり、次の式(13)のように計算できる。
【0047】
【数8】

【0048】
次に、ステップS2の「レーダ制御要否判定」では、レーダ制御要否判定部3がある特定のレーダの使用頻度を一時的に上げるべきかどうかを判定する。ここで、目標航跡のx軸方向とy軸方向との推定誤差の標準偏差をそれぞれpx0,py0とする。レーダ制御要否判定部3は、目標航跡の誤差共分散行列Pk|kをxy座標に変換し、変換後の誤差共分散行列のx−xに対応する対角項成分とy−yに対応する対角項成分との平方根をそれぞれ算出することにより、px0,py0を近似する。
【0049】
また、要求精度により指定された推定誤差のx軸方向成分とy軸方向成分との標準偏差をpx_d,py_dとする。レーダ制御要否判定部3は、これらの誤差の標準偏差を用いて、レーダ制御要否判定を行う。そして、ステップS3では、レーダ制御要否判定部3は、現在推定している目標航跡の誤差標準偏差(推定精度における誤差標準偏差)と、要求精度における誤差標準偏差との差が閾値Δthを超える場合、即ち、次の式(14),(15)のいずれかの条件が成り立つ場合には、第1及び第2レーダ1a,1bの少なくともいずれか一方の使用頻度を一時的に上げるべき(レーダ制御が必要である)と判定し、レーダ使用回数決定部4にステップS4の処理を実行させる。
【0050】
【数9】

【0051】
他方、ステップS3において、先の式(14),(15)のいずれかの条件が成り立たない場合には、レーダ制御要否判定部3は、レーダ制御が不要であると判定し、一連の動作を終了する。従って、レーダ制御要否判定部3は、目標航跡の推定精度と要求精度とを用いて、センサ制御を実施するか否か判定する。
【0052】
次に、ステップS4の「レーダ使用回数決定」では、レーダ使用回数決定部4が各レーダ1a,1bの使用回数(各レーダ1a,1bに課せる観測回数)を決定する。第1レーダ1aの1回の観測により得られる観測値のx軸方向とy軸方向とそれぞれの観測誤差の標準偏差をσx1,σy1とする。
【0053】
これらの標準偏差σx1,σy1は、第1レーダ1aの距離観測誤差と角度観測誤差とにより得られる、距離方向の軸と角度方向の軸とからなる座標の観測誤差共分散行列を、xy座標に変換して得られる共分散行列の対角項の平方根により得られる。これと同様に、第2レーダ1bの1回の観測によって得られる観測値のx軸方向とy軸方向とのそれぞれの観測誤差の標準偏差をσx2,σy2とする。なお、これらの標準偏差σx1,σy1,σx2,σy2は、各レーダ1a,1bの観測精度に対応している。
【0054】
第1レーダ1aの連続n回、第2レーダ1bの連続m回の観測によって精度が改善された後の目標航跡の推定誤差の標準偏差、即ち要求精度に対応する標準偏差をPx_nm,Py_nmとする。これらは、第1及び第2レーダ1a,1bによる連続n回・連続m回の観測間隔が0に近い場合には、次の式(16),(17)のように近似できる。
【0055】
【数10】

【0056】
また、精度が改善された後の目標航跡の推定誤差は、要求精度に基づく推定誤差よりも小さくする必要があるので、次の式(18),(19)のような制約条件を設定できる。
【0057】
【数11】

【0058】
さらに、nとmとは、正でなければならないので、次の式(20)のような制約条件を設定できる。
【0059】
【数12】

【0060】
ここで、第1レーダ1aと第2レーダ1bとのそれぞれの使用回数n,mを、その和を最小化することを目的として決定するものとする。即ち、次の式(21)に示す目的関数を最小にするように決定する。
【0061】
【数13】

【0062】
ここで、先の式(18)〜(20)の制約条件と、式(21)の目的関数からなる制約付き最適化問題の制約条件及び目的関数とを(n,m)の二次元の座標空間に表すと、図3のようになる。図3の網掛けの部分が制約条件を満たす領域であり、図3中の括弧付きの数値が示す線は、それぞれ式(18)〜(20)の制約条件の境界である。目的関数を最小化するには、この領域の左下の円中の交点を選択すればよい。この点の座標(n,m)は、式(18),(19)の境界からなるn,mに関する連立方程式により計算することができ、その解は、次の式(22)のようになる。
【0063】
【数14】

【0064】
この式(22)の最適化問題の解は、一般的に整数になるとは限らない。このため、n,mを超える最小の整数を実際に適用するレーダの使用回数とすればよい。また、第1及び第2レーダ1a,1bのそれぞれの1観測回当りのヒット数を調整して、小数点以下を含むn,mの値に相当する使用回数を実現してもよい。
【0065】
なお、この例では、第1及び第2レーダ1a,1bの2台のレーダを想定した構成について説明したが、3台以上のレーダに容易に拡張できる。この場合は、連立方程式の数がレーダの台数に応じて増えるが、それぞれのレーダの最適使用回数の導出は、行列演算により可能である。
【0066】
また、3台以上のレーダを用いる際に、ある特定のレーダの使用回数削減を重視したい場合がある。この場合には、目的関数に係数を掛けて設定することにより、容易に調整が可能である。例えば、N台のレーダの利用を想定し、レーダiの使用回数をnとしたとき、次の式(23)のような目的関数を用いることができる。
【0067】
【数15】

【0068】
但し、この式(23)において、αは、レーダiの使用回数に関する重み付け係数である。レーダjの使用回数を特に削減したい場合には、αを他のレーダの使用回数に関する重み付け係数よりも大きな値に設定すればよい。
【0069】
なお、n,mを導出する際には、このレーダ1aのn回の使用とレーダ1bのm回の使用が現時刻から十分短い時間に完了できることを前提としている。時間が経過した後では目標の位置が変化するため、各レーダの観測誤差の標準偏差σx1,σy1,σx2,σy2もそれに伴って変化する。よって、n,mのいずれかが大きな数になると近似による誤差が大きくなり、レーダ使用の効果の見積もりと、実際のレーダ使用の効果の差が大きくなる。このような場合には、従来技術による試行錯誤による誤差見積もりを行うとしてもよい。即ち、この実施の形態1で説明した手順で導出したn,mについて、
max(n,m)>nu_lim
が成立する場合には、従来技術による試行錯誤を行うとする。ここで、nu_limは、事前に設定するパラメータである。
【0070】
次に、ステップS5の「レーダ指示」では、レーダ指示部5は、第1レーダ1aに対してn回の目標観測を行うように、また、第2レーダ1bに対してm回の目標観測を行うように、通信ネットワークを通じて指示(命令)を送る。
【0071】
次に、ステップS6の「再追尾処理」では、追尾処理部2は、ステップS5でのレーダ指示を通じて各レーダ1a,1bによって得られた観測値を用いて、目標航跡の追尾処理を行う。1観測値あたりの処理は、ステップS1の「通常追尾処理」の式(7)〜(13)と同様であり、追尾処理部2は、この処理をn+m回分繰り返す。
【0072】
上記のような実施の形態1の目標追尾装置によれば、レーダ使用回数決定部4が、目標航跡の誤差共分散行列と、レーダ毎の観測精度及び要求精度とを用いて、第1及び第2レーダ1a,1bのそれぞれについてのレーダ使用回数を制約付き最適化問題から導出する。これにより、試行錯誤により誤差楕円を計算しながらレーダ使用回数を決定する従来装置に比べて、演算量を削減可能となることから、必要最小限のレーダ使用回数を効率的に決定することができる。
【0073】
実施の形態2.
実施の形態1では、制約付き最適化問題における制約条件を目標航跡の推定精度及び要求精度について設定した例について説明した。これに対して、実施の形態2では、制約付き最適化問題における制約条件をレーダ使用回数(センサ使用回数)について設定する例について説明する。
【0074】
図4は、この発明の実施の形態2による目標追尾装置を示すブロック図である。実施の形態2の目標追尾装置20の基本的な処理内容は、実施の形態1の目標追尾装置10と同様である。また、目標追尾装置20は、実施の形態1の目標追尾装置10の機能ブロック2〜5と同様の機能ブロック22〜25を有している。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0075】
次に、目標追尾装置20の各機能ブロック22〜25による目標追尾とそれに伴うレーダ制御に関する決定とのそれぞれの方法について説明する。図5は、図4の目標追尾装置20の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、観測値の定期的な1観測時刻分の処理の流れを示しており、各機能ブロック22〜25は、観測の度にこの図5の全体の処理を1回行う。以下では、このフローチャートに沿って追尾及びレーダ制御決定の処理内容を説明する。
【0076】
図5において、最初に、ステップS21の「通常追尾処理」では、第1及び第2レーダ1a,1bの少なくともいずれか一方の定期的な観測により得られる観測値が追尾処理部22に入力され、その観測値を用いて追尾処理部22が目標追尾処理を行う。この目標追尾処理では、観測値に含まれる観測誤差を低減して目標の運動諸元を計算する。その手順について以下に説明する。
【0077】
観測値による処理前の目標航跡の平滑値をxk−1|k−1とし、その誤差共分散行列をPk−1|k−1としたとき、追尾処理部22は、次の式(24),(25)を用いた演算を行うことにより、予測処理を行う。
【0078】
【数16】

【0079】
但し、この式(24),(25)において、Φは推移行列であり、Qは駆動雑音共分散行列である。
【0080】
次に、追尾処理部22は、観測値がこの目標航跡に対応付けが可能か否かを判定する。具体的に、追尾処理部22は、レーダ群1によって得られる観測値をzk,jとしたとき、次の式(26)が成立する場合には、対応付け可能と判定する。
【0081】
【数17】

【0082】
但し、この式(26)において、dはカイ平方検定で利用するゲートサイズパラメータである。また、Hは観測行列である。Sは残差共分散行列であり、次の式(27)に従って計算できる。
【0083】
【数18】

【0084】
但し、この式(27)において、Rは観測誤差共分散行列であり、第1又は第2レーダ1a,1bの距離の観測誤差標準偏差と角度の観測誤差標準偏差とにより算出できる。
【0085】
追尾処理部22は、式(26)が成り立って、目標航跡と観測値との対応付けが可能と判定した場合には、次の式(28),(29)を用いた平滑処理を行い、最新の目標の運動諸元の推定値であるxk|kと、その誤差共分散であるPk|kとを得る。
【0086】
【数19】

【0087】
但し、この式(28),(29)において、Kはカルマンゲインであり、次の式(30)のように計算できる。
【0088】
【数20】

【0089】
次に、ステップS22の「レーダ制御要否判定」では、レーダ制御要否判定部23がある特定のレーダの使用頻度を一時的に上げるべきかどうかを判定する。ここで、目標航跡のx軸方向とy軸方向との推定誤差の標準偏差をそれぞれpx0,py0とする。レーダ制御要否判定部23は、目標航跡の誤差共分散行列Pk|kをxy座標に変換し、変換後の誤差共分散行列のx−xに対応する対角項成分とy−yに対応する対角項成分との平方根をそれぞれ算出することにより、px0,py0を近似する。
【0090】
また、要求精度により指定された推定誤差のx軸方向成分とy軸方向成分との標準偏差をpx_d,py_dとする。レーダ制御要否判定部23は、これらの誤差の標準偏差を用いて、レーダ制御要否判定を行う。そして、ステップS23では、レーダ制御要否判定部23は、現在推定している目標航跡の誤差標準偏差(推定精度における誤差標準偏差)と要求精度における誤差標準偏差との差が閾値Δthを超える場合、即ち、次の式(31),(32)のいずれかの条件が成り立つ場合には、第1及び第2レーダ1a,1bの少なくともいずれか一方の使用頻度を一時的に上げるべき(レーダ制御が必要である)と判定し、レーダ使用回数決定部24にステップS24の処理を実行させる。
【0091】
【数21】

【0092】
他方、ステップS23において、先の式(31),(32)のいずれかの条件が成り立たない場合には、レーダ制御要否判定部23は、レーダ制御が不要であると判定し、一連の動作を終了する。従って、レーダ制御要否判定部23は、目標航跡の推定精度と要求精度とを用いて、センサ制御を実施するか否か判定する。
【0093】
次に、ステップS24の「レーダ使用回数決定」では、レーダ使用回数決定部24が各レーダ1a,1bの使用回数(各レーダ1a,1bに課せる観測回数)を決定する。第1レーダ1aの1回の観測により得られる観測値のx軸方向とy軸方向とそれぞれの観測誤差の標準偏差をσx1,σy1とする。
【0094】
これらの標準偏差σx1,σy1は、第1レーダ1aの距離観測誤差と角度観測誤差とにより得られる、距離方向の軸と角度方向との軸からなる座標の観測誤差共分散行列を、xy座標に変換して得られる共分散行列の対角項の平方根により得られる。これと同様に、第2レーダ1bの1回の観測によって得られる観測値のx軸方向とy軸方向とのそれぞれの観測誤差の標準偏差をσx2,σy2とする。なお、これらの標準偏差σx1,σy1,σx2,σy2は、各レーダ1a,1bの観測精度に対応している。
【0095】
第1レーダ1aの連続n回、第2レーダ1bの連続m回の観測によって精度が改善された後の目標航跡の推定誤差の標準偏差をPx_nm,Py_nmとする。これらは、第1及び第2レーダ1a,1bによる連続n回・連続m回の観測間隔が0に近い場合には、次の式(33),(34)のように近似できる。
【0096】
【数22】

【0097】
ここで、第1レーダ1a及び第2レーダ1bの使用回数n,mについて、その和に上限(Nmax)があるとする。この場合には、次の式(35)のような制約条件を設定できる。
【0098】
【数23】

【0099】
また、nとmとは、正でなければならないので、次の式(36)のような制約条件を設定できる。
【0100】
【数24】

【0101】
ここで、第1レーダ1a及び第2レーダ1bの使用回数n,mを、使用後の誤差楕円の面積を最小化することを目的として決定するものとする。これは、次の式(37)のような目的関数を最小にすることと等価である。
【0102】
【数25】

【0103】
ここで、先の式(35),(36)の制約条件と、式(37)の目的関数とからなる制約付き最適化問題の制約条件及び目的関数を(n,m)の二次元の座標空間に表すと、図6のようになる。図6の網掛けの部分が制約条件を満たす領域であり、図6中の括弧付きの数値が示す線は、それぞれ式(35),(36)の制約条件の境界である。目的関数を最小化するには、この領域の左下の円中の交点を選択すればよい。この点の座標(n,m)は、式(35),(36)の境界からなるn,mに関する連立方程式により計算することができる。
【0104】
この最適化問題の解は、一般的に整数になるとは限らない。このため、n,mを超える最小の整数を実際に適用するレーダの使用回数とすればよい。また、第1及び第2レーダ1a,1bのそれぞれの1観測回当りのヒット数を調整して、小数点以下を含むn,mの値に相当する使用回数を実現してもよい。
【0105】
なお、n,mを導出する際には、このレーダ1aのn回の使用とレーダ1bのm回の使用が現時刻から十分短い時間に完了できることを前提としている。時間が経過した後では目標の位置が変化するため、各レーダの観測誤差の標準偏差σx1,σy1,σx2,σy2もそれに伴って変化する。よって、n,mのいずれかが大きな数になると近似による誤差が大きくなり、レーダ使用の効果の見積もりと、実際のレーダ使用の効果の差が大きくなる。このような場合には、従来技術による試行錯誤による誤差見積もりを行うとしてもよい。即ち、この実施の形態2で説明した手順で導出したn,mについて、
max(n,m)>nu_lim
が成立する場合には、従来技術による試行錯誤を行うとする。ここで、nu_limは、事前に設定するパラメータである。
【0106】
次に、ステップS25の「レーダ指示」では、レーダ指示部25は、第1レーダ1aに対してn回の目標観測を行うように、また、第2レーダ1bに対してm回の目標観測を行うように、通信ネットワークを通じて指示(命令)を送る。
【0107】
次に、ステップS26の「再追尾処理」では、追尾処理部22は、ステップS25でのレーダ指示を通じて各レーダ1a,1bによって得られた観測値を用いて、目標航跡の追尾処理を行う。1観測値あたりの処理は、ステップS21の「通常追尾処理」の式(24)〜(30)と同様であり、追尾処理部22は、この処理をn+m回分繰り返す。
【0108】
上記のような実施の形態2の目標追尾装置によれば、レーダ使用回数決定部24が、制約付き最適化問題における制約条件をレーダ使用回数について設定し、第1及び第2レーダ1a,1bのそれぞれについてのレーダ使用回数を、制約付き最適化問題から導出する(制約付き最適化問題に帰着させて最適解を得る)。これにより、レーダ使用回数を制約する場合でも、目標航跡の推定誤差の縮小の効果を高めるためのレーダ使用回数を、少ない演算量で決定することができる。
【0109】
なお、実施の形態1,2では、センサ及びセンサ群として、それぞれレーダ1a,1b及びレーダ群1を用いた例について説明した。しかしながら、センサ及びセンサ群は、それぞれレーダ及びレーダ群に限定するものではなく、目標を観測可能なセンサであればよい。この場合、実施の形態1,2における各機能ブロック2〜5,22〜25は、レーダ以外のセンサを対象として処理を行えばよい。
【0110】
実施の形態3.
実施の形態1,2では、第1及び第2レーダ1a,1bのそれぞれの使用回数(観測回数)を制約付き最適化問題から導出した例について説明した。これに対して、実施の形態3では、第1及び第2レーダ1a,1bの1回ずつの観測で要求精度の達成を目指すことを前提とし、それぞれのヒット数を制約付き最適化問題から導出する例について説明する。
【0111】
図7は、この発明の実施の形態3による目標追尾装置を示すブロック図である。実施の形態3の目標追尾装置30の基本的な処理内容は、実施の形態1の目標追尾装置10と同様である。また、目標追尾装置30は、実施の形態1の目標追尾装置10の機能ブロック2,3,5と同様の機能ブロック32,33,35を有している。さらに、目標追尾装置30は、実施の形態1のレーダ使用回数決定部4に代えて、レーダヒット数決定部34を有している。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0112】
次に、目標追尾装置30の各機能ブロック32〜35による目標追尾とそれに伴うレーダ制御に関する決定とのそれぞれの方法について説明する。図8は、図7の目標追尾装置30の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、観測値の定期的な1観測時刻分の処理の流れを示しており、各機能ブロック32〜35は、観測の度にこの図8の全体の処理を1回行う。以下では、このフローチャートに沿って追尾及びレーダ制御決定の処理内容を説明する。
【0113】
図8において、最初に、ステップS31の「通常追尾処理」では、第1及び第2レーダ1a,1bの少なくともいずれか一方の定期的な観測により得られる観測値が追尾処理部32に入力され、その観測値を用いて追尾処理部32が目標追尾処理を行う。この目標追尾処理では、観測値から雑音を除去して目標の運動諸元を計算する。その手順について以下に説明する。
【0114】
観測値による処理前の目標航跡の平滑値をxk−1|k−1とし、その誤差共分散行列をPk−1|k−1としたときに、追尾処理部32は、次の式(38),(39)を用いた演算を行うことにより、予測処理を行う。
【0115】
【数26】

【0116】
但し、この式(38),(39)において、Φは推移行列であり、Qは駆動雑音共分散行列である。
【0117】
次に、追尾処理部32は、観測値がこの目標航跡に対応付けが可能か否かを判定する。具体的に、追尾処理部32は、レーダ群31によって得られる観測値をzk,jとしたとき、次の式(40)が成立する場合には、対応付け可能と判定する。
【0118】
【数27】

【0119】
但し、この式(40)において、dはカイ平方検定で利用するゲートサイズパラメータである。また、Hは観測行列である。さらに、Sは残差共分散行列であり、次の式(41)に従って計算できる。
【0120】
【数28】

【0121】
但し、この式(41)において、Rは観測誤差共分散行列であり、第1レーダ1a又は第2レーダ1bの距離の観測誤差標準偏差と角度の観測誤差標準偏差とにより算出できる。
【0122】
追尾処理部32は、式(40)が成り立って、目標航跡と観測値との対応付けが可能と判定した場合には、次の式(42),(43)を用いた平滑処理を行い、最新の目標の運動諸元の推定値であるxk|kと、その誤差共分散であるPk|kとを得る。
【0123】
【数29】

【0124】
但し、この式(42),(43)において、Kはカルマンゲインであり、次の式(44)のように計算できる。
【0125】
【数30】

【0126】
次に、ステップS32の「レーダ制御要否判定」では、レーダ制御要否判定部33がある特定のレーダのヒット数を一時的に上げるべきかどうかを判定する。ここで、目標航跡のx軸方向とy軸方向との推定誤差の標準偏差をそれぞれpx0,py0とする。レーダ制御要否判定部33は、目標航跡の誤差共分散行列Pk|kをxy座標に変換し、変換後の誤差共分散行列のx−xに対応する対角項成分とy−yに対応する対角項成分との平方根をそれぞれ算出することにより、px0,py0を近似する。
【0127】
また、要求精度により指定された推定誤差のx軸方向成分とy軸方向成分との標準偏差をpx_d,py_dとする。レーダ制御要否判定部33は、これらの誤差の標準偏差を用いて、レーダ制御要否判定を行う。そして、ステップS33では、レーダ制御要否判定部33は、現在推定している目標航跡の誤差標準偏差(推定精度における誤差標準偏差)と要求精度における誤差標準偏差との差が閾値Δthを超える場合、即ち、次の式(45),(46)のいずれかの条件が成り立つ場合には、第1及び第2レーダ1a,1bの少なくともいずれか一方のヒット数を一時的に上げるべき(レーダ制御が必要である)と判定し、レーダヒット数決定部34にステップS34の処理を実行させる。
【0128】
【数31】

【0129】
他方、ステップS33において、先の式(45),(46)のいずれかの条件が成り立たない場合には、レーダ制御要否判定部33は、レーダ制御が不要であると判定し、一連の動作を終了する。従って、レーダ制御要否判定部33は、目標航跡の推定精度と要求精度とを用いて、センサ制御を実施するか否か判定する。
【0130】
次に、ステップS34の「レーダヒット数決定」では、レーダヒット数決定部34が各レーダ1a,1bのヒット数(各レーダ1a,1bに課せるヒット数)を決定する。第1レーダ1aの1回の観測により得られる観測値のx軸方向とy軸方向とのそれぞれの観測誤差の標準偏差をσx1,σy1とする。これらは、第1レーダ1aの距離観測誤差と角度観測誤差とにより得られる、距離方向の軸と角度方向の軸とからなる座標の観測誤差共分散行列を、xy座標に変換して得られる共分散行列の対角項の平方根により得られる。従って、これらの標準偏差σx1,σy1は、第1レーダ1aのヒット数Hに依存する。
【0131】
これと同様に、第2レーダ1bの1回の観測により得られる観測値のx軸方向とy軸方向とのそれぞれの観測誤差の標準偏差をσx2,σy2とすると、これらの標準偏差σx2,σy2は、第2レーダ1bのヒット数Hに依存する。
【0132】
第1レーダ1aのヒット数Hによる1回の観測、第2レーダ1bのヒット数Hによる1回の観測によって精度が改善された後の目標航跡の推定誤差の標準偏差をPx_H,Py_Hとする。これらの標準偏差Px_H,Py_Hは、観測間隔が0に近い場合には、次の式(47),(48)のように近似できる。
【0133】
【数32】

【0134】
ここで、精度が改善された後の目標航跡の推定誤差を、要求精度に基づく推定誤差よりも小さくする必要があるので、次の式(49),(50)のような制約条件を設定できる。
【0135】
【数33】

【0136】
また、HとHとは、正でなければならないので、次の式(51)のような制約条件を設定できる。
【0137】
【数34】

【0138】
ここで、第1レーダ1a及び第2レーダ1bのそれぞれのヒット数H,Hを、2つのレーダの電力消費量が最小化することを目的として決定するものとする。即ち、次の式(52)の目的関数を最小にするように決定する。なお、次の式(52)のP(H)は、レーダがヒット数Hを実現するために必要な電力消費量である。
【0139】
【数35】

【0140】
先の式(49)〜(51)の制約条件と、式(52)の目的関数とからなる制約付き最適化問題の制約条件及び目的関数を、制約条件(49),(51)の境界からなるH,Hに関する連立方程式により計算することができる。
【0141】
次に、ステップS35の「レーダ指示」では、レーダ指示部35は、第1レーダ1aに対してヒット数Hで目標観測を行うように、また、第2レーダ1bに対してヒット数Hで目標観測を行うように、通信ネットワークを通じて指示(命令)を送る。
【0142】
次に、ステップS36の「再追尾処理」では、追尾処理部32は、ステップS35でのレーダ指示を通じて各レーダ1a,1bによって得られた観測値を用いて、目標航跡の追尾処理を行う。1観測値あたりの処理は、ステップS31の「通常追尾処理」の式(38)〜(44)と同様であり、追尾処理部32は、この処理を2回分繰り返す。
【0143】
上記のような実施の形態3の目標追尾装置によれば、レーダヒット数決定部34が、目標航跡の誤差共分散行列と、要求精度とを用いて、第1及び第2レーダ1a,1bのそれぞれについてのレーダヒット数を制約付き最適化問題から導出する(制約付き最適化問題を設定してその最適値を得る)。これにより、従来装置に比べて演算量を削減可能となることから、必要最小限のレーダヒット数を効率的に決定することができる。
【符号の説明】
【0144】
1 レーダ群(センサ群)、1a 第1レーダ(第1センサ)、1b 第2レーダ(第2センサ)、2,22,32 追尾処理部、3,23 レーダ制御要否判定部(センサ制御要否判定部)、4,24 レーダ使用回数決定部(センサ使用回数決定部)、5,25 レーダ指示部(センサ指示部)、10,20,30 目標追尾装置、33 レーダ制御要否判定部、34 レーダヒット数決定部、35 レーダ指示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる位置に配置された複数のセンサから得られる観測値を追尾処理して目標航跡を作成するための目標追尾装置であって、
前記センサから得られた観測値を用いて目標の運動諸元を算出して、その算出した運動諸元から、前記目標航跡を導出するとともに、前記目標航跡の誤差共分散行列を算出する追尾処理部と、
前記目標航跡の誤差共分散行列に基づく前記目標航跡の推定精度と所定の要求精度とを用いて、センサ制御を実施するか否かを判定するセンサ制御要否判定部と、
前記目標航跡の誤差共分散行列と、前記センサ毎の観測精度と、前記要求精度とを用いて、前記複数のセンサのそれぞれについてのセンサ使用回数を、制約付き最適化問題から導出するセンサ使用回数決定部と、
前記センサ使用回数決定部によって導出された前記センサ使用回数に従って、前記複数のセンサのそれぞれに観測を指示するセンサ指示部と
を備えることを特徴とする目標追尾装置。
【請求項2】
前記センサ使用回数決定部は、
制約付き最適化問題における制約条件を、前記要求精度と前記目標航跡の現在の推定精度とのそれぞれについて設定し、
制約付き最適化問題における目的関数を、前記センサ使用回数の総和で設定する
ことを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項3】
前記センサ使用回数決定部は、
制約付き最適化問題における制約条件を、前記要求精度と前記目標航跡の現在の推定精度とのそれぞれについて設定し、
制約付き最適化問題における目的関数を、前記複数のセンサのそれぞれについての前記センサ使用回数に前記センサ毎の重み付けの係数を乗じた値の総和で設定する
ことを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項4】
前記センサ使用回数決定部は、
制約付き最適化問題における制約条件を、前記センサ使用回数について設定し、
制約付き最適化問題における目的関数を、前記センサの使用後の前記目標航跡の推定精度で設定する
ことを特徴とする請求項1記載の目標追尾装置。
【請求項5】
それぞれ異なる位置に配置された複数のレーダから得られる観測値を追尾処理して目標航跡を作成するための目標追尾装置であって、
前記レーダから得られた観測値を用いて目標の運動諸元を算出して、その算出した運動諸元から、前記目標航跡を導出するとともに、前記目標航跡の誤差共分散行列を算出する追尾処理部と、
前記目標航跡の誤差共分散行列に基づく前記目標航跡の推定精度と所定の要求精度とを用いて、レーダ制御を実施するか否かを判定するレーダ制御要否判定部と、
前記目標航跡の誤差共分散行列と、前記要求精度とを用いて、前記複数のレーダのそれぞれの観測の際のヒット数を、制約付き最適化問題から導出するレーダヒット数決定部と、
前記レーダヒット数決定部によって導出された前記ヒット数に従って、前記複数のレーダのそれぞれに観測を指示するレーダヒット数指示部と
を備えることを特徴とする目標追尾装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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