目的とする分子を精製および結晶化するための組成物
組成物が提供される。前記組成物は、目的とする標的分子または標的細胞と結合することができる少なくとも1つの配位子を含み、この少なくとも1つの配位子は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体を形成するために組成物を導くことができる選択された少なくとも1つの配位成分に結合している。また、かかる組成物を標的の精製、結晶化および免疫化のために使用する方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的とする分子を精製および結晶化するために使用することができる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質および他の高分子は、研究、診断薬および治療薬においてますます使用されている。タンパク質は、典型的には、組換え技術によって大規模に製造されるが、精製が製造プロセスの(総費用の60%まで)大きな費用となっている。従って、組換えタンパク質製造物の大規模な使用は、精製に関連する費用が大きいために阻まれている。
【0003】
現行のタンパク質精製方法は様々なクロマトグラフィー技術の組合せの使用に依存している。これらの技術では、タンパク質の混合物が、特にその特性の中でも、タンパク質の荷電、疎水性の程度またはサイズに基づいて分離される。いくつかの異なるクロマトグラフィー樹脂が、これらの技術のそれぞれを用いた使用のために利用可能であり、これにより、単離のために目標とされる特定のタンパク質に対する、精製スキームの正確で細かい調節が可能である。これらの分離方法のそれぞれの本質は、タンパク質が、長いカラムを異なる速度で移動し、これにより、タンパク質がカラムをさらに下流側に通過するに従って大きくなる物理的な分離を達成することができることであり、あるいは、タンパク質が分離媒体に選択的に吸着させられ、それにより、異なる溶媒による示差的な溶出を可能にすることができることである。場合により、カラムは、不純物がカラムに結合し、その一方で、所望するタンパク質が「素通り」に見出されるように設計される。
【0004】
アフィニティー沈殿(AP)は、タンパク質を沈殿させるための最も効果的かつ進んだ方法である[Mattiasson(1998);HilbrigおよびFreitag(2003)、J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci.、790(1−2):79〜90]。現時点での最新のAPでは、配位子結合型「スマートポリマー」が用いられる。「スマートポリマー」[または刺激応答性「インテリジェント」ポリマーまたはアフィニティーマクロ配位子(AML)]は、小さな物理的または化学的な刺激(例えば、pH、温度、放射線などにおける変化など)に対する大きな性質変化を伴って応答するポリマーである。このようなポリマーは多くの形態を取ることができる。例えば、このようなポリマーは水溶液に溶解し、水性−固体の境界に吸着またはグラフト化することができ、あるいは、架橋して、ヒドロゲルを形成させることができる[Hoffman、J Controlled Release(1987)、6:297〜305;Hoffman、インテリジェントポリマー(Park K編、Controlled drug delivery、Washington:ACS Publications、(1997)485〜98);Hoffman、医学および生物工学におけるインテリジェントポリマー、Artif Organs(1995)、19:458〜467]。典型的には、ポリマーの臨界的応答が刺激されたとき、溶液中のスマートポリマーは、スマートポリマーが相分離するにつれて、突然濁りが見られる;表面に吸着したスマートポリマーまたはグラフト化されたスマートポリマーは崩壊し、これにより、境界を親水性から疎水性に変換する;また、スマートポリマー(ヒドロゲルの形態で架橋されている場合)は急激な崩壊を示し、その膨潤溶液の多くを放出する。これらの現象は、刺激が逆になったときには逆になる。しかし、逆転速度は、多くの場合、ポリマーが水性媒体に再溶解しなければならないとき、または、ゲルが水性媒体において再膨潤しなければならないときには遅くなる。
【0005】
「スマート」ポリマーは、物理的刺激および化学的刺激と同様に、生物学的刺激に対して応答し得るポリマー−生体分子系の大きなファミリーを得るために、生体分子と物理的に混合することができ、または、生体分子に化学的に結合することができる。ポリマーに結合することができる生体分子には、タンパク質およびオリゴペプチド、糖類および多糖類、一本鎖および二本鎖のオリゴヌクレオチドおよびDNAプラスミド、単純脂質およびリン脂質、ならびに、広範囲の様々な認識配位子および合成薬物分子が含まれる。
【0006】
数多くの構造的パラメーターにより、目的とするタンパク質を特異的に沈殿させるスマートポリマーの能力が制御される。例えば、スマートポリマーは配位子結合のための反応基を含有しなければならない;スマートポリマーは不純物と強く相互作用してはならない;スマートポリマーは、標的タンパク質との相互作用のために配位子を利用可能にしなければならない;スマートポリマーは、媒体の性質が変化したときにポリマーの完全な相分離を与えなければならない;スマートポリマーは密な沈殿物を形成しなければならない;スマートポリマーはゲル構造への不純物の捕捉を許してはならない;また、スマートポリマーは、沈殿物が形成された後において容易に可溶化されなければならない。
【0007】
多くの異なる天然ポリマーならびに合成ポリマーがAPにおいて利用されている[Mattiasson(1998)、J.Mol.Recognit.、11:211]が、理想的なスマートポリマーは、現在利用可能なスマートポリマーを用いて行われる様々なアフィニティー沈殿としては、依然として分かりにくく、上記の要件の1つまたはいくつかを満たしていない[HlibrigおよびFreitag(2003)、上掲]。
【0008】
効率的かつ簡便なタンパク質精製技術が利用できることはまた、タンパク質の純度が結晶生長に大きく影響するタンパク質の結晶化において有用であり得る。タンパク質の立体配座構造は、その生物学的機能を理解するための手がかりであり、また、究極的には新しい薬物治療を設計するための手がかりである。タンパク質の立体配座構造は、従来は、その結晶からのX線回折によって決定されている。残念ながら、純度が十分に高いタンパク質結晶を生長させることは大抵の場合には非常に困難であり、そのような困難が、タンパク質サンプルの構造の科学的な決定および同定における大きな制限因子である。タンパク質の結晶を過飽和溶液から生長させるための先行技術方法は冗長であり、時間がかかり、100000を超える様々なタンパク質の2パーセント未満がX線回折研究のために好適な結晶として生長させられている。
【0009】
膜タンパク質は、結晶化について、最も困難なタンパク質群を提供している。膜タンパク質について利用できる3D構造の数は依然として20前後であり、一方、膜タンパク質の数はプロテオームの1/3を構成することが予想される。膜タンパク質を結晶化したいときには、数多くの障害を詳しく検討する必要がある。これらには、天然の供給源からのタンパク質の存在量が少ないこと、疎水性の膜タンパク質を天然の環境(すなわち、脂質二重層)から可溶化することが必要であること、ならびに、膜タンパク質は、界面活性剤溶液中では変性、凝集および/または分解しやすいことが含まれる。可溶化するための界面活性剤の選択は、いくつかの界面活性剤は標的タンパク質に対する安定化パートナーの結合を妨害することがあるので、別の問題を提供している。
【0010】
2つの方法が膜タンパク質の結晶化において試みられている。
【0011】
ごく最近まで、膜タンパク質のX線結晶構造の大多数は、タンパク質−界面活性剤複合体の溶液から直接生長させた結晶を使用して決定されている。タンパク質−界面活性剤複合体の結晶生長は可溶性タンパク質の結晶生長と同等であると見なすことができるが、結晶化されつつある溶質は、タンパク質単独ではなく、むしろ、タンパク質および界面活性剤の複合体である。実際の格子接触がタンパク質−タンパク質相互作用によって形成されるが、結晶の充填は同様に界面活性剤成分を近くに並置させる。このようなタンパク質−タンパク質接触を行うために利用可能な表面積を増大させるために、研究では、結晶を生成させる可能性を増大させる抗体フラグメントを加えることが示唆された[HunteおよびMichel(2002)、Curr.Opin.Struct.Biol.、12:503〜508]。しかしながら、この技術を様々な膜タンパク質に適用することは、それぞれの膜タンパク質に対して特異的なモノクローナル抗体を作製することが要求されるために困難である。
【0012】
さらに、界面活性剤ミセルはタンパク質の脂質二重層の環境を完全かつ正確に再現することができないことが主張されている。
【0013】
従って、膜タンパク質を結晶化させるための努力は、二重層の環境において結晶を生成させることに向けなければならない。数多くの試みが、この方法を使用して膜タンパク質の結晶を作製するために行われている。これらには、連続した二重層構造を含有するゲル様物質を形成する脂質性立方相の存在下で生長させられたバクテリオロドプシンの結晶を作製すること[LandauおよびRosenbuch(1996)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93:14532〜14535]、および、古細菌の7回膜貫通ヘリックスタンパク質の結晶化において有用であることが証明されたインキューボ(in cubo)結晶化[Gordeliy(2002)、Nature、419:484〜487;Luecke(2001)、Science、293:1499〜1503;Kolbe(2000)、Science、288:1390〜1396;Royant(2001)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98:10131〜10136]が含まれる。しかしながら、in cubo法を使用する他の膜タンパク質の結晶は、タンパク質−界面活性剤複合体溶液から直接に生長させた結晶ほどの高品質ではなかった[Chiu(2000)、Acta.Crystallogr.D.、56:781〜784]。
【0014】
従って、上記の制限を有しない、分子の精製および結晶化のための組成物、および、該組成物を使用する方法が必要であることが広く認められており、また、そのような組成物および方法を有することは非常に好都合である。
【発明の開示】
【0015】
本発明の1つの態様によれば、目的とする標的分子または標的細胞と結合することができる少なくとも1つの配位子を含む組成物が提供され、この場合、この少なくとも1つの配位子は、コーディネーターイオン(coordinator ion)またはコーディネーター分子(coordinator molecule)と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体(non−covalent complex)を形成するために組成物を導くことができる選択された少なくとも1つの配位成分に結合している。
【0016】
本発明の別の態様によれば、目的とする標的分子または標的細胞を精製する方法が提供され、この場合、この方法は、(a)目的とする標的分子または標的細胞を含むサンプルを、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする標的分子または標的細胞と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターであって、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコーディネーターとを含む組成物と接触させること;および(b)目的とする標的分子または標的細胞に結合した複合体を含む沈殿物を集め、それにより、目的とする標的分子または標的細胞を精製することを含む。
【0017】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の方法はさらに、目的とする分子を沈殿物から回収することを含む。
【0018】
本発明のさらにもう1つの態様によれば、対象における目的とする分子に関連する疾患に対する素因またはそのような疾患の存在を検出する方法が提供され、この場合、この方法は、対象から得られた生物学的サンプルを、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターであって、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコーディネーターとを含む組成物と接触させることを含み、この場合、目的とする分子を含む複合体の形成により、対象における目的とする分子に関連する疾患に対する素因またはそのような疾患の存在が示される。
【0019】
本発明のさらに別の態様によれば、目的とする分子を結晶化させるための組成物が提供され、この場合、この組成物は、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターとを含み、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、組成物は、目的とする分子に結合したとき、目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、目的とする分子を結晶化させる方法が提供され、この場合、この方法は、目的とする分子を含むサンプルを、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターとを含む結晶化用組成物と接触させることを含み、この場合、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、結晶化用組成物は、目的とする分子に結合したとき、目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される。
【0021】
本発明のさらにさらなる態様によれば、目的とする分子と結合することができる第1の領域と、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と結合することができる第2の領域とを有する分子を含む組成物が提供され、この場合、第2の領域は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子にさらされたとき、分子がポリマーを形成するように設計されている。
【0022】
本発明のなおさらなる態様によれば、目的とする標的分子または標的細胞をサンプルから激減させる方法が提供され、この場合、この方法は、(a)目的とする標的分子または標的細胞を含むサンプルを、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターであって、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコーディネーターとを含む組成物と接触させること;および(b)目的とする標的分子または標的細胞に結合した複合体を含む沈殿物を取り除き、それにより、目的とする標的分子または標的細胞をサンプルから激減させることを含む。
【0023】
本発明のさらなる態様によれば、目的とする標的分子の免疫原性を高める方法が提供され、この場合、この方法は、目的とする標的分子を、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする標的分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターとを含む組成物と接触させることを含み、この場合、この接触は、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターが、目的とする標的分子を含む複合体を形成し、それにより、目的とする標的分子の免疫原性を高めるように行われる。
【0024】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される。
【0025】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される。
【0026】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して少なくとも1つの配位成分に結合している。
【0027】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足(poor)分子および電子過剰(rich)分子からなる群から選択される。
【0028】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される。
【0029】
本発明は、様々な分子を精製するための組成物および方法を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【0030】
本明細書で使用される技術用語と科学用語はすべて、特に断らない限り、本発明の属する技術分野の当業者が共通して理解しているのと同じ意味を持っている。本明細書に記載されているのと類似の又は均等の方法と材料は本発明を実施又は試験するのに使用できるが、適切な方法と材料は以下に述べる。争いが生じた場合、定義を含めて本特許明細書が基準である。さらに、本明細書の材料、方法及び実施例は例示することだけを目的とし本発明を限定するものではない。
【0031】
図面の簡単な記述
本明細書では本発明を単に例示し図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施態様を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
図1は本発明の組成物のいくつかの形態を概略的に例示する(図1a〜図1f)。図1a〜図1cは、2つの配位成分に結合した配位子を示す。図1d〜図1fは、多数の配位成分に結合した配位子を示す。Zは配位成分を示す。
図2は本発明の組成物を使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図2a〜図2b)。ビス−キレート化剤に共有結合的に結合している配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図2a)。金属(M+、M2+、M3+、M4+)の添加により、キレート化剤と結合し、金属イオンに非共有結合的に結合した標的分子を含むマトリックスを形成する(図2b)。
図3は沈殿物からの標的分子の段階的な回収を概略的に例示する(図3a〜図3e)。図3aは、金属に対する配位子結合キレート化剤の結合と競合するフリーのキレート化剤の添加を示す。図3bは、フリーの競合するキレート化剤および複合体形成した金属(図3c)からの、配位子と結合した標的分子の重力に基づく分離を示す。図3dは、複合体の結合を可能にするための固定化金属カラムにおける、配位子と結合した標的分子の負荷を示す。適正な溶出条件のもとで、標的分子が溶出され、一方、配位子−配位成分の分子は溶出しない。脱塩段階を標的分子のさらなる精製のために加えることができる。配位子−キレート化剤分子の再生が、カラムへの競合するキレート化剤の添加、それに続く透析または限外ろ過によって達成される(図3e)。
図4は沈殿物からの標的分子の直接的な溶出を概略的に例示する。この場合、キレート化剤−金属複合体が維持され、その一方で、標的分子と配位子との間での結合が低下する。
図5は標的分子を溶出させた後における沈殿形成ユニット(すなわち、配位子−配位成分)の再生を概略的に例示する。この場合、回収が、競合するキレート化剤の添加および適切な分離手順(例えば、透析および限外ろ過など)の適用によって達成される。
図6は核酸配列を配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図6a〜図6c)。共有結合的に結合したビス−ヌクレオチド配列(配位成分)を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図6a)。相補的な配列の添加により、配位子−配位成分:標的分子:相補的配列(コーディネーター分子、図6b)を含むマトリックスの形成がもたらされる。非対称的な配位配列も同様に示される(図6c)。
図7はビオチンを配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図7a〜図7b)。共有結合的に結合したビス−ビオチンまたはビオチン誘導体(例えば、DSB−Xビオチンなど)を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図7a)。アビジン(またはその誘導体)の導入により、配位子−配位成分(ビオチン):標的分子:アビジンを含む網状構造が生じる(図7b)。
図8は電子過剰分子を配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図8a〜図8c)。共有結合的に結合したビス−電子過剰成分を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図8a)。複合体を形成する性向を有するビス(同様に、トリス、テトラ)電子不足誘導体の添加により、配位子−配位成分(電子不足分子):標的分子:ビス−電子不足成分を含む非共有結合性の網状構造がもたらされる(図8b)。ピクリン酸およびインドールの系もまた本発明に従って使用することができる(図8c)。
図9は結合したプロテインA(ProA)が配位子として使用される標的抗体の沈殿形成を概略的に例示する。適切なコーディネーターの添加により、プロテインA−配位成分:コーディネーター:標的分子の網状構造がもたらされる。
図10は膜タンパク質を結晶化するための本発明の複合体の使用を概略的に例示する(図10a〜図10b)。結晶化組成物の存在下での2D(または3D)構造の一般的な形成がもたらされるが、この場合、コーディネーターは自身同士で相互につながっていない(図10a)。2つの抗原により修飾された特異的な配位子と、コーディネーターとして役立つ、特異的な抗原に向けられたモノクローナル抗体(mAb)とを利用するより詳細な例が図10bに例示される。
図11は膜タンパク質の結晶を形成させるためのメタロ複合体の使用(図11a)およびヌクレオ複合体の使用(図11b)を概略的に例示する。図11cは、本発明の組成物を使用する三次元の膜複合体を概略的に例示する。タンパク質の疎水性ドメインが界面活性剤ミセルによって取り囲まれる。Zは多価のコーディネーター(すなわち、少なくとも二価のコーディネーター)を示す。
図12は好適なキレート化剤を介して1つだけの金属コーディネーターに結合した3つの配位子からなる非共有結合性の組成物の形成を概略的に例示する。この場合、キレート化剤は共有結合性リンカーを介して配位子に結合している。
図13はトリ非共有結合性配位子複合体がFe3+イオンの存在下で形成されるように(図13b)、ヒドロキサム酸誘導体を含むための、目的とする3つの配位子の修飾を概略的に例示する(図13a)。
図14は配位子−キレート化剤分子を作製するための2段階の合成手順を概略的に例示する。
図15は同じ配位子−リンカー−キレート化剤分子を利用し、一方で、媒体に存在するカチオンのみを変化させることによる、ジ非共有結合性配位子(図15a)およびトリ非共有結合性配位子(図15b)の形成を概略的に例示する。
図16は電子不足/過剰の関係によって配位した本発明の組成物を概略的に例示する(図16a〜図16c)。配位子を電子不足成分で修飾すること(図16a)、および、トリ非共有結合性電子過剰成分を合成すること(図16b)によって、図16cに示される構造の複合体が形成される。
図17は配位子−電子過剰誘導体または配位子−電子不足誘導体を調製するための2段階の合成プロセスを概略的に例示する。
図18は電子過剰成分および電子不足成分を利用して配位子複合体を形成させるためのペプチドの使用を概略的に例示する。
図19はキレート化剤−金属、ならびに、電子過剰および電子不足の関係を利用する配位子複合体の形成を概略的に例示する。
図20はキレート化剤−電子不足誘導体を調製するための1段階の合成手順を概略的に例示する。
図21は同じキレート化剤−電子不足(カテコール−TNB)誘導体を利用し、媒体におけるカチオンのみを変化させることによるジ非共有結合性電子不足成分およびトリ非共有結合性電子不足成分の形成を概略的に例示する(図21a〜図21b)。
図22は二量体および三量体を形成させるための、電子過剰成分を含有するペプチドの付加を概略的に例示する(図22a〜図22b)。
図23は電子過剰/不足の関係により配位する2つのキレート化剤に結合している配位子を含む組成物の添加によるポリマー複合体の形成を概略的に例示する(図23a〜図23b)。
図24は非共有結合性タンパク質二量体の運動の自由度を制限する1つの可能性を概略的に例示する。非共有結合性二量体が、適切な金属の添加により配位子−リンカー−キレート化剤を介して形成された後、共有結合性の電子不足成分(例えば、トリニトロベンゼン−トリニトロベンゼン=TNB−TNB)の添加は、2つの隣接タンパク質の表面での2つの接近可能な電子過剰残基(例えば、Trp)の同時結合を生じさせ、それにより、運動の制約を課し、結晶構造の形成を可能にする。
図25は本発明の組成物における配位成分およびコーディネーターイオンとしてそれぞれ使用することができるキレート化剤および金属を概略的に例示する。
図26は本発明の組成物における配位成分として使用することができる電子過剰成分および電子不足成分を概略的に例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、目的とする分子を精製および結晶化するために使用することができる組成物に関する。
【0033】
本発明の原理および操作は、図面および付随する説明を参照して、より良好に理解することができる。
【0034】
本発明の少なくとも一つの実施態様を詳細に説明する前に、本発明は以下の説明に記載されているか又は図面に例示されている要素の構造の詳細と配置にその用途が限定されないと解すべきである。本発明にはその他の実施態様があり又は種々の方法で実行もしくは実施できる。また、本明細書に使用される用語と語句は説明を目的とするものであり本発明を限定するとみなすべきではないと解すべきである。
【0035】
タンパク質の大規模な製造に関与する費用のほとんどを典型的に提供するのは、その精製工程であるので、タンパク質(例えば、治療用タンパク質など)の費用効果的な商業的規模の製造は、迅速かつ効率的な精製方法の開発に大きく依存している。
【0036】
従って、タンパク質および他の商業的に重要な分子を精製するために使用することができる簡便かつ費用において効果的なプロセスが求められている。
【0037】
タンパク質精製における最新技術の方法は、目的とするタンパク質と結合する認識ユニットに連結された「スマート」ポリマーの使用に基づくアフィニティー沈殿(AP)である。このようなスマートポリマーは、その物理的な状態または性質における大きい、ときには不連続な変化を伴って、環境刺激における小さい変化に応答し、それにより、水溶液からの相分離、または、ヒドロゲルサイズにおける非常に大きな変化、および、目的とする分子の沈殿形成をもたらす。しかしながら、現在、スマートポリマーの有望性は、沈殿形成プロセス時における不純物の捕捉、ポリマーマトリックスへの不純物の吸着、タンパク質認識ユニットの親和性の低下、および、活性が低下した精製タンパク質をもたらし得る作業条件を含むいくつかの欠点のために実現されていない。
【0038】
本発明を実施に移している間に、本発明者らは、タンパク質、ならびに、目的とする他の分子および細胞の費用効果的かつ効率的な精製のために使用することができる新規な組成物を設計した。
【0039】
本明細書中下記に、また、下記の実施例の節において例示されるように、本発明の組成物は標的分子と特異的に結合して、穏和な条件のもとで沈殿させ、かつ回収することができる非共有結合性複合体を形成する。さらに、先行技術の精製用組成物とは対照的に、本発明の組成物は、(例えば、スマートポリマーなどに対して)固定化されない。固定化は、標的分子に対する配位子の親和性を低下させ、使用される配位子の量を制限し、手間のかかる維持を要求する精巧な実験室設備(HPLC)の使用を必要とし、カラムの汚れをもたらし、かつ、カラムの使用を、1つだけの共有結合的に結合した配位子に制限する。
【0040】
従って、本明細書中の1つの態様によれば、目的とする標的分子または標的細胞の精製のために好適である組成物が提供される。
【0041】
標的分子は、タンパク質、炭水化物、糖タンパク質または核酸配列(例えば、プラスミドなどのDNA、RNA)などの高分子、あるいは、化学物質などの小さい分子であり得る。本明細書中に示される例のほとんどはタンパク質性の標的分子を記載するが、本発明はそのような標的に限定されないことが理解される。
【0042】
標的細胞は、真核生物細胞、原核生物細胞またはウイルス細胞であり得る。
【0043】
本発明の組成物は、目的とする分子または細胞と配位子結合することができる少なくとも1つの配位子と、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体を形成するように組成物を導くことができる選択される少なくとも1つの配位成分とを含む。
【0044】
本明細書中で使用される用語「配位子」は、目的とする標的分子に対する大きい親和性(例えば、KD<10−5)結合を好ましくは示す合成分子または天然に存在する分子を示し、そのため、これら2つは特異的に相互作用することができる。目的とする標的が細胞であるとき、細胞の表面に発現するタンパク質、炭水化物または化学物質(例えば、細胞マーカー)と結合することができる配位子が選択される。好ましくは、目的とする分子または細胞に対する配位子結合は非共有結合性の結合である。本発明のこの態様による配位子は、一価配位子、二価配位子(抗体、増殖因子)または多価配位子が可能であり、また、目的とする1つまたは複数の分子または細胞に対する親和性を示すことができる(例えば、二重特異的抗体)。本発明に従って使用することができる配位子の例には、下記が含まれるが、それらに限定されない:抗体、その模倣物(例えば、Affibodies(登録商標)、米国特許第5831012号、同第6534628号および同第6740734号を参照のこと)またはフラグメント、エピトープ標識、抗原、ビオチンおよびその誘導体、アビジンおよびその誘導体、金属イオン、受容体およびそのフラグメント(例えば、EGF結合ドメイン)、酵素(例えば、プロテアーゼ)およびその変異体(例えば、触媒不活性な酵素)、基質(例えば、ヘパリン)、レクチン(例えば、コンカナバリンA)、炭水化物(例えば、ヘパリン)、核酸配列[例えば、アプタマーおよびSpiegelmer[Wlotzka(登録商標)(2002)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:8898〜02]、天然の基質または補因子の構造を模倣し、かつ発色団からなる、酵素の触媒作用部位と多くの場合には相互作用する色素(例えば、アゾ色素、アントラキノンまたはフタロシアニン)、反応基に連結されたもの(例えば、モノクロロトリアジン環またはジクロロトリアジン環、Denzili(2001)、J Biochem Biophys Methods、49(1−3):391〜416を参照のこと)、小分子の化学物質、受容体配位子(例えば、増殖因子およびホルモン)、同じ結合機能を有するが、別個の化学構造を有する模倣体またはそのフラグメント(例えば、EGFドメイン)、イオン配位子(例えば、カルモジュリン)、プロテインA、プロテインGおよびプロテインLまたはそれらの模倣体(例えば、PAM、Fassina(1996)、J.Mol.Recognit.、9:564〜9を参照のこと)、化学物質(例えば、酵素および血清アルブミンと結合するチバクロンブルー;アミノ酸、例えば、セリンプロテアーゼと結合するリシンおよびアルギニン)、ならびに磁性分子(例えば、高スピン型の有機分子および有機ポリマーなど)(http://www.chem.unl.edu/rajca/highspin.htmlを参照のこと)。
【0045】
本明細書中で使用される表現「配位成分」は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子に対する十分な親和性(例えば、KD<10−5)を有する任意の分子を示す。配位成分は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体を形成するように本発明のこの態様の組成物を導くことができる。本発明に従って使用することができる配位成分の例には、下記が含まれるが、それらに限定されない:エピトープ(抗体のパラトープが結合する抗原の抗原性決定基)、抗体、キレート化剤(例えば、Hisタグ、下記の実施例の節の実施例1、図1、図25および図26における他の例を参照のこと)、ビオチン(図7を参照のこと)、核酸配列(図6を参照のこと)、プロテインAまたはプロテインG(図9を参照のこと)、電子不足分子および電子過剰分子(下記の実施例の節の実施例2および図8を参照のこと)、ならびに、本明細書中上記に記載される他の分子(配位子についての例を参照のこと)。
【0046】
数多くの配位成分が上記の配位子に結合され得ることが理解される(図1a〜図1fを参照のこと)。
【0047】
異なる配位成分が、図19に示されるような複合体などの複合体を形成させるために、キレート化剤および電子過剰/不足分子などの配位子に結合され得ることがさらに理解される。結合成分のそのような組合せは、図23a〜図23bおよび図24にそれぞれ例示されるような、目的とする分子を含有するポリマーまたは秩序のあるシート(すなわち、網状構造)の形成を媒介することができる。
【0048】
複合体からの目的する分子の回収における競合および/またはさらなる問題を回避するために、配位成分は、配位成分−配位子相互作用または配位成分−標的分子相互作用の可能性を否定するように選択される。例えば、配位子が、目的とする免疫グロブリンに対する親和性を有する抗原であるならば、配位成分は好ましくは、その抗原と結合することができるエピトープ標識または抗体ではない。
【0049】
本明細書中で使用される表現「コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子」は、配位成分に対する十分な親和性(すなわち、KD<10−5)を示し、そのため、非共有結合性複合体を形成するように本明細書中のこの態様の組成物を導くことができる可溶性の実体(すなわち、分子またはイオン)を示す。本発明に従って使用することができるコーディネーター分子の例には、アビジンおよびその誘導体、抗体、電子過剰分子、電子不足分子などが含まれるが、これらに限定されない。本発明に従って使用することができるコーディネーターイオンの例には、一価、二価または三価の金属が含まれるが、これらに限定されない。図25には、本発明によってコーディネーターイオンとして使用することができるキレート化剤および金属の例が例示される。図26には、本発明によって使用することができる電子過剰分子および電子不足分子の例が列挙される。抗体および抗体フラグメントならびに単鎖抗体を作製する様々な方法が、HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory、New York、1988)(これは参考として本明細書中に組み込まれる);Goldenberg、米国特許第4036945号および同第4311647号ならびにそれらに含まれる参考文献に記載される;また、Portor,R.R.、Biochem.J.、73:119〜126(1959);WhitlowおよびFilpula、Methods、2:97〜105(1991);Bird他、Science、242:423〜426(1988);Pack他、Bio/Technology、11:1271〜77(1993);および米国特許第4946778号も参照のこと。
【0050】
好ましくは、本発明のこの態様の組成物はコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子を含む。
【0051】
本発明のこの態様の配位子は配位成分に対して直接に結合することができるが、その結合はこれら2つの化学的性質に依存する。しかし、様々な処置が、目的とする分子に対する配位子の認識(例えば、親和性)を維持するために取られる。必要なとき(例えば、立体的障害)には、配位子はリンカーを介して配位成分に結合することができる。代表的なキレート化剤を一般的な配位子で修飾するための一般的な合成経路が図14に示される。Margherita他(1993)、J.Biochem.Biphys.Methods、38:17〜28は、本発明の配位成分に配位子を結合するために使用することができる合成手順を提供する。
【0052】
配位子、および、それに結合した配位成分がともにタンパク質(例えば、それぞれ、増殖因子およびエピトープ標識)であるとき、融合タンパク質の合成を分子生物学的方法(例えば、PCR)または生化学的方法(固相ペプチド合成)によって行うことができる。
【0053】
本発明の複合体は様々なレベルの複雑性を有することができる:例えば、単量体(3つの配位子の複合体を描く図12および図13a〜図13bを参照のこと)、二量体、ポリマー(実施例の節の実施例3において記載されるような混合型リンカーを介するポリマーの形成を描く図23a〜図23bを参照のこと)、シート(標的分子の表面露出した1つのTrp残基がTNB−−−TNB実体との電子過剰/不足の関係を形成するときにシートが形成される図24を参照のこと)、および、三次元(3D)の構造を形成し得る格子(例えば、2つ以上の表面露出したTrp残基が電子過剰/不足の関係を形成するときなど)。複合体の複雑性が高次になるほど、本明細書中下記においてさらに記載されるような結晶化手法におけるその使用を可能にする構造はより剛直になることが広く認められている。さらに、大きい複合体はより迅速に相分離し、このことはさらなる遠心分離工程の使用を不要にする。
【0054】
本発明の組成物は、本明細書中下記に記載されるように、さらなる緩衝剤および添加剤を含むことができる精製キットに包装することができる。そのようなキットは、1つのサンプルから数多くの分子を精製するために数多くの配位子を含むことができることが理解される。しかしながら、沈殿形成を(例えば、同じ反応緩衝液、温度条件、pHなどを使用して)単純化し、また、さらなる精製工程を単純化するために、配位成分およびコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子が同じように選択される。
【0055】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の組成物は、目的とする分子または細胞をサンプルから精製するために使用することができる。
【0056】
従って、本明細書中の別の態様によれば、目的とする分子を精製する方法が提供される。
【0057】
本明細書中で使用される用語「精製する」は、目的とする分子を、本発明の組成物に結合したときにその溶解性を変化させること、およびその沈殿形成(すなわち、相分離)によってサンプルから少なくとも分離することを示す。
【0058】
本発明のこの態様の方法は、目的とする分子を含むサンプルを本発明の組成物と接触させ、本発明の組成物および目的とする分子から形成された複合体を含む沈殿物を集め、それにより、目的とする分子を精製することによって達成される。
【0059】
本明細書中で使用される用語「サンプル」は、目的とする分子と、おそらくは1つまたは複数の混入物(すなわち、目的とする所望の分子とは異なる物質)とを含む溶液を示す。例えば、目的とする分子が、分泌された組換えポリペプチドであるとき、サンプルは、組換えポリペプチドに加えて、血清タンパク質、ならびに、細胞から分泌される代謝産物および他のポリペプチドを含み得る馴化培地であり得る。サンプルが混入物を含まないとき、精製は濃縮と呼ばれる。
【0060】
精製を開始するために、本発明の組成物は最初にサンプルと接触させられる。これは好ましくは、配位成分に結合している配位子をサンプルに加え、これにより、配位子に対する目的とする分子の結合を可能にし、次いで、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子を加えて、目的とする分子の複合体の形成および沈殿形成を可能にすることによって達成される。複合体の急速な形成(これは混入物の捕捉をもたらし得る)を避けるために、撹拌しながらコーディネーターをサンプルにゆっくり加えることが好ましい。制御可能な沈殿形成速度もまた、フリーの配位する実体(すなわち、配位子に結合していない配位する実体)を加えることによって達成することができ、これはまた、本明細書中下記においてさらに記載される、免疫原の形成のためなどの様々な適用において有益であり得るより小さい複合体の形成をもたらし得る。
【0061】
上記の複合体が形成される(数秒〜数時間)と、複合体の沈殿形成が遠心分離(例えば、超遠心分離)によって促進され得るが、場合により、(例えば、大きな複合体の場合には)、遠心分離は必ずしも必要ない。
【0062】
目的とする分子の意図された使用に依存して、沈殿物は、目的とする分子を複合体から回収するために、さらなる精製工程に供することができる。これは、この分野で広く知られている数多くの生化学的方法を使用することによって達成することができる。例には、下記が含まれるが、それらに限定されない:疎水性相互作用クロマトグラフィーでの分画化(例えば、フェニルセファロースでの分画化)、エタノール沈殿、等電点分画、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースでのクロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、クロマト分画、SDS−PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析およびアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインA、プロテインG、抗体、特異的基質、配位子または抗原を捕獲試薬として使用するアフィニティークロマトグラフィー)。
【0063】
清浄な反応溶液(例えば、緩衝液)の単なる添加が、複合体形成時に沈殿した低い親和性で結合している不純物を溶出するために沈殿物に加えられ得ることが理解される。
【0064】
上記に記載される精製手法はどれも、標的分子の収率または純度を増大させるために、サンプル(すなわち、沈殿物)に対して繰り返し適用され得ることがさらに理解される。
【0065】
好ましくは、組成物およびコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、形成された複合体からの標的分子の迅速かつ容易な単離を可能にするように選択される。例えば、用いられる溶出条件が、コーディネーターに対する配位成分の結合を乱さないならば、目的とする分子を複合体から直接に溶出させることができる(図4〜図5を参照のこと)。例えば、複合体において使用されている配位成分がキレート化剤であるとき、高イオン強度は金属−キレート化剤相互作用に影響を及ぼさないことが広く認められているので、高イオン強度を適用して、目的とする分子を溶出させることができる。あるいは、金属−キレート化剤相互作用は、標的分子の溶出をそのような条件で可能にする高塩条件に対して抵抗性であることが示されている[Porath(1983)、Biochemistry、22:1621〜1639]ので、カオトロピック(chaotropic)塩を用いた溶出を使用することができる。
【0066】
複合体は、コーディネーター金属と競合するフリー(非修飾)のキレート化剤(すなわち、配位成分)を加えることによって再可溶化することができる(図3)。限外ろ過または透析を使用して、その後で、キレート化した金属および競合するキレート化剤のほとんどを回収することができる。可溶化された複合体(すなわち、目的とする分子:配位子−配位成分)を、その後、固定化金属アフィニティーカラム[例えば、イミノ二酢酸(IDA)およびニトリロ三酢酸(NTA)]に負荷することができる。高親和性のキレート化剤が使用されるとき(例えば、カテコール)、様々な処置が、カラムに結合する代わりに、カラムからの配位子:キレート化剤の溶出を避けるために、同じキレート化剤で修飾されたか、または、固定化された金属に対する類似した結合親和性を有する他のキレート化剤で修飾された固定化金属アフィニティーイオンカラムを使用するために取られることが理解される。
【0067】
好適な溶出条件の適用により、配位子−配位成分をカラムに結合させたまま、標的分子の溶出がもたらされる。最後の脱塩手順を、最終生成物を得るために適用することができる。
【0068】
配位子−配位成分の再生は、そのような融合分子の合成が、本明細書中に記載される方法論に関与する費用および労力のほとんどをもたらし得るので、大きな経済的価値を有する。従って、例えば、配位子−配位成分の再生を、競合するキレート化剤を上記のカラムに負荷するか、または、カラムのpHを変化させ、その後、フリーのキレート化剤と、所望の配位子−配位成分とを分離することができる限外ろ過を行うことによって達成することができる。
【0069】
上記に記載される精製方法論は、大きな研究的価値または臨床的価値を有する様々な組換え物質および天然物質、例えば、組換え増殖因子および血液タンパク質製造物(例えば、フォンビルブランド病およびA型血友病に対する代償療法においてそれぞれ効果的な治療用タンパク質であるフォンビルブランド因子および第VII因子)などを単離するために適用することができる。
【0070】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の組成物は、特定の細胞集団を単離するためにも同様に使用することができる。
【0071】
ヒトの臓器が不足しているため、インビトロ器官形成が次善の代替として現れつつあることが広く認められている。この目的のために、任意の所望する細胞系譜に分化することができる幹細胞を単離しなければならない。従って、例えば、造血幹細胞/始原細胞を単離するために、この細胞集団に対して特有である表面マーカー(例えば、CD34およびCD105など)に結合する数多くの配位子を用いることができる[Pierelli(2001)、Leuk.Lymphoma、42(6):1195〜206を参照のこと]。
【0072】
別の一例が、コンカナバリンAなどのレクチン配位子を使用する赤血球の単離である[Sharon(1972)、Science、177:949;Goldstein(1965)、Biochemistry、4:876]。
【0073】
ウイルス細胞単離を、目的とするウイルス細胞に対して特異的である様々な配位子を使用して達成することができる[http://www.bdbiosciences.com/clontech/archive/JAN04UPD/Adeno−X.shtmlを参照のこと]。
【0074】
具体的には、レトロウイルスを、ヘパリン配位子を含むように設計される本発明の組成物によって単離することができる[Kohleisen(1996)、J Virol Methods、60(1):89〜101]。
【0075】
上記の方法論を使用する細胞単離は、細胞の密度またはサイズに基づいて細胞を単離するために行われるサンプル塊解体の前工程(例えば、遠心分離)、および、選択的な細胞濃縮のさらなる工程(例えば、FACS)とともに行うことができる。
【0076】
本発明の組成物の精製能力に加えて、本発明の組成物はまた、所望されない分子または細胞からのサンプルを激減させるために使用することができる。
【0077】
これは、目的とする所望されない標的分子または標的細胞を含むサンプルを、複合体が(上記で記載されたように)形成されるように本発明の組成物と接触させ、沈殿物を除くことによって達成される。清澄化されたサンプルが上清である。
【0078】
この方法は、例えば、骨髄サンプルから腫瘍細胞を激減させること、末梢血サンプル、脾臓サンプル、胸腺サンプル、リンパサンプルまたは骨髄サンプルからのT細胞およびCD8+細胞またはCD4+細胞の単離および濃縮のためにB細胞および単球を激減させること、病原体および望まれない物質(例えば、プリオン、毒素)を生物学的サンプルから激減させること、タンパク質精製(例えば、BSAなどの高分子量タンパク質を激減させること)などにおいて様々な用途を有する。
【0079】
本明細書中上記で述べられたように、多数の配位子を、数多くの標的を所与サンプルから激減させるために用いることができ、例えば、非常に多く存在するタンパク質を生物学的流体から除くためなどに用いることができる(例えば、アルブミン、IgG、抗トリプシン、IgA、トランスフェリンおよびハプトグロビン、http:///www.chem.agilent.com/cag/prod/ca/51882709small.pdfを参照のこと)。
【0080】
本発明の新規な組成物の特異な性質により、先行技術の沈殿形成組成物(例えば、スマートポリマー)を上回る多数の利点が提供され、これらの利点のいくつかが下記にまとめられる。
【0081】
(i)低コストな精製;本発明の方法論は精緻な実験室設備(例えば、HPLCなど)に頼っておらず、従って、装置の維持および運転コストを回避している。
【0082】
(ii)容易な規模拡大;本発明の方法論は、拡散による制限を有するアフィニティーカラムの限定された能力によって制限されない。本質的には、加えられる沈殿形成複合体の量は無制限である。
【0083】
(iii)穏和な沈殿形成プロセス;pH、イオン強度または温度における実質的な変化から生じる制限を回避する。
【0084】
(iv)沈殿形成プロセスの制御;沈殿形成が、適切なコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子の沈殿化混合物へのゆっくりした添加;一価および/または多価のコーディネーターの使用;配位成分に対する異なる親和性を有するコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子の使用;非共有結合性のポリマー、シートまたは格子の形成の前、またはそのような形成の期間中、またはそのような形成の後における、不純物の非特異的な結合および捕捉を避けるための固定化されていないフリーの配位成分の添加[Mattiasson他(1998)、J.Mol.Recognit、11:211〜216;HilbrigおよびFreitag(2003)、J.Chromatogr.B、790:79〜90]によって、そして同様に、温度条件を変化させることによって支配され得る。様々な分子が、温度が低下するにつれて低下する溶解性を示すことが広く認められており、従って、温度条件を制御することにより、沈殿形成の速度および程度を調節することができる。だが、低い温度条件は、速い沈殿形成プロセスのために不純物の捕捉をもたらすことがあり、一方、高い温度条件は標的分子の低い収率をもたらすことがある(例えば、変性温度)ことが理解される。従って、様々な処置が、上記パラメーターを考慮しながら、最適な温度条件を達成するために取られる。
【0085】
(v)低下した混入バックグラウンド;混入物はコーディネーター実体と結合することができず、そのため、非共有結合性マトリックスに強固に結合することができず、このことは、溶出工程に先立つその除去を可能にする。さらに配位子配位子、配位子の生物学的バックグラウンドに由来する様々な混入(配位子と同時精製された分子)は、[配位子および混入物が同じ化学的性質をともに有するならば(例えば、両者がタンパク質であるならば)]、配位子そのものと同様に修飾されることがあり、また、沈殿形成複合体の一部になることがあり得る。好適な溶出条件のもとで、標的分子が回収され、一方、修飾された混入物は回収されない。
【0086】
(vi)均一溶液における結合;均一溶液における結合は、不均一相(例えば、アフィニティークロマトグラフィー)におけるよりも迅速であり、かつ効果的であることが広く認められている[AC,Schneider他(1981)、Ann.NY Acad.Sci.、369、257〜263;Lowe(2001)、J.Biochem.Biophys.Methods、49、561〜574]。例えば、(APにおいて使用される)高分子量ポリマーは、多くのアフィニティー分離法の場合でのように、接近する高分子(例えば、標的分子など)の接近を妨げる高度にコイル化した粘性構造を溶液中で形成することが知られている[Vaida他(1999)、Biotechnol.Bioeng.、64:418]。
【0087】
(vii)配位子が固定化されない−このことは本明細書中上記においてさらに記載されされている。
【0088】
(viii)複合体の容易な再可溶化;複合体が非共有結合性の相互作用によって生じている。
【0089】
(ix)過酷な条件のもとでの消毒;本発明の組成物はマトリックスに共有結合的に結合しておらず、そのため、任意のデバイスから取り出すことができ、このことは、非特異的に結合している不純物からデバイス(カラム)を清浄化するために、消毒条件の適用を可能にする。
【0090】
目的とする分子を秩序のある複合体(例えば、二量体、三量体、ポリマー、シートまたは格子など)に配置することができる本発明の組成物の能力はまた、タンパク質(特に、膜タンパク質)などの高分子の結晶化を容易にすることにおけるその使用を可能にする。この分野で広く知られているように、結晶構造は三次元空間における分子の秩序のある配置を表す。そのような秩序のある配置は、所与の空間における自由分子の数を減少させることによって生じさせることができる(図10a〜図10bおよび図11a〜図11cを参照のこと)。
【0091】
従って、本発明のさらにもう1つの態様によれば、目的とする分子を結晶化させるための組成物が提供される。
【0092】
本明細書中で使用される用語「結晶化させる」は、その原子の規則的に反復する内部配置、および、多くの場合には外側の平らな面を形成するような目的とする分子の固体化を示す。
【0093】
本発明のこの態様の組成物は、少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターとを含み、この場合、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、組成物は、目的とする分子に結合したときに目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される。
【0094】
共有結合性マルチ配位子複合体の使用が可溶性タンパク質の結晶化において以前から試みられていることが理解される[Dessen(1995)、Biochemistry、34:4933〜4942;Moothoo(1998)、Acta.Cryst.、D54、1023〜1025;Bhattacharyya(1987)、J.Biol.Chem.、262:1288〜1293]。しかしながら、1分子あたり3つ以上の配位子を有するマルチ配位子複合体の合成は技術的に困難であり、費用がかかる。さらに、標的タンパク質の三次元構造を、標的分子と十分に結合して、マルチ配位子複合体におけるすべての標的結合部位を占有するために配位子間の最適な距離を有するマルチ配位子複合体を合成するために前もって知らなければならない。そのため、このような配位子は、膜タンパク質の結晶化のためにこれまで一度も使用されていなかった。
【0095】
本発明は、達成することがはるかにより容易であり、より迅速かつ安価である、(配位子−配位成分の一般構造を有する)非共有結合性マルチ配位子における基本ユニットのみを合成することによってこれらを回避している。この基本ユニットは、多価のコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子を加えることによってのみ、非共有結合性のトリ配位子を形成する。従って、1段階の合成工程が、結晶化実験のために使用することができるジ配位子、トリ配位子、テトラ配位子または高次マルチ配位子を形成するために使用される。
【0096】
目的とする分子(好ましくは、膜タンパク質)の結晶を作製するために、本発明の組成物は、所定の純度および濃度で好ましくは提供される目的とする分子を含むサンプルと接触させられる。
【0097】
典型的には、結晶化サンプルは液体サンプルである。例えば、目的とする分子が膜タンパク質であるとき、結晶化サンプルは、本発明のこの態様によれば、膜調製物である。膜調製物を作製する様々な方法が、“Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual”(CSHL Press、1996)に記載される。
【0098】
目的とする分子が本発明の組成物に結合し、その結果、その相対的な空間的な位置決定および配向が十分に規定されるようになると、サンプルは好適な結晶化条件に供される。この分野で知られているいくつかの結晶化方法を、目的とする分子の結晶化を促進させるためにサンプルに適用することができる。結晶化方法の例には、下記が含まれるが、それらに限定されない:自由界面拡散法[Salemme,F.R.(1972)、Arch.Biochem.Biophys.、151:533〜539]、ハンギングドロップ法またはシッティングドロップ法における気相拡散(McPherson,A.(1982)、Preparation and Analysis of Protein Crystals、John Wiley and Sons、New York、82頁〜127頁)、および、液体透析(Bailey,K.(1940)、Nature、145:934〜935)。
【0099】
現在、ハンギングドロップ法が、溶液から高分子の結晶を生長させるために最も一般的に使用されている方法である。この方法は、タンパク質結晶を作製するために特に好適である。典型的には、タンパク質溶液を含有する液滴がカバーガラスにスポットされ、沈殿形成剤のより高い濃度を有するリザーバーを含有する密閉チャンバー内に吊される。時間が経つと、液滴中の溶液は、水蒸気を液滴から発散させることによってリザーバーと平衡化し、それにより、液滴内のタンパク質および沈殿形成剤の濃度をゆっくり増加させ、これにより、次にタンパク質の沈殿形成または結晶化がもたらされる。
【0100】
上記に記載された方法論を使用して得られる結晶は、好ましくは3Å未満の分解能を有し、より好ましくは2.5Å未満の分解能を有し、さらにより好ましくは2Å未満の分解能を有する。
【0101】
本発明の組成物は、複雑な混合物(例えば、血清サンプルなど)から分析物をアッセイすることにおいて明らかな有用性を有し得る。これは明らかに様々な診断的利点を有し得る。
【0102】
従って、本発明では、対象において目的とする分子に関連する疾患の素因またはそのような疾患の存在を検出する方法が考えられる。
【0103】
目的とする分子に関連する疾患の一例が、前立腺特異的抗原の存在によって検出することができる前立腺ガンである[PSA、例えば、>0.4ng/ml、Boccon−Gibod、Int J Clin Pract.(2004)、58(4):382〜90]。
【0104】
本発明の組成物は、対象から得られた生物学的サンプルと接触させられ、それによって、目的とする分子を含む複合体形成のレベルにより、対象において目的とする分子に関連する疾患の素因またはそのような疾患の存在が示される。
【0105】
本明細書中で使用される表現「生物学的サンプル」は、対象から単離された組織または流体のサンプルを示し、これには、例えば、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、ならびに、皮膚、気道、腸管および尿生殖路の外側切片、涙、唾液、乳汁、血液細胞、腫瘍、神経組織、様々な臓器、そしてまた、インビボ細胞培養構成要素のサンプルが含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
複合体における目的とする分子の検出および定量を容易にするために、生物学的サンプルまたは組成物は好ましくは標識される(例えば、蛍光標識化、放射能標識化)。
【0107】
本発明の組成物はまた、臨床、環境、健康および安全性、遠隔探査、軍事、食品/飲料物ならびに化学的加工での様々な適用において非常に重要であり得る液体サンプルまたはガス状サンプルに存在する物質の適格性および量を調べるために利用することができる。
【0108】
異常なタンパク質相互作用により、多くの病原性障害の発生が左右される。例えば、神経系におけるシナプスタンパク質の異常な相互作用および誤った折り畳みは、様々な神経学的障害における神経変性を生じさせる重要な病原的事象である。これらには、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、および、レーヴィ小体による認知症(DLB)が含まれる。ADでは、誤って折り畳まれたアミロイドβペプチド1〜42(Aβ)、すなわち、アミロイド前駆体タンパク質代謝のタンパク質分解生成物が、ニューロンの小胞体および細胞外に凝集物(すなわち、プラーク)として蓄積する。本発明の組成物は、そのような高分子複合体を妨げ、それにより、そのような障害を処置するために使用することができる。
【0109】
医薬組成物の様々な投与方法および作製方法が、例えば、Fingl他(1975)、“The Pharmacological Basis of Therapeutics”(第1章、1頁)によって記載される。
【0110】
本発明の組成物は診断キットまたは治療キットに含めることができる。例えば、特定の疾患の組成物を、適切な緩衝液および保存剤とともに1つまたは複数の容器に包装することができ、そして、診断のために、または治療的処置を導くために使用することができる。
【0111】
従って、配位子および配位成分を1つの容器に入れることができ、コーディネーター分子またはコーディネーターイオンを別の容器に入れることができる。好ましくは、これらの容器はラベルを含む。好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジおよび試験管が含まれる。容器は様々な材料(例えば、ガラスまたはプラスチックなど)から形成され得る。
【0112】
加えて、他の添加剤(例えば、安定化剤、緩衝剤、ブロッッキング剤など)もまた加えることができる。
【0113】
数多くの方法が、抗原の免疫原能力を高めるためにこの分野で知られている。例えば、抗原性分子(例えば、ペプチド)をより大きなキャリア(例えば、KLH、BSA、チログロブリンおよび卵白アルブミンなど)に架橋することを伴うハプテンキャリアの結合が、分子の分子サイズ(免疫原性を支配することが知られているパラメーター)を増大させるために使用される[HarlowおよびLane(1998)、A laboratory manual(下記)を参照のこと]。しかしながら、抗原性分子の共有結合による架橋は抗原性分子における構造的変化を生じさせ、それにより、抗原の提示を制限する。様々な物質に対する抗原性分子の非共有結合による固定化が、この問題を回避するために試みられている[Sheibani Frazier(1998)、BioTechniques、25:28]。それに従えば、本発明の組成物は、同じことを媒介するために使用することができる。
【0114】
従って、本発明ではまた、本発明の組成物を使用して目的とする分子の免疫原性を高める方法が考えられる。本明細書中で使用される用語「免疫原性」は、生物体内において免疫応答(例えば、抗体応答)を誘発する分子の能力を示す。
【0115】
この方法は、目的とする分子を本発明の組成物と接触させ、それにより、このようにして形成された複合体が免疫原として役立つことによって達成される。そのような複合体を、免疫応答を生じさせるために動物宿主に注射することができる。
【0116】
従って、例えば、抗体応答を生じさせるために、上記の免疫原性組成物が動物宿主(例えば、ウサギまたはマウス)に皮下注射される。1回〜4回の注射(すなわち、追加免疫)の後、血清が集められ(最初の注射の約14週間)、抗体力価が、例えば、配位子がプロテインAである場合、サンプルにおける分析物検出の上記で記載された方法を使用することなどによって決定される。あるいは、または加えて、アフィニティークロマトグラフィーまたはELISAが行われる。
【0117】
本発明の組成物は、本明細書中において明確に記載されていない数多くの他の有用性(例えば、アフィニティークロマトグラフィーに属するそのような有用性など)を有し得ることが理解される[例えば、Wen−ChienおよびKelvin(2004)、Analytical Biochemistry、324:1〜10を参照のこと]。
【0118】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0119】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0120】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学及び組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている[例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel, R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号及び5272057号に記載される方法;Cellis, J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号及び5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.及びHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.及びHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年及び「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0121】
(実施例1)
キレート化剤−金属の複合体を利用する非共有結合性マルチ配位子複合体の合成
様々なキレート化剤が様々な異なる特異性および親和性で金属と結合できることが文献に詳しく記載されている。本発明の非共有結合性マルチ配位子複合体を生じさせるために、リンカー(所望の長さを有する)が、特異的な配位子と結合するように修飾され、キレート化剤が、下記の一般構造を生じさせるために修飾される:配位子−−−リンカー−−−キレート化剤。
【0122】
その後、適切な金属を加えることによって、非共有結合性マルチ配位子複合体が形成されるはずである(図12)。
【0123】
例えば、ヒドロキサム酸(これは既知のFe3+キレート化剤である)の誘導体が合成され(図13a)、その結果、Fe3+イオンの存在下で、非共有結合性マルチ配位子複合体が形成されるようになる(図13b)。代表的なキレート化剤を一般的な配位子により修飾するための一般的な合成経路が図14に示される。そのような合成は、Margherita他(1999、上記)によって示された合成と類似し得る。
【0124】
非共有結合性マルチ配位子複合体を調製するためのキレート化剤の利用は、[1,10−フェナントロリン]2−Cu2+または[1,10−フェナントロリン]3−Ru3+[Onfelt他(2000)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97:5708〜5713]の場合のように、いくつかのキレート化剤が異なる化学量論で異なる金属と結合することができることから生じるさらなる利点を有し得る。
【0125】
この現象は、同じ配位子−−−リンカー−−−キレート化剤誘導体を利用してジ非共有結合性マルチ配位子複合体(図15a)およびトリ非共有結合性マルチ配位子複合体(図15b)を形成させるために利用することができる。
【0126】
(実施例2)
電子過剰−不足の複合体を利用する非共有結合性マルチ配位子複合体の合成
電子アクセプターは、「π過剰」な複素環状インドール環系と容易に分子状複合体を形成する。インドールピクリン酸は、ほぼ130年前に記載されたこのタイプの最初の複合体であった[BaeyerおよびCaro(1877)、Ber.、10:1262]。同じ電子アクセプターが、インドールをジャスミンの花精油から単離するために数年後に使用された。以降、ピクリン酸は、インドール類を反応混合物から複合体として単離し、同定するために頻繁に使用されていた。その後、1,3,5−トリニトロベンゼンが複合体形成剤として導入され、多くの場合、同じ目的のために使用された[MerchantおよびSalagar(1963)、Current Sci.、32:18]。インドール化合物の他の固体複合体が、電子アクセプター(例えば、スチフニン酸[Marion、L.およびOldfield,C.W.(1947)、Cdn.J.Res.、25B、1]、ピクリルハリド[Triebs、W.(1961)、Chem.Ber.、94:2142]、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン[Hutzinger,O.およびJamieson,W.D.、Anal.Biochem.(1970)、35、351〜358]など)を用いて、また、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼンおよび1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン[Elguero他(1967)、Anals Real Soc.Espan.Fis.Quim.(Madrid) ser.B63、905(1967);Wilshire,J.F.K.、Australian J.Chem.、19、1935(1966)]を用いて調製されている。
【0127】
図16aは配位子−−−リンカー−−−電子不足(E.poor)誘導体の一例を例示し、図16bは、使用することができる電子過剰な共有結合性三量体の例を示す。トリニトロベンゼン誘導体(図16a)およびインドール誘導体(図16b)を一緒に混合することによって、マルチ配位子複合体が形成されることが予想される(図16c)。逆の複合体が同様に合成され得ることが理解される[すなわち、電子過剰成分を有する配位子誘導体、および、電子不足の共有結合性三量体]。
【0128】
上記配位子誘導体を調製するための可能な合成経路が図17に示される。
【0129】
Trp残基(または任意の他の電子過剰成分もしくは電子不足成分)を含有する合成ペプチド(または任意のペプチド)もまた、非共有結合性マルチ配位子複合体を調製するために有用であり得る。図18は、電子不足成分(トリニトロベンゼン)で修飾された配位子誘導体の存在下で形成され得る、4つのTrp残基(4つの電子過剰成分)を有する合成ペプチド(テトラ非共有結合性配位子)の例を示す。
【0130】
(実施例3)
電子過剰−不足の関係性およびキレート化剤−金属の関係性の組合せを利用する非共有結合性マルチ配位子複合体の合成
上記の実施例1および実施例2において記載されるような2つの複合体形成能力を組み合わせて、非共有結合性マルチ配位子複合体を形成させるようにすることができる。そのような非共有結合性マルチ配位子複合体の一般構造の一例が図19に示される。
【0131】
この目的のために、電子不足成分に共有結合的に結合するキレート化剤が所望される。そのような組合せを作製するための合成経路が図20に示される。
【0132】
例えば、M2+金属およびM3+金属の両方に結合することができるキレート化剤(例えば、カテコール)は、M2+金属およびM3+金属の存在下で、非共有結合性のジ配位子(図21a)または非共有結合性のトリ配位子(図21b)を形成することができる。
【0133】
Trp残基(または任意の他の電子過剰残基)を有するペプチド(またはポリペプチド)の存在は、図22a〜図22bに示される構造の形成をもたらし得る。
【0134】
これら2つの上記の結合関係性(電子過剰−不足と一緒になったキレート化剤−金属)の組合せはさらなる利点を持ち込み得る。例えば、非共有結合性マルチ配位子ポリマー複合体を形成することができること。これは、2つのキレート化剤と、キレート化剤間の電子過剰成分とを合成することによって達成することができる(図23a)。配位子−−−電子不足誘導体の存在下で、図23bに描かれる複合体が形成することが予想され、これは配位子の非共有結合性ポリマーを表す。
【0135】
二量体、三量体、四量体などが(例えば、配位子−−−キレート化剤誘導体によって)形成されると、より大きな秩序を達成するために、二量体、三量体、四量体などの運動の自由を制限することが所望され得る。目的とするタンパク質が、共有結合性のジ電子不足成分(例えば、ジ−トリニトロベンゼン(TNB−−−TNB)など)に接近することができる電子過剰成分(例えば、Trpなど)を有するならば、複合体が2つの非共有結合性二量体の間で形成され得る(図24)。これは、タンパク質とマルチ配位子との秩序のあるシートの形成をもたらし得る。
【0136】
明確にするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施態様に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施態様で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0137】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更及び変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更及び変形すべてを包含するものである。本願で挙げた刊行物、特許及び特許願はすべて、個々の刊行物、特許及び特許願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用又は確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の組成物のいくつかの形態を概略的に例示する(図1a〜図1f)。図1a〜図1cは、2つの配位成分に結合した配位子を示す。図1d〜図1fは、多数の配位成分に結合した配位子を示す。
【図2】本発明の組成物を使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図2a〜図2b)。ビス−キレート化剤に共有結合的に結合している配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図2a)。金属(M+、M2+、M3+、M4+)の添加により、キレート化剤と結合し、金属イオンに非共有結合的に結合した標的分子を含むマトリックスを形成する(図2b)。
【図3a−c】沈殿物からの標的分子の段階的な回収を概略的に例示する。図3aは、金属に対する配位子結合キレート化剤の結合と競合するフリーのキレート化剤の添加を示す。図3bは、フリーの競合するキレート化剤および複合体形成した金属(図3c)からの、配位子と結合した標的分子の重力に基づく分離を示す。
【図3d−e】沈殿物からの標的分子の段階的な回収を概略的に例示する。図3dは、複合体の結合を可能にするための固定化金属カラムにおける、配位子と結合した標的分子の負荷を示す。適正な溶出条件のもとで、標的分子が溶出され、一方、配位子−配位成分の分子は溶出しない。脱塩段階を標的分子のさらなる精製のために加えることができる。配位子−キレート化剤分子の再生が、カラムへの競合するキレート化剤の添加、それに続く透析または限外ろ過によって達成される(図3e)。
【図4】沈殿物からの標的分子の直接的な溶出を概略的に例示する。
【図5】標的分子を溶出させた後における沈殿形成ユニット(すなわち、配位子配位成分)の再生を概略的に例示する。
【図6】核酸配列を配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図6a〜図6c)。共有結合的に結合したビス−ヌクレオチド配列(配位成分)を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図6a)。相補的な配列の添加により、配位子−配位成分:標的分子:相補的配列(コーディネーター分子、図6b)を含むマトリックスの形成がもたらされる。非対称的な配位配列も同様に示される(図6c)。
【図7】ビオチンを配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図7a〜図7b)。共有結合的に結合したビス−ビオチンまたはビオチン誘導体(例えば、DSB−Xビオチンなど)を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図7a)。アビジン(またはその誘導体)の導入により、配位子−配位成分(ビオチン):標的分子:アビジンを含む網状構造が生じる(図7b)。
【図8】電子過剰分子を配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図8a〜図8c)。共有結合的に結合したビス−電子過剰成分を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図8a)。複合体を形成する性向を有するビス(同様に、トリス、テトラ)電子不足誘導体の添加により、配位子−配位成分(電子不足分子):標的分子:ビス−電子不足成分を含む非共有結合性の網状構造がもたらされる(図8b)。ピクリン酸およびインドールの系もまた本発明に従って使用することができる(図8c)。
【図9】結合したプロテインA(ProA)が配位子として使用される標的抗体の沈殿形成を概略的に例示する。
【図10】膜タンパク質を結晶化するための本発明の複合体の使用を概略的に例示する(図10a〜図10b)。結晶化組成物の存在下での2D(または3D)構造の一般的な形成がもたらされるが、この場合、コーディネーターは自身同士で相互につながっていない(図10a)。2つの抗原により修飾された特異的な配位子と、コーディネーターとして役立つ、特異的な抗原に向けられたモノクローナル抗体(mAb)とを利用するより詳細な例が図10bに例示される。
【図11a−b】膜タンパク質の結晶を形成させるためのメタロ複合体の使用(図11a)およびヌクレオ複合体の使用(図11b)を概略的に例示する。
【図11c】本発明の組成物を使用する三次元の膜複合体を概略的に例示する。
【図12】好適なキレート化剤を介して1つだけの金属コーディネーターに結合した3つの配位子からなる非共有結合性の組成物の形成を概略的に例示する。
【図13】トリ非共有結合性配位子複合体がFe3+イオンの存在下で形成されるように(図13b)、ヒドロキサム酸誘導体を含むための、目的とする3つの配位子の修飾を概略的に例示する(図13a)。
【図14】配位子−キレート化剤分子を作製するための2段階の合成手順を概略的に例示する。
【図15】同じ配位子−リンカー−キレート化剤分子を利用し、一方で、媒体に存在するカチオンのみを変化させることによる、ジ非共有結合性配位子(図15a)およびトリ非共有結合性配位子(図15b)の形成を概略的に例示する。
【図16】電子不足/過剰の関係によって配位した本発明の組成物を概略的に例示する(図16a〜図16c)。配位子を電子不足成分で修飾すること(図16a)、および、トリ非共有結合性電子過剰成分を合成すること(図16b)によって、図16cに示される構造の複合体が形成される。
【図17】配位子−電子過剰誘導体または配位子−電子不足誘導体を調製するための2段階の合成プロセスを概略的に例示する。
【図18】電子過剰成分および電子不足成分を利用して配位子複合体を形成させるためのペプチドの使用を概略的に例示する。
【図19】キレート化剤金属、ならびに、電子過剰および電子不足の関係を利用する配位子複合体の形成を概略的に例示する。
【図20】キレート化剤−電子不足誘導体を調製するための1段階の合成手順を概略的に例示する。
【図21】同じキレート化剤−電子不足(カテコール−TNB)誘導体を利用し、媒体におけるカチオンのみを変化させることによるジ非共有結合性電子不足成分およびトリ非共有結合性電子不足成分の形成を概略的に例示する(図21a〜図21b)。
【図22】二量体および三量体を形成させるための、電子過剰成分を含有するペプチドの付加を概略的に例示する(図22a〜図22b)。
【図23】電子過剰/不足の関係により配位する2つのキレート化剤に結合している配位子を含む組成物の添加によるポリマー複合体の形成を概略的に例示する(図23a〜図23b)。
【図24】非共有結合性タンパク質二量体の運動の自由度を制限する1つの可能性を概略的に例示する。
【図25】本発明の組成物における配位成分およびコーディネーターイオンとしてそれぞれ使用することができるキレート化剤および金属を概略的に例示する。
【図26】本発明の組成物における配位成分として使用することができる電子過剰成分および電子不足成分を概略的に例示する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的とする分子を精製および結晶化するために使用することができる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質および他の高分子は、研究、診断薬および治療薬においてますます使用されている。タンパク質は、典型的には、組換え技術によって大規模に製造されるが、精製が製造プロセスの(総費用の60%まで)大きな費用となっている。従って、組換えタンパク質製造物の大規模な使用は、精製に関連する費用が大きいために阻まれている。
【0003】
現行のタンパク質精製方法は様々なクロマトグラフィー技術の組合せの使用に依存している。これらの技術では、タンパク質の混合物が、特にその特性の中でも、タンパク質の荷電、疎水性の程度またはサイズに基づいて分離される。いくつかの異なるクロマトグラフィー樹脂が、これらの技術のそれぞれを用いた使用のために利用可能であり、これにより、単離のために目標とされる特定のタンパク質に対する、精製スキームの正確で細かい調節が可能である。これらの分離方法のそれぞれの本質は、タンパク質が、長いカラムを異なる速度で移動し、これにより、タンパク質がカラムをさらに下流側に通過するに従って大きくなる物理的な分離を達成することができることであり、あるいは、タンパク質が分離媒体に選択的に吸着させられ、それにより、異なる溶媒による示差的な溶出を可能にすることができることである。場合により、カラムは、不純物がカラムに結合し、その一方で、所望するタンパク質が「素通り」に見出されるように設計される。
【0004】
アフィニティー沈殿(AP)は、タンパク質を沈殿させるための最も効果的かつ進んだ方法である[Mattiasson(1998);HilbrigおよびFreitag(2003)、J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci.、790(1−2):79〜90]。現時点での最新のAPでは、配位子結合型「スマートポリマー」が用いられる。「スマートポリマー」[または刺激応答性「インテリジェント」ポリマーまたはアフィニティーマクロ配位子(AML)]は、小さな物理的または化学的な刺激(例えば、pH、温度、放射線などにおける変化など)に対する大きな性質変化を伴って応答するポリマーである。このようなポリマーは多くの形態を取ることができる。例えば、このようなポリマーは水溶液に溶解し、水性−固体の境界に吸着またはグラフト化することができ、あるいは、架橋して、ヒドロゲルを形成させることができる[Hoffman、J Controlled Release(1987)、6:297〜305;Hoffman、インテリジェントポリマー(Park K編、Controlled drug delivery、Washington:ACS Publications、(1997)485〜98);Hoffman、医学および生物工学におけるインテリジェントポリマー、Artif Organs(1995)、19:458〜467]。典型的には、ポリマーの臨界的応答が刺激されたとき、溶液中のスマートポリマーは、スマートポリマーが相分離するにつれて、突然濁りが見られる;表面に吸着したスマートポリマーまたはグラフト化されたスマートポリマーは崩壊し、これにより、境界を親水性から疎水性に変換する;また、スマートポリマー(ヒドロゲルの形態で架橋されている場合)は急激な崩壊を示し、その膨潤溶液の多くを放出する。これらの現象は、刺激が逆になったときには逆になる。しかし、逆転速度は、多くの場合、ポリマーが水性媒体に再溶解しなければならないとき、または、ゲルが水性媒体において再膨潤しなければならないときには遅くなる。
【0005】
「スマート」ポリマーは、物理的刺激および化学的刺激と同様に、生物学的刺激に対して応答し得るポリマー−生体分子系の大きなファミリーを得るために、生体分子と物理的に混合することができ、または、生体分子に化学的に結合することができる。ポリマーに結合することができる生体分子には、タンパク質およびオリゴペプチド、糖類および多糖類、一本鎖および二本鎖のオリゴヌクレオチドおよびDNAプラスミド、単純脂質およびリン脂質、ならびに、広範囲の様々な認識配位子および合成薬物分子が含まれる。
【0006】
数多くの構造的パラメーターにより、目的とするタンパク質を特異的に沈殿させるスマートポリマーの能力が制御される。例えば、スマートポリマーは配位子結合のための反応基を含有しなければならない;スマートポリマーは不純物と強く相互作用してはならない;スマートポリマーは、標的タンパク質との相互作用のために配位子を利用可能にしなければならない;スマートポリマーは、媒体の性質が変化したときにポリマーの完全な相分離を与えなければならない;スマートポリマーは密な沈殿物を形成しなければならない;スマートポリマーはゲル構造への不純物の捕捉を許してはならない;また、スマートポリマーは、沈殿物が形成された後において容易に可溶化されなければならない。
【0007】
多くの異なる天然ポリマーならびに合成ポリマーがAPにおいて利用されている[Mattiasson(1998)、J.Mol.Recognit.、11:211]が、理想的なスマートポリマーは、現在利用可能なスマートポリマーを用いて行われる様々なアフィニティー沈殿としては、依然として分かりにくく、上記の要件の1つまたはいくつかを満たしていない[HlibrigおよびFreitag(2003)、上掲]。
【0008】
効率的かつ簡便なタンパク質精製技術が利用できることはまた、タンパク質の純度が結晶生長に大きく影響するタンパク質の結晶化において有用であり得る。タンパク質の立体配座構造は、その生物学的機能を理解するための手がかりであり、また、究極的には新しい薬物治療を設計するための手がかりである。タンパク質の立体配座構造は、従来は、その結晶からのX線回折によって決定されている。残念ながら、純度が十分に高いタンパク質結晶を生長させることは大抵の場合には非常に困難であり、そのような困難が、タンパク質サンプルの構造の科学的な決定および同定における大きな制限因子である。タンパク質の結晶を過飽和溶液から生長させるための先行技術方法は冗長であり、時間がかかり、100000を超える様々なタンパク質の2パーセント未満がX線回折研究のために好適な結晶として生長させられている。
【0009】
膜タンパク質は、結晶化について、最も困難なタンパク質群を提供している。膜タンパク質について利用できる3D構造の数は依然として20前後であり、一方、膜タンパク質の数はプロテオームの1/3を構成することが予想される。膜タンパク質を結晶化したいときには、数多くの障害を詳しく検討する必要がある。これらには、天然の供給源からのタンパク質の存在量が少ないこと、疎水性の膜タンパク質を天然の環境(すなわち、脂質二重層)から可溶化することが必要であること、ならびに、膜タンパク質は、界面活性剤溶液中では変性、凝集および/または分解しやすいことが含まれる。可溶化するための界面活性剤の選択は、いくつかの界面活性剤は標的タンパク質に対する安定化パートナーの結合を妨害することがあるので、別の問題を提供している。
【0010】
2つの方法が膜タンパク質の結晶化において試みられている。
【0011】
ごく最近まで、膜タンパク質のX線結晶構造の大多数は、タンパク質−界面活性剤複合体の溶液から直接生長させた結晶を使用して決定されている。タンパク質−界面活性剤複合体の結晶生長は可溶性タンパク質の結晶生長と同等であると見なすことができるが、結晶化されつつある溶質は、タンパク質単独ではなく、むしろ、タンパク質および界面活性剤の複合体である。実際の格子接触がタンパク質−タンパク質相互作用によって形成されるが、結晶の充填は同様に界面活性剤成分を近くに並置させる。このようなタンパク質−タンパク質接触を行うために利用可能な表面積を増大させるために、研究では、結晶を生成させる可能性を増大させる抗体フラグメントを加えることが示唆された[HunteおよびMichel(2002)、Curr.Opin.Struct.Biol.、12:503〜508]。しかしながら、この技術を様々な膜タンパク質に適用することは、それぞれの膜タンパク質に対して特異的なモノクローナル抗体を作製することが要求されるために困難である。
【0012】
さらに、界面活性剤ミセルはタンパク質の脂質二重層の環境を完全かつ正確に再現することができないことが主張されている。
【0013】
従って、膜タンパク質を結晶化させるための努力は、二重層の環境において結晶を生成させることに向けなければならない。数多くの試みが、この方法を使用して膜タンパク質の結晶を作製するために行われている。これらには、連続した二重層構造を含有するゲル様物質を形成する脂質性立方相の存在下で生長させられたバクテリオロドプシンの結晶を作製すること[LandauおよびRosenbuch(1996)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93:14532〜14535]、および、古細菌の7回膜貫通ヘリックスタンパク質の結晶化において有用であることが証明されたインキューボ(in cubo)結晶化[Gordeliy(2002)、Nature、419:484〜487;Luecke(2001)、Science、293:1499〜1503;Kolbe(2000)、Science、288:1390〜1396;Royant(2001)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98:10131〜10136]が含まれる。しかしながら、in cubo法を使用する他の膜タンパク質の結晶は、タンパク質−界面活性剤複合体溶液から直接に生長させた結晶ほどの高品質ではなかった[Chiu(2000)、Acta.Crystallogr.D.、56:781〜784]。
【0014】
従って、上記の制限を有しない、分子の精製および結晶化のための組成物、および、該組成物を使用する方法が必要であることが広く認められており、また、そのような組成物および方法を有することは非常に好都合である。
【発明の開示】
【0015】
本発明の1つの態様によれば、目的とする標的分子または標的細胞と結合することができる少なくとも1つの配位子を含む組成物が提供され、この場合、この少なくとも1つの配位子は、コーディネーターイオン(coordinator ion)またはコーディネーター分子(coordinator molecule)と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体(non−covalent complex)を形成するために組成物を導くことができる選択された少なくとも1つの配位成分に結合している。
【0016】
本発明の別の態様によれば、目的とする標的分子または標的細胞を精製する方法が提供され、この場合、この方法は、(a)目的とする標的分子または標的細胞を含むサンプルを、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする標的分子または標的細胞と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターであって、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコーディネーターとを含む組成物と接触させること;および(b)目的とする標的分子または標的細胞に結合した複合体を含む沈殿物を集め、それにより、目的とする標的分子または標的細胞を精製することを含む。
【0017】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の方法はさらに、目的とする分子を沈殿物から回収することを含む。
【0018】
本発明のさらにもう1つの態様によれば、対象における目的とする分子に関連する疾患に対する素因またはそのような疾患の存在を検出する方法が提供され、この場合、この方法は、対象から得られた生物学的サンプルを、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターであって、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコーディネーターとを含む組成物と接触させることを含み、この場合、目的とする分子を含む複合体の形成により、対象における目的とする分子に関連する疾患に対する素因またはそのような疾患の存在が示される。
【0019】
本発明のさらに別の態様によれば、目的とする分子を結晶化させるための組成物が提供され、この場合、この組成物は、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターとを含み、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、組成物は、目的とする分子に結合したとき、目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、目的とする分子を結晶化させる方法が提供され、この場合、この方法は、目的とする分子を含むサンプルを、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターとを含む結晶化用組成物と接触させることを含み、この場合、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、結晶化用組成物は、目的とする分子に結合したとき、目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される。
【0021】
本発明のさらにさらなる態様によれば、目的とする分子と結合することができる第1の領域と、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と結合することができる第2の領域とを有する分子を含む組成物が提供され、この場合、第2の領域は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子にさらされたとき、分子がポリマーを形成するように設計されている。
【0022】
本発明のなおさらなる態様によれば、目的とする標的分子または標的細胞をサンプルから激減させる方法が提供され、この場合、この方法は、(a)目的とする標的分子または標的細胞を含むサンプルを、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターであって、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコーディネーターとを含む組成物と接触させること;および(b)目的とする標的分子または標的細胞に結合した複合体を含む沈殿物を取り除き、それにより、目的とする標的分子または標的細胞をサンプルから激減させることを含む。
【0023】
本発明のさらなる態様によれば、目的とする標的分子の免疫原性を高める方法が提供され、この場合、この方法は、目的とする標的分子を、(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする標的分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、(ii)この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターとを含む組成物と接触させることを含み、この場合、この接触は、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターが、目的とする標的分子を含む複合体を形成し、それにより、目的とする標的分子の免疫原性を高めるように行われる。
【0024】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される。
【0025】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される。
【0026】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して少なくとも1つの配位成分に結合している。
【0027】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足(poor)分子および電子過剰(rich)分子からなる群から選択される。
【0028】
記載された好ましい実施形態におけるさらにさらなる特徴によれば、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される。
【0029】
本発明は、様々な分子を精製するための組成物および方法を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【0030】
本明細書で使用される技術用語と科学用語はすべて、特に断らない限り、本発明の属する技術分野の当業者が共通して理解しているのと同じ意味を持っている。本明細書に記載されているのと類似の又は均等の方法と材料は本発明を実施又は試験するのに使用できるが、適切な方法と材料は以下に述べる。争いが生じた場合、定義を含めて本特許明細書が基準である。さらに、本明細書の材料、方法及び実施例は例示することだけを目的とし本発明を限定するものではない。
【0031】
図面の簡単な記述
本明細書では本発明を単に例示し図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施態様を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
図1は本発明の組成物のいくつかの形態を概略的に例示する(図1a〜図1f)。図1a〜図1cは、2つの配位成分に結合した配位子を示す。図1d〜図1fは、多数の配位成分に結合した配位子を示す。Zは配位成分を示す。
図2は本発明の組成物を使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図2a〜図2b)。ビス−キレート化剤に共有結合的に結合している配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図2a)。金属(M+、M2+、M3+、M4+)の添加により、キレート化剤と結合し、金属イオンに非共有結合的に結合した標的分子を含むマトリックスを形成する(図2b)。
図3は沈殿物からの標的分子の段階的な回収を概略的に例示する(図3a〜図3e)。図3aは、金属に対する配位子結合キレート化剤の結合と競合するフリーのキレート化剤の添加を示す。図3bは、フリーの競合するキレート化剤および複合体形成した金属(図3c)からの、配位子と結合した標的分子の重力に基づく分離を示す。図3dは、複合体の結合を可能にするための固定化金属カラムにおける、配位子と結合した標的分子の負荷を示す。適正な溶出条件のもとで、標的分子が溶出され、一方、配位子−配位成分の分子は溶出しない。脱塩段階を標的分子のさらなる精製のために加えることができる。配位子−キレート化剤分子の再生が、カラムへの競合するキレート化剤の添加、それに続く透析または限外ろ過によって達成される(図3e)。
図4は沈殿物からの標的分子の直接的な溶出を概略的に例示する。この場合、キレート化剤−金属複合体が維持され、その一方で、標的分子と配位子との間での結合が低下する。
図5は標的分子を溶出させた後における沈殿形成ユニット(すなわち、配位子−配位成分)の再生を概略的に例示する。この場合、回収が、競合するキレート化剤の添加および適切な分離手順(例えば、透析および限外ろ過など)の適用によって達成される。
図6は核酸配列を配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図6a〜図6c)。共有結合的に結合したビス−ヌクレオチド配列(配位成分)を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図6a)。相補的な配列の添加により、配位子−配位成分:標的分子:相補的配列(コーディネーター分子、図6b)を含むマトリックスの形成がもたらされる。非対称的な配位配列も同様に示される(図6c)。
図7はビオチンを配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図7a〜図7b)。共有結合的に結合したビス−ビオチンまたはビオチン誘導体(例えば、DSB−Xビオチンなど)を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図7a)。アビジン(またはその誘導体)の導入により、配位子−配位成分(ビオチン):標的分子:アビジンを含む網状構造が生じる(図7b)。
図8は電子過剰分子を配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図8a〜図8c)。共有結合的に結合したビス−電子過剰成分を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図8a)。複合体を形成する性向を有するビス(同様に、トリス、テトラ)電子不足誘導体の添加により、配位子−配位成分(電子不足分子):標的分子:ビス−電子不足成分を含む非共有結合性の網状構造がもたらされる(図8b)。ピクリン酸およびインドールの系もまた本発明に従って使用することができる(図8c)。
図9は結合したプロテインA(ProA)が配位子として使用される標的抗体の沈殿形成を概略的に例示する。適切なコーディネーターの添加により、プロテインA−配位成分:コーディネーター:標的分子の網状構造がもたらされる。
図10は膜タンパク質を結晶化するための本発明の複合体の使用を概略的に例示する(図10a〜図10b)。結晶化組成物の存在下での2D(または3D)構造の一般的な形成がもたらされるが、この場合、コーディネーターは自身同士で相互につながっていない(図10a)。2つの抗原により修飾された特異的な配位子と、コーディネーターとして役立つ、特異的な抗原に向けられたモノクローナル抗体(mAb)とを利用するより詳細な例が図10bに例示される。
図11は膜タンパク質の結晶を形成させるためのメタロ複合体の使用(図11a)およびヌクレオ複合体の使用(図11b)を概略的に例示する。図11cは、本発明の組成物を使用する三次元の膜複合体を概略的に例示する。タンパク質の疎水性ドメインが界面活性剤ミセルによって取り囲まれる。Zは多価のコーディネーター(すなわち、少なくとも二価のコーディネーター)を示す。
図12は好適なキレート化剤を介して1つだけの金属コーディネーターに結合した3つの配位子からなる非共有結合性の組成物の形成を概略的に例示する。この場合、キレート化剤は共有結合性リンカーを介して配位子に結合している。
図13はトリ非共有結合性配位子複合体がFe3+イオンの存在下で形成されるように(図13b)、ヒドロキサム酸誘導体を含むための、目的とする3つの配位子の修飾を概略的に例示する(図13a)。
図14は配位子−キレート化剤分子を作製するための2段階の合成手順を概略的に例示する。
図15は同じ配位子−リンカー−キレート化剤分子を利用し、一方で、媒体に存在するカチオンのみを変化させることによる、ジ非共有結合性配位子(図15a)およびトリ非共有結合性配位子(図15b)の形成を概略的に例示する。
図16は電子不足/過剰の関係によって配位した本発明の組成物を概略的に例示する(図16a〜図16c)。配位子を電子不足成分で修飾すること(図16a)、および、トリ非共有結合性電子過剰成分を合成すること(図16b)によって、図16cに示される構造の複合体が形成される。
図17は配位子−電子過剰誘導体または配位子−電子不足誘導体を調製するための2段階の合成プロセスを概略的に例示する。
図18は電子過剰成分および電子不足成分を利用して配位子複合体を形成させるためのペプチドの使用を概略的に例示する。
図19はキレート化剤−金属、ならびに、電子過剰および電子不足の関係を利用する配位子複合体の形成を概略的に例示する。
図20はキレート化剤−電子不足誘導体を調製するための1段階の合成手順を概略的に例示する。
図21は同じキレート化剤−電子不足(カテコール−TNB)誘導体を利用し、媒体におけるカチオンのみを変化させることによるジ非共有結合性電子不足成分およびトリ非共有結合性電子不足成分の形成を概略的に例示する(図21a〜図21b)。
図22は二量体および三量体を形成させるための、電子過剰成分を含有するペプチドの付加を概略的に例示する(図22a〜図22b)。
図23は電子過剰/不足の関係により配位する2つのキレート化剤に結合している配位子を含む組成物の添加によるポリマー複合体の形成を概略的に例示する(図23a〜図23b)。
図24は非共有結合性タンパク質二量体の運動の自由度を制限する1つの可能性を概略的に例示する。非共有結合性二量体が、適切な金属の添加により配位子−リンカー−キレート化剤を介して形成された後、共有結合性の電子不足成分(例えば、トリニトロベンゼン−トリニトロベンゼン=TNB−TNB)の添加は、2つの隣接タンパク質の表面での2つの接近可能な電子過剰残基(例えば、Trp)の同時結合を生じさせ、それにより、運動の制約を課し、結晶構造の形成を可能にする。
図25は本発明の組成物における配位成分およびコーディネーターイオンとしてそれぞれ使用することができるキレート化剤および金属を概略的に例示する。
図26は本発明の組成物における配位成分として使用することができる電子過剰成分および電子不足成分を概略的に例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、目的とする分子を精製および結晶化するために使用することができる組成物に関する。
【0033】
本発明の原理および操作は、図面および付随する説明を参照して、より良好に理解することができる。
【0034】
本発明の少なくとも一つの実施態様を詳細に説明する前に、本発明は以下の説明に記載されているか又は図面に例示されている要素の構造の詳細と配置にその用途が限定されないと解すべきである。本発明にはその他の実施態様があり又は種々の方法で実行もしくは実施できる。また、本明細書に使用される用語と語句は説明を目的とするものであり本発明を限定するとみなすべきではないと解すべきである。
【0035】
タンパク質の大規模な製造に関与する費用のほとんどを典型的に提供するのは、その精製工程であるので、タンパク質(例えば、治療用タンパク質など)の費用効果的な商業的規模の製造は、迅速かつ効率的な精製方法の開発に大きく依存している。
【0036】
従って、タンパク質および他の商業的に重要な分子を精製するために使用することができる簡便かつ費用において効果的なプロセスが求められている。
【0037】
タンパク質精製における最新技術の方法は、目的とするタンパク質と結合する認識ユニットに連結された「スマート」ポリマーの使用に基づくアフィニティー沈殿(AP)である。このようなスマートポリマーは、その物理的な状態または性質における大きい、ときには不連続な変化を伴って、環境刺激における小さい変化に応答し、それにより、水溶液からの相分離、または、ヒドロゲルサイズにおける非常に大きな変化、および、目的とする分子の沈殿形成をもたらす。しかしながら、現在、スマートポリマーの有望性は、沈殿形成プロセス時における不純物の捕捉、ポリマーマトリックスへの不純物の吸着、タンパク質認識ユニットの親和性の低下、および、活性が低下した精製タンパク質をもたらし得る作業条件を含むいくつかの欠点のために実現されていない。
【0038】
本発明を実施に移している間に、本発明者らは、タンパク質、ならびに、目的とする他の分子および細胞の費用効果的かつ効率的な精製のために使用することができる新規な組成物を設計した。
【0039】
本明細書中下記に、また、下記の実施例の節において例示されるように、本発明の組成物は標的分子と特異的に結合して、穏和な条件のもとで沈殿させ、かつ回収することができる非共有結合性複合体を形成する。さらに、先行技術の精製用組成物とは対照的に、本発明の組成物は、(例えば、スマートポリマーなどに対して)固定化されない。固定化は、標的分子に対する配位子の親和性を低下させ、使用される配位子の量を制限し、手間のかかる維持を要求する精巧な実験室設備(HPLC)の使用を必要とし、カラムの汚れをもたらし、かつ、カラムの使用を、1つだけの共有結合的に結合した配位子に制限する。
【0040】
従って、本明細書中の1つの態様によれば、目的とする標的分子または標的細胞の精製のために好適である組成物が提供される。
【0041】
標的分子は、タンパク質、炭水化物、糖タンパク質または核酸配列(例えば、プラスミドなどのDNA、RNA)などの高分子、あるいは、化学物質などの小さい分子であり得る。本明細書中に示される例のほとんどはタンパク質性の標的分子を記載するが、本発明はそのような標的に限定されないことが理解される。
【0042】
標的細胞は、真核生物細胞、原核生物細胞またはウイルス細胞であり得る。
【0043】
本発明の組成物は、目的とする分子または細胞と配位子結合することができる少なくとも1つの配位子と、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体を形成するように組成物を導くことができる選択される少なくとも1つの配位成分とを含む。
【0044】
本明細書中で使用される用語「配位子」は、目的とする標的分子に対する大きい親和性(例えば、KD<10−5)結合を好ましくは示す合成分子または天然に存在する分子を示し、そのため、これら2つは特異的に相互作用することができる。目的とする標的が細胞であるとき、細胞の表面に発現するタンパク質、炭水化物または化学物質(例えば、細胞マーカー)と結合することができる配位子が選択される。好ましくは、目的とする分子または細胞に対する配位子結合は非共有結合性の結合である。本発明のこの態様による配位子は、一価配位子、二価配位子(抗体、増殖因子)または多価配位子が可能であり、また、目的とする1つまたは複数の分子または細胞に対する親和性を示すことができる(例えば、二重特異的抗体)。本発明に従って使用することができる配位子の例には、下記が含まれるが、それらに限定されない:抗体、その模倣物(例えば、Affibodies(登録商標)、米国特許第5831012号、同第6534628号および同第6740734号を参照のこと)またはフラグメント、エピトープ標識、抗原、ビオチンおよびその誘導体、アビジンおよびその誘導体、金属イオン、受容体およびそのフラグメント(例えば、EGF結合ドメイン)、酵素(例えば、プロテアーゼ)およびその変異体(例えば、触媒不活性な酵素)、基質(例えば、ヘパリン)、レクチン(例えば、コンカナバリンA)、炭水化物(例えば、ヘパリン)、核酸配列[例えば、アプタマーおよびSpiegelmer[Wlotzka(登録商標)(2002)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:8898〜02]、天然の基質または補因子の構造を模倣し、かつ発色団からなる、酵素の触媒作用部位と多くの場合には相互作用する色素(例えば、アゾ色素、アントラキノンまたはフタロシアニン)、反応基に連結されたもの(例えば、モノクロロトリアジン環またはジクロロトリアジン環、Denzili(2001)、J Biochem Biophys Methods、49(1−3):391〜416を参照のこと)、小分子の化学物質、受容体配位子(例えば、増殖因子およびホルモン)、同じ結合機能を有するが、別個の化学構造を有する模倣体またはそのフラグメント(例えば、EGFドメイン)、イオン配位子(例えば、カルモジュリン)、プロテインA、プロテインGおよびプロテインLまたはそれらの模倣体(例えば、PAM、Fassina(1996)、J.Mol.Recognit.、9:564〜9を参照のこと)、化学物質(例えば、酵素および血清アルブミンと結合するチバクロンブルー;アミノ酸、例えば、セリンプロテアーゼと結合するリシンおよびアルギニン)、ならびに磁性分子(例えば、高スピン型の有機分子および有機ポリマーなど)(http://www.chem.unl.edu/rajca/highspin.htmlを参照のこと)。
【0045】
本明細書中で使用される表現「配位成分」は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子に対する十分な親和性(例えば、KD<10−5)を有する任意の分子を示す。配位成分は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体を形成するように本発明のこの態様の組成物を導くことができる。本発明に従って使用することができる配位成分の例には、下記が含まれるが、それらに限定されない:エピトープ(抗体のパラトープが結合する抗原の抗原性決定基)、抗体、キレート化剤(例えば、Hisタグ、下記の実施例の節の実施例1、図1、図25および図26における他の例を参照のこと)、ビオチン(図7を参照のこと)、核酸配列(図6を参照のこと)、プロテインAまたはプロテインG(図9を参照のこと)、電子不足分子および電子過剰分子(下記の実施例の節の実施例2および図8を参照のこと)、ならびに、本明細書中上記に記載される他の分子(配位子についての例を参照のこと)。
【0046】
数多くの配位成分が上記の配位子に結合され得ることが理解される(図1a〜図1fを参照のこと)。
【0047】
異なる配位成分が、図19に示されるような複合体などの複合体を形成させるために、キレート化剤および電子過剰/不足分子などの配位子に結合され得ることがさらに理解される。結合成分のそのような組合せは、図23a〜図23bおよび図24にそれぞれ例示されるような、目的とする分子を含有するポリマーまたは秩序のあるシート(すなわち、網状構造)の形成を媒介することができる。
【0048】
複合体からの目的する分子の回収における競合および/またはさらなる問題を回避するために、配位成分は、配位成分−配位子相互作用または配位成分−標的分子相互作用の可能性を否定するように選択される。例えば、配位子が、目的とする免疫グロブリンに対する親和性を有する抗原であるならば、配位成分は好ましくは、その抗原と結合することができるエピトープ標識または抗体ではない。
【0049】
本明細書中で使用される表現「コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子」は、配位成分に対する十分な親和性(すなわち、KD<10−5)を示し、そのため、非共有結合性複合体を形成するように本明細書中のこの態様の組成物を導くことができる可溶性の実体(すなわち、分子またはイオン)を示す。本発明に従って使用することができるコーディネーター分子の例には、アビジンおよびその誘導体、抗体、電子過剰分子、電子不足分子などが含まれるが、これらに限定されない。本発明に従って使用することができるコーディネーターイオンの例には、一価、二価または三価の金属が含まれるが、これらに限定されない。図25には、本発明によってコーディネーターイオンとして使用することができるキレート化剤および金属の例が例示される。図26には、本発明によって使用することができる電子過剰分子および電子不足分子の例が列挙される。抗体および抗体フラグメントならびに単鎖抗体を作製する様々な方法が、HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory、New York、1988)(これは参考として本明細書中に組み込まれる);Goldenberg、米国特許第4036945号および同第4311647号ならびにそれらに含まれる参考文献に記載される;また、Portor,R.R.、Biochem.J.、73:119〜126(1959);WhitlowおよびFilpula、Methods、2:97〜105(1991);Bird他、Science、242:423〜426(1988);Pack他、Bio/Technology、11:1271〜77(1993);および米国特許第4946778号も参照のこと。
【0050】
好ましくは、本発明のこの態様の組成物はコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子を含む。
【0051】
本発明のこの態様の配位子は配位成分に対して直接に結合することができるが、その結合はこれら2つの化学的性質に依存する。しかし、様々な処置が、目的とする分子に対する配位子の認識(例えば、親和性)を維持するために取られる。必要なとき(例えば、立体的障害)には、配位子はリンカーを介して配位成分に結合することができる。代表的なキレート化剤を一般的な配位子で修飾するための一般的な合成経路が図14に示される。Margherita他(1993)、J.Biochem.Biphys.Methods、38:17〜28は、本発明の配位成分に配位子を結合するために使用することができる合成手順を提供する。
【0052】
配位子、および、それに結合した配位成分がともにタンパク質(例えば、それぞれ、増殖因子およびエピトープ標識)であるとき、融合タンパク質の合成を分子生物学的方法(例えば、PCR)または生化学的方法(固相ペプチド合成)によって行うことができる。
【0053】
本発明の複合体は様々なレベルの複雑性を有することができる:例えば、単量体(3つの配位子の複合体を描く図12および図13a〜図13bを参照のこと)、二量体、ポリマー(実施例の節の実施例3において記載されるような混合型リンカーを介するポリマーの形成を描く図23a〜図23bを参照のこと)、シート(標的分子の表面露出した1つのTrp残基がTNB−−−TNB実体との電子過剰/不足の関係を形成するときにシートが形成される図24を参照のこと)、および、三次元(3D)の構造を形成し得る格子(例えば、2つ以上の表面露出したTrp残基が電子過剰/不足の関係を形成するときなど)。複合体の複雑性が高次になるほど、本明細書中下記においてさらに記載されるような結晶化手法におけるその使用を可能にする構造はより剛直になることが広く認められている。さらに、大きい複合体はより迅速に相分離し、このことはさらなる遠心分離工程の使用を不要にする。
【0054】
本発明の組成物は、本明細書中下記に記載されるように、さらなる緩衝剤および添加剤を含むことができる精製キットに包装することができる。そのようなキットは、1つのサンプルから数多くの分子を精製するために数多くの配位子を含むことができることが理解される。しかしながら、沈殿形成を(例えば、同じ反応緩衝液、温度条件、pHなどを使用して)単純化し、また、さらなる精製工程を単純化するために、配位成分およびコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子が同じように選択される。
【0055】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の組成物は、目的とする分子または細胞をサンプルから精製するために使用することができる。
【0056】
従って、本明細書中の別の態様によれば、目的とする分子を精製する方法が提供される。
【0057】
本明細書中で使用される用語「精製する」は、目的とする分子を、本発明の組成物に結合したときにその溶解性を変化させること、およびその沈殿形成(すなわち、相分離)によってサンプルから少なくとも分離することを示す。
【0058】
本発明のこの態様の方法は、目的とする分子を含むサンプルを本発明の組成物と接触させ、本発明の組成物および目的とする分子から形成された複合体を含む沈殿物を集め、それにより、目的とする分子を精製することによって達成される。
【0059】
本明細書中で使用される用語「サンプル」は、目的とする分子と、おそらくは1つまたは複数の混入物(すなわち、目的とする所望の分子とは異なる物質)とを含む溶液を示す。例えば、目的とする分子が、分泌された組換えポリペプチドであるとき、サンプルは、組換えポリペプチドに加えて、血清タンパク質、ならびに、細胞から分泌される代謝産物および他のポリペプチドを含み得る馴化培地であり得る。サンプルが混入物を含まないとき、精製は濃縮と呼ばれる。
【0060】
精製を開始するために、本発明の組成物は最初にサンプルと接触させられる。これは好ましくは、配位成分に結合している配位子をサンプルに加え、これにより、配位子に対する目的とする分子の結合を可能にし、次いで、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子を加えて、目的とする分子の複合体の形成および沈殿形成を可能にすることによって達成される。複合体の急速な形成(これは混入物の捕捉をもたらし得る)を避けるために、撹拌しながらコーディネーターをサンプルにゆっくり加えることが好ましい。制御可能な沈殿形成速度もまた、フリーの配位する実体(すなわち、配位子に結合していない配位する実体)を加えることによって達成することができ、これはまた、本明細書中下記においてさらに記載される、免疫原の形成のためなどの様々な適用において有益であり得るより小さい複合体の形成をもたらし得る。
【0061】
上記の複合体が形成される(数秒〜数時間)と、複合体の沈殿形成が遠心分離(例えば、超遠心分離)によって促進され得るが、場合により、(例えば、大きな複合体の場合には)、遠心分離は必ずしも必要ない。
【0062】
目的とする分子の意図された使用に依存して、沈殿物は、目的とする分子を複合体から回収するために、さらなる精製工程に供することができる。これは、この分野で広く知られている数多くの生化学的方法を使用することによって達成することができる。例には、下記が含まれるが、それらに限定されない:疎水性相互作用クロマトグラフィーでの分画化(例えば、フェニルセファロースでの分画化)、エタノール沈殿、等電点分画、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースでのクロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、クロマト分画、SDS−PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析およびアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインA、プロテインG、抗体、特異的基質、配位子または抗原を捕獲試薬として使用するアフィニティークロマトグラフィー)。
【0063】
清浄な反応溶液(例えば、緩衝液)の単なる添加が、複合体形成時に沈殿した低い親和性で結合している不純物を溶出するために沈殿物に加えられ得ることが理解される。
【0064】
上記に記載される精製手法はどれも、標的分子の収率または純度を増大させるために、サンプル(すなわち、沈殿物)に対して繰り返し適用され得ることがさらに理解される。
【0065】
好ましくは、組成物およびコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、形成された複合体からの標的分子の迅速かつ容易な単離を可能にするように選択される。例えば、用いられる溶出条件が、コーディネーターに対する配位成分の結合を乱さないならば、目的とする分子を複合体から直接に溶出させることができる(図4〜図5を参照のこと)。例えば、複合体において使用されている配位成分がキレート化剤であるとき、高イオン強度は金属−キレート化剤相互作用に影響を及ぼさないことが広く認められているので、高イオン強度を適用して、目的とする分子を溶出させることができる。あるいは、金属−キレート化剤相互作用は、標的分子の溶出をそのような条件で可能にする高塩条件に対して抵抗性であることが示されている[Porath(1983)、Biochemistry、22:1621〜1639]ので、カオトロピック(chaotropic)塩を用いた溶出を使用することができる。
【0066】
複合体は、コーディネーター金属と競合するフリー(非修飾)のキレート化剤(すなわち、配位成分)を加えることによって再可溶化することができる(図3)。限外ろ過または透析を使用して、その後で、キレート化した金属および競合するキレート化剤のほとんどを回収することができる。可溶化された複合体(すなわち、目的とする分子:配位子−配位成分)を、その後、固定化金属アフィニティーカラム[例えば、イミノ二酢酸(IDA)およびニトリロ三酢酸(NTA)]に負荷することができる。高親和性のキレート化剤が使用されるとき(例えば、カテコール)、様々な処置が、カラムに結合する代わりに、カラムからの配位子:キレート化剤の溶出を避けるために、同じキレート化剤で修飾されたか、または、固定化された金属に対する類似した結合親和性を有する他のキレート化剤で修飾された固定化金属アフィニティーイオンカラムを使用するために取られることが理解される。
【0067】
好適な溶出条件の適用により、配位子−配位成分をカラムに結合させたまま、標的分子の溶出がもたらされる。最後の脱塩手順を、最終生成物を得るために適用することができる。
【0068】
配位子−配位成分の再生は、そのような融合分子の合成が、本明細書中に記載される方法論に関与する費用および労力のほとんどをもたらし得るので、大きな経済的価値を有する。従って、例えば、配位子−配位成分の再生を、競合するキレート化剤を上記のカラムに負荷するか、または、カラムのpHを変化させ、その後、フリーのキレート化剤と、所望の配位子−配位成分とを分離することができる限外ろ過を行うことによって達成することができる。
【0069】
上記に記載される精製方法論は、大きな研究的価値または臨床的価値を有する様々な組換え物質および天然物質、例えば、組換え増殖因子および血液タンパク質製造物(例えば、フォンビルブランド病およびA型血友病に対する代償療法においてそれぞれ効果的な治療用タンパク質であるフォンビルブランド因子および第VII因子)などを単離するために適用することができる。
【0070】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の組成物は、特定の細胞集団を単離するためにも同様に使用することができる。
【0071】
ヒトの臓器が不足しているため、インビトロ器官形成が次善の代替として現れつつあることが広く認められている。この目的のために、任意の所望する細胞系譜に分化することができる幹細胞を単離しなければならない。従って、例えば、造血幹細胞/始原細胞を単離するために、この細胞集団に対して特有である表面マーカー(例えば、CD34およびCD105など)に結合する数多くの配位子を用いることができる[Pierelli(2001)、Leuk.Lymphoma、42(6):1195〜206を参照のこと]。
【0072】
別の一例が、コンカナバリンAなどのレクチン配位子を使用する赤血球の単離である[Sharon(1972)、Science、177:949;Goldstein(1965)、Biochemistry、4:876]。
【0073】
ウイルス細胞単離を、目的とするウイルス細胞に対して特異的である様々な配位子を使用して達成することができる[http://www.bdbiosciences.com/clontech/archive/JAN04UPD/Adeno−X.shtmlを参照のこと]。
【0074】
具体的には、レトロウイルスを、ヘパリン配位子を含むように設計される本発明の組成物によって単離することができる[Kohleisen(1996)、J Virol Methods、60(1):89〜101]。
【0075】
上記の方法論を使用する細胞単離は、細胞の密度またはサイズに基づいて細胞を単離するために行われるサンプル塊解体の前工程(例えば、遠心分離)、および、選択的な細胞濃縮のさらなる工程(例えば、FACS)とともに行うことができる。
【0076】
本発明の組成物の精製能力に加えて、本発明の組成物はまた、所望されない分子または細胞からのサンプルを激減させるために使用することができる。
【0077】
これは、目的とする所望されない標的分子または標的細胞を含むサンプルを、複合体が(上記で記載されたように)形成されるように本発明の組成物と接触させ、沈殿物を除くことによって達成される。清澄化されたサンプルが上清である。
【0078】
この方法は、例えば、骨髄サンプルから腫瘍細胞を激減させること、末梢血サンプル、脾臓サンプル、胸腺サンプル、リンパサンプルまたは骨髄サンプルからのT細胞およびCD8+細胞またはCD4+細胞の単離および濃縮のためにB細胞および単球を激減させること、病原体および望まれない物質(例えば、プリオン、毒素)を生物学的サンプルから激減させること、タンパク質精製(例えば、BSAなどの高分子量タンパク質を激減させること)などにおいて様々な用途を有する。
【0079】
本明細書中上記で述べられたように、多数の配位子を、数多くの標的を所与サンプルから激減させるために用いることができ、例えば、非常に多く存在するタンパク質を生物学的流体から除くためなどに用いることができる(例えば、アルブミン、IgG、抗トリプシン、IgA、トランスフェリンおよびハプトグロビン、http:///www.chem.agilent.com/cag/prod/ca/51882709small.pdfを参照のこと)。
【0080】
本発明の新規な組成物の特異な性質により、先行技術の沈殿形成組成物(例えば、スマートポリマー)を上回る多数の利点が提供され、これらの利点のいくつかが下記にまとめられる。
【0081】
(i)低コストな精製;本発明の方法論は精緻な実験室設備(例えば、HPLCなど)に頼っておらず、従って、装置の維持および運転コストを回避している。
【0082】
(ii)容易な規模拡大;本発明の方法論は、拡散による制限を有するアフィニティーカラムの限定された能力によって制限されない。本質的には、加えられる沈殿形成複合体の量は無制限である。
【0083】
(iii)穏和な沈殿形成プロセス;pH、イオン強度または温度における実質的な変化から生じる制限を回避する。
【0084】
(iv)沈殿形成プロセスの制御;沈殿形成が、適切なコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子の沈殿化混合物へのゆっくりした添加;一価および/または多価のコーディネーターの使用;配位成分に対する異なる親和性を有するコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子の使用;非共有結合性のポリマー、シートまたは格子の形成の前、またはそのような形成の期間中、またはそのような形成の後における、不純物の非特異的な結合および捕捉を避けるための固定化されていないフリーの配位成分の添加[Mattiasson他(1998)、J.Mol.Recognit、11:211〜216;HilbrigおよびFreitag(2003)、J.Chromatogr.B、790:79〜90]によって、そして同様に、温度条件を変化させることによって支配され得る。様々な分子が、温度が低下するにつれて低下する溶解性を示すことが広く認められており、従って、温度条件を制御することにより、沈殿形成の速度および程度を調節することができる。だが、低い温度条件は、速い沈殿形成プロセスのために不純物の捕捉をもたらすことがあり、一方、高い温度条件は標的分子の低い収率をもたらすことがある(例えば、変性温度)ことが理解される。従って、様々な処置が、上記パラメーターを考慮しながら、最適な温度条件を達成するために取られる。
【0085】
(v)低下した混入バックグラウンド;混入物はコーディネーター実体と結合することができず、そのため、非共有結合性マトリックスに強固に結合することができず、このことは、溶出工程に先立つその除去を可能にする。さらに配位子配位子、配位子の生物学的バックグラウンドに由来する様々な混入(配位子と同時精製された分子)は、[配位子および混入物が同じ化学的性質をともに有するならば(例えば、両者がタンパク質であるならば)]、配位子そのものと同様に修飾されることがあり、また、沈殿形成複合体の一部になることがあり得る。好適な溶出条件のもとで、標的分子が回収され、一方、修飾された混入物は回収されない。
【0086】
(vi)均一溶液における結合;均一溶液における結合は、不均一相(例えば、アフィニティークロマトグラフィー)におけるよりも迅速であり、かつ効果的であることが広く認められている[AC,Schneider他(1981)、Ann.NY Acad.Sci.、369、257〜263;Lowe(2001)、J.Biochem.Biophys.Methods、49、561〜574]。例えば、(APにおいて使用される)高分子量ポリマーは、多くのアフィニティー分離法の場合でのように、接近する高分子(例えば、標的分子など)の接近を妨げる高度にコイル化した粘性構造を溶液中で形成することが知られている[Vaida他(1999)、Biotechnol.Bioeng.、64:418]。
【0087】
(vii)配位子が固定化されない−このことは本明細書中上記においてさらに記載されされている。
【0088】
(viii)複合体の容易な再可溶化;複合体が非共有結合性の相互作用によって生じている。
【0089】
(ix)過酷な条件のもとでの消毒;本発明の組成物はマトリックスに共有結合的に結合しておらず、そのため、任意のデバイスから取り出すことができ、このことは、非特異的に結合している不純物からデバイス(カラム)を清浄化するために、消毒条件の適用を可能にする。
【0090】
目的とする分子を秩序のある複合体(例えば、二量体、三量体、ポリマー、シートまたは格子など)に配置することができる本発明の組成物の能力はまた、タンパク質(特に、膜タンパク質)などの高分子の結晶化を容易にすることにおけるその使用を可能にする。この分野で広く知られているように、結晶構造は三次元空間における分子の秩序のある配置を表す。そのような秩序のある配置は、所与の空間における自由分子の数を減少させることによって生じさせることができる(図10a〜図10bおよび図11a〜図11cを参照のこと)。
【0091】
従って、本発明のさらにもう1つの態様によれば、目的とする分子を結晶化させるための組成物が提供される。
【0092】
本明細書中で使用される用語「結晶化させる」は、その原子の規則的に反復する内部配置、および、多くの場合には外側の平らな面を形成するような目的とする分子の固体化を示す。
【0093】
本発明のこの態様の組成物は、少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、この少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターとを含み、この場合、この少なくとも1つの配位成分およびこのコーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、組成物は、目的とする分子に結合したときに目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される。
【0094】
共有結合性マルチ配位子複合体の使用が可溶性タンパク質の結晶化において以前から試みられていることが理解される[Dessen(1995)、Biochemistry、34:4933〜4942;Moothoo(1998)、Acta.Cryst.、D54、1023〜1025;Bhattacharyya(1987)、J.Biol.Chem.、262:1288〜1293]。しかしながら、1分子あたり3つ以上の配位子を有するマルチ配位子複合体の合成は技術的に困難であり、費用がかかる。さらに、標的タンパク質の三次元構造を、標的分子と十分に結合して、マルチ配位子複合体におけるすべての標的結合部位を占有するために配位子間の最適な距離を有するマルチ配位子複合体を合成するために前もって知らなければならない。そのため、このような配位子は、膜タンパク質の結晶化のためにこれまで一度も使用されていなかった。
【0095】
本発明は、達成することがはるかにより容易であり、より迅速かつ安価である、(配位子−配位成分の一般構造を有する)非共有結合性マルチ配位子における基本ユニットのみを合成することによってこれらを回避している。この基本ユニットは、多価のコーディネーターイオンまたはコーディネーター分子を加えることによってのみ、非共有結合性のトリ配位子を形成する。従って、1段階の合成工程が、結晶化実験のために使用することができるジ配位子、トリ配位子、テトラ配位子または高次マルチ配位子を形成するために使用される。
【0096】
目的とする分子(好ましくは、膜タンパク質)の結晶を作製するために、本発明の組成物は、所定の純度および濃度で好ましくは提供される目的とする分子を含むサンプルと接触させられる。
【0097】
典型的には、結晶化サンプルは液体サンプルである。例えば、目的とする分子が膜タンパク質であるとき、結晶化サンプルは、本発明のこの態様によれば、膜調製物である。膜調製物を作製する様々な方法が、“Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual”(CSHL Press、1996)に記載される。
【0098】
目的とする分子が本発明の組成物に結合し、その結果、その相対的な空間的な位置決定および配向が十分に規定されるようになると、サンプルは好適な結晶化条件に供される。この分野で知られているいくつかの結晶化方法を、目的とする分子の結晶化を促進させるためにサンプルに適用することができる。結晶化方法の例には、下記が含まれるが、それらに限定されない:自由界面拡散法[Salemme,F.R.(1972)、Arch.Biochem.Biophys.、151:533〜539]、ハンギングドロップ法またはシッティングドロップ法における気相拡散(McPherson,A.(1982)、Preparation and Analysis of Protein Crystals、John Wiley and Sons、New York、82頁〜127頁)、および、液体透析(Bailey,K.(1940)、Nature、145:934〜935)。
【0099】
現在、ハンギングドロップ法が、溶液から高分子の結晶を生長させるために最も一般的に使用されている方法である。この方法は、タンパク質結晶を作製するために特に好適である。典型的には、タンパク質溶液を含有する液滴がカバーガラスにスポットされ、沈殿形成剤のより高い濃度を有するリザーバーを含有する密閉チャンバー内に吊される。時間が経つと、液滴中の溶液は、水蒸気を液滴から発散させることによってリザーバーと平衡化し、それにより、液滴内のタンパク質および沈殿形成剤の濃度をゆっくり増加させ、これにより、次にタンパク質の沈殿形成または結晶化がもたらされる。
【0100】
上記に記載された方法論を使用して得られる結晶は、好ましくは3Å未満の分解能を有し、より好ましくは2.5Å未満の分解能を有し、さらにより好ましくは2Å未満の分解能を有する。
【0101】
本発明の組成物は、複雑な混合物(例えば、血清サンプルなど)から分析物をアッセイすることにおいて明らかな有用性を有し得る。これは明らかに様々な診断的利点を有し得る。
【0102】
従って、本発明では、対象において目的とする分子に関連する疾患の素因またはそのような疾患の存在を検出する方法が考えられる。
【0103】
目的とする分子に関連する疾患の一例が、前立腺特異的抗原の存在によって検出することができる前立腺ガンである[PSA、例えば、>0.4ng/ml、Boccon−Gibod、Int J Clin Pract.(2004)、58(4):382〜90]。
【0104】
本発明の組成物は、対象から得られた生物学的サンプルと接触させられ、それによって、目的とする分子を含む複合体形成のレベルにより、対象において目的とする分子に関連する疾患の素因またはそのような疾患の存在が示される。
【0105】
本明細書中で使用される表現「生物学的サンプル」は、対象から単離された組織または流体のサンプルを示し、これには、例えば、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、ならびに、皮膚、気道、腸管および尿生殖路の外側切片、涙、唾液、乳汁、血液細胞、腫瘍、神経組織、様々な臓器、そしてまた、インビボ細胞培養構成要素のサンプルが含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
複合体における目的とする分子の検出および定量を容易にするために、生物学的サンプルまたは組成物は好ましくは標識される(例えば、蛍光標識化、放射能標識化)。
【0107】
本発明の組成物はまた、臨床、環境、健康および安全性、遠隔探査、軍事、食品/飲料物ならびに化学的加工での様々な適用において非常に重要であり得る液体サンプルまたはガス状サンプルに存在する物質の適格性および量を調べるために利用することができる。
【0108】
異常なタンパク質相互作用により、多くの病原性障害の発生が左右される。例えば、神経系におけるシナプスタンパク質の異常な相互作用および誤った折り畳みは、様々な神経学的障害における神経変性を生じさせる重要な病原的事象である。これらには、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、および、レーヴィ小体による認知症(DLB)が含まれる。ADでは、誤って折り畳まれたアミロイドβペプチド1〜42(Aβ)、すなわち、アミロイド前駆体タンパク質代謝のタンパク質分解生成物が、ニューロンの小胞体および細胞外に凝集物(すなわち、プラーク)として蓄積する。本発明の組成物は、そのような高分子複合体を妨げ、それにより、そのような障害を処置するために使用することができる。
【0109】
医薬組成物の様々な投与方法および作製方法が、例えば、Fingl他(1975)、“The Pharmacological Basis of Therapeutics”(第1章、1頁)によって記載される。
【0110】
本発明の組成物は診断キットまたは治療キットに含めることができる。例えば、特定の疾患の組成物を、適切な緩衝液および保存剤とともに1つまたは複数の容器に包装することができ、そして、診断のために、または治療的処置を導くために使用することができる。
【0111】
従って、配位子および配位成分を1つの容器に入れることができ、コーディネーター分子またはコーディネーターイオンを別の容器に入れることができる。好ましくは、これらの容器はラベルを含む。好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジおよび試験管が含まれる。容器は様々な材料(例えば、ガラスまたはプラスチックなど)から形成され得る。
【0112】
加えて、他の添加剤(例えば、安定化剤、緩衝剤、ブロッッキング剤など)もまた加えることができる。
【0113】
数多くの方法が、抗原の免疫原能力を高めるためにこの分野で知られている。例えば、抗原性分子(例えば、ペプチド)をより大きなキャリア(例えば、KLH、BSA、チログロブリンおよび卵白アルブミンなど)に架橋することを伴うハプテンキャリアの結合が、分子の分子サイズ(免疫原性を支配することが知られているパラメーター)を増大させるために使用される[HarlowおよびLane(1998)、A laboratory manual(下記)を参照のこと]。しかしながら、抗原性分子の共有結合による架橋は抗原性分子における構造的変化を生じさせ、それにより、抗原の提示を制限する。様々な物質に対する抗原性分子の非共有結合による固定化が、この問題を回避するために試みられている[Sheibani Frazier(1998)、BioTechniques、25:28]。それに従えば、本発明の組成物は、同じことを媒介するために使用することができる。
【0114】
従って、本発明ではまた、本発明の組成物を使用して目的とする分子の免疫原性を高める方法が考えられる。本明細書中で使用される用語「免疫原性」は、生物体内において免疫応答(例えば、抗体応答)を誘発する分子の能力を示す。
【0115】
この方法は、目的とする分子を本発明の組成物と接触させ、それにより、このようにして形成された複合体が免疫原として役立つことによって達成される。そのような複合体を、免疫応答を生じさせるために動物宿主に注射することができる。
【0116】
従って、例えば、抗体応答を生じさせるために、上記の免疫原性組成物が動物宿主(例えば、ウサギまたはマウス)に皮下注射される。1回〜4回の注射(すなわち、追加免疫)の後、血清が集められ(最初の注射の約14週間)、抗体力価が、例えば、配位子がプロテインAである場合、サンプルにおける分析物検出の上記で記載された方法を使用することなどによって決定される。あるいは、または加えて、アフィニティークロマトグラフィーまたはELISAが行われる。
【0117】
本発明の組成物は、本明細書中において明確に記載されていない数多くの他の有用性(例えば、アフィニティークロマトグラフィーに属するそのような有用性など)を有し得ることが理解される[例えば、Wen−ChienおよびKelvin(2004)、Analytical Biochemistry、324:1〜10を参照のこと]。
【0118】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0119】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0120】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学及び組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている[例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel, R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号及び5272057号に記載される方法;Cellis, J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号及び5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.及びHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.及びHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年及び「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0121】
(実施例1)
キレート化剤−金属の複合体を利用する非共有結合性マルチ配位子複合体の合成
様々なキレート化剤が様々な異なる特異性および親和性で金属と結合できることが文献に詳しく記載されている。本発明の非共有結合性マルチ配位子複合体を生じさせるために、リンカー(所望の長さを有する)が、特異的な配位子と結合するように修飾され、キレート化剤が、下記の一般構造を生じさせるために修飾される:配位子−−−リンカー−−−キレート化剤。
【0122】
その後、適切な金属を加えることによって、非共有結合性マルチ配位子複合体が形成されるはずである(図12)。
【0123】
例えば、ヒドロキサム酸(これは既知のFe3+キレート化剤である)の誘導体が合成され(図13a)、その結果、Fe3+イオンの存在下で、非共有結合性マルチ配位子複合体が形成されるようになる(図13b)。代表的なキレート化剤を一般的な配位子により修飾するための一般的な合成経路が図14に示される。そのような合成は、Margherita他(1999、上記)によって示された合成と類似し得る。
【0124】
非共有結合性マルチ配位子複合体を調製するためのキレート化剤の利用は、[1,10−フェナントロリン]2−Cu2+または[1,10−フェナントロリン]3−Ru3+[Onfelt他(2000)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97:5708〜5713]の場合のように、いくつかのキレート化剤が異なる化学量論で異なる金属と結合することができることから生じるさらなる利点を有し得る。
【0125】
この現象は、同じ配位子−−−リンカー−−−キレート化剤誘導体を利用してジ非共有結合性マルチ配位子複合体(図15a)およびトリ非共有結合性マルチ配位子複合体(図15b)を形成させるために利用することができる。
【0126】
(実施例2)
電子過剰−不足の複合体を利用する非共有結合性マルチ配位子複合体の合成
電子アクセプターは、「π過剰」な複素環状インドール環系と容易に分子状複合体を形成する。インドールピクリン酸は、ほぼ130年前に記載されたこのタイプの最初の複合体であった[BaeyerおよびCaro(1877)、Ber.、10:1262]。同じ電子アクセプターが、インドールをジャスミンの花精油から単離するために数年後に使用された。以降、ピクリン酸は、インドール類を反応混合物から複合体として単離し、同定するために頻繁に使用されていた。その後、1,3,5−トリニトロベンゼンが複合体形成剤として導入され、多くの場合、同じ目的のために使用された[MerchantおよびSalagar(1963)、Current Sci.、32:18]。インドール化合物の他の固体複合体が、電子アクセプター(例えば、スチフニン酸[Marion、L.およびOldfield,C.W.(1947)、Cdn.J.Res.、25B、1]、ピクリルハリド[Triebs、W.(1961)、Chem.Ber.、94:2142]、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン[Hutzinger,O.およびJamieson,W.D.、Anal.Biochem.(1970)、35、351〜358]など)を用いて、また、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼンおよび1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン[Elguero他(1967)、Anals Real Soc.Espan.Fis.Quim.(Madrid) ser.B63、905(1967);Wilshire,J.F.K.、Australian J.Chem.、19、1935(1966)]を用いて調製されている。
【0127】
図16aは配位子−−−リンカー−−−電子不足(E.poor)誘導体の一例を例示し、図16bは、使用することができる電子過剰な共有結合性三量体の例を示す。トリニトロベンゼン誘導体(図16a)およびインドール誘導体(図16b)を一緒に混合することによって、マルチ配位子複合体が形成されることが予想される(図16c)。逆の複合体が同様に合成され得ることが理解される[すなわち、電子過剰成分を有する配位子誘導体、および、電子不足の共有結合性三量体]。
【0128】
上記配位子誘導体を調製するための可能な合成経路が図17に示される。
【0129】
Trp残基(または任意の他の電子過剰成分もしくは電子不足成分)を含有する合成ペプチド(または任意のペプチド)もまた、非共有結合性マルチ配位子複合体を調製するために有用であり得る。図18は、電子不足成分(トリニトロベンゼン)で修飾された配位子誘導体の存在下で形成され得る、4つのTrp残基(4つの電子過剰成分)を有する合成ペプチド(テトラ非共有結合性配位子)の例を示す。
【0130】
(実施例3)
電子過剰−不足の関係性およびキレート化剤−金属の関係性の組合せを利用する非共有結合性マルチ配位子複合体の合成
上記の実施例1および実施例2において記載されるような2つの複合体形成能力を組み合わせて、非共有結合性マルチ配位子複合体を形成させるようにすることができる。そのような非共有結合性マルチ配位子複合体の一般構造の一例が図19に示される。
【0131】
この目的のために、電子不足成分に共有結合的に結合するキレート化剤が所望される。そのような組合せを作製するための合成経路が図20に示される。
【0132】
例えば、M2+金属およびM3+金属の両方に結合することができるキレート化剤(例えば、カテコール)は、M2+金属およびM3+金属の存在下で、非共有結合性のジ配位子(図21a)または非共有結合性のトリ配位子(図21b)を形成することができる。
【0133】
Trp残基(または任意の他の電子過剰残基)を有するペプチド(またはポリペプチド)の存在は、図22a〜図22bに示される構造の形成をもたらし得る。
【0134】
これら2つの上記の結合関係性(電子過剰−不足と一緒になったキレート化剤−金属)の組合せはさらなる利点を持ち込み得る。例えば、非共有結合性マルチ配位子ポリマー複合体を形成することができること。これは、2つのキレート化剤と、キレート化剤間の電子過剰成分とを合成することによって達成することができる(図23a)。配位子−−−電子不足誘導体の存在下で、図23bに描かれる複合体が形成することが予想され、これは配位子の非共有結合性ポリマーを表す。
【0135】
二量体、三量体、四量体などが(例えば、配位子−−−キレート化剤誘導体によって)形成されると、より大きな秩序を達成するために、二量体、三量体、四量体などの運動の自由を制限することが所望され得る。目的とするタンパク質が、共有結合性のジ電子不足成分(例えば、ジ−トリニトロベンゼン(TNB−−−TNB)など)に接近することができる電子過剰成分(例えば、Trpなど)を有するならば、複合体が2つの非共有結合性二量体の間で形成され得る(図24)。これは、タンパク質とマルチ配位子との秩序のあるシートの形成をもたらし得る。
【0136】
明確にするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施態様に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施態様で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0137】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更及び変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更及び変形すべてを包含するものである。本願で挙げた刊行物、特許及び特許願はすべて、個々の刊行物、特許及び特許願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用又は確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の組成物のいくつかの形態を概略的に例示する(図1a〜図1f)。図1a〜図1cは、2つの配位成分に結合した配位子を示す。図1d〜図1fは、多数の配位成分に結合した配位子を示す。
【図2】本発明の組成物を使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図2a〜図2b)。ビス−キレート化剤に共有結合的に結合している配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図2a)。金属(M+、M2+、M3+、M4+)の添加により、キレート化剤と結合し、金属イオンに非共有結合的に結合した標的分子を含むマトリックスを形成する(図2b)。
【図3a−c】沈殿物からの標的分子の段階的な回収を概略的に例示する。図3aは、金属に対する配位子結合キレート化剤の結合と競合するフリーのキレート化剤の添加を示す。図3bは、フリーの競合するキレート化剤および複合体形成した金属(図3c)からの、配位子と結合した標的分子の重力に基づく分離を示す。
【図3d−e】沈殿物からの標的分子の段階的な回収を概略的に例示する。図3dは、複合体の結合を可能にするための固定化金属カラムにおける、配位子と結合した標的分子の負荷を示す。適正な溶出条件のもとで、標的分子が溶出され、一方、配位子−配位成分の分子は溶出しない。脱塩段階を標的分子のさらなる精製のために加えることができる。配位子−キレート化剤分子の再生が、カラムへの競合するキレート化剤の添加、それに続く透析または限外ろ過によって達成される(図3e)。
【図4】沈殿物からの標的分子の直接的な溶出を概略的に例示する。
【図5】標的分子を溶出させた後における沈殿形成ユニット(すなわち、配位子配位成分)の再生を概略的に例示する。
【図6】核酸配列を配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図6a〜図6c)。共有結合的に結合したビス−ヌクレオチド配列(配位成分)を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図6a)。相補的な配列の添加により、配位子−配位成分:標的分子:相補的配列(コーディネーター分子、図6b)を含むマトリックスの形成がもたらされる。非対称的な配位配列も同様に示される(図6c)。
【図7】ビオチンを配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図7a〜図7b)。共有結合的に結合したビス−ビオチンまたはビオチン誘導体(例えば、DSB−Xビオチンなど)を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図7a)。アビジン(またはその誘導体)の導入により、配位子−配位成分(ビオチン):標的分子:アビジンを含む網状構造が生じる(図7b)。
【図8】電子過剰分子を配位成分として使用する標的分子の沈殿形成を概略的に例示する(図8a〜図8c)。共有結合的に結合したビス−電子過剰成分を有する配位子が標的分子の存在下でインキュベーションされる(図8a)。複合体を形成する性向を有するビス(同様に、トリス、テトラ)電子不足誘導体の添加により、配位子−配位成分(電子不足分子):標的分子:ビス−電子不足成分を含む非共有結合性の網状構造がもたらされる(図8b)。ピクリン酸およびインドールの系もまた本発明に従って使用することができる(図8c)。
【図9】結合したプロテインA(ProA)が配位子として使用される標的抗体の沈殿形成を概略的に例示する。
【図10】膜タンパク質を結晶化するための本発明の複合体の使用を概略的に例示する(図10a〜図10b)。結晶化組成物の存在下での2D(または3D)構造の一般的な形成がもたらされるが、この場合、コーディネーターは自身同士で相互につながっていない(図10a)。2つの抗原により修飾された特異的な配位子と、コーディネーターとして役立つ、特異的な抗原に向けられたモノクローナル抗体(mAb)とを利用するより詳細な例が図10bに例示される。
【図11a−b】膜タンパク質の結晶を形成させるためのメタロ複合体の使用(図11a)およびヌクレオ複合体の使用(図11b)を概略的に例示する。
【図11c】本発明の組成物を使用する三次元の膜複合体を概略的に例示する。
【図12】好適なキレート化剤を介して1つだけの金属コーディネーターに結合した3つの配位子からなる非共有結合性の組成物の形成を概略的に例示する。
【図13】トリ非共有結合性配位子複合体がFe3+イオンの存在下で形成されるように(図13b)、ヒドロキサム酸誘導体を含むための、目的とする3つの配位子の修飾を概略的に例示する(図13a)。
【図14】配位子−キレート化剤分子を作製するための2段階の合成手順を概略的に例示する。
【図15】同じ配位子−リンカー−キレート化剤分子を利用し、一方で、媒体に存在するカチオンのみを変化させることによる、ジ非共有結合性配位子(図15a)およびトリ非共有結合性配位子(図15b)の形成を概略的に例示する。
【図16】電子不足/過剰の関係によって配位した本発明の組成物を概略的に例示する(図16a〜図16c)。配位子を電子不足成分で修飾すること(図16a)、および、トリ非共有結合性電子過剰成分を合成すること(図16b)によって、図16cに示される構造の複合体が形成される。
【図17】配位子−電子過剰誘導体または配位子−電子不足誘導体を調製するための2段階の合成プロセスを概略的に例示する。
【図18】電子過剰成分および電子不足成分を利用して配位子複合体を形成させるためのペプチドの使用を概略的に例示する。
【図19】キレート化剤金属、ならびに、電子過剰および電子不足の関係を利用する配位子複合体の形成を概略的に例示する。
【図20】キレート化剤−電子不足誘導体を調製するための1段階の合成手順を概略的に例示する。
【図21】同じキレート化剤−電子不足(カテコール−TNB)誘導体を利用し、媒体におけるカチオンのみを変化させることによるジ非共有結合性電子不足成分およびトリ非共有結合性電子不足成分の形成を概略的に例示する(図21a〜図21b)。
【図22】二量体および三量体を形成させるための、電子過剰成分を含有するペプチドの付加を概略的に例示する(図22a〜図22b)。
【図23】電子過剰/不足の関係により配位する2つのキレート化剤に結合している配位子を含む組成物の添加によるポリマー複合体の形成を概略的に例示する(図23a〜図23b)。
【図24】非共有結合性タンパク質二量体の運動の自由度を制限する1つの可能性を概略的に例示する。
【図25】本発明の組成物における配位成分およびコーディネーターイオンとしてそれぞれ使用することができるキレート化剤および金属を概略的に例示する。
【図26】本発明の組成物における配位成分として使用することができる電子過剰成分および電子不足成分を概略的に例示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とする標的分子または標的細胞と結合することができる少なくとも1つの配位子を含む組成物であって、前記少なくとも1つの配位子は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体を形成するために組成物を導くことができる選択された少なくとも1つの配位成分に結合している組成物。
【請求項2】
前記複合体がポリマー複合体である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コーディネーターイオンまたは分子をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記目的とする標的分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記目的とする標的細胞は、真核細胞、原核細胞およびウイルス細胞からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
目的とする標的分子または標的細胞を精製する方法であって、
(a)目的とする標的分子または標的細胞を含むサンプルを、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする標的分子または標的細胞
と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーデ
ィネーターであって、前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネータ
ーが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコー
ディネーター、
とを含む組成物と接触させること;および
(b)目的とする標的分子または標的細胞に結合した前記複合体を含む沈殿物を集め、それにより、目的とする標的分子または標的細胞を精製すること
を含む方法。
【請求項11】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記目的とする標的細胞は、真核細胞、原核細胞およびウイルス細胞からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項17】
目的とする分子を前記沈殿物から回収することをさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項18】
対象における目的とする分子に関連する疾患に対する素因またはそのような疾患の存在を検出する方法であって、対象から得られた生物学的サンプルを、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターであって、前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネーターが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコーディネーター
とを含む組成物と接触させることを含み、
目的とする分子を含む前記複合体の形成により、対象における目的とする分子に関連する疾患に対する素因またはそのような疾患の存在が示される方法。
【請求項19】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項24】
目的とする分子を結晶化させるための組成物であって、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーター
とを含み、
前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、組成物は、目的とする分子に結合したとき、目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される組成物。
【請求項25】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項30】
目的とする分子を結晶化させる方法であって、目的とする分子を含むサンプルを、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーター
とを含む結晶化用組成物と接触させることを含み、
前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、前記結晶化用組成物は、目的とする分子に結合したとき、目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される方法。
【請求項31】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項36】
目的とする分子と結合することができる第1の領域と、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と結合することができる第2の領域とを有する分子を含む組成物であって、前記第2の領域は、前記コーディネーターイオンまたは前記コーディネーター分子にさらされたとき、前記分子がポリマーを形成するように設計されている組成物。
【請求項37】
前記第2の領域は、2つより大きいコーディネーターイオンまたは分子と結合することができる請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
前記コーディネーターイオンまたは分子の結合が非共有結合である請求項36に記載の組成物。
【請求項39】
目的とする標的分子または標的細胞をサンプルから激減させる方法であって、
(a)目的とする標的分子または標的細胞を含むサンプルを、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することがで
きる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーデ
ィネーターであって、前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネータ
ーが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコー
ディネーター
とを含む組成物と接触させること;および
(b)目的とする標的分子または標的細胞に結合した前記複合体を含む沈殿物を取り除き、それにより、目的とする標的分子または標的細胞をサンプルから激減させること
を含む方法。
【請求項40】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記目的とする標的細胞は、真核細胞、原核細胞およびウイルス細胞からなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項46】
目的とする標的分子の免疫原性を高める方法であって、目的とする標的分子を、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする標的分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーター
とを含む組成物と接触させることを含み、
この接触は、前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネーターが、目的とする標的分子を含む複合体を形成し、それにより、目的とする標的分子の免疫原性を高めるように行われる方法。
【請求項47】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項51】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項1】
目的とする標的分子または標的細胞と結合することができる少なくとも1つの配位子を含む組成物であって、前記少なくとも1つの配位子は、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と同時インキュベーションされたときに非共有結合性複合体を形成するために組成物を導くことができる選択された少なくとも1つの配位成分に結合している組成物。
【請求項2】
前記複合体がポリマー複合体である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コーディネーターイオンまたは分子をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記目的とする標的分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記目的とする標的細胞は、真核細胞、原核細胞およびウイルス細胞からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
目的とする標的分子または標的細胞を精製する方法であって、
(a)目的とする標的分子または標的細胞を含むサンプルを、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする標的分子または標的細胞
と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーデ
ィネーターであって、前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネータ
ーが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコー
ディネーター、
とを含む組成物と接触させること;および
(b)目的とする標的分子または標的細胞に結合した前記複合体を含む沈殿物を集め、それにより、目的とする標的分子または標的細胞を精製すること
を含む方法。
【請求項11】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記目的とする標的細胞は、真核細胞、原核細胞およびウイルス細胞からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項17】
目的とする分子を前記沈殿物から回収することをさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項18】
対象における目的とする分子に関連する疾患に対する素因またはそのような疾患の存在を検出する方法であって、対象から得られた生物学的サンプルを、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーターであって、前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネーターが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコーディネーター
とを含む組成物と接触させることを含み、
目的とする分子を含む前記複合体の形成により、対象における目的とする分子に関連する疾患に対する素因またはそのような疾患の存在が示される方法。
【請求項19】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項24】
目的とする分子を結晶化させるための組成物であって、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーター
とを含み、
前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、組成物は、目的とする分子に結合したとき、目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される組成物。
【請求項25】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項24に記載の組成物。
【請求項30】
目的とする分子を結晶化させる方法であって、目的とする分子を含むサンプルを、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーター
とを含む結晶化用組成物と接触させることを含み、
前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネーターは、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができ、一方で、前記結晶化用組成物は、目的とする分子に結合したとき、目的とする分子の相対的な空間的な位置決定および配向を規定し、それにより、結晶化を誘導する条件のもとでそれからの結晶の形成を容易にするように選択される方法。
【請求項31】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項36】
目的とする分子と結合することができる第1の領域と、コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子と結合することができる第2の領域とを有する分子を含む組成物であって、前記第2の領域は、前記コーディネーターイオンまたは前記コーディネーター分子にさらされたとき、前記分子がポリマーを形成するように設計されている組成物。
【請求項37】
前記第2の領域は、2つより大きいコーディネーターイオンまたは分子と結合することができる請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
前記コーディネーターイオンまたは分子の結合が非共有結合である請求項36に記載の組成物。
【請求項39】
目的とする標的分子または標的細胞をサンプルから激減させる方法であって、
(a)目的とする標的分子または標的細胞を含むサンプルを、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする分子と結合することがで
きる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーデ
ィネーターであって、前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネータ
ーが、同時インキュベーションされたときに複合体を形成することができるコー
ディネーター
とを含む組成物と接触させること;および
(b)目的とする標的分子または標的細胞に結合した前記複合体を含む沈殿物を取り除き、それにより、目的とする標的分子または標的細胞をサンプルから激減させること
を含む方法。
【請求項40】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記目的とする標的細胞は、真核細胞、原核細胞およびウイルス細胞からなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項39に記載の方法。
【請求項46】
目的とする標的分子の免疫原性を高める方法であって、目的とする標的分子を、
(i)少なくとも1つの配位成分に結合している、目的とする標的分子と結合することができる少なくとも1つの配位子と、
(ii)前記少なくとも1つの配位成分と非共有結合的に結合することができるコーディネーター
とを含む組成物と接触させることを含み、
この接触は、前記少なくとも1つの配位成分および前記コーディネーターが、目的とする標的分子を含む複合体を形成し、それにより、目的とする標的分子の免疫原性を高めるように行われる方法。
【請求項47】
前記目的とする分子は、タンパク質、核酸配列、小分子化学物質およびイオンからなる群から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記少なくとも1つの配位子は、増殖因子、ホルモン、核酸配列、抗体、エピトープ標識、アビジン、ビオチン、酵素基質および酵素からなる群から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも1つの配位子は、リンカーを介して前記少なくとも1つの配位成分に結合している請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記配位成分は、キレート化剤、ビオチン、核酸配列、エピトープ標識、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項51】
前記コーディネーターイオンまたはコーディネーター分子は、金属イオン、アビジン、核酸配列、電子不足分子および電子過剰分子からなる群から選択される請求項46に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3a−c】
【図3d−e】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a−b】
【図11c】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3a−c】
【図3d−e】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a−b】
【図11c】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公表番号】特表2007−515384(P2007−515384A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520982(P2006−520982)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000669
【国際公開番号】WO2005/010141
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(506025925)アフィシンク バイオテクノロジー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000669
【国際公開番号】WO2005/010141
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(506025925)アフィシンク バイオテクノロジー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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