説明

目的分子の選別可能なレーザーイオン化質量分析法および装置

【課題】分析時間及びコストが低減できる。
【解決手段】目的分子の励起準位に一致した波長の狭帯域レーザーを照射して目的分子のみを励起させる。不純物分子は励起準位と一致しないため励起準位となることはできない。その後、励起された目的分子のみがイオン化可能な強度のフェムト秒レーザーを照射することにより目的分子のみをイオン化し、飛行時間型質量分析装置で分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、目的分子の濃度を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度のレーザーを分子に照射すると光子エネルギーに相当した仮想励起準位を経る多光子の吸収あるいは価電子帯障壁低下イオン化によりイオン化される。これをここでは非共鳴多光子イオン化法という。イオン化した目的分子は飛行時間型質量分析装置を用いて測定される。この原理の特許を以下に示す。
【0003】
【特許文献1】 特願2001−311351、発明の名称“微量成分の分子濃度の測定方法及び装置”、出願人名称 財団法人(財)レーザー技術総合研究所
【0004】
〔0003〕は、レーザーを照射した領域すべての分子をイオン化できることが特徴であるが、分子の選択性は低い。目的分子のみを計測したい場合には分子の選択性を可能とする技術が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非共鳴多光子イオン化法は分子の励起準位に関係なく目的分子をイオン化することが可能である。また、レーザー波長を選択すること、レーザー照射時間がフェムト秒程度と短いことにより、目的分子のフラグメント化(イオン化した分子が分解すること)を抑え、高効率で分子イオンを生じさせることができる。
【0006】
分子中に目的分子以外の不純物分子が混入していた場合、その分子もイオン化され、目的分子と同じ質量であれば(異性体)正確な分析が困難になる。また、分子の毒性が異性体により大きく異なる場合があることが知られている。不純物分子を避け、異性体を区別して測定するためには選択イオン化が可能な手法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
目的分子(分子等)の励起準位にレーザー波長が一致した(共鳴)分子選別用レーザーを目的分子に照射し、目的分子を励起状態とし、同時、または適当な時間の後(適当な時間の経過とは分子の励起寿命程度までを示す)、フェムト秒レーザーを励起された目的分子に照射する。その際、フェムト秒レーザーの波長は分子、また、そのイオンを含む電子遷移、振動遷移、振動の倍音と非共鳴の波長に設定する。分子は非共鳴多光子イオン化あるいは価電子帯障壁低下イオン化機構によりイオン化される。そのイオンを飛行時間型質量分析装置により測定し、分子の定量分析を行う。
【0008】
分子選別用レーザーは光パラメトリック発振などの波長可変レーザーを用いる。原子・分子・クラスターなどあらゆる分子に適用可能である。フェムト秒レーザーは光パラメトリック発振などの波長可変装置を用いる。
【0009】
励起には波長の異なるレーザーを用いても可能。イオン化には波長の異なるフェムト秒レーザーを用いても可能である。
【0010】
図を用いて詳細な説明を行う。分子選別用レーザー図2(8)を用いて分子を選択励起する。目的分子を分子の基底準位図1(1)から分子の励起準位図1(3)まで準位をあげる。その後、選択励起された目的分子をイオン化用フェムト秒レーザー図2(9)でイオン化させる。励起された目的分子を分子の励起準位図1(3)から分子のイオン化準位図1(5)まで準位をあげる。図では4個の光子を吸収しイオン化準位にあがる図となっているが、数個から数十個程度で分子の種類により異なる。
【0011】
目的分子が混入したガス図2(6)中の不純物分子はレーザー波長と励起準位が一致しないため励起されない。また、分子選別用レーザーの強度はすべての分子でイオン化しない程度の強度とする。
【0012】
同時、または時間を経過させた後、イオン化フェムト秒レーザー図2(9)を目的分子が混入したガス図2(6)に照射する。レーザー波長は非共鳴の波長にする。励起された目的分子は励起エネルギー分だけイオン化に必要なエネルギーが低下しており、フェムト秒レーザー光は目的分子のみを多光子吸収過程あるいは価電子帯障壁低下イオン化機構によりイオン化できる。目的の分子以外あるいは不純物分子はイオン化エネルギーが大きいためイオン化されない。
【0013】
イオン化した目的分子を飛行時間型質量分析装置図2(11)を用いて質量分析を行う。
【0014】
上述の手法により、目的分子のみがイオン化でき、不純物分子はイオン化できない。さらに、イオン化フェムト秒レーザー図2(9)の波長は目的分子の電子遷移、振動遷移、振動遷移倍音に非共鳴に設定されている。また、レーザー照射時間がフェムト秒と短い。これらの理由で目的分子がイオン化した後にフラグメント化することを低く押さえることができる。この結果、測定誤差が少なく、目的分子のみを高効率にイオン化させることができる。
【0015】
分子選別用レーザー図2(8)の波長幅を狭帯域化することにより、異性体の分離が可能である。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、不純物を取り除く工程、前処理工程が低減できる。このことにより、分析の時間およびコストの低減につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
分子選別用レーザーは波長が紫外域のレーザーで、パルス幅は10〜100000ps程度が有効である。また、フェムト秒レーザーの波長は特に限定されていないが、集光強度1012〜1016Wcm−2、350〜2500nmを使用するのが好ましい。
【0018】
この分子の例としては、限定されていないが、ハロゲン化分子、多塩化ダイオキシン類(ダイオキシン、ジベンゾフラン、PCBなど)が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
土壌、液体中、気体中(煤煙)などの微量ハロゲン物質の迅速検出に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】目的分子のイオン化に至るための分子のイオン化レベル模式図。基底準位に存在する分子内の電子は分子選別用レーザーを吸収し、分子内の電子が基底準位から励起準位にあがるエネルギー遷移を表す。その後、多光子のフェムト秒レーザーを吸収することによりイオン化準位に達する。その一例として、フェムト秒レーザーを1個吸収し、分子内の電子が励起準位からイオン化準位まであがるエネルギー遷移を表す。図では4個の光子を吸収しイオン化準位にあがる図となっているが、数個から数十個程度で分子の種類により異なる。
【図2】分子選別用レーザーとイオン化用フェムト秒レーザーを照射し目的分子をイオン化させる。イオン化した目的分子がイオン掃引電極によって質量分析装置を進み、飛行時間型質量分析装置で分子の質量分析を行う装置図。
【符号の説明】
(1) 分子の基底準位
(2) 分子選別用レーザーを吸収して生じる電子のエネルギー遷移
(3) 分子の励起準位
(4) フェムト秒レーザーを吸収して生じる電子のエネルギー遷移
(5) 分子のイオン化準位
(6) 目的分子が混入したガス
(7) レーザー入射窓
(8) 分子選別用レーザー
(9) イオン化用フェムト秒レーザー
(10) イオン化チャンバー
(11) 飛行時間型質量分析装置
(12) イオン掃引電極
(13) 分子選別レーザー装置
(14) フェムト秒レーザー装置
(15) イオン化された目的分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的分子(分子等)の準位にレーザー波長が一致した(共鳴)分子選別用レーザーを目的分子に照射し、目的分子を励起状態とし、同時、または適当な時間の後、フェムト秒レーザーを励起された目的分子に照射する。その際、フェムト秒レーザーの波長は分子、また、そのイオンを含む電子遷移、振動遷移、振動の倍音と非共鳴の波長に設定する。分子は非共鳴多光子イオン化あるいは価電子帯障壁低下イオン化機構によりイオン化される。そのイオンを飛行時間型質量分析装置により測定し、分子の定量分析を行う方法および装置。
分子選別用レーザーは光パラメトリック発振などの波長可変レーザーを用いる。原子・分子・クラスターなど(以下、分子と表記する)あらゆる分子に適用可能。フェムト秒レーザーは光パラメトリック発振などの波長可変装置を用いる。
励起には波長の異なるレーザーを用いても可能。イオン化には波長の異なるフェムト秒レーザーを用いても可能。

【図1】
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【図2】
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