説明

目的物質の分離・回収方法及び分離・回収システム

【課題】目的物質(例えば希土類元素等)を含む製品(例えば希土類磁石等)等から当該目的物質を低エネルギー及び低コストで分離・回収する方法及び当該方法を実施するための分離・回収システムを提供する。
【解決手段】少なくとも一種の目的物質と、他種物質とを含有する固体状物RMから、目的物質を分離し、回収する方法であって、低酸素雰囲気下で固体状物を当該固体状物の一の面側から、加熱手段22を用いて加熱して固液共存物とする加熱工程と、加熱工程後に固液共存物が固化してなる固化物の一の面側に析出した目的物質を回収する回収工程とを含む。析出した酸化物を物をハロゲン化処理部3にてハロゲン化し、さらに脱ハロゲン化処理部6にて脱ハロゲン化処理し、回収される。加熱工程においては、固体状物RMから蒸発した前記目的物質を、捕集板23を用いて固体状で捕集する捕集工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的物質を含む固体状物から当該目的物質を分離し、回収する方法及び当該方法を実施するためのシステムに関し、特に希土類元素等の有価元素を回収する方法及び当該方法を実施するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類(レアアース)元素は、永久磁石(希土類磁石)、蛍光体、触媒等の材料として幅広い分野で使用されており、今後もその需要が拡大する傾向にある。この希土類元素は、我が国の産業にとって極めて重要な資源であるにもかかわらず、我が国からはほとんど産出されないため、専ら外国資源に依存している。そして、今後も世界的に希土類元素の需要の拡大が予想される中、省資源化、資源の安定供給等の観点から、希土類元素が材料として用いられた製品、当該製品の生産時に発生する屑や不良スクラップから、非常に高価な希土類元素を分離・回収して再利用するリサイクル技術が盛んに開発されている。
【0003】
このような希土類元素の分離・回収技術としては、従来、抽出剤を含有する有機相と、抽出すべき希土類元素を含有する水相とを接触させることにより特定の希土類元素を有機相に抽出し、その後有機相を酸水溶液にて逆抽出することで選択的に特定の希土類元素を分離する方法が提案されている(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−1583号公報
【特許文献2】特開2011−1584号公報
【特許文献3】特開2011−1586号公報
【特許文献4】特開2009−249674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に記載のような、いわゆる湿式リサイクル法においては、希土類元素を抽出するために用いられる抽出剤を含有する有機溶媒や、酸、アルカリ等の廃液が大量に発生してしまうため、その廃液処理に要するエネルギーやコストが増大し、分離・回収された希土類元素が非常に高価なものとなってしまうという問題がある。
【0006】
このように、市中から製品等を回収して当該製品に含まれる希土類元素を分離・回収し、当該希土類元素を再利用する、いわゆるリサイクル技術が盛んに開発されているものの、リサイクル費用の観点等から実用化には至っていないという現状がある。
【0007】
このような状況に鑑みて、本発明は、目的物質(例えば希土類元素等)を含む製品(例えば希土類磁石等)等から当該目的物質を低エネルギー及び低コストで分離・回収する方法及び当該方法を実施するための分離・回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも一種の目的物質と、他種物質とを含有する固体状物から、前記目的物質を分離し、回収する方法であって、低酸素雰囲気下で前記固体状物を当該固体状物の一の面側から加熱して固液共存物とする加熱工程と、前記加熱工程後に前記固液共存物が固化してなる固化物の一の面側に析出した前記目的物質を回収する回収工程とを含むことを特徴とする分離・回収方法を提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)によれば、固体状物を一の面側から加熱して固液共存物とすることで、当該固液共存物が固化してなる固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に目的物質を偏析させることができ、当該目的物質を高純度で回収することができる。また、上記発明(発明1)によれば、有機溶媒や酸等を用いない乾式処理により目的物質を分離し、回収することで、それらの廃液処理に要するエネルギーやコストが不要となるため、低エネルギー及び低コストでの目的物質の分離・回収が可能となる。
【0010】
なお、本発明において「固液共存物」とは、固体状物の一部が溶融(熔融)して液体と固体とが共存している状態の物を意味し、液体中に固体が分散した状態の物のほか、固体状物の一部が溶融(熔融)して液相と固相とに分離した状態の物も含むものとする。また、本発明において「低酸素雰囲気」とは、雰囲気中の酸素分圧が、大気圧における空気中の酸素分圧よりも小さいことを意味し、例えば、当該雰囲気が、酸素が乾燥不活性ガス等により置換された雰囲気であってもよいし、減圧雰囲気であってもよい。
【0011】
上記発明(発明1)においては、前記加熱工程において、前記固体状物から前記目的物質を実質的に蒸発させないように前記固体状物の一の面側から加熱するのが好ましい(発明2)。かかる発明(発明2)によれば、目的物質の回収率をより向上させることができる。
【0012】
なお、本発明において「目的物質が実質的に蒸発しない」とは、目的物質の蒸発量が固体状物中に含まれる目的物質量に対して10質量%以下、好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下であることを意味するものとする。
【0013】
上記発明(発明1,2)においては、前記加熱工程において、前記固液共存物に少なくとも一方向の温度勾配を付与するように前記固体状物の一の面側から加熱するのが好ましい(発明3)。かかる発明(発明3)によれば、加熱中の固液共存物に温度勾配を付与することで、固液共存物の一の面(加熱面)側に向けて当該目的物質が拡散するため、当該固液共存物が固化してなる固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に高純度の目的物質を偏析させることができ、固体状物からの目的物質の回収率を向上させることができる。
【0014】
上記発明(発明1〜3)においては、前記加熱工程において、酸素分圧が1.0×10-2Pa以下の雰囲気で前記固体状物の一の面側から加熱することができる(発明4)。
【0015】
上記発明(発明1〜4)においては、前記目的物質が、希土類元素であるのが好ましく(発明5)、前記固体状物が、前記目的物質としての希土類元素及び前記他種物質としての鉄族元素を含有する使用済希土類焼結磁石であるのが好ましい(発明6)。
【0016】
上記発明(発明5,6)においては、前記回収工程は、前記固化物の一の面側に拡散して析出した前記希土類元素の酸化物をハロゲン化して、前記希土類元素のハロゲン化物を回収する工程であるのが好ましい(発明7)。
【0017】
固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に偏析した希土類元素は、極めて酸化されやすい物質であるため、希土類元素の酸化物が固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に偏在することになる。この酸化物は、希土類元素単体よりも所定温度における蒸気圧が極めて低いため、固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に偏析した希土類元素(希土類元素の酸化物)を、例えば蒸発させる等により回収するのは困難である。しかしながら、希土類元素のハロゲン化物は、希土類元素の酸化物よりも所定温度における蒸気圧が極めて高いため、かかる発明(発明7)のように、希土類元素(希土類元素の酸化物)をハロゲン化することで、当該ハロゲン化物を、例えば蒸発させる等により容易に回収することができる。
【0018】
上記発明(発明7)においては、前記希土類元素のハロゲン化物に脱ハロゲン化処理を施す脱ハロゲン化工程をさらに含み、前記回収工程において、前記脱ハロゲン化工程により得られたハロゲンを用いて前記希土類元素の酸化物をハロゲン化するのが好ましい(発明8)。かかる発明(発明7)によれば、ハロゲンを排出することのないクローズドシステムとして目的物質を分離・回収することができる。
【0019】
上記発明(発明1〜8)においては、前記加熱工程において前記固体状物から蒸発した前記目的物質を固体状で捕集する捕集工程をさらに含むのが好ましい(発明9)。加熱工程において目的物質を実質的に蒸発させないように加熱をしたとしても、目的物質がわずかに蒸発してしまうことがある。しかしながら、かかる発明(発明9)によれば、当該蒸発した目的物質も回収することができるため、目的物質の回収率をより向上させることができる。
【0020】
また、本発明は、少なくとも一種の目的物質と、他種物質とを含有する固体状物から、前記目的物質を固体状で分離・回収するシステムであって、低酸素雰囲気下で前記固体状物を当該固体状物の一の面側から加熱して固液共存物とする加熱手段を有する加熱炉と、前記固液共存物が固化してなる固化物の一の面側に前記目的物質を析出させるように前記加熱手段を制御する制御部とを備えることを特徴とする分離・回収システムを提供する(発明10)。
【0021】
上記発明(発明10)においては、前記制御部は、前記固体状物から前記目的物質を実質的に蒸発させることのないように(発明11)、かつ前記固液共存物に少なくとも一方向の温度勾配を付与するように前記加熱手段を制御するのが好ましい(発明12)。
【0022】
上記発明(発明10〜12)においては、前記目的物質が、希土類元素であるのが好ましく(発明13)、前記固体状物が、前記目的物質としての希土類元素及び前記他種物質としての鉄族元素を含有する使用済希土類焼結磁石であるのが好ましい(発明14)。
【0023】
上記発明(発明13,14)においては、前記固液混合物が固化してなる固化物の一の面側に析出した前記希土類元素の酸化物をハロゲン化するハロゲン化処理部をさらに備えるのが好ましく(発明15)、かかる発明(発明15)においては、前記ハロゲン化処理部によりハロゲン化された前記目的物質を回収するハロゲン化物回収部をさらに備えるのが好ましく(発明16)、かかる発明(発明16)においては、前記ハロゲン化物回収部により回収された前記目的物質のハロゲン化物を脱ハロゲン化処理する脱ハロゲン化処理部と、前記脱ハロゲン化処理部と前記ハロゲン化処理部とを連通する連通管とを備えるのが好ましく(発明17)、上記発明(発明10〜17)においては、前記加熱炉は、前記固体状物から蒸発した前記目的物質を捕集する捕集部を有するのが好ましい(発明18)。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、目的物質を含む製品等から当該目的物質を低エネルギー及び低コストで分離・回収する方法及び当該方法を実施するための分離・回収システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る目的物質の分離・回収システムを示す構成及び処理フローを示す概略図である。
【図2】実施例における加熱後に残存した希土類磁石の断面写真である。
【図3】実施例における捕集板の表面に形成された皮膜の原子組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る目的物質の分離・回収方法について説明する。なお、本実施形態においては、目的物質としての希土類元素(ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)等)と他種物質としての鉄族元素(鉄等)とを含む希土類磁石(例えば、ネオジム磁石等)から、希土類元素を分離し、回収する方法を例に挙げて説明するが、本発明はこの方法に限定されるものではなく、例えば、市中から回収したアルミスクラップより他種物質としてのアルミニウム(Al)よりも蒸気圧の高い目的物質(Mg、Zn等の添加物等)を分離し、回収する方法等が挙げられる。なお、本実施形態における希土類磁石には、市中から回収した各種製品(ハイブリッド車等のモータ、発電機、ボイスコイルモータ(VCM)等)に含まれる希土類磁石の他、希土類磁石の製造過程(磁石加工工程、研削工程等)にて発生する固形スクラップ、スラッジ(加工、研削屑等)等も含まれる。
【0027】
本実施形態に係る希土類元素の分離・回収方法は、低酸素雰囲気下で固体状の希土類磁石を当該希土類磁石の一の面(加熱面)側から加熱して固液共存物とする加熱工程と、加熱工程後に固液共存物が固化してなる固化物の一の面側に析出した希土類元素を回収する回収工程とを含む。
【0028】
まず、低酸素雰囲気下で固体状の希土類磁石の一の面側から加熱して固液共存物とする。すなわち、希土類磁石を局所的に加熱する。具体的には、加熱工程における雰囲気中の酸素分圧を、好ましくは1.0×10-8〜1.0×10-2Paに設定する。
【0029】
加熱工程における雰囲気中の酸素分圧を上記範囲内に設定する方法としては、雰囲気中の酸素をアルゴン、窒素等の乾燥不活性ガスで置換する方法、雰囲気を減圧する方法、これらの方法を組み合わせる方法(乾燥不活性ガスによる置換及び雰囲気の減圧)等が挙げられる。これらのうち、雰囲気を減圧する方法においては、特に真空度が高くなるに従い、希土類磁石からの希土類元素の蒸発が促進されてしまうおそれがある。その結果として、希土類磁石の加熱による固液共存物が、加熱後の冷却により固化してなる固化物において当該固化物の一の面(希土類磁石における加熱面に相当する面)に析出する希土類元素量が低減し、希土類元素の回収量が低下してしまうおそれがある。したがって、雰囲気中の酸素分圧を上記範囲に設定するために、可能な限り雰囲気を減圧することなく、雰囲気中の酸素を乾燥不活性ガスで置換する方法を適用するのが好ましい。
【0030】
加熱工程においては、希土類磁石を加熱してなる固液共存物の加熱面の表面温度が、希土類元素が実質的に蒸発しない温度になるように加熱するのが好ましい。このようにして加熱することで、固液共存物が加熱後の冷却により固化してなる固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に希土類元素をより高純度で析出させることができる。
【0031】
また、加熱工程においては、希土類磁石を加熱してなる固液共存物の加熱面から当該加熱面の対向面に向けて当該固液共存物に温度勾配を付与するように希土類磁石の一面側から加熱するのが好ましい。固液共存物に温度勾配を付与することにより、固液共存物が加熱後に冷却により固化してなる固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に希土類元素を拡散・対流させることができ、高純度での希土類元素の回収が可能となる。
【0032】
なお、市中から回収された製品等に含まれる希土類磁石は、表面にめっき、塗料、接着剤等が付着していたり、着磁されたままの状態であったりするため、当該希土類磁石を加熱工程に付する前に、所定の前処理工程に付することが好ましい。具体的には、前処理工程は、回収された希土類磁石をキュリー温度以上で加熱して脱磁(消磁)する工程、ショットブラスト等により希土類磁石の表面の付着物(めっき、塗料、接着剤等)を除去する工程、希土類磁石を所定の粒度に粉砕する工程等を含むのが好ましい。
【0033】
続いて、希土類磁石の加熱による固液共存物が加熱後の冷却により固化してなる固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に拡散・対流し、析出した希土類元素を回収する。当該固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)に析出した希土類元素は、極めて酸化されやすい特性を有するため、加熱工程を低酸素雰囲気下にて行ったとしても、当該固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)には希土類元素が酸化物として偏析することになる。そのため、希土類元素を回収する工程においては、希土類酸化物を回収することになる。
【0034】
希土類酸化物を回収する方法として、例えば、上記固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)に析出した希土類酸化物層を機械的に分離する方法(スクレーパ等で切削する方法、希土類酸化物が析出した固化物を粉砕し、希土類酸化物とその他の物質との比重差を用いて分離する方法等);当該固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)に析出した希土類酸化物をさらに加熱して蒸発させ、回収する方法;当該固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)に析出した希土類酸化物をハロゲン化し、当該ハロゲン化物を回収する方法等が挙げられる。
【0035】
希土類酸化物をハロゲン化し、当該ハロゲン化物を回収する方法は、例えば、上記固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)に析出した希土類酸化物をハロゲン化するハロゲン化工程と、希土類ハロゲン化物を回収するハロゲン化物回収工程とにより構成され得る。
【0036】
希土類酸化物は、ハロゲンとの接触により、下記反応式(1)に示すようにハロゲン化されるものと考えられる。
1/3Dy23 + F2 → 2/3DyF3 +1/2O2 …(1)
【0037】
上記反応式(1)による反応に関するギブス自由エネルギー変化(ΔG)を、熱力学平衡計算ソフトウェア(FactSage,研鑚力学研究センター社製)を用いて算出したところ、当該ΔGは負の値を示した。この結果から、上記反応式(1)に示す反応は、希土類酸化物とハロゲンとの接触により自発的に進行するものと考えられる。
【0038】
ハロゲン化工程においては、例えば、希土類磁石の表面に析出した希土類酸化物にフッ素ガス等を、所定の温度条件下(1000〜2000℃程度)及び所定の圧力条件下(酸素分圧:0.101325〜101325Pa)で接触させることにより、希土類酸化物を気体状の希土類ハロゲン化物とすることができる。
【0039】
そして、ハロゲン化物回収工程において、この気体状の希土類ハロゲン化物をコールドトラップ等により冷却して回収する。
【0040】
本実施形態においては、このようにして回収された希土類ハロゲン化物から脱ハロゲン化する脱ハロゲン化工程をさらに含むのが好ましい。かかる脱ハロゲン化工程においては、例えば、希土類ハロゲン化物と金属カルシウムとを混合し、当該混合物に熱処理を施す方法(熱還元法);希土類ハロゲン化物を溶融させて電解する方法(溶融電解法)等を用いることにより、希土類元素を得ることができる。
【0041】
なお、脱ハロゲン化工程において得られるハロゲン(フッ素ガス)、又は脱ハロゲン化工程において得られたハロゲン化カルシウムから所望の方法により単離されたハロゲン(フッ素ガス)を、ハロゲン化工程におけるハロゲン化剤として再利用するのが好ましい。これにより、ハロゲン化工程、ハロゲン化物回収工程及び脱ハロゲン化工程においてハロゲンのクローズドフローとして処理することができる。
【0042】
なお、上述したように、希土類元素を実質的に蒸発させないように希土類磁石を加熱したとしても、希土類磁石から若干量の希土類元素が蒸発することがある。そのため、本実施形態においては、当該蒸発物としての希土類元素を固体状で捕集する捕集工程をさらに有するのが好ましい。これにより、希土類元素の回収率をさらに向上させることができる。また、上述したように、加熱工程においては、希土類磁石(固液共存物)の表面温度(加熱面の温度)が、希土類元素を実質的に蒸発させることのない温度になるように加熱するが、かかる温度においては希土類元素の蒸気圧が鉄族元素の蒸気圧よりも高いため、希土類磁石からの蒸発物は、希土類元素の純度の高いものとなる。よって、この蒸発物の回収により、希土類元素の回収率及び回収量を増大させることが可能となる。
【0043】
なお、蒸発物としての希土類元素を固体状で捕集する方法としては、例えば、希土類磁石の上方や、必要に応じて側方にステンレス製の捕集板等を設置し、希土類磁石から蒸発した希土類元素からなる薄膜を当該捕集板表面に成膜する方法等が挙げられる。かかる捕集板表面の成膜物は、希土類元素の純度が高く、鉄族元素を実質的に含まないものであるため、当該成膜物を、例えば機械的に切削すること等により、高純度の希土類元素を回収することができる。
【0044】
上述した本実施形態に係る希土類元素の分離・回収方法によれば、希土類磁石の加熱面に希土類元素を拡散・偏析させることができるため、高純度で希土類元素を分離・回収することができる。しかも、希土類磁石の加熱により蒸発した希土類元素をも回収することで、希土類元素の回収率をさらに向上させることができる。
【0045】
次に、上述した本実施形態に係る希土類元素の分離・回収方法を実施するためのシステムの一構成例について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態における希土類元素の分離・回収システムの構成及び処理フローを示す概略図である。
【0046】
図1に示すように、本実施形態における希土類元素の分離・回収システム1は、希土類元素を含有する希土類磁石RMを低酸素雰囲気下で加熱し得る加熱炉2と、加熱炉2での加熱による希土類磁石RMの固液共存物が固化してなる固化物にハロゲン化処理を施し得るハロゲン化処理部3と、ハロゲン化処理部3内にハロゲン化剤を供給するハロゲン化剤供給部4と、ハロゲン化処理が施された固化物から希土類元素のハロゲン化物を回収するハロゲン化物回収部5と、ハロゲン化物回収部5において回収された希土類元素のハロゲン化物に脱ハロゲン化処理を施し得る脱ハロゲン化処理部6と、脱ハロゲン化処理部6とハロゲン化処理部4とを連通する連通管7とを備える。
【0047】
加熱炉2は、希土類磁石RMを保持するための試料ホルダ21と、試料ホルダ21に保持された希土類磁石RMの一の面(上面)から加熱し得る加熱手段22と、希土類磁石RMから蒸発した希土類元素を捕集する捕集板23とを有する。
【0048】
このような加熱手段22を有する加熱炉2としては、希土類磁石RMの一の面(上面)から加熱し得るもの、すなわち希土類磁石RMを局所的に加熱し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば、電子線照射装置を有する真空加熱装置、真空アーク溶解炉、プラズマアーク溶解炉、高周波誘導加熱溶解炉等が挙げられ、特に照射スポット径を容易に調整し得る電子線照射装置を有する真空加熱装置が好適である。
【0049】
捕集板23は、本実施形態においては希土類磁石RMの上方に設けられてなる、略平板上のものであるが、捕集板23の形状は、希土類磁石RMから蒸発した希土類元素を捕集し得る限り特に制限されるものではない。
【0050】
なお、本実施形態における希土類元素の分離・回収システム1は、加熱炉2内にアルゴン、窒素等の乾燥不活性ガスを供給し得る不活性ガス供給部(図示せず)を備える。
【0051】
また、本実施形態における希土類元素の分離・回収システム1は、加熱手段22を制御する制御部8を備える。この制御部8により加熱手段22が制御されることで、希土類磁石RMが固液共存物とされ、好ましくは、希土類磁石RMの加熱面(上面)の表面温度を希土類磁石RM(固液共存物)から希土類元素を実質的に蒸発させることのない温度にすることができる。具体的には、制御部8は、加熱中の希土類磁石RMにその加熱面(上面)から下方に向けて温度勾配を付与するように、加熱手段22を制御する。例えば、加熱手段22として電子線ビーム加熱装置を用いる場合、制御部8は、当該電子線ビーム加熱装置に通電される電流値を制御して、希土類磁石RMの加熱面の表面温度を制御することができる。
【0052】
ハロゲン化処理部3は、希土類磁石の表面に偏析した希土類酸化物を希土類ハロゲン化物ガスとし得るような機能を有する装置であれば、その装置構成が限定されるものではない。このような装置としては、例えば、所望により粉砕した、表面に希土類酸化物が偏析してなる希土類磁石を内部に収容し、減圧加熱条件下でハロゲンガス(フッ素ガス)を通気することにより、希土類酸化物を気体状の希土類ハロゲン化物とし得る気相流通反応装置等が挙げられる。
【0053】
ハロゲン化物回収部5は、ハロゲン化処理部3からの希土類ハロゲン化物ガスを冷却して回収し得る機能を有する装置であれば、その装置構成が限定されるものではない。このような装置としては、例えば、希土類ハロゲン化物ガスを冷却して液体状又は固体状の希土類ハロゲン化物として捕集し得るコールドトラップ等が挙げられる。
【0054】
脱ハロゲン化処理部6は、ハロゲン化物回収部5にて回収(捕集)された希土類ハロゲン化物を脱ハロゲン化し得る機能を有する装置であれば、その装置構成が限定されるものではない。このような装置としては、例えば、希土類ハロゲン化物と金属カルシウムとの混合物を加熱することにより希土類ハロゲン化物を熱分解し得る熱分解装置、希土類ハロゲン化物を溶融電解させ得る溶融電解装置等が挙げられる。
【0055】
このような構成を有する分離・回収システム1において、まず、加熱炉2内に不活性ガス供給部(図示せず)からアルゴン、窒素等の不活性ガスを導入して加熱炉2内の空気中の酸素を当該不活性ガスで置換し、かつ必要に応じて加熱炉2内を減圧して、加熱炉2内の雰囲気を低酸素雰囲気とする。
【0056】
次に、所定の前処理が施された希土類磁石RMを試料ホルダ21に保持させ、加熱手段22により希土類磁石RMの上面を加熱する。このとき、制御部8により加熱手段22が制御されることで、希土類磁石RMが固液共存物とされ、好ましくは希土類磁石RM(固液共存物)の上面(加熱面)の表面温度が、希土類磁石RMから希土類元素を実質的に蒸発させないような温度になる。さらに好ましくは、加熱中の希土類磁石RM(固液共存物)にその上面(加熱面)から下方に向けて温度勾配が付与される。
【0057】
上記のようにして加熱されると、加熱炉2にて加熱された希土類磁石RMの固液共存物が加熱後に固化してなる固化物の一の面(固液共存物の加熱面に相当する面)側に希土類元素が拡散・対流し、当該固化物の一の面には希土類酸化物が偏析する。その後、当該固化物の一の面の希土類酸化物がハロゲン化処理部3にて希土類ハロゲン化物とされ、得られた希土類ハロゲン化物がハロゲン化物回収部5にて回収される。回収された希土類ハロゲン化物は、脱ハロゲン化処理部6にて脱ハロゲン化処理に付され、これにより希土類元素が回収され得る。一方、脱ハロゲン化処理部6にて得られたハロゲン(ハロゲンガス)は、連通管7を介してハロゲン化処理部3に供給され、再度ハロゲン化剤として用いられる。したがって、ハロゲン化処理部3、ハロゲン化物回収部5及び脱ハロゲン化処理部6を、ハロゲンが環境中へ排出されることのないクローズドシステムとして機能させることができる。
【0058】
なお、希土類磁石RMから蒸発した若干量の希土類元素は、捕集板23の表面に析出するため、当該捕集板23表面からも希土類元素を回収することができる。
【0059】
このように本実施形態における分離・回収システム1によれば、加熱炉2を用いて低酸素雰囲気下で希土類磁石RMを加熱して希土類磁石RMの加熱面に希土類元素(希土類酸化物)を偏析させることができるため、低エネルギー及び低コストで希土類磁石RMから希土類元素を分離し、回収することができる。また、希土類磁石RMの加熱面に偏析した希土類酸化物をハロゲン化してなる希土類ハロゲン化物として回収するとともに、希土類ハロゲン化物から脱ハロゲン化して得られるハロゲンを、希土類酸化物をハロゲン化する際のハロゲン化剤として再利用することができる。
【0060】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0061】
上記実施形態においては、減圧加熱工程における加熱後、固液共存物が固化してなる固化物の表面に析出した希土類酸化物をハロゲン化し、得られた希土類ハロゲン化物から脱ハロゲン化することにより希土類元素を回収しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、希土類ハロゲン化物から脱ハロゲン化しなくてもよく、希土類磁石から回収された希土類ハロゲン化物を、そのまま蛍光体等の原料として再利用してもよい。
【0062】
また、上記実施形態の加熱工程においては、希土類磁石の加熱面の温度を、希土類元素が実質的に蒸発しない温度で所定の時間維持するように希土類磁石を加熱する加熱工程、加熱後の希土類磁石の加熱面の温度が所定の温度になるまで冷却する冷却工程、及び冷却後の温度で所定の時間希土類磁石を保温する保温工程を複数回繰り返し行ってもよい。これにより、希土類磁石の加熱面側への希土類元素の拡散(偏析)量をより増大させさせることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0064】
〔実施例1〕
市中より回収したネオジム磁石をキュリー温度以上に加熱して消磁した後、表面を研磨して試料とした(厚さ:6mm,ネオジム磁石0.1kg相当)。電子ビーム照射装置を有する真空加熱装置(ALD Vacuum Technologies社製,製品名:ELECTRON BEAM MELTING FURNACE)内に、坩堝の側方から上方に向けて立設したステンレス製の捕集板を折曲して、坩堝の上方にも捕集板が位置するように捕集板を設け、当該真空加熱装置内の坩堝に試料を収容し、真空加熱装置内の初期圧力条件を3.0×10-2Pa(酸素分圧:6.3×10-3Pa程度)として、2時間、電子ビーム照射装置から試料の上面に向けて電子ビームを照射した。なお、電子ビームへの出力電流を制御することで、試料の加熱面の温度を所定の温度(1330℃)に制御し、試料に加熱面から下方に向けて温度勾配を付与した。
【0065】
所定の時間加熱後の希土類磁石の断面写真を図2に示す。図2中、上方が加熱面である。図2から明らかなように、希土類磁石の加熱による固液共存物が固化してなる固化物の一の面(希土類磁石(固液共存物)の加熱面に相当する面)に希土類酸化物が偏析していた(図2に示す断面写真のうち、薄いグレー色で表されている部分)。このことから、偏析した希土類酸化物を回収することで、希土類元素の分離・回収が可能であることが確認された。
【0066】
また、真空加熱装置内に設けた捕集板の表面に薄膜が形成されており、当該薄膜の組成分析を、全自動走査型X線光電子分光分析装置(PHI社製,製品名:Quantera SXM)を用いて行った。結果を図3に示す。
【0067】
図3は、捕集板の表面に形成された薄膜の原子組成を示すグラフであり、縦軸が原子濃度、横軸が皮膜の膜厚を示し、グラフ中に記載された縦線の左側が皮膜表面を、右側が捕集板を表す。図3から明らかなように、捕集板の表面に形成された皮膜は、極めて膜厚の薄いものではあるが、ネオジム酸化物とジスプロシウム酸化物とを含み、鉄をほとんど含まないものであった。なお、捕集板の表面に形成された皮膜中にモリブデンが含まれているが、これは、皮膜が形成された補修板を構成する成分であると考えられる。
【0068】
また、捕集板により回収された希土類元素の質量から、試料として用いたネオジム磁石に含まれる希土類元素のうち、0.07質量%の希土類元素が蒸発していることが推定された。
【0069】
上記実施例から、希土類磁石の一方向からの加熱により、希土類磁石の加熱面に希土類元素を偏析させることができるため、偏析した希土類元素を高純度で回収することができることが確認された。そして、その加熱により希土類磁石からわずかに蒸発した希土類元素をも回収することで、希土類元素を回収率のさらなる向上が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の分離・回収方法は、希土類磁石のリサイクル産業において有用である。
【符号の説明】
【0071】
1…分離・回収システム
2…減圧加熱炉
22…加熱手段
23…捕集板(捕集部材)
3…ハロゲン化処理部
5…ハロゲン化物回収部
6…脱ハロゲン化処理部
7…連通管
8…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の目的物質と、他種物質とを含有する固体状物から、前記目的物質を分離し、回収する方法であって、
低酸素雰囲気下で前記固体状物を当該固体状物の一の面側から加熱して固液共存物とする加熱工程と、
前記加熱工程後に前記固液共存物が固化してなる固化物の一の面側に析出した前記目的物質を回収する回収工程と
を含むことを特徴とする分離・回収方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、前記固体状物から前記目的物質を実質的に蒸発させないように前記固体状物の一の面側から加熱することを特徴とする請求項1に記載の分離・回収方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、前記固液共存物に少なくとも一方向の温度勾配を付与するように前記固体状物の一の面側から加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の分離・回収方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、酸素分圧が1.0×10-2Pa以下の雰囲気で前記固体状物の一の面側から加熱することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分離・回収方法。
【請求項5】
前記目的物質が、希土類元素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分離・回収方法。
【請求項6】
前記固体状物が、前記目的物質としての希土類元素及び前記他種物質としての鉄族元素を含有する使用済希土類焼結磁石であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の分離・回収方法。
【請求項7】
前記回収工程は、前記固化物の一の面側に拡散して析出した前記希土類元素の酸化物をハロゲン化して、前記希土類元素のハロゲン化物を回収する工程であることを特徴とする請求項5又は6に記載の分離・回収方法。
【請求項8】
前記希土類元素のハロゲン化物に脱ハロゲン化処理を施す脱ハロゲン化工程をさらに含み、
前記回収工程において、前記脱ハロゲン化工程により得られたハロゲンを用いて前記希土類元素の酸化物をハロゲン化することを特徴とする請求項7に記載の分離・回収方法。
【請求項9】
前記加熱工程において前記固体状物から蒸発した前記目的物質を固体状で捕集する捕集工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の分離・回収方法。
【請求項10】
少なくとも一種の目的物質と、他種物質とを含有する固体状物から、前記目的物質を固体状で分離・回収するシステムであって、
低酸素雰囲気下で前記固体状物を当該固体状物の一の面側から加熱して固液共存物とする加熱手段を有する加熱炉と、
前記固液共存物が固化してなる固化物の一の面側に前記目的物質を析出させるように前記加熱手段を制御する制御部と
を備えることを特徴とする分離・回収システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記固体状物から前記目的物質を実質的に蒸発させることのないように前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項10に記載の分離・回収システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記固液共存物に少なくとも一方向の温度勾配を付与するように前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項10又は11に記載の分離・回収システム。
【請求項13】
前記目的物質が、希土類元素であることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の分離・回収システム。
【請求項14】
前記固体状物が、前記目的物質としての希土類元素及び前記他種物質としての鉄族元素を含有する使用済希土類焼結磁石であることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の分離・回収システム。
【請求項15】
前記固液混合物が固化してなる固化物の一の面側に析出した前記希土類元素の酸化物をハロゲン化するハロゲン化処理部をさらに備えることを特徴とする請求項13又は14に記載の分離・回収システム。
【請求項16】
前記ハロゲン化処理部によりハロゲン化された前記目的物質を回収するハロゲン化物回収部をさらに備えることを特徴とする請求項15に記載の分離・回収システム。
【請求項17】
前記ハロゲン化物回収部により回収された前記目的物質のハロゲン化物を脱ハロゲン化処理する脱ハロゲン化処理部と、
前記脱ハロゲン化処理部と前記ハロゲン化処理部とを連通する連通管と
を備えることを特徴とする請求項16に記載の分離・回収システム。
【請求項18】
前記加熱炉は、前記固体状物から蒸発した前記目的物質を捕集する捕集部を有することを特徴とする請求項10〜17のいずれかに記載の分離・回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−87318(P2013−87318A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227819(P2011−227819)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】