説明

目視濃度定量法及び反応容器

【課題】 測定者や体調に関係なく一定の測定結果が得られる目視濃度定量法並びにそれに用いる反応容器の提供。
【解決手段】 試料の濃度が反応試薬に対して一定の濃度比を超えると変色する反応試薬を、各々異なる規定の濃度で複数収容してなる濃度スケールを設定し、変色した反応試薬の個数を以って試料の成分濃度を判定する目視濃度定量法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬の成分濃度を目視で判定する簡易な分析法、及びそれに用いる反応容器に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで環境分析において現場で迅速且つ安価で特別な技術を必要としない簡易分析法の開発が盛んに行われてきた。なかでも、水分に含まれる成分の簡易分析として試料水に発色試薬を加えることによって、試料水の濃度を色の濃淡に変換し、その色の濃淡を判定する比色法(例えば、下記特許文献3参照。)が主流であった。
【0003】
【特許文献1】特開2001−333797号公報
【特許文献2】特開2004−340759号公報
【特許文献3】特開2007−183104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、人間の目は色の濃淡を明確に数値化することができないため、これらの計測法の分析結果は、測定者に応じた個人差や光線の状態を含む現場環境に応じた差異が生じるという問題がある。一方、反応容器と比色セルを兼ねた多数の収容部からなるマイクロプレートを用いる計算法は、多検体を同時に吸光測定を行う事が可能であるため、主に臨床の分野で用いられている。しかしながら、計測装置たるマイクロプレートリーダーは、高価であり、十分な感度が得られないため、これまで他分野における応用はほとんど報告されていない。また、その他の比色法で用いる分光光度計にあっても高価なものが多く、大量の試薬について濃度定量を行うには時間を要するという問題もある。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するために、測定者や体調に関係なく一定の測定結果が得られる目視濃度定量法並びにそれに用いる反応容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明による目視濃度定量法は、試料の濃度が反応試薬に対して一定の濃度比を超えると変色する反応試薬を、各々異なる規定の濃度で複数収容してなる濃度スケールを設定し、変色した反応試薬の個数を以って試料の成分濃度を判定することを特徴とする。
【0007】
前記濃度スケールは、前記反応試薬の濃度を段階的に単調増加(a(i)≦a(i+1) (i≧1))又は単調減少(a(i)≧a(i+1) (i≧1))させた濃淡階調列を構成してなり、前記濃度スケールは、複数の前記濃淡階調列を縦又は横に並設してなる構成を採り、複数の試料の濃度比較を行う場合もある。
【0008】
上記目視濃度定量法に用いる反応容器としては、前記反応試薬の濃度を段階的に単調増加又は単調減少させた濃淡階調列を構成する複数の収容部を備える前記濃度スケールが形成されたことを特徴とする。前記濃度スケールは、複数の前記濃淡階調列を縦又は横に並設してなるものであっても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、市販されている従来の比色法に基づいた手法より判定者の個性や資質によらない分析結果の正確さを高めた安価な目視分析が可能となる。また、本発明は滴定反応のように変色反応に濃度の閾値が存在する種々の反応にも応用することが可能であるため、多くの種類の分析対象物の目視定量が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明による目視濃度定量法、及びそれに用いる反応容器の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明による目視濃度定量法に用いる濃度スケール1が形成された反応容器の一例を示したものであって、一の濃度スケール1に複数の濃淡階調列2を構成した例である。
【0011】
この例は、マクロプレート3等の様に、縦横に凹んだ収容部4が複数形成された容器の各列に(各行にでもよい。)、前記反応試薬を、その濃度が上から段階的に単調減少する様に調整して収容し、複数の前記濃淡階調列2を横並びに設けたものである。単調減少の状況は、比例的減少或いは対数的減少又は不規則な単調減少など、検出すべき成分や反応試薬の性状に応じて適宜設定する。
【0012】
この状態において、列単位で試料を添加すると、試料の濃度が反応試薬に対して一定の濃度比を超えた部分のみが連続して変色し、連続して変色した収容部4の個数で試料濃度を定量する(図2参照)。
【実施例】
【0013】
亜硫酸塩−過酸化水素系自己触媒反応は、図2に示すように、一定の誘導期間後急激なpH(色調:BTB溶液存在下)変化を示す特性があり、反応に濃度の閾値が存在し、その閾値は、反応物の濃度比で調節できるという特性を有している。即ち、この反応は、亜硫酸イオン水溶液の濃度に対する過酸化水素水溶液の濃度比によって反応の発生をスイッチのON/OFFの様に制御することができる。
【0014】
そこで、前記反応試薬として、マイクロプレート等の列ごとにその収容部へ亜硫酸ナトリウムを上から下へ段階的に濃度を略比例的に単調減少させて収容することで濃淡階調列を横並びに複数(単数でもよい。)形成し濃度スケールを形成する。尚、当該濃度スケール1に既成キットとしての構成を持たせる場合には、試薬が収容された収容部4の開口部を注射針を差し入れ得るゴム等で密閉し、試薬が漏れない構成を採ることが必要となる。前記ゴム等は、水密性及び気密性が高く、且つ試薬の成分で変性しない素材である事が必要である。
【0015】
次に、被定量成分の濃度を得ようとする試料であるところの過酸化水素試料溶液を、所定の濃淡階調列2を構成する全ての収容部4へ添加する。その結果、添加された過酸化水素試料溶液の過酸化水素濃度が、前記反応試薬の亜硫酸イオン濃度に対して一定の濃度比以上になる部分のみが連続して変色(透明化)し、当該濃淡階調列2が、前記濃度スケール1上で外見上一種のヒストグラムの呈をなすこととなり、連続した変色した収容部4のつながりによって過酸化水素濃度を目視で定量することができる。
【0016】
前記反応試薬の濃度が既知であって、そこから試料の反応濃度を導くことができる場合には、図5の如く濃度スケール1の端に、反応試薬の濃度に応じた試料の反応濃度を明記することで、変色した収容部のうちで最も高い濃度が記された収容部の行に相当する反応濃度の記載から、試料の成分濃度を数値的に定量することができる(図3参照)。
【0017】
また、図4の様に、指示薬であるEBTを含む3×10−4〜3.5×10−3mol
dm(硬度30〜350mg/L相当分,ファクターを低めに設定)のEDTA水溶液を反応試薬として用い、マイクロプレート3等の各列において上から下へ段階的に被定量成分の濃度を単純減少させて例えば100μLずつ収容した濃淡階調列2を備えた濃度スケール1を構成し、当該濃度スケールへ列単位でMg2+試料水を添加することで、試料水の硬度を測定することもできる。
【0018】
この場合は、添加した試料水におけるMg2+成分の濃度が反応試薬におけるEDTAの濃度以下(EDTA>Ca2+,Mg2+)ではEBTの色である青色を示し(下記反応式(1)参照)、EDTAの濃度以上(EDTA<Ca2+,Mg2+)ではEBTのキレート化合物である紫色を示す(下記反応式(2)参照)。
【0019】
EDTA,EBT+Ca2+,Mg2+→Ca2+-EDTA,Mg2+-EDTA+EBT(青)・・・(1)
EBT+Ca2+,Mg2+→Ca2+-EBT,Mg2+-EBT(紫)
・・・(2)
【0020】
この様に、試料水に含まれるMg2+成分の濃度がEDTAの濃度を越えた収容部4の反応試薬を変色させることから(キレート滴定反応)、単数、又は複数連続して変色した収容部4を含む濃淡階調列2が、ヒストグラムの呈をなして添加した試料水の硬度を示すこととなる(図5参照)。この際、蒸留水、水道水(硬度70mg/L)、及び市販の海洋深層水(硬度310mg/L)を添加したところ、それぞれに濃度に応じた個数の収容部4が変色することとなった(図5の第6列乃至第8列参照)。
【産業上の利用可能性】
【0021】
上述の発明は、様々な物質の分析結果の正確性の高い水環境の簡易分析キットとしての有用性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による目視濃度定量法及び反応容器のコンセプトを示す概念図である。
【図2】本発明による目視濃度定量法及び反応容器を用いた目視濃度定量法の一例を示す原理図である。
【図3】本発明による目視濃度定量法及び反応容器を用いた目視濃度定量法の定量結果の一例を示す写真である。
【図4】本発明による目視濃度定量法及び反応容器を用いた目視濃度定量法の一例(水の硬度測定)を示す原理図である。
【図5】本発明による目視濃度定量法及び反応容器を用いた目視濃度定量法の定量結果の一例(水の硬度測定)を示す写真である。
【符号の説明】
【0023】
1 濃度スケール,
2 濃淡階調列,
3 マイクロプレート,
4 収容部,


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の濃度が反応試薬に対して一定の濃度比を超えると変色する反応試薬を、各々異なる規定の濃度で複数収容してなる濃度スケールを設定し、変色した反応試薬の個数を以って試料の成分濃度を判定する目視濃度定量法。
【請求項2】
前記濃度スケールは、前記反応試薬の濃度を段階的に単調増加又は単調減少させた濃淡階調列を構成してなる前記請求項1に記載の目視濃度定量法。
【請求項3】
前記濃度スケールは、複数の前記濃淡階調列を縦又は横に並設してなる前記請求項2に記載の目視濃度定量法。
【請求項4】
前記反応試薬の濃度を段階的に単調増加又は単調減少させた濃淡階調列を構成する複数の収容部を備える前記濃度スケールが形成された反応容器。
【請求項5】
複数の前記濃淡階調列を縦又は横に並設してなる前記濃度スケールが形成された前記請求項4に記載の反応容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−42013(P2009−42013A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206084(P2007−206084)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第68回分析化学討論会「マイクロプレートを用いる目視計測法の開発」添付の書面:講演要旨集と発表ポスターのコピー
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【Fターム(参考)】