説明

直交検波器

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は直交検波器に係り、特に、直交性のよい直交検波出力信号を得るための直交検波器に関する。
【0002】
【従来の技術】図4は従来の直交検波器の構成図を示す。先ず、従来の直交検波器は入力端子41、出力端子42、43、ミキサ44、45、低域通過フィルタ46、47、90度移相器48より構成される。
【0003】次に、従来の直交検波器の動作を説明する。入力端子41から変調S(t)が入力される。変調S(t)は S(t)=I(t)cos ωc t −Q(t)sin ωc t (1)のように表される。式(1) において、右辺のI(t)とQ(t)はそれぞれ同相及び直交成分の振幅であり、変調の不確定位相をも反映している。この変調波S(t)は2つのミキサ44、45に加えられる。これらのミキサ44、45には搬送波発振器OSC 49から出力される基準信号Cγ(t)とその基準信号Cγ(t)を90°移相器48で90度移相した基準信号Sγ(t)が加えられている。基準信号Cγ(t)Cγ(t)=Ac cos(ωc t) (2)であり、90°移相基準信号Sγ(t)は Sγ(t)=−As sin(ωc t θ) (3)である。ここで、式 (2)と式 (3)のAc とAs は振幅、θは移相器48の不完全性による移相偏差である。
【0004】図4のミキサ44、45の後段にある低域通過フィルタ(LPF1)46,(LPF2)47はミキサ44、45の乗積信号から高域成分を除去するためのものである。このような構成の出力OUT1,OUT2 は出力端子42、43より以下のような出力が得られる。
【0005】出力OUT1は i(t)= Ac I(t)+δc (4) 出力OUT2は q(t)= As [Q(t) cosθ−I(t) sinθ]+δs (5) 但し、式(4) 、(5) の右辺の第 2項のδc 、δs はDCオフセット成分であり、ミキサ44,45、及び低域通過フィルタ46,47のDCオフセットなどの影響で発生するものである。理想的には、振幅 Ac = As 移相偏差θ=0、DCオフセット成分δc =δs =0であるから、出力OUT1はi(t)= Ac I(t)出力OUT2はq(t)= Ac Q(t)となるべきであるが、一般には式(4)、(5)に示されるように歪み成分が付加される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、前述した式(4) 、(5) のように、出力OUT1がi(t)= Ac I(t)、出力OUT2がq(t)= Ac Q(t)とはならず、歪みを受けている。
【0007】図5は従来の直交検波器の線形歪みの状態を示す。同図(A)は振幅、移相偏差、DCオフセット成分等が理想的な場合を示している。の理想的な値とは、振幅はA c = As 、DCオフセット成分はδc =δs =0、移相偏差はθ=0である。I(t)=cos(ωo t), Q(t)=sin(ωo t)の変調波を受信したときに I(t) とQ(t)により描く円の軌跡を示している。
【0008】同図(B)はDCオフセット成分がある場合であり、の場合、振幅は Ac = As 、DCオフセット成分はδc ≠0 、δs ≠0、移相偏差はθ=0である。従って、円軌跡の中心がDCオフセット成分δc 、δs だけシフトしている。
【0009】同図(C)は振幅がアンバランスの場合であり、の場合、振幅はA c < As、DCオフセット成分はδc =δs =0、移相偏差はθ=0である。従って、方向に伸びた楕円軌跡となる。
【0010】同図(D)は90度移相器が不完全な場合であり、の場合、振幅は Ac = As 、DCオフセット成分はδc =δs =0、移相偏差はθ>0 である。従って、傾いた楕円軌跡になる。
【0011】このように線形歪みがあると検波特性、例えば、ディジタル伝送における誤り率特性などが大きく劣化するために直交検波器の製作には、バランスのよい部品の選定、熟練を要するような微調整作業、高価な測定器等を必要とする欠点があった。
【0012】本発明は上記の点に鑑みなされたもので直交検波器の製作にあたり、線形歪を防ぐための様々な方法を必要とせずに、線形歪が極めて小さい直交検波器を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】図1は本発明の原理構成図を示す。入力端子(1)より変調信号を入力し、基準信号を発生させる基準信号発生手段、基準信号と変調信号を乗算して得られる直交検波出力から直流成分を除去して同相検波信号と直交検波信号を生成する信号生成手段(2)と、同相検波信号と直交検波信号の2つの信号から振幅比と相関係数を測定する測定手段(3)と、測定手段(3)による振幅比と前記相関係数を基にして直交検波信号から相関成分を除去するとともに直交検波信号の振幅を同相検波信号と一致させることで線形変換された直交検波信号を出力する線形変換手段(4)とを有し、構成する。
【0014】
【作用】本発明は従来の直交検波器の構成に測定手段と、線形変換手段を設けており、測定手段は信号生成手段で生成された信号の歪による振幅比と相関係数を測定する。線形変換手段はその測定値を基にして直交検波信号に歪の補償を行う。これにより、互いに相関性がない、レベルが等しい検波信号を得ることができる。
【0015】
【実施例】先ず、歪補償処理について説明する。前述の式(4) と(5) の方程式を本来の信号I(t) 及び、Q(t)について解くと、 Ac I(t)=i(t)−δc (6a) Ac Q(t)=[q(t)−δs ]/A cos θ+[i(t)−δc ]tan θ (6b) となる。ただし、A = As / Ac である。
【0016】すなわち、直交検波出力i(t),q(t)に式(6a)、(6b)の処理を行えば、本来の信号I(t), Q(t)のA c 倍の信号が得られる。この処理のためにはDCオフセット成分δc , δs 、振幅A 、移相偏差θを知る必要がある。これらは、変調波が次の条件を満たす時に容易に測定できる。
【0017】
I(t)〉=0 (7a) 〈Q(t)〉=0 (7b) 〈I(t)Q(t)〉=0 (7c) 〈I2(t) 〉=〈Q2(t) 〉=σ2 (7d)これらは、I(t)とQ(t)がそれぞれDCオフセット成分を持たず、また、互いに無相関であることを意味しており、通常の適用条件では成立している。このとき式(4)、(5) から 〈i(t)〉=δc (8a) 〈q(t)〉=δs (8b) であるから、直交検波出力i(t)とq(t)を平均すればDCオフセット成分δc とδsが求められる。そこでこれらのDCオフセット成分を直交検波i(t)とq(t)より除去したものをi0(t) と q0(t)とする。
【0018】
i0(t) =i(t)−δc (9a) q0(t) =q(t)−δs (9b) ここでDCオフセット成分を除去したi0(t) と q0(t)の二乗平均を測定すると、次のようになる。
【0019】
〈i02(t)〉= Ac 2 σ2 (10a) 〈q02(t)〉= As 2 σ2 (10b)従って、 A =[〈i02(t)〉/〈q02(t)〉]1/2 (11)により振幅A が求められる。
【0020】次にDCオフセット成分を除去したi0(t) とq0(t) の相関係数ρを測定すると、 ρ=〈i0(t)q0(t)〉/[〈i02(t)〉〈q02(t)〉]1/2 (12)となるので θ=arcsin(−ρ) (13)により移相偏差θが求められる。
【0021】以上説明したようにDCオフセット成分δc , δs 、振幅A 、相関係数ρが容易に測定できるので、式(6a) 、(6b)により本来の信号I(t), Q(t)を得ることができる。
【0022】図2は本発明の一実施例の構成図を示す。同図中、図4と同一構成部分には同一符号を付しその説明を省略する。
【0023】同図中、オフセット測定回路11及びDCオフセット補償回路13は低域通過フィルタ46、47からの出力が供給される。振幅・相関測定回路12はDCオフセット補償回路13からの出力が供給される。振幅・移相補償回路14はDCオフセット補償回路13の出力信号q0(t) からの出力と振幅・相関測定回路12からの測定結果が供給される。
【0024】低域通過フィルタ46、47までの回路を介して得られた出力i(t), q(t)オフセット測定回路11に入力される。オフセット測定回路11は前述の式(8a)(8b)による平均処理が行なわれ、DCオフセット成分δc とδs が測定される。次にDCオフセット成分δc とδs 及び、低域通過フィルタ46,47からの出力i(t), q(t)はDCオフセット補償回路13に入力され、前述の式(9a),(9b) による直流成分の除去処理が行われ、i0(t) = Ac I(t)とq0(t) が得られる。
【0025】次にこれらi0(t) とq0(t) は振幅・相関測定回路12に入力される。振幅・相関測定回路12はDCオフセット成分を除去した二乗平均を測定するための式(10 a),(10b)の計算を行い、次に式(11)により振幅A を求め、さらに式(12)、(13)により移相偏差θが求められる。これらにより求められた振幅A と移相偏差θはi0(t)とq0(t) とともに振幅移相補償回路14に入力される。
【0026】振幅移相補償回路14は前述の式(6b)により直交成分が歪補償された Ac q(t)が得られる。また、同相成分については何も行われないので、 AC I(t)のままである。このようにして振幅が同じで、且つ直交検波性のすぐれた検波信号が得られる。
【0027】上記のような構成の直交検波器を具体的に適用した例を示す。図3は本発明を適応等化器に用いた移動通信に適用した結果を示すグラフである。同図(A)は直流成分補償を行った例を示しており、グラフ1の補償無しの状態に較べてグラフ22の補償ありの場合にはかなりの効果をあげていることが分かる。
【0028】同様に同図(B)は振幅補償を行った例である。また、同図(C)は移相補償を行った例であるが、それぞれ、補償を行うと補償無しの特性に比較してかなり改善されていることがわかる。
【0029】
【発明の効果】上述のように本発明によれば、直流検波出力i(t)及び、q(t)をA/D 変換器によりディジタル信号に変換すれば、容易に実現できる。また、CMOS-IC 半導体技術で容易に実現できるので消費電力を削減することも可能となり、携帯電話等の伝送系の機器に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理構成図である。
【図2】本発明の一実施例の構成図である。
【図3】本発明を適応等化器用い移動通信に適用した結果を示すグラフである。
【図4】従来の直交検波器の構成図である。
【図5】従来の直交検波器の線形歪の状態を示す図である。
【符号の説明】
1 入力端子
2 信号生成手段
3 測定手段
4 線形変換手段
11 オフセット測定回路
12 振幅・相関測定回路
13 DCオフセット補償回路
14 振幅移相補償回路
41 入力端子
42,43 出力端子
44,45 ミキサ
46,47 低域通過フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 入力端子より変調信号を入力し、基準信号を発生させる基準信号発生手段、該基準信号と該変調信号を乗算して得られる直交検波出力から直流成分を除去して同相検波信号と直交検波信号を生成する信号生成手段と、前記同相検波信号と前記直交検波信号の2つの信号から振幅比と相関係数を測定する測定手段と、前記測定手段による前記振幅比と前記相関係数を基にして前記直交検波信号から相関成分を除去するとともに前記直交検波信号の振幅を前記同相検波信号と一致させることで線形変換された直交検波信号を出力する線形変換手段とを有することを特徴とする直交検波器。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【特許番号】特許第3036093号(P3036093)
【登録日】平成12年2月25日(2000.2.25)
【発行日】平成12年4月24日(2000.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−30302
【出願日】平成3年2月25日(1991.2.25)
【公開番号】特開平4−269002
【公開日】平成4年9月25日(1992.9.25)
【審査請求日】平成9年1月28日(1997.1.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
【出願人】(392026693)エヌ・ティ・ティ移動通信網株式会社 (5,876)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦 (外1名)
【参考文献】
【文献】特開 昭57−57007(JP,A)