直列多重電力変換装置
【課題】高調波電流を低減することができる直列多重電力変換装置を提供すること。
【解決手段】実施形態に係る直列多重電力変換装置は、多重変圧器と、電圧変換部とを備える。多重変圧器は、同一の出力相に設けられたn個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるn個の二次巻線の位相が60/n度ずつずれた関係にあり、m個の出力相間で、m個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるm個の前記二次巻線の電圧位相が60/m度ずつずれた関係にある。
【解決手段】実施形態に係る直列多重電力変換装置は、多重変圧器と、電圧変換部とを備える。多重変圧器は、同一の出力相に設けられたn個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるn個の二次巻線の位相が60/n度ずつずれた関係にあり、m個の出力相間で、m個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるm個の前記二次巻線の電圧位相が60/m度ずつずれた関係にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、直列多重電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換装置として、電力変換セルを直列に複数段接続した相を複数設けた直列多重電力変換装置が知られている。直列多重電力変換器は、一次巻線に入力される多相の交流電力を出力相の各相ごとにそれぞれ複数の二次巻線に分配する多重変圧器と、多重変圧器の各二次巻線に接続される複数の単相電力変換器とを備える。
【0003】
かかる直列多重電力変換装置においては、各二次巻線が出力する電圧が互いに位相差をもつように構成した多重変圧器を用いることで、一次巻線側に流れる高調波電流を低減している。具体的には、直列多重電力変換装置が9個の単相電力変換器で構成される場合、U相、V相、W相の1つの相を構成する3個の単相電力変換器に接続される二次巻線が20度の電圧位相を持つように構成し、9個の単相電力変換器に接続される二次巻線の電圧位相を20/3度ずつずらす方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−295149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態の一態様は、一次巻線側に流れる高調波電流を低減する技術として、特許文献1に記載の技術に代わる新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る直列多重電力変換装置は、多重変圧器と、電力変換部とを備える。多重変圧器は、一次巻線に入力される交流電力をm×n個(n、mは互いに素)の二次巻線に分配する。電力変換部は、前記m×n個の二次巻線にそれぞれ接続されたm×n個の単相電力変換器を有し、当該単相電力変換器の出力が直列にn個ずつ接続されてm個の出力相が構成される。前記多重変圧器は、同一の出力相に設けられた前記n個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるn個の前記二次巻線の電圧位相が60/n度ずつずれた関係にある。さらに、前記多重変圧器は、前記m個の出力相間で、前記m個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるm個の前記二次巻線の電圧位相が60/m度ずつずれた関係にある。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様の直列多重電力変換装置によれば、一次巻線側に流れる高調波電流を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す単相電力変換器の回路ブロックを示す図である。
【図3】図3は、多重変圧器の二次巻線の電圧位相差を示す図である。
【図4】図4は、多重変圧器の二次巻線の電圧位相関係を示す図である。
【図5】図5は、多重変圧器の配線状態を示す図である。
【図6】図6は、多重変圧器の一次巻線の線間電圧ベクトルと二次巻線の線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。
【図7】図7は、多重変圧器の一次巻線の線間電圧ベクトルと二次巻線の線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。
【図8】図8は、多重変圧器の一次巻線の線間電圧ベクトルと二次巻線の線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。
【図9】図9は、多重変圧器の各二次巻線の電流ベクトルを示す図である。
【図10】図10は、多重変圧器の各二次巻線の電流ベクトルを示す図である。
【図11】図11は、r相に関して各二次巻線に流れる電流を説明するための図である。
【図12】図12は、一次電圧が正であるときに二次巻線に流れる電流によって一次巻線に流れる電流の電流ベクトルを示す図である。
【図13】図13は、一次電圧が負であるときに二次巻線に流れる電流によって一次巻線に流れる電流の電流ベクトルを示す図である。
【図14】図14は、多重変圧器における二次巻線の別の電圧位相関係を示す図である。
【図15】図15は、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置における多重変圧器の二次巻線の電圧位相差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する直列多重電力変換装置のいくつかの実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す各実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置を示す図である。
【0011】
図1に示すように、直列多重電力変換装置1は、多重変圧器10と、電力変換部20とを備え、三相交流電源2のR相、S相およびT相から供給される交流電力をより高圧の交流電力へ変換して交流負荷3へ供給する。ここでは、一例として、直列多重電力変換装置1は、出力相が三相(m=3)であり、各出力相が2(n=2)段接続の2つの単相電力変換器を備えているものとし、交流負荷3をモータとした場合の例を説明する。
【0012】
多重変圧器10は、一次巻線11と、6つの二次巻線12a〜12f(以下、二次巻線12と総称する場合がある)とを備え、一次巻線11に入力される交流電力を6つの二次巻線12a〜12fに変圧して出力する。かかる多重変圧器10は、一次巻線11と二次巻線12との間に電圧位相差を発生させる移相変圧器である。
【0013】
電力変換部20は、6つの二次巻線12a〜12fにそれぞれ接続される6つの単相電力変換器21a〜21f(以下、単相電力変換器21と総称する場合がある)を備える。各単相電力変換器21は、各二次巻線12から供給される三相交流電力を単相交流電力へ変換して出力端子Ta、Tbから出力する。
【0014】
かかる電力変換部20では、2つの単相電力変換器21の出力が直列接続されて各出力相が構成される。すなわち、単相電力変換器21a、21dによってU相出力の電力変換部が構成され、単相電力変換器21b、21eによってV相出力の電力変換部が構成され、単相電力変換器21c、21fによってW相出力の電力変換部が構成される。
【0015】
具体的には、単相電力変換器21aの出力端子Tbが中性点Nに接続され、さらに、単相電力変換器21aの出力端子Taと単相電力変換器21dの出力端子Tbとが接続される。これにより、単相電力変換器21dの出力端子Taを出力端子としたU相の電力変換部が構成される。
【0016】
同様に、単相電力変換器21b、21cの出力端子Tbが中性点Nに接続され、さらに、単相電力変換器21b、21cの出力端子Taと単相電力変換器21e、21fの出力端子Tbとがそれぞれ接続される。これにより、単相電力変換器21e、21fの出力端子Taをそれぞれ出力端子としたV相およびW相の電力変換部が構成される。
【0017】
ここで、単相電力変換器21の構成について説明する。図2は、単相電力変換器21の回路ブロックを示す図である。図2に示すように、単相電力変換器21は、整流平滑部30と、インバータ部31と、制御部32とを備える。
【0018】
整流平滑部30は、ダイオードD10〜D15と、コンデンサC10とを備え、二次巻線12から入力されるr相、s相およびt相の3相交流電力を直流電力に変換する。なお、ダイオードD10、D11はr相の電力を全波整流し、ダイオードD12、D13はs相の電力を全波整流し、ダイオードD14、D15はt相の電力を全波整流する。そして、ダイオードD10〜D15で整流された電力がコンデンサC10によって平滑される。
【0019】
インバータ部31は、トランジスタQ20〜Q23と、ダイオードD20〜D23とを備える。トランジスタQ20、Q21は、整流平滑部30の出力間に直列に接続され、同様にトランジスタQ22、Q23は、整流平滑部30の出力間に直列に接続される。なお、ダイオードD20〜D23は、逆流防止用のダイオードである。
【0020】
制御部32は、インバータ部31におけるトランジスタQ20〜Q23のON/OFF状態を制御することによって、整流平滑部30の直流電力をインバータ部31によって単相交流電力へ変換して出力させる。なお、トランジスタQ20〜Q23として、例えば、IGBTやMOSFETなどのパワー半導体素子が用いられる。また、インバータ部31は、図2に示す2レベルインバータの構成に限定されるものではない。例えば、インバータ部31として3レベルインバータなどのマルチレベルインバータを用いることもでき、また、その他種々の変更が可能である。
【0021】
次に、多重変圧器10の構成について説明する。図3は、二次巻線12a〜12fの電圧位相差を示す図、図4は、二次巻線12a〜12fの電圧位相関係を示す図である。なお、上述したように、単相電力変換器21a〜21fは、それぞれU1、V1、W1、U2、V2、W2の位置にあり、単相電力変換器21a〜21fにはそれぞれ二次巻線12a〜12fが接続される(図1参照)。したがって、二次巻線12aはU1の位置に対応し、二次巻線12bはV1の位置に対応し、二次巻線12cはW1の位置に対応し、二次巻線12dはU2の位置に対応し、二次巻線12eはV2の位置に対応し、二次巻線12fはW2の位置に対応する。
【0022】
図3に示すように、第1の実施形態に係る多重変圧器10では、同一の出力相に設けられた2つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される2つの二次巻線12間の電圧位相は30度ずれている。具体的には、U相では、U1の位置に対応する二次巻線12aに対して、U2の位置に対応する二次巻線12dは、30度の電圧位相差を有する。
【0023】
同様に、V相では、V1の位置に対応する二次巻線12bに対して、V2の位置に対応する二次巻線12eは、30度の電圧位相差を有する。また、W相では、W1の位置に対応する二次巻線12cに対して、W2の位置に対応する二次巻線12fは、30度の電圧位相差を有する。
【0024】
また、多重変圧器10では、出力相間で、3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相が20度ずれている。具体的には、U1の位置に対応する二次巻線12aに対して、V1の位置に対応する二次巻線12bは、20度の電圧位相差を有する。また、V1の位置に対応する二次巻線12bに対して、W1の位置に対応する二次巻線12cは、20度の電圧位相差を有する。
【0025】
ここで、二次巻線12a〜12fの具体的な電圧位相差の一例について図4を参照して説明する。図4に示すように、二次巻線12の電圧位相は、(U1、V1、U2、W1、V2、W2)の順で、(135度、155度、165度、175度、185度、205度)である。二次巻線12の電圧位相は、一次巻線11の電圧位相を基準とした電圧位相差である。
【0026】
したがって、二次巻線12の電圧位相は、U相において、(U1、U2)=(135度、165度)、V相において、(V1、V2)=(155度、185度)、W相において、(W1、W2)=(175度、205度)であり、30度の電圧位相差である。また、出力相間では、二次巻線12の電圧位相は、(U1、V1、W1)=(135度、155度、175度)、(U2、V2、W2)=(165度、185度、205度)であり、20度の電圧位相差である。
【0027】
図4に示す二次巻線12の電圧位相関係を有する多重変圧器10の構成の一例について図5を用いて説明する。図5は、多重変圧器10の配線状態を示す図である。
【0028】
図5に示すように、二次巻線12aは、偏延長デルタ結線(extended delta connection)によって形成される。具体的には、絶縁部材を介してR相の一次巻線11aと二次巻線12a1とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してS相の一次巻線11bと二次巻線12a2とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してT相の一次巻線11cと二次巻線12a3とが同一鉄心に巻装される。また、これら二次巻線12a1〜12a3はいずれも巻線の中途部にタップを備えている。
【0029】
そして、二次巻線12a1、12a2、12a3のそれぞれの極性端(図5において黒丸を付したコイル端)が、それぞれr相、s相、t相の出力となる。また、二次巻線12a1の反極性端(図5において黒丸を付したのとは反対側のコイル端)が二次巻線12a3のタップに接続され、二次巻線12a3の反極性端が二次巻線12a2のタップに接続され、二次巻線12a2の反極性端が二次巻線12a1のタップに接続される。
【0030】
ここで、図5に示すように結線された場合の一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12aの線間電圧ベクトルとの関係について図6を参照して説明する。図6は、一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12aの線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。なお、三相交流電源2の出力相は、R相、S相、T相の順に電圧位相が120度ずつ遅れるものとする。
【0031】
上述したように二次巻線12a1、12a2、12a3を接続すると、これら二次巻線12a1、12a2、12a3の各相間に発生する線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrは、各相電圧ベクトルVr、Vs、Vtによって下記式(1)〜(3)で表わされる。
Vrs=Vr−Vs ・・・(1)
Vst=Vs−Vt ・・・(2)
Vtr=Vt−Vr ・・・(3)
【0032】
これらの線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrのうち、例えば、線間電圧ベクトルVrs、Vtrは、図6に示すようになる。一次巻線11のS相からR相へ向かう線間電圧ベクトルVRSの位相を基準位相と規定すると、二次巻線12aにおいて、s相からr相へ向かう線間電圧ベクトルVrsの位相は、基準位相に対して15度進んだ位相である。
【0033】
二次巻線12aにおいて、r相からt相へ向かう線間電圧ベクトルVtrの位相は、線間電圧ベクトルVrsの位相に対して120度進んだ位相であり、基準位相に対して135度進んだ位相となる。また、t相からs相へ向かう線間電圧ベクトルVstの位相は、線間電圧ベクトルVrsの位相に対して240度進んだ位相であり、基準位相に対して255度進んだ位相となる。したがって、二次巻線12aは、基準位相に対して15度進んだ電圧位相の二次巻線であると共に、上述したように、基準位相に対して135度進んだ電圧位相の二次巻線でもあり、また、基準位相に対して255度進んだ電圧位相の二次巻線でもある。
【0034】
図5に戻って、二次巻線12bについて説明する。図5に示すように、二次巻線12bも、偏延長デルタ結線によって形成される。具体的には、絶縁部材を介してR相の一次巻線11aと二次巻線12b1とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してS相の一次巻線11bと二次巻線12b2とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してT相の一次巻線11cと二次巻線12b3とが同一鉄心に巻装される。また、これら二次巻線12b1〜12b3はいずれも巻線の中途部にタップを備えている。
【0035】
二次巻線12b1、12b2、12b3のそれぞれの反極性端が、それぞれr相、s相、t相の出力となる。また、二次巻線12b1の極性端が二次巻線12b2のタップに接続され、二次巻線12b2の極性端が二次巻線12b3のタップに接続され、二次巻線12b3の極性端が二次巻線12b1のタップに接続される。
【0036】
ここで、図5に示すように結線された場合の一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12bの線間電圧ベクトルとの関係について図7を参照して説明する。図7は、一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12b、12c、12eの線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。なお、S相からR相へ向かう線間電圧ベクトルVRS(図6参照)の位相を基準位相と規定する。
【0037】
上述のように二次巻線12b1、12b2、12b3を接続すると、これら二次巻線12b1、12b2、12b3の各相間に発生する線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrは、各相電圧ベクトルVr、Vs、Vtによって、二次巻線12aの場合と同様に、上記式(1)〜(3)で表わされる。
【0038】
これらの線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrのうち、例えば、線間電圧ベクトルVrsは、図7に示すようになる。すなわち、二次巻線12bにおいて、s相からr相へ向かう線間電圧ベクトルVrsの位相は、基準位相に対して165度進んだ位相である。
【0039】
同様に、二次巻線12c、12eについても図5における結線を二次巻線12bと同様に行い、s相からr相へ向かう線間電圧ベクトルVrsの位相を、基準位相に対してそれぞれ155度、175度進んだ位相とする。このとき、二次巻線12c、12eは、二次巻線12bの結線に対して各巻線のタップの装備位置が異なるものとしている。すなわち、二次巻線12c、12eは、二次巻線12bとデルタ部分の巻線数が異なる。
【0040】
図5に戻って、二次巻線12dについて説明する。図5に示すように、二次巻線12dも、偏延長デルタ結線によって形成される。具体的には、絶縁部材を介してR相の一次巻線11aと二次巻線12d1とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してS相の一次巻線11bと二次巻線12d2とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してT相の一次巻線11cと二次巻線12d3とが同一鉄心に巻装される。また、これら二次巻線12d1〜12d3はいずれも巻線の中途部にタップを備えている。
【0041】
二次巻線12d1、12d2、12d3のそれぞれの反極性端が、それぞれr相、s相、t相の出力となる。また、二次巻線12d1の極性端が二次巻線12d3のタップに接続され、二次巻線12d2の極性端が二次巻線12d1のタップに接続され、二次巻線12d3の極性端が二次巻線12d2のタップに接続される。
【0042】
ここで、図5に示すように結線された場合の一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12d、12fの線間電圧ベクトルとの関係について図8を参照して説明する。図8は、一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12d、12fの線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。なお、S相からR相へ向かう線間電圧ベクトルVRS(図6参照)の位相を基準位相と規定する。
【0043】
上述のように二次巻線12d1、12d2、12d3を接続すると、これら二次巻線12d1、12d2、12d3の各相間に発生する線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrは、二次巻線12aの場合と同様、各相電圧ベクトルVr、Vs、Vtによって上記式(1)〜(3)で表わされる。これらの線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrのうち、例えば、線間電圧ベクトルVrsの位相は、図8に示すように、基準位相に対して185度進んだ位相である。
【0044】
同様に、図8に示すように、二次巻線12fについても図5における結線を二次巻線12bと同様に行い、s相からr相へ向かう線間電圧ベクトルVrsの位相を、基準位相に対して205度進んだ位相とする。このとき、二次巻線12fは、二次巻線12dの結線に対して各巻線のタップの装備位置が異なる。すなわち、二次巻線12fは、二次巻線12dとデルタ部分の巻線数が異なる。
【0045】
次に、多重変圧器10の各二次巻線12の電流ベクトルについて図9および図10を参照して説明する。図9および図10は、多重変圧器10の各二次巻線12の電流ベクトルを示す図である。
【0046】
図9および図10において電流ベクトルIrsはr相とs相との間に流れる電流を、電流ベクトルItrはt相とr相との間に流れる電流を表している。かかる電流ベクトルIrsは、図2に示すダイオードD10〜D13を介してr相とs相によりコンデンサC10を充電するときに流れる電流である。電流ベクトルItrは、ダイオードD10、D11、D14、D15を介してt相とr相によりコンデンサC10を充電するときに流れる電流である。
【0047】
電流ベクトルIrsで表される電流はr相とs相との間の線間電圧が3つの線間電圧のうち最大又は最小となるときに流れる。また、電流ベクトルItrで表される電流はt相とr相との間の線間電圧が3つの線間電圧のうち最大又は最小となるときに流れる。なお、以下においては、各二次巻線12から整流平滑部30に流れ込む方向を電流の正方向とする。
【0048】
r相とs相との間の線間電圧が最大となる場合、r相の電圧は正電圧であり、s相の電圧は負電圧である。したがって、r相とs相との間の線間電圧が最大のときは、r相において各二次巻線12から整流平滑部30に流れ込む正方向に電流が流れ、s相において整流平滑部30から各二次巻線12に電流が流れ込む負方向に電流が流れる。したがって、このときの電流ベクトルIrsは、図9に示すように、線間電圧ベクトルVrsと同方向の電流ベクトルとなる。
【0049】
また、t相とr相との間の線間電圧が最小となる場合、t相の電圧は負電圧であり、r相の電圧は正電圧である。したがって、t相とr相との間の線間電圧が最小のときは、t相において整流平滑部30から各二次巻線12に流れ込む負方向に電流が流れ、r相において各二次巻線12から整流平滑部30に電流が流れ込む正方向に電流が流れる。したがって、このときの電流ベクトルItrは、図9に示すように、線間電圧ベクトルVtrと逆方向の電流ベクトルとなる。
【0050】
r相とs相との間の線間電圧が最小となる場合、r相の電圧は負電圧であり、s相の電圧は正電圧である。したがって、r相とs相との間の線間電圧が最小のときは、r相において整流平滑部30から各二次巻線12に流れ込む負方向に電流が流れ、s相において各二次巻線12から整流平滑部30に電流が流れ込む正方向に電流が流れる。したがって、このときの電流ベクトルIrsは、図10に示すように、線間電圧ベクトルVrsと逆方向の電流ベクトルとなる。
【0051】
また、t相とr相との間の線間電圧が最大となる場合、t相の電圧は正電圧であり、r相の電圧は負電圧である。したがって、t相とr相との間の線間電圧が最大のときは、t相において各二次巻線12から整流平滑部30に流れ込む正方向に電流が流れ、s相において整流平滑部30から各二次巻線12に電流が流れ込む負方向に電流が流れる。したがって、このときのt相とr相との間に流れる電流の電流ベクトルItrは、図10に示すように、線間電圧ベクトルVtrと同方向の電流ベクトルとなる。
【0052】
このように、r相に関して各二次巻線12に流れる電流は、r相とs相との間の線間電圧が最大および最小のとき、t相とr相との間の線間電圧が最小および最大のときの4つの場合にそれぞれ流れる。図11は、r相に関して各二次巻線12に流れる電流を説明するための図であり、r相とs相との間の線間電圧Vrs、t相とr相との間の線間電圧Vtr、R相の相電圧VrおよびR相の相電流Irの関係を示す。図11に示すように実際には、上述の4つの場合にそれぞれ、尖頭波状の電流が流れる。なお、s相およびt相のそれぞれに関しても、r相の場合と同様に、各二次巻線12に電流が流れる。
【0053】
次に、二次巻線12a〜12fに流れる電流によって、R相の一次巻線11aに流れる電流について説明する。まず、二次巻線12aに流れる電流を例に挙げて説明する。二次巻線12a1に電流が流れる場合、R相の一次巻線11aには、かかる一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12a1に流れる電流による起磁力を打ち消す電流が流れる。すなわち、一次巻線11aには、上述した電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が流れる。
【0054】
一次巻線11aを流れる電流について、二次巻線12aと同様に一次巻線11aから流れ出る方向を正方向とする。図5に示す巻線の配線状態から、二次巻線12aに流れる電流による起磁力を打ち消す一次巻線11aを流れる電流の向きは、一次巻線11aに流れ込む方向、すなわち二次巻線12aとは逆の負方向となることがわかる。
【0055】
電流ベクトルIrsは、二次巻線12a1のスター結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルIrsに対して、逆の向きで、かつ大きさが一次巻線11aと二次巻線12a1のスター結線部分との巻線比倍となる電流が流れる。また、電流ベクトルItrは二次巻線12a1のスター結線部分とデルタ結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルItrに対して、逆の向きで、かつ大きさが一次巻線11aと二次巻線12a1との巻線数比倍となる電流も流れる。
【0056】
次に、二次巻線12bに流れる電流について説明する。かかる二次巻線12bについても、一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12b1に流れる電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が一次巻線11aに流れる。図5に示す巻線の配線状態から、二次巻線12bに流れる電流による起磁力を打ち消す一次巻線11aを流れる電流の向きは、一次巻線11aから流れ出る方向、すなわち二次巻線12bと同じく正方向となることがわかる。
【0057】
二次巻線12b1において、電流ベクトルIrsはスター結線部分とデルタ結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルIrsに対して、同じ向きで、かつ大きさが電流ベクトルIrsの一次巻線11aと二次巻線12b1との巻線比倍となる電流も流れる。また、電流ベクトルItrは、二次巻線12b1のスター結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルItrに対して、同じ向きで、かつ大きさが一次巻線11aと二次巻線12b1のスター結線部分との巻線数比倍となる電流が流れる。
【0058】
二次巻線12c、12eについても、一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12c1、12e1の各々に流れる電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が一次巻線11aに流れる。二次巻線12c1、12e1の接続状態は、図5に示すように、二次巻線12b1と同様の接続状態であるため、一次巻線11aには、二次巻線12b1の場合と同じ変換作用により、二次巻線12c1、12e1の電流ベクトルIrs、Itrによる電流が流れる。
【0059】
次に、二次巻線12dに流れる電流について説明する。かかる二次巻線12dについても、一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12d1に流れる電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が一次巻線11aに流れる。図5に示す巻線の配線状態から、二次巻線12dに流れる電流による起磁力を打ち消す一次巻線11aを流れる電流の向きは、二次巻線12b、12c、12eと同様、一次巻線11aから流れ出る方向、すなわち二次巻線12dと同じく正方向となることがわかる。
【0060】
二次巻線12d1において、電流ベクトルIrsはスター結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルIrsに対して、同じ向きで、かつ大きさが電流ベクトルIrsの一次巻線11aと二次巻線12d1のスター結線部分との巻線比倍となる電流も流れる。また、電流ベクトルItrは、二次巻線12d1のスター結線部分とデルタ結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルItrに対して、同じ向きで、かつ大きさが一次巻線11aと二次巻線12d1との巻線数比倍となる電流が流れる。
【0061】
二次巻線12fについても、一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12f1に流れる電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が一次巻線11aに流れる。二次巻線12f1の接続状態は、図5に示すように、二次巻線12d1と同様の接続状態であるため、一次巻線11aには、二次巻線12d1の場合と同じ変換作用により、二次巻線12f1の電流ベクトルIrs、Itrによる電流が流れる。
【0062】
このように、一次巻線11aには、各二次巻線12に流れる電流ベクトルIrs、Itrに対して上述した向きで、かつ、各二次巻線12のうち電流ベクトルIrs、Itrによりr相の電流が流れる巻線と一次巻線11aの巻線との巻線数比に応じた大きさの電流が流れる。
【0063】
したがって、二次巻線12a〜12fにより一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルは、図12に示す状態になる。図12は、二次巻線12a〜12fにおいてr相の電圧が正電圧の場合に、二次巻線12a〜12fに流れる電流により一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルを示す図である。
【0064】
また、r相の相電圧Vrが負電圧の場合に、二次巻線12a〜12fにより一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルは、図13に示すように、図12に示す状態と位相が180度異なる。図13は、二次巻線12a〜12fにおいてr相の相電圧Vrが負方向の場合に、二次巻線12a〜12fに流れる電流により一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルを示す図である。
【0065】
したがって、一次電圧VRが正電圧であるときに二次巻線12a〜12fに流れる電流によって一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルは、図12に示すようになる。一方、一次電圧VRが負電圧であるときに二次巻線12a〜12fに流れる電流よって一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルは、図13に示す電流ベクトルとなる。
【0066】
図12および図13に示すように、二次巻線12a〜12fの電流ベクトルIrs、Itrにより一次巻線11aに流れる電流は、R相電圧が最大となる位相に対して、対称に互いに10度ずつ位相がずれた状態で分布する。各二次巻線12の電流ベクトルIrsは、上述のようにr相とs相との間の線間電圧が3つの線間電圧のうち最大または最小となるときに流れ、その波形は尖頭波状である。また、各二次巻線12の電流ベクトルItrは、上述のようにt相とr相との間の線間電圧が3つの線間電圧のうち最大または最小となるときに流れ、その波形は尖頭波状である。
【0067】
ところが、各二次巻線12に流れる電流により一次巻線11aに流れる各電流の電流ベクトルが上述のように分布するため、尖頭波状電流による影響が分散され、高調波が低減される。S相とT相の一次巻線11b、11cについても同様の電流が流れるので、三相交流電源2側の高調波電流を低減することができる。
【0068】
上述してきたように、第1の実施形態の直列多重電力変換装置1では、同一の出力相に設けられた2つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される2つの二次巻線12の電圧位相は30度ずれた関係にある。さらに、3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相が、U相、V相およびW相の3つの出力相間で20度ずつずれた関係にある。
【0069】
このように構成されるため、第1の実施形態の直列多重電力変換装置1では、6つの二次巻線12a〜12fに接続された6つの単相電力変換器21a〜21fによって、図12または図13に示すように、一次巻線11に尖頭波状電流が10度ずつずれて発生する。そのため、尖頭波状電流による影響を分散させることができ、三相交流電源2側の高調波電流を低減することができる。
【0070】
なお、上述した例では、U相、V相、W相の3つの出力相間で、出力相における位置関係が同一の単相電力変換器21に接続される二次巻線12の電圧位相が20度ずつずれた関係にあるが、かかる関係に限定されるものではない。例えば、図14に示すような位置関係で二次巻線12を単相電力変換器21へ接続した直列多重電力変換装置1Aであってもよい。図14は、多重変圧器10における二次巻線12の別の電圧位相関係を示す図である。このように、各相ごとに直列に接続される単相電力変換器21の中から1つを選び出し、これらの単相電力変換器21に接続されるm個の二次巻線12を1組とした電圧位相が各出力相間で60/m度ずつずれていればよい。
【0071】
(第2の実施形態)
図15は、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置における多重変圧器の二次巻線の電圧位相差を示す図である。第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置では、各出力相が3(n=3)段の単相電力変換器21を備える点で、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置1、1Aと異なる。
【0072】
図15に示すように、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置1Bでは、同一の出力相に設けられた3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相は20度ずつずれている。具体的には、U相では、U1の位置に対応する二次巻線12に対して、U2の位置に対応する二次巻線12は、20度の電圧位相差を有する。また、U2の位置に対応する二次巻線12に対して、U3の位置に対応する二次巻線12は、20度の電圧位相差を有する。かかる関係は、V相およびW相についても同様である。
【0073】
また、直列多重電力変換装置1Bの多重変圧器では、出力相間で、3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相が20度ずつずれている。具体的には、U1の位置に対応する二次巻線12に対して、V1の位置に対応する二次巻線12は、20度の電圧位相差を有する。また、V1の位置に対応する二次巻線12に対して、W1の位置に対応する二次巻線12は、20度の電圧位相差を有する。かかる関係は、(U2、V2、W2)の位置に対応する二次巻線12、および、(U3、V3、W3)の位置に対応する二次巻線12も同様である。
【0074】
なお、第1の実施形態と同様に、各相ごとに直列に接続される単相電力変換器21の中から1つを選び、これらの単相電力変換器21に接続されるm個の二次巻線12を一組とした電圧位相が各出力相間で60/m度ずつずれていればよく、図15に示す関係に限定されるものではない。
【0075】
このように、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置1Bでは、同一の出力相に設けられた3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相は20度ずつずれた関係にある。さらに、U相、V相およびW相の3つの出力相間で、各相1つずつ合計3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相が20度ずつずれた関係にある。
【0076】
したがって、第2の実施形態の直列多重電力変換装置1Bでは、9つの二次巻線12に接続された9つの単相電力変換器21によって一次巻線11の各相に尖頭波状電流が20/3度ずつずれて発生する。その結果、電流パルスによる影響を分散させることができ、三相交流電源2側の高調波電流を低減することができる。
【0077】
なお、上述の実施形態では、出力相を3相(m=3)とし、各出力相が2段または3段(n=2または3)の単相電力変換器21を備えた直列多重電力変換装置1、1A、1Bについて説明したが、出力相の数、各出力相を構成する単相電力変換器21の数はこれらに限定されるものではない。
【0078】
また、上述の実施形態では、二次巻線12の電圧位相が(U相→V相→W相)の順に進む例(図4参照)を示したが、これに限定されるものではない。例えば、二次巻線12の電圧位相が(V相→W相→U相)または(W相→U相→V相)の順に進むものであってもよく、また、(V相→W相→U相)、(W相→U相→V相)または(U相→V相→W相)の順に遅れるものであってもよい。
【0079】
すなわち、多重変圧器10において、以下の条件を満たすようなものであればよい。なお、n、mは互いに素である。
(1)同一の出力相に設けられたn個の単相電力変換器21のそれぞれに接続されるn個の二次巻線12の電圧位相が60/n度ずつずれた関係にあること。
(2)m個の出力相間で、単相電力変換器21に接続される二次巻線12の電圧位相が60/m度ずつずれた関係にあること。
【0080】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1、1A、1B 直列多重電力変換装置
2 三相交流電源
3 交流負荷
10 多重変圧器
11 一次巻線
12a〜12f(12) 二次巻線
20 電力変換部
21a〜21f(21) 単相電力変換器
30 整流平滑部
31 インバータ部
32 制御部
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、直列多重電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換装置として、電力変換セルを直列に複数段接続した相を複数設けた直列多重電力変換装置が知られている。直列多重電力変換器は、一次巻線に入力される多相の交流電力を出力相の各相ごとにそれぞれ複数の二次巻線に分配する多重変圧器と、多重変圧器の各二次巻線に接続される複数の単相電力変換器とを備える。
【0003】
かかる直列多重電力変換装置においては、各二次巻線が出力する電圧が互いに位相差をもつように構成した多重変圧器を用いることで、一次巻線側に流れる高調波電流を低減している。具体的には、直列多重電力変換装置が9個の単相電力変換器で構成される場合、U相、V相、W相の1つの相を構成する3個の単相電力変換器に接続される二次巻線が20度の電圧位相を持つように構成し、9個の単相電力変換器に接続される二次巻線の電圧位相を20/3度ずつずらす方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−295149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態の一態様は、一次巻線側に流れる高調波電流を低減する技術として、特許文献1に記載の技術に代わる新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る直列多重電力変換装置は、多重変圧器と、電力変換部とを備える。多重変圧器は、一次巻線に入力される交流電力をm×n個(n、mは互いに素)の二次巻線に分配する。電力変換部は、前記m×n個の二次巻線にそれぞれ接続されたm×n個の単相電力変換器を有し、当該単相電力変換器の出力が直列にn個ずつ接続されてm個の出力相が構成される。前記多重変圧器は、同一の出力相に設けられた前記n個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるn個の前記二次巻線の電圧位相が60/n度ずつずれた関係にある。さらに、前記多重変圧器は、前記m個の出力相間で、前記m個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるm個の前記二次巻線の電圧位相が60/m度ずつずれた関係にある。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様の直列多重電力変換装置によれば、一次巻線側に流れる高調波電流を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す単相電力変換器の回路ブロックを示す図である。
【図3】図3は、多重変圧器の二次巻線の電圧位相差を示す図である。
【図4】図4は、多重変圧器の二次巻線の電圧位相関係を示す図である。
【図5】図5は、多重変圧器の配線状態を示す図である。
【図6】図6は、多重変圧器の一次巻線の線間電圧ベクトルと二次巻線の線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。
【図7】図7は、多重変圧器の一次巻線の線間電圧ベクトルと二次巻線の線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。
【図8】図8は、多重変圧器の一次巻線の線間電圧ベクトルと二次巻線の線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。
【図9】図9は、多重変圧器の各二次巻線の電流ベクトルを示す図である。
【図10】図10は、多重変圧器の各二次巻線の電流ベクトルを示す図である。
【図11】図11は、r相に関して各二次巻線に流れる電流を説明するための図である。
【図12】図12は、一次電圧が正であるときに二次巻線に流れる電流によって一次巻線に流れる電流の電流ベクトルを示す図である。
【図13】図13は、一次電圧が負であるときに二次巻線に流れる電流によって一次巻線に流れる電流の電流ベクトルを示す図である。
【図14】図14は、多重変圧器における二次巻線の別の電圧位相関係を示す図である。
【図15】図15は、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置における多重変圧器の二次巻線の電圧位相差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する直列多重電力変換装置のいくつかの実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す各実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置を示す図である。
【0011】
図1に示すように、直列多重電力変換装置1は、多重変圧器10と、電力変換部20とを備え、三相交流電源2のR相、S相およびT相から供給される交流電力をより高圧の交流電力へ変換して交流負荷3へ供給する。ここでは、一例として、直列多重電力変換装置1は、出力相が三相(m=3)であり、各出力相が2(n=2)段接続の2つの単相電力変換器を備えているものとし、交流負荷3をモータとした場合の例を説明する。
【0012】
多重変圧器10は、一次巻線11と、6つの二次巻線12a〜12f(以下、二次巻線12と総称する場合がある)とを備え、一次巻線11に入力される交流電力を6つの二次巻線12a〜12fに変圧して出力する。かかる多重変圧器10は、一次巻線11と二次巻線12との間に電圧位相差を発生させる移相変圧器である。
【0013】
電力変換部20は、6つの二次巻線12a〜12fにそれぞれ接続される6つの単相電力変換器21a〜21f(以下、単相電力変換器21と総称する場合がある)を備える。各単相電力変換器21は、各二次巻線12から供給される三相交流電力を単相交流電力へ変換して出力端子Ta、Tbから出力する。
【0014】
かかる電力変換部20では、2つの単相電力変換器21の出力が直列接続されて各出力相が構成される。すなわち、単相電力変換器21a、21dによってU相出力の電力変換部が構成され、単相電力変換器21b、21eによってV相出力の電力変換部が構成され、単相電力変換器21c、21fによってW相出力の電力変換部が構成される。
【0015】
具体的には、単相電力変換器21aの出力端子Tbが中性点Nに接続され、さらに、単相電力変換器21aの出力端子Taと単相電力変換器21dの出力端子Tbとが接続される。これにより、単相電力変換器21dの出力端子Taを出力端子としたU相の電力変換部が構成される。
【0016】
同様に、単相電力変換器21b、21cの出力端子Tbが中性点Nに接続され、さらに、単相電力変換器21b、21cの出力端子Taと単相電力変換器21e、21fの出力端子Tbとがそれぞれ接続される。これにより、単相電力変換器21e、21fの出力端子Taをそれぞれ出力端子としたV相およびW相の電力変換部が構成される。
【0017】
ここで、単相電力変換器21の構成について説明する。図2は、単相電力変換器21の回路ブロックを示す図である。図2に示すように、単相電力変換器21は、整流平滑部30と、インバータ部31と、制御部32とを備える。
【0018】
整流平滑部30は、ダイオードD10〜D15と、コンデンサC10とを備え、二次巻線12から入力されるr相、s相およびt相の3相交流電力を直流電力に変換する。なお、ダイオードD10、D11はr相の電力を全波整流し、ダイオードD12、D13はs相の電力を全波整流し、ダイオードD14、D15はt相の電力を全波整流する。そして、ダイオードD10〜D15で整流された電力がコンデンサC10によって平滑される。
【0019】
インバータ部31は、トランジスタQ20〜Q23と、ダイオードD20〜D23とを備える。トランジスタQ20、Q21は、整流平滑部30の出力間に直列に接続され、同様にトランジスタQ22、Q23は、整流平滑部30の出力間に直列に接続される。なお、ダイオードD20〜D23は、逆流防止用のダイオードである。
【0020】
制御部32は、インバータ部31におけるトランジスタQ20〜Q23のON/OFF状態を制御することによって、整流平滑部30の直流電力をインバータ部31によって単相交流電力へ変換して出力させる。なお、トランジスタQ20〜Q23として、例えば、IGBTやMOSFETなどのパワー半導体素子が用いられる。また、インバータ部31は、図2に示す2レベルインバータの構成に限定されるものではない。例えば、インバータ部31として3レベルインバータなどのマルチレベルインバータを用いることもでき、また、その他種々の変更が可能である。
【0021】
次に、多重変圧器10の構成について説明する。図3は、二次巻線12a〜12fの電圧位相差を示す図、図4は、二次巻線12a〜12fの電圧位相関係を示す図である。なお、上述したように、単相電力変換器21a〜21fは、それぞれU1、V1、W1、U2、V2、W2の位置にあり、単相電力変換器21a〜21fにはそれぞれ二次巻線12a〜12fが接続される(図1参照)。したがって、二次巻線12aはU1の位置に対応し、二次巻線12bはV1の位置に対応し、二次巻線12cはW1の位置に対応し、二次巻線12dはU2の位置に対応し、二次巻線12eはV2の位置に対応し、二次巻線12fはW2の位置に対応する。
【0022】
図3に示すように、第1の実施形態に係る多重変圧器10では、同一の出力相に設けられた2つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される2つの二次巻線12間の電圧位相は30度ずれている。具体的には、U相では、U1の位置に対応する二次巻線12aに対して、U2の位置に対応する二次巻線12dは、30度の電圧位相差を有する。
【0023】
同様に、V相では、V1の位置に対応する二次巻線12bに対して、V2の位置に対応する二次巻線12eは、30度の電圧位相差を有する。また、W相では、W1の位置に対応する二次巻線12cに対して、W2の位置に対応する二次巻線12fは、30度の電圧位相差を有する。
【0024】
また、多重変圧器10では、出力相間で、3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相が20度ずれている。具体的には、U1の位置に対応する二次巻線12aに対して、V1の位置に対応する二次巻線12bは、20度の電圧位相差を有する。また、V1の位置に対応する二次巻線12bに対して、W1の位置に対応する二次巻線12cは、20度の電圧位相差を有する。
【0025】
ここで、二次巻線12a〜12fの具体的な電圧位相差の一例について図4を参照して説明する。図4に示すように、二次巻線12の電圧位相は、(U1、V1、U2、W1、V2、W2)の順で、(135度、155度、165度、175度、185度、205度)である。二次巻線12の電圧位相は、一次巻線11の電圧位相を基準とした電圧位相差である。
【0026】
したがって、二次巻線12の電圧位相は、U相において、(U1、U2)=(135度、165度)、V相において、(V1、V2)=(155度、185度)、W相において、(W1、W2)=(175度、205度)であり、30度の電圧位相差である。また、出力相間では、二次巻線12の電圧位相は、(U1、V1、W1)=(135度、155度、175度)、(U2、V2、W2)=(165度、185度、205度)であり、20度の電圧位相差である。
【0027】
図4に示す二次巻線12の電圧位相関係を有する多重変圧器10の構成の一例について図5を用いて説明する。図5は、多重変圧器10の配線状態を示す図である。
【0028】
図5に示すように、二次巻線12aは、偏延長デルタ結線(extended delta connection)によって形成される。具体的には、絶縁部材を介してR相の一次巻線11aと二次巻線12a1とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してS相の一次巻線11bと二次巻線12a2とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してT相の一次巻線11cと二次巻線12a3とが同一鉄心に巻装される。また、これら二次巻線12a1〜12a3はいずれも巻線の中途部にタップを備えている。
【0029】
そして、二次巻線12a1、12a2、12a3のそれぞれの極性端(図5において黒丸を付したコイル端)が、それぞれr相、s相、t相の出力となる。また、二次巻線12a1の反極性端(図5において黒丸を付したのとは反対側のコイル端)が二次巻線12a3のタップに接続され、二次巻線12a3の反極性端が二次巻線12a2のタップに接続され、二次巻線12a2の反極性端が二次巻線12a1のタップに接続される。
【0030】
ここで、図5に示すように結線された場合の一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12aの線間電圧ベクトルとの関係について図6を参照して説明する。図6は、一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12aの線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。なお、三相交流電源2の出力相は、R相、S相、T相の順に電圧位相が120度ずつ遅れるものとする。
【0031】
上述したように二次巻線12a1、12a2、12a3を接続すると、これら二次巻線12a1、12a2、12a3の各相間に発生する線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrは、各相電圧ベクトルVr、Vs、Vtによって下記式(1)〜(3)で表わされる。
Vrs=Vr−Vs ・・・(1)
Vst=Vs−Vt ・・・(2)
Vtr=Vt−Vr ・・・(3)
【0032】
これらの線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrのうち、例えば、線間電圧ベクトルVrs、Vtrは、図6に示すようになる。一次巻線11のS相からR相へ向かう線間電圧ベクトルVRSの位相を基準位相と規定すると、二次巻線12aにおいて、s相からr相へ向かう線間電圧ベクトルVrsの位相は、基準位相に対して15度進んだ位相である。
【0033】
二次巻線12aにおいて、r相からt相へ向かう線間電圧ベクトルVtrの位相は、線間電圧ベクトルVrsの位相に対して120度進んだ位相であり、基準位相に対して135度進んだ位相となる。また、t相からs相へ向かう線間電圧ベクトルVstの位相は、線間電圧ベクトルVrsの位相に対して240度進んだ位相であり、基準位相に対して255度進んだ位相となる。したがって、二次巻線12aは、基準位相に対して15度進んだ電圧位相の二次巻線であると共に、上述したように、基準位相に対して135度進んだ電圧位相の二次巻線でもあり、また、基準位相に対して255度進んだ電圧位相の二次巻線でもある。
【0034】
図5に戻って、二次巻線12bについて説明する。図5に示すように、二次巻線12bも、偏延長デルタ結線によって形成される。具体的には、絶縁部材を介してR相の一次巻線11aと二次巻線12b1とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してS相の一次巻線11bと二次巻線12b2とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してT相の一次巻線11cと二次巻線12b3とが同一鉄心に巻装される。また、これら二次巻線12b1〜12b3はいずれも巻線の中途部にタップを備えている。
【0035】
二次巻線12b1、12b2、12b3のそれぞれの反極性端が、それぞれr相、s相、t相の出力となる。また、二次巻線12b1の極性端が二次巻線12b2のタップに接続され、二次巻線12b2の極性端が二次巻線12b3のタップに接続され、二次巻線12b3の極性端が二次巻線12b1のタップに接続される。
【0036】
ここで、図5に示すように結線された場合の一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12bの線間電圧ベクトルとの関係について図7を参照して説明する。図7は、一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12b、12c、12eの線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。なお、S相からR相へ向かう線間電圧ベクトルVRS(図6参照)の位相を基準位相と規定する。
【0037】
上述のように二次巻線12b1、12b2、12b3を接続すると、これら二次巻線12b1、12b2、12b3の各相間に発生する線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrは、各相電圧ベクトルVr、Vs、Vtによって、二次巻線12aの場合と同様に、上記式(1)〜(3)で表わされる。
【0038】
これらの線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrのうち、例えば、線間電圧ベクトルVrsは、図7に示すようになる。すなわち、二次巻線12bにおいて、s相からr相へ向かう線間電圧ベクトルVrsの位相は、基準位相に対して165度進んだ位相である。
【0039】
同様に、二次巻線12c、12eについても図5における結線を二次巻線12bと同様に行い、s相からr相へ向かう線間電圧ベクトルVrsの位相を、基準位相に対してそれぞれ155度、175度進んだ位相とする。このとき、二次巻線12c、12eは、二次巻線12bの結線に対して各巻線のタップの装備位置が異なるものとしている。すなわち、二次巻線12c、12eは、二次巻線12bとデルタ部分の巻線数が異なる。
【0040】
図5に戻って、二次巻線12dについて説明する。図5に示すように、二次巻線12dも、偏延長デルタ結線によって形成される。具体的には、絶縁部材を介してR相の一次巻線11aと二次巻線12d1とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してS相の一次巻線11bと二次巻線12d2とが同一鉄心に巻装され、絶縁部材を介してT相の一次巻線11cと二次巻線12d3とが同一鉄心に巻装される。また、これら二次巻線12d1〜12d3はいずれも巻線の中途部にタップを備えている。
【0041】
二次巻線12d1、12d2、12d3のそれぞれの反極性端が、それぞれr相、s相、t相の出力となる。また、二次巻線12d1の極性端が二次巻線12d3のタップに接続され、二次巻線12d2の極性端が二次巻線12d1のタップに接続され、二次巻線12d3の極性端が二次巻線12d2のタップに接続される。
【0042】
ここで、図5に示すように結線された場合の一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12d、12fの線間電圧ベクトルとの関係について図8を参照して説明する。図8は、一次巻線11の線間電圧ベクトルと二次巻線12d、12fの線間電圧ベクトルとの関係を示す図である。なお、S相からR相へ向かう線間電圧ベクトルVRS(図6参照)の位相を基準位相と規定する。
【0043】
上述のように二次巻線12d1、12d2、12d3を接続すると、これら二次巻線12d1、12d2、12d3の各相間に発生する線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrは、二次巻線12aの場合と同様、各相電圧ベクトルVr、Vs、Vtによって上記式(1)〜(3)で表わされる。これらの線間電圧ベクトルVrs、Vst、Vtrのうち、例えば、線間電圧ベクトルVrsの位相は、図8に示すように、基準位相に対して185度進んだ位相である。
【0044】
同様に、図8に示すように、二次巻線12fについても図5における結線を二次巻線12bと同様に行い、s相からr相へ向かう線間電圧ベクトルVrsの位相を、基準位相に対して205度進んだ位相とする。このとき、二次巻線12fは、二次巻線12dの結線に対して各巻線のタップの装備位置が異なる。すなわち、二次巻線12fは、二次巻線12dとデルタ部分の巻線数が異なる。
【0045】
次に、多重変圧器10の各二次巻線12の電流ベクトルについて図9および図10を参照して説明する。図9および図10は、多重変圧器10の各二次巻線12の電流ベクトルを示す図である。
【0046】
図9および図10において電流ベクトルIrsはr相とs相との間に流れる電流を、電流ベクトルItrはt相とr相との間に流れる電流を表している。かかる電流ベクトルIrsは、図2に示すダイオードD10〜D13を介してr相とs相によりコンデンサC10を充電するときに流れる電流である。電流ベクトルItrは、ダイオードD10、D11、D14、D15を介してt相とr相によりコンデンサC10を充電するときに流れる電流である。
【0047】
電流ベクトルIrsで表される電流はr相とs相との間の線間電圧が3つの線間電圧のうち最大又は最小となるときに流れる。また、電流ベクトルItrで表される電流はt相とr相との間の線間電圧が3つの線間電圧のうち最大又は最小となるときに流れる。なお、以下においては、各二次巻線12から整流平滑部30に流れ込む方向を電流の正方向とする。
【0048】
r相とs相との間の線間電圧が最大となる場合、r相の電圧は正電圧であり、s相の電圧は負電圧である。したがって、r相とs相との間の線間電圧が最大のときは、r相において各二次巻線12から整流平滑部30に流れ込む正方向に電流が流れ、s相において整流平滑部30から各二次巻線12に電流が流れ込む負方向に電流が流れる。したがって、このときの電流ベクトルIrsは、図9に示すように、線間電圧ベクトルVrsと同方向の電流ベクトルとなる。
【0049】
また、t相とr相との間の線間電圧が最小となる場合、t相の電圧は負電圧であり、r相の電圧は正電圧である。したがって、t相とr相との間の線間電圧が最小のときは、t相において整流平滑部30から各二次巻線12に流れ込む負方向に電流が流れ、r相において各二次巻線12から整流平滑部30に電流が流れ込む正方向に電流が流れる。したがって、このときの電流ベクトルItrは、図9に示すように、線間電圧ベクトルVtrと逆方向の電流ベクトルとなる。
【0050】
r相とs相との間の線間電圧が最小となる場合、r相の電圧は負電圧であり、s相の電圧は正電圧である。したがって、r相とs相との間の線間電圧が最小のときは、r相において整流平滑部30から各二次巻線12に流れ込む負方向に電流が流れ、s相において各二次巻線12から整流平滑部30に電流が流れ込む正方向に電流が流れる。したがって、このときの電流ベクトルIrsは、図10に示すように、線間電圧ベクトルVrsと逆方向の電流ベクトルとなる。
【0051】
また、t相とr相との間の線間電圧が最大となる場合、t相の電圧は正電圧であり、r相の電圧は負電圧である。したがって、t相とr相との間の線間電圧が最大のときは、t相において各二次巻線12から整流平滑部30に流れ込む正方向に電流が流れ、s相において整流平滑部30から各二次巻線12に電流が流れ込む負方向に電流が流れる。したがって、このときのt相とr相との間に流れる電流の電流ベクトルItrは、図10に示すように、線間電圧ベクトルVtrと同方向の電流ベクトルとなる。
【0052】
このように、r相に関して各二次巻線12に流れる電流は、r相とs相との間の線間電圧が最大および最小のとき、t相とr相との間の線間電圧が最小および最大のときの4つの場合にそれぞれ流れる。図11は、r相に関して各二次巻線12に流れる電流を説明するための図であり、r相とs相との間の線間電圧Vrs、t相とr相との間の線間電圧Vtr、R相の相電圧VrおよびR相の相電流Irの関係を示す。図11に示すように実際には、上述の4つの場合にそれぞれ、尖頭波状の電流が流れる。なお、s相およびt相のそれぞれに関しても、r相の場合と同様に、各二次巻線12に電流が流れる。
【0053】
次に、二次巻線12a〜12fに流れる電流によって、R相の一次巻線11aに流れる電流について説明する。まず、二次巻線12aに流れる電流を例に挙げて説明する。二次巻線12a1に電流が流れる場合、R相の一次巻線11aには、かかる一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12a1に流れる電流による起磁力を打ち消す電流が流れる。すなわち、一次巻線11aには、上述した電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が流れる。
【0054】
一次巻線11aを流れる電流について、二次巻線12aと同様に一次巻線11aから流れ出る方向を正方向とする。図5に示す巻線の配線状態から、二次巻線12aに流れる電流による起磁力を打ち消す一次巻線11aを流れる電流の向きは、一次巻線11aに流れ込む方向、すなわち二次巻線12aとは逆の負方向となることがわかる。
【0055】
電流ベクトルIrsは、二次巻線12a1のスター結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルIrsに対して、逆の向きで、かつ大きさが一次巻線11aと二次巻線12a1のスター結線部分との巻線比倍となる電流が流れる。また、電流ベクトルItrは二次巻線12a1のスター結線部分とデルタ結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルItrに対して、逆の向きで、かつ大きさが一次巻線11aと二次巻線12a1との巻線数比倍となる電流も流れる。
【0056】
次に、二次巻線12bに流れる電流について説明する。かかる二次巻線12bについても、一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12b1に流れる電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が一次巻線11aに流れる。図5に示す巻線の配線状態から、二次巻線12bに流れる電流による起磁力を打ち消す一次巻線11aを流れる電流の向きは、一次巻線11aから流れ出る方向、すなわち二次巻線12bと同じく正方向となることがわかる。
【0057】
二次巻線12b1において、電流ベクトルIrsはスター結線部分とデルタ結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルIrsに対して、同じ向きで、かつ大きさが電流ベクトルIrsの一次巻線11aと二次巻線12b1との巻線比倍となる電流も流れる。また、電流ベクトルItrは、二次巻線12b1のスター結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルItrに対して、同じ向きで、かつ大きさが一次巻線11aと二次巻線12b1のスター結線部分との巻線数比倍となる電流が流れる。
【0058】
二次巻線12c、12eについても、一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12c1、12e1の各々に流れる電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が一次巻線11aに流れる。二次巻線12c1、12e1の接続状態は、図5に示すように、二次巻線12b1と同様の接続状態であるため、一次巻線11aには、二次巻線12b1の場合と同じ変換作用により、二次巻線12c1、12e1の電流ベクトルIrs、Itrによる電流が流れる。
【0059】
次に、二次巻線12dに流れる電流について説明する。かかる二次巻線12dについても、一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12d1に流れる電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が一次巻線11aに流れる。図5に示す巻線の配線状態から、二次巻線12dに流れる電流による起磁力を打ち消す一次巻線11aを流れる電流の向きは、二次巻線12b、12c、12eと同様、一次巻線11aから流れ出る方向、すなわち二次巻線12dと同じく正方向となることがわかる。
【0060】
二次巻線12d1において、電流ベクトルIrsはスター結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルIrsに対して、同じ向きで、かつ大きさが電流ベクトルIrsの一次巻線11aと二次巻線12d1のスター結線部分との巻線比倍となる電流も流れる。また、電流ベクトルItrは、二次巻線12d1のスター結線部分とデルタ結線部分を流れるため、一次巻線11aには、電流ベクトルItrに対して、同じ向きで、かつ大きさが一次巻線11aと二次巻線12d1との巻線数比倍となる電流が流れる。
【0061】
二次巻線12fについても、一次巻線11aと同一鉄心に巻装された二次巻線12f1に流れる電流ベクトルIrsと電流ベクトルItrとによる起磁力を打ち消す電流が一次巻線11aに流れる。二次巻線12f1の接続状態は、図5に示すように、二次巻線12d1と同様の接続状態であるため、一次巻線11aには、二次巻線12d1の場合と同じ変換作用により、二次巻線12f1の電流ベクトルIrs、Itrによる電流が流れる。
【0062】
このように、一次巻線11aには、各二次巻線12に流れる電流ベクトルIrs、Itrに対して上述した向きで、かつ、各二次巻線12のうち電流ベクトルIrs、Itrによりr相の電流が流れる巻線と一次巻線11aの巻線との巻線数比に応じた大きさの電流が流れる。
【0063】
したがって、二次巻線12a〜12fにより一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルは、図12に示す状態になる。図12は、二次巻線12a〜12fにおいてr相の電圧が正電圧の場合に、二次巻線12a〜12fに流れる電流により一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルを示す図である。
【0064】
また、r相の相電圧Vrが負電圧の場合に、二次巻線12a〜12fにより一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルは、図13に示すように、図12に示す状態と位相が180度異なる。図13は、二次巻線12a〜12fにおいてr相の相電圧Vrが負方向の場合に、二次巻線12a〜12fに流れる電流により一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルを示す図である。
【0065】
したがって、一次電圧VRが正電圧であるときに二次巻線12a〜12fに流れる電流によって一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルは、図12に示すようになる。一方、一次電圧VRが負電圧であるときに二次巻線12a〜12fに流れる電流よって一次巻線11aに流れる電流の電流ベクトルは、図13に示す電流ベクトルとなる。
【0066】
図12および図13に示すように、二次巻線12a〜12fの電流ベクトルIrs、Itrにより一次巻線11aに流れる電流は、R相電圧が最大となる位相に対して、対称に互いに10度ずつ位相がずれた状態で分布する。各二次巻線12の電流ベクトルIrsは、上述のようにr相とs相との間の線間電圧が3つの線間電圧のうち最大または最小となるときに流れ、その波形は尖頭波状である。また、各二次巻線12の電流ベクトルItrは、上述のようにt相とr相との間の線間電圧が3つの線間電圧のうち最大または最小となるときに流れ、その波形は尖頭波状である。
【0067】
ところが、各二次巻線12に流れる電流により一次巻線11aに流れる各電流の電流ベクトルが上述のように分布するため、尖頭波状電流による影響が分散され、高調波が低減される。S相とT相の一次巻線11b、11cについても同様の電流が流れるので、三相交流電源2側の高調波電流を低減することができる。
【0068】
上述してきたように、第1の実施形態の直列多重電力変換装置1では、同一の出力相に設けられた2つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される2つの二次巻線12の電圧位相は30度ずれた関係にある。さらに、3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相が、U相、V相およびW相の3つの出力相間で20度ずつずれた関係にある。
【0069】
このように構成されるため、第1の実施形態の直列多重電力変換装置1では、6つの二次巻線12a〜12fに接続された6つの単相電力変換器21a〜21fによって、図12または図13に示すように、一次巻線11に尖頭波状電流が10度ずつずれて発生する。そのため、尖頭波状電流による影響を分散させることができ、三相交流電源2側の高調波電流を低減することができる。
【0070】
なお、上述した例では、U相、V相、W相の3つの出力相間で、出力相における位置関係が同一の単相電力変換器21に接続される二次巻線12の電圧位相が20度ずつずれた関係にあるが、かかる関係に限定されるものではない。例えば、図14に示すような位置関係で二次巻線12を単相電力変換器21へ接続した直列多重電力変換装置1Aであってもよい。図14は、多重変圧器10における二次巻線12の別の電圧位相関係を示す図である。このように、各相ごとに直列に接続される単相電力変換器21の中から1つを選び出し、これらの単相電力変換器21に接続されるm個の二次巻線12を1組とした電圧位相が各出力相間で60/m度ずつずれていればよい。
【0071】
(第2の実施形態)
図15は、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置における多重変圧器の二次巻線の電圧位相差を示す図である。第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置では、各出力相が3(n=3)段の単相電力変換器21を備える点で、第1の実施形態に係る直列多重電力変換装置1、1Aと異なる。
【0072】
図15に示すように、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置1Bでは、同一の出力相に設けられた3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相は20度ずつずれている。具体的には、U相では、U1の位置に対応する二次巻線12に対して、U2の位置に対応する二次巻線12は、20度の電圧位相差を有する。また、U2の位置に対応する二次巻線12に対して、U3の位置に対応する二次巻線12は、20度の電圧位相差を有する。かかる関係は、V相およびW相についても同様である。
【0073】
また、直列多重電力変換装置1Bの多重変圧器では、出力相間で、3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相が20度ずつずれている。具体的には、U1の位置に対応する二次巻線12に対して、V1の位置に対応する二次巻線12は、20度の電圧位相差を有する。また、V1の位置に対応する二次巻線12に対して、W1の位置に対応する二次巻線12は、20度の電圧位相差を有する。かかる関係は、(U2、V2、W2)の位置に対応する二次巻線12、および、(U3、V3、W3)の位置に対応する二次巻線12も同様である。
【0074】
なお、第1の実施形態と同様に、各相ごとに直列に接続される単相電力変換器21の中から1つを選び、これらの単相電力変換器21に接続されるm個の二次巻線12を一組とした電圧位相が各出力相間で60/m度ずつずれていればよく、図15に示す関係に限定されるものではない。
【0075】
このように、第2の実施形態に係る直列多重電力変換装置1Bでは、同一の出力相に設けられた3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相は20度ずつずれた関係にある。さらに、U相、V相およびW相の3つの出力相間で、各相1つずつ合計3つの単相電力変換器21のそれぞれに接続される3つの二次巻線12の電圧位相が20度ずつずれた関係にある。
【0076】
したがって、第2の実施形態の直列多重電力変換装置1Bでは、9つの二次巻線12に接続された9つの単相電力変換器21によって一次巻線11の各相に尖頭波状電流が20/3度ずつずれて発生する。その結果、電流パルスによる影響を分散させることができ、三相交流電源2側の高調波電流を低減することができる。
【0077】
なお、上述の実施形態では、出力相を3相(m=3)とし、各出力相が2段または3段(n=2または3)の単相電力変換器21を備えた直列多重電力変換装置1、1A、1Bについて説明したが、出力相の数、各出力相を構成する単相電力変換器21の数はこれらに限定されるものではない。
【0078】
また、上述の実施形態では、二次巻線12の電圧位相が(U相→V相→W相)の順に進む例(図4参照)を示したが、これに限定されるものではない。例えば、二次巻線12の電圧位相が(V相→W相→U相)または(W相→U相→V相)の順に進むものであってもよく、また、(V相→W相→U相)、(W相→U相→V相)または(U相→V相→W相)の順に遅れるものであってもよい。
【0079】
すなわち、多重変圧器10において、以下の条件を満たすようなものであればよい。なお、n、mは互いに素である。
(1)同一の出力相に設けられたn個の単相電力変換器21のそれぞれに接続されるn個の二次巻線12の電圧位相が60/n度ずつずれた関係にあること。
(2)m個の出力相間で、単相電力変換器21に接続される二次巻線12の電圧位相が60/m度ずつずれた関係にあること。
【0080】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1、1A、1B 直列多重電力変換装置
2 三相交流電源
3 交流負荷
10 多重変圧器
11 一次巻線
12a〜12f(12) 二次巻線
20 電力変換部
21a〜21f(21) 単相電力変換器
30 整流平滑部
31 インバータ部
32 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線に入力される交流電力をm×n個(n、mは互いに素)の二次巻線に分配する多重変圧器と、
前記m×n個の二次巻線にそれぞれ接続されたm×n個の単相電力変換器を有し、当該単相電力変換器の出力が直列にn個ずつ接続されてm個の出力相が構成される電力変換部と、を備え、
前記多重変圧器は、
同一の出力相に設けられた前記n個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるn個の前記二次巻線の位相が60/n度ずつずれた関係にあり、
前記m個の出力相間で、前記m個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるm個の前記二次巻線の電圧位相が60/m度ずつずれた関係にあることを特徴とする直列多重電力変換装置。
【請求項2】
前記m個の出力相間で、出力相における位置関係が同一の単相電力変換器に接続される前記二次巻線の位相が60/m度ずつずれた関係にあることを特徴とする請求項1に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項3】
前記多重変圧器の各二次巻線は、偏延長デルタ結線により形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項1】
一次巻線に入力される交流電力をm×n個(n、mは互いに素)の二次巻線に分配する多重変圧器と、
前記m×n個の二次巻線にそれぞれ接続されたm×n個の単相電力変換器を有し、当該単相電力変換器の出力が直列にn個ずつ接続されてm個の出力相が構成される電力変換部と、を備え、
前記多重変圧器は、
同一の出力相に設けられた前記n個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるn個の前記二次巻線の位相が60/n度ずつずれた関係にあり、
前記m個の出力相間で、前記m個の単相電力変換器のそれぞれに接続されるm個の前記二次巻線の電圧位相が60/m度ずつずれた関係にあることを特徴とする直列多重電力変換装置。
【請求項2】
前記m個の出力相間で、出力相における位置関係が同一の単相電力変換器に接続される前記二次巻線の位相が60/m度ずつずれた関係にあることを特徴とする請求項1に記載の直列多重電力変換装置。
【請求項3】
前記多重変圧器の各二次巻線は、偏延長デルタ結線により形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の直列多重電力変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−110950(P2013−110950A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−62698(P2012−62698)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】
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